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Salvation!  作者: フォルネウス
第二章 学園の頂点を目指して! 
9/10

1話 飛鳥と唯の初喧嘩

 

 あの戦いから一ヶ月が経過した…

 飛鳥は一人キッチンで朝食を作っていた

 制服の上から青を基調としたエプロンをし、日本食らしい朝ご飯

 焼き魚、白菜の浅漬け、お好みで納豆、お味噌汁という献立で朝食を作る

 

「そろそろ起こさないと駄目かな…」

 

 キッチンといってもここは飛鳥が慣れ親しんだ水樹家のキッチンではない

 飛鳥が起こさないとと思っていると…

 

「おはよう、いつもありがとう飛鳥くん♪」

 

 玄関からリビングへと繋がる通路にある扉が開き、三人の青年が入ってきた

 この笑顔が似合う2学年のカラーでもある青のカッターシャツを着たさわやかな笑顔を浮かべる茶髪ショートヘアの青年 閃条せんじょうアキラと

 

「ふん…作って当然だ…あたしたち仲間たちの家だったところに住み着いた居候なんだからな…」

 

 飛鳥と同じ水色の長い髪をポニーテールにしたつり目気味の綺麗な女性にしか見えない青年 朝霧勇あさぎりいさむ

 

「えと勇さん…その…それでも水樹先輩に作ってもらってるんだから、お礼は言わないと…」

 

 ツンとソッポを向く勇に対して、控えめに言う黒髪ショートヘアで長い前髪で片目を隠した童顔の青年 天川あまかわエイジ

 この三人がルームシェアをしている家にて、飛鳥とカイルの2人がお世話になることになったのだ

 

「おはよう…どうやら私が最後みたいだね…」

 

 少し眠たそうに欠伸をしながら飛鳥とカイルの2人で借りているリビングから繋がる一室から出てくる

 飛鳥はその理由を知っているため、首を傾げるアキラとエイジ、怪訝な表情を浮かべる勇の三人と違い、苦笑いを浮かべてしまう…

 といっても飛鳥も少し寝不足なのだ…

 カイルが一人、部屋の中にあるテレビでDVDを見ていたのだ…飛鳥の姉でもある亜栖葉のライブDVDを…

 そのため、飛鳥は過去の亜栖葉からのお仕置きの記憶を呼び覚まされ、眠れなくなり、寝付けるようになったのはカイルがDVDを見終わってから、しばらくしてなのだ

 

「おはよう、カイル♪さて、今日の飛鳥くんが作る朝食はなにかなぁ~♪」

「おはようアキラ、それは私としても楽しみだね」

 

 そして、全員が集合し、食事をするテーブルスペースに全員が集まる

 意外に全員早起きで、壁に掛けられた時計によると、ただいま朝の6時半を示している

 飛鳥は、ちょうど朝食を作り終え、目の前にあるカウンターの上に乗せていくと、一人一人とって行く

 

「焼き鮭の切り身ですね、僕大好物です」

 

 控えめな声だが、確かに満面の笑みを浮かべ喜んでいるエイジ

 それを見た飛鳥は嬉しくなり、飛鳥も笑顔になる

 

「まぁ…楓といい勝負だしな…お前としてはどうだ?アキラ?」

 

 勇ですら、料理のことのみ、飛鳥のことを認めているくらいで、何のためらいもなく口の中に焼き鮭を一口サイズに箸でわけ、口の中に放り込む

 そして、勇の問いかけにアキラは満面の笑みを浮かべ…

 

「うん!かえちゃんといい勝負!凄く美味しいよ!!」

 

 本当に幸せそうにお味噌汁を啜る

 アキラの大好物はお味噌汁

 お味噌汁のなかでも豆腐のお味噌汁がアキラの大好物で、今日はそのお豆腐のときなのだ

 

「軌条君や白銀君、シンディには悪いが飛鳥の料理を堪能できるのなら…ルームシェア…最高だよ…」

 

 飛鳥はべた褒めされることになれないため、照れながら自分の食事をテーブルに運び、自分も食事にありつく

 自分の中でもけっこういい出来だな…と思いつつ、お味噌汁を啜り、考える…

 

『唯たち…大丈夫かな…』

 

 

 

 

 

 

 飛鳥がそんなことを考えているとき…

 

「千尋先生…もう時間…」

「もう少し寝かせろ白銀…」

 

 そこは千尋の部屋だった場所で、今は玲羅と一緒に使っている現時点では千尋と玲羅の部屋

 既に制服に着替えが済んでいる玲羅は未だに起きようとしない布団に包まる千尋に呆れた表情を浮かべながら見据える

 

「千尋先生起きましたか?玲羅?」

「まったく起きない…」

 

 部屋の扉が開き、覗き込んでくる唯の問いかけに、玲羅は呆れた調子で答える

 玲羅と同じく制服姿の三年でもある証の赤色のカッターシャツを着た唯も起こすことを手伝おうと部屋の中に入ると苦笑いを浮かべる

 森嶋千尋という女性は学園ではしっかりしていて、飛鳥たちの成長を見守る…そんな教師らしい人物であり、教師という職業は天職といえるだろう

 しかし…いざ私生活となると、180度変わる

 最初に引っ越してきたとき、千尋の部屋の中には自分の服がいたるところに散らばり、下着まで落ちているくらいだった…

 現在は玲羅が住むことにより、ある程度整理されるようになったのだが、どうやら夜帰ってきた時、脱ぎ捨てたであろうものが散らばっているのである

 

「なんであの時唯にじゃんけん負けたんだろ私…」

「あはは…」

 

 ため息をつきながら呟く玲羅に唯も苦笑いを浮かべてしまう

 そして…

 

「唯食事まだぁ~」

 

 暢気に寝言を言う千尋にカチンと来た玲羅は…

 

「起きろバカ教師…」

 

 思い切り布団を引き剥がし、唯がカーテンを思い切り開く

 その途端日光が差し込み、千尋の顔に直撃する

 

「ウギャッ!!?」

 

 そして、千尋は体を起こし、近くに置いていた眼鏡ケースから自分の眼鏡を取り出してかける

 

「朝ですよ?千尋先生?」

「ん~唯…ごはん…」

 

 そして、低血圧故に、千尋はぼ~っとした思考のまま、唯に視線を向け、ご飯をおねだりする

 まるで子供のように…

 玲羅はため息をつくと、一足先にリビングへと向かう

 

「その前に着替えてください?もうすぐ出勤時間ですよ?」

「へ?」

 

 唯の言葉に千尋は凍りつく

 ゆっくりと蘇ってくる思考をフル回転させ、自分の出勤時間を思い出す

 いつもと違い今日は会議があるために早起きしないといけなかったのだ

 千尋は壁に掛けてある時計に視線を向けると準備することを考えると…

 

「何故もっと早く起こさないんだ唯!!!!」

 

 ギリギリであり、完全に眠気から覚醒した千尋はクローゼットを漁り、着ていく服を探す

 ぽいぽい放り出されていく服を見て、学校から帰ってきた後、片付けをすることになる玲羅に少し唯は同情する

 

 唯はしばらくしたら千尋もリビングに現れるだろうと考え、自分もリビングへと向かう

 マンションの内装のつくりは基本的に同じである

 玄関からリビングへと伸びる廊下から、8畳部屋二つとバスルーム、トイレとなり、リビングに着くとリビング内から、繋がる和室の一つとなっている

 シンディを千尋先生と住まわせて苦労させるわけには行かないと、唯と玲羅はじゃんけんをしたことにより、玲羅が千尋と同じ部屋となった

 そのため、もう一つの洋室をシンディが獲得し、唯は和室を獲得したのだ

 

「千尋先生置きました?唯さん?」

 

 リビングに入るとトーストを一口齧り、ゆっくり咀嚼し、飲み込んだであろうシンディが問いかけてくる

 

「起きましたよシンディ、今準備をしているところです。」

 

 唯はシンディの座っているソファの隣に腰を降ろすと自分の作った朝食でもあるベーコンエッグとトーストという朝食をいただくことにした

 

「たまに唯の部屋に泊まってもいい?」

 

 玲羅の真剣な訴えに唯は苦笑いを浮かべながら頷く

 そんなことを考えていると

 

「悪い唯!!!出勤しながら食べる!!!すまんな!!!」

 

 リビングに入ってきた鞄を手に持ち、軽く化粧もされ、半袖カッターシャツに黒のタイトスカート、黒のストッキングという姿の千尋が自分のいつも座っているシングルソファの目の前にあるテーブルの上にある千尋のために用意されたトーストを掴むとかぶりつきながら、リビングを出て行った

 

「わずか五分ですべてを整えるなんて…ある意味凄いですね…」

「そうね…あれで着替えから、歯磨き、化粧なんて…普通できない」

「もう少し早く起きればできますが、千尋先生低血圧ですから…」

 

 唯、玲羅、シンディの三人はそれぞれの感想を述べると三人揃ってため息をつき、食事を進める

 自分たちはまだ登校まで余裕がある上に、飛鳥たちとの玄関での待ち合わせまでまだまだ時間がある

 だからこそ三人は、ゆっくりと食事をすすめる

 そして、心の中で大人になったら少しは余裕を持てるようになろう…千尋を見て、引っ越してから何度思ったかわからないことを胸に誓った

 

 

 

 

 

 

 マンション一階中央入り口エントランス

 飛鳥とカイルは入り口近くの壁に寄りかかりながら、女子たちを待っていた

 飛鳥にメールで唯から【すぐに降りますから、待っていてください】というメールが届き、ただいま待っていることになったのだ

 

「もうすぐ夏休みだね?飛鳥?」

 

 唯のメールを眺めていると、カイルがニヤッとした嫌な笑みを浮かべながら呟く

 けしてカイルは夏休みの水着でのイベントなどを期待しているわけではない子とは飛鳥は理解する

 たぶん…

 

「そうだね…夏休みに必ず守るからって約束した唯との遊園地に遊びに行くのと、玲羅との図書館に行くこと、シンディとの水族館…僕のおこづかいがもつかどうか…」

 

 飛鳥は今月発売のゲーム…と思いつつも、自分のせいだし…と思い、唯たちとお金を払う分楽しもう…と改めて決意する

 

「まぁ何かあったら、私が相談に乗るさ…といっても私も亜栖葉さんとのデートプランを考えないといけないんだけどね…」

 

 飛鳥は本気で尊敬する

 何せ恐怖の対象でもある亜栖葉にデートを申しだすことが出来るのは凄いと弟ながらに思ってしまう

 だが、飛鳥としてはもう一個の難関をことを思い出し、苦笑いを浮かべてしまう

 

「僕としては、亜栖葉姉さんを幸せにしてくれるなら、オッケーだよ…でも父さんがね…」

「いや…あの飛鳥?私はまだ好きだとか…その!!まだお父様にお会いして娘さんをくださいなんて…」

 

 そして、飛鳥の言葉に、カイルは顔を真っ赤にしながら飛鳥に弁解しようとする

 飛鳥も、カイル自身、アイドルとして好きから、一人の女性として好きに変わっているか変わっていないのか…それがわからないからこそ、カイルにこれ以上、追求しようとは思わなかった

 

「そっか、まぁでも、デートの時は僕の姉をよろしくね?」

「わかった、必ず守るよ」

 

 飛鳥は恐怖の対象といえど、大切な姉…だからこそ、カイルのことを信じているが、弟としてお願いする

 すると、照れていたカイルだったが、真剣な表情へと戻りしっかりと頷き、飛鳥に亜栖葉を守るという誓いを立てる

 

「お待たせしました!少し手間取りまして…」

 

 そんなことを考えていると唯たちが現れる

 

「そんなに待ってないよ、時間ど………あ……」

 

 飛鳥は唯たちが現れると同時に固まってしまう

 飛鳥の視界に入ってきたのは唯の髪型である

 唯はいつも艶のある長く綺麗な髪を降ろしているのだが、暑くなってきたからなのだろうと思うのだが、唯が後ろで白のリボンで髪をまとめているのだ

 ただ…

 

「あ…あの…その…えと…」

 

 そんな唯の姿が新鮮で飛鳥はつい照れてしまう…

 のだが…

 

「唯だけ?」

 

