第四話 噂
鎌女の噂です
「ねえねえ、知ってる?鎌女の噂」
「え?なにそれ」
「えー⁉︎知らないのー?最近鎌女がこの辺りに出るらしいよ」
教室で女子が大きな声で話しているのでその会話は俺の耳にもきっちりと入ってきた。
「なあ、お前鎌女に会う方法知ってっか?」
後ろの席の近藤が俺に話しかけてきた。
「俺はまず鎌女のことを知らないからまずそれから説明してくれ」
「まじかよお前。結構有名な噂だぜ?あ、お前転校してきたんだったな。鎌女っつうのは簡単に言うと都市伝説みたいなもんだ。こっから北の方に廃墟が五つくらいあるんだけどよ、そのどれかに鎌女が引っ越してきたんだそうだぜ。そこでよ、ちっちゃい鎌を中に投げて逃げるんだよ。そしたら3日後までに家に来て大鎌でやった人の頭を切り取るんだとよ。こええよな」
「まあ、自分の家にいきなり鎌投げられたら怒るよな」
「まあなー。でも俺だったら首切り落とさねえな」
「それはそうだろ」
俺は熱弁している近藤と対照的に軽く相槌をうって前を向いた。
俺と近藤は二人ともただの都市伝説という感じで話していた。
教師が教室に入ってきて軽く怒鳴ると授業が始まった。
〜放課後
昇降口で靴を履いていると神田が後ろから「かーえろっ」と小走りでやってきた。
彼女かお前は。
いや、確かにそう見えるかもしれないな。
帰り道を二人で歩いて帰るなんてな。
しかも同じマンションに入って行くとなると誤解する人はひどい誤解をするだろうな。
俺は帰り道にまたメロンジュースを買って、飲みながら帰る。
すると神田は目をキラキラさせながら俺のメロンジュースを見つめている。
「…なんだよ?」
「え?なにが?」
神田はそう言っているが俺のメロンジュースをガン見していて俺はこのペットボトルの緑色の飲み物を飲みにくいのだ。
「おごろうか」
「えー⁉︎いいの⁉︎ありがとおお!」
俺はため息をつきながら150円を自販機に入れた。
「っはー!おいしっ!やっぱこれいいねー」
「これ好きなのか?」
「んぐ…んぐ…。っはー、うん。そうだよ」
神田はペットボトルの中のジュースを飲み干してそういった。
確かにこれは美味しい。
そんな他愛ないはなしを二人でしながら帰った。
「ただいまー」
そういいながら405に入る。
「神田が406に荷物を置いたらくるって言ってた」
「……ん」
ハシがパソコンにヘッドホンをつないだまま返事をした。
「ほかの人は?」
「山城はバイト。マツは部活」
「ふーん」
なんだこの素っ気ない会話!
そりゃまあそうだな。ハシは音楽かなんか聞いてるんだもんな。
その軽く気まずい空気に神田とあーちゃんがやってきた。
「おー、くつろいでんねー。引っ越してきて二日目なのにー」
「へ?ああ、まあだってもう俺もここの住人ってことになるから」
この人はどうしていつも枝豆を持っているんだろうか。
これから枝豆さんとか呼んでみたら怒るだろうか。
「最初はだいたいみんなビクビクしてるよ?自分の体に異常が起こってすぐだったから。あ、そうか。ミキちんは一週間たっちゃってたからか」
「まあそうなんじゃないかな」
あーちゃんと話していると俺のケータイ電話にメールが来た。
「差出人:近藤正樹
宛先:三木透
件名なし
本文:鎌女の噂、今日の夜試してみようぜ!鎌は俺が持ってくからよ
来る気があったら6時に学校来いよ」
俺はあまり乗り気ではないが、少し興味があったので行くことにした。
「どっか行くのー?夕飯いる?」
「そんなに遅くならないから夕飯はいるよ」
神田のその言葉を背に405を出た。
まだ少し空が明るいけど太陽を直視してみても眩しくなかった。
真っ赤に燃えているようなその空の色はなぜだか俺は血を連想してしまった。
…変なこと考えるな…。
俺はそう自分に言い聞かせた。
〜月山明城中学校
校門の前に立っている近藤に駆け寄って行った。
「おー、遅かったな」
「と、遠いんだよ、おれんちから。」
俺は息を少し切らしながら文句を言った。
「んじゃあ、早速向かうとするか。鎌五つもあるからさー…、ね」
「バカじゃねえか?絶対当たるじゃねえか。まあただの都市伝説だろうからいいけどさあ」
俺らは歩いてその廃墟に向かった。
一軒目二軒目と投げては逃げ、五軒終わった時には俺らは息を切らしていた。
「ふーっ、疲れたなぁ!いい汗かいたぜ」
「俺は冷や汗だけどな」
「なんだよ、まあ後は3日待つだけだな!」
「そういえばこれは投げた人の家にくるのか?俺投げてないからそうだとしたらお前の家に来ることになるよな」
「あー、そういやそうだな。たしか投げた人の家だったかな」
やっぱそうか。
まあそうだよな。
