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Salvation!  作者: フォルネウス
第一章 かけがえのない仲間
7/10

6話 蘇るトラウマ・悪夢の名を持つ者の再来 後編

 

「茜……」

「久しぶりに呼んでくれたね…もう三年も経った、それに私は…」

「ごめん…」

 

 茜が飛鳥に近づこうとしたが、飛鳥はすれ違い部屋から出て行く

 その瞬間、茜の表情は悲しみを帯び、玲羅は茜の手を握り、茜に視線を合わせるようにしゃがむ

 唯たちは突然起こったことについていけなかったが、唯は

 

「玲羅、後で事情は聞きますよ…」

 

 そういって、まずは飛鳥を追うと決め、唯は部屋から出て行った

 しばらく部屋の中で無言な時間が過ぎたが、飛鳥から聞いていたカイルは…

 

「飛鳥が言わないでといった軌条くんは出て行った…これで約束は守ったことになるだろう…」

 

 シンディ一人、首を傾げながら何のことを言っているのか理解できなかった、だが、千尋、玲羅と茜は何のことを指しているのか理解した…

 

「白銀くんのお姉さんが車椅子での生活を余儀なくされた…そうしたのが飛鳥本人であるということを…」

 

 そして、カイルの告げた言葉にシンディは驚愕し、茜の足へと視線がいく

 そう茜の足はロングスカートで隠してはいるが右足が存在しないのだ

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 飛鳥は外に出ると雨が降っていた

 

「あの時と一緒だ…」

 

 飛鳥は蘇った過去の記憶と同じだということを理解し、表情が辛く悲しみに歪む

 

「うぅ…あぁ…うあああああああああああああああああ!!!!!」

 

 そして、人目も気にせず大泣きをしてしまう

 雨に紛れ流れる頬を伝う涙

 何故あの時僕は…なんで僕は…

 

「僕のせいで…僕のせいで!!!」

 

 足元から崩れ落ち、水溜りがあることも気にせず座り込んでしまう

 飛鳥は何度も何度も地面を殴り、こぶしが血に濡れ傷を作っていることも気にせず…

 

 飛鳥は全力で地面を殴ろうと拳を振り上げたとき…

 

「飛鳥…」

 

 背後から手を掴まれ阻まれる

 飛鳥は強引に振り下ろそうとするが絶対にさせない…まるでそんな意思を感じるかのように出来ない…

 

「離して!!!離してよ唯!!!!!」

 

 声で気付く

 後ろから自分の腕を掴んでいるのは唯であるということを…

 

「離しません…私は飛鳥が傷つくことを望みませんから…」

 

 飛鳥は苛立ち、振り返り真剣な表情で飛鳥を見据える唯の姿をしっかりと見据え…

 

「僕が茜の足を溶かしたと言ってもそういえる!!!!?」

「えっ…」

 

 唯に怒りをぶつける

 飛鳥のその言葉を聞いて、唯は驚き動揺する

 

「僕は傷つかないといけないんだ…僕は…僕は…幸せになる価値は無いんだ!!!!」

 

 飛鳥は唯が掴んでいる腕を振り払い、立ち上がるとそのままミッションメイト校舎から離れる

 唯は飛鳥を止めないと…そう思いながらも、動揺しているのか声が出ない

 マイナス思考でヘタレなところはあるが、優しくて、誰かを守ろうとする意思の強さを持ったそんな人物が、玲羅の姉の足を溶かした…それが信じられなくて…思考が追いつかない

 

「飛鳥…」

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 翌日となり、その日…飛鳥は学校に登校してこなかった

 唯は遅れてくるかもしれないと何度か飛鳥の教室に訪れるも、飛鳥が来ることも無く、放課後となった

 

 ミッションメイト校舎の飛鳥たちチームの私室 3012号室ではいつでも飛鳥がもどってきてもいいようにと、唯、玲羅、千尋、カイルの四人のうち誰かは待機していた

 だが飛鳥が来る気配は無かった

 

「昨日飛鳥の家に行ったけど、会えなかった…」

 

 今唯と玲羅の二人が私室で待機していた

 玲羅のその呟きを聞いた瞬間、唯は俯く

 

「そうですか…っ!!!?」

 

 唯がそう呟いた瞬間、玲羅は唯を押し倒し、ホルスターから取り出した拳銃を唯の額に突きつける

 

「新垣絵里華が言っていたことは存外外れてないみたいね…飛鳥はもう過去の男?くっ!!?」

 

 だが、また玲羅の言葉を聞いた瞬間、玲羅を蹴り飛ばし、逆にマウントをとり、玲羅の胸倉を掴み、唯には似合わない怒りと悲しみを表情に浮かべ…

 

「そんなわけが無いでしょ!!!!飛鳥をそんな風に思ったことはありません!!私は…私はあの時飛鳥を止めることが出来なかった…飛鳥が抱え込んでいることを受け止められず動揺して…うっ!!!!?」

 

 玲羅も唯のその表情を見て怒りが湧き、気付いたら思い切り唯の頬を叩いていた

 

「アンタだけが飛鳥の悲しみを救えたのに…なのに…なのに!!!っ!!!!」

 

 玲羅は再び頬を叩こうとしたが唯はそれを防御し、唯は怒りのまま玲羅の頬を叩く

 

「貴方も救えたはずです!!長年一緒にいた幼馴染なのですから!!?あぅ!!!」

 

 唯の一言に玲羅は悔しげな表情へと代わり、唯の胸倉を掴み、強引に引き剥がし、逆にマウントをとると、また思い切り頬を叩く

 

「うるさい!!!アンタがいうな!!!!」

 

 何度も何度も唯の頬を叩き怒りをぶつける

 唯は玲羅の頬を叩く行動をなんとか防御すると玲羅の表情を見ると涙を流していることに気付いた

 

「私も何とか力になろうと思った…でも常に飛鳥の心の中にはアンタがいるの憧れのアンタが!!!!恥ずかしいけど…一緒に寝て抱きしめて慰めていたのに…なのに…なのに!!唯に嫌われたくない…私がいるのにあんたのことを考えてる!!!」

 

 玲羅のこの言葉を聞いた瞬間、唯は目を見開き、驚愕するが、それと同時にそんな自分が飛鳥を追えなかった…その事実が唯の胸の中で突き刺さる

 そう考えていると

 

「そろそろ終わりだよ…」

 

 入り口の方から声が聞こえ、二人はそこに視線を向けると真剣な表情で二人を見据えているカイルと千尋の姿がそこにはあった

 

「ホント…飛鳥がいないとこのチームは機能しない…まさか千尋先生とトレーニングをしている隙にキャットファイトしてるとはね…」

 

 カイルは玲羅に近づくと腕を掴み無理矢理立たせる

 玲羅はカイルの手を振り払い、キッと睨みつけると

 

「アンタは冷静ね…飛鳥がいないっていうのに!!!」

 

 いつもと違い冷静じゃない玲羅はカイルに罵声を浴びせるように叫ぶとカイルはため息をつき、しっかりと玲羅に視線を合わせると

 