 玲羅の明らかに怒気の篭った声に飛鳥は思わずビクッと驚いてしまう

 飛鳥は慌てて玲羅に視線を向けるが、正直いつもと変わらないように見える…だが、ここで「いつもと同じじゃない?」とか言った時には、玲羅からの鉄拳制裁が来るため必死に考える…

 

「あ!!シンディ、リボン変えた?」

 

 飛鳥はいつもツインテールにしているシンディのリボンの色が黒から、ピンクに変わっているのだ…

 飛鳥がそういうと、シンディは顔を真っ赤にしながらコクリと頷き、唯の後ろに隠れる

 そして…

 

「いたいたいたいたいたいたいたいたいたい!!!!?」

 

 飛鳥は玲羅からのアイアンクローにより、制裁を加えられるのだった

 そんな様子を唯たちは苦笑いを浮かべながら眺めるのであった…

 玲羅はムスッとした表情を浮かべるだけで、答えを教えようとはしない…暗に自力で探し出せと言っているのだろう…

 飛鳥は激痛に耐えながら必死に考える…

 

「えと…あの…っ!!!」

 

 今更ながら気付く…玲羅が…少し服を着崩し、ネックレスをしてる…

 それも…

 

「それ…僕が昔…ぐあっ!!そろそろ解放してっ!!!??」

 

 飛鳥はやっと玲羅から解放され、玲羅の首元を凝視する

 つけられているのは飛鳥が玲羅の誕生日に小遣いをだいぶ使いあげた十字架のネックレス

 

「なるほど、つまりは白銀君のしているネックレスは飛鳥があげたわけだね?」

「まぁ…中学生の時にあげたものだから子供っぽいセンスだけどさ…」

 

 カイルの問いかけに飛鳥はマイナス思考と羞恥が混じったことをいう

 飛鳥としてはもっとセンスのいいものを玲羅にあげたいと考えたが、やはり中学生のセンス

 カッコイイがありきたりで…十字架だったらクールな玲羅に似合うだろうと少し安易かな?という風な思いで選んだため、飛鳥としては少し納得がいってなかったりする


「やっと気付いた…でもこれ、私にとって宝…」

 

 玲羅はそれだけ言うとスタスタと歩き始める

 そんな玲羅を飛鳥とシンディは後ろから追い、三人同時にエントランスから出る

 ただ…

 

「髪型について気付かれた時は嬉しそうだったのに、今は不機嫌だね?軌条君?」

 

 カイルの視線の先にはいつもの黒笑ではなく、少しムスッとしたような表情を浮かべる唯の姿があった

 カイルの言葉に気付いた唯は首を横に振ると笑顔を取り繕い、外で待つ飛鳥達を追いかけるように歩き始める

 

「まったく…君は罪な男だよ飛鳥…」

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 飛鳥達は学校に到着すると同時に驚いていた

 校門を抜けると一人の少女が視界に入る

 綺麗な長い赤髪を前で束ね、どこか玲羅と同じような雰囲気で顔つきも似ている

 そう…

 

「あっちゃん!!!」

 

 白銀茜が唯と同じ、スキルネイチャースクールの三年を意味する赤の半袖カッターシャツを着て、飛鳥に飛びついてきた

 飛鳥は、なんとか茜を受け止め、足に力を全力で込め、後ろに倒れることをなんとか回避

 

「茜!えと…足…」

 

 そう、飛鳥達がもっとも驚いていたのは、車椅子に座っているのではなく、二足歩行しているのだ

 茜は昔、飛鳥に足を奪われた…それから何年も車椅子生活を余儀なくされた

 なのに今…普通に歩いている…

 

「飛鳥や玲羅、カイル先輩が入院した後、お父さん達にわがままを言って…私に義足をつけてもらい、この学校に編入させてもらったの…」

 

 茜はわがままといったが、茜自体滅多にわがままを言うことがない

 それを飛鳥は知っているからこそ、そこまでしてこの学校に編入したかった…茜にとっての願いだったのだろう…

 飛鳥と玲羅は通い、自分は違う学校だった…

 普通の学科もあるが、メインとしてミッションを遂行するという課外活動となっている

 だからこそ、歩けない自分が通っても未来はないと茜は考えていた

 だが、飛鳥が連れ去られた事件以来…

 

「やっと飛鳥と玲羅と一緒のところに立てる…」

 

 想いは強くなり、茜は家に帰った後、父親と母親にお願いをし、術後のリハビリ、編入試験それをすべて一ヶ月で済ませ、茜は今、飛鳥たちの目の前に立っている

 

「ふふ~♪もうやっと可愛い可愛い飛鳥ちゃんに抱きつける♪この感触…最高!!うへへ…うへへ…はぅっ!!!!?」

 

 飛鳥のお尻に茜が手を伸ばそうとしたとき、茜の横から玲羅の鋭いチョップが茜の頭にヒットする

 

「ここは学校…これ以上やったらお仕置きをする…姉さん…」

「あわわわわわわわわっ…」

 

 そして、玲羅の冷たい眼差しと冷え切った声に茜の表情は恐怖に引きつり、飛鳥から離れる

 ただ…

 

「………」

「飛鳥…」

 

 少し名残惜しそうにしている飛鳥を見て、玲羅はジトっとした呆れた視線を向ける

 勿論飛鳥はそんな玲羅の視線に気づき…

 

「いや!!!!もう茜はまたセクハラ攻撃で…」

 

 必死に弁解しようとする

 しかし…

 

「ひひっ♪飛鳥ちゃんも満更でもないくせにぃ~♪」

 

 茜にそういわれ、少し照れてソッポを向く飛鳥にギロっと玲羅が睨みつける

 その瞬間、飛鳥はまた視線を逸らし、今度は怯え始めた

 それを遠目から観察していたカイルはクスッと優しい笑みを浮かべ…

 

「これが、飛鳥たち幼馴染の本来の姿なんだね?軌条君?」


 唯に視線を向ける

 すると…

 

「…………」

 

 唯は無言のまま、一人校舎の方へと歩みを進めた

 さすがに玲羅も茜もカイルも…そして…

 

「唯?」

 

 飛鳥も驚き、全員でただ見送るしか出来なかった…

 

 

 

 

 

 

「私は…なんてことを…」

 

 唯は一人女子トイレの個室に引きこもり、壁に寄りかかりながらため息をついていた

 自分が何を考えているのか理解できなかった

 朝のエントランスでもそうだ…飛鳥が玲羅にプレゼントをしていたことを知った時、いつもと違う怒り…ちがう…いつもの怒りが寄り強く湧いてきた

 何の感情かは知らない…

 でも、飛鳥と誰かが一緒にいると考えただけで…

 

「…………」

 

 唯の頭の中で怒りが湧き出る

 そして、それに気付き、唯は必死に怒りを振り払い、また何度ついたかわからないため息をつく

 頭の中にはニコッと笑みを浮かべる飛鳥…エミリアに対して自分の意思を吐き出したときのカッコイイ横顔…

 普段は弱気でマイナス思考…女の子にしか見えない…なのに…誰かのためとなると自分を犠牲にしてまでも頑張れる…それが…軌条唯が水樹飛鳥の尊敬して、憧れている部分

 憧れでもない…尊敬でもない…仲間として大切だと思っているでもない…

 どれも感情に合致しない…

 

「はぁ…私はどうしたんですか…」

 

 唯はまた大きくため息をつき、鞄の中から小型の折りたたみ式の鏡を取り出し自分の顔を映し出す

 鏡に笑いかけてもぎこちない…

 普通の表情を浮かべようとしても、どこかぎこちなくなる…

 自分は…飛鳥に憧れを抱いてもらえるお姉さんでいなければならない…

 なのにこんな子供のようなこと…

 

「はっろ~♪唯ちゃん♪」

 

 唯がそんなことを考えていると、頭上から声が掛かる

 唯はそんなバカな…と思いつつも、上を見てみると…

 

「何をしているんですか!!!!茜さん!!!!」

 

 唯の視線の先には隣の個室から唯のいる個室を覗き込んでいる茜の姿がそこにはあった

 唯の慌てふためく姿を茜は満面の笑みを浮かべながら見つめ…

 

「まっすぐ職員校舎の方に向かおうと思ったんだけど唯ちゃんの様子おかしかったから…大丈夫?」

 

 茜の言葉を聞き、唯はバツの悪い表情を浮かべる

 そりゃそうだ…唯が悩んでいたのは玲羅や茜のことについてなのだから…

 

「大丈夫ですよ、では、私は教室に戻りますので、茜さんも職員校舎へ向かってください?」

 

 唯はニコッと笑みを取り繕うと個室を出て、女子トイレからも出て行く

 茜は唯のそんな後姿を見つめつつ…

 

「ふぅ…さすがは天然ね…飛鳥は…」

 

 ため息をつき自分も、慎重に床に下りると、個室から出て、女子トイレから出て行く

 そして、真っ直ぐ職員校舎へと向かった

 茜が編入することになったクラスは唯と同じクラスとなり、唯は少しきまづいと思いながらも、一日過ごすことになった

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 飛鳥は教室につくと、クラスメイトが色めきだっていることに気付く

 なんかあったっけ?と思いつつ…

 

「えと…何か…あったの?」

 

 飛鳥は同い年に関わらず、控えめに近くの男子に尋ねる

 そんな飛鳥に対して、驚愕の表情を浮かべる男子生徒…だが、その男子生徒だけではなく、近くにいるクラスメイトの視線が一気に飛鳥に集まる

 飛鳥は戸惑いながら、苦笑いを浮かべていると

 

「水樹、来月 絆祭きずなさいじゃねぇか!!他のチームと競い合える最高の祭り!!」

 

 飛鳥は絆祭といわれ、少し理解した…

 一年前といえば新入生ということもあり、チームを組んでいる人間も少ない…

 だからこそ、シングルイベント以外では縁がなかった他の学校で言う体育祭のようなもの

 2学年となればチームを組んでいる人間も数多くなり、だからこそ2学年は初チーム戦参加で学校のトップを目指すために燃えるのも普通だろう…

 

「水樹は参加しねぇのか?お前もチームを持ってるんだろ?」

 

 話しかけた男子生徒にチーム戦を参加しないのかということを問いかけられる

 そんな問いかけに飛鳥は驚き、参加するも参加しないも考えてなかったため…

 

「えと…唯たちに………………」

 

 唯たちに相談と考えた瞬間、教室に到着するまで考えていた様子のおかしかった唯のことを思い出し、飛鳥は言葉が止まってしまう

 そんな飛鳥の様子を男子生徒は不思議そうに首を傾げる

 飛鳥はそれに気付かず、無言のまま、席へと向かい、自分の席に座ると鞄を横に掛け、外へと視線を向ける

 

『なんで唯…今日様子おかしかったんだろう…登校中はおかしくなかったのに…』

 

 飛鳥はモヤモヤする…と思いながら、時間があると思い、立ち上がると教室から出て行く

 絆祭に興奮した同学年の顔を見ていると、チームから唯という風に連想され、イライラが募ってしまう…

 カイルから聞いた話では飛鳥が玲羅と昔の思い出に浸ったり、茜にくっつかれているところを見られているときに限ってとのこと…幼馴染と昔のように接しているだけなのに…

 教室を出ると一直線に階段を上へ上へと登っていく

 目指す先は屋上…飛鳥は到達すると同時に…

 

「何拗ねてるかわからないよ!!!!!!唯のバカ!!!!!!昔みたいに接したら駄目なの!!!!?僕はだって幼馴染と昔みたいに接したいんだよ!!!!!」

 

 飛鳥は叫ぶ

 今までのイライラを吐き出すように叫ぶ

 荒くなった呼吸を整えるように深呼吸をし、向かいの校舎へと視線を向ける…

 そこまで視力がいいわけではないが、遠くに誰かいるのはわかる

 というより、何故かオーラが見えるような気がする…

 そして、相手は口周りを手で覆い…

 

「いい度胸ですね飛鳥さん!!面と向かっていったらどうです!!!!」

 

 飛鳥に対して返事をする

 そう…飛鳥の視線の先にいるのは飛鳥と同様、気分が落ち着かないために気分転換に出ていた唯なのだ…

 飛鳥は一気に顔面蒼白になる

 

「えと…あの…ゆ」

「放課後楽しみにしておいてください!!!!!」

 

