7話 友達として 仲間として 自分がやれること
玲羅は茜の前に護るように立ち、真剣な表情で頭の中で今回用意したマガジンの数と弾丸の総数を計算しながら、目の前にいる自分の中で1番相性の悪い相手と思われるビジュアルメイクの女性 レイスの動きを待つ
すると…
「ふふ…哀れな道化 白銀玲羅…」
レイスは静かに口を開き、その言葉にピクッと玲羅は反応する
「大切だと思っている幼馴染の飛鳥…邪魔な姉がいなくなり、自分で独占できると思いきや、自分を見てくれない…飛鳥の中には白銀茜と笑顔ばかりの気持ち悪いパッツン女子しか見ていない…」
そして、レイスの言葉を聞いた瞬間、気付けばレイスに向けて銃を構え
「うるさい!!!!」
引き金を引いていた
だが…
「ふふ…」
レイスは何かを察知するかのように、少しだけ横に動き、弾丸を回避する
玲羅はそれを見た瞬間、苛立ちが募り、もう一丁を構えると二丁で同時に引き金を何度も何度も引き、レイスに向けて弾丸を放つ
だが、苛立ちに歪む玲羅の表情を見据えながらレイスはまるで踊るように弾幕を回避する
「くっ!!!!!」
「玲羅、落ち着いて…」
茜の声を聞き、玲羅は落ち着きを取り戻そうと何度か深呼吸を繰り返し、使い切ったマガジンを捨てると腰のベルトにいくつか装着したマガジンと取り替える
「今はそんなことを考えている暇は無い…さっさと飛鳥を助けないといけないから…」
玲羅はそう呟くとレイスに向けて駆ける
レイスは懐のホルスターから一丁の拳銃を取り出すと構え、玲羅に向けて構え、トリガーを引く
レイスはニヤッと気味の悪い笑みを浮かべる
なぜなら、自分の能力によって玲羅は能力を封じられている
だからこそ、玲羅は身体能力だけでレイスを倒さないといけないことになる
そして、ここで回避すれば弾丸が茜に直撃する
茜は車椅子に乗っているため、回避行動は遅くなる上に車椅子から落ちれば絶望的
片足だけではこの何も無い空間では回避など出来るはずも無い
だからこそレイスはあっけないと思いながらも、これで任務完了…そう思い
「哀れな道化ここに死す…ふふっ…」
玲羅の死に様を見届ける
そう考えたのだが…
「イージス解放」
「っ……」
玲羅が呟いた瞬間、バックパックから三センチほどの小型機械が5つ飛び出し、円形のシールドが展開され、玲羅に届くギリギリのところで防御に割り込む
防御されたことにレイスは驚き、玲羅が再びこちらに銃口を向けていることに気付き、玲羅がトリガーを引くと同時に横に飛び退き、回避行動に移り、ギリギリ回避することに成功した
「アンタとの勝負で自分の能力が通用しないことは理解した…だったら何もしないで来ると思った?」
玲羅は間髪いれずに態勢を整えなおそうとしているレイスとの距離をつめ、玲羅はレイスの腹部を蹴り飛ばそうと中段蹴りを放つ
「ぐっ…」
レイスはギリギリで両腕をクロスすることで防御することが出来、キッと玲羅を睨みつける
そんなレイスを見下すように玲羅は睨みつけたまま
「余裕がないね…学生相手だからって舐めすぎじゃない?」
充分な態勢で防御態勢に入れていないということを理解している玲羅は強引に蹴り飛ばす
レイスは態勢を崩し、尻餅をつき、玲羅はそれと同時に二丁の拳銃を構え…
「アンタは私を舐めすぎた…だから負けるのよ…」
「っ…あああああああっ!!!くっあっあああああああああああああああああっ!!!」
マガジンが空になるまで体のいたるところに弾丸を撃ち込んだ
玲羅は二丁拳銃をホルスターに戻すと踵を返し、エレベーターの近くにいる茜に向かって歩き始める
だが…
「訓練弾とは…貴方も舐めすぎじゃないかしら…哀れな道化…」
玲羅は振り返ると、ゆらりと立ち上がるレイスの姿が視界に入ってきた
玲羅は再びホルスターから二丁拳銃を抜くと、使い切ったマガジンを捨て、再びベルトに装着していた訓練弾の込められたマガジンと交換し、レイスを呆れた表情で見据える
「剣では峰打ちがあるけど…拳銃には峰打ちがない…飛鳥を助けに来ただけで、殺しに来たつもりはない…」
玲羅はそういうと一度イージスをバックパックに戻し、息を吐き、二丁拳銃を構え、レイスの動きを警戒する
『玲羅…彼女が異能を発動させた…』
『わかった…』
玲羅と茜はチョーカーの機能により、思考通信をし、情報を得る
茜のターゲットの能力により、脳波の動きを読み取り、レイスが異能を発動させた情報を得ることが出来る
だからこそ玲羅は茜の言葉を聞き、警戒心を高め、次のレイスの行動に備えようとしていた
「勝負を終わらせる…アンタは私のプライドを傷つけた…道化のクセに…哀れな道化のクセに!!!!!」
だが、玲羅は次の瞬間驚愕する
レイスがバックパックから取り出したのは一本の筒状のボタンを押すと針が出て薬が注入される黒い注射器
首に押し当てると…
「うっ…」
ボタンを押し何かの薬を自分の体内に注入する
レイスは 注射器を抜き、無造作に捨てる
玲羅は何を注射したのかは理解できない…
だからこそ次にどう動けばいいのか?思考をめぐらせる
だが…
「キャハッ!!!」
「ぐっ!!!なんで…」
気付けばレイスは自分の目の前にいる
まるで、麻薬を自分の体内に打ち込んだかのように狂喜に満ちた表情を浮かべ、鋭い蹴りを放ち、玲羅は何とか防御をするが、ミシッと嫌な音が聞こえる
玲羅は踏ん張り、レイスに視線を向けようとするが、目の前にはいない…
「うふふひゃひゃ…アンタ相手にこれを使う嵌めになるとはおもわなかったぁ~♪道化!!!!」
「うっ!!!!ああああああああああああああああっ!!!!」
そして、気付けば背後から…次は右から、左から上から下段から正面から…
オールレンジから素早い動きでレイスは攻めてくる
「玲羅!!!!!イージス!!!!」
それを見ていた茜は玲羅のバックパックにあるイージスに干渉し、イージスでレイスの体術攻撃の防御を図る
レイスの鋭い蹴りをイージス2個掛かりで防御に成功した
その隙を見た玲羅は
「くっ!!!ありがとう姉さん!!!」
レイスの額に突きつけ、訓練弾を放つ
さすがに訓練弾と言えど、額に叩き込めば気絶させることはたやすい
玲羅はそう考えたのだが…
「今…何かやったぁ~?」
ニヤっと気持ち悪い笑みを浮かべたままこちらを見据えてくる
確かに当たった…なのに一瞬怯んだ様子だったが、まるで何もなかったかのように玲羅を見据えていた
「今確かに当たったはず…」
「ふふっ…その表情私好きよ…光の世界から闇の世界に突き落とされる絶望的な顔…やっぱりそうでないとねぇ!!!!どぉぉぉぉけぇぇぇぇっ!!!!!」
玲羅はレイスが自分に打った薬により、身体能力が進化していることに気付いていた
だが、今茜が操作しているイージスにより、何とかレイスの致命傷攻撃は避けている
『どうしたらいい…』
玲羅はさっきから痛みが治まらない右腕を気にしながら、再び攻撃を繰り出そうとしているレイスを向かい打つために思考をめぐらせる
ここで負けてしまえば飛鳥にたどり着けない…その気持ちを胸に…
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
その頃カイルはレイピアを構えたまま、動けずにいた
視線の先にいる隙の無い動きで構える寡黙な40代くらいの男性 クレイに気圧されていた
『さすがは社会人向けAランクに関わる敵…私みたいな学生で通用するかわからないな…』
強引に攻勢に掛かれば、逆に隙を生む可能性がある
これは訓練ではなく、本当の実戦…ならばその隙一つが自分の命取りになるかもしれない
それを理解しているからこそ、カイルはまったく動けずにいるのだ
『お兄様、私が相手の精神とリンクして…』
背後で待機しているシンディからチョーカーでの思考会話により話しかけられ、カイルはシンディの能力を使って打開策を生み出すか…
だが、カイルの中で一つのマイナス面が浮かぶ…
『いや…シンディの精神リンクは相手に利用されると逆にピンチを生む…』
精神リンクという名前がつくということは、精神と精神がリンクしているということ
つまりはリンクしていることに気付かれなければ何も無いのだが、もし気付かれれば逆に自分の精神も読まれかねない…今回は何も無い空間での戦闘
だからこそ、もしシンディの動きに気付かれれば逆に読まれて攻勢を掛けられる
『ですが…』
『考えていることはわかるよ…このまま時間だけが過ぎて飛鳥のところへ向えなくなる…』
カイルはシンディの焦りも理解できた
飛鳥は自分にとって大切な友人
だからこそ手遅れということだけは避けたい…
順番からして唯か千尋のどちらかが飛鳥と対峙している
エミリアの思考を読んで確率的に唯が当たっているということもカイルの中では予想がついていた
あの映像を見た時点で飛鳥が操られている可能性も理解できている
そんな飛鳥相手に唯が戦えるわけがない…戦えたとしても本気で相手を出来ないことも…
『らしくないが…シンディ、断片的に精神リンクをして私に情報を流してくれ…』
『はい!!』
カイルは一歩踏み出し、クレイに向かって駆ける
それと同時にクレイも一歩踏み出し、中央でカイルが鋭い突きを繰り出すと同時にクレイはレイピアを回避し、カイルの腹部に鋭いフックを繰り出す
「くっ!!!」
カイルは地面を踏むと同時に異能を発動させ、衝撃波を生み出したことにより、上空に跳躍し、クレイの背後に回り回避する
「さすがにくらわない…貴方のその腕から想像するに直撃すれば一撃ノックアウトは確実だろうからね…」
「戦いに言葉は必要ない…来い…」
カイルは寡黙なクレイらしい言葉に「まったくだ…」と呟き、再び鋭い突きの連撃を放つ
クレイはそんなレイピアの連撃を器用に捌きながら、カイルとの距離を縮めようと間合いを詰める
逆にカイルは間合いを詰められないようにステップを踏みながら衝撃波を生み出し、距離をとる
『お兄様、足払いからの顎に向けての一撃、回避したところで右ストレート』
『了解』
カイルはシンディの精神リンクにより、情報を得て、次に、クレイが距離を詰められた瞬間…
「甘い…ボウズ…」
「ぐっ!!!ああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
クレイの言葉を聞き、カイルは驚愕する
下段からの攻撃ばかりを気にしていたばかりで上段を気にしていなかったカイルの頬に強い衝撃が走る
軽く数メートル吹き飛び、カイルはあまりにも重い衝撃に視界が揺らぐ