「そうだね…私は冷静だ…でもね理由はちゃんとある軌条君や白銀君が冷静さをなくすのはわかっていたからこそ、私は冷静に帰ってくると信じている…友達のためにこのチームを存続させるだけさ…」

 

 カイルは玲羅に自分の考え、飛鳥に対しての友達としてやれることを伝える

 玲羅はそれを聞き、カイルの言葉に気圧されたのか何もいえなくなり、舌打ちをし、部屋の隅に座り込む

 

「まるでこうなることを仕組まれているかのようだ…」

 

 千尋の呟きに全員が視線を千尋へと向ける

 千尋は自分の髪を指で弄りながら、冷静に考えを頭の中でまとめていく

 

「ここから先は警察の仕事なんだが、逮捕した後、不思議なことを言っていてな…本当はするつもりは無かった…でもある人物と出会った瞬間、押し殺していた欲望が湧き出て犯行に出た…とな…」

 

 つまりは亜栖葉のストーカーをしていた小太りなマネージャーは誰かと出会い、精神感応系の能力を使われ、小太りなマネージャーは欲望のまま、脅迫状を出し、亜栖葉を苦しめたと…

 

「錯乱しているだけかもしれないが、私も引渡しの時いたからこそ、精神解析を使い確かめたが、どうやら本当らしい…」

 

 千尋の言葉に唯、玲羅、カイルは驚愕することしか出来なかった

 つまり、この事件はまだ終わっていない…

 小太りなマネージャーはおとりでその背後に誰かがいる

 大きな一つの影が…

 

「一つだけ心当たりがある…」

 

 玲羅は立ち上がると「先生パソコン借ります」といってから、千尋の鞄からノートパソコンを取り出し…

 

「多分この女よ…」

 

 犯罪歴はまったく無いが、危険人物として認定されている

 千尋は戦闘任務も担当している教師だからこそ、危険人物の手配書をデータとして持っている

 それを知っていた玲羅は、ノートパソコンのトップ画面の危険人物リストフォルダの中からデータを表示する

 そのデータの中でSランクに認定されている人物

 

「なん…だと…」

 

 千尋はその人物の顔を見て驚愕し、固まる

 玲羅は続けるようにネットにアクセスすると、一つの記事を引き出してくる

 

「その事故は知っているよ…ジュニア部門の大会での事故…強大な異能を使った少女二人が会場を破壊し、一人の観客が重症を負ったって…」

 

 玲羅の引き出してきた記事は誰しも知っているほどの有名な事件だった

 唯もパソコンに映る記事を見て当時の記憶を思い出していた

 唯は別会場で大会に出場していたのだが、自分の番が終了し、他の会場の試合をモニタリングしていたときに起こった出来事だった

 

「その事件の当事者が…こいつと飛鳥で、重傷を負ったのが姉さんだといったら信じる?」

 

 玲羅の言葉を聞いた瞬間、唯やカイル、千尋は驚愕し、言葉が出なかった

 そのジュニア大会が行われた会場は決して小さな会場ではなく、大人の異能者たちが数十人集まってやっと大破させられるくらいだろう…それを子供二人がやってのけたということで新聞にも取り上げられた

 

「信じられん…飛鳥がそこまで高位の異能者でないことは私が見てきた…」

 

 千尋が言うことももっともなのだ

 これまでの飛鳥の異能を使っているところを見ている限りではそんな高位異能者であるような素振りは無かった…むしろ典型的な下位異能者であることが誰から見ても一目瞭然だ

 そんな飛鳥とノートパソコンに映っている危険人物がジュニア大会の会場を破壊したというのだ…誰が信じられるだろうか…

 

「でしょうね…それよりも今はこの女のこと…私はその時姉さんを病院に運ぶためについていったから見てないけど、最後に見たとき、この女は飛鳥にこういったの「いつかお前を私の物にする…私はお前が気に入った…」とね…」

 

 玲羅のこの言葉を聞いたとき、カイルは頭の中で今回の事件というパズルのピースを組み立てていく

 

「そうか…今回の事件はもしもの仮定の話だが、舞踏会で軌条君を目的とした新垣絵里華が暴れた時のこと…私は報告でのみ聞いているのだが、最後に千尋先生が真実を話してもまるで記憶に何かの映像を刷り込まれているかのように叫んだと聞いているよ、新垣絵里華がもしその子に操られているとする、新垣絵里華をスキルアレストへ搬送する車を襲ったのがその子だとしたら…」

 

 カイルがここまで話したとき、唯の中でも何かがはまったような気がした

 

「つまり、飛鳥の存在を見つけたその子が飛鳥が出てくるであろう人物をターゲットにし、飛鳥をおびき寄せようとした…ですか?」

 

 唯の推理を聞いたカイルはニコッと笑みを浮かべ、コクリと頷く

 まとめるとこういうことだ

 ○新垣絵里華は危険視されている少女によって操られている

 ○新垣絵里華が舞踏会で起こした事件により飛鳥を発見

 ○亜栖葉のストーカーでもある小太りの男は少女の精神感応系能力により、欲望を増幅されていた

 ○それにより亜栖葉の脅迫状事件が起き、飛鳥はミッションを受けた

 ○結果的に飛鳥は片腕を骨折と重傷を負い、今現在疲弊している

 

 だが…

 

「でもおかしいですね…誘き出し、飛鳥を捕まえるなら疲弊して倒れたあの時以外ありませんよね?」

 

 そう、飛鳥は捕まっていないのだ

 三人いたとしても、会場を破壊するほどの力を持っている少女なら、三人を相手にしても、倒せる可能性はある

 仲間がいるのなら、確実に捕えることも出来るだろう…なのに何故現れなかったのか?

 

「まだまだわからないことばかりだが、少し警戒しないといけない状況ではあるな…」

 

 千尋がそう呟くと三人はコクリと頷く

 千尋は携帯電話を取り出し、どこかへ掛け始める

 それを見たカイルは思い立ったかのように…

 

「もしもし?亜栖葉さんですか?カイルです。急なことですみません、今日私と軌条君、白銀君、シンディの四人で泊まりに行きたいのですが…構いませんか?」

 

 カイルは亜栖葉へ電話を掛けていた

 ちなみにミッションが終わった後に亜栖葉が電話番号をカイルに渡したとのこと

 だからこそ、カイルは亜栖葉の電話番号を知っていて、かけることが出来るのだ

 カイルの勝手な申し出に、唯と玲羅は驚愕し、カイルを止めに入ろうとしたのだが…

 

「ありがとうございます、えぇ、必ず飛鳥を復活させますよ…約束します。」

 

 そういって電話をカイルは切った

 つまり飛鳥を復活させるという名目の元、御泊り会が開催されることになったのだ

 唯と玲羅はプルプルと震え、まるで火山が噴火するように

 

「会長!!!私たちの今の状況をわかっての行動!!!?」

「そうです!!こんな顔を腫らした状態で飛鳥に会えるわけないじゃないですか!!!!」

 

 二人は同時に叫んだ

 悲しいことに何度も唯は叩かれているせいか、完全に腫れていることは無いのだが、少しだけ玲羅の手のひらサイズの手の跡がまだ消えていなかったりする

 ちなみに玲羅も唯の高い戦闘能力のせいか、両頬に唯の手のひらサイズの後がくっきりと残っている

 