 飛鳥は弁解しようとしていると唯はそれだけ言放ち、屋上から室内へと戻る

 取り残された飛鳥は、放課後のことを考えると体が震え始め、足元から崩れ落ちるのだった

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 そして、時間は経過し、放課後…

 飛鳥は千尋から呼び出され、ミッションメイト校舎に行く前に職員校舎へ呼び出された

 飛鳥としては唯と顔をあわせたくない分、ホッとした部分がある

 第二職員室に到着するとノックをし…

 

「失礼します」

 

 飛鳥はそういうと室内へと入る

 第二職員室には2学年の先生が使用するデスクが集まっている

 室内で千尋がいるかどうか探していると、奥のほうにあるデスクの方から、千尋ではなく、隣の席の美琴がアキラと一緒に手を振ってくる

 飛鳥は隣でため息をついている千尋を発見し、苦笑いを浮かべながら、飛鳥も千尋の方へと歩みを進める

 

「やっほ~久しぶりね水樹くん♪」

 

 そして、到着すると同時に美琴からの頭なでなでに迎えられ、飛鳥は苦笑いを浮かべる

 

「早く話すぞ…閃条も待たせているんだろ…」

「そだね~♪」

 

 そうしていると、千尋にせかされ、美琴は改めて席に着くと書類をアキラに渡す

 飛鳥は千尋から受け取り目を通す

 2人が受け取ったのは絆祭のチーム戦エントリーシートだった

 

「私も美琴も、お前達ならチーム戦の上位を目指せると考えている…EVOLUTIONは当然としても、飛鳥…お前達には絆祭に相応しいかけがえのない絆がある…だからこそ私は上を目指せると思っている…だから…」

 

 千尋はアキラは当然としても、飛鳥たちも絆の力で上を目指せると考えていた…

 ただ、飛鳥の今の表情…いつもとは違う微妙な表情…まるで、怒りと不安、おびえなどが入り混じったようなわけのわからない表情を浮かべる飛鳥の姿が視界に入り、言葉が止まる

 

「何があった?」

 

 千尋の問いかけに飛鳥は視線を逸らし、無言を貫く

 それを見た千尋はため息をつき、瞼を閉じる…

 

「なるほどな…飛鳥と唯がケンカとはな…」

「千尋先生異能は反則!!!!!!」

 

 そして、自分の異能を駆使することにより、飛鳥に合ったことを解析し、読み取った

 飛鳥は勿論テンパリ、千尋に抗議する

 だが、千尋はそんなことを意図する様子もなく考え事をする

 

「まぁ…ケンカするほど仲がいいとは言うが…このタイミングでするか?」

 

 飛鳥は千尋の返答に何も言えなくなり言葉が詰まる

 ただ…

 

「でもわからないんです…わけがわからないよ…唯が、昔みたいに接することができたのに…なのになんでそれを見て拗ねて…無言で教室に向かうし…あぁ!!!!もぅ!!!!ムカつく!!!」

 

 飛鳥らしくない様子で、苛立ちが再び蘇り、叫んでしまう

 さすがに飛鳥のそんな様子に千尋も美琴もアキラも驚き、他の職員達も飛鳥に視線が集まる

 飛鳥は一瞬のうちに冷静になり、顔を真っ赤にし、俯いてしまう

 

「はぁ…絆祭は保留だな…まずは唯とお前のことを解決するぞ…」

「いだだだだだだだだだだだだだだだっ!!!!!!?」

 

 千尋はため息をつき、立ち上がると飛鳥の首根っこを掴むと半ば引きずりながら、職員室を出て行こうとする

 

「飛鳥くん!!!!絶対参加してね!!!僕は君達のチームと戦いたい!!!」

「えと…うん!!!!!」

 

 飛鳥は出て行く間際にアキラから言われた言葉に少し驚いた…2学年のトップに立つチームから戦いたいと言われた…流れにまかせて「うん」といってしまったが、飛鳥も参加してみたいという気持ちが湧いたのは確かだった

 

 

 

 

 

 

 そして…

 ミッションメイト校舎に向かう途中の並木道

 

「……………」

 

 千尋の隣で無言になる飛鳥…

 飛鳥と千尋の視線の先には、さわやかな笑顔を浮かべる男子生徒と話をしている唯の姿を発見

 飛鳥から見て、唯は笑顔を浮かべていて楽しそうにしているように見える

 それを見た瞬間、飛鳥の表情はどんどん不機嫌になっていく

 

「僕帰ります…絆祭については先生から話してください…うあっ!」

「逃げるな…」

 

 飛鳥は一人帰ろうと考えたが千尋に腕を掴まれ、逃走失敗に陥る

 そして、二人の視線の先ではミッションメイト校舎に2人で向かう男子生徒…黒のカッターシャツというところから見て、カイルと同じ4学年ということは理解できる…

 

「まったく…アイツが誰と恋愛をしようが、関係ないだろ?」

「その通りですよ…」

 

 千尋の言葉に、飛鳥は納得するも納得できないという風な表情を浮かべていることに千尋は気付き、ため息をつく

 そして…

 

「っ!!!!!!」

 

 男子生徒はさりげない動作で唯の手を握る

 唯は驚いたような表情を浮かべながら、視線を彼から離す

 そして、まるで恥ずかしいといわんばかりに男子生徒に手を離してもらうと、少し彼より早く歩き始める

 

 飛鳥は立ち止まると大きく深呼吸をすると…

 

「そうだよね…仲間の幸せなんだ…」

 

 飛鳥は自分の自分のわけのわからないモヤモヤする心を封じ込め、満面の笑みを浮かべ、ゆっくりと歩みを進める

 千尋は飛鳥のそんな姿を見てため息をつき、飛鳥の後姿を見つめる

 

「はぁ…まったく手の掛かる…一度徹底的にやらせるべきか…」

 

 そして、千尋は歩みを進める飛鳥の後姿を見つめながら、思考をめぐらせるのだった

 

 

 

 

 

 飛鳥と千尋が到着するころには部屋の中には、茜込みで全員が集まっていた

 いつもなら飛鳥は、唯のとなりにいるのが大抵なのだが、今回はカイルの隣にいる

 順番的に、玲羅、唯、茜、カイル、飛鳥という順番で座っている

 

「全員に説明する必要はないと思うが、絆祭についてだ…私は全員でチーム戦に参加するつもりでいる…だが…」

 

 千尋は視線を唯と飛鳥に向ける

 その瞬間、2人は視線を外し、千尋と合わせようとしない

 そんな2人の隣にいる玲羅、茜、カイルの三人は2人に視線を向ける

 まるで早く仲直りをしろという風な…

 だが…

 

「千尋先生、何も言う必要はないですよ、僕と唯はただのチームメイト…何の感情もありません…」

 

 飛鳥の回答は玲羅、茜、カイル、千尋の予想をはるかに裏切る答えだった

 飛鳥の言葉を聞いた唯は驚き、飛鳥に視線を向ける

 

「参加してもタッグとしても組めます、それに彼氏さんにいいとこ見せられるでしょうし…」

「何のことですか?飛鳥?」

 

 彼氏という言葉を聞き、カイルと茜は驚き、玲羅は怪訝な表情を浮かべながら、視線を唯に向ける

 そして、飛鳥の言葉に戸惑いつつ、唯は飛鳥に問いかける

 

「たまたま見ちゃったのは悪かったとは思ったけど、さっき上級生と一緒に歩いてて、手を繋ぐところ見たよ?仲よさそうだった…」

 

 飛鳥は笑顔を浮かべながら、唯を見据える

 そんな飛鳥に対して、一瞬驚いた表情を浮かべるが…

 

「違います!!あれは来栖先輩から無理矢理!!」

「弁解しないでいいよ?お似合いだよ?」

 

 唯の表情に気付いていないのか、飛鳥は笑顔を浮かべたまま、まくし立てるように話す

 そんな飛鳥を見かねたカイルは…

 

「飛鳥、少し軌条君の話を聞くべきだ」

 

 飛鳥がこれ以上言わないよう真剣な表情で見据え、止める

 飛鳥はそんなカイルの言葉を聞き、飛鳥は我にかえる…

 だが

 

「もういいです…そうですね…ちょうど今週の日曜日にデートに誘われましたので、大丈夫だと返事をさせていただきます…どうぞ飛鳥は茜さんとイチャイチャしたり、玲羅と買い物にでも行ったりしてください!!大切な幼馴染なんですよね?付き合いの短い私なんて必要ないですよね!!!」

 

 時既に遅く、唯もらしくない飛鳥と同じように、らしくなくわめき散らしながら、唯は鞄を手荷物と部屋から出て行った

 その時飛鳥は確かに見た、唯は泣いていた…

 でも飛鳥も…

 

「わけがわからない…僕は幼馴染を大切に思っているだけなのに…それに…クソ…」

 

 飛鳥も鞄を持つと立ち上がり、部屋から出て行く

 部屋から出て行った二人に取り残された、玲羅、茜、カイル、千尋の四人はため息をつき…

 

「1番ダメージ受けてるの誰だか気付いてないようね…」

 

 玲羅の一言を皮切りに…

 

「まったくだよ…後意外に2人とも似ているところがあるね…」

「まっ…だからこそ仲がいいのかもね…」

「とりあえず三人とも日曜日は開けとけ?」

 

 カイル、茜、千尋がそれぞれ呟き、その日は唯と飛鳥の2人は絶対に帰ってこないと考え、絆際のことは今週の日曜日の唯と来栖のデートが終わり次第決めるということになった

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 飛鳥は一人、ため息をつきながら帰路についていた

 いつもと違い一人での下校

 いつもなら一緒に唯がいて、玲羅、カイル、シンディがいる…

 これからは茜も加わり、みんなでわいわい騒ぎながら下校できると思っていた

 だが…今、一人で帰っている…

 ミッション校舎の並木道を抜け、学年校舎を抜けると、校門が見えてくる

 

「?」

 

 飛鳥は立ち止まる

 視線の先には銀髪ショートヘアでつり目気味だがさわやかな笑顔を浮かべる男が立っている

 後姿と横顔ではあるが、確かにあの時見た来栖だ…

 

「やぁ、君が水樹くんかい?」

 

 来栖はさわやかな笑顔を浮かべたまま、飛鳥に近づき、握手を求める

 だが、今の飛鳥はこの人物と握手をする気になれなかった

 来栖は苦笑いを浮かべながら、手を引くと、校門の方を指差し…

 

「一緒に帰らないかい?あの十字路までなら一緒に帰れる」

 

 一緒に下校するというお誘いを受ける

 飛鳥は一瞬怪訝な表情を浮かべるが…

 

「わかりました…僕も聞きたいことがあります…途中まで一緒に…」

 

 飛鳥は来栖と一緒に下校することを決める

 

 

 

 

 

 

 カイルは、解散した後、生徒会室に戻ってきていた

 生徒会室の扉を開くと、カイルが求めていた人物がそこにいた…

 

「アルジェントくん!!!君に頼みがある!!」

 

 イリス・アルジェント…飛鳥とカイルを引き合わすきっかけを作った人物であり、生徒会副会長をしている少女

 

「なんでしょうか?会長」

 

 首をかしげ、カイルに問いかけると、カイルは生徒会室の会長席のデスクに設置されているコンソールを操作し、中央天井からモニターが降りるとそこには…

 

「この学生について調査をして欲しい…私の大切な親友…飛鳥が大切にしている人物に被害が及ぶかもしれない…私の記憶が正しければ、さわやかな表情をしているが、かなり危ない人物かもしれない…」

 

 来栖の学生証明写真が映し出されていた

 イリスは学生証明写真をポケットから取り出した端末から赤外線送信により画像を受け取り、カイルに視線を合わせる

 

「わかりました、期限はいつまででしょう?」

 

 イリスはカイルに期限を尋ねると席につきコンソールを素早く正確に操作するカイルは、イリスに視線も向けず…

 

「期限は明後日まで、どんな小さなことでもいい…情報が入り次第私の携帯に送ってくれ」

 

 指示をする

 すると、イリスは一礼し、生徒会室から出て行った

 カイルはため息をつくと、飛鳥の顔を思い出しながら…

 

「手の掛かる親友と仲間だ…これが解決したら何か奢ってもらうよ…飛鳥、軌条君…」

 

 来栖について調べる作業を進める

 親友と大切な仲間のために…

 

 

 

 

 そのころ玲羅は、一人異能デュエルスタジアム裏に来ていた

 玲羅が目的としている人物は一人…

 

