第一話 会
前回とつながりがないですが、同じ小説です。
ヴーヴーというバイブ音が頭上で響いている。目は開いているが頭が起きていない。
それを起こすのがバイブ音がうるさいケータイ電話。
枕の上の棚の上に置いてあるので振動で頭に落ちてくる。それでバッチリ目が覚める。
ケータイの表示を見ると6時2分。いつもと一分も違わない。
ケータイ電話に叩き起こされた俺は布団から這い出て、寝ている時に着ていた黒いタンクトップの上にワイシャツを来て昨日届いた新しい中学校のブレザーを着た。
俺は中学校=学ランという式が成り立っていて、昨日はとてもびっくりした。
転校は今回が初めてだった。
まあ人生でそう何度もする人も珍しいから俺も一回だけだろう。
二階建ての一戸建てに引っ越してきた俺は二階に部屋が三つあり、俺の部屋はその一つだった。
リビングに降りて行くと、数十分前に作られたと思われる朝食とメモが机の上に静かに置いてあった。
「ちゃんと遅刻しないように起きた?転校初日でいろいろあると思うから早く学校行きなさいね」
俺は「わかってるよ」とつぶやき、用意されていた朝食を食べて鞄を持って家を出た。
学校の場所は引っ越してきた翌日に一度行ったのでもう覚えた。
学校に着いたらまず職員室に来いと言われたので職員室に行った。
職員室にはいると若い男の先生がこっちに来て、話しかけてきた。
「あー、君が今日からうちの学校に通うことになった…えーと、…?名前なんだっけ」
「あ、三木透です」
「あー、はいはい覚えてるよ覚えてる。三木くんは2-5で、俺は担任の坂本勝だから、よろしく」
「よろしくお願いします。あの、俺は始業までどこにいればいいでしょうか」
「適当に教室行ったり職員室で寝てたり、何やっててもいいよ。てかこんなタイミングで転校って珍しいねー、もう夏休みだよー」
寝てたりって…。随分とゆるい先生なんだな。
始業まであとだいたい5分だったので、5分の間に自己紹介を考えることにした。
「今日からお世話になります。三木透です。いろいろ迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします。」
だめだな、変だ。
「今日からここの学校に通うことになった三木透です。仲良くしてください。」
まあまあかな?
「我が名は三木透。闇に導かれし者だ。」
何を考えてるんだか。
まあ適当に名前と血液型言って終わろう。
そんな風に5分が過ぎて、坂本先生に教室まで案内された。
「席つけお前らー」
教室の中で騒いでいた生徒がみんな席についた。
「おー、はやくはいれ」
教室の前で立っていた俺に坂本先生が声をかけた。
ざわざわとした教室に入っていくと俺に視線が集まるのがわかった。
注目を浴びるのはあまり好きではない。むしろ嫌いだった。
「静かにしろー。えーと、お前らお待ちかねの転校生だぞ。仲良くしてやれよ」
なんだその言い方は。行事みたいな言い方だな。
「あ、三木君自己紹介して」
「三木透です。A型です。よろしくお願いします」
「んじゃ、三木君はあの金髪の隣座って」
金髪…。あれしかいないじゃん。
見るからに染めてんじゃん。
誰も注意しないのかな。
そんなことを気にしながらその金髪の席の隣に座った。
「じゃー出席とるぞー。安藤ー。」
気になることを一つや二つ聞いたっていいはずだ。よし、聞こう。
「あのさ、なんて名前?」
「ん?私?神田雪名だよ」
「なんで髪の毛金髪なの?」
「ハーフ。お母さんがイタリア人なんだ」
「なるほど」
出席を取り終わったら、少しの間自由時間があるらしい。
この間にみんなトイレとかに行くのだろう。
〜放課後
この学校の生徒はみんな友好的なのか、話しかけてくる人がいっぱいいた。新しい友達がたくさんできて、まあこの学校でもやっていけるな。
用も無いし、帰ることにした。
時刻は5時を過ぎているというのに強い日差しがまだ俺の体を灼いている。はやく家に帰ってクーラーで体を冷やしたい。
帰り道の途中に自動販売機があった。そこでとりあえずメロンの炭酸ジュースを買った。