「お兄様!!!お兄様!!!!!」
シンディは慌ててカイルに駆け寄り、自分の体を起こそうとするカイルの体を支える
カイルは落ちそうになる意識を何とか繋ぎとめる
「こんな…重い…一撃を…ぐっ…軌条君はくらっていたのか…」
カイルは何とか立ち上がろうとするが、膝をついてしまう
カイルがこんな調子では戦えない…シンディはカイルを護るように立ち、クレイを睨みつける
「小娘…退け…」
シンディはクレイの覇気により、恐怖に震えるが、涙を流しながらもクレイを睨みつける
クレイはゆっくりとシンディに近づき、腕を掴む
「実戦の世界に小娘ごときがしゃしゃり出るな!!!!」
「キャッ!!!」
そして、そう叫ぶと同時に片手でシンディを投げる
シンディは受け身を取ることも出来ず、地面に落ち、体に走る痛みを堪え歯を食いしばる
「シンディ!!!!!ぐっ…クレイ!!!!!私だろう…お前の相手は私だ!!!」
カイルは根性で立ち上がり、怒りに任せ、横薙ぎにレイピアを振る
それと同時にクレイに向かって衝撃波を放つ
クレイはそれを見るとため息をつき…
「殺しはしない…ただ学ぶといい…戦場は冷静にならないと死が待つものだと…」
片手を翳すと同時に手にどんどんカイルの衝撃波が収束していき、球体となる
カイルは血が上り完全に忘れていた
クレイの異能は自分の異能に対して最悪の相性だということを…
「お前の敗北だ…」
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
「お兄様!!!!!!」
そして、カイルはシンディが叫ぶ中、意識を完全に失った
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「なんでアンタなわけ?理解できないんだけど空気読んでよ…」
盛大なため息をつく絵里華
それを見ていた千尋もため息をつく
そりゃそうだ…千尋はエレベーターを降りたと同時に長い愚痴と不機嫌な態度をずっと向けられ、戦いに来たのにげんなりしているのだ
「はぁ…私としても早く唯の所に向かいたいんだがな…アイツが飛鳥と戦えるわけがないからな…」
だが、千尋のこの言葉を聞いた瞬間、絵里華は少し反応する
「へぇ…となると今あの女は苦しんでいるわけか…ふふっ…なら好都合だわ!!!!」
そして、狂喜に誓い笑みを浮かべる絵里華はバックパックから筒状の注射器を取り出し、自分の首筋に押し当てる
千尋は驚愕する
絵里華が今から何をしようとしているのか…それを理解したからこそ…
「止めろ!!!!!!!!!新垣!!!!!!!」
叫び、絵里華の行動を止めるために千鶴は駆ける
だが、無情にも注射器の中に入っていた薬は絵里華の体に注入される
そして…
「キヒッ!!!!さぁ殺りましょ!!!!千尋ちゃぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」
目の前に到達した瞬間、明らかに絵里華の力量を超えた速度で蹴りを繰り出され、千尋は咄嗟に反応が間に合い、ギリギリで防御することが出来たが、それ以外の異変に戸惑ってしまう
「おっほ~♪さすがは千尋ちゅわん♪でも舐めてたら死ぬわよォォォォォォォォォッ!!!!!」
ハイテンションでまるで足元がフラフラして、視線の焦点が定まっていない…
明らかに正常ではないことはわかる
千尋はフラフラだからこそ、酔拳のように読めない攻撃を次々に繰り出され、在学当時より薬のせいで強化された絵里華に戸惑い、本来の力を出せずにいた
「クルーォルか…依存性の高い強化薬…副作用でどんな人間だろうと気が狂ったようにハイテンションになる…だがその代わりに…身体能力は勿論…」
「ご~めぃとぉ~!!!!!!」
絵里華は狂ったような笑みを浮かべ、両腕を大きく広げた瞬間、全身で黒炎を纏い、どんどん天井へと立ち上っていく
絵里華が生み出した黒炎は轟々と燃え盛り、炎により燃焼され、酸素が薄れていく
「千尋ちゃん…せっかくだからデスマッチをしましょぉ~♪密閉空間でどちらが生き残り他の区画に移動することが出来るか!!!!ふふふ!!!!ひひひひひひひひひっ!!!!!」
千尋は舌打ちをしながら拳を構える
酸素がどんどん燃焼していくことにより、酸欠で死ぬ…とかよりも…
勝負に勝ち絵里華も助けなければならない…その千尋自身の考えがあり、追い詰められていた
だが、やるしかない…そう思い、千尋は覚悟を決め、黒炎をまといながら迫る絵里華を向かい討つ
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「最初の勢いはどうしたの!!!?哀れな道化!!!!」
鋭い体術を回避しながら打ち出される弾丸をイージスを駆使し、何とか防御しているが、最初程攻勢に移ることも出来ず、防戦一方になっていた
玲羅自身が操作するイージス三機と、茜が後方で操作するイージス二機
玲羅がわかる範囲での防御では自分が操るイージスで防御し、玲羅の死角から襲ってくる攻撃には茜のイージスが対処をしていた
そう…2人掛りで相手をしているのだが、レイスの進化した身体能力に追いつけていないのだ
レイスは異能を使えても、玲羅は決め手でもある異能を封じ込まれているから、攻め手に移れない…だからこそ、玲羅は体術で対処しないといけないのだが、通常状態のレイスならまだしも、今の身体能力が進化したレイス相手には攻勢に移るだけでも難しい
それに…
「ほら隙みぃ~っけ!!!!」
「くっ!!!?」
イージスの間を縫って繰り出された手刀を右腕で防御するも、激痛が走り、レイスの攻撃が通りそうになるのを何とか攻撃を掻い潜り、レイスの背後に回ることで回避する
だが、防御することで使った右手にズキズキと痺れるような痛みが走り続け、正直右手は使い物にならない…
『落ち着いて…落ち着いて玲羅…』
玲羅は自分に言い聞かせながら、何かレイスに隙があると振り返り再び攻勢に移ろうとするレイスに意識を集中する
気を抜いたら自分は死ぬ…改めて理解した死と隣り合わせの勝負…
幸いレイスは自分ばかりを攻撃のターゲットとしているため、茜に攻撃が向くことはないから守る戦いをする必要性がない…だがそれでも余裕がないのは確かで…
「っ…はああああああああああああああああああああああっ!!!!」
玲羅は自分に気合を入れつつ、レイスとの距離を保ちながら思い切って攻勢に移る
横移動、イージスで砲身を隠しながら、時には右手を庇いながらではあるが、アクロバットな動きでレイスの放つ弾丸を回避しつつ、攻撃を繰り出す
だが…
「へぇ~!!!まだそんな動きが出来るとは関心しちゃう!!!さしずめ陽気なピエロちゃんね!!!」
玲羅のフェイントをかけながらの攻撃も軽々と回避し、じわじわと玲羅との距離を再びつめようとする
玲羅はつめられないように、後方に下がりながら闇雲に銃弾を放つ…
当然レイスには通用することもなく、ただ避けられるだけ…マガジンの中の弾丸はなくなり、マガジンを交換しようとするがその間に距離を詰められる
『玲羅!!!アンタの異能を発動させなさい!!!』
「っ!!!!!!」
玲羅は茜の言葉を聞き、咄嗟に自分の周り半径2m間に幻覚を見せるサークルを作り出す
その瞬間、レイスはサークルを読み取ったのか玲羅との距離を詰めることをやめ、立ち止まる
玲羅はそれを見た瞬間膝をつき、荒くなる呼吸を沈めるように深呼吸をし、最後のマガジンと交換をする
「な~る…司令塔は道化の姉…車椅子か…」
狂喜に満ちた笑顔を浮かべながら、視線だけを茜へと向ける
玲羅はその瞬間、自分のした失敗に気付き…
「姉さん!!!!!」
玲羅はレイスとの距離を詰めようとする
しかし、身体能力がアップしたレイスに追いつくことが出来ない…
また守れない…
飛鳥がエミリアにより暴走させられたとき、姉を守れなかったように
飛鳥と姉の親友関係を守ることが出来なかった
玲羅はずっとその後悔ばかりを背負い飛鳥のそばにいた…もうそんなものはいやだ…
どんどんレイスと茜の距離は詰まっていく
「イージス!!!絶対に姉さんを傷つけさせはしない!!!!」
玲羅はやけくそと言わんばかりにレイスに向けて手を翳すと【イージス】はレイスに向けて放たれ、次に玲羅は銃を構え、弾丸を放つが、標準は定まらず、イージスに命中したり、レイスに当たらず見当違いな壁に当たったり…
玲羅から焦りが浮かんでいるのか、当たらないことにイライラが募る
だが…
「うっ!!!!」
何故かレイスは茜に到達する前にこける
玲羅も茜も驚き、レイスは足を押さえ、玲羅を睨みつける
玲羅も茜も何が起こったのか理解できなかった
玲羅は冷静に分析をする…
自分は何をしたのか…自分がやったこと…
『姉さん、突破口が見えた…』
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
シンディは体の痛みを我慢しながら、ゆっくりとカイルに近寄る
自分の中で最強で完璧であると信じていた兄が今床に横たわり気絶している
気絶させた男 クレイはまるでシンディとカイルを監視するようにエレベーターの前に立ちふさがる
「お兄様…うっ…うぅ…」
勝手に涙が流れる…
自分が弱いせいで、兄ばかりに苦労をかけている
現状だけじゃない…いつも、飛鳥たちからカイルはシスコンと思われていることをシンディは知っているが、それも自分が弱いせいで、守ろうとしてくれているため、そうしているのだとシンディは思っている
自分はこんな弱いままでいいのか…
そう考えると
「何のつもりだ小娘…」
クレイの視線の先にはカイルの持っていたレイピアを拾い、カイルと同じように構えるシンディの姿が視界に入る
「私は…弱いです…貴方の言うように私は小娘です…でもいつまでもお兄様の後ろに隠れたまま小娘でいるなんて出来ません!!!」
クレイは静かにため息をつき、シンディに歩み寄ると確かな覇気で見下ろす
シンディは一瞬表情をビクッと恐怖に引きつらせるが、キッとクレイを睨み返す
そして、シンディは訓練されている様子もない素人丸出しの突きを繰り出す
勿論クレイはそんな素人丸出しの突きに当たることはない
だからこそ少ない動作だけで何度もシンディから繰り出される突きを回避
そして…
「………」
「っ!!!やっ!!!!ハァッ!!!!!」
まるで一生懸命兄のために戦っているシンディの姿を目に焼き付けるようにしっかりと見据える
