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LUNA:2016  作者: 三角まるめ
PART 2:闘争編
22/23

CHAPTER 22

「んんっ!?」

 少年はいきなり後頭部を鳥の足に掴まれ、目の前の眠っている少女に強制的に口付けをさせられた。ファースト・キス。柔らかくって、しっとりとしていて、これが、これが女の子の唇……!

 数十秒後、目を覚ました彼女は部屋の中を見回して彼に一言告げた。

「おはようございます」

 ここから彼の恋は始まった。


 CHAPTER 22:「ひとつになりたい。」


「私も、もうすぐ止まっちゃう……」

 ルナのその言葉が、誰よりも信じられる彼女のその声が、今の陽太にはとても信じる事が出来なかった。頭ではわかっているのだ。わかっているのだが信じる事が出来ないのだ。

「ど、どうして……」

「私にもわからない……多分、今は予備電源で辛うじて動けてるんだと思う……」

「ち……違うよ……! どうして、どうしてこんな結末になったんだって言ったんだよ……!」

「……私、嬉しいよ……こうして、また陽太と会う事が出来て……ほんとに、君は凄い……凄いよ……」

「……っ!」

 彼は歯を食い縛っていた。涙が、想いが、どっと溢れ出てくる。止まらない。

 その時何者かが放った銃弾がルナの背中に当たった。

「ばっ、化け物め……!」

 香具山だった。小さなアタッシュケースを持った彼が拳銃を構えていた。撃ったのは間違い無くあの男だ。

「お前達なんかに関わらなければよかったっ……!」

 弾丸は何発もルナの背中に命中した。その度に彼女は血を吐き、小さく呻く。陽太は怒りで身を震わせた。

「……かっ、香具山ああああああああああっ!」

「ひっ、ひいっ!」

 この倉庫に来る時に拾った銃をポケットから取り出す。それを見た香具山はなおも撃ち続けようとするが、弾が切れたらしくもう発射する事は出来ない様だった。

 だが、そんな陽太をルナは弱々しく制止する。

「だ……駄目……だよ……陽太……」

「どうして!? あいつはこんなに君をっ……!」

「陽太が、前こうしたんじゃない……それは駄目だ、って……」

「!」

 四ヶ月前の事を思い出して彼は持っていた銃を足元に落とした。香具山は逃げる様に外へと出て行った。

「……本当に、本当に君は、このまま死んじゃうの……!?」

「うん……多分……」

「せっかく……せっかく君を助けに来たのに……」

「ごめん、ね……」

「君が……君が謝る事じゃないよ……!」

「ねえ……外に出ていい……? 空が……見たいの」

「あ、ああ……! ああ……!」

 陽太はルナをあの日の様におぶって歩み始めた。彼女の素肌は相変わらずとても柔らかくて、それで、それで、冷たい……。

「ごめん、ね……もしかして、暗がりでエッチな事したかった……?」

「なっ!? そ、そんな訳無いじゃん! こんな時に!」

 ふたりは日の光の下へと出た。仰ぎ見た空は快晴で、腹立たしいほどに青く澄み切っている。でもそれがルナの髪や瞳の色みたいで、決して恨めしくは感じられなかった。

 すると、抱えていたルナの左脚が突然ぼとりとちぎれて落ちた。

「あ……」

「……」

 それは太陽光の熱を帯び、煙を出しながら小さな粉になっていく。

「……!」

 陽太には信じられなかった。ああやって、すぐにルナはいなくなってしまう。俺の目の前から。この星から。涙で視界を滲ませながらも、陽太はふらふらと門へ向かい戻っていった。

「ああ……あったかいな……」

 ルナは彼の首筋に頬ずりをして呟く。

「……ルナ……!」

「……何……?」

「……ルナ……!」

「なーに?」

「…………ルナ……!」

「……もーう……だから何……?」

「俺は……俺は君が好きだ! ……大好きだ!」

「……うん。私も陽太の事……好き」

「! ひっぐ!」

 また涙が込み上げてきた。ぽつり、ぽつりとその滴が照り付けられたアスファルトを濡らす。

「うあっ! うっ! うっ! うああああああああああっ!」

「……もう……泣き虫なんだね、陽太……」

 彼女の細い腕が彼の頭をさわさわと撫でた。その腕もさっきの脚と同じく、ぽろぽろと形を崩していく。

「ねえ、陽太……私と出会ってくれて……ありがとう」

「俺の方こそ、ありがとう……!」

「私、陽太のおかげで……少しは人になれた……かな……」

「だから! ……だから君は人だって、初めから言ってるだろ……!」

「私、幸せだよ……こんな素敵に終われるなんて……思ってなかった……ありがとう」

「だから! こっちこそありがとうだってば!」

「くすくす……ああ……もしも兵器の私が、生まれ変わりだなんていう事が出来たら……もしも次は、人として生まれてくる事が出来たなら……ねえ……顔……見せてよ……」

 陽太はごしごしと涙を拭って、肩にある彼女の顔をしっかりとその目に焼き付けた。その瞬間。

「んっ……!?」

 ルナは静かに彼に口付けをした。

「!? ……んんっ……!」

 唇から彼女の命の鼓動が伝わってくる。ごおごおと、残り僅かな最後の炎を感じる。陽太は目を閉じ、時が止まってしまった、永遠の様なこの刹那に全身を委ねた。

 やがてルナはゆっくりと顔を離し、目を開くとまた言葉を残した。

「……その時は……今度こそ……キ、君とト……ね……」

 彼女は可愛らしい仕草で、これまで彼が見てきた中で一番の、満面の笑顔を見せてくれた。

「……ヒ、ヒト、ひとつ……に……なり……タ……i…………………………」

「…………ルナ?」

「…………………………………………」

「……………………ルナ…………?」

「…………………………………………」

「…………! …………っ……あっ……うああっ……!」

 少女は微笑みを残したまま全ての機能を停止させた。やがてその体がさらさらと崩れ始めても、最後の最後まで温かい眼差しで少年の顔をずっと見つめていた。

 そしてルナは風になった。そのとてもとても小さな彼女のかけらは、太陽の光を浴びてきらきらと輝き、煌めいていた。

 きっとそれは、世界で一番美しかった。

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