第2章 奇妙な村 6
夜中になると冷え込みは一層厳しくなった。
室内にいるとは言え、四方は冷たいコンクリートである。薄っぺらな毛布だけでしのげるような生易しい寒さではなかった。
二人は背中合わせになって寝ていたが、アマネは先程からハヤトの体から伝わってくる激しい震えを感じていた。
「ねえ、起きてる?」
「ああ、何だか寒くて目が覚めたよ」
「そんなに寒い?」
「ああ……」
アマネは体を起こし、ハヤトの額に手をやった。
「やだ、熱がある……ひどい熱よ」
「そうか……風邪でもひいたかな。咳もクシャミも出ないけど……」
アマネは思い付いたようにいきなりハヤトが掛けている毛布の裾をめくった。
「おいおい、何すんだよ」
「ね、ちょっと足見せてよ」
ハヤトも体を起こし、ズボンの裾をまくって見せた。その裾をまくるという行為さえ困難が伴う程、足は腫れあがっていた。触ると火のように熱い。
アマネは立ち上がると、ドアをガンガン叩き始めた。
「ねえ、おねがい。ちょっと電気つけてくれないかしら」
しばらくしてから小窓が開いて、そこから隣部の灯りが入って来る。
「何だよ、うるせえなあ」
うたた寝でもしていたらしく、まだ寝ぼけているような声だ。
「ねえ、電気つけてくれない。ハヤト君が大変なの」
里村の目許に不快な皺が刻まれたが、少したってから洗面台の上の裸電球が明るく室内を照らし出した。
先程は暗くてわからなかったが、足はアケビのような紫色に染まり、今にも弾けそうに腫れていた。
「大変──」
アマネは足の状態を見るなり、再びドアに飛びついた。
「ねえ、ちょっと病院に連れていってもらえないかしら。足が物凄く腫れてるのよ」
小窓が開いて、里村が再び顔を覗かせた。
「今度は何だよ。もう気がすんだろ」
「ねえ、病院──ハヤト君を病院に連れていってくれないかしら」
「病院?」
ちらっと中の様子を伺うような素振りを見せたが、
「いやあ、ダメだダメだ。第一こんな時間にやってる病院なんかねえよ」
「じゃあ、せめて氷ないかしら」
「ここには置いてないなあ。家に帰りゃあるけどよ」
「ねえ、それ持ってきてもらえない。とにかく早く冷やさないと……」
少し考えているようだったが、
「いやあ、やっぱりダメだ。ここを空けちゃいけない規則なんだよ」
「逃げたりなんかしないわ。この状況じゃ逃げられっこないし……」
「そうじゃなくて、規則なんだよ。とにかくダメなものはダメだ」
里村もう一度室内を見回してから、
「電気はつけといてやっから、水ででも冷やすんだな」
そう言うと、それ以上の会話を拒否するように小窓をパタンと閉じた。