「…………」

「貴方に聞きたいことがある…」

 

 その人物はフィル・ユニトリス

 飛鳥が唯関連の事件の時にこの場所で不良にリンチされた後、助けた人物

 玲羅の考えではもし何か影でするなら、この場所しかないと考え、王斬が口を滑らし、ここに居座っているといわれているフィルなら何か知っているのではないかと思い、ここにきた

 

「…………」

 

 だが、めんどくさいことに関わりたくない…という風な様子で、フィルはまったく玲羅の言葉に返答するどころか、無視を決め込む

 玲羅はため息をつき、フィルを見据える…

 

「退屈なのよね?私がアンタに勝ったら、情報くれる?」

 

 そして、玲羅の言葉を聞いたフィルはチラッと玲羅を横目で見る

 

「めんどくさい…勝手に戦闘狂にしないで…」

 

 フィルはため息をつくと、玲羅に近寄り、玲羅を睨みつける

 そんなフィルの眼光にビビることもなく、玲羅はクールな表情のままフィルを見据え、フィルの回答を待つ

 

 

 

 

 

 飛鳥は何の会話もないまま、十字路近くまで来ていた

 

「君は軌条さんと仲がいいよね?」

 

 飛鳥は突然の来栖の問いかけに驚き戸惑ってしまう

 唯と仲がいい…飛鳥は今もそうなのかな…と自分に問いかけてしまう

 唯を泣かせてしまった…そんな自分が仲がいいといってもいいのだろうか…という風に

 

「そんな…僕は…」

 

 飛鳥は来栖に対して、返答を戸惑っていると、来栖は歩みを止め、真剣な表情で飛鳥を見据える

 

「俺は、軌条さんに惚れたんだ…今までの軌条さんの評判ならうわさで聞いている…だけど、俺はそれ以上に軌条さんが好きなんだ」

 

 そして、飛鳥に対して、まるで許しを請うように訴えかける

 飛鳥はその瞬間、再び理解できないモヤモヤが頭の中で渦巻く…だが…

 

「それは僕には何もいえないことです先輩…決めるのは唯だから…僕には頑張ってとしか…言えません…」

 

 そんなモヤモヤを飛鳥は振り払い、苦笑いを浮かべながら、来栖に自分なりの言葉で伝える

 すると、来栖はニコッと笑みを浮かべ…

 

「ありがとう…君はいい人だね?」

「そんな…僕は…なにも…」

 

 戸惑っている飛鳥にお礼を言う

 そして、飛鳥は一人先に歩みを進め、十字路を曲がると駅のほうへと向かった…

 来栖はそれを見届けると…

 

「バカな奴…」

 

 笑顔が消え、飛鳥に対しての嘲笑を浮かべる

 ポケットからタバコの入ったボックスとジッポライターを取り出すと、一本取り出し、口にくわえ、タバコに火をつける

 そして、ポケットから携帯電話を取り出すと

 

「あ…もしもし、カリン?今暇?ちょっと家に来いよ…あぁ、後悔はさせねぇよ…」

 

 名前からして女子に電話をかけ、下衆な表情を浮かべながら、公園の方へと曲がっていく

 後ろから、明らかに飛鳥を馬鹿にされたことに怒りを露にしている茜に見られているとも知らずに…

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 デート当日…

 飛鳥はここ数日ろくに眠れていなく、数々の失敗を繰り返した…

 まず学校に行こうとしていたとき、教科書を入れていたはずのなのに、入っていたのはライトノベルだらけだったとか…朝食の砂糖と塩を間違えるというベタなことまでいろいろと失敗し、学校でもチームでいることより、一人でいる事のほうが多かった…

 カイルは休み時間のたびに生徒会室にて何かを調べている様子で、最近はあまり会話をしていなかった

 

「ホント…何をしているんだろう…」

 

 飛鳥はため息をつきつつ、まとめていたごみを捨てるために部屋を出る

 玄関で靴に履き替え、まとめられたごみ袋二つ分を持つと、玄関の扉を開け、外に出る

 今日は誰もいないため…

 

「キーロック、全システムロック」

 

 音声認識による玄関の鍵、光熱システムなどのロックをかけ、エレベーターへと向かう

 飛鳥は外の光に寝不足な飛鳥にとって眩しく、顔をしかめてしまう…

 重い足取りのままエレベーターに到着すると、ボタンを押し、エレベーターの到着を待つ

 無理矢理気分を入れ替えようと鼻歌を歌いながら、到着したエレベーターが開き、乗ろうとするところで飛鳥は立ち止まってしまう…

 

「あ……」

「飛鳥…」

 

 エレベーターの中には、白のハイネックノースリーブワンピースを着て、その上からパステルカラーの半袖カーディガンを羽織った唯の姿が視界に入ってきた

 飛鳥と唯は互いに視線を外し、飛鳥は気まずい…と思いながらも、エレベーターに乗り込む

 

 エレベーターの扉は閉まり、2人は無言のまま、エレベーターは動き始める

 飛鳥は唯のデート用の格好だと思われる服装に少しドキドキしながらも、それは自分のためではなく、来栖のためだと考えた瞬間、気分はなえてしまう…

 

「あの…飛鳥?」

「な…なに?」

 

 そんなことを考えていると唯が意を決したかのように、飛鳥に視線を向ける

 それをみた飛鳥は笑顔をなんとか取り繕い、唯に視線を向ける…

 

「私は…ほんとに来栖先輩とデートしてもいいのですか?」

 

 飛鳥は唯の問いかけに思わず、ズキッと胸に痛みが走る

 唯の表情が悲しみに歪んでいる

 僕はまた…唯にこんな表情を浮かべさせている

 飛鳥は唯から自分の顔が見えないように視線を外す

 なんて返答したらいいのか飛鳥は迷いながらも…

 

「いいんだよ…あの人はいい人だと思う…」

 

 飛鳥はそう答える

 ずっとモヤモヤモヤモヤと飛鳥の中でまたわけのわからない感情が蘇り、唯に視線を向けることが出来ない…

 

「でも…私は…」

「もういいよ…気を使う必要はないよ…僕と唯は何もない…ただ大切な仲間だってだけ…」

 

 そして、唯はまた何か言いかけるが、飛鳥はまた遮ってしまう

 まるで飛鳥はこれ以上何も考えたくないという風な様子で…

 それと同時にエレベーターの扉が開き、唯は一人早歩きでエレベーターを出る

 飛鳥はまたやってしまった…と思いながらも、エレベーターから出ると、一直線にゴミ捨て場へと向かう…

 そうしていると…

 

 ピリリリリリリリリリリッ!!!!

 

 なんとなくで持っていた携帯電話が鳴り響き…

 

「思念通話解放…もしもし…」

 

 飛鳥は思念通話を解放し、電話に出る

 すると…

 

『もしもし、私だ』

 

 電話を掛けてきたのはカイルだった

 飛鳥は気付いたら、カイルはいなかったため、どこにいったんだろうと心の隅では思っていた

 

『今私は上菜町にいる、飛鳥…君もくるんだ…来栖のチームが集まっている、今の軌条君は何をするかわからない…』

『必要ないよ…僕は…それに来栖先輩なら…』

 

 カイルは鬼気迫る声で飛鳥に上菜町にくるようにと促した

 だが、飛鳥はカイルの言うことも聞かずに一方的に思念通話を切ろうと考えた…だが…

 

『気付いているんだろう?飛鳥…来栖がそんな人間じゃないことを…』

 

 このカイルの問いかけに飛鳥はそれを止める

 そう…飛鳥も気付いていた

 来栖がどういう人間かを…一緒に帰ったあの時、来栖の表情から端々に見えた下衆な感情…

 ただ、唯と遊びたい…使い回しの女としか考えていないということは飛鳥は少し感じていた

 

 飛鳥はそれに気付いていながらも、今日…送ってしまった…

 

『それなのに…飛鳥、君を大切に思っている軌条君をあんな男に好きにさせていいのか!!!』

 

 カイルの一喝に、飛鳥は我に返る…

 そうか…僕は…

 自分の感情に気付き、飛鳥は大きく深呼吸をし…

 

『ごみ今捨てたから、すぐに用意して、そっちのごみ掃除にいくよ…だから、それまで唯に何もないように見てて!』

『あぁ!!白銀君と茜さん、シンディ、千尋先生もいる…私達に任せてくれ!!』

 

 カイルに自分も行くということを伝えると、思念通話を切断し、ごみを投げ棄てると、エレベーターを待つのもめんどくさいといわんばかりに階段を駆け上がり、部屋へと向かう

 そして、部屋に到着すると飛鳥は外行き用の夏用のパーカーと財布をとると羽織ながら出て行き、再びロックをかけると駅へと向かうため、全速力で走り始めた

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 到着したのは上菜駅駅前広場

 デートの待ち合わせには凄く適している場所といえる

 恋人達が寄り添いあうベンチ…

 中央にはクリスマスにはデコレーションされるモミの木が設置されている

 おしゃれなオブジェクトがいくつもあり、夜になればライトアップされ、気分も高揚するようなおしゃれな場所へと変貌する

 この駅前はキスの名所とも知られており、夜にここに来ると別れを名残惜しむカップルが誓いのキスを交わしているところをよくよく目撃される

 

 そんな中、一つのオブジェクトの前で、寂しげな表情を浮かべながら一人待つ、唯の姿がそこにはあった…

 

「飛鳥…」

 

 そして、無意識に飛鳥の名前を呟いてしまう…

 それに気付き、思考の中から飛鳥のことを振り払う…今は来栖のことを考えなければと…飛鳥はいい人だといった…

 飛鳥がいうなら…

 唯はそう考えながら、駅の入り口のほうから、こちらに手を振りながら走ってくる来栖の姿を見て、笑顔を取り繕い控えめに手を振る

 

「ごめん、待たせちゃって!男としてはもっと早く来るべきだったね…」

「いえ、待ち合わせの時間にはまだなっていませんから…」

 

 来栖は唯の前にたどり着くと、手を合わせ、謝る

 それを見た唯は苦笑いを浮かべながら、首を横に振り、気にしなくていいと伝える

 そんな唯の姿を見て、ホッとしたのか、来栖は満面の笑みを浮かべ、唯の手を握ろうとする

 

「ごめんなさい…」

「あ…こっちこそごめん…」

 

 だが、唯に手を握ることを拒否され、来栖は手を繋ぐことを諦め、2人は一緒に歩き始める

 

「そうだ、まずはどこか休める場所に行かないかい?近くにいいスイーツの店があるんだ、そこのケーキが絶品でね?」

 

 来栖は満面の笑みで唯に進めると、唯もコクリと頷き、2人はケーキ屋に向けて歩き始める

 ただ、唯は来栖に気付かれていないが、少し寂しそうな表情を浮かべていた…飛鳥といたならもっと楽しかったかもしれない…と…

 そして、唯も気付いていないが、来栖が心の中でめんどくさい…と思いながら苛立ちを浮かべていることも…

 

 

 

 

 

 

 遠目から、カイルたちは唯たちの動きを観察していた

 カイル、茜組、玲羅、シンディ、千尋組という形で、遠くから、茜の異能により、唯のいる場所を追尾し、玲羅、シンディ、千尋組は出来るだけ接近し、シンディが心を読み、千尋は精神を解析する

 もし何かあれば、玲羅が幻覚を見せ、変装+唯を守るという陣形である

 

「お…お待たせ…」

 

 そして、やっとのことで到着できた飛鳥は、カイルと茜に合流する

 もちろんそんな飛鳥を見たカイルと茜は…

 

「遅いよ?飛鳥?」

「私今から行くケーキ屋のモンブラン二つ♪」

 

 まるで飛鳥が来てくれたという喜びとなんでこうなる前に動かなかったという咎めを同時に飛鳥にぶつける

 

「ごめん…」

 

 飛鳥は一言謝ると、視線を遠くにいる唯の姿を捉える

 どこか後姿が寂しそうに見える

 本当に大切に思っているなら、今から飛鳥は出て行き、唯を助けるべきだろう…

 だが…

 

「うっ……」

 

 飛鳥はいざとなると緊張し、そんな行動に出れずにいた

 それを見たカイルはため息をつき、茜は苦笑いを浮かべながら、飛鳥は適度な唯たちとの距離を作りつつ、カイルたちと一緒に歩き始める

 飛鳥は緊張と共に、来栖への怒りを抑えつつ…

 