繰り出すたびにレイピアは軽いといえど何度もシンディは体を持っていかれそうになる
それは当然…カイルが吟味して自分に合うように選んだもの、それをシンディに合うかどうかを問われれば、答えはNO
小柄の女の子であるシンディがカイルみたいな青年に合ったレイピアを使いこなせるとは思えない
クレイはそれをわかっていながらもただシンディの姿を目に焼き付けるだけで何もしようとしない
「馬鹿にしないでください!!!私は!!!私は貴方と戦っているんです!!!!」
シンディは何もしないクレイに叫ぶ
だが…
「…………」
クレイは何も言わずただシンディの戦う姿を見据えるだけ…
逆にシンディは苛立ちを募らせ、どんどん動きが単調になっていく
その瞬間、自分に合わないレイピアを振り続けているせいか疲れにより、今までと違い完全にこけそうになる
クレイはその瞬間、レイピアを奪い捨てると、こけそうになるシンディの腕を掴み、その場で突き放す
「キャッ!!!?」
シンディは尻餅をつき、また涙目になる
シンディはぐっと涙を堪え、何かをしなければならない…そう考え、立ち上がるとなれない拳を作り、クレイに殴りかかる
クレイは腹部をシンディに何度も殴られながらも動じることはなくただ、シンディの姿をまた見据えるだけ…
「お兄様を絶対にやらせません!!!!絶対!!!絶対に!!!!!飛鳥さんも救い出します!!!絶対!!!!絶対!!!!!!」
そんなクレイを余所にシンディは自分の本心をすべて吐き出すように叫ぶ
シンディのその言葉を聞いた瞬間、クレイの表情は豹変し…
「お前の兄を殺すつもりはない…だが…同志飛鳥はもう戻ることはない…」
シンディの拳を掴み、睨みつける
その視線はまるで飛鳥をもう完全に仲間だと思っている…だからこそもう飛鳥は戻らせない…飛鳥を渡さない…そんな眼差しをしていた
「っ!!!!!うっ!!!そんなことないもん!!!飛鳥さんは戻ってくるもん!!!!私たちを…仲間を見捨ててあなたたちになんてつかないもん!!!!!」
それを見たシンディはポロポロと涙を流しながら、自分の手を掴むクレイから逃れようともがく
シンディは信じて疑わない…自分が貢献できないとしても唯なら…玲羅なら…茜なら…カイルなら…千尋なら…と飛鳥を助けることが出来ると信じてクレイを睨み返す
クレイはそんなシンディを見た瞬間、怒りに取り付かれ、こぶしを振り上げる
シンディはこれで自分は終わりだ…と確信し瞼を閉じる
その瞬間…
「私も信じている…飛鳥は必ず戻る…」
「グアッ!!!!!?」
クレイはシンディの視界から消えた
まるで蹴り飛ばされたかのように…
シンディの目の前にはレイピアを構えなおし、倒れたクレイの姿をしっかりと見据える
「お兄様…」
「待たせたね…さて、妹を泣かせた借りを返すよ?クレイ…」
カイルの姿がそこにはあった
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
千尋は酸素が薄れていく中、絵里華の攻撃を回避していた
激しい運動により、体は酸欠状態となりつつあり、意識が薄れていく
だからこそ…
「ふっ!!!!?」
「キャハハハ!!!!まさか千尋ちゃんに一撃当てられるとは思わなかった!!!!ほらほら!!!もっと私を楽しませて!!!!」
千尋は身体能力が上がった絵里華の鋭い蹴りが直撃し、千尋は吹き飛ばされ、倒れてしまう
黒炎を纏った蹴りは服が焼け焦げ、腹部に火傷を負ってしまう…
「くっ…」
千尋は絵里華を睨みつけ、観察する
自分は酸欠になりかけ、意識がポーっとしてきているのに、何故か絵里華にそんな様子はない…
これもクルーォルの作用か…と千尋は思いつつ、間髪いれずに近づき蹴り飛ばそうとする
だが、千尋は素早い動きで立ち上がり、絵里華の攻撃を受け流し、こけそうになる絵里華の横腹目掛け、鋭いジャブを繰り出す
だが…
「キャハハハハハハハハッ!!!!当たらないわよばぁ~か!!!!」
「なっ!!!新垣!!!?キャッ!!!!?」
千尋と絵里華の間隔はかなり近かった…
だが、絵里華はそんなことを気にする様子もなく、二人の間で爆発が起き、互いに吹き飛ばされる
2人の間に距離が出来、地面に蹲りながら互いに見据える
「いったぁ~い…ふふ…ふふふ…きゃはははははははははははははははっ!!!!!」
千尋は悔しげに自分は絵里華を救えないのか…
そう考えた瞬間、意識が途切れそうになったが、頭によぎったことがあった…
【弱気になったら自分を解析してみたらいいよ?僕は、そうして弱気な自分を解析してきた…君の力はその才能がある…精神解析…僕が君の異能にそう名付けよう♪】
学生時代…弱気な自分に言ってくれた一人の研究者の言葉…
千尋はバックパックからタブレットケースを取り出し、一粒薬を取り出すとそれをおもむろに飲み込む
「あらぁ~?教師が薬ぃ~?」
「…………」
そして、絵里華の挑発も無視し、立ち上がる
それを見た、絵里華は苛立ちの表情を浮かべ…
「無視するなぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!クソ教師が!!!!!!」
手に強大な黒炎を纏い、千尋に向けて放つ
それを見た千尋は無言のまま、少ない動作で絵里華の攻撃を回避する
その瞬間、エレベーターの扉に直撃し、扉は溶ける
「絵里華…教師としてお前に助言だ…相手の力を読み最良の手を考える…」
千尋はエレベーターの扉が溶けたことにより、流れてくる酸素を体内に取り込み、意識がどんどん覚醒していく…
「ただ私は後悔していた…怖かった…戦いたくなかった…お前の姉を救えず、お前に恨まれているのではないだろうか…姉を救えず妹のお前まで助けられない…お前と戦いたくなかった…私は…まだまだ監督教師として未熟だ…悩んでばかりで自分の精神すらも解析しないと理解できない…」
「はぁ~?なに一人ごといってんのぉ~?」
馬鹿にしたような眼差しで絵里華は千尋を見据えると、千尋は苦笑いを浮かべ「確かにそうだな…」と静かに呟き、拳を構えなおす
「簡単なことだ…もう迷いはない…ただお前に勝つ…それだけだ…」
千尋は凛とした眼差しで気合を入れなおし、絵里華を見据える
絵里華に勝つため、自分に勝つために…
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「なるほど…なかなかやるじゃないか…」
エミリアは最下層地下20階にて全員の戦いを観察していた
レイスに対して突破口が見えた玲羅の姿
妹のために立ち上がり、自分の所有するチームの中で最強でもあるクレイに初めて一撃を与えたカイル
迷いを断ち切り、すべてと向き合うことを決め、弱体化していた自分の力量を生かし始めようとしている千尋
「こっちもそうだ…どうやらスキルネイチャースクールの人間の力量は確からしいな…」
もう一つのモニターではアンドロイドナイトたちを意ともしないアキラと勇、美鈴、紗江の姿
そんな彼らをカバーする楓、エイジの姿
アンドロイドナイトの上位種をどんどん投入しているが、アキラのエヴォリューション・スカイの力で巻き起こる進化する風により、アンドロイドナイトは粉々に…
勇の使うエヴォリューション・アイスバーグにより、氷山が如く氷漬けにし、神速から繰り出される二本の刀により切り裂かれる
美鈴のエヴォリューション・ヴォルケーノにより、どろどろに溶かされる
紗江はその残りの残党を強化した身体能力で退ける
楓、エイジは遠距離からの攻撃を得意とするアンドロイドの対処
楓は鎖鎌で遠距離アンドロイドの武器を破壊し、エイジがエヴォリューション・クラウドの力で遠距離のアンドロイドを機能停止にさせていき、鋭さを電撃を纏うことにより鋭さを増したクナイでどんどん的確にコアを貫いていく
エミリアは今の状況…自分が追い込まれてきているという状況に笑みを浮かべる
エミリア・A・トラウムが負けと認めたのは飛鳥との一戦で傷を負わされた戦いのみ…
そんな彼女が今また追い込まれている…勝ちばかりで退屈していたエミリアにとってこの劣勢は楽しい一興として考えていた…
「さて…そろそろ私も出るか…」
ゴシックドレス姿から着替えた戦闘服…下ろしていた長い金髪をポニーテールにし、軍服に近い黒のジャケット、黒のスラックスに黒のブーツという姿に着替え、机の上においていたナイフを二本手に持ち、エレベーターに乗り込む
戦場に自らも乗り込むために…
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
レイスのターゲットは再び玲羅に移る
玲羅は自分の周りに異能サークルを作り、そのサークルに入れば異能は発動し、レイスは幻覚を見る
だがレイスは怒りに身を任せているようで、ちゃんと頭脳を回転させているのか適度な距離を保ちながら、的確に急所を狙い、銃弾を打ち込んでくる
玲羅はイージスでそれを防御しながら、隙を見定める
「さぁ次はどうするの道化!!!!!!!」
「さてね…」
玲羅は数機のイージスをレイスの周りに漂わせる
レイスは鬱陶しげに、イージスを払いのけようとする
「鬱陶しい!!!!」
まずはイージスを破壊しようと盾部分ではなく、ブースター部分を狙おうと試みる…
だが…
「っ!!!!!道化ェェェェェェェェェェェェェッ!!!!!!!!」
拳銃を持っていた腕に玲羅が放った訓練弾があらぬ方向から飛来し直撃する
玲羅がやったことは跳弾
つまり、イージスのシールドを自在に操り、跳弾の軌道を人為的に決め、不意をついてダメージを与えていたのだ
たとえ相手に干渉する精神感応系能力者の力で操っているため、イージスの移動先を能力で読まれていたとしても、今の冷静さを失いかけているレイスの不意をつくには充分なことだ
レイスは怒りに任せて叫び、玲羅に銃を向け、マガジンが空になるまで実弾を放つ
玲羅はレイスに向けて放ったイージスを戻そうとしたが、ギリギリとなったため…
「くっ!!!!あと残り三機…」
イージスは姉に待機させていた二機と自分に1番近かった一機が無事だったが、戻すときに文字通り盾となったイージスはブースターを破壊され、イージス2機は撃墜され、玲羅の背後に墜落し爆散した
それだけじゃない…
『玲羅!!!』
『大丈夫…ちょっと右肩に当たっただけ…最初の防戦状態のときに既に動かせないから一緒…』
玲羅の肩に弾丸が一発直撃していた
玲羅の肩からはドクドクと血が流れ、綺麗な青のカッターシャツが血に濡れていた