「っはー、うま」
思わず独り言をもらすほどうまかった。
このおいしさに感動していると後ろから神田が声をかけてきた。
「帰る方向一緒なんだ。一緒に帰ろーよ」
「ん?ああ、いいよ」
神田の家は俺の家と近くはないが、方向が同じの人があまりいないらしい。
「神田の家ってさ、一戸建て?」
「んーん、違うよ。マンションの4階に住んでる。三木くんは一戸建てなんだ。いいなー」
「そうかな。まあ床に物落としたりしてもあんまし迷惑じゃないからね」
「兄弟いるの?一人っ子?親はどんな感じ?」
グイグイ聞いてくるな…。
「兄弟はいない。母さんは医者で朝早く出てって帰りも遅いからほとんど一緒にいられないよ。父さんは小5のころに死んだ」
そういった瞬間、神田はいたずらがばれた小さい子みたいな表情をした。
「あ、ご、ごめん。なんかグイグイ聞いちゃって」
「いいって、全然気にしないから」
そう言うと神田はホッとしたのか口元がすこし笑っていた。
「今日私の家来る?ルームシェアっていうか、親と暮らしてないんだ。小6から高3までいるよ」
「マンションの部屋にそんなにはいるのか?」
「ふふん。山城くん(やましろ)がマンションの部屋を三つも借りて、あ、山城くんっていうのは私たちのお兄ちゃん的存在なんだけど、山城くんが私たちをその部屋に引き取ってくれたんだよ」
なるほど、つまりあれか。その山城くんは随分といい人で、孤児をどんどん引き取るからマンションの部屋を三つも借りることになったということかな。
「神田は孤児ってことか?」
「うん、私が十歳くらいの時に山城くんが引き取ってくれたんだ」
「え?ちょっとまって?山城くんいま何歳なの?」
「18歳だよ」
まてまてまて、てことは神田を引き取った時俺らと同い年じゃねえか?
「神田を引き取ったのは?」
「10歳の時っていったじゃん」
「いや、神田じゃなくて山城くん」
「14歳だったかな〜」
そこで変だと思えよ。14だったらマンション借りれるような金自分で稼げねえだろ…。
「まあいいや、とりあえず神田の住んでるところ行ってみるわ」
「うん、おいで」
〜マンション前
結構大きめなマンションで、十階くらいあるんじゃないかなと思うくらいの高さだった。
「ここの、405号室から407号室までが私たちの部屋だよ。私が住んでるのは406だけど、大体みんな405号室にいるよ」
「何人くらいいるの…?」
「私と同い年なのは3人いるよ。で、全員では11人いるよ」
「そんなにいるのか…」
自動ドアの前にある呼び出しのテンキーに「406」と入力して、呼び出しを押した。
「あーちゃん、開けてー」
「あいあーい」
あーちゃんと呼ばれているその人は声からして年上だと思われる。
少しすると自動ドアが開き、中に入って行く。少し歩くと左側にエレベーターがあり、「↑」ボタンを押して待つ。
5秒くらいで「チン」と音がしてエレベーターの扉が開いて、中に入る。
神田が4のボタンを押して「閉」を押した。
「高いところとか苦手?」
「俺は全然平気」
「羨ましい…」
苦手なのか。
また、「チン」という音がなって扉が開く。
神田はできるだけ外を見ないようにしている。
俺が「わっ」と驚かすと「ひゃ!」と変な声を出してこけそうになった。
「ちょ、な、何すんの⁉︎」
「やー、高い所苦手なんだな」
「ち、違うし!単純にびっくりしただけだし!」
そう言って神田は少しふくれっ面になった。
「あ、ユキ。彼氏?」
「ち、違うよ!もう、あーちゃん私が男の人と歩いてたらイコール彼氏って思わないでよー」
この人があーちゃんか。やっぱり俺より年上っぽいな。
「あ、はじめまして。三木透っていいます」
「うわー、先に自己紹介されちゃったよ。あたしは張本茜。17歳。よろしくね」
額を出したポニーテールに、缶コーラの上の部分を指先で持っている姿はどこかおっさんくさかった。
茜さんに406号室に案内された。
「ここが私たちが暮らしてる部屋だよ」
「へー、結構中は広いんだな」
「今いるのはこのチビ金髪とあたしとそこのおどおどした娘だけだよ。そいつの名前は佐島早苗。」