「それは君たちの自業自得だよ?私は飛鳥が自分で乗り越えられるようにと考えたのだけど、どうやら時間が無い…ちょうど明日は休みだし、いいタイミングだし、行くよ?」

 

 カイルがそういうとまだどこかへ電話をし始め…

 

「あぁシンディ?今から飛鳥の家に泊まりに行くけどどう?うん、オッケー、じゃあメリーダに校門前まで送ってもらうといい、私も校門で待つから四人で一緒に飛鳥の家に向かおう」

 

 とシンディに電話を掛け、シンディも来るためカイルは一足先に部屋を出る

 それを見た唯と玲羅は互いの顔を見て…

 

「少しやりすぎました…」

「私も…ごめん…」

 

 と二人して一気に冷静になったのかため息をつき、一言謝ってから、部屋を出た

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 早めに訓練を切り上げた唯と玲羅は先に着替えを家にとりに行き、カイルはシンディを迎えに、そして、四人で学校から出たところの並木道の十字路で待ち合わせをし、飛鳥の家へと向かった

 飛鳥の家へは唯と玲羅が案内し、到着と同時にカイルとシンディは飛鳥の家の家庭的さに感動していた

 

「へぇ…ここが飛鳥と亜栖葉さんの家、家庭的でいい家だ♪」

 

 カイルはそういいながら、亜栖葉に案内され、唯たちと一緒にリビングに入る

 

「聞いてるわよ、カイルくんの家はもっと豪華なんでしょ?ちょっと狭く思えるんじゃない?」

 

 亜栖葉は苦笑いを浮かべながら、カイルたちにソファに座るよう促すとキッチンの方へと向かう

 それを聞いたカイルは満面の笑みで首を横に振り、リビングのソファに座る

 

「いえ、私とすれば広すぎたり自分の部屋をいくつも所有しているともてあましてしまって…逆にこういう家庭的な家は憧れますよ。」

 

 カイルのその言葉に亜栖葉は素直に喜ぶ

 そんなカイルの姿を見た玲羅はため息をつき…

 

「会長…亜栖葉さん口説いてないで飛鳥のこと…」

「っ!!!?亜栖葉さんを口説くっ!!!??」

 

 カイルとしては世間話をしているつもりだったのだが、どうやら玲羅からすれば口説いているように見えたらしい

 カイルは咳払いをし…

 

「亜栖葉さん、飛鳥の状況はいかがですか?」

 

 亜栖葉に飛鳥の今の状況を問いかける

 その瞬間、亜栖葉の表情は曇り、ため息をつく

 

「あなた達のおかげで昔に比べてだいぶマシになったと思ったんだけど…抱えていただけみたいね…昨日帰ってきてから、ずっと引きこもりっぱなしよ…昨日の夜から何も食べてないし、出前をとって部屋の前に置いてたけど食べてる形跡はないし、部屋の中から泣く声は聞こえるしで、正直事情を知っている分何もできないわね…」

 

 亜栖葉はトレーの上に人数分のお茶が注がれたグラスをカイルたちのいるテーブルの方に向かうと全員にグラスを配り、上座に座る

 

「それに…飛鳥はこうなると自分を追い詰めすぎて頑固になるの…たとえ唯ちゃんが水着姿でフラダンスを踊ったとしても、振り向かないでしょうね…」

「ッ!ケホッ!!!ケホッ!!!!」

 

 亜栖葉の突然の言葉の攻撃に唯はお茶を飲んでいる途中だったため、咽てしまう

 そんな唯の姿を隣で聞いていた玲羅は「確かに…」と呟き、思い出していた

 昔、茜と喧嘩したときになんとか元気を出してもらおうとらしくない「元気をだしなよ飛鳥♪」と満面の笑みでウィンクしたが、白い目で見られた上に「なんか…気持ち悪いよ…?」といわれ、盛大にへこんだことを…

 

「ん~シンディ…今の状況を上手く利用するとかどうかな?」

 

 むせている唯と思い出してへこんでいる玲羅を余所にカイルはシンディに大雑把に問いかける

 するとシンディは真剣な表情でしばらく考えてから…

 

「あまり自信はありませんし、私の意見なので上手くいかないかもしれませんが…」

 

 シンディは唯と玲羅の二人に視線を向ける

 カイルはシンディの考えていることを理解したのか…

 

「よし…それで行こう…後のケアは女性陣にお任せしよう…」

 

 カイルは亜栖葉の入れてくれたお茶を一気飲みし、立ち上がるとそういい残し、リビングを出る

 

 

 

 

 飛鳥は暗い部屋の中で一人ベッドの上で一人座り込んでいた

 思い出してしまったのだ…茜に会い、唯に暴露し、動揺した唯の表情を見て一人逃げ出したことで、昔のあのときの記憶を鮮明に思い出した

 

 子供の頃、異能者として憧れでもあったジュニア大会…

 自分は無理だといったが、茜に無理矢理参加登録をされ、出る羽目になった

 そして、観客席で亜栖葉、茜、玲羅、茜と玲羅の両親に応援されながら、一回戦を迎えた

 対戦相手は金髪の少女で自分の実力に自信を持っている様子だった

 その自信は確かなもので、相手の力に圧倒され、飛鳥は何とか堪えることしか出来なかった

 応援してくれる姉や茜たちのために何とか勝とうと考えたとき、金髪の少女は言った「私が勝てばお前には私の奴隷となってもらう…いや、お前よりもあっちのお前を応援している女の方が…強そうだな…」と…

 飛鳥はその瞬間、完全に頭に血が上り、怒りのまま異能を発動させ、彼女に突っ込んだ

 だが…次の瞬間見たのは感情の高ぶりにより、炎の温度が急上昇し、異能力が切れるまで、観客席にいた亜栖葉や玲羅、茜や玲羅の両親を振り払い、茜の足を焼き、溶かしたところだった

 舞台の方を見ると満足げに笑顔を浮かべる少女の姿がそこにはあった

 そこから飛鳥の記憶は完全に途切れ、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった

 自分の娘の足を溶かした張本人なのに、優しく大丈夫かといってくれた茜と玲羅の父、事情はわかっているわ…だから、気にしないでといってくれた茜と玲羅の母…

 でも気にならないわけが無い…だからこそその日から、飛鳥は茜や玲羅の家に遊びに行くことが出来なくなった

 本当は玲羅ともこうして一緒にいれないとも思ったが、玲羅に「私はアンタを姉さんの分も守る…アンタが自暴自棄なのにほっとけるわけも無いしね…」といいながら、毎日毎日家を訪れてくれたこと、自暴自棄になり、自殺しようとしたとき止めて泣きながら説教してくれたりで今まで甘える形で一緒にいた

 

 でも…

 

「やっぱり僕は…みんなといれないよ…僕はうぅ…」

 

 今日一日で何度考えたかわからない…

 本当は一緒にいたい…でも大切な幼馴染を傷つけた人間

 異能と関係している限り、また同じことを繰り返すのでは?と何度自分に同じ問いかけをしたかわからない…

 だからこそ…

 