それを見た瞬間、レイスは歓喜の笑みを浮かべ…
「当たった…っくくくくくく!!!!あはははははははははははははははははははは!!!!!」
彼女は身体能力がアップしている上にダメージは体全体にに訓練弾を受けていたとしても、身体能力・異能力強化の薬により、痛みは麻痺している
だが、玲羅は見逃さなかった…
「はぁ…はぁ…レイス…これで終わり…」
玲羅は確かに見た
銃を持っている手が震え、マガジンの交換が上手く出来ていない
それを隙と考え、玲羅は覆いかぶさるようにレイスを押し倒し、逃げられない状態で銃を捨て、拳を振り上げる…
その瞬間…
「その油断がアンタを死なせるのよ道化!!!!!!死ね!!!!!!」
「玲羅!!!!!駄目ェッ!!!!!!」
「あ……」
茜はイージスを玲羅を助けるために放つ
だが、レイスは腰に装備ていた鞘から抜いたナイフを振り下ろすことに間に合わない…
振り下ろされたナイフは玲羅の額に突き刺さり、鮮血を噴出しながら、レイスに覆いかぶさるように絶命し倒れる…
レイスは玲羅を殺したことにより歓喜に笑みを浮かべ、喜び高笑いを上げる
それを見ていた茜は玲羅に近寄るために車椅子から落ち、玲羅に近寄ろうとする
必死にもがくように這いずりながら…
それを見たレイスは狂喜に近い笑みを浮かべ…
「アンタも死ぬのよ車椅子…キャハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!」
マガジンを入れ替えた銃で茜の額を打ち抜く
茜はうめき声を上げることも出来ず、絶命し、レイスは完全勝利を飾った…
自分は任務を全うした、後は主でもあるエミリアの下に戻るだけ…
だが…
「チェックメイト…」
レイスが見ていた景色はガラスがひび割れるように消え、次の瞬間、延髄に手刀を打ち込まれた感覚があり、意識が途切れていく…
「なん……で…道…化なん…か…に…」
そして、レイスは倒れ完全に気絶した
玲羅は大きく深呼吸し、拳銃をホルスターに収めると撃たれた腕を手で押さえながら、トボトボと茜の方に向かう…
「行こう…飛鳥の…ところ…に…」
だが、茜の元に到達する前に、激痛と疲労により、玲羅はその場に倒れた
玲羅は悔しげな表情を浮かべるまま、エレベーターの方に視線を向ける
「私…まだやれる…」
玲羅は根性で立ち上がろうとするが、立ち上がる体力が残されていない上に右腕の骨が折れかけているのと打ち抜かれたことにより、立ち上がることが出来ない
そんな玲羅に茜は近寄り…
「大丈夫よ…飛鳥は弱くないわ…貴方の治療が済んでからいきましょう…」
「そうだ…」
玲羅を慰めていると、エレベーターの扉が開き、中から王斬が現れる
王斬はバックパックから取り出した薬と包帯を取り出し、玲羅の腕の治療にとりかかる
「ここまでするた~思わなかったが…よく頑張ったな、玲羅」
「それ…あーちゃんから聞きたい…」
疲労のせいでわけがわからなくなってきているのか、玲羅はいつもの毅然としたクールな態度ではなく、飛鳥に対して素直に甘えたい…そんな態度を示す
そんな玲羅の姿に2人はため息をつきつつ、優しく微笑み、玲羅の治療を続けた
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「くっ…ボウズ…」
「悪いね…私とてシンディと一緒で飛鳥が大事なんだ…簡単に渡さない…」
クレイは立ち上がると思ったよりも顔面に襲ってきた思い一撃に驚きながら、カイルを睨みつける
それを見たカイルは涼しい表情でそれを受け流し…
「何を焦っているんだい?そこまで飛鳥にこだわる理由しりたいな?」
クレイに問いかける
だが…
「…………」
無言で黙ったまま構え、今までと違い、クレイはカイルとの距離を詰めようと駆ける
それを見たカイルは鋭く繰り出されるクレイのジャブに一瞬気持ちが焦りそうになるが、軽く深呼吸をし、手だけで払いのけるように動かす、すると…
「っ!!?」
直撃コースだったはずのジャブは何かに弾かれるように急にコースが変わり、カイルに直撃することはなかった…
クレイはその瞬間、何かに気付いたようにまた睨みつける
「戦いに言葉はいらない…だったっけ?」
カイルは不敵に笑い、クレイはそれが勘に触ったのか動きが少しだけ単調になり、最初に戦っていたときの落ち着いた態度の冷静な連撃はなく、カイルは最初ほど避ける時の苦労を感じなかった
だが、身体能力の差は確かで、強大な衝撃波を生み出すことをせず、小さな衝撃波で回避を繰り返していた
『さて…どうするか…クレイは多分新垣くんともう一人の女性よりも強い…たとえ平静を失っているとしてもやっと勝率三割といったところだろうか…あと出来て合計15回…無駄には撃てないな…』
カイルは冷静に分析しながら、動きを見据える
筋肉を見るだけでパワータイプだと思えるだろうが、スピード、パワーともに申し分なく戦闘のエキスパートに相応しい動きをしている
学べることは多い…
『敵じゃなくて…師匠として出会ったなら、違うシュチュエーションになったかもね…』
カイルは暢気にそんなことを考えながら、自分に気合を入れなおす
「貴方とは違う出会い方をしたかったクレイ!!!」
カイルはそう叫びながら、一歩踏み込むとクレイが繰り出した右ストレートを回避する
そして…
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
「くっ…」
カイルが最初にクレイを蹴り飛ばしたときと同じ手法
自分の体を痛めつけることになるが、肘撃ちの態勢をとり、肘と平行にもう片方の手を構え、合わせるように動かすと同時に衝撃波を生み出す
その瞬間、肘うちによる攻撃スピードは瞬間的に増し、見事にクレイの腹部に決まり、クレイは見事に吹き飛ぶ…だが…
「なっ!!!?ぐああああああああああああああああっ!!!!!」
クレイは吹き飛ばされながら、カイルが使用した衝撃波を収束していき、カイルに向けて放つ
カイルは両腕の激痛により、一瞬無防備になり直撃し、カイルは再び吹き飛ばされる
カイルは再び立ち上がると蹲っているとレイピアによる鋭い突きに乗せて衝撃波を放つ
もちろん、クレイはそれに勘付いたか、片手を翳し、収束させていく
『今ですお兄様!!』
「なるほど!!!!」
精神干渉をしてきたシンディにより、カイルは理解する
収束させていくクレイに向けて、再びカイルは何度も衝撃波を放つ
収束している途中の自分が最初に放った衝撃波に向けて…
「ぐっ…小僧が……」
「私は貴方の力量を過小評価しない……私の異能力が切れるか、貴方がいつまで収束できるか!!!」
クレイ立ち上がり、片手だったものを両手を使い収束させていく
だが、小さくなるとまたカイルが放つ衝撃波を吸収し、大きくなる
それどころか、自分の手元で浮遊していた球体はどんどん後退しようとする
「ぐ…ぐぉぉぉ…」
「ぐっ…うっ…」
レイピアともう片方の腕を振るうスピードがカイルも遅くなり、一瞬足元もぐらつく
自分が考えていた以上に腕と両足…クレイを最初に蹴り飛ばしたときの両足の間で生み出した衝撃波のぶつかり合いで一回、肘撃ちを繰り出すことにより、両手の間で生み出したことにより二回
動かせるということはダメージを受けているだけで、骨が折れている形跡はないだろう…
だが、このまま振り続けているとどうなるかはわからない…だが…
「私は!!!ここで折れるわけには行かない!!!!初めて出来た友達を…渡してたまるか!!!!!!!!!!」
カイルは衝撃波を生み出しながら、クレイとの距離を詰める
一気に決着をつける…
防戦一方になっている今がチャンス…
「これで決着をつける!!クレイ!!!!!」
カイルは地面を蹴ると同時に足元に衝撃波を生み出し、高く跳躍し、天井に足をつけると
『シンディ、出来るだけ部屋の隅に移動して床に伏せているんだ!!!』
『お兄様!!!!!』
思い切り天井をけり、同じように蹴ると同時に衝撃波を生み出し、衝撃波を利用したスピードであっという間にクレイに近づき、殴りかかる…
だが…
「私とて!!!エミリアお嬢様のため!!!飛鳥は渡さない!!!!!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
クレイは巨大になった衝撃波が逆巻くの球体を空中で身動きが取れないカイルに放つ
カイルはなすすべもなく、巨大な球体に飲み込まれ…
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」
天井に叩きつけられ、球体は爆発し、カイルはなすすべもなく落ちる
完全に収束しきっていれば、元に戻ろうとする反発の力でカイルの体は粉々になっているだろう
だが、収束しきれずに巨大な球体だったため、爆発する力は強くなく、カイルの体は無事だった
それでも深刻なダメージは免れず、カイルは落ちた拍子に腕の関節がはずれ、体全体に走る激痛にもがき苦しんでいた
「お兄様!!!!しっかりしてください!!!早く何とか逃げないと!!」
「いや…」
カイルは痛みを必死に堪え、シンディに支えてもらうと真っ直ぐクレイを見据える
「ぐ…ボウズ…名は…」
カイルの視線の先にいるクレイは座り込み、一度自分の足に刺さっているレイピアを見てから、腕を押さえながら、真っ直ぐカイルを見据えなおす
「カイル・フォールデン…まったく…勝った気がしない…」
そして、カイルは名乗り返すとまた意識が遠のき、気絶する
それと同時に、クレイも気絶する
なぜなら、カイルは飲み込まれる前に片腕の肩の関節、頭に衝撃波を打ち込み、レイピアを衝撃波に乗せて投擲し、クレイの足を串刺しにし、衝撃波の球体に飲み込まれた
だが、それだけの攻撃をされて意識を保っていたクレイの力量はカイルより上と言えるだろう
冷静さを失った時点で勝負は決したのだ
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「何を覚悟を決めたって顔してるのよ鬱陶しい!!!!!」
「……喋ってないでかかってこい…」
舌打ちをし、叫ぶ絵里華相手に、千尋は真剣な表情のまま絵里華を見据える
そんな千尋に絵里華は苛立ちが限界を超え、千尋に向かって再び黒炎を放つ
今回は避けることをせず、ガントレットを装備している手を素早く振り、黒炎を掻き消す
「あぁ…覚悟は決めた…今までお前に対して罪悪感を抱えていた…言い訳はしない…私も千鶴を救えなかった一人なのだからな…だから、私を痛めつけて気が済むならそれでもいいと思えた、だが…」
