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第一章 センセイと双子―出会いと別れ―  作者: チタカ・トモヒロ
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……チヒロ様ですね?

 チヒロが泣いていると、後ろから肩を叩かれた。見慣れない喪服姿の男子が二人立っていた。

二人とも身長一七〇センチ前後、片方は丸眼鏡をかけて前で手を重ねて、両足を揃えて、背筋を伸ばして姿勢よく立っている。もう一人は体の前で腕を組んで立っている。チヒロが泣き止み、無言で二人を見つめていると、丸眼鏡の方が口を開いた。

チタカ 「……チヒロ様ですよね?」


第一章 センセイと双子―出会いと別れ―


センセイ「君は他人を思いやれる、心の優しい良い子だね。」

 これは、センセイがチヒロに口癖のように繰り返し言ってくれた言葉だ。僕のセンセイは口数が少なく、他人に悪口を言うのを何よりも嫌がっていた。でも、僕の良き理解者だった。ちなみに、僕の場合は学校の先生でも、両親や友人でもなかった。

 癖が多く、地声が低かったため、低学年の時からずっといじめられていた。学校から家までがクラスの男子三・四人にいじめられ続けた。いじめと言っても、持ち物を隠されたり、暴力をふるわれたりするのではなく、悪口を言われるだけであった。それでも、小学生の僕にとっては、両親からのお説教よりも苦しいものであった。


男子① 

「オイ、お前。お前は男子なのに、何で女子の恰好しているのだ?」

僕   

「……私は女子なのだけれど。」

男子② 

「それだけ声の低い女子は絶対いない。どう考えても男子だろ?

