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第1章 夜の迷走 6

 その夜、いつものように交代で火の番をしている時、ハヤトはミシミシという足音を聞いたような気がした。人が歩く時に小枝を踏み折る音だ。

 ついうたた寝をしたことを反省しつつ、急いで枝を火にくべようとして、ふと遠くにちらちらと蠢く光を発見した。人魂……一瞬、そんな考えが浮かんだが、すぐに取り消した。他の者は皆すやすやと眠っている。

「おい……」

「あー? 何だあ?」

 肩を揺すると、ケンジは不機嫌そうに眼をこすった。

「あれ、何だと思う?」

 光の方を指差すと、ケンジは自分の頬に一発平手打ちをして目を覚ましてから、

「ありゃ松明みたいなもんだな。松明にしちゃちとお粗末だが、こんな夜更けの山奥になんで人がいるんだよ」

 さすがに現実主義者だけあって、超自然現象などとは夢にも思わないらしい。

「とにかくつけてみようぜ。いざっていう時は、俺がダッシュするから、お前は後ろから来てくれ」

 二人はそっと焚き火のそばから離れ、謎の光の跡を追った。光は右に左にゆれながら、森を抜け、潅木に覆われた斜面を登って、ある方向を目指して進んでいく。二人は闇に紛れているのをいいことにかなりそばまで接近し、相手の正体を確かめようとした。

 光が揺れるたびに黒っぽい服を着た小柄なシルエットが木々の間に浮かび上がる。

 大きな木を回り込んだところで光が急に小さくなった。

 相手を見失うまいと、ケンジは静かにダッシュをしたが、すぐに近くの幹に身を隠し、ハヤトにもそのあたりに隠れるよう手で合図を送った。

 そこは四方を木で囲まれた小さな草地だった。二人はその木の陰から中の様子を伺っている。

 シルエットが身をかがめて何かをしていたと思う間もなく、メラメラと炎が立ち上がり、あたりが急に明るくなった。黒いバイクスーツに、頭はオレンジ色の稲妻マークのついた黒いヘルメットを被っている。横に置いてあるのはいぶされて黒光りしているビスケットとジュースの缶だ。

 ハヤトが俺たちから盗んだ缶だ……と指差すと、ケンジはわかっていると言わんばかりに指で丸を作り、続いて俺にまかせろと自分の胸を叩いて見せた。相手は石の上に腰をおろし、ビスケットの缶を開け始めた。

 無防備に背中を向けている相手に、ケンジは忍び足で歩み寄りいきなり飛びついた。首に太い腕を回して締め上げる。だが、相手も俊敏だった。とっさにスルリと体を落として逃れると、豹のような素早さで闇に紛れ込もうとする。

 相手にとって不幸だったのは目指した方角に偶然ハヤトがいたことだった。しかもこん棒という武器を携帯している。実際は単なる杖に過ぎないのだが、瞬時に踵を返して、ケンジに体当たりをした。武器を持っていない方が組し易しと見たのだろうが、一度逃がした相手を二度も取り逃がすケンジではなかった。

 あっさり手首を捻りあげて横倒しにすると、背後からがっしりと押さえ付けた。

 そして、次の瞬間「あっ」と叫んで立ち上がった。黒いヘルメットが脱げた拍子に、サラリと金色の長い髪があふれ出して来たのだった。相手にもう抵抗する力は残ってなかった。

 ケンジとハヤトは女を見おろしながら呆然と立ちすくんでいた。

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