絵里華が何度も何度も黒炎を放つ中、千尋は冷静に黒炎を掻き消していく
千尋は掻き消しながらゆっくりと前に進んでいく
それと呼応するように絵里華は無意識に後ろに下がっていく
「お前は千鶴の死で道を踏み外そうとしている…ならば…教師として、お前を導かないといけない…見捨てるのは簡単だ…だが、私は大切な生徒を見捨てたくなんてない…」
「うるさい!!!偽善者!!!!口でそんなこと言ってももう千鶴姉さんはいない!!!!もういい…いいのよ…私はもうすべてを壊すだけよ!!!!!」
絵里華自分が後ろに下がっていることに気付き、踏みとどまると無理に千尋に向けて駆ける
だが…
「キャッ!!!!?」
「それが間違っているんだ…絵里華…」
千尋に向けて拳を振り上げたが、千尋は拳を手で受け止めると思い切り絵里華を蹴り飛ばした
絵里華は吹き飛び、地面に転がり悶絶する
それだけ千尋の蹴りは重かった…それだけの力がある
「お前はA・トラウムにつき、力を得たのだろう…だがお前は何も変わらない、憎しみに囚われ、破壊行動を楽しんでいる限りはな…」
「うあああああああああああああああああああああああっ!!!!!知った風な口を利くな!!!!!!!!!!!」
千尋の言葉に、完全に切れ、絵里華は立ち上がると、体全体に黒炎を再び纏う
轟々と怒りに呼応し、炎は強くなる…だが…
「ふっ!!ふぅ!!!!っ!!!」
薬の副作用が現れているのか、絵里華の顔色が変わり、黒炎が切れかけの照明の様に、明滅する
それでも、絵里華は千尋に向けての歩みを止めようとしない…
狂っていたとしても…復讐にとり付かれていたとしても…
絵里華の姉への愛情は確かなもの…千尋は見ていてそう思えた…
「すまなかった…絵里華…」
千尋は絵里華に謝る
千尋の瞳からは涙が流れ、その涙が千尋自身が千鶴を守れなかったということへの後悔を表していた
「うああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
絵里華は叫びながら、自分の持てる最後の力を振り絞り、千尋に駆ける
薬の効果も切れ、異能力もわずかなのか、腕に炎を纏う程度しか発現していないが、それでも構わない…千尋に一撃加えるという想いを乗せて駆ける
「絵里華…復讐にとりつかれるな…」
そんな想いを察してか、一言だけ絵里華に伝えると拳を体で受け止め、静かに絵里華を抱きしめる
そして、延髄に手刀を軽く打ち込み、絵里華を気絶させる
教え子には絶対に見せられないな…と千尋はそう思い、絵里華を抱きしめたまま、まるで子供のように泣き叫ぶ…
あの時、助けられなかった自分にも責任がある
絵里華がこんなことになってしまった責任の一端は自分にもある…
そう思い、この罪を背負うことを決意する
そして、涙を拭い、絵里華の腕にバックパックから取り出した手錠をかけた
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
エレベーターの許容重量の都合上、一気に絵里華たちを連れて外にでるということは出来ないため、班を分けることにした
千尋がいる階層にレイス、クレイ、絵里華の三人を集め、千尋と王斬、茜、シンディの四人が三人を監視し、玲羅とカイルの2人は唯に参戦することを決めた
最初は怪我人でもある2人を送り込むことを千尋たちから反対されたが、ガンとして玲羅とカイルの2人は譲らない上に勝手にエレベーターに乗り込み、地下へと降りていった
「あいつら勝手に…」
苛立ちの表情を浮かべる千尋に対して、茜は苦笑いを浮かべ、シンディは怯え、王斬は豪快に笑い飛ばしていた
「なぁに…心配することはない…玲羅は機転が利く、カイルはここにいるAランク注意人物でもあるクレイ・ヒュインリッヒを逮捕するほどの実力だ…想像以上に力はある…信じるんだ千尋?」
「あぁ…普通の状態なら信じるさ…」
王斬の楽観的過ぎる考えに呆れつつ、ため息をつく
だが、この状況だ…千尋が心配するのもわかる…そう思いシンディは優しく微笑み…
「大丈夫ですよ唯さんもいるんです…皆さんなら何とか…」
そう伝えると千尋は優しく笑みを浮かべ、シンディの言葉にコクリと頷く
だが…
「まずは自分の心配をすることだなお前たち…」
千尋たちは声が聞こえ、玲羅とカイルが使ったエレベーターと反対側にあるエレベーターの前にいる
不敵な笑みを浮かべる全員を見下すような眼差しを浮かべる金髪ポニーテールの少女が二本のナイフを逆手に持ち、存在していた
「お前は…」
千尋と王斬の2人は茜、シンディの二人を護るように立ち、睨みつける
突如襲来したエミリア・A・トラウムに対して…
「さぁ…クライマックスへと進もうじゃないか…」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
飛鳥はまるで暴走したかのようにギプスをしていない片腕に炎を纏い、唯に向けて殴りかかっていた
唯は飛鳥の攻撃を回避しながら、ただ自分からはまったく攻撃をしなかった
ただいつもならこれだけ異能を発動し続けていたのなら、異能力切れでとっくに異能を使うことが出来なくなっているだろう
だが、まったく切れる気配はなく、エミリアに何かされたということは明白だった
まずはそれをどうにかしない限り、飛鳥を解放することが出来ない…
ならばどうする?
飛鳥に対して刃を向けることは出来ない
「飛鳥…」
「っ…ああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」
だが、名前を呼ぶと飛鳥の表情は苦痛にゆがみ、まるで何かを振り払うように…拒絶するように叫び、攻撃を繰り出す…
「壊す!!!!壊す壊す壊す壊す壊す!!!!!」
飛鳥らしくない言葉に唯の表情も苦痛に歪む…
どうしたらいい…自分に何度も問いかける
ただ避けているだけでは解決はしない…
こうなれば気絶させて、正気に戻すしかない…唯はそう考えたのだが、自分の中で飛鳥を攻撃したくない
そんな感情だけが足を引っ張り、攻撃できずにいる
「戻ってください!!!飛鳥!!!」
「うるさい!!!!お前の声を聞くとざわつくんだ…鬱陶しい…壊してやる…壊してやる!!!!」
飛鳥は体全体に炎を纏い、唯に向けて手を翳す
すると唯は一瞬嫌な予感を感じ横に飛び退く…その瞬間、飛鳥の手からパイロキネシスが発動し、先ほどまで唯がいた場所に炎が放たれ、唯の背後の壁が溶け、風穴が開いた
唯は少し恐怖したが、再び飛鳥に視線を向けると、もう一度炎を放つ態勢に入っていた
それだけじゃない、まるで動きを封じるためといわんばかりに唯に向けて駆けながら…
「絶対に壊してやる!!!!」
唯は最近、唯から見ても進歩してきている身体能力に驚かされながらも、今となって唯は体感することになるとは思わなかった…
飛鳥は放つ炎を回避すると次に繰り出される左ストレートを回避、流れるような動きで回し蹴りを放つ…
最後の回し蹴りをギリギリで回避すると同時に肩を掠り、制服の袖が焼け焦げ、唯の白い肌が露になる
埒が明かないと考えた飛鳥は腰に携えていた刀を鞘から片手で抜き、炎を纏わせる
飛鳥は刀を逆手に、ギプスを燃やしつくし、全身に纏っていた炎をギプスをしていた方の腕に集中させる
「っ…」
飛鳥は片腕が痛むことを我慢しながら、唯を睨みつける
だが、唯は飛鳥のその姿を見た瞬間…
「そうですね…お父さんが言ってました…話が通じない時は一度ぶつかり合って対話しないといけないと…」
唯は飛鳥から距離をとると、鞘から片刃剣を抜き、クナイを入れていたホルスターからクナイを抜き、片刃剣を逆手に持ち、空いている片手でクナイを持ち、一瞬のうちに複製する
「飛鳥…貴方とこうして戦うのは不本意ですが…私は貴方を取り戻します」
「っ…うるさい!!!僕はすべてを壊す!!!!!」
そして、2人は同時に動き出し、繰り出した逆手に持った刀同士がぶつかり合い、互いに見詰め合う
唯を破壊するということにとり付かれた飛鳥
飛鳥を救いたいと願う唯
空いている手を唯に翳し、炎を放つ
それを唯は回避すると複製した一本のクナイを投擲する
投擲したクナイを飛鳥は回避するが、肩に掠り、飛鳥は一瞬表情が歪む
互いに行った行動は似ていた…
唯は元々の体術を用いている…だが飛鳥は無意識にも唯を模倣している…
まるで、エミリアに脳内に干渉されたことで暴走状態に陥れられているとしても、唯に憧れている…それだけは忘れないかのように…
玲羅は肩の痛みを堪えながら、まだ飛鳥のいる階層に着かないのか…という風に苛立ちを覚えていた
カイルも何も感じていないように装ってはいるが、カイル自身も焦りを覚えている
「白銀くん…」
「わかってる…」
玲羅もカイルも気付いていた
焦りを覚え、苛立ちを覚えている
その理由は一つ
こんなときに限ってエレベーターが止まっているからだ
まるで何者かに制御されているかのように…
「どうしたものか…」
カイルは口調とは別にエレベーター内の床にレイピアを突き刺すと同時に衝撃波を生み出す
それにより、人一人が通れるくらいの穴が開く
カイルの行動に玲羅はため息をつきながらも穴から下をのぞき見る
すると近くに扉が見えることを確認し…
「賭けね…会長…」
「了解、じゃあ白銀君少し足を支えてもらえるかな?」
カイルは上半身を穴の中に入れ、玲羅はカイルの足の上に乗り、足を掴み支える
「白銀君?」
「何…?」
カイルに突然呼ばれ、玲羅は不思議そうに首をかしげていると…
「何故飛鳥をそのお尻で誘惑しないんだい?」
カイルに突然突拍子もないことを言われ、玲羅は呆れた表情を浮かべ…
「落とすわよ…会長…」
立ち上がろうかどうか迷う
もちろんカイルは慌てて…
「ごめんごめん、ちょっと強くなるから我慢してね?」
玲羅に謝り、一言注意をし、腕を振る
その瞬間衝撃波が生まれ、エレベーターの扉が陥没する…
「ッ!!!!!?ちょっとどころじゃない…会長…」
それと同時に玲羅の肩に巻いてある包帯に血が滲み始める
だがそれでもカイルの体を必死に支える
それも飛鳥のためだと自分に言い聞かせ耐える
「もうあと2発で…はああああああああああっ!!!!!」
もう一回…
カイルが衝撃波が放つと同時に再び陥没し、光が差し込んでくる
ラスト…
それと同時に大きな風穴が開き、人一人通れるくらいの穴が開いた
だが…
