第六話 亜里亜
翌日、渚は廊下で目を覚ました。
昨日の出来事が頭から離れず、ぼぉっーとしている。
珍しいと思った由井は渚に話かけた。
「渚?」
「・・・」
「渚?」
「・・・」
由井は埒が明かないと思って肩を軽く叩いた。
「おいっ!渚、どうした?お前らしくないぞ」
「あぁ、ごっごめん」
渚は慌てて身なりを整えた。それを見た由井は呆れたように言った。
「お前、昨日何かあっただろう」
渚の表情が引きつった。由井は強引に渚の手を掴み空港の一回にある食堂へ向かった。
「どうしたんだ?お前らしくないじゃないか」
二人は適当な場所を選んで、椅子に座った。
渚はコーヒーを、由井はサンドウィッチをそれぞれ頼んだ。
「・・・・」
由井が話しを切り出すとすぐに黙る。
「なんとか言えよ!」
由井は周りを気にせず怒鳴った。周りにいた団員は由井の方へ視線を向けた。
「一人の少女も守れないとだめだよな」
やっとの思いで口を開いた。
「開口一番にそれか?それじゃ何があったか分かんないだろ」
「分かった。話すよ」と言って渚は出来事を話した。
「亜里亜ちゃ〜ん、どうしたの?仕事だよ」
医療部長のミリアが何度もドアをノックするが反応がない
「どうしたんですか?」
たまたま通りかかったロフティがミリアに尋ねた。
「仕事の時間なのに出てこないのよ」
ロフティはしばらく考えた後、ある事を思いついた。
「リーダーを呼んできます。」
「お願いね」と言ってミリアはロフティを見送った。
「・・・・そうか」
頼んでいたサンドウィッチを食べ終わり、渚の話を聞いた由井は深刻な表情をしていた。
「確かに宣戦布告した後にそんな事言われたらショックだよな」
渚はさっきから「ああ」としか答えない
「でも亜里亜が言ってる事も一理あるな、本当にこのまま戦いを続けて一国を相手に勝てるかどうか分からないからな」
「ああ」
「そう言えば応千が呼んでたぞ、ラングのことで話したいって」
「分かった、行ってくる」と言って椅子から立ち上がりその場を後にしようとすると由井が手を離さない
「はなせよ!」
怒気を込めて言うが由井は首を横に振り行かせようとしない
「今日は生き抜きだ。亜里亜誘って遊びに行こうぜ、どうせ今のお前じゃ的確な指示は出せないからな」
「何でもお見通しって訳か」
渚は苦笑し了承した。
「由井さん、リーダーは?」
食堂で由井を見かけたロフティは尋ねた。
「え?渚なら亜里亜の所に行ったはずだけど・・・」
「そうですか。ありがとうございます。」と言って立ち去ろうとした時
「亜里亜がどうしたの?」
「それが部屋から出てこないんです」
「よし!ロフティ行こう」
「はっはい」
由井はロフティと共に亜里亜に部屋へ向かった。
かくして渚、由井、ロフティ、ミリアの四名が亜里亜の部屋の前に集まった。
「ほら、原因を作ったお前が行け!」
由井は強引に押し入れようとするが二人は由井は止める
「由井、強引に渚を行かせちゃだめよ」
「じゃあ、どうすりゃいいんすか?」
由井は髪を掻きむしる。ミリアはポケットから煙草を取り出す。渚はすでに混乱していた。そしてしばらく沈黙が流れる。
沈黙を破ったのはミリアだった。煙草を吹かしながら渚に尋ねた。
「あんた亜里亜の事、好き?」
「「えっ?」」
ちなみに声を上げたのは由井とロフティだ。渚は動揺していた。
「えっとぉ・・・」
渚は返答に困っていた。さらにミリアは付け足した。
「もちろん部下としてでもなく、友達としてでもなく一人の女性として、亜里亜の事好き?」
渚は意をけして答えた。
「はい」
ミリアは「よし」と頷いて鍵を渡した。
「これって・・・」
「お前だろ?私に女性専用の部屋の合鍵を渡したのは」
「さぁ、後は若い者同士で何とかしなさい。ロフティ、由井行くわよ」と言って二人を連れて何処かえ姿を消した。
「あとは俺次第か・・・」
渚は拳を強く握った。傷が開いて包帯が真っ赤に染まっていた。自分の頬を叩いて、鍵を開けた。
カチャ!
「亜里亜?」
部屋の中は真っ暗で廊下の明かりが部屋の三分の一を照らす。ベッドでは亜里亜がうずくまっている。
「来ないで・・・」
か細い声でうまく聞き取れなかった。
「えっ?」
「来ないで!」
今度ははっきり聞こえた。涙声だった。
「みんな心配してる。ミリアさんも由井も、今日は休みを取ったから由井と俺と亜里亜の三人で遊びに行こう、昔みたいに日本が変わる前みたいにさ・・・」
でも亜里亜は首を縦には振らなかった。
「もう、嫌私はもう人が傷つくのは嫌!」
亜里亜も渚と同じ15歳、本来なら同じ年頃の子と遊んだり食事に行ったりするのが当たり前だ。渚はゆっくりと亜里亜に近づいて両肩を抑える。
「約束する。もう誰も傷つけさせない、もう誰も死なせしない。だから今日は少し遊んで鬱憤を晴らそうよ」
渚は「三十分後、空港の外で待ってる」そう言い残して渚は亜里亜の部屋を後にした。
「三十分ちょうど」
由井は時計を見ながら呟いた。渚は不安でしょうがなかった。本当に来てくれるのか
渚は真っ赤に染まった包帯を俯いて見つめていた。その時、渚の手を握る一人の少女,青いドレスを着た亜里亜だった。
「ごめんね、渚」
その日の三人は子供のようにはしゃぎまくったと言う。つらい現実を忘れて・・・




