表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

娘が実家に帰って来た

「父上、たっっだいまー」

実家に帰って来たエレクトラは、駆けつけた父親に、軽く声を掛ける。

「お前っ、荷物っ、ただいまって」

食って掛かる父親の二の腕をばしばしと叩き、明るくエレクトラは笑う。

出迎えている数人の使用人たちは笑っていいのかわからずに、ビミョーな無表情で三人の貴族を見守っていた。

「やだー父上ってばー可愛い娘が帰って来たのにそんな顔しないで☆侯爵様に送っていただいたの」

「このたびは、まことに申し訳ありませんでした」

「いや、あの、その…」

「彼女の法的地位などに関しましては、弁護士から説明いたします。ご令嬢はよくやってくれました。悪いのは我が愚息です」

深々と頭を下げる侯爵に、父親はパニック状態である。

「いえ、娘はその、生意気と申しますか、女らしくありませんので、御不興を買っても致し方ありませんし」

「いいえ!お嬢様は最高のじょお、貴婦人です!私だけでなく、多くの信奉者がおりますとも!」

「そ、そうですか…」

気圧された風の父親は言葉を呑みこむ。

「侯爵様、お茶でもいかがですか?先日極東からの荷が届きましたの」

「それは素晴らしい!よろしいですか?」

「もちろんですとも。庭の藤が美しく咲いておりますよ。どうぞご覧ください」

如才なく応じながら、エレクトラの父はなぜこんなことに、と声に出さず呟いた。




「…姉さんすげー」

黒銀の真っ直ぐな髪を無造作に束ねた少年は呆れたように言った。

「そりゃ父さん寝込むはずだよ…やりすぎだよ…」

極東から渡ってきた酒をちびちび舐めるように呑みながらぼやく。

夕方になって帰って来た弟は、執事たちから顛末を聞いたらしく、父親不在の夕食の後、酒瓶と杯とつまみを持ってエレクトラの部屋へやって来た。

結婚して出て行ったはずなのに、エレクトラの部屋は独身時代と全く変わっていなかった。

「だって、あのアホボン、私とルーグを勘ぐったのよ?つま先舐めさせたくらいで!」

怒り心頭の姉を、ドン引きしながら見やる。

遥か彼方の雲上人に何させてんだ、と思うが姉の特殊な状況は知っている。相談されたから。

身分や地位をかざして無理強いしているわけでもなく(?)むしろ傅かれているため、対処のしようがないと結論が出た。

何もかもを手にしている人種の考えることはわからない。

「まあいいわ、あんたの学費程度なら余裕で稼いできたから。アカデメイアなんか行かなくったっていいわよ。天文でも数学でも好きな勉強するといいわ。全然儲かんないけどね」

「……姉さん…」

「昔から、『すまじきものは宮仕え』っていうじゃない。文官なんかなるもんじゃないわ」

「ありがとう、姉さん…でも遅かったかな……」

「え?」

「姉さんさあ、来年、王太子殿下付きの教育係として出仕が決まってるんだ…」

弟は、口を半開きにして硬直する姉からそっと目を逸らす。後ろめたいのだ。

「俺、一昨年から宰相様の許でバイトしてるんだ…」

「どういうこと?」

「時給良くって勉強になるんだよ…」

「よりにもよって、なんで一番の変態に?」

自分の声が震えていることにエレクトラは気付く。

「プライベートはともかく、王宮では素晴らしい方だよ。趣味は特殊だけど。それでね…」

至極言いにくそうに言葉を切り、深呼吸する。

「まだ諦めてないんだって。むしろ障害が減ったって喜んでいらしたよ?離婚したら、称号が増えるだろうって」

「いぃぃぃやぁぁぁぁ!」

エレクトラは力一杯叫ぶと、酔いに任せておいおい泣き始めた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