嫌いになれない
「風邪ひく前にしっかり温まってき」
そう言われ湯気が立ち上るお風呂場へ案内された
落ち着きを取り戻しはじめるとおばあちゃんがそう言ってくれた
「じいちゃん特製の釜じゃ!温まるぞ」
おじいちゃんはそう笑いながら出ていくと
おばあちゃんも
「ゆっくりしておいで」
そう言って脱衣場を出ていった
お風呂場の、入口に付けられた鏡を見て
泣き腫らした顔が写る
「ひどい…顔」
ゆっくり体にお湯をかけて
冷えきった体に温もりが伝わる
まだ1日も終えてないのに
長くて暗くて辛い時間をずっと過ごしていたように思う
長く伸びた自分の髪をまとめあげ
おじいちゃん特製の釜に入る
「はあー…気持ちいい」
肩まで浸かりボーッとしていく
【莉心の髪、長い方が好きだな】
中学生の時、髪の毛を切ろうか迷ってた時
龍斗にそう言われて切るのをやめた事あったな…
思い出にはいつも龍斗と夏夕が居て
泣いた日も
笑った日も
怒った日も
悔しかった日も
必ず2人が居てくれた
『ほら、父さん薪追加分だよ』
『おお、ありがとう』
外でやりとりする二人の声に満たされるほど安心した
渡された資料の中に川と山の向こうにある町があり、花屋敷や零恩志、所謂由緒ある家系以外の人達が暮らしている
おじいちゃんやおばあちゃんの家はごく普通で田舎にある木造の家屋
花屋敷の家は飾られた絵やツボ
絨毯が物語る着飾られた高価な物が並んでいた
何一つとっても値をはりそうな…
正直その中に囲まれて息が詰まるような
押しつぶされそうな
そんな生活をしていたせいか、
自分の標準にあったこの空間がとても私を救ってくれる気がした
『莉心ちゃん、加減はええか?』
「はい、とっても気持ちいいです」
『そうかそうか』
心地よい気持ち
生き返るような感覚
自分でも気づかないほどに
私が私を追い詰めていた
悲しいとか
辛いとか
素直に出すこと躊躇ってた
私はいつも物わかりのいい子で居たい自分と
嫌われたくない自分を守るのにいっぱいいっぱいで知らないうちに追い詰めてしまってる事がある
何回もそれで泣いてきたのに
やっぱりまだその感情を上手に操る事は出来なかった
「……実丸君も妃乃瑠ちゃんも傷ついた顔してた…」
龍様が私を追い詰める度
実丸君も妃乃瑠ちゃんも必死にかばおうとしてくれてた
でもそれは私が居なくなると困るからであって
私の為じゃない
でもあの2人は…
「はあ…ダメ」
嫌いになんかなれない
最低、大っ嫌いって思えばいいのに
苦しむ2人の表情に胸が傷んでしまう
バシャンと頭まで浸かり勢いよく立ち上がった
「やめよう…」
考えるのはやめて
今は少しゆっくりしよう
________
「実丸!!」
「妃乃瑠か…」
「見つからないね」
「あぁ、川を超えたのは確かだ」
「実丸、妃乃瑠ちゃん。この向こうの町は治安があまり良くないわ」
阿兎さんはそう言いながらその町の新聞を俺に渡してきた
「人攫いがでるんだとよ」
和兎がそう言うと実丸は驚いた顔をして新聞に目を落とした
「ここ何年か、この谷田川に住む若い女の子が何人も攫われたのよ
話によれば、人攫いや悪行を働く撞騎組の夜叉会が関係してるみたいなんだけど」
「夜叉会ですか…?」
実丸は瞳を揺らし阿兎ちんを見つめた
「実丸はよく知ってるでしょ
とにかく町の若い子達が周期的に連れ去られてるの
他国や組の上納品として使われてる可能性があるわ」
「一応、花屋敷家と零恩志家の当主には手を出す許可は貰ってる
向こうも、俺達が動くとなれば身を引くだろ」
「実丸。大丈夫?」
「ああ…町に行こう」
実丸にソッとタオルを差し出した
「いらない」
妃乃瑠が差し出したタオルを見つめそう言えばまた傷ついた顔をした
「じゃあそれ俺にちょうだい」
和兎がタオルを取り顔をふきだした
「泥まみれ雨まみれ最悪だっつの」
「走り方が汚いからよ」
阿兎のツッコミに和兎は
「汚いってなんだ!」
っと言いながら阿兎の後ろを追いかけてく
「………」
無言で歩き出した実丸を見つめた
差し出した手は行き場を無くしていた
実丸との距離はずっと詰まらない
阿兎や和兎みたいに、信じ合える相方にはずっとなれない
実丸は優秀だからこそ
私を拒絶する
いつだってそう…
「妃乃瑠ちゃん!置いてくよ?」
「あっ行きます!」
阿兎ちんの声に足を進めた
「おい実丸。お前もっと妃乃瑠の事大事にしろって言ってるだろ」
阿兎と妃乃瑠ちゃんが少し離れた後ろを歩いていたので実丸にそう伝える
「何回目っすか…それ」
「さあな、お前が冷たくする度言ってるから」
「冷たくしてないっす」
「冷たいだろ?えっ、自覚なし?」
「なんすか…」
「本気で言ってるんだけど」
「……」
「信頼関係できてないと、いざってとき上手くいかない怪我とかで済めばいいけどそうじゃない奴らも何人も見てきただろ?」
「解ってます。でも俺は…」
その後の言葉を聞く前に
『いやぁぁぁぁ』
っと聞こえた悲鳴に全員が瞬時で駆け出した