「駄目だ…はずれだ…」
カイルの言葉を聞いた瞬間、玲羅の表情に苛立ちが浮かぶ
カイルがエレベーター内に戻ると玲羅は立ち上がり、必死に思考をめぐらせる
「会長、足支えて…」
そして、玲羅は、穴の中に上半身だけ入れ、カイルに足を支えてもらうと次の階層の中を見る
そこは研究所のオフィスのようだった
既に研究所内に研究者はいなく、ここが戦場になるかもしれないという仮定で避難されていると考えた方が自然である
玲羅はその瞬間…
「先に行く」
何か思い立ったのか、一度中に戻ると慎重に穴をくぐり、ロープ巻き上げ式エレベーターということに気付いた玲羅はワイヤーを掴み、激痛を我慢しつつ…
「まったく…白銀君は飛鳥のこととなると無茶をする…」
玲羅は振り子の要領で体を振り、タイミングを計り、ワイヤーを離すとカイルが開いた大きな穴の中に飛び込む…そのオフィスの中に見事侵入を果たしたのだ
カイルは仕方ない…といわんばかりに、玲羅と同じようにオフィスの中に侵入する
カイルはオフィスの中を見渡すと、白を基調とした清潔感溢れるオフィスで、玲羅が何を発見したのか理解する
「なるほど…私たちが乗ったエレベーターは支配されている…もしあっちのエレベーターか敵が使っているものなら…」
「そういうこと…っ…」
カイルの説明に玲羅は同意しながらも、腕を伝い滴り落ちる血を見て、ゆっくり深呼吸をしてから向かいのエレベーターへと歩みを進め始めた
カイルは玲羅にこれ以上無茶をさせてはいけない…と一瞬考えたが…
『人のこと言えないな私も…』
全身を襲う激痛を今まで我慢していたカイルは深呼吸をしてから、玲羅の後を追った
「っ…はぁ…はぁ…」
「貴方の力はその程度なのですか?飛鳥?」
飛鳥は回避することで精一杯になっていた
付け焼刃…見よう見まねで真似た剣技とその剣技を常に高めてきた剣技では差が出るのは当然だ
最初は拮抗していたとしても、見る見るうちに押されていく
唯が投擲してくるクナイを次々に刀で弾き、炎を放とうとすると唯は距離を詰め、峰に返した片刃剣で飛鳥に斬りかかる
それを見た瞬間、後ろに飛び退き回避する
「思い出してください…貴方は破壊を望んで強くなれる人ではありません」
「うるさい…」
飛鳥は後退りながら、刀を構えなおす
唯はそれを確認すると自分の腰に携えていたガンブレードを鞘から抜き、飛鳥の方に放り投げる
「こちらの方が貴方らしく戦えるでしょう…その刀を捨て、ガンブレードをとってください」
それを見た飛鳥の表情が苦痛に歪む
刀を落とし、異能が解け、頭を抑える
「うぅっ…うるさい…耳障りなんだ…お前の声は…」
唯は一瞬悲しげな表情を浮かべるが、振り払い真剣な表情で飛鳥をしっかりと見据える
そして、ゆっくりと唯は歩みを進め、飛鳥との距離を詰めようとする
「貴方は私に憧れている…それが凄く嬉しくて、貴方の優しくて、誰かを守ろうとするところが素敵で、一緒にいたい…まるで貴方を弟のように…千鶴が死んでから作ろうとしなかった親友のように思っています」
「うぅ…うっ!!!!あ゛ああぁっ!!!!!」
飛鳥は襲い来る頭痛に表情がさらに苦痛にゆがみ、地面に膝をついてしまう
それをみた唯は駆け寄りたい気持ちを必死に抑え、飛鳥の目の前に到達すると自分もゆっくりと腰を降ろし、飛鳥の顔をしっかりと見据える
「私も憧れているんですよ飛鳥?他人のために命を掛けられる貴方に…私を助けるために自分の手首を傷つけたり、死ぬかもしれないのに黒炎の中に飛び込んでいったり…私としては頭の痛い貴方の困ったところではありますけど、それでも…私はそんな貴方に憧れます…」
「っ!!!!!うるさい!!!うるさいうるさいうるさい!!!!!」
飛鳥は唯を黙らせようと首に掴みかかる
だが、唯自身まるで苦しくないのだ…まるで破壊衝動と自分の意思が戦っているかのように掴むだけで力を込めようとしない…
「構いませんよ飛鳥…貴方が助かるなら、私を殺してください…」
それを聞いた飛鳥は驚愕し、唯の首を掴んでいた手が震え始める
唯の首から手を離し、自分の頭を抑える
そして、唯が飛鳥の目を見た瞬間、優しく笑みを浮かべる
「ごめん…僕はまた取り返しのつかないことを…」
血に染まっているように赤い瞳だった飛鳥の瞳が片目だけ元に元に戻り、涙を流していた
唯は片刃剣とクナイを落とし、ギュッと飛鳥を抱きしめる…
「私がしたくてしたことです…それより一言だけ言わせてください…」
その瞬間、まるで今まで我慢していた悲しみが溢れ出るように嗚咽を漏らし、子供のように涙を流す…
「もう…私を助けるために自分を犠牲にしないでください!!!私を…置いていかないで…うぅ…あああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
そして、泣き叫ぶ
唯は飛鳥に本音をぶつける
唯にとって、大切な親友を失うということは致命的で避けたいこと
千鶴は唯の目の前で重傷を負い、死んだ
目の前からいなくなり、大切な人を失った
それが再び起きようとした
飛鳥は自分たちのことをかばい、エミリアに下ろうといた
それを唯はあの時助けることが出来なかった…
不安だった…この戦いでまた、千鶴のように飛鳥のことを失うのではないか?
不安で不安で…泣き叫びたい気持ちをずっと堪えていた
だけど…
「良かったです…本当に…良かったです…」
今確かに感じる飛鳥の体温が助けることが出来たということを…唯の心に安心と喜びで満たしていく
飛鳥は唯の悲しみを知ったその瞬間、飛鳥も大粒の涙を流し…
「ごめん…僕が間違っていた…でも…本当は僕だってみんなと離れたくなかった…玲羅とも…カイルとも、千尋先生とも王斬ともシンディとも…唯とだって…みんなが僕を救ってくれた…」
自分の心の中の本音を吐き出す
飛鳥は自分の無力さを呪ってきた…そして、相手を傷つけてしまうことを恐れ、一人でいた
無力さを変えようとミッションを受けようとしたがやはり無力で受けさせてももらえなかった
一人でいようとしたが、そばには玲羅がいようとしてくれた、でもそれ以上友達を作ろうとしなかった
むしろ自分の無力さで友達が出来なかったのは好都合だとも思えた…寂しいという感情は消えることはなかったが…
だからこそ無力な自分がいても仕方がない…なら学校にいる必要もない…
学校を辞めようと考えた
だがそんなことを考えているとき、唯と出会い、自分の世界が変わった…
唯と玲羅と自分でチーム【Salvation】が生まれた
大変なことはあった…唯が過去に抱えていた問題に直面し、無力な自分がとも思ったが、助けるために奔走し、舞踏会では自分には縁がないだろうと考えていたくらいなのに、美人でもある唯とワルツを踊ったが、絵里華が起こした火事に一人突っ込み、絵里華と戦い死にかけた
唯に助けられ、初めてのキスという名の人工呼吸をされ、唯により、絵里華は退けられた
絵里華が何者かに脱走の手引きをしてもらった…飛鳥の家を襲った瞬間からエミリアに脱走の手引きをしてもらったのは確かではある
それは置いておいて、落ち込んでいた飛鳥に下ったのは生徒会長でもあるカイルから私情ミッションとして、悩んでいる妹のシンディをどうにか立ち直らせるというミッションを受けた
三日間カイルたちの住んでいる豪邸に泊まり、シンディと遊び、何とか交流を繰り返した
そして、ある夜、飛鳥は一人食堂から逃げるように出るシンディをほっとけなくなり追いかけた
その瞬間、自分とシンディが似ている…そんな風に思えた
マイナス思考である部分…姉に対してひどいことをいったということで悩んでいた飛鳥と同じようにシンディはカイルに嫉妬していた…力もない自分に何が出来ると…
だからこそ、解決するためにカイルと戦い、飛鳥は強い想いの力でシンディに証明した
力ではなく想いだということを…
シンディを助けることにより、カイルはチームに加わった
気付けば、一人でいるどころか仲間といることが多くなっていた
そして、茜と玲羅…三人でいた時のように、ありのままの自分でいた
茜の足を溶かしたあの時から断念しようとしていた夢…救世主のように誰かを守れる人物になりたいという夢を再び想い始め、仲間をすべてから守りたい…気付けばそう想うようになっていた
そう…気付けば飛鳥はみんなに救われたのだ
飛鳥にとってかけがえのない仲間たちに…
「僕だって…みんなと離れたくない!!!!」
飛鳥がそう叫んだ瞬間、もう片方の目も元通りに戻り、飛鳥の破壊衝動は収まり、元の飛鳥に戻った
そして、そんな飛鳥の本音を聞いた唯も何度も頷き、さらにギュッと強く抱きしめる
飛鳥もそれに答えるように強く唯を抱きしめる
「帰りましょう…飛鳥…」
「うん…唯…」
そして、2人は帰ろうと誓い合い、互いに見詰め合った
「無事解決したならいいけど…なんかムカつく…」
だが、2人はそんな声が聞こえ、エレベーターの方に視線を向ける
飛鳥が使用してきたであろうエレベーターの方を…
「まぁまぁ白銀君、怒る必要はないさ?たぶん君には嬉しい出来事が待っているとおもうしさ?」
すると視線の先には、苦笑いを浮かべるカイルとジトっとした眼差しを向けてくる玲羅の姿がそこにはあった
「玲羅!!カイル!!!」
飛鳥は玲羅にしろ、カイルにしろボロボロな姿を見て、いてもたってもいられなくなり…
「っ!!!?」
飛鳥は涙を流しながら、玲羅を抱きしめた
玲羅はその瞬間、肩の痛みも忘れて、思考がフリーズする
今飛鳥に抱きしめられている?唯ではなく自分が抱きしめられている…飛鳥から…
という言葉が玲羅の頭の中を反芻し、見る見るうちに顔が赤くなる
「ごめん…玲羅にまでこんな傷を…」
飛鳥はそんな玲羅の状況にも気付かず、強く抱きしめる
カイルはそんな飛鳥にため息をつきながらも、まぁ仕方ないことだから今日のところはと思いつつ、そのまま成り行きを見つめることにした
唯も今回ばかりは飛鳥の気持ちをちゃんと理解しているのか、成り行きを見つめていた
「き…気にしなくていい…えとそう…今度2人で図書館に行ってくれたら…許す…」
「うん…僕に出来ることなら必ずするよ…」
そして、飛鳥と玲羅の図書館デートが確定した
もちろんさっきまでは飛鳥の悲しみを理解していたため大人しくしていたが、それを聞いた唯は…
「じゃあ飛鳥?私とは遊園地に行きましょう♪」
飛鳥に遊園地デートを提案
飛鳥にもちろん拒否権はなく…
「えと…僕でよかったら…」
受け入れるしかなかった