 

 

 

 

 ケーキ屋 【はぴねす】

 ケーキ屋としては人気で喫茶店としても雰囲気を愛され、この上菜町ではかなり有名な店である

 人気の商品はアールグレイとモンブラン

 だからこそ、窓際の二人用の席に案内された唯は人気商品でもあるモンブランとアールグレイを頼んでいた

 対する来栖はブラック珈琲のみ…

 どうやら来栖は甘いものが少し苦手だといえるのだろう

 

「どうかな?軌条さん?」

 

 さわやかな笑みを浮かべながら、モンブランを少しずつ食べる唯の姿を眺める

 そんな来栖に唯は苦笑いを浮かべながら

 

「えぇ、美味しいですね…このモンブラン好きです」

 

 美味しいと答える

 そんな唯に来栖はニコッと満足げに笑みを浮かべ、ブラック珈琲を再び一口飲む

 

「いきなりこんなことを言うのもなんだけど…唯さんって呼んでもいいかな?」

「ケホッ!!」

 

 そして、来栖はさわやかな笑顔のまま、軌条さんではなく唯さんって呼んでもいいかという呼び方の変更を申し出る

 あまりにいきなりのことに、唯はむせてしまい、最初に出された水を一気に飲み干し、何とかモンブランを流し込む

 

「いえ…あの…」

 

 唯は戸惑いながら、来栖から視線を逸らす

 それから唯は無言になると、来栖は苦笑いを浮かべつつ…

 

「わかった、軌条さん…どうやら君の中には水樹くんがいるようだし…」

 

 飛鳥の名前を出す

 その瞬間、唯はテーブルを叩き、立ち上がる

 

「飛鳥は関係ありません!!!!」

 

 あまりのことに、来栖も周りにいたお客も驚き、唯に視線が集まる

 唯は我に返り、椅子に座りなおすと俯いてしまう…

 それを見た来栖は…

 

「なら…俺に集中してほしいな?今君とデートをしているのは俺なんだ…」

 

 真剣な表情で唯に訴えかける

 それを聞いた唯は悲しげな表情を浮かべる

 そんな唯の姿を見た来栖はニヤッとわずかに笑みを浮かべ、唯に顔を近づけると

 

「いいかい?水樹くんには2人の大切な幼馴染がいる…君はそれ以上にはなれない…だったら、水樹くんの代わりに俺が幸せにしよう…」

 

 来栖は唯の心を深くえぐり、自分の存在を唯の中に埋め込んでいく

 だが…

 

「っ!!!!何をするんだ!!!!」

「おっと…ごめんなさい」

 

 来栖は何者かに頭から水をかけられ、そのかけた人物を睨みつける

 その人物は濃い青色の髪をしたショートヘアのセクシーな体型をした少女…

 そんな少女の姿をみた瞬間、来栖は一瞬のうちに少女の体を上から下まで分析する

 そして…

 

「いえ、何かの事故だよね?構わないよ♪」

 

 まるで手のひらを返したように態度を変える

 そんな来栖の姿を見た少女は…

 

「その子が可哀想だよ?卑怯者…もっとその水樹くんという人物と正々堂々と勝負できないの?ハッ…バカみたいな小さい男…私が男なら…その子にそんな顔…絶対にさせない…」

 

 真剣な表情で来栖にそういうと、トイレの方へと歩みを進めた

 今まで少女が言った言葉を聞いた唯は思わず顔を上げ、少女の後姿をずっと見つめる

 まるで…

 

 

 

 

 

 

「っあ!!!!!はぁ…はぁ…緊張した…」

 

 唯の真後ろでケーキを食べている玲羅のおかげで異能で変装した飛鳥はバレないかバレないかと緊張しつつも、来栖に言いたいことを言った

 飛鳥は携帯電話にメールが届いた音声が鳴り響くと、飛鳥はメールを開き、内容を見ると

 

「えと…えと…」

 

 飛鳥はとりあえずトイレの鍵を閉める

 トイレは男女兼用のものであり、トイレに向かったのであれば、その人間を見ていればわかる話である…

 メールでは、玲羅から【そっちにむかった…】というメールが届き、飛鳥は物音を立てないように静かにする…

 すると、ノックをする音から、まるで軽く体当たりをするような音まで聞こえてくる

 どうやら無理矢理入り込もうとしているのがわかる…

 飛鳥はその瞬間…唯は絶対に渡さないと誓い…

 

「ミスりましたね…来栖先輩…」

「なっ!!!水樹!!」

 

 飛鳥は外にいるであろう来栖に話しかける

 扉越しに外にいる来栖は飛鳥がそこに存在していることに驚愕し、戸惑いを覚える

 

「僕は…自分の感情を誤魔化すために貴方を利用しようとした…あの時、貴方が唯の体目的のためだけに口先だけあんなことをいったことに気付いていたのに…」

「くっ…そ…そんなの誤解だ!!」

 

 来栖は言葉に詰まりながらも、飛鳥の言葉を全力で否定する

 だからこそ飛鳥はため息をつき…

 

「唯以上にセクシーで色気のある少女を見つけた途端、全身くまなくチェックし、ここまで来た貴方にそれが否定できるのですか?」

「っ!!!!」

 

 鍵を開けると、扉を開き、怒りに表情をゆがめている来栖をそれ以上に怒りを浮かべている飛鳥が睨みつけ…

 

「絶対に唯は渡さない…もう僕の感情は否定しない…僕が唯を守る!!!」

 

 それだけ言い残すとトイレから出る

 そして、来栖の思考は怒りに支配され、後ろから飛鳥に殴りかかろうとする…だが…

 

「おっと、その辺にしてもらえるかい?来栖…」

 

 飛鳥と来栖の間に割って入ってきた何者かに、防がれる

 来栖の視界に入って来たのは…

 

「フォールデン…くっ…なんでお前が!!」

 

 カイルだった…

 トイレ近くまで移動していた玲羅が再び異能を使い、カイルの姿を消していたのだ

 だからこそ、カイルの存在に来栖はまったく気付いていなかったのだ…

 

「正式に明日下ることになるだろうが、君には退学してもらう…」

 

 そして、カイルは来栖に退学を言い渡す

 だが、その瞬間、来栖はカイルを嘲笑するように笑みを浮かべる

 

「お前が生徒会長だろうと、そこまで出来る権利はないだろ?それに証拠はない…お前達に何が出来る?」

 

 そう…来栖が退学になる原因となる証拠がないのだ

 証拠がないのならば、来栖が何をしていようが退学に出来るわけがない…来栖はそう思い込んでいた

 

「証拠ならあるわよ…ほらっ♪」

 

 そして、またカイルと同じように姿を突然現した茜が手に持っていた携帯端末のボタンを押すと同時に…

 

『いいかい?水樹くんには2人の大切な幼馴染がいる…君はそれ以上にはなれない…だったら、水樹くんの代わりに俺が幸せにしよう…』

「唯ちゃんの心をえぐる台詞から…」

『さて…軌条をいただく前に前菜だ…』

「あら、これは決定的ねぇ~♪」

 

 茜は玲羅と合流し、常に近くで来栖の発言を録音していた言動を流す

 その瞬間、来栖の表情は真っ青となる

 

「飛鳥、ここは受け持ったから…唯のこと…」

 

 そして、異能を発動していた玲羅は、成り行きを見守っていた飛鳥に唯のケアを任せると伝える

 飛鳥は一瞬迷ってしまう…

 今朝、エレベーターで出会ったとき、泣かせてしまった…そんな自分が唯と一緒にいてもいいのだろうか…と…だが…

 

「うん、わかった…」

 

 飛鳥は意を決したかのようにそこから離れ、ゆっくりと一人来栖の帰りを待つ唯の方へと歩みを進める

 それを見届けたカイルは…

 

「2人はこれでいいのかい?白銀姉妹さん?」

 

 冗談交じりにそう尋ねると、茜と玲羅は同時に笑顔を浮かべ…

 

「それよりもまず…」

「飛鳥を馬鹿といったこの女タラシの馬鹿を制裁しないと…」

 

 2人は明らかに怒っている様子で、怒りのオーラを纏う二人に、来栖は全力で怯え始めた

 そんな2人にため息をつきつつ、カイルは茜と玲羅が何もしないように、来栖を学校へ連行することに決めた

 

 

 

 

 

 

「えと…唯…」

「飛鳥…やはり貴方…」

 

 飛鳥はバツの悪いという風な表情を浮かべつつ、来栖が座っていた席に座ろうとする

 だが…

 

「こちらへ来てください…」

 

 唯は隣の席に座るように促す

 飛鳥は緊張しながらも、唯の指示に従い、隣に座る

 隣に座るだけで心臓がバクバクして、緊張して仕方がない…

 座っているだけでも飛鳥は緊張しているのに

 

「はぅっ!!!?」

「しばらく…こうさせてください…」

 

 唯はまるで飛鳥に身を任せるように飛鳥に寄り添う

 飛鳥は唯から漂う女性特有のいい匂いが鼻腔を擽り、テンパってしまう気持ちが最高潮になる

 ただ…

 

「う…うぅ…」

 

 隣から泣き声が聞こえ、飛鳥は気分が静まり、逆に落ち込んでしまう…

 飛鳥は自分のせいでこんなに唯に寂しい想いをさせてしまった…

 自分の感情を認めたくないせいで…また唯を泣かせてしまった

 飛鳥は唯の肩を抱き寄せると

 

「もうほんとに大丈夫だよ…今日の僕の時間はすべて唯に捧げるよ…僕でよかったら、一緒にどこかいこ?」

「はい…絶対です…」

 

 飛鳥は誓う…もう離れない…唯と一緒にいて、絶対に守ると…

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 千尋とシンディに見送られつつ、飛鳥と唯はケーキ屋【はぴねす】を出た

 ただ、デートをしたことがない飛鳥は、どこに行けばいいかわからないまま、歩き始めていた

 飛鳥は早く行く場所を決めないとと思いながら悩んでいると…

 

「焦らなくて構いませんよ、私は相手が飛鳥なら、こうして歩いているだけで幸せです♪」

 

 ニコッと満面の笑みを浮かべる唯

 飛鳥は思わずドキッとしてしまい、唯から視線を外す

 そして…

 

「うっ……」

「嫌…ですか?」

「ううん…ちょっと慣れてないだけだから…僕としても大歓迎…かな…」

 

 来栖の時は否定をし、まったく手を繋ごうとしなかった唯が自ら、飛鳥と手を繋いだのだ

 飛鳥はテンパる思考の中、女の子にしか見えない自分とこうして手を繋いでいていいのだろうか…あぁ…でもこの唯のすべすべした肌…名残惜しい…でも…などと無限ループのような思考が頭の中で渦巻く

 ただ…普通に手を繋ぐのではなくて、まるで恋人同士のように指が絡み合い繋ぐ手…飛鳥と唯の親密さを表すような手の繋ぎ方である

 

「飛鳥?貴方はいつも休日はどちらに行くのですか?」

 

 飛鳥は唯の問いかけに少し悩む

 休日は対して何をしているということもなく最近はカイルと一緒にゲームをしていることが多いのである

 外に出るとなると…と飛鳥は考えていると…

 

「ゲームセンター…かな?最近だとカイルと一緒にVRゲームをしていることが多いかな?」

 

 最近有名で協力して、悪い異能者に支配された世界を救済するという協力プレイ限定のゲーム

 異能者の異能を読み取り、プレイヤーはその異能を駆使して、ステージを進んでいくというもの、武器は落ちているものを拾ったり、ショップで購入するということで手に入れられる

 ただ…デートでいくような場所ではないかな…と飛鳥は想いつつ…自分の中でゲームセンターに行くという選択肢は除外するのだが…

 

「私も行ってみたいです」

「へっ!!!?」

 

 飛鳥はあまりのことに驚愕し、唯に視線を向ける

 確かにカイルとたまに来るゲームセンターはこの近くではあった

 ただ、唯を連れて行っていいものか…と思いつつも、唯の期待の眼差しに負け…

 

「わかったよ…」

 

 飛鳥は行くことにした

 ただ…いつものカイルの役目を自分がしないといけないのか…と思いつつ、気合を入れるのだった

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です、飛鳥…」

 

