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LUNA:2016  作者: 三角まるめ
PART 2:闘争編
19/23

CHAPTER 19

 ルナはセンゴクエレクトロニクスの研究施設内にある個室でベッドに座っていた。静かな部屋の中では時計の秒針の音だけが響いていた。誰にも言わずに那倉家から出てきた。今頃はもう、陽太は学校から帰って来ているだろうか。アルバイトも急にやめる形になってしまった。おばさんとおじさんには悪い事をしてしまった。

「……陽太……」

 窓の外を見る。彼女が今いる物と同じ様な建物がいくつか並んでいた。この広大な敷地内にはセンゴクの本社ビルや工場、倉庫もある。

 陽太に会いたい。彼女はそう強く思っていた。過ぎていく時間に比例して、彼に会いたくなる気持ちもどんどん大きくなっていく。

「調子はどうだい? LUNA(ルナ)

 ノックもせずにソルが部屋へと入ってきた。だがそんな事ルナはさほど気にはしない。

「……別に。普通だよ」

「そっか……ふあ~あ、疲れたな~」

 伸びをしながら彼は彼女の横に腰を下ろした。

「どうかしたの?」

「たくさん薬を飲まされてさー。その後体の中をチェックされたよ。あいつら、色々と僕の体で試したい事があるみたいだね」

「そう……大変だね」

「それに、勝手な行動は控えてくれとか言われちゃったよ。君をここに連れて来た事。自分達にも計画があるとか何とか……人間のくせに偉そうに説教なんかしやがってさ。奴ら、僕がしくじって自分達の事がバレるのが怖いんだよ」

「……」

「あ、ここに来ていきなりで悪いんだけどさ、夜中に早速、少しだけ君のデータを取りたいんだって」

「……わかった」

 彼女はこくりと頷く。

「だから今の間に睡眠を取っておいた方がいいよ」

「うん、ありがとう」

「……は~あ、僕も一眠りしようかな」

 ソルはあくびをひとつかくとそのまま後ろに倒れ込んだ。

「ここで寝るの?」

「……嫌なら出ていくよ」

「そこに寝られたら私が布団に入れないんだけど」

「あ~はいはい出ていくってば」

「……」

 幼い少年は拗ねた様な声を出してすぐに起き上がる。ルナは彼がどうしたいのか、何となく感じ取っていた。

「……一緒に寝る?」

「……」

 無言のまま彼は彼女を見つめてきた。ソルは見た目相応に、ルナよりも幼い精神を持たされ作られたのだ。

「……おいで」

 彼女は手招きをした。彼は恥ずかしそうにしながらそれに応じて彼女の元へと寄ってくる。

 そしてふたりは一緒に布団を被り横になった。

「寂しかったね」

 ルナはソルを抱き、赤ん坊をあやす様に喋る。

「……まあね」

「こうしてると、あったかい?」

「……うん」

「……ふふっ」

 小さな笑いを漏らして、彼の頭を優しく撫でてあげた。


 CHAPTER 19;「みんな、みんな忘れたくない。」


 もう夜になっているというのに、ルナは一向に帰って来ない。いつもなら遅くても七時までには帰宅をするのだが、とっくに過ぎている。

 まさか何かあったんじゃ……陽太は先日の香具山という男の事を思い出していた。たとえば、あの男が彼女をさらっていったとか……だが、いざとなったら彼女はそんな危険、自分で突破出来る気もするが……。

 ルナの身を案じていたらふとテーブルの上に乗っていたガルダと目が合った。もしかしたら彼女から何か聞いているかもしれないと思い彼に尋ねてみる事にした。

「なあガルダ。ルナ、今日遅くなるとか言ってた?」

「……イヤ、何モ」

 ほんの僅かな間の後にガルダは言葉を返した。

「……そっか。お前も聞いてないか」

「……アレハモウ……ココニハ戻ッテ来ナイ」

「……は?」

 陽太は耳を疑った。

「何言ってんだよ……どういう事だよ」

「……オ前ノ部屋ニ移ルカ……話シテヤルヨ」

「……!」

 そう静かに言ったガルダの顔は、珍しく沈痛な面持ちだった。


「アレハ今日……コノ家ヲ出テ行ッタ」

 促された通りに陽太の部屋へと場所を移すと、ガルダはルナについて語り始めた。

「出て行ったって……何で!?」

「……アレハ会ッタンダ……モウヒトツニ……」

「もうひとつ……? 何だよもうひとつって……!」

「アレニハ対ヲナス存在ガアルンダヨ」

「対をなす存在……?」

「アア。フタツデヒトツ。ダカラ『コロンシリーズ』ナンダ」

「コロンシリーズ……」

 話を聞いていた陽太ははっとした。「コロン」という言葉に聞き覚えがあったからだ。確か、ルナと出会って、彼女と口付けを交わした後……彼女が起き上がる時に、無機質な声で言っていた……COLON(コロン) SYSTEMシステムと。

「何なんだ! そのコロンシリーズって!」

「ソレゾレガ自律的ニ行動シ、戦イヲ行ッテイク中デ経験ヲ積ンデイキ……ヤガテ時ガ来タラフタツハヒトツニナル……ソウシテヨリ究極ノ兵器ヘト進化スル……ソレガコロンシステムダ」

「ふたつがひとつに……合体するって事か!?」

「ソンナモンダナ。フタツノ点デヒトマトマリノ『(コロン)』トイウ記号ニ(ナゾラ)エテソウ名付ケラレタラシイ。ソノコロンシステムヲ搭載シタ2体ノ兵器ガコロンシリーズダ」