そして、さっきまで顔が赤くテンパっていたはずの玲羅は、視線の先で黒笑を浮かべる唯と視線を交わし、カイルは確かに見た…その間で火花が散っていることを…
カイルは苦笑いを浮かべつつ「まったく世話の焼ける親友だ…」と呟きながら
「そろそろ、修羅場を繰り広げるのもいいけど脱出しないかい?シンディや先生たちも待っているんだ」
「しゅしゅしゅっ修羅場!!!!?」
修羅場という言葉に飛鳥は顔を真っ赤にしながら叫ぶが、そんな飛鳥を無視して、黒笑と鋭い睨みつけがカイルを襲い、苦笑いを浮かべながら、エレベーターの方に歩みを進める
飛鳥は慌ててカイルに弁解をしようと玲羅から離れ、カイルを追った
玲羅は唯を一瞬睨もうと考えたがため息をつき…
「ありがとう…飛鳥を助けてくれて…」
エレベーターの方へ歩みを進めながら、唯にお礼をいい既に乗り込んでいるカイルと飛鳥のいるエレベーターの中に入り込む
唯は一瞬驚いた表情を浮かべるが気付くと笑みを浮かべ、自分の片刃剣とクナイを拾い、鞘とホルスターに収めると、飛鳥のガンブレードを手に持ち、エレベーターの方へと歩みを進めた
これで任務終了…
飛鳥達はそう思った
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「僕は…唯がエミリアに見えてて…壊さなきゃ…壊さなきゃってずっと思ってた…」
飛鳥は唯たちに説明をしていた
自分はエミリアに囚われてから、何をされたか…唯と戦っているとき、何を考えていたかを…
「あの時と一緒だった…茜の足を溶かしたときと…エミリアに見えていたのに、気付いたら目の前に唯がいて…肩は火傷しているし、泣いてるし…」
「恥ずかしいので泣いていたところは言わなくていいですよ…」
苦笑いを浮かべる唯に飛鳥は「ごめん…」と謝ると視線を全員に向ける
あの時と違うのは今回は思いとどまる事が出来た…
「私は一つだけ知りたい…あの赤い眼、アンタ気付いてる?」
玲羅の問いかけに飛鳥は俯き、コクリと頷く
飛鳥は洗脳されている間も記憶はあった…そして、自分のために用意された部屋で飛鳥は鏡で見た
その時は何も気にしてはいなかったが、今となっては何故自分にそんな眼が宿っているのか…何故血のように赤い眼に変化するのか…疑問で仕方なかった…
「でも一つだけ理解しているのは…あの眼の時…何かを壊したくなるんだ…まるで僕は殺人鬼だ…」
飛鳥は落ち込み泣きそうになっていると、唯と玲羅の2人は飛鳥に近寄り手を握る
「そんなことありませんよ…貴方に私の声は届きました」
「私はアンタがどんなになっても側にいる…それは変わらない」
2人は微笑み、飛鳥にそう伝える
飛鳥は傷つけるんじゃないか…と一瞬考えたが、それよりも想われている事が嬉しくて自然と笑みが浮かび、コクリと頷き、涙を拭った
「さて、三人でラブってる間に千尋先生たちのいる階層に着いた…」
「ら…ララララララララブッ!!!!?」
飛鳥はカイルの言葉に思い切りテンパっていると、扉は開く
ただ、その階層には誰もいなかった
飛鳥たちは誰もいない何もない部屋を見回してみる
すると、まるで何かを穿ったかのような跡が壁にはあり、まるで戦ったかのような形跡があった…
「まさか…」
「多分飛鳥の予想通りだろうね…シンディと茜さんが危ない…」
飛鳥は茜と言われた瞬間、驚愕し唯たちを見た
唯、玲羅、カイルは申し訳なさそうに視線を飛鳥から離す
それを見た瞬間、飛鳥は理解した
だからこそ飛鳥は…
「まったく…昔から茜は無茶をするんだからさ…」
飛鳥はため息混じりにそう呟き、何かしら証拠がないかを調べるため、あたりを見渡す
そんな飛鳥の様子を見た唯と玲羅は安心したが…
「すみません、飛鳥…」
「ごめん、飛鳥…」
一言謝る
そりゃそうだ、飛鳥は一度戦いに巻き込んで、茜の足を奪っている
それなのに茜をまた戦いに巻き込無用なことをしているのだ
飛鳥はそれを落ち込み玲羅たちを責めないのは少し成長しているのはいえるのだろうが、絶対に心の中でショックを受けていることは確かだろう…
だからこそ、唯と玲羅は謝ったのだ
「気にしなくていいよ…それよりも、今はみんなを探そう…」
飛鳥は苦笑いを浮かべながら、唯と玲羅をみる
その表情からして、間違いなくショックを受けていることは理解できた
しかし、飛鳥の言うことももっともだ
だからこそ、唯も玲羅もカイルの三人は頷き、どこに向かったかを考えるための証拠探しを始める
だが…
「…………」
飛鳥は無言になる
そんな飛鳥の姿に疑問を浮かべた三人は飛鳥の視線の先を見据える
視線の先にはエレベーターがひとりでに扉が開いたのだ…
そして、エレベーター内の壁にはナイフで傷つけたかのように…
「やってくれるね…エミリア…」
【地上で待っている…】
と書かれていた
しばらく、飛鳥はエミリアの側にいた
だからこそ理解したのだが、彼女はいろいろな可能性をちゃんと考えている
つまり飛鳥が復活し、唯たちについたことを仮定して、こうしてエレベーターに伝言を残しておいたのだろう…
「行こう…みんな…」
そして、飛鳥の掛け声と共に、三人は頷き、エレベーターに乗り込んだ
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
飛鳥たちは地上に到着し、見たのは…
「待っていたぞ?飛鳥…」
飛鳥は昔、見たことがある格好だ…と思いつつ、必死に怒りを押さえ込み、深呼吸をしてから…
「人質をとるなんて…君らしくないね、僕見たいな雑魚相手に自信がないの?」
強がった表情を浮かべ、嫌味をぶつける
なぜなら視線の先にはクレイに拘束されている王斬の姿、絵里華に拘束されている千尋の姿、レイスに拘束されているシンディ、そして、エミリアにナイフを突きつけられている茜の姿
それを聞いたエミリアは飛鳥の言葉を笑い飛ばし
「まったくだ…しかしだな…私はこいつらのようにお前を過小評価はしない…むしろ私がこの世界で1番お前を評価している…世界を統べる者としてな!」
自信満々に言放つ
そんなエミリアの言葉に、玲羅は怒りが頂点に達したのだろう、銃を構え、引き金を引きそうになったが、唯に止められ、我に返る
「ふふ…先走るな出来損ない…人質は解放しよう…その代わりだ…飛鳥…もう一度戻って来い…」
飛鳥は突然のエミリアの言葉に一瞬揺れる…
エミリアの元に戻れば、人質である、千尋、王斬、茜、シンディは解放される…
「飛鳥!!それだけは駄目!!!私はそんなこと望まない!!!」
エミリアの言葉を聞いた茜は必死に叫ぶ
飛鳥は視線をシンディ、千尋、王斬と向けるが、表情から同じ意見だ…という風な気持ちを察することが出来た
飛鳥は揺れる…守りたい…みんなを絶対に守りたい…そんな気持ちがあるからこそ、エミリアの条件をのみそうになる…
大きく深呼吸をし、後ろにいる唯、玲羅、カイルを見る
三人の表情は飛鳥に…リーダーに任せる…という風な表情に見えた
そして、飛鳥はしっかりとエミリアを見据えると…
「みんな…僕に命を預けて欲しい!!!唯は新垣先輩を、玲羅はレイス、カイルはクレイを任せた…僕はエミリアを!!!行くよ!!」
「はい!!」
「うん!!」
「あぁ!!」
恐怖から来る震えを抑え、叫ぶと同時に飛鳥は唯からガンブレードを受け取り、全身に炎を纏い、エミリアに向けて駆ける
エミリアは考えられる可能性を消すために人質という手を使った
飛鳥は大切な仲間のこととなると自分を犠牲にしてまで仲間を助けようとするほどの人間だ
だからこそ、必ず飛鳥は自分に下る自信があった…
何を言おうと飛鳥は必ず下ると…
だが…今下ることはなく自分に向かってきている…何故…
「何故…何故……う…う…うあああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」
エミリアの表情からさっきまでの余裕は消え、苦痛に歪む
涙を流し、まるで何かを思い出したかのようにその場に膝をつき、その場に蹲る
すかさずそれを見たクレイは王斬を拘束していた手を離し、エミリアに近づき彼女を抱える
「レイス…引き上げる…」
「了解、今飛鳥とぶつけるわけにもいかないわよね…それにこちらとしても狂気的に不利…」
「ちょっと待って!!!?せっかくあの死神と…チッ…」
そして、レイスが引き上げに同意し、絵里華が反論しようとしたが、2人に見られたことにより舌打ちをするとレイスが閃光弾を駆けてくる飛鳥たちに向けて投げる
「全員目を瞑れ!!!!」
千尋の叫びと同時に飛鳥達は立ち止まり目を瞑り、腕で覆い隠す
「うぅ…何故だ…何故手に入れられない…私は…私は…」
そして、最後に飛鳥の耳に届いて来たのは、初めて聞く、エミリアの悲痛な声…
何故…僕をそこまで手に入れようとするんだろうか…そんな疑問が飛鳥の頭の中でよぎるばかりだが瞼を光が収まり、瞼を開くころにはエミリアたちは姿を消していた
飛鳥はその場に膝をつくとガンブレードを落としてしまう
そして、その瞬間、頭の中でまるでロックが掛かるような…
カチャッ…
「っ…」
という音が聞こえ、その瞬間、異能が消えると同時に脱力感に襲われる
そして、異能がまったく発動できなくなる
飛鳥は座り込むと、全員に視線を向ける
「ごめん…僕がみんなを…うあっぷっっ!!!!?」
飛鳥は謝ろうとすると、全力で走ってきたシンディに飛びつかれ、倒れてしまう
「飛鳥さん!!!!飛鳥さん飛鳥さん飛鳥さん!!!!」
そして、シンディらしくない大胆な行動にそれを見ていた唯と玲羅、カイルまでも固まってしまう
しかし、それも仕方ないか…と思いつつ、飛鳥に近づく
飛鳥も、自分の胸に顔を埋め、涙を浮かべるシンディを見て、微笑み、シンディの頭を撫でる
「ごめん…シンディ…もう大丈夫だよ…」
飛鳥は自分は馬鹿だと今改めて思い知る
これだけたくさんの仲間を悲しませてしまった…自分が良かれと思った行動が間違いで、仲間に1番浮かべて欲しくない表情を浮かべさせてしまった
そして…
「っ…」
「くっ…」
玲羅とカイルの2人が痛みを我慢することに限界が来たのか、膝を地面につき、倒れる
カイルは全身に走る激痛、玲羅は血を流しすぎたことによるもの…
精神的にだけではなく、肉体的にも傷つけてしまった
「玲羅…カイル…」
「飛鳥お前も検査を受ける必要がある…大人しくしていろ…」
そして、そんな玲羅たちの姿を見た千尋はまず、玲羅の傷をどうにかしないといけないと考えたのか、バックパックから取り出してきた応急処置用の医療道具を取り出し…