 そう…こういうところでいうナンパというものである…

 苦笑いを浮かべつつ、ベンチでげんなりする飛鳥を労う唯

 肝心のVRゲームは人気ゲームということもあり、かなりの行列を作っていた

 そのため、別のゲームを飛鳥がやっている隣にいる唯をナンパしたり、男2人組みにより、飛鳥と唯の2人をナンパしたりという人間がちょくちょく出てきたのである

 その度に飛鳥は、自分は男であるということを主張したり、唯の彼氏役をかって出たりなどで退けては逃げ、ゲームセンター室内にある休憩所で現在休んでいるのである

 

 唯は休憩所内にある自動販売機で、ジュースを買う

 飛鳥にはコーラ、自分にはミルクティー

 唯は飛鳥の隣に戻ると、飛鳥にコーラを渡す

 

「ありがとう…ごめん…デートなのに…」

 

 飛鳥の言葉に、唯はニコッと満面の笑みを浮かべ、飛鳥の頭を撫でる

 

「構いませんよ、少し休憩したら、プリクラを撮りませんか?私初めてなんです♪」

「ケホッ!!!!ケホッ!!!!!」

 

 そして、唯の突然の誘いに、驚いた飛鳥は一口飲んだコーラが気管に入り、むせてしまう

 飛鳥の顔は見る見るうちに真っ赤になり、テンパり始める…

 初めてのプリクラが自分でいいのだろうか?もっとカッコイイ男の人とかの方がしいのではないだろうか…と悩むが…

 

「私とでは嫌ですか?」

 

 少し寂しそうな表情を浮かべながら、唯は飛鳥を見る

 飛鳥としては

 

「いやではないよ…僕でいいのかな…ってさ…」

 

 唯にこの表情を浮かべられては否定することなんて出来ることもなく、飛鳥は唯とプリクラを撮るということを覚悟する

 唯は飛鳥の許可を得ると表情は明るくなり、再び飛鳥の手を握り、まだあけていないミルクティーの入った缶を鞄の中にしまうと、立ち上がり飛鳥の手を引き始める

 飛鳥は何とかコーラを飲み干し、連れて行かれる流れで缶を捨てる場所に捨てると、唯に手を引かれながら歩みを進める

 

「飛鳥じゃないと駄目です、では行きましょう♪」

 

 なんだか出会った当初みたいだな…と飛鳥は思いながら、プリクラコーナーへと向かった

 プリクラコーナーは休憩所を出て、クレーンゲームコーナーを抜けるとすぐに見えてくる

 プリクラの機械はいくつかあり、いろいろと種類があるみたいなのだが、飛鳥もあまり知らない上に唯は素人…

 飛鳥が撮ったのは中学の頃で、茜と玲羅で一枚ずつ…

 その時は種類も少なく、適当に選んで撮ったりしたのだが…

 そんなことを考えていると、プリクラの各機械ごとに、その機械のデータと評価が書かれていることに気付く…

 肌の映り具合…フレームの可愛さ…目の盛り具合…落書きの可愛さなどなど…

 飛鳥はそれを参考にしつつ…

 

「この機械にしようか?」

「はい、飛鳥にお任せします♪」

 

 飛鳥は機械を選ぶとカーテンで仕切られた個室の中へと入っていく

 真っ白な個室の中

 お金を入れる場所とフレームを選ぶ画面、写真を撮るカメラが設置されていた

 

「飛鳥は撮ったことあるのですか?」

「うん、昔茜と玲羅と撮ったよ?」

 

 中に入ると唯にプリクラを撮ったことあるのか?と聞かれ、飛鳥は素直に答える

 のだが、その瞬間、唯の表情はあの黒笑へと変化し…

 

「どんなポーズで撮りましたか?」

 

 どんなポーズで撮ったかと飛鳥に尋ねる

 飛鳥はそんな唯に気付く様子もなく、ジュースを奢ってもらった代わりに写真は自分がとお金を入れ、画面を操作しながら答える

 

「えと…、玲羅とは普通に並んで撮ったのと、茜はあんな性格だから、無理矢理腕を組まされて撮ったっけ…」

 

 そして、出来るだけ可愛いフレームを選ぶと、視線を唯に向け、そこでやっと気付く…

 唯は黒笑を浮かべ、こちらを見ていること、そして、自分がバカなことを口走っていたことを…

 

「いや…あの…」

「カメラの方を向いて、中腰に…」

「はい…」

 

 そして、飛鳥は唯に指示されるまま、中腰になる

 画面にはカメラが今何を映しているのか、映像が映っているのだが、飛鳥の背後に移動する唯の姿が映されていた…

 何をされるのか…飛鳥は心臓がバクバクしながら、緊張していると…

 

「はぅっ!!!!!!!!」

 

 飛鳥は思わず奇声を上げてしまう

 唯は後ろから飛鳥を抱きしめ密着する

 背中には唯のあのダイナマイトでグレイトなお胸様が惜しみなく押し付けられ、飛鳥の顔の近くには唯の顔があり、耳元に唯の呼吸音が聞こえてくる

 飛鳥は緊張から笑顔が浮かばず、顔を真っ赤にしながらテンパリ顔になってしまう

 ちなみに…

 

「………////」

 

 唯も自分のしていることに気付いたのか、恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら、視線を横に逸らしてしまっている

 飛鳥はこれじゃ写真の意味がないじゃないか…と思いつつも、『それじゃ!撮るよ!3、2、1』という掛け声と共に、写真を撮る

 あと二枚撮れる為、撮り終わった瞬間、2人は離れる

 

「意外と恥ずかしいですね…」

「意外じゃなくても恥ずかしいと思うよ唯…」

 

 そして、2人は一言交わし、次に普通に互いに並んでとり、最後の一枚は互いにピースをし撮った

 デコレーションが苦手な飛鳥は唯に任せることにした

 しかしまぁ…どんなことを書かれているのか気になり、チラッと覗いてみると…

 

「あ…飛鳥っ!!!!?」

「ΣΣグミュッ!!!!?」

 

 チラッとハートマークで囲まれている自分と唯の姿が見えた瞬間、飛鳥は唯の全力掌底攻撃が腹部に決まり、飛鳥は意識を失いそうになりながらも悶絶する

 ここで意識を失わなくなったのは飛鳥の成長でもある

 何せ、二週間近く、唯とカイル、千尋の三人から、身体能力を鍛えるために筋トレの後に組み手をガンガンしたため、動体視力が鍛えられた上にうたれづよくもなったのだ…

 

「出来ました!!貴方の分は明日渡します!!!」

 

 ただ…飛鳥が悶絶してから立ち直るまで、3分掛かったところを考えると自分自身でまだまだだと思う飛鳥であった

 2人は無表情のスリムな体型の小柄な少女に見られているということにも気付かず…

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 カイルと玲羅、茜、シンディ、千尋の5人は学園から来た教師に来栖を引き渡し、カイルたちは安堵していた…

 しかし…

 

「これで終わりではない…あの女男に守りきれるかわかったもんじゃねぇな~!!!うちには最強の守護者がいる!!!」

 

 来栖はそう叫ぶと、来栖のチーム担当教師と四学年担当学年主任の2人に連れられ、車に乗せられ、学園へと向かった

 正式には学園にて正確な退学監獄を告げられた上にスキルアレストへと連行される

 シンディの異能によって判明したことだが、来栖は何度か女の子を脅し、口にすることもおぞましいことをしている…

 実際能力でそれを知ったシンディは完全に怯え、来栖を見ようともしなくなった

 そんなシンディを精神解析した千尋がそれを知り、来栖のスキルアレスト行きを決定した

 

「守護者…ね…」

 

 カイルは思い出す

 イリスが作成した報告書のことを思い出しながら、一人の人物を思い出す

 来栖が所属しているチームの中で1番の戦闘力を誇っているが他のメンバーから顎で使われ、パシリとしても使われ、千尋がシンディの見たものを解析したことで知ったことだが、同じようなことをされている

 だが、チームから抜けることもなく、ただ来栖の言うことを聞いたという…まるで奴隷のようなものだったと…

 

「疑問だね…そこまで義理立てするような人間とは思えないが…」

 

 カイルは携帯電話を取り出すと飛鳥に電話をかけ始める

 

『留守番電話に接続します。ピーっという発信音の後、メッセージをお入れください』

 

 だが、留守番電話につながり、飛鳥が出る気配はなかった

 カイルはため息をつきながら、電話を切ると茜に見られていることに気付き視線を向ける

 

「意外にカイルくんは過保護なのね?」

「君達ほどじゃないよ…常に異能で飛鳥の居場所を感知している君と飛鳥に盗聴器を仕掛けている白銀君にしろね?」

「っ!!」

 

 そして、カイルはため息をつきつつ、そういうと茜はニコッと満面の笑みを浮かべ、玲羅はカイルから視線を外し、バツの悪いという風な表情を浮かべていた

 勿論盗聴器と聞いた千尋は玲羅に白い目を向けつつ、ため息をついた

 

「いいか…玲羅…盗聴の件は聞かなかったことにしてやる…それよりもまずは飛鳥と唯だな…」

「っ!!!」

 

 千尋はそう呟くと玲羅の頭を一度叩き、パーキングに停めてある愛車の歩みを進める

 玲羅は頭を摩りながら、千尋の後を追い…

 

「お兄様、また後で合流を…」

 

 シンディは一度頭をさげ、2人の後を追う

 それを見届けたカイルと茜の2人は歩きはじめる

 

「茜さん?対人戦どれくらいやれる?」

 

 カイルは茜と歩きながら、表通りから裏路地の方へと入っていく

 カイルと一緒に歩く茜は少し悩みながら… 


「今はだいぶ衰えているからなんとも…でも、昔はそれなりに強かったわよ?泣き虫の妹と危なっかしい幼馴染を守らないといけなかったし…」

 

 茜はカイルの問いかけに答える

 カイルは泣き虫の妹という部分を聞き、驚愕する

 勿論その妹という部分を指していいるのは玲羅のことである

 つまり昔は玲羅泣き虫だったのだ

 

「それホント?白銀くんが泣き虫だったって…」

「えぇ…昔は飛鳥がちょっと離れただけで、『あーちゃん行かないでぇ~』って泣いてたもん…」

 

 茜の言葉を聞いたカイルは今と昔の玲羅のギャップに驚くばかりであった

 すると…

 

「オラッ!!!!暢気に話してんじゃねぇぞフォールデン!!!」

「さっさとそのアマ渡して消えな!!!」

 

 元気よく威嚇してくる来栖のチームメイトの男二名とその仲間と思われる男と女の組み合わせ2セット…計六人が姿を現した…

 カイルと茜の2人は同時にため息をつき、カイルは重ねて着ていたカッターシャツを脱ぎ捨てると首を鳴らしながら、男達を見据える

 

「よし…まとめて掛かってくるといい…」

 

 茜は意外にやる気満々のカイルに苦笑いを浮かべつつ、頭の中で戦い方を思い出すために思考をめぐらせる

 

「まぁ…私の体は飛鳥だけのものだから…アンタたちには渡さないけど…」

 

「クソアマ!!!!!!」

 

 そして、茜がそう伝えると同時に、男四人がカイルと茜に襲い掛かる

 女達は口々に「やっちまえ!!」「殺せ殺せ!!」など叫ぶ…まったくもって下品である

 カイルはそんな女達の言葉にため息をつきつつ…

 

「ご期待には添えないかな…」

 

 先頭にいた男2人の拳による攻撃を軽々と回避し…

 

「グアッ!!!」

「ハグッ!!!!」

 

 2人が繰り出した攻撃を受け流し、軽く延髄に一撃ずつ与え、気絶させる

 

「わぉ~♪やるねぇカイルくん!」

 

「クソが!!!だったら女の方を!!!」

 

 そして、茜はカイルに感心していると残り2人の男達が茜に向けて、襲い掛かる

 茜はため息をつく…

 

「これじゃ、まだ飛鳥の方が女の子の扱い方をわかっているわね…よっ…」

 

 茜は2人の男の腕を掴むと同時に腕を捻りながら、背中に回し関節を決め込む

 そして…

 

「ぐあああああああああっ!!!」

「あああああああああああああああっ!!!!」

「ごめんあそばせ♪」

「「あぅっ!!!?」」

 