「僕は一緒にいてはいけないんだ…だからチームも解散して、学校も辞めようかい?」

 

 飛鳥は扉の外から聞こえた声に驚き、扉の方に視線を向ける

 声からして、カイルが来ていることは理解できた

 だったら都合がいい…

 

「僕にはやっぱり相応しくないよ…君は食堂で話したとき、驚きはしたけど受け入れてくれた…でもやっぱり僕は…一人でいないといけないんだ…もう誰も傷つけないためにも…」

 

 飛鳥は涙を拭い、立ち上がると扉に近づき、扉に背中を預け座り込む

 

「君たちなら大丈夫だよ…カイルがリーダーになってくれたら、みんな安心だよ…僕はみんなより弱いから…力も心も…僕がいなくてもみんなは大丈夫だよ…」

 

 飛鳥は勝手に流れる涙を何度も何度も拭うが、涙は止まらない

 今日一日泣いてばかりなのに、一向に枯れない…

 でもこれでいい…これでいいんだ…と飛鳥は自分に言い聞かせながら、立ち上がろうとしたが

 

「それが…君がいないと駄目でね?私は君がいつか帰ってきてくれる…そう思い頑張れたが、軌条君と白銀君はそうもいかなくてね…トレーニングから帰ってきたらキャットファイトしてるとは、私としても予想外だったよ…」

 

 飛鳥はカイルのこの言葉を聞いた瞬間、思わず立ち上がり、扉を開いていた

 目の前には笑顔を浮かべるカイル、ただそれよりも…

 

「ごめん!!!カイル!!!」

 

 飛鳥は慌てて一階に下りるとリビングの扉を開く

 飛鳥の視線の先には突然の飛鳥の来訪に驚いている唯、玲羅、シンディ、亜栖葉の姿があり、確かに唯と玲羅の頬にはだいぶ薄くはなっているが、手の平の跡が残っている

 

「唯…玲羅…」

「さすがは会長さんですね…」

「ただ、私たちを使ったのは確かなようね…私たち恥の上塗り…」

 

 唯と玲羅はカイルの手腕を褒めつつも、自分たちを出しに使われたということにより少し微妙な気分になりながら

 

「心配しましたよ…飛鳥?」

「まぁ…泣きすぎて目が赤くて、私たちよりもアンタの方が恥ずかしいね…」

 

 飛鳥が姿を現してくれたことを唯は素直に、玲羅は少し毒を吐きながら迎える

 飛鳥は俯き、佇んでいると…

 

「さぁ…君も座りなよ?といっても私が言える立場じゃないんだが…」

「構わないわ、カイルくんの言うとおり、アンタも座りなさい…いや、その前に腹ごしらえね?」

 

 亜栖葉はそういいながら、近くに置いていた財布と車のキーを手にもつとをリビングから出ていった

 飛鳥はあんな事実を話した…聞いただろうに何故自分にそんなやさしくしてくれるのか…という疑問を抱きながらも…

 

「行きましょう飛鳥さん…もうお腹ペコペコです」

 

 ニコッと笑顔を浮かべるシンディに手を引かれながら、リビングをあとにする

 そのあとに…

 

「手を繋ぎ損ねたね?」

「なんのことですか会長さん?」

「そうね…理解できない…」

 

 カイルと唯、玲羅の三人が後に続き、リビングを後にした

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 亜栖葉の運転するワゴン車で到着したのは、見覚えのあるファミレスだった

 唯と初めて出会い、初めてチームに誘われた場所…

 

「懐かしいですね、飛鳥?」

「うん…」

 

 唯の問いかけに飛鳥は少し動揺しながらも頷き、六人席に座る

 順番としては通路側から唯、飛鳥、玲羅

 その向かい側にシンディ、カイル、亜栖葉という配置になっている

 

「あの時の苺パフェを食べている飛鳥、可愛かったですよ?」

「うっ…思い出させないで…」

 

 唯の言葉に飛鳥は自分の黒歴史を思い出し、何故あの時苺パフェを食べたんだ…と後悔しながら、メニューに視線をめぐらせるが、食欲が湧かない…

 

「アンタの分は私が注文する…とりあえずサイコロステーキ定食とサイドメニューで鳥のから揚げ…」

「さすがは玲羅ね、飛鳥の好きなものを理解しているわ」

 

 が…どうやら玲羅により好物とはいえ、とてつもなく食欲が無いときに食べるには重過ぎるものを注文されるらしい…ちなみに普段でもそこまで食べれるわけではない

 亜栖葉の満面の笑みにより、それは可決され、全員頼むものが決まったのか、ウエイトレスを呼ぶボタンを押し、ウエイトレスが来ると各々が注文をした

 飛鳥が玲羅の策略によりサイコロステーキ定食と鳥のから揚げ、唯は和食御膳、玲羅はミートパスタ、カイルは海鮮ドリア、シンディはカルボナーラ、亜栖葉はハンバーグ定食となっている

 あとは全員分のドリンクバーと言ったところだろう

 

「ドリンクバー取ってくる…みんな何がいい?」

「私も手伝いますよ飛鳥?」

 

 いつも通りのテンションとは言わないが、飛鳥はみんなに気を使わせている分、自分が働かないとと思い、立ち上がる

 唯は飛鳥が通れないということで立ち上がったが、その流れで手伝うことにした

 

「私はアイスコーヒー」

「私も玲羅と一緒ね?」

「私は紅茶で頼むよ飛鳥」

「私はオレンジジュースで…あと手伝います!」

 

 各々の飲みたいものを聞いて、飛鳥は唯と最後に手伝いを志願したシンディの三人でドリンクバーへと向かった

 それを見届けた玲羅は…

 

「飛鳥が聞くと間違いなく冷静さを失うので、まずは関係した亜栖葉さんに報告しときます」

「何?」

 

 真剣な表情で亜栖葉を見据え、出来るだけ小声を意識する

 

「明日から、飛鳥に護衛がつきます…といっても最小限に押さえ近くには千尋先生、離れた場所にてほかの教師陣がついているとのことですが…アイツが飛鳥を狙っていますので…」

 

 玲羅のアイツという言葉を聞き、亜栖葉の表情が一気に強張り、冷静になろうとしているのか額を指で何度もつつき、深呼吸を何度も繰り返す

 

「ついに狙ってきたわけね…その言い方だと私が狙われたのにも関係しているわけ?」

 

 亜栖葉の言葉を聞いて、玲羅はコクリと頷く

 それを聞いて亜栖葉はため息をつく

 

「白銀君と亜栖葉さんで通じている話だろう…私は席を外そう…」

「いえ、待って…」

 

 カイルは席を離れようと立ち上がるが、亜栖葉に手を掴まれ、カイルは不思議そうに首をかしげ、また席に座る

 

「飛鳥のことを友達だと思っていると信じて話すわ…多分…あなたたちはこれから命がけの戦いに巻き込まれるでしょうから…」

 

 亜栖葉の言葉を聞き、カイルは驚き目を見開き、亜栖葉を見据える

 

「ごめんなさい…うちの弟の都合であなたたちを…」

 

