無力な自分
「ほら、これでも食べて元気だし」
おばあちゃんが握ってくれたおにぎりを頬張った
「おいし…い」
涙はまた流れていく
「莉心ちゃん行く所がないんなら
ここにずっと居ったらいい」
おじいちゃんはそう言って頭を撫でてくれた
「わしらにも莉心ちゃんくらいの孫が居てもおかしくない」
「え?」
「昔な、色々あっての…
だからこうやって莉心ちゃんに会えたのは何かの縁じゃ」
「そうね。気にせずココに居ったらいいんよ」
優しい2人にまた涙が溢れた
疑う気持ちももちろんある。
全く無いわけじゃないけど
この優しさにこの温もりに今は縋りついていたい
だけど
『いやぁぁぁぁ』
その雰囲気を引き裂く悲鳴に二人の顔色が変わる
「今の悲鳴?」
「こんな時に厄介な、母さん莉心ちゃんを連れて奥に隠れておきなさい」
「おいで莉心ちゃん、大丈夫やからね」
「はい」
おばあちゃんに手を握られ
家の奥の真っ暗な部屋の押し入れにおばあちゃんと隠れた
おばあちゃんは簡易式の電気のようなものをつけて視線が重なった
「大丈夫じゃよ」
『探せよー
まだ隠れてるかも知んねぇからな』
『ほら、居ねえか?』
『おやめください、おやめください』
『お父さん!お母さん!』
『娘をかえしてください』
ドンッ
『いやぁぁぁぁ』
聞こえてくる声や音に色んな事が頭を駆け巡る
「この家は2人だと知られてるから来ないと思うんだけど」
「あの…これは?」
「この町は、ある悪い組に目をつけられてての。
定期的に来ては若い子や子供を連れ去って、どこかへ売りさばくんじゃよ
だから見つからないようにジッと隠れておくんじゃ」
「じゃあ今の悲鳴は
…誰かが連れ去られたの?」
「そうじゃな
この町の周りをいつも見張っていてな出る事も許されずこうやって見つけては連れていくんじゃ
可哀想だけどわしらのように弱い者にはただ黙って我慢するしか方法はないんだよ」
悔しいような後悔するような
悲しい瞳が揺れていた
『お前ら、隠すなよー
出せ!俺様たちに貢ぐんだよ!』
『おやめください』
『盾突く奴らは容赦なくやれぇぇぇ!』
ドンッドンッ
『やめてぇぇ』
耳を塞ぎたくなる
ひどい叫び声に恐怖が私を包み込む気がした
それを悟ったように手を握りしめてくれたおばあちゃんの手を握り返した
こんな事が日常的にあるなんて
私が住んでた世界では…どこか他人事で
テレビや新聞で目に入ることの方が多かった
だから今直面して、色んな事が頭を駆け巡る
あの子達は知らないどこかへ連れていかれて…
もうお父さんやお母さん、
大切な人たちに会うこともないんだ…
普通に刻んでいくはずだった日常はもう戻らない
私が今思ってるような不安で孤独で
訳も分からないまま…
そう思うとたまらない気持ちになった
溢れそうな涙をギュッと堪えた
「おばあちゃん…」
「どうしたんじゃ?」
「おばあちゃん…ごめんね」
そう言って握りしめてくれた手を離し押し入れを飛び出した
バカだなって思われると思う
そんな事しても何も変わらないって思われると思う
でもどうせ消されるなら
どうせこの世界で生きててはいけないなら
私が…
「莉心ちゃん何しとる!」
おじいちゃんの声に頭を下げた
近くにあった着物を襦袢の上から纏い
家を飛び出した
火が放たれ燃えている家屋や
傷だらけになり倒れこんだ人達
その人の側で泣く人達
今まで生きてきた中で見たことのない光景に息を呑んだ
「ひどい…」
引きずられる女の子が大きな檻の中に放り込まれ泣き崩れた両親の姿が目に映る
「やめて…」
小さい声は騒音にかき消されていく
「やめて!」
大きくいえば一人の人が私の前で立ち止まる
「ほお、可愛い子や」
「これは上玉すぎるやろ」
「高く売れるで」
気づけば数人に囲まれていた
黒い忍服に金色の蛇の刺繍をあしらい
耳や口にピアスをしたり、体や顔に生々しい傷をつけた人達に後ろへ足を下げる
「兄貴、見てください!」
後ろから顔を出したその人は私を舐め回すように見つめた
「こいつ何処におったんや?