 茜は容赦なく、関節を決められ、しゃがみこんでいる男2人に一発ずつ股間に鋭い蹴り(義足の方で)を叩き込み、完全に怯ませる

 もちろん隣で見ていたカイルは男のため、凄く悲痛な表情を浮かべている

 自分達が信じていた男達は一瞬のうちに2人に伸された上に、まだまだ余裕の表情を浮かべているカイルと茜に恐怖をなして、女2人は逃げ出した

 カイルはまぁその程度の覚悟だろうと思いながら、茜と共に裏路地を出て行く…

 ただ…

 

「君達の情報もあるから覚悟しておくといい…それと、ここから動いた場合と私の大切な仲間に手を出した場合…私は全力で君達を排除する…」

「ヒィッ!!!!?」

 

 物静かで重みのある声でカイルはそう言放つと、来栖のチームメイトの男たちは恐怖に引きつり、失禁する者も現れた…

 カイルと茜の2人はそんな男達の様子を気にすることもなく…

 

「さて…飛鳥は自然公園ね…向かう?」


 茜は飛鳥と唯の場所を特定し、裏路地から出ると、表通りを歩きながら、学校へ連絡するカイルに視線を向ける

 カイルは学校への連絡をしながら…

 

「ん?あぁ…向かう…千尋先生もシンディも白銀君も向かっているんだ、私達も向かおう…ここからならバスに乗るのが早い」

 

 茜の問いかけに答える

 カイルは連絡し終えると、ちょうどバス停に止まったバスに、カイルと茜の2人は乗り込む

 昼となり、客が少なくなったバス内の椅子に茜が座り、カイルは隣に座らず通路に立ち、つり革掴みつつ、動き出した揺れるバスでバランスを保つ

 カイルも茜も焦る様子はまったくなかった…

 それは当然だった…2人とも、親友である飛鳥、大切な仲間である唯を信じているから…

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 そこは上菜町の中でも自然を保護した区画にある公園

 上菜自然公園

 森林区画、キャンプ区画、草原区画、フラワーガーデン区画、子供広場区画に分かれている

 森林区画は上中下に分かれる散策コースがあり、下級コースは気軽に子供から楽しめるコースで、中級からは上級は大人の息抜きから、本格的に体を動かすためのコースとなっている

 キャンプ区画では調理場から、ロッジ五件分、テントを張れる区画が用意されている自然公園の中での宿泊区画と考えてもいいだろう

 草原区画では動物連れの人たちが集まったり、親子連れでキャッチボールから夜の天体観測…仲間達で青春を謳歌するために騒いだりなどいろいろな用法により用意されている

 フラワーガーデン区画には一流の花職人により整備された世界中の花が栽培されている区画…デートにはもってこいなロマンチックな場所でもあり、春には花見をするための区画もあり、一般客もよく利用している

 子供広場区画は言葉の通り、子供達が集まるアスレチックや遊具などが建てられている場所であり、公園デビューやママ達の交流場所としてもよく知られている

 

 勿論、飛鳥と唯がいるのはフラワーガーデン区画

 ただ…

 

「すぅ……すぅ……」

 

 飛鳥は唯のことで不安を抱いていたことによる寝不足により、ただいまフラワーガーデン区画に設置されている休憩所のベンチにて唯に膝枕をされながら眠っていた

 あどけない表情を浮かべたまま眠る飛鳥の髪を唯は優しくなでながら、幸せな気持ちに浸る

 学校で感じていたモヤモヤ…朝、飛鳥に拒絶されたときのモヤモヤ…

 そのすべてが消え去るように、唯の心は今、晴れやかだった

 何故晴れやかなのか…唯は自分の心に問いかける

 

「そうですか…私は…」

 

 すると、モヤモヤしている気持ちの理由が理解できた

 唯は自分の気持ちがわかり、それを理解するために口にしようとしたとき…

 

「飛鳥…起きてください…」

「ふぇっ?」

 

 唯の神経は研ぎ澄まされる

 間違いがない…今までの戦闘ミッションで感じたものを何故か今感じる

 唯の表情は真剣なものとなり、寝ていた飛鳥を起こし、飛鳥が体を起こすと同時に唯は立ち上がり、飛鳥を護るように立つ

 

「ふぁ~っ…どうしたの唯…」

「殺気ですよ…私と飛鳥…どちらかが狙われているでしょう…」

 

 飛鳥は暢気に欠伸をしながら、唯を見ていたが、唯の言葉を聞き、完全に目覚め、飛鳥は逆に唯を護るように立とうとする

 だが、その瞬間…


「…………一人目…」

 

 飛鳥の耳元に声が聞こえ、飛鳥は背後を振り返る

 すると、視線の先には無表情な白髪ショートヘアのスリムな体型をした小柄な少女が飛鳥に向けてナイフを振りかざしていた

 その瞬間、飛鳥はゾワッと背中に寒気が走る…

 感じたことがない感覚…これが殺気だということを飛鳥は今理解し、驚愕するしか出来なかった

 

「させません!!!!!」

 

 しかし、唯は飛鳥を片手で抱き寄せ、手刀をナイフを持っている腕に打ち込む

 その瞬間、ナイフを離すが、少女は意図することもなく、流れる動作で唯に後ろ回し蹴りを放つ

 風を切るような鋭い蹴りが飛鳥を抱き寄せ、手刀を繰り出したことにより、無防備になっている唯に迫る

 

「唯!!」

 

 だが、飛鳥が唯の変わりに腕で少女の回し蹴りを防御する

 

「ありがとうございます飛鳥?」

「唯だったら避けられただろうけど、体が動いちゃって…」

 

 互いに戦闘中だというのにまるで余裕があるように会話をする唯と飛鳥

 ただ…

 

「キャ――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!」

 

 少女がしたナイフによる攻撃を目撃したほかの自然公園に訪れていた客は悲鳴を上げながら逃げ惑う

 飛鳥と唯は何とか宥めないといけない…と考えつつ…

 

「唯…ここは僕が引き受けるから…だから…」

「そんな!!私のほうが戦い慣れています!!!」

 

 飛鳥は唯から離れると、大きく深呼吸をし、少女と視線を合わせ、唯におねがいをする

 だが、それを唯はそれを否定する

 唯の言うことも勿論である…戦いなれている唯の方が安心感もあるし、安全面もすぐに確保できるだろう…だが…

 

「それでも…今日くらいは唯を守りたい…」

 

 飛鳥の言葉に唯は思わずドキッとしてしまう…

 唯は今まで誰かに守りたいといわれることはなかった…特に異性には…

 だからこそ、飛鳥のこの言葉に唯は動揺し、コクリと頷き、休憩所に近寄らないように他の客の避難誘導をし始めた

 

「舐めすぎ…雑魚は必要ない…」

「あぅっ!あはは…まぁ…そういわずに付き合って?」

 

 飛鳥は苦笑いを浮かべつつ、拳を構える

 それを見た少女は無表情のまま、一瞬のうちに飛鳥との距離を詰める

 そして、鞭のようにしなり、腰を使って威力を増した回し蹴りが飛鳥の顔目掛けて迫る

 飛鳥はそれを完全に見切り、回避する

 だが、それはおとりで…

 

「ぐっ!!!!?」

「沈め…」

 

 鋭い後ろ蹴りが飛鳥の腹部に命中する

 ただ…

 

「まだ沈むわけにはいかないんだ…それに唯や千尋先生に比べたら…まだまだ軽いよこの蹴り…」

 

 飛鳥は余裕というわけにはいかないが、少女の蹴りを受けても、動じていなかった

 無表情ではあったが、さすがに驚いたのか、眉をピクッと動かし飛鳥を凝視する

 そして、同時に少女の中で怒りに火がついたのか、右ストレート、左ストレートの連撃から鋭い蹴りを織り交ぜたコンボを繰り出す

 飛鳥はなんとかそれを見切り、次々と回避していく

 

「君は…エミリアの手先なの?」

 

 飛鳥は次々に繰り出される攻撃を回避しながら、少女に問いかける

 飛鳥の命を狙う可能性がある人物…飛鳥の中で思い当たるのはエミリアくらいだった

 だからこそ、エミリアの名前を出した…しかし…

 

「エミリアってだれ?私は…ただ来栖が失敗したらアンタを殺せっていったからするだけ…」

 

 出てきた名前は違った

 飛鳥は来栖の名前が出た瞬間、驚愕する

 飛鳥自身ここまでするとは思わなかったということもあるが、来栖に付き従う少女がいたということに驚いていた

 

「なんで、あんな奴に」

「あんな奴っていうな!!!!!!」

「っ!!!!!?」

 

 そして、飛鳥が「あんな奴」と言った瞬間、初めて少女の顔に怒りという感情が生まれた

 その瞬間、怒りに任せて繰り出した足払いが飛鳥の足にヒットし、飛鳥は尻餅をついてしまう

 少女は飛鳥を押し倒すと、何度も何度も飛鳥の顔面を殴る

 

「来栖は私に言ってくれた!!!!愛してるって…親からも…姉妹からも…愛されなかった私に愛してるって言ってくれた!!!!!そんな人をあんな奴って言うな!!!!!!」

「ぐっ!!!あぁっ!!!!」

 

 少女の一撃にしては重く視界がぐらつく…

 間違いなく最初に後ろ蹴りがヒットしたときに比べるとはるかに強い…

 飛鳥はこれ以上くらうとやばいと思い、最後のトドメと振りかざした少女の拳を受け流し、少女の一撃が地面に直撃すると同時に少女を突き飛ばし…

 

「っ!!!!」

「はぁ…っく…」

 

 飛鳥は立ち上がると、口元から流れる血を手で拭い、真剣な表情で少女を見据える

 唯に任せなくて良かった…と飛鳥は思いつつ、足元をチラッと見ると…

 

「なっ!!!!!!」

 

 地面のコンクリートが少女の殴った部分だけ、地面が割れていた

 そんなことをしたらと飛鳥は少女の手に視線を向けたが、少女の手には何も傷はなかった…

 無傷な綺麗な少女らしい手をしていた…それが意味すること…

 少女は異能を使っている…

 それもあれだけのことをしているということは身体硬化系能力

 だからこそ、小柄な少女が視界がぐらつくほどのダメージを与えられるほどの威力を生んだこと…

 地面を割ることもできたこと…

 すべての説明がつく…

 

「っ…そうよ…私は愛されない…来栖がいなきゃ…どんなに辛くても…来栖が愛してるって言ってくれたら…」

 

 飛鳥の視界には立ち上がりながら、何も希望はない…そんな表情を浮かべ、明らかに病んでいると思われる顔つきの少女に飛鳥は理解した…

 

「君は…被害者なんだね…」

 

 来栖のという意味でもある…

 それだけではなく社会…家族という意味でも…

 辛い出来事ばかりを受けてきた少女がすがるところ…それは手を差し伸べてくれる人物…

 人間一人で堪えることなんて無理だ…

 だからこそ、どうしようもない人間だとしても来栖にすがるしかなかったのだろう…

 

「………そうして…同情するだけで誰も手を差し伸べようとしない…」

 

 飛鳥は少女の頬を伝う涙を見てズキッと心が痛む

 怒りという感情が露になったことで他の感情も溢れ出てきたのだろう

 恐怖に震え、立てなくなり足元から崩れ落ちる少女の姿に飛鳥は見てられなくなる

 だが…

 

「僕は違うよ…」

「えっ……」

 

 飛鳥はゆっくり歩みを進め、座り込んでいる少女の目の前まで来ると飛鳥も座り、視線をあわせる

 大きく深呼吸し、少女の手を握る

 

「僕は君をほっとけない…困っている人を救いたいから…」

「っ………」

 

 飛鳥の言葉に少女は驚愕し、まるで信じられないという風な飛鳥を疑う視線を向ける

 飛鳥は当然か…と思いながら、苦笑いを浮かべる

 少女は今まで親や姉妹からも愛されなかった…様子を見ると虐待を受けているかもしれない…それだけではなく、来栖からも辛い目に合わされていた

 それなら、人間不信になっていたとしても不思議ではない…

 

「ちょっと待ってね?」

 

 だからこそ…

 

「千尋先生?えと…君名前は?」

 

 飛鳥は少女に信用してもらうためにも全力で答えるために千尋へと電話をかける

 少女は、飛鳥を疑うような眼差しを向けたまま…

 

「東雲カリン……」

「ありがとう♪」

 