 お前は。男子は自分のこと「私」じゃなくて「俺」だぜ?馬鹿なの?」

男子③ 

「そうだそうだ。だから、お前は「私」って言ってはダメなの。

 分かったら、明日から「俺」にして、ランドセルも黒色に変えて来いよ。」

僕は、無言で男子たちを睨みつけた。

男子① 

「なんだ、文句でもあるのか?あるなら言ってみろよ。

 泣きたければ泣け。叫びたければ叫べ。好きにしろ。」

男子④ 

「でも確か、お前は叫ぶことが出来ないのだったな。

 その低い地声のせいで大声が出せないって言っていたよな。」

男子③ 

「なあ、飽きたからコイツはほっといて、さっさと帰ろうぜ。」

男子① 

「そうだな。じゃーな、可愛い僕ちゃん。ハハハハハ。」


そう言うと、男子たちは私を置いてそそくさと帰って行った。これが、僕の日常だった。

僕は地声のせいもあって、大声や一般の女子なら出る黄色い声援を出すことが出来ない。

自分で分かっている自分自身に関することを他人から悪口として聞くのは、大変気分が悪いものである。

 学校帰りに僕は、自分の家ではなく、直接センセイの家へと向かう。センセイの家と僕の家が近いこともあって、母親からの仕事終了の連絡が来るまで待たせてもらうのだ。


僕   

「ただいま。センセイ。」

センセイ

「お帰りなさい。今日はどうだった?楽しかった?」

僕   

「うん、クラス担任の先生の手伝いをしたら、余っていた防犯ブザーくれた。」

僕はランドセルを開けて、もらった防犯ブザーを取り出して、センセイに見せた。

センセイ

「相変わらず、学校の職員室が好きだね。……いじめの方はマシになった?」

僕   

「いつも通りだった。今さっきだって、いつもの男子たちに女子じゃないのだから「私」なんか言うな。

 「俺」にしろ、そして明日からはランドセルは黒色にして来いって言われた。」

センセイ

「ハハハハハ。相変わらずの悪口だな。」

僕 

「感心しないで。学年内では、私は性別を反対にする菌を持っているって言う根も葉もない

 噂が立って、休み時間中わざと私の机に触って菌を広げる鬼ごっこをされているのだから。

 教室にいれるわけがないでしょ。」

そう、僕が職員室に行く本当の理由は、クラスから逃げるため。

先生の手伝いをするためというのは、建て前である。

センセイ

「いわゆる『感染遊び』と言われるやつだな。どうせ君のことだ。   

 職員室にていても、先生方には打ち明けていないのだろう?」

僕   

「先生に打ち明けても、一週間後には復活した。そのうえ、鬼ごっこのメンバーが増えて、

 クラス内だけじゃなくて、他クラスの男子やその男子と仲のいい一部の女子もし始めたのだ。

 しかもその女子って言うのが、交友関係が広い子ばっかりだから歯止めが効かない。

 もしも、私と仲のいい子に相談して先生に言ってもらうと、その子もいじめの標的にされてしまう。

 そんなのは嫌だよ。」

センセイ

「……なるほど。ちなみにある本によると、一般的ないじめを始める理由は、いじめられる側が

     ①何となく、気に入らなかった

     ②ちょっとワガママな子だった

     ③何を言っても「イヤだ。」と言えない。    ……だそうだ。」

僕   

「何なの、そのくだらない理由」

センセイ

「そう。いじめが始まる理由は、様々だけれども、

 全て信じられないくらいの《くだらない理由》なのだ。

 《うさばらし》をするためのいじめる相手は、別に誰でも構わない。

 いじめっ子にとって最高の標的は、

     ①いじめられても、『反撃しない子』

     ②悪口を言われても、『言い返せない子』

     ③叩かれたりしても、『声もあげずに泣く子』

     ④親にも先生にも話せず『じっと耐えている子』

 彼らはそんな子を見つけ出し、攻めていく。いじめられた子が、傷ついたり怒ったりといった反応を

 見せれば、大成功。さらに、いじめっ子たちは無視や暴力を使っていじめをエスカレートさせて、「もしも先生 や親に言ったならば、もっと酷くするぞ。」と脅しをかけ、その子の口から大人にばれるの防ぐ。」

僕   

「なるほどなるほど。だからなくならないのか」

センセイ

「お母さんに相談すれば?」


RRRR。その時、母親から仕事を終えて帰るという連絡が入った。

僕   

「そう出来れば、良いのだけれどね。

 ただでさえ、私の成績が悪いので頭を悩ませているのに、私はこれ以上心配させたくないのだ。」

センセイ

「君は他人を思いやれる、心の優しい良い子だね。」

「そんなことないよ。じゃあねセンセイ。ありがとう。

 話聞いてもらえて嬉しかったし、ためになる話が聞けて嬉しかった。お休み。」

センセイ

「お休みなさい。また明日ね。」


これが、センセイと僕が交わした最後の会話となった。


 翌日、いつも通りセンセイの家へ帰ると、そこには仕事でいるはずのない母と、単身赴任で近畿にいるはずの父がいた。不思議に思った僕は、母に「センセイに何かあったの?」と尋ねた。母は僕をギュッと抱きしめ、ゆっくりした口調で僕の耳元で囁いた。

それを聞いた瞬間、僕の心にポッカリと穴が開き、崩れた様な気がした。


母   

「……センセイ、死んじゃった。」


僕は母の腕を払いのけ、センセイが寝かされている部屋へ向かった。

そこには、静かに眠るセンセイがいた。

それを見た瞬間、今までに経験したことがない程の涙が流れてきた。


 

センセイ(僕の母方の祖父)享年七二歳


その日は、母がセンセイの家に泊まり、僕が父と一緒に僕の家で過ごすことになった。

僕と父はおよそ二年ぶりの再会となった。

僕の父は、僕が小学校四年生の時に単身赴任で近畿へ引っ越してしまった。

元々出張族だったため、母がシングルマザーとして僕を育ててくれたと言っても過言ではない。最初は、単身赴任ではなく、いつもより長い出張だと母から聞かされていた。しかし、一度も帰って来ない父を不思議に思い、小学生五年生の時に母のケータイを借りて、父に電話した。


僕    

「ねえ、一度帰って来てよ。会いたいし、顔も見たい」

父    

「ごめん。それは出来ない。しばらくの間帰れないと思う。本当にごめん。」


ブチッ。ピーピーピー

僕はケータイを持ったまま、涙を流し、呆然としていた。

いつの間にか父は、昔のような優しい父ではなく、仕事人間へと変わってしまっていた。

この時から僕の中から父親の単語と存在が消えつつあった。

でもこの日、父と一緒に過ごせるのは久々で少し嬉しかった。

 しかし翌日、センセイを灰にして、親族一同で奉納し、一通りの供養と片付けなどが終わり、僕の家に帰ると、父と母が夫婦喧嘩をし始めた。僕は二人に、自分の部屋でいてと言われたため、内容は分からない。しばらくして、母が泣きながら僕の部屋に入って来て僕に尋ねた。


母   

「小学校卒業したら、パパのいるところに引っ越ししたい?チヒロが決めて良いよ。」

僕は、黙って首を振った。

僕   

(近々、二人は離婚するな。)


母が出ていった後、僕は学校に出すのとは別の日記帳にこう記した。

『今日はセンセイの命日になりました。同時に家族の命日が近づいていることがわかりました。』

これを書いてすぐに、僕は家の屋上に行った。声を出さないように泣きまくった。


―――そして現在に至る


チタカ 

「はじめまして。私はチタカと申します。こっちは弟のトモヒロです。」

丸眼鏡の男がぺこりと頭を下げた。

トモヒロ

「俺たちは男の一卵性双生児。俺達は、お前にしか見えてないから。そこのところ、よろしく。」

チタカ 

「コラッ、トモヒロ。これからお支えするチヒロ様に対して何という口の利き方ですか!