 カイルは勿論、玲羅ですら滅多にみたことがない、悲しげな表情を浮かべる亜栖葉

 そりゃそうだ…自分の身内の都合で他人を命がけの戦いに巻き込んでしまう…亜栖葉の胸の中で罪悪感が渦巻き押しつぶされそうになっている

 

「確かに自分の命が掛かっているなら…簡単には頷けませんね…それが仕事なら別ですが、しかし、それは赤の他人が関わっているときという仮定、飛鳥のためなら私は構いませんよ、なんせ初めての友人なのですから…さすがに中学生のシンディを巻き込めませんがね…」

 

 だが、カイルは命をかけることを了承した

 それに驚き、亜栖葉はカイルに視線を向けると満面の笑みを浮かべている

 

「あ、なんなら私に対しての報酬として、今度一緒に遊びに行く権利を与えてくださいませんか?」

 

 そして、おどけた調子で、さりげなく自分にデートのお誘いを申し出てくるカイルの姿に亜栖葉は自然と笑顔になり…

 

「わかったわ…考えとくわ、了承した時は最高のデートを約束してよね?」

「お任せください、私は貴方の騎士なのですから…」

 

 亜栖葉も遠まわしにカイルのデートのお誘いを了承する

 そんな二人の姿を玲羅はため息をつきながら…

 

「じゃあ亜栖葉さん…私は飛鳥の所有権一日分で…」

 

 またさりげなく飛鳥を一日所有するという権利を申し出る

 

「えと…僕がなんて…」

 

 それと同時に飛鳥たちドリンクバー組が戻ってきたため、玲羅は無言で持ってきた小説の読書を始め、無視をする

 

「何にも無いわよ、……何にもしてないわよね?」

「してないよ…あの頃は小さかったし、今はそんな気分じゃないし…」

 

 亜栖葉は昔アイスコーヒーの中にオレンジジュースや炭酸飲料いろいろを混ぜられ、一口飲んだときに噴出した記憶があったため、前もって飛鳥に問いかけたのだ

 勿論飛鳥はそんなつもりはなく、ため息をつきながら、持っていた亜栖葉の分のアイスコーヒーと玲羅の分のアイスコーヒーを配り元の席に座る

 

「でもホント飛鳥は苺が好きですね?」

「うっ…」

 

 唯と問いかけに飛鳥はイチゴオーレを一口飲み、笑顔になりそうになったが、真剣な表情を取り繕おうとして微妙な表情になる

 

「気にする必要ありませんよ!!飛鳥さん可愛いですから!!」

「あ…シンディ…」

「ハゥッ!!!?」

 

 そして、シンディは飛鳥をフォローしようとしたが、カイルの制止の声も間に合わなく、飛鳥はへこみ、テーブルに突っ伏す

 一人シンディが慌てふためく中、全員は笑い、その場は盛り上がった

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 そこはとある高級ホテルの一室

 バスルームの扉が開き、バスローブに身を包んだ一人の金髪の高校生くらいだと思われるバランスの取れた体型をしたつり目気味の少女がソファに座りガラステーブルの上においているノートパソコンを操作しながら…

 

『思念通話解放…もしもし、機材は確保出来たか絵里華?』

 

 とその少女はテーブルの上で思念通話解放の文字を画面に映し出した最新型の軍や政府機関、異能者を有しているミッションを受ける学園にしか配布されていない携帯電話に視線を移し、頭の中で伝えたい言葉を思い浮かべる

 すると

 

『はい、確保いたしました。この機材は何に使うのです?』

 

 少女の頭の中に新垣絵里華の声が聞こえてくる

 絵里華の問いかけに少女は怪しい笑みを浮かべながら立ち上がり…

 

『お前に説明の必要があるか?』

 

 高圧的な態度で絵里華の問いかけをつき返すが…

 

『いえ、差し出がましいことをいたしました』

『よろしい…だが大雑把にだけ言っておこう…解放だよ…解放…』

 

 冷蔵庫で冷やしていたグラスにジュースを注ぎ、一気に飲み干すと、一歩引いた絵里華に満足してか、思念で絵里華に断片的に伝える

 グラスをテーブルの上に置くと、少女はキングサイズのベッドに寝転び、バスローブの袖を捲ると腕に刻まれた火傷の跡に視線を向ける

 

『ホント…この私がここまで執心するんだ…期待に答えてもらうぞ…ふふっ…』

 

 少女は一人笑みを浮かべながら、思念通話を切ると同時に高笑いをあげる

 近くのナイフを手に取ると、体を起こし、壁に貼ったターゲットの写真を拡大したものに投擲する

 見事にナイフは額に刺さり、満足げに笑顔を浮かべる

 

「絶対にお前を手に入れるぞ…水樹飛鳥…」

 

 壁に貼られた飛鳥の写真は最近撮られたもの…亜栖葉の護衛をしていたときの制服姿のものだった

 そして、ノートパソコンに映し出されていたのはファミレスで飛鳥を盛り上げようと楽しそうに談笑する仲間たちと一人無理矢理笑おうとしている飛鳥の姿だった

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 家に帰ると、飛鳥は気分転換をするべきだというカイルの案から、カイルと自分の部屋で格闘ゲームをしていた

 だが…

 

《YOU WIN》

「また勝った、次はどのキャラでいこう…」

 

 どうやらカイルがやりこんでいる格闘ゲームだったらしく、ゲームセンターのゲームパッドを柄手いるため骨折しているという理由を使うことも出来ず飛鳥は完膚なきまでに負けているのだ

 愛用キャラを使っているのにまったく勝てない

 様子からして、カイルはまだ本気のキャラを使っていないと見えるのに

 

「えと…僕そろそろ違うゲームがしたいなぁ~なんて…」

 

 これ以上負けると盛大にへこむと思った飛鳥は違うゲームをするという案をカイルに出してみる

 

「あぁ、構わないよ、それにしても飛鳥はいろいろなゲームを持っているから私としてもかなり楽しめるよ…」

 

 すると、カイルはその案を受け入れてくれたのか、飛鳥のゲームソフトを収納している棚を物色し始めた

 飛鳥は心の底から安堵するが…

 

「あれ?奥になにか…」

「うああああああああっ!!!?」

 

 カイルは飛鳥の秘密の花園スペースを見つけてしまったらしく

 カイルは取り出したソフトを見て固まっていた

 飛鳥は恥ずかしくなり、カイルを直視できないでいた

 飛鳥の秘密コレクションでもある恋愛ゲームである

 そして、よりにもよって題名がかなりインパクトある…

 

「ドキドキパラダイス~あの娘と一緒にパラダイスへダイブ!~…」

「題名読まないでっ!!!?」

 

 何気に好みのキャラクターが多くてお宝でもある一品なのだ

 飛鳥は気まずい雰囲気に堪えかね、先に布団の中にもぐりこむ

 

「ちなみに飛鳥はこの中でどの子が好みなんだい?」

 

 ただ、カイルの次の質問に飛鳥は驚き、布団の中から顔を出す

 飛鳥はまさか受け入れてくれると思っていなかったため、少し戸惑いながら

 