「……じゃあ、ルナとは別に、もうひとり同じ様な……その、人間に似せて作られた兵器がいるって事なのかよ……!」

「ソウダ。アレハ昨日ソレト出会ッタンダ。名前ハソル」

「ソル……」

「ソルガ出来上ガッタノハ戦争ガ終ワリカケノ時ダッタ。ダカラアイツハ血ニ飢エテイルンダ。戦イヲ求メテコノ星ニヤッテ来タ」

「な……! そんな危ない奴……まさかルナはそいつの所へ行ったっていうのか……!?」

「ソウラシイ」

「何でだよ! 何で……! もう人を殺すのは嫌だって言ってたじゃないか!」

 彼は床に拳を強く叩き付けた。やるせない気持ちが広がっていく。

「オ前ヲ守ルタメダヨ」

「! ……え……?」

「オ前ヲ人質ニ取ラレテアイツハ脅サレタンダ。ダカラ出テ行ッタ」

「……そんな……! 俺のせいで……!」

 肩を落とす。彼女は自分を守るために自ら望まぬ道へと足を踏み入れた……自分のせいで。

「……それ……今朝聞いたのか……?」

「イヤ。聞イタンジャナクテ、勝手ニ入ッテクルンダ」

「?」

「俺ハアレノバックアップモ兼ネテルンダヨ。ダカラ毎日定時ニナルトアレノデータガ勝手ニ俺ノ中ニ送ラレテクルンダ。記憶トカ状態トカ、ソウイウデータガナ」

「そ、そうだったのか!? じゃあ、お前が今俺に話した事は全部ルナの頭の中にあった昨日の出来事の記憶……って事になるのか?」

「ソウダ。ソノ時アレガドンナ精神状態ダッタノカ、何ヲ考エテイタノカモ、全部ワカル」

「……じゃあ、プライバシーなんて無いんだな……」

「兵器ニプライバシーナンテ必要無イダロ」

「……」

「……アレハ、オ前ト出会ッテ変ワッタ……ソレヲ喜ンデタ」

「!」

「正直俺モ驚イタゼ。ズット殺戮シカシテコナカッタアレガ、アンナ感情ヲ持ツナンテナ……」

 ガルダは急にしんみりとしながら話を続けていた。

「……俺ハ、正直見テイタカッタヨ……アレガドウナルノカ。ズットソバニイタカラナ」

「ガルダ、お前……」

「ルナハ、刺シ違エテデモソルヲ止メルツモリダ」

「さっ、刺し違えるって……死ぬって事かよ!」

「実際アレ以外ニ奴ヲ止メラレナイサ」

「……! ……なあ、ルナが今どこにいるのか、それもわからないのか!?」

「知ッテドウスル? 行クツモリカ?」

「当たり前だろ!」

「ドウセオ前ニハ何モ出来ナイゾ。ムシロ逆ニソルニ殺サレル可能性ノ方ガ大キイ」

「……っ! それでも……!」

「ソレニ、オ前ガイルト足手マトイニナッテアレガ思ウ様ニ動ケナイカモシレナイ」

「……それでも……それでも俺は……好きな女の子のために行きたいんだよ!」

「……俺モ連レテ行ケヨ?」

「! ガルダ!」

「俺ハ必ズ役ニ立ツ。必ズナ」

「ああ! ああ! それで、ルナの居場所は……!?」

「ソレハマダワカラナイ。次ノ同期マデ待テ。位置情報モ送ラレテクルハズダ。明日ノ朝ニハワカルト思ウ」

「……そっか……! わかった!」

 陽太はガルダの事を見直した。今までは、実を言うとただルナにくっついて来た口うるさい乱暴な機械の鳥だという印象しか持っていなかった。もちろん実際そうだし、それでも何だかんだで憎めない奴なのであるが、彼は彼なりにルナの事を見守っていたのだ。彼女がこの星の人間と接して変わっていくのを、そんな素振りは少しも見せずにいながらも保護者の様にそばで見ていた。鳥のくせに。

 ルナ……俺は君に会いたい。君はどう思っているんだろう……同じ様に思っててくれたらいいな……なんて。

 そんな少年を、ガルダはやはり、黙って見ているのであった。


 ルナは指示された通りに台の上に横になった。必要以上の照明が彼女の白い肌を照らす。話を聞いた限りでは、これから彼女は体をスキャンされる様だった。

「それじゃあ始めますよ」

 スピーカーから男の声が聞こえてきた。ルナは律儀にはいと返事をする。

 しかし装置が動き出す直前に突然ドアが開き、誰かがやって来た。何か薬でも打たれるのだろうかと彼女はそのままの姿勢で身構える。やがてその顔の上に現れたのは、ソルの鮮やかな赤い瞳であった。

「……どうしたの?」

「データを取る前に、ちょっとやっておく事があると思ってね」

 そう告げて彼はルナの額に手を当てた。

「? 何する気?」

「一部の記録の消去(デリート)だよ」

「……え……!?」

「君がこれから僕に刃向かってきても困るからね。この星に来てからの記録を消させてもらう」

「そっ、そんな事……!」

 駄目! そんな事されたら、この星で記憶したものみんな忘れちゃう! みんな私の中から無くなっちゃう!

 抵抗しようとしたが遅かった。すでにソルはコロンシステムによって無線通信で彼女と接続を果たし、難無くパスに成功すると彼女の脳へと侵入(アクセス)してきた。体を思う様に動かせない。

「やめてっ!」

「君は僕と同じ、最強の兵器でなければならない」

「やめてってばっ! やめて! 私の中に入って来ないで!」

 駄目! みんな、みんな忘れたくないのに! みんな大切な思い出なのに!

「いやあああああああああああああああああああああっ!」

 陽太! 陽太! 陽太! 陽太! 陽太陽太陽太陽太陽太ようたよう……た……よ……う……t……!

 ……あ……ああ………………!

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 ……。

 。













 消えちゃう……。














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