 失礼しました。コイツはこういう奴なのです。ご勘弁くださいませ。言い忘れておりましたが、

 我々は、あなた様のセンセイの弟子に当たる者でございます。」


あまりにも突然なことで、内容が全く頭に入ってこず、チヒロは、そのまま背中から倒れてしまった。

あれからどれくらい経ったのだろうか。外はすっかり暗くなっているようだった。

いつの間にか僕は、ベッドで寝かされていた。


トモヒロ

「おお、気づいたか。」

チタカ 

「良かった。先ほどは、驚かせてしまって申し訳ありませんでした。」

僕   

「(夢じゃなかったのか。)……結局君たちは何なのだ?幽霊ということで良いの?」

チタカ 

「幽霊というよりも守り神に近いですかね。」

トモヒロ

「チヒロは、悩み事があっても、誰かに相談するという行動を取らずに、自己解決に走ろうとするタイプだ。もしも、ボクが亡くなったら、代わりにチヒロに会って、相談役になってやって欲しいって言われたのだよ。センセイに。」

チタカ 

「理由は分かった。僕にしか見えないということは、話しかけられても答えられないよね?」

トモヒロ

「心配するな。話しかけるのは、一人でいる時だけだから。」

チヒロ 

「分かった。一応しばらくの間様子見をさせて欲しい。」

チタカ 

「かしこまりました。では、明日からまた学校ですので、もう一度お休みくださいませ。」


僕は再び眠りについた。夢の中で誰かに背後から声をかけらた。


センセイ

「……。…おーい君。」

チヒロ 

「…センセイ!」

僕はセンセイに駆け寄って、抱き着いた。

センセイ

「ごめんな。君をおいて先に逝ってしまって。日記帳みたよ。

 今日、君の親族の中で、一番身近な男性がいなくなったね。」

チヒロ 

「ううん。どのみちセンセイは、私より先に死んじゃうのは分かっていたから。

 ところで、あの二人は何者?守り神だって言っていたけども。」

センセイ

「君も知っている通り。ボクは、悪口を言うのを嫌う。同時に喧嘩も嫌いだから、

 言い返すことをしない。でもそれだけでは僕の中にストレスをためる一方だよな。」

僕は頷いた。

センセイ

「では、これをどう解消すればいいのか。考えていた。そして、幼いころの君からヒントを得た。」

チヒロ 

「それって一体なに?」

センセイ

「一人での人形遊びだよ。一人で複数のキャラクターを演じていただろう?

 あれの人形無しバージョンを一人でいる時にすればいいと気付いたのだよ。」

チヒロ 

「なるほど。一人の時なら恥ずかしくないしね。

 ……つまりあの二人はセンセイが作り出したキャラクターってことか。

 でも、何でセンセイが作り出したあの二人を見ることが出来るの?」

センセイ 

「それはボクにもよく分からない。

 君がボクの血の繋がった祖父と孫の関係だからではないのかな。」

チヒロ 

「遺伝ってこと?て言うことは、ママにも見えているってことだよね?」

センセイ

「まあ、アイツは言いたいことをハッキリ言える性格だ。必要なかったのだろうな。でも、君は

私に似て悩み事があっても、誰かに相談するという行動を取らずに、自己解決に走ろうとするタイプなのだ。だから、君には是非とも、あの二人と生活してほしい。きっと、あの二人は君の心強い味方となるだろう。心配しなくても、ボクもたまに今日みたいに君の夢に出て来るから。」

チヒロ 

「分かった。センセイがそう言うなら。」

センセイ

「あと一つ。これからの予言とこれからの君の学校生活上手くいくようにするためのアドバイスだ。

 予言は、中学生になれば今までされていた感染遊びはなくなるはずだ。

 そして、君の良さを分かってくれる人た ちが君の周りに集まって来るはずだ。

 アドバイスは、最初慣れるまでは、片言でも良いから学校の先生方には敬語で喋ると良い。

 君のことを 一目おいてくれる先生が一人は必ず見つかるから。」

チヒロ 

「わかりました。」

センセイ

「その調子。じゃあ、あの二人と仲良くするように。」


そこで夢は終わり、僕は目を覚ました。朝食を食べてか僕を送り出すまで、母は父とのことは何も言わないままであった。家を出て、角を曲がると昨日の二人が待っていた。


チタカ 「おはようございます。チヒロ様。」

トモヒロ「おはよう。今朝夢の中でセンセイに会ったらしいな。」

チヒロ 「うん。二人が何者なのかを聞いた。それと、二人と仲良くするようにと言われた。」

トモヒロ「そうか。分かった。」

チタカ 「では、学校へ参りましょう。ゆっくり話をしながら。」


……と言うわけで、僕はチタカとトモヒロという守り神と暮らすことになった。


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