やや・舎羅登過去編6
「それで?舎羅登君とはどうなの?」
「え?特に何も無い」
そう言えばお父様も龍君もののも私を見つめる
久しぶりに家族でご飯を外に食べに来ていて
丸いテーブルを囲む
「毎日健気に通ってるじゃない」
「ののも聞きたーい」
「それは、約束してたの
舎羅登さんって高専じゃ全然カッコよくなくて、昔はモテたとか言うからもし今モテたらお手伝いしてあげるって、そしたら演習最終日に和兎と戦ってて女子達が
きゃーっとか言って」
必死に説明する私を笑いながら見つめる3人
だけど龍君は興味が無いのか黙々と食べていた
「まあ、舎羅登君が相手なら安心よね、源」
「そうだな
でも難しいぞ?あいつを攻略するのは」
お父様は少しだけ…悲しい顔をしたような気がした
「絶対舎羅登さん、お姉ちゃんが好きだよ?」
ののはそう言いながらニコニコ私を見つめた
「え?どうして?」
「この間、変な人達がお家に来た時にね
大切なものを傷つけられるのが一番嫌いなんだよ!って怒ってたもん」
「大切なもの?そんな事言ってたの?」
嬉しそうに笑う姉様を見つめた
「大切な生徒だろ」
そう言えば確信を付かれたような切ない表情になった
「龍!話したと思ったらズバッと言いすぎよ」
母様が俺にそう言う
でも俺は聞いたんだ
講師室で話す舎羅登さんの本音を。
それを姉様に伝えるか少し迷ったのは事実だけど持っている箸を強く握りしめた
「あの人はやめろ
姉様とどうこうなりたいとは思ってない」
龍君と重なった視線を逸らした
見つめる先のコップの水には悲しい顔をした私が映っていた
「…そんなの、龍君にはわからないでしょ?」
弱々しい声だったけど怒った顔を俺に向ける
恋は盲目で人の思考回路を操ろうとする
考えれば解る?
そんな事は無い、そこの無い沼のようにどんどん深みにハマり前も後ろも横も…何もわからなくなる…
「姉様が傷つく前に言ってるだけだ
あの人は他にも女は沢山居る」
「こら、龍」
咎めるように俺を見つめる母様と泣きそうな顔をして下を向く姉様
「俺、帰るよ
ごちそうさま」
個室の部屋を出ていく龍君にとても嫌な気持ちになる
「龍君、お姉ちゃん取られるのが嫌なんじゃない?」
笑いながらお父様に言うお母様
「やや、お見合いも婚約も断ってるのは舎羅登君を好きだからか?」
威厳な人だけど私にとっては優しくて頼りになるお父様…
だからお父様に真剣に見つめられれば嘘はつけない
「…そうです」
「龍があんなことを言うのは珍しい
ちゃんと舎羅登君と向き合って答えを出せばいいと思う
龍も龍で何かを心配してるんじゃないか?」
お父様の声にガタッと椅子から立ち上がる
龍君が私を否定する事なんて今までなくて…
「少し龍君と話してきます」
龍君の後を追うように部屋を飛び出した
雨が降りそうな生ぬるい湿気を含んだ空気に息を大きく吐いて走る
しばらくすれば夜風に当たりながら川の近くにある休憩所の椅子に腰をかける龍君が居た
何も言わず横に座れば
「悪かった」
そう謝る龍君にニコッと笑顔を向けた
優しい男の子に育ってるんだって感心した
小さい時は私の後ろをくっついてきて姉様、姉様って…
「ありがとう
心配してくれたんでしょ?」
そう聞けば切なく暗い川を見つめる龍君…
月明かりと街路灯が映る水面が夜風を受け揺れている
「あいつじゃなきゃダメなの?