「黒髪の子と、赤髪の子…金髪の子…かな…三人とも個性豊かで面白いキャラクターなんだ…黒髪の子は優等生でみんなのアイドルなんだけど、可愛いものには目が無くて可愛いものを見つけると落ち着いた雰囲気が変わって例えばぬいぐるみだったら一向に離さなくなるほどで」

 

 カイルはこの説明を聞いた瞬間、首をかしげそのキャラを凝視する

 

「赤髪の子は幼馴染なんだけど、クールで毒舌屋、主人公のことを馬鹿にしてばかりなんだけど実は主人公のことが好きで素直になれないところが可愛くて…」

 

 カイルは次に赤髪の子を見てまた首を傾げる

 

「金髪の子は愛らしいというかマスコットみたいな感じでさ、いつもオドオドしてるしマイナス思考だけど、頑張り屋さんでみんなの力になろうと頑張っているところが凄く素敵なんだ…」

 

 そして、カイルは最後の金髪の子の説明を聞いた瞬間、ブワッと一気に笑顔が黒笑へと変わる

 

「えと…飛鳥…」

「何?」

 

 飛鳥はカイルの背中を見ていたため、表情に気付かず、振り返った瞬間、「ヒィッ!!!?」と悲鳴を上げ、布団をかぶる

 

「多分気付いてないんだろうけど…黒髪の子が軌条くんで、赤髪の子が白銀くん、金髪の子がシンディ…だよね?」

「うぇっ!!!?」

 

 飛鳥は驚愕し、よく考えてみる

 だが…

 

「いや…確かに似ている部分はあるけど、違うよ!!?唯はつり目じゃないし、玲羅は素直だし幼馴染のこと好きってことはないだろうし…シンディはオドオドはしてるけどそのキャラとは違って頭が凄くいいし…ぜんぜん違うよ?」

 

 だが、飛鳥から見たらぜんぜん違うキャラクターであり、唯たちとは違うと否定

 飛鳥の言葉にカイルは納得いかない…という風に渋い表情へと変わるのだが…

 

「わかった…このゲーム、君が寝ている間にクリアしよう…そこで実証してみせる」

 

 カイルはそういってゲーム機本体にディスクをいれ、プレイを始める

 飛鳥は突然のカイルの行動に少し驚き、ゲームに集中し始めたカイルに気付かれないように部屋から出る

 

 飛鳥はまさかこんなことになるなんて思えず、一階に下りようとしたとき…

 

「どうしたんですか?飛鳥?」

 

 向かいの部屋から出てきたパステルカラーをしたパジャマ姿の唯と遭遇し、相変わらずのパジャマ姿のセクシーさに飛鳥は少し戸惑ってしまう


「えと…カイルがゲームに集中し始めたから、リビングでくつろごうかな…ってさ…」

 

 飛鳥はなんとかそんな自分を誤魔化すように唯にそういうと

 

「私もご一緒しても構いませんか?」

 

 飛鳥の一人くつろぎパーティーに参加の申し込みをした

 飛鳥は一瞬、誰か他に呼ぶか…と考えたが、それを振り払い…

 

「うん…唯がよかったら…」

 

 そういって唯と一緒に一階へと降りていく

 リビングに到着すると、飛鳥はキッチンに向かいながら

 

「床暖房起動」

 

 と呟き、その瞬間、床暖房が起動する

 亜栖葉の趣向から、コーヒーは豆から挽き、コーヒーメーカーにて作るようになっている

 ただ、亜栖葉が分量を間違えて作るため、亜栖葉が作る時は大惨事となる

 飛鳥はそのため、毎回自分で作るようにしている

 

「私も手伝いましょうか?」

「ううん、僕これくらいしか出来ないし、だから唯はテレビでも見てて?テレビON」

 

 音声認識により、テレビが点き、唯はソファに座ると飛鳥のお言葉に甘え、ゆっくりすることにした

 飛鳥は言葉に甘えてくれたことにホッとした

 正直一緒に食事をしたりはしたが、完全に罪悪感が消えたわけではない

 自分が引きこもり、みんなから遠ざかったことにより、唯と玲羅はケンカをした…時間がだいぶ経ったおかげか、頬に叩かれた跡は無くなったが、飛鳥の心に残った罪悪感は未だに消えない…

 

「唯…ごめん…」

 

 飛鳥はコーヒー豆を挽きながら、泣きそうになりながらも謝る

 テレビを見ていた唯はキョトンとした表情で飛鳥の顔を見て、自分の頬を見ている事に気付き…

 

「そのことなら、私は気にしていません…」

 

 唯は飛鳥に視線を向けるとニコッと笑みを浮かべ答える

 ただ、唯は次の瞬間、苦笑いに変わり、飛鳥は思わず、身構えてしまう

 やっぱり引っかかることがあるんだろうと罵られることを覚悟する

 のだが

 

「でもあまり女の子を傷つけるのは感心しませんよ?私としては嬉しいのですが、玲羅…泣きそうな顔をしてましたよ?寝言みたいなので飛鳥は自覚してないでしょうが…」

 

 飛鳥は寝言…と言われ、顔が真っ赤になる

 ただ、唯の言葉をよく考えてみると笑顔が消える

 玲羅を泣かせようとした…

 どんな寝言を言ったのかはわからない…

 でも間違いなく玲羅を傷つけてしまうことを言ってしまったということは理解できる

 

「唯…僕は…」

「言わなくていい唯…」

 

 だからこそ、唯からどんな寝言を言って玲羅を傷つけてしまったのか知ろうとしたが、リビングに入ってきた玲羅にそれを阻止される

 

「私は気にしてない…私の分の珈琲追加とシンディの分のジュース」

 

 そして、玲羅は唯が話さないように阻止するためか唯の座るソファの隣に座り、シンディは申し訳なさそうに

 

「失礼します…」

 

 とオドオドしながら、テーブルを挟んだ唯の向かい側にあるソファに座りこむ

 飛鳥は気にしてないという玲羅の言葉が嘘であるということはソファに座った時点で理解できた

 玲羅が幼馴染であるが故に飛鳥のことの挙動でなにがあったか理解できるように、玲羅が傷ついたりしていると飛鳥も同じように玲羅の挙動で理解できる

 例えばいつもどんなときでも持ち歩いているはずの小説を集中するためにいつも読んでいるのだが、傷ついていたり、何か悲しんでいる時は、大概娯楽に走ることがあるのだ

 ゲームをしたり、漫画を読む、今で言えばテレビに集中しようとしたりなど…

 

「ごめん…玲羅…」

「何が?私は気にしてないと言ったはず…」

 

 飛鳥は謝るが、どういう経緯で何があったのか理解していないからこそ、謝っても軽い…

 だからこそ玲羅に突っぱねられたと飛鳥は思い、もう黙り込み、珈琲を入れることに集中するしかなかった

 

『僕は傷つけてばかりだ…』

 

 飛鳥は玲羅を見て今まで気付けば誰かを傷つけてばかりだと自分の過去を思い出す

 亜栖葉に暴言を浴びせ泣かせてしまった…

 茜の右足を奪ってしまった…

 それに堪えかね自殺しようとして玲羅を…家族を泣かせてしまった

 自分が正しいと思ってしたのに唯を泣かせてしまった

 僕はいなくていいと考え、唯と玲羅の二人をケンカさせてしまった

 寝言で何を言ったかはわからないが玲羅を泣かせようとした

 