俺らはコンビニでだべってから帰った。
「ただいまー」
「遅い!もう作り終わっちゃうよ!じゃあもう三木君はお皿とか運んで」
エプロン姿の神田がプンスカ怒っている。
「唐揚げか、うまそうだな」
「え、そう?これ私が作ったんだー」
照れたように「エヘヘ」と笑っている。
「…っ」
正直かわいい。
俺は神田にハートをぶち抜かれた気分だった。
「どしたー、ユキにみとれてんのかー」
後ろからあーちゃんが枝豆をつまみながらやってきた。
俺は否定しながら枝豆を一つもらった。
塩加減がよくてすごくおいしい。
「はいどいてー。三木くん運ぶの手伝ってよ!」
「なんでおれ…」
渋々手伝って、机の上に唐揚げとシチューとサラダとご飯という少し豪華な食事が並んだ。
マンションにしては少し広いリビングに俺を合わせて12人が二つの机を囲みんでいる。
見慣れない顔が五人いて、こちらを凝視している。
「ね、ねえ。三木くんだよね」
「え?はい。そうですけど」
173センチある俺よりも大きい女の人が話しかけてきた。
正直自分より大きい人はあまり見たことがなかった。
「うひゃ!か、かわいいぃ!ボクの名前は原田沙耶っていうんだ。よろしくね!それにしても三木くんかわいいねほんとモテるでしょ。前の学校とかで彼女いたんじゃない?あーこんなかわいいこが彼氏だったらいいのになぁ」
「…は、はぁ」
なんだこの人…。
「あ、ごめんね三木くんそんなに怖がらないで大丈夫だよ。この人いつもこんな感じのテンションだから」
「そうなの⁉︎や、怖がっちゃうでしょあれは」
「三木くん!三木くん!ちょっと写真撮らせて!いいよね!別にどっかに貼ったりしないから。ね?いいよね?」
「え?あや、べつにいいですけ…」
「カシャカシャカシャカシャカシャ」
俺が言い終わる前に写真を撮られた。5枚くらい。
「おい、やめときなよ。怖がってんだろがバカ。アタシは城島杏子。あんこって呼ばれてる。あんたとおんなじ歳だ」
145センチくらいだろうか。
そのくらいの小さな女の子がこんな喋り方をしているので少し笑えてくる。
「な、なんだよぉ!なにニヤついてんだよぉ!」
だめだ。笑っちゃだめだ…。
「くっ…。くく…。」
「なにがおかしいんだよぉお!アタシなんか変なこと言った⁉︎」
「や、なんにも…。大丈夫。大丈夫だから」
顔を真っ赤にして怒っているあんこを目の前におれは腹を抱えて笑いたいのをこらえている。
「まあまあ、そう怒るなよ。お前もその喋り方なおせって。あ、僕は九戸翼。こっちのアホヅラは土井直樹」
「誰がアホヅラだ。おれ別にアホヅラじゃねえよな」
どっちかというとしっかりしてそうな顔で真剣な表情でこちらを見てくるのでよりしっかりしているようにみえる。
「全然アホヅラじゃないですよ」
「ほらみろー!」
「そういうことを真面目につっかかるからもてないんだよバカ」
「なっ、バカじゃねえし!おれ九戸より頭良いし!」
この人はいじりがいのありそうなひとだな。
そんな失礼なことを考えていると一人見たことのない女の子がいた。
「あの子は誰?見たことないんだけど」
「ぼくは野田夏帆。13さい」
少年のような声と容姿のその少女はさっぱりとした自己紹介を終えて、二つある机のちっちゃい方に座りに行った。
「さーて、これで全員三木に自己紹介終わったよなー?んじゃあ、四年ぶりの新人だ。みんなで楽しく食べようぜ。手合わせろー!いただきます!」
「いただきます!」
誕生日でも迎えたかのような雰囲気の中で少し動揺しつつも楽しんで食事を終えた。
「三木くん三木くん!お風呂!お風呂一緒に入ろうよ!ボクと一緒に!ねえ!いいでしょぉ〜?」
原田さんが猛烈に当たってくるので危うく「はい」と言いそうになった。
「いや、いくらなんでも男女が一緒にはいるのはちょっと…」
「え?ボクがいいって言ってるんだからいいじゃんかあーって痛っ⁉︎」
いかなり変な声を出したかと思ったらあんこが原田さんの後頭部を殴っていた。
「痛い痛い!やめて!」
それを聞いたあんこは「ふっ」と言いながら殴るのをやめた。
風呂は一人で入った。
湯船に浸かると眠たくなってきて、寝てしまいそうだった。
風呂から出ると406と407の奴らはそれぞれ自分の部屋へ戻っていった。
俺は家から持ってきたパジャマに着替えて寝ることにした。
個室は四つあり、一番小さな部屋で俺は寝ることになっている。
一番小さいといっても窮屈というほどではない。
明日の学校の用意とかしてたっけな…。
そんなことを考えながら俺は眠りについた。
------あと3日。
誤字脱字訂正しますのでよろしくお願いします。