先に俺が味わってやるよ」
近づくその人に今度は後ずさりする
その時
「この子に手を出すな!」
木の棒を持ったおじいちゃんが私の手を引きその人たちに囲まれていた場所から助けてくれて
前に盾のように立ちはだかる
「どけよ
じじぃ」
バンっと足蹴にされてもおじいちゃんはまた立ち上がった
「おじいちゃん!やめて
私大丈夫だから」
駆け寄るが組の人たちに手を引っ張られる
「ダメだ莉心ちゃん」
また立ち上がるおじいちゃんに手を伸ばす
「おじいちゃん!」
「ったくしぶといじじぃだぜ」
ガンっと殴られ倒れたおじいちゃんにその人達が刀を抜いた
それは本当に今目の前で起こってる事なのか、
これも夢なのか…
でも掴まれた腕の痛さや肌に触れる感覚全てが
現実を突きつけてくる
「やめて、
お願いやめて!」
私を兄貴と呼ばれた人が抱き寄せる
「さあ、いい事しよか?」
近づく顔を押しのける
「いや、やめて…
立っちゃダメ…
おじいちゃん!!」
グサッ__
立ち上がろうとしたおじいちゃんを
刀が貫いた
「お…じ…
おじいちゃん!!」
「父さん!!」
「グハッ」
と血を吐き倒れたその姿に
「いやぁぁぁぁ」
涙で前が見えなくて
力が抜けていく
だけど
ガッと強い力に引かれその場に抑え込まれる
「見せしめだ!」
大きい声で叫んだその人は私の襦袢を引き裂いた
「逆らったやつは
全員こいつみたいになるんだよ」
その憎い顔を睨む
暴れてもビクともせず
その人の顔が胸に埋まった
その瞬間だった
「グッ」
「うわっ」
「がハッ」
と苦しいような声と
私の胸に埋めた顔が震え少しずつ離れる
その首元に浅く当たる光るものを理解する前に
「大丈夫ですか?莉心様」
刀を構え私を見下ろす実丸君が居た
「…さ…さねまる…くん」
ゆっくり周りを見回すと
敵をひれ伏せ術韻で手を縛り上げる
和兎さんと阿兎さん
檻の中の女の子を助け出す妃乃瑠ちゃんの姿が目に入る
顔を実丸君に戻せば
「大丈夫ですか?」
優しい眼差しに涙が溢れた
グッとその男の人の髪を掴み
「おい、今すぐその汚い面を莉心様から避けろ」
刀と髪を離した瞬間
バっと離れたその人は腰を抜かして怯えていた
「やめください」
怯えながらそういうその人に実丸君は見たこともないほど冷たい目をしていた
「お前は今までそう言う人達を容赦なく痛ぶって来たんだろ?」
「それは」
「泣きながら救けを求める人を容赦なく」
スパンっとすごい速さでその人の服が実丸君によって引き裂かれる
「や、やめやめやめてくれ!」
グッと刀がその人の肩を突き刺した
「!!」
その行為に驚いて声も出なかった
そしてやはりこの人達は私が住んでた世界とは違う人達だと実感した
「ああ、今はまだ生かしてやる
全てお前が知ってる事を吐き出すまで…
こんな生ぬるい痛さじゃねぇぞ
覚悟しておけ」
応援で呼ばれた人達によりその人は連れていかれた
「父さん、父さん!
しっかりしておくれ!」
おばあちゃんの声に
ハッとして2人に駆け寄る
「おじいちゃん…
おじいちゃん!」
「大丈夫だったか?」
優しい声に涙が止まらない
苦しいのが解るのにそんなことより私を心配してくれる優しさにまた涙が溢れる
「ごめんなさい…
ごめんなさい
私が…」
おばあちゃんがギュッと抱き寄せてくれた
「母さん…今度はちゃんと守れたよ…」
「ああそうじゃ、莉心ちゃんは生きとるよ」
手を握り合う2人にまた涙が流れる
「おじいちゃん…死なないで」
ギュッと握りしめた手がゆっくりずり落ちていく
私はやっぱり子供で、
無知程怖いことはないと思った
実丸君達みたいに守れる力もないのに
こうやって巻き込んで泣くしかできない…
「おじいちゃん…
いやだよ、
いやぁ!」
その声と同時にシュっと強い風が私を吹き抜けて目を強く瞑った