 カイルには「君がいないと駄目でね?」といわれたが、やはり僕がいたら周りを傷つけるんじゃないのか?という疑問ばかりが飛鳥の頭の中をよぎる

 たとえそれが一瞬悲しませるとしても、いつか茜の時と同じように傷つけてしまったら…と考えると怖くなる

 

 飛鳥はそんな自分の考えと同時に千尋の言葉が頭の中をよぎった…

 「おまえ自身が何をしたいのか」という言葉…

 今自分はどうしたいのか…と考え、テレビに集中して、珈琲を待つ唯と玲羅、オレンジジュースを飲みながらテレビを見るシンディの姿、上でゲームをしているであろうカイルの姿を思い浮かべながら、考える…でもモヤモヤとしている頭で答えが出るわけも無く

 そんな思考を振り払い、珈琲を入れることを再開する

 

 珈琲メーカーの水槽の中に温めた軟水を注ぎ、あらかじめ用意していたフィルターペーパーに人数分の分量の珈琲粉を入れ、蓋を閉じると珈琲メーカーのスイッチを入れて出来るのを待つ

 

 飛鳥も余計なことを考えないようにとテレビの方に視線を向けようとしたとき…

 

「え…」

 

 窓の外にある異様な光景に驚愕する

 窓の外には20代くらいの茶髪ショートヘアで長い前髪で片目を隠しているビジュアルメイクをしたスーツ姿の女性と白髪で短髪の筋骨隆々とした40代くらいの寡黙そうなスーツ姿の男性…そして…

 

「新垣絵里華…」

 

 飛鳥の呟きに唯は驚き、飛鳥の視線を辿ると窓の外には、凶悪な笑みを浮かべる絵里華の姿がそこにあり、今まさに窓にむけて黒炎を放とうとしているところだった

 

「危ない!!!!!」

 

 飛鳥の叫びに玲羅も気付いたのか、シンディに覆いかぶさり、そんな玲羅を護るように唯は背を向け、二人を庇う

 そして…

 

 バリン!!!!!!!!

 

 黒炎が窓にぶつかり、爆発すると同時に盛大に割れる音がリビング内に鳴り響き…

 

「っ!!!!」

 

 割れた破片は唯の背中に突き刺さり、唯は悲痛な短い悲鳴を上げ、床に跪く

 

「ハロー水樹くん…死神…」

「あああああああああああああああああああああああっ!!!!」

 

 絵里華は窓からリビング内に侵入すると唯の背中に突き刺さった破片を思い切り踏みつけ、唯は破片が一気に食い込む痛みに絶叫し、もがき苦しみ、床で蹲る

 

 それを見た絵里華は歓喜し、もう一度踏みつけようとしたが…

 

「そこまでだ…今日のターゲットはその女ではない…」

「そう…今回のターゲットはいわばひび割れた卵ちゃん…」

 

 ビジュアルメイクの女性と寡黙な男性に注意を促され、ため息をつきながら、飛鳥に視線を向ける

 それに気付いた玲羅は…

 

「飛鳥には指一本触れさせない!!!!」

 

 立ち上がり異能を発動させようとした…

 

「クレイ、絵里華…彼女半径2mに幻惑のフィールド」

 

 が、ビジュアルメイクの女性がそう呟いた瞬間、ビジュアルメイクの女性とクレイと呼ばれた寡黙な男性と絵里華は2m下がる、玲羅はそれに驚愕し放心していると、ビジュアルメイクの女性は懐のホルスターから拳銃を取り出した

 

「危ない!!!!」

 

 シンディは前もってビジュアルメイクの女性が何をするのか読んでいたのか、玲羅を押し倒したことにより、ビジュアルメイクの女性が打ち出した弾丸を回避することが出来た

 

 飛鳥は今、何が起こっているのか理解できなかった…

 次々に倒れていく仲間…

 唯は背中を負傷し、痛みに苦しんでいる

 玲羅は自分の異能が効かないことに戸惑い、シンディは心を読むことしか出来ず、何も出来ないでいた

 

「状況はつかめないが、戦う他ないようだ…」

 

 二階から降りてきたカイルは突然の状況だが、戦う他ないということを理解してか、手を横薙ぎに振り、三人に向かい衝撃波を放つ

 

「ここは引き受けよう…」

 

 クレイが二人の前に出ると手を前に出す

 すると…

 

「なっ…」

 

 カイルは驚愕し、クレイが起こしている事象に見入ってしまう

 クレイの手の中では、カイルが放った衝撃波が球体へと変化する

 それをカイルの方に投げつける

 カイルは咄嗟に避けようと考えたが、近くに飛鳥がいる事を知って…

 

「ぐっ!!!!!ああああああああああああああああっ!!!!!」

 

 わざとその球体を受けると地面に蹲り、同時に天井まで吹き飛ばされ、天井に直撃すると床に落ち、カイルは床でもがき苦しむ

 それをみた絵里華はクレイの前に出ると

 

「さて?仲間のために犠牲になろうとする水樹くん?どうする?おとなしく着いてくるか…それとも…」

「うっ!!!!」

 

 唯の背中を踏みつけながら、狂喜に近い笑みを浮かべ、飛鳥を見据える

 それを聞いた

 

「いけません!!!!飛鳥…聞いちゃ駄目です…私が貴方を守りますから…」

 

 唯は無理矢理立ち上がり、後ろに飛び退いた絵里華に向かい、鋭い蹴りを放つ

 

「絵里華、一メートル下がって」

「はいはい…ありがとレイス…」

 

 だが、レイスと呼ばれたビジュアルメイクの女性の能力により、絵里華は唯の蹴りを回避し…

 

「女を殴る趣味は無いが任務だ…」

「くふっ…」

 

 唯はクレイの鋭いパンチを腹部にくらい、吹き飛ばされ飛鳥の近くの床で腹部を押さえ、何とか立ち上がろうと試みる

 

 それを見た飛鳥は強い怒りが湧いたが、それよりも…

 

「わかった…君たちについていく…」

 

 これ以上仲間を自分のせいで傷つけられたくない…

 その一心で歩みを絵里華たちの方へと進める

 それをみた…

 

「駄目です!!私たちが何とかしますから!!!」

「ごめん唯…」

 

 唯は痛みに表情をゆがめながらも、必死に飛鳥に制止の声を駆ける

 

「その通りだ…私たちには君がいなければ…」

「いや…君たちならやれるよカイル…」

 

 カイルは飛鳥の足を掴もうとするが、視界が霞み、上手くつかめなかった

 

「あーちゃん…いっちゃやだ…」

「久しぶりだね玲羅…その呼び方…」

 

 自分の異能が通じなかったこと、飛鳥が今からいなくなくなるということから頭の中が混乱しているのか、いつものクールな玲羅ではなく、昔の玲羅が飛鳥にすがるように涙を浮かべる

 

「飛鳥さん…」

「シンディ…君はもっと自信を持って大丈夫だよ…玲羅を助けてくれてありがとう…」

 