 飛鳥に自己紹介をする少女 東雲カリン

 飛鳥はお礼を言うと携帯電話をスピーカーフォンモードにし…

 

「千尋先生…東雲カリンの免罪…どうにかなりませんか?」


 千尋にカリンの免罪を申し出る

 電話口の千尋はあまりのことに絶句している

 

『学園側からの情報では、お前の命を狙っているとの情報だが?それに、今自然公園でナイフを振りかざした少女が水色の髪の少女に振り下ろし、戦いになっているという情報も』

 

 そして、淡々と千尋は自分に入った情報を言う

 飛鳥は頭を悩ませる

 カリンが飛鳥に向けてナイフを振りかざした所を目撃されていることにより、殺人未遂は免れない…

 よほどの理由がない限りは減刑はされないだろう…

 

『はぁ…そっちに向かう…どこぞの飛鳥至上主義のバカと飛鳥至上主義の変態のおかげでお前の位置は理解しているからな…お人好しのバカめ…』

 

 飛鳥が悩んでいるということを理解してか、千尋はため息をつきながら、電話を一方的に切った

 飛鳥は、飛鳥至上主義のバカと飛鳥至上主義の変態という言葉に首を傾げつつ、こっちに来るのは確かであり、飛鳥は少し安堵する

 

「もう少し待っててね?」

 

 飛鳥の言葉と様子にカリンは見入ってしまう…

 カリンにとってここまでする人物はいなかった

 本当はわかっていた…来栖に自分が利用されていること…本当は愛されていないことも、でもそれを自覚することで自分は一人だということを認めたくなかった

 だからこそ、カリンは来栖に…他のチームメイトに何をされても他言することもなかったし、離れることもしなかった

 だけど…まだ疑う気持ちは拭いきれないが、飛鳥が来栖とは違う、心の底から自分を救いたいと言う気持ちを感じる

 

「うぅ…うっ…うあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

 

 そして、カリンは感極まり、泣き叫んでしまう

 飛鳥の胸元に抱きつき、子供のように泣きじゃくる

 飛鳥はそんなカリンの頭を撫で、気が済むまで胸を貸すことにした

 飛鳥の温もりに、今まで感じたことのない安心感…カリンは千尋たちが到着するまで今まで辛いことを隠してきた分ずっと涙が枯れるまで泣いた

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 カリンの免罪を求めることにより、飛鳥たちの休日は返上となった

 自然公園に駆けつけたスキルポリス…異能者に対する力を行使できる警察にカリンの免罪のための事情聴取を飛鳥と唯は受けた

 千尋の精神解析、シンディの精神リンクにより、カリンの言っていることが本当だということを証明した

 そのおかげか、カリンが行った殺人未遂は無事免罪となった

 

「よかったですね?飛鳥?」

「うん…」

 

 ただ、カリンは千尋が所属している組織の保護を受けるため、組織に出向することになった

 だからこそ、法的な手続きをするために、今から組織に向かうことになった

 飛鳥と唯、玲羅、茜、カイル、シンディは王斬が運転席に乗る車に乗り込むカリンを見送る

 のだが…

 

「飛鳥先輩…」

「ん?ふぇっ!!!!?」

 

 カリンが振り返ると同時に、飛鳥の頬にキスをする

 当然飛鳥は顔を真っ赤にしながら驚愕し、それを見ていた唯、玲羅はジトっと飛鳥を見据え、シンディは泣きそうな表情になる

 カイルと茜は苦笑い、千尋はため息をつく

 ただ、そんな中でも、カリンは満面の笑みを浮かべ、飛鳥に笑いかける

 

「ありがとう…しばらく学校に通えないみたいだから…もし通えるようになったら友達になってください…」

 

 そして、カリンなりの飛鳥へのお願い…

 待っているだけでは何もこない…それがわかったのだろう

 だからこそ、飛鳥に友達になろうというお願いをした

 

「うん…当たり前だよ、僕とカリンは友達だよ!」

 

 当然、飛鳥はそれを受け入れる

 飛鳥の笑顔を見て、安心したカリンは王斬の車に乗り込むと、王斬とカリンは組織のアジトへと向かった

 ただ…

 

「ムギュッ!!!!?」

「デレデレしすぎ…ロリコン…」

「もっと大人のお姉さんを見るべきですね?飛鳥?」

 

 カリンたちがいなくなった瞬間、両頬を唯と玲羅に抓られる

 そして…

 

「小さいなら私も負けません!」

「はぅっ!!!!?」

 

 トドメの一撃といわんばかりに涙を浮かべながら、振り上げた蹴りが飛鳥の股間にヒットする

 それを見た瞬間、唯と玲羅はあまりのことに固まり、飛鳥は当然蹲りもがき苦しむ…

 

「シンディ?ナイスだけどはしたないよ?」

「すっ…っすすすすすすすすすみません!!!!!」

「な…なななナイスって…」

 

 そして、次にカイルが言った言葉に飛鳥に謝るシンディだが、飛鳥は青い顔のまま、笑顔を浮かべるカイルに視線を向ける…当然心の中でこのシスコンめ…とカイルに罵ったのは内緒の話である

 

 

 

 

 

 

 

「お…お邪魔します」

 

 夕方になり、カイルは先に家に戻り、玲羅とシンディは晩御飯の買い物、千尋は組織に行き、カリンの成り行きを見守ることに、茜は用事があるということで早めに帰った

 だからこそ、飛鳥は同じマンションではあるが、家の前まで送るということで唯を送ったのだが、唯に招かれ、千尋の家に上がることになった

 そして、飛鳥の緊張は最高潮になる

 ただいま、唯の部屋に一人取り残された付き合ったばかりの彼氏気分の飛鳥

 唯の部屋は綺麗に整っていて機能性に優れている

 ただ、やはり可愛いもの好きということで、リスをモデルにした愛らしいぬいぐるみ、リスリーくんがベッドの上に飾られていた…大きなものから小さなものまで…

 

「ん?」

 

 飛鳥は待たされている間部屋を観察していると、おしゃれな黒のカラーリングがされたシェルフに飾られているものに視界が入る…

 写真立にはたくさんの写真が飾られていた

 眼鏡をかけた黒髪ショートヘアの30代後半くらいに見える男性と唯に似ている長い黒髪を後ろでまとめた女性と10歳くらいの唯の三人が写っている写真

 それだけではない、スキルネイチャースクールの学生服姿の唯と絵里華と同じ雰囲気が出ている弱気なオーラが出ている少女…の2人が写っている写真…つまり、唯と絵里華の姉、千鶴の写真だろう

 そして…

 

「僕達の写真…」

 

 御泊り会をしたとき、第一回パジャマパーティの写真があった…

 飛鳥の隣にはパジャマ姿の髪を降ろした玲羅と後ろで髪を束ねた唯、その後ろで亜栖葉と肩を組んでいる酔っ払った千尋が写った写真だった

 そのほかにも、第一回たこ焼きパーティーの写真…

 たこ焼きを食べたことがないというカイルとシンディのために飛鳥が自作して振舞ったパーティ

 テーブルに飛鳥が運んでいるところに、黙々と食べるカイルとシンディの2人が写っている写真

 茜と飛鳥の仲直り記念に映した写真…

 最後に飛鳥と唯が2人で写った写真

 飛鳥はそれを見ているとなんだか嬉しくなり、つい笑顔が浮かぶ

 

「ホント…仲間を大切にしている素敵な人だね…」

「っ!!!!あ…ああああ飛鳥!!?」

 

 そして、考えたことが口に出ていたらしく、トレーで運んできたグラスに入れた自分用のウーロン茶と飛鳥用のイチゴオーレを落としそうになりながらも、何とか中央のテーブルに置き、気が動転したまま、唯は飛鳥の隣に腰を降ろす

 当然飛鳥も聞かれていたことにテンパリ始め、2人とも無言のまま2人きりの部屋の中で座り込む

 

「…………」

「…………」

 

 ただ…唯はまるで何かを求めるように床につけている手をゆっくり動かす…

 そして……

 

「唯?」

 

 唯の求めていたものに手は届く

 飛鳥の手に唯の手は重ねられ、唯は恥ずかしそうに顔を真っ赤にしながら俯く

 当然飛鳥としてもドキドキしないわけではないし、むしろ唯みたいな美人にそんなことされてドキッとしないわけがない

 

「飛鳥…私…自分の気持ちに気付いたんです…飛鳥からもらったネックレスをつけてる玲羅に、飛鳥にくっつく茜さん…なんだか見てるとモヤモヤして…イライラして…子供なのはわかってます…こんなの貴方に憧れを抱いてもらえる人間だなんて思えません…それでも…」

 

 そして、唯はゆっくりと飛鳥に寄り添う…

 飛鳥はその瞬間、唯の言いたいことを理解できた…

 だからこそ、飛鳥は唯の体をギュッと抱きしめる

 その瞬間、唯の体温が自分の体に伝わってくる…人肌の温もり…なんだか安心する

 飛鳥は同じ感情を抱いていた唯のために飛鳥は

 

「僕も…同じ気持ちだよ唯…」

「飛鳥…」

 

 飛鳥は大きく深呼吸して自分の気持ちを吐き出す…

 

「僕もなんだか来栖と唯が一緒にいるところを見たとき…同じ気持ちだった…見てるとモヤモヤして…イライラして…わけがわからなかった…でもわかったんだ…僕は唯の事を」

 

 飛鳥の言葉を唯は静かに待つ

 飛鳥の手が、唯の頬に添えられ、唯は瞼を閉じる

 まるで2人の仲の誓いを立てる契約を待つように

 

「大切なお姉ちゃんだと思ってるんだって…」

「え?」

 

 だが、人生甘くない…唯は飛鳥の答えに目を見開き、驚愕する

 飛鳥は驚いている唯を見て、首を傾げる

 

「同じ気持ちって…唯も僕のことを弟だと思っているとかで、弟が誰かを取られそうでイライラモヤモヤ…って…僕カイルみたいにシスコンだと思われたくないって思って、気付かない振りしてたって感じでさ…」

 

 飛鳥の言葉を聞いた唯は動揺した表情を浮かべ…

 

「えと…では今の状況とか…デートとか…」

 

 飛鳥は慌てて唯から離れ、顔を真っ赤にしながら土下座する

 

「ごめん!!!だって!!!姉さんがへんな奴にナンパされたりとかしたときに、デートに付き合わされたりとか、擬似彼氏させられたりとかで…」

 

 そして、当然の如く飛鳥の回答に唯はあいた口が塞がらないという様子で固まってしまう

 すると、唯の服のポケットから

 

 ピリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!

 

 唯の携帯電話が鳴り響き、唯は放心状態のまま携帯電話に出る

 

『飛鳥の鈍感さをあまり舐めない方がいい…私はどれだけそれを経験したか…今回の抜け駆けはそれに免じて許す…』

 

 するとその言葉だけが聞こえ、電話が切れた

 そして、その電話の主は唯の視線の先、唯の部屋の扉が少しだけ開いていて、そこから、玲羅とシンディの2人が覗き込んでいることに気付く

 唯はため息をつき、土下座する飛鳥に視線を向けると…

 

「ではお姉さんというなら、これからは唯お姉ちゃんと呼んでください?」

「え?いや…でも僕…」

 

 唯さん→唯からの改変…唯お姉ちゃんという呼び方の改変を伝える

 それを聞いた飛鳥は実の姉さんじゃないんだからということで呼ぶことをためらってしまうのだが…

 

「二度は言いません、いいですね?」

「はひっ!!!!」

 

 黒笑を浮かべる唯に気圧され、飛鳥は部屋の隅まで後退り、唯との距離をとり、また土下座をする

 それを見届けると、唯は一人部屋を出て行き、廊下で待機していた玲羅とシンディに視線を向け、扉を閉め…

 

「玲羅、シンディ、私は簡単には諦めませんよ…」

「上等…」

「お手柔らかに…」

 

 静かに2人に宣戦布告をする

 唯の宣戦布告を聞いた玲羅とシンディも笑顔を浮かべ、唯の宣戦布告を受け取る

 飛鳥が聞いていない中での女の誓い…

 そして、ここに絆が築かれた

 恋の不沈艦 水樹飛鳥を攻略するべく、乙女の感情を抱いた三人は立ち上がった水樹飛鳥に好意を抱く者として、飛鳥を守り、いつか飛鳥と添い遂げると…

 

 

 


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