佐島は名前を呼ばれたからか、ビクッと背筋を伸ばした。
「あ、あの……よ、よろしく…。あ、わた、私…中学1年生です…」
「お、おお、よろしく。俺は三木透、中2」
地味にハーレム状態ってことに今気づいた。でもなぜかそこまで嬉しくもないしドキドキしない。
「ここには何人住んでるんだ?」
「この部屋は4人。いまいないけど野田ってやつがいる」
茜さんは枝豆をつるつる剥いて食べながらそう言った。
おっさんくさい。
「そろそろ山城くん帰ってくる頃だね、405行こう」
「そうだね。あ、三木くんもくる?おいでよ。楽しいよ」
「じゃあ行くけど、行ってもいいのか?」
「問題ないから呼んでるんじゃん」
406号室を出て、すぐ右側に405と書かれた扉がある。
茜さんがポケットからジャラジャラと鍵を取り出して、405号室のドアを開けた。
中には男が二人いた。
「だれそれ。ユキの彼氏?」
「なんでそうなるの⁉︎意味わかんない!彼氏欲しいわ!てかまず自己紹介しなよ!」
「あー、俺は末松。末松輝良。担当は場所さっ……「ちょ!マツ!言うな!それ言っちゃいけないやつ!」
「は?ユキが自己紹介しろっつったからしたんじゃん。意味わかんね〜」
「年齢とかそういうのを言えっての!」
「はいはい、そんな怒ると小じわが増えるよ。俺は末松輝良。歳は13。中1。以上」
小じわ…。中2で小じわとかでねえだろ。
隣を見ると「え?やばい?シワ?やだやだやだやだ」というような表情の神田がいる。
笑いそうなのを必死に堪えて俺も自己紹介をした。
もう一人の男はヘッドホンで音楽を聴いていて、こっちにはまったくの無関心だった。
玄関からガチャという音とともに
「ただいまー」と気の抜けた声がした。
神田と茜さんと末松と佐島が同時におかえりと言い、少し遅れてヘッドホン男がボソッとおかえりと言った。
「ハシ、客が来てんだから自己紹介くらいしたらどうだ」
「あー、あとで」
「ったく…。すまねえな。俺の名前は山城明月。ここのリーダーっていうか、まとめてるのが俺だ」
「よろしくお願いします」
この人が山城さんか。デカイ…。そして髪で目隠れてる…。案外見た目が怖い人だ。
「おまえ、ユキのなんなの?彼氏?」
「え?」
「あ、俺は橋本空太。お前と同い年。ハシって呼ばれてる。で、お前はユキの彼氏?」
「ユキ…?あ、神田のこと?違うよ。今日知り合ったばっかりだし」
そういうとハシは「ありえねぇ」という顔をした。
なんだろう。神田と男=神田と彼氏ってことになってるんだろうか。それほどまで神田は男と接点がないのだろうか。
「神田はそんなに男と話したりしないのか?」
「接点がないわけではないけど、あいつ男嫌いだから。この3部屋に住んでるメンバー以外には近づきたくもないって言ってたのに。お前はなにか引き付けるものがあるんだよ、多分」
「あー、犬とか猫とか?」
「そうそう、あと、霊とか」
っ…⁉︎
霊⁉︎
そんなものいるわけがない。
「じょ、冗談きついぜ?」
「冗談じゃない。本気だ」
ハシは真顔で俺の方を向いてそう言った。
ぞっとした。
「とか一回言ってみたかったんだよね」
「なっ⁉︎騙したな⁉︎」
「見事にひっかかったな」
ちっ。なんだよ。
そうだよ、幽霊とかいるわけなんかないんだ。それをあんな風にいうからちょっと信じちゃったじゃないか。悔しい。
日が落ちて、窓の外が暗くなってきた。今は何時ごろだろうか。
ケータイを見てみると、20:08と表示されていた。
そろそろ帰らないと迷惑じゃないだろうか。
「神田、俺そろそろ帰った方がいいかな。夕飯とかあるだろうし」
「あー、そだね。下まで送るよ」
俺と神田は405を出て、エレベーターで下におりて、俺は家に向かった。
「霊とか」
ハシの声が頭の中で響いた。
いるわけない。そんなもの。
ポツポツと街灯がついていて、俺を照らし、影を作っている。
ふと、上を見上げた。
「危ないっ…!」
神田の声が聞こえた気がした。
今日は綺麗な満月だった。
ええええ⁉︎
そこで終わっちゃう⁉︎
僕もびっくりの終わり方でした。




