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The everlasting moon -思い出話をしよう

作者: 朝丸。

“コーポ ルナ”という名前の古いアパートに住む私__、草野里月(くさのりつき)と、同じ階の水口観月(みずぐちみづき)

そして、アパートの隣に建つ一軒家に住んでいる土屋弓月(つちやゆづき)


生まれ月は違うものの、見事に三人とも同級生で、保育園から今に至るまでずっと同じ学校である。似てる名前の為よく間違われたり、三つ子だと思われていたこともある。主に近所の人に。


「みっちゃん、ゆづきー。早く公園いこう!」


「ちょ、ちょっとまって。靴紐が……」


「とろいよーみっちゃん、座って!俺が結ぶから」


せっかちで三人で遊ぶ時はよく観月と弓月を引っ張っていた私。

マイペースで女の子とよく間違われていた観月。

口が強くて世話上手な弓月。



仲がいいままなのは変わらない。

けど、年を重ねるごとに、皆それぞれの友達が出来てきて。


高校に入学した頃には登下校も三人で一緒に行くことはなくなった。





「いいなー。私もあんな幼馴染欲しかったな」


登校中、私の友達の奈津(なつ)がよく口にする台詞。同じ高校に通う奈津は、幼馴染三人でベッタリだった小学生の頃から知っている。

その頃から弓月に片想い中なのだ。


「……そんなに欲しいもんなのかな」


三人でいるのは楽しかったけど、その分喧嘩も毎回のようにしていたから。好きなところもあるけれど嫌いなところもあり……。

互いをよく知った姉弟のような感覚の私は奈津の言葉が理解出来なくて腕を組む。


「欲しいよ!欲しいに決まってる!てか眉間に皺寄せないでよー」


隣を歩いていた奈津が勢いよく振り返って、私の眉間を人差し指でグリグリと押し付ける。

小学生の頃泣き虫だった奈津は、同じクラスになった世話上手な弓月を好きになって。さりげなくアプローチしていたらしいが、弓月が鈍感なのか全然気づいてもらえず。



「でも、なんか……高校生になってからは、前ほど恋してないかもなー」


ボソッと独り言のように聞こえた奈津の言葉に、恋愛もしたことがない私が何て返したらいいのか分からなかった。



____


高校に入学して、早くも六ヶ月。十月になり、高校での大イベント、文化祭を無事に終えた日。



「おーい!この後、文化祭の打ち上げでカラオケ行きたい奴いる?」


帰りのHR後、先生が教室を出たのを合図に教室に響く声。

短髪黒髪で、キリッと持ち上がった眉毛。人懐こい笑顔がチャームポイントのこの男子。

一年二組の中でムードメーカーというポジションにいる土屋弓月。


そして弓月の呼びかけによって周りに集まっている一年二組の生徒が十数人。中学生の頃は受験に向けて塾に行ってたり、勉強ばかりしていた弓月。高校生になった今、男女関係なく友達の数を増やし、周りにはいつも誰かがいる。

