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第2章 奇妙な村 7

 メルは黒いヘルメットを小脇に抱え、雌豹のような素早さで滑るように森の中を走り抜け一本の道に出た。そこからは道沿いの木陰に身を隠しながら少しずつ移動する。

 人影も車も見当たらなかったが、さっきのように車のライトを消したままいきなり神社の境内に入って来るような怪しい輩もいる。用心するに越したことはない。

 そう思って木陰から次の木陰に移ろうとした時、唐突に後ろから声をかけられた。

「ちょっと待ってくれよ──」

 シュウだった。

 メルは乱暴にシュウを木陰に引き込んで、しゃがませる。

「何だい、つけてきたのかい?」

「人聞きの悪い言い方するなよ。跡を追ってきたんだよ。つーことは、ま、同じか……」

「あいつらは?」

「ああ、俺が最後に見た時は、懐中電灯をつけて中に突入するところだったよ。何か一人は警察官みたいだったな」

「馬鹿だね。あんなマッポいるもんか。あれはかなりヤバい奴らだよ。あのパト見たろ」

「確かにありゃあ変だ。それよりお前、どこに向かってるんだよ」

 メルは道の先を指差した。

「あっちの方に村がある。きっとカズ兄もそこにいると思うんだ」

「兄貴に逢えたら、どうするつもりだ」

「そりゃあカズ兄に訊いてみなきゃあわからないよ」

 立ち上がって歩き出そうとした途端、後ろの方が急に明るくなった。

 慌てて近くの薮に身を隠す。

 ほどなくやってやってきたのは先程神社に突然現れた車だった。紺色のライトバンで横に『栃木県警』という白い文字が書いてある。だが、どう見てもパトカーではないし、犯人護送車にも見えない。文字さえなければどこから見ても商店の車ぐらいにしか見えない。

「ハヤトたちはあの中にいるのかな?」

 車が通り過ぎ、ライトのあかりが見えなくなって、しばらくしてからシュウが訊いた。

「だぶんね……」

 メルはそう言って、バンを追うように歩き始めた。

 しばらくは単調な道が続いたが、やがて遠くに規則的に並んだあかりが見えてきた。近付くと道沿いに立てられた街灯で、その周囲には田畑が広がっていた。さらにその田畑の中に点在するように木々が固まって生い茂っている場所があったが、よく見るとそこからも仄かな光が漏れ出している。

 どうやらこの界隈の家々は道から少し離れた場所に、木々に囲まれて数件ずつ固まって建てられていて、本道からそこに向かって長い私道を使って行き来しているらしかった。

「とりあえず、どこかに腰を落ち着けなくちゃ。ハヤトやケンジのことはそれからだ」

 シュウはどの家に向かったらよいものか迷っていた。

 テレビで芸能人が唐突に一般家庭を訪ねて泊めてもらうという番組をやっていたが、人は想像以上に不意の来客を嫌うものである。テレビで顔が知られている芸能人でさえそうなのだから、どこの馬の骨とも知れぬ男女がいきなり泊めてくれ、と言った時の相手の反応は容易に想像がつく。

 メルも同じ気持ちなのかゆっくり歩きながら、遠くの家のあかりを物色するように眺めている。

 道は村の中心部に向かっているらしく、次第に家の数が増えて来た。

 そのうち遠くの方から本道へと続く小道を誰かが歩いているのに気付いた。

「あの人に訊いてみようか?」

 シュウが言うと、

「何か変だよ……」

 メルは小声で言って、シュウを横の薮の後ろに引きずり込んだ。

 やってきたのはやつれた感じの中年の女性だったが、真っ白な着物に真っ白な帯という異様ないでたちである。しかも頭には白い鉢巻きをしめ、その鉢巻きの真ん中には『目』のような絵が書いてあった。

「何だこいつ」

 シュウが呟くとメルが人さし指をたてた。

 その女の後から同じ道を少し遅れて男がやってくる。やはり同じような白装束だったが男の方は提灯をぶらさげている。そして、その提灯にも例の『目』が書いてあるのだった。

 周囲を見渡すと一人また一人という具合に白装束の人々が私道に現れ、軽く挨拶をかわして、しばし何ごとかを話し合っていたが、そうした集団があっちにもこっちにも現れ、周囲は至る所に白い人がいるような状態になる。そして、何か合図でもあったかのように一斉にぞろぞろと中央の通りを目指して歩き始めた。

 シュウとメルの方に向かって来る一団もいて、二人は薮の中で一層身を縮めて息を殺した。集団同士は道の真ん中でやはり互いに挨拶をしあい、集団同士がさらに大きな集団を形成して、しまいには道の上に伸びた長い巨大な白蛇のようになって、うねりながら前方を目指して歩き始めた。

「ええ、天気に恵まれましたな……」

「はて、本祭でもこのようになればよいが……」

 二人が隠れている薮の横を通り過ぎながら、年寄りらしい男たちの会話が聞こえて来る。

 大勢の人間が薮の前を通り過ぎたが、幸いな事にどうやら列の最後尾付近に位置していたらしく、やがて周囲のざわめきや足音は次第に遠ざかっていった。

 完全に物音がしなくなってから、二人はごそごそと薮の後ろから這い出した。

 遠くに提灯の灯りに照らされた仄白い帯状のものがうねうねと蠢いているのが見える。

 二人は呆気にとられてしばらくその様子を見ていたが、少したってから跡をつけはじめた。

 集団の先頭は一体どのあたりにいるものか、白蛇はうねうねとのたくりながら先へ先へと続いている。

 やがて、周囲に次第に家が増え始め、時折何かの施設かと思われる大きな建物が現れて、村の中心部に近付いことがわかる。そうした建物の二階などから誰か外を見ている者がいるのではないかと、周囲に気を配りながら物陰に身を隠して慎重に移動するが、白蛇の去った村にはほとんど人の気配はなかった。

 やがて、再び民家のあかりが少なくなりかけた頃、先頭が白い線となって左に曲っているのが見えた。

 人々がすべてその道に入り、奥の方に去って姿が見えなくなるのを待ってからそばに行くと、両側に大きな杉の木が規則的に並んだ真直ぐな道と奥には鳥居が見えた。

「こんな景色、どっかで見た事ない?」

「あるある」

 メルの言葉にシュウはニヤリと笑みを浮かべた。

 それは先程までいた神社と瓜二つだった。どこかで道を間違えて元の場所に戻ってきてしまったのかとも思ったが、そうでないことはすぐにわかった。

 こちらの神社は周囲に民家が点在しており、そして参道はさきほどの神社より手入れが行き届いて、鳥居も立派だった。

「行ってみるか──」

「うん」

 シュウの言葉にメルは小さく答えた。


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