「飛鳥、カイル、王斬も玲羅を見るなよ…」
応急処置を始めるのか、玲羅の服に手をかける
勿論飛鳥は顔を真っ赤にしながら、玲羅から視線を外し、カイルと王斬も目を閉じる
当然だ…傷口を見るためにも、カッターシャツを脱がせる必要性が出てくる
男が見るわけにはいかない…
「も~っ!!飛鳥ちゃんは可愛いなぁ!!そんな照れちゃって見たい?見たいなら姉の私の裸をハキャッ!!!?」
「絶対無いよそれは…」
すると、絶妙なタイミングで近づいてきた茜のボケに飛鳥は茜の頭をチョップし、ツッコミを入れる
ただ…
「…………」
茜は飛鳥にチョップされたことにより、固まってしまう
目を閉じているカイルと王斬は状況を理解していないのだが、唯と千尋、シンディは飛鳥らしくない行動にそれは女の子にしたら駄目…という風な視線を向けるが…
「やっと…だね…」
茜が涙を流し、笑みを浮かべていることに気付き、唯たちは驚く
飛鳥は少し照れくさそうに視線を逸らすも、深呼吸をしてから、茜をちゃんと見据える
「僕は怖かったんだ…茜に嫌われるんじゃないか…って、それが怖くて会いにいけなかった…えとその…僕にとって大切な親友だったから…だから…」
そう、飛鳥と茜の付き合いはこれが普通なのだ…
馬鹿をした茜を飛鳥がツッコム…それはもう男だとか女だとかを超越して、友情を気付いている証といえるだろう
飛鳥の言葉を聞いたシンディは飛鳥から離れると、体を起こした飛鳥
茜は車椅子から地面にゆっくり降りると、飛鳥に抱きつく
「その…また友達になってくれる?」
飛鳥は自信なさげに茜に問いかける
それだけのことをした…だからこそ、飛鳥は自信がない…元の関係に戻れる自信がない…
そんな飛鳥の様子を見た茜は…満面の笑みを浮かべ…
「勿論よ、私はいつまでも飛鳥の親友よ!」
涙を拭って、はっきりという
そして、飛鳥も、茜も互いに涙を浮かべ、子供のように泣きながら、抱きしめあった
そんな二人の絆が再び繋がるところを唯たちは温かい眼差しで見つめるのだった
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!」
「私はいつ撤退を命じたクレイ…」
そこはまるで地下の拷問部屋のような場所
壁にはクレイが手かせにより、拘束され、その目の前には完全に怒りに染めた表情を浮かべるエミリアの姿があり、その後方では視線を逸らし、表情に苦痛を浮かべるレイスと、隅で恐怖に震える絵里華の姿があった
「私が飛鳥を御せないと考えたのか?愚問だありえない!!!!」
「ぐああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」
そして、エミリアが怒りを吐き出すたびに翳した手から死なない程度に調整された電撃をクレイに浴びせる
「部下の分際で私に指図をするとは…偉くなったなクレイ…」
「ぐっ…お嬢様…」
エミリアは電撃を浴びせることをやめ、クレイを睨みつける
そんなエミリアの眼差しに、クレイは朦朧とする意識の中、エミリアに対して「お嬢様」と呟く
「今は主と呼べといったはずだが…?」
「申し訳…ございません…主…」
エミリアは舌打ちをし、クレイから視線を外すとレイスと怯える絵里華を見据える
「チッ…誰も使えそうにないな…あああああああああああああああああああああああっ!!!!」
そして、エミリアが怒りに任せ叫ぶ瞬間、エミリアの背後に電撃で模られた髪の長い女性が生まれ、近くの壁に向けて手が翳された瞬間、電撃の波動が放たれ、壁に大きな風穴を作り出した
エミリアは一人、部屋から出て行こうとする
「クレイ…今回は私の執事をしていたよしみで許してやる…だが次はないぞ…」
そして、それだけ言い残すとエミリアは部屋を出て行った
「大丈夫?クレイ…」
そして、それを確認すると、レイスはクレイに問いかける
クレイは頷くと同時に、気絶した
レイスはそれを見るとため息をつき…
「大丈夫じゃないじゃない…絵里華…アンタは宵闇に落ちなさい…」
大丈夫じゃないクレイを見守るためか、その場に座り、絵里華を気遣い、レイスなりの言葉で寝てきなさいという
震えながら立ち上がり、部屋から出て行く絵里華の姿を見送るとため息をつき…
「水樹飛鳥…あの主が目をつけるほどの人間…何者なの…」
飛鳥が何者か…自分の中の疑問を無意識に呟く
そして、壁にもたれかかりながら、玲羅から受けたダメージを癒やすためにもその場で眠りについた
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
医療センターに着き、飛鳥、玲羅、カイルの三人は入院が確定した
細胞再生の異能者発見により、医療技術が進歩し、病気以外での入院ということがあまりなくなったのだが、あまりにも無理する人間、回復の妨げをするような人間に対しては入院という拘束を与えられる
例えば…骨折したにも関わらず、ギプスを焼き払い、戦闘に参加する人間とか、全身の骨にダメージを与え、ところどころヒビが入っているにも関わらず動き回る人間、重傷を負っているにもかかわらず、流血した状態で動き回るような人間などなど…
この三人のようなことをする人間には容赦なく入院という選択肢を…いや命令を下されるのだ
「僕1番軽傷なのに…」
誰もいない個室の中でただ呟く…
だが飛鳥の入院には別の理由もある…体隅々までの精密検査だ
膨大な異能が発動したり、使えなくなったり…普通の人間ならば有り得ないことなのだ
だが、飛鳥にはそれが起こっている
飛鳥はそれもわかっているためぼやくがそれでも大人しく眠りにつこうとする
だが…
「飛鳥?まだ起きていますか?」
扉をノックする音が聞こえると共に、家に帰されたはずの唯の声が聞こえる
「えと!!起きてるよ!!」
飛鳥が返事をすると、扉が開き、ブランケットを持った唯が入ってきた
ブランケットがあるということは…
「っ!!唯…泊まるつもり!!?」
飛鳥の問いかけに唯はコクリと頷く
その瞬間、飛鳥の顔は真っ赤になり、あたふたし始める
そんな飛鳥の姿を見た唯は笑みを浮かべ…
「残念ですが、玲羅の所に泊まらせていただきますよ、飛鳥には亜栖葉さんという最高の看護士が…」
飛鳥に残念な報告をする
玲羅のところに泊まるということはまだしも、亜栖葉が泊まるということに飛鳥は気絶しそうになる
恐怖の権化でもある姉が常に付き添う…そう考えただけで飛鳥は地獄だと思えた
「飛鳥?元はといえば貴方が撒いたタネですよ?」
「はい…わかってます…」
だが、自分がまいたタネであるということはちゃんと理解しているため、大人しく姉の付き添いを受け入れることにした
となると…
「じゃあなんで…」
なぜ今唯は着てくれたのだろうか…それが飛鳥の中で疑問だった
飛鳥が寝ているベッドの隣にある椅子に唯は座ると…
「先生から聞きましたか?」
あることに関係することを問いかけてくる
飛鳥は唯の問いかけの意味を理解し、少し寂しげな表情を浮かべる
「聞いたよ…僕は閃条君と朝霧君、天川君が住んでいるところにお世話になることになって、唯は千尋先生の家だよね?」
飛鳥と唯は教師と重要能力者…例えばアキラや勇のようなエヴォリューションの能力を持っている人間を住まわせている学園近くの高層マンションに住むことになったのだ
絵里華が逃げたときから保留になっていたことが実行されることになったのだ
飛鳥と唯だけではなく、玲羅とカイル、シンディもそうなった
茜は学校の都合上、千尋の組織の人間が影ながら、警護に入るということになっている
それを聞いた時には、飛鳥は罪悪感が強くなり、落ち込んだ
だが、そんな飛鳥を玲羅もカイルもシンディも笑って許してくれた
それどころか「罪悪感を感じるなら、これからは私たちの側を離れないで」と玲羅に言われ、それにカイルもシンディも同意した
飛鳥は「それでも…」と言いかけたとき、玲羅に頭を軽くチョップされ、いえなくなった
表情から自分たちは受け入れた…飛鳥にも受け入れて欲しい…そんな表情を見て、飛鳥も受けれいる事を決めた
「そうですね、玲羅とシンディも一緒です」
唯も少し寂しそうな表情を浮かべている
飛鳥は体を起こすと、しっかりと唯の表情を見据える
背負うためにも今の唯の表情を忘れないためにも…
「親御さんはなんて?」
「君が決めたことです、僕は受け入れます…貴方の大切な仲間を貴方の力で守りなさい、それと水樹くんによろしくと言われましたよ、最後のお父さんの言ったことは何故なのかわかりませんが、お父さんは受け入れてくれました。」
飛鳥は少しだけホッとした…
自分の中で親御さんから罵られ、殴られる覚悟をしていた分、ホッとする
「カイルとシンディも玲羅も大丈夫みたいでしたよ、退院してから引越しの準備をするとのことです」
飛鳥はとりあえず何も問題はなかったが、やはり仲間の人生を変えてしまったという責任に押しつぶされそうになる
飛鳥の表情を見て、それを察したのか、唯は飛鳥の手を握る
「先ほども言いましたが、私たちは覚悟しています…貴方はかけがえのない仲間…だからこそ一緒に分かち合いたいのです、逆に私は貴方をほってのうのうと暮らすなんて私にはできません、たぶん玲羅たちも同じだと思います」
飛鳥は理解する
多分逆の立場なら自分も同じことをしたのかもしれない…
「ありがとう…もう大丈夫だよ…」
「はい、それにこれからは一緒に遊べますね?遊園地、楽しみにしていますよ?」
飛鳥はそう考えていると、2人で遊園地に行く約束をしていることを思い出し、飛鳥は少し顔が赤くなる
2人ということはデート…唯とデートと頭の中でずっと連想され、飛鳥はオーバーヒートしそうになる
それを見た唯はクスッと笑みを浮かべ、唯もわずかに頬を赤く染めながら、部屋から出て行った
「唯…といるとホントドキッとくる…」
飛鳥はため息をつきつつも、自分たちの生活が変化することを考える
確かに住み慣れた部屋から引っ越すことになるのは寂しい死、見知った人間がいないことにも寂しさを覚える…だが、自分にはかけがえのない仲間がいる
自分を救ってくれた唯
ずっと側にいてくれた玲羅
時には厳しいけど頼りになる男の親友カイル
自分に似ているけど努力家なシンディ
全員を見守ってくれている先生の千尋
ムードメーカーのコーディネーター 王斬
もう自分は一人じゃない…
だからこそ僕も前に進まないと…
飛鳥はそう思い、進むことを決意する かけがえのない仲間と共に