いい奴に見えるけど姉様を傷つける…絶対」
「そうだね、ずるい所もあるけど好きだよ
自分も怖いくらい好きになってる」
「……傷つけられたら俺に言って」
龍君は何かを隠すように優しく私を見つめた
その秘密を聞けば何かが変わったのかもしれないけど…
この時はただ、龍君との時間に安堵を覚えていた
「龍君ありがとう
戻らない?せっかく五人でご飯食べれてるのに」
「…そうだな」
「あのお店の特大アイスクリーム食べたいから手伝って」
「アイスは、いらねぇよ」
「えー信じられない」
笑いながらお店に変える姉様の背中を見つめた
太陽だった
家でも高専でもどこに居ても。
この時、姉様に全て話せば良かったのかもしれない…
でも俺は解らなかった
この笑顔を守りたいってみんなが思ってるように
俺もただ守りたかった
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「良かったじゃねぇか、
五人揃うなんて珍しいんだろ?」
「うん、楽しかったよ」
「俺は一人寂しく焼き鳥食べたよ」
「今日は一緒に食べてあげる」
「あー…今日は予定がある
あれだったら家で母さん達と食べればいいよ」
「…うん」
「じゃあ行ってくるよ
夕方には帰るけどすぐ出ていくからもう帰ってていいから」
「うん、気をつけてね」
今日は川を渡ってすぐにある娯楽処と言う大人の男性が通う場所への念祓いへ向かった舎羅登さん
私は危ないから来るなって言われたので
仕方なくお留守番をする
「書類置き場片付けようかな…」
ため息をつきながらお薬処の奥にある舎羅登さんが研究したり集めた事例の書類を片付けはじめた
「なんて書いてるか解らない」
難しい漢字が並ぶ
折れ曲がったり破れかかった紙にテープを貼る
「いっぱい勉強してるんだ…」
ちょっとだらしなくて、見た目『この人大丈夫?』みたいな舎羅登さん
でもみんなは憧れの眼差しで舎羅登さんを見つめている
術韻に関しては文句無しだって、実丸が認めてる人…
その成果は形となって今の舎羅登さんを作ってる
「これ…タバコで焦げたのかな?」
丸く空いた穴も慌てて消して汚くなった所も手で払う
綺麗にまとめて棚に戻す
上の方にある書類の山に精一杯手を伸ばして引っ張る
私の身長は女子の中では普通…標準くらいだけど積み上げられた中では無意味なほど届かない
「うわっ」
バサバサっと勢いよく数冊が落ちてヒラヒラと紙が宙を舞う
「痛い…もう」
その中の一枚に目が止まる
「写真…」
足元に落ちるその写真を見つめた
「これ…」
胸がギュッとしてモヤモヤして行く
「中界の制服…だよね…」
中界の制服に身を包み凄く可愛い女の人と顔を寄せ合い笑う舎羅登さんの写真…
舎羅登さんは今とは全然違い
髭もなくメガネもなく、髪は今よりも短かった
『中界の女のどこが良かったんだ?』
藩登様の言葉を思いだした
『あいつ以上は居ねぇよ』
舎羅登さんが言ってた『あいつ』はこの人なの?
舎羅登さんより少し背が低くて笑った顔には笑窪ができて目は大きく綺麗な人だった
「……」
写真の下の方に小さく女の人の字で
【しゃらと みあ 学園祭 10/23】
っと書いていた
「みあ…?」
この人が舎羅登さんがずっと忘れられない人
「はあ…」
書類室から出ればその写真を袂に隠した
「やや様、すみませんがこれ舎羅登様まで届けてくれませんか?」
「お札と式神?」
「玄関の置物の上に忘れてて、私達はここから離れることが出来ないので」
「解りました」
舎羅登さんのところで働く人たちは強度な式神で作られて居る
お薬処には舎羅登さんの力が溢れてるけど、外に出るとたちまち弱くなり消えてしまう人も居る
なのであの場所から離れられない
急いで荷物を持ち後を追った
その道中もあの写真が頭を離れなかった