そんな弓月に想いを寄せる子も少なからずいた。


違うクラスの奈津は、噂やらクラスの友達から聞いた話で得た情報を聞いて不安になっているのだと思う……。


私も奈津も小学校の頃と比べて、なんとなく弓月に距離を感じていた。



教室で盛り上がっている生徒達の間をすり抜け廊下に出た私は、廊下で待ってくれていた奈津を見つけ駆け寄る。


「すごい盛り上がってるね、二組」


そういって口角を上げた奈津の表情は私は苦笑に見えた。私は「うん」と返事だけして、すぐに別の話題を出した。




____


帰りに奈津と近所のコンビニに寄り、そこで買った肉まんを頬張りながら家路を歩く。だんだん冷えてきた外風に身を縮めながらアパートの階段を上り三階に着く。


すると薄暗い中に人影があり、反射的に身構えた。


「ちょーっと、里月。帰ってくるの遅いよ」


薄暗くて人影が誰か分からずに眉を寄せた私とは違い、間延びした話し方で立ち上がる人。細身の体格だが、肩幅と身長から男の人だと分かる。


身構えたまま恐る恐る近寄ると徐々に見えてきたその人の顔。少し見上げたところにある顔は“綺麗”という言葉が似合う整った顔立ちで。

癖毛でバサバサの髪は色素の薄い茶髪。私と同じ高校の制服を着た人は眠たそうに目を細めて、私を見るとフッと笑みを浮かべた。


「おかえり、里月」


「ただいま……ってどうしたの!寒いでしょーが外で座り込んでたら!」


もう一人の幼馴染の水口観月。

観月だと分かると慌てて駆け寄り、その顔を両手で挟み込む。目の前の幼馴染は怒鳴られたのにも関わらず心地良さそうに目を閉じて私の手の上から自分の手を重ねた。


「今日、俺の親は実家に行ってて帰りが遅いんだよ」


「……家の鍵を持っとくのを忘れたから、自分の家に入れないってこと?」


「そーいうこと」


ジッと観月を睨みつけると、なんとなく空気で察知したらしい観月は顔を若干下に向けた。それでも構わず無言の圧力(?)をかけると、観月は重ねている私の手を軽く上からキュッと握った。


「いーよ!冷えるからとりあえず部屋ん中に入って!」


そう言って観月の両頬をつねる。


「いひゃっ……あひはと(ありがと)」


冬の風が冷たい外でほっこりと笑みを浮かべた観月に、何故か私は少しホッとした。




観月と私の家は同じ階で隣の部屋の為、お互いに何かと出入りしたことあった。アパートの為狭い部屋だから、弓月の家で三人でお泊まりしたこともあった。

今日みたいに観月と二人で家にいることもある。弓月とは……あったかな。



__ピロリン


家に上がり、二人揃ってダイニングテーブルの椅子に腰掛けると、携帯の着信音が鳴った。

私が設定したその着信音は、その人専用に設定したものだったから誰からなのかはすぐ分かった。


「電話?いいよーとって。俺テレビ見てるね」


私の向かいに腰掛けていた観月はコクッと一回だけ頷くと、リモコンでリビングのテレビの電源を入れた。


制服のスカートのポケットに左手を入れてゆっくり携帯を取り出す。スクリーンに表示されていた人の名前は予想通り。


通話ボタンを押して、携帯を耳に近づけると。



『おっせえよ!!!』


通話が始まった途端に聞こえた怒鳴り声に驚いて携帯を危うく落とすところだった。その声は向かいにいる観月にも聞こえたみたいで、こちらを見て目をパチクリとさせていた。


スーッと息を吸い。

「うるさい!!」

携帯に向けて怒鳴り返した。


『だったらすぐ取れよ!お前もうるさいし』


電話の主は、我がクラスのムードメーカーでもあり幼馴染の土屋弓月。電話の向こうは静かで、今日教室で言っていたカラオケはどうしたのかと首を傾げた。

それを真似た観月も首を傾げる。


「カラオケは?行くって言ってなかったっけ?」


『行ったよ。で、俺だけ途中で抜けてきた。

さっき俺の母さんから電話で帰ってこいって言われてな』


「うん、それで?」


何の話をする為に電話してきたのか分からず、とりあえず頷いて促す。

目の前でまた観月が私の真似をした。


『で、お前を一緒に連れて来いって言われたんだよ』


「は?何で」


『俺も知らないよ』


弓月のお母さんも観月のお母さんも、私のお母さんと昔馴染みだったらしいから、二人のお母さんを知っている。けど、こうして“弓月と二人で”呼ばれたことはない。


そう、“二人で”。


『お前ん家に向かってるから……って言っても家隣だけどさ。とりあえず俺が来たら出れるようにしとけよ?』


そう弓月がいい終わると通話は切られた。


……何でだ。

最近弓月と遊んでない、というより幼馴染三人揃っては遊ばなくなった。家が隣で学校が同じでも、一緒に登下校しなくなって。

観月とは遊ばなくなっても毎日のように話していたが、弓月とちゃんと話したのは少しだけ久しぶりなのだ。


なのに、弓月のお母さんに呼ばれたのは


何の話なんだろう。


「観月、ごめん。今から弓月の家に行かないといけなくなった」


「ん。じゃあ代わりに俺が留守番しとく?」


私が立ち上がって言うと、慣れたように頷いて見せる観月。

「うん、お願いね観月」





インターホンの音が鳴る。




__ そこから、変わりかけていた幼馴染の関係が違う形でまた繋がり始める。



【とある幼馴染たち】 __END


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