 飛鳥はそれだけ言うと絵里華の前に立ち…

 

「僕のことは好きにしていい…これ以上僕のせいでみんなを苦しめるのは嫌だ…だから…誓って欲しい…僕を好きにしていい代わりに、みんなには手を出さないで…」

 

 飛鳥は絵里華を真剣な表情で見据える

 それを見た絵里華はため息をつき…

 

「だそうですよ主…はい…わかりましたでは…思念通話オフ」

 

 絵里華は思念通話をしていたのか、思念通話を切ると、つまらなげに飛鳥を見据え…

 

「約束するそうよ…さ…着いてきなさい…」

 

 絵里華がそう呟くと絵里華を先頭に飛鳥を護衛するようにクレイとレイスが飛鳥の背後に立ち、飛鳥を連れて外へと向かう

 

「飛鳥!!!!!」

「ごめん…」

 

 そして、唯の悲痛な声だけが響き渡り、飛鳥は最後に涙を浮かべる唯の姿に胸を締め付けられるような気持ちになりながらも、これでいい…と自分に言い聞かせ、絵里華たちと共に家を後にした…

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 飛鳥がさらわれて1時間、学園の医療センターにて、唯は背中に刺さったガラスの破片を摘出する手術を受け、カイルは体に異常が無いか精密検査を受けていた

 何も異常が無い玲羅とシンディはそんな二人の状況に戸惑いながらも、亜栖葉に見守られながら唯の手術とカイルの検査が終わるのを待つ

 

「すみません亜栖葉さん…私…何も出来なかった…」

 

 亜栖葉は放心状態で固まっている玲羅に視線を向け、首を横に振る

 

「今警察も動いているようだし、飛鳥は大丈夫よ…玲羅たちは良くやったわ…」

 

 亜栖葉は放心状態の玲羅を後ろから抱きしめ、頭を優しく撫でる

 玲羅は撫でられた瞬間、涙が流れ…

 

「でも…でも…私は飛鳥を守るって姉さんにも亜栖葉さんにも誓ったのに…何も出来なかった…」

 

 いつものクールな玲羅とは違い、弱音を吐いてしまう

 

「いや…私の責任だ玲羅…」

 

 玲羅と亜栖葉は背後から声が聞こえ、振り返るとそこには悲痛な表情を浮かべた千尋の姿があった

 

「水樹さん…私がもっと早く教師陣を配置できれば、こんなことにはなりませんでした…大変申し訳ございません…」

 

 そして、頭をさげ、亜栖葉に謝罪をする

 

「森嶋先生…いえ、先生方の責任でもありません…これは私たち家族とアルプ・トラウム家の問題…そして、飛鳥の力を説明しなかった私たち家族の責任でもあります…」

 

 亜栖葉の言葉に千尋は顔を上げる

 そして…

 

「それを聞いてもかまいませんか?」

「えぇ…」

 

 亜栖葉は意を決して口をひらく…

 

 

 

 

 

 飛鳥がつれてこられたのは飛鳥の家から来るまで1時間走った距離にある隣町の異能研究所【シーカー】

 研究所は上へと階層が延びていくのではなく、地下へともぐる形で建てられている

 飛鳥は絵里華、クレイ、レイスの三人に逃げられないように囲まれながらエレベーターに乗り、最下層へと降りていく

 

「相変わらずねぇ…仲間のためなら自分のことは厭わない…相手があの死神じゃなければ惚れてたかもねぇ…」

 

 狂喜に近い笑みを浮かべながら、絵里華は飛鳥の方に振り返り、顔が互いに触れ合うか触れ合わないかまで接近し呟く

 それを聞いた飛鳥は不敵な笑みを浮かべ…

 

「貴方もそこまで狂っていなければ普通に美人な先輩だったんですけどね…」

 

 挑発するように呟く

 それを聞いた絵里華は高笑いを上げ…

 

「それはありがとう!でも私たちが交わることはないわね!」


 飛鳥とのこれからの繋がりを否定する

 それを聞いた飛鳥も

 

「えぇ…貴方がそのままなら僕としてもありえません…」

 

 否定する

 そんな飛鳥の姿を見た絵里華はつまらなげな眼差しへと変化し…

 

「ほんとつまらない男…」

 

 そういうと前を向き、同時に一階に到着したのか扉が開き、絵里華は横に一歩退くと飛鳥に進むよう手で促す

 飛鳥は言うことを聞くしかないため、そのまま真っ直ぐエレベーターから出ると今まで暗かった部屋の証明が点き、小さなドーム状の部屋が露になる

 部屋の中心にはメディカルチェアがおいてあり、その隣の机の上には医療器具やメディカルチェアの背後に設置された見たこともない機材が置いてある…

 その周りは生活に支障が無いようベッドから何まで設置されている…もしかしたらこの部屋でしばらく暮らさないといけないのか…と飛鳥は思い、視線はある一点に止まる

 

「ようこそ…久しぶりの再会だな…水樹飛鳥…」

「君は…」

 

 飛鳥の視線の先には不敵な笑みを浮かべる黒のゴシックドレスを着た少女が立っていた

 飛鳥の表情はどんどん憎しみへと変化し、飛鳥には似合わない鋭い眼光で少女を睨みつける…

 

「エミリア・アルプ・トラウム…」

 

 そんな飛鳥の眼光も気にすることなく飛鳥へと歩みを進め、飛鳥の目の前に立つと飛鳥の頬を撫でる

 

「その表情…心地いいな…そんなお前を屈服させられると考えるだけで私の心が満たされていくようだ…ふふっ…」

「昔と変わらない…君はいつでも人をイラつかせる…」

 

 エミリアと呼ばれた少女の顔を見ていると飛鳥は苛立ちが募り、今すぐにでもこの憎たらしい笑みを燃やしてやりたい…そう思えて仕方が無かった…

 

「お前は私の戦力の中でエースとなる存在…だからこそ、高級ホテルの一つでもとってやりたかったが…まずはお前を調律しなおさないといけない…さぁ…」

 

 エミリアは部屋の中心にあるメディカルチェアを指差す

 飛鳥はやむをえないと、憎たらしい笑顔を燃やすことをせず、メディカルチェアに向かって歩みを進める

 飛鳥はメディカルチェアに腰を降ろすと、大きく深呼吸をしエミリアを睨みつける

 

「言っとくけど…僕は仲間のために来ただけで、お前の戦力になんかならない…」

 

 それを聞いたエミリアは不敵な笑みを浮かべ…

 

「さて…それはどうかな…お前の意外性なら有り得るかもしれないが…今回は万に一つもない…なぜなら…」

「ぐっ!!!!!!?」

 

 エミリアが近づいてくると同時に飛鳥は頭と胸に激痛が走り、痛みで気絶しそうになる…

 

「私自らお前を作るんだからな…あの時のように…」

「うああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁっ!!!!!?ぐっふ…あああああああああああああああああっ!!!!!!」

 

 そして、エミリアが飛鳥の額を掴むと同時に飛鳥の体に走る痛みはどんどん強くなっていった

 その痛みに苦しむ飛鳥の姿にエミリアはただ、心を満たされる気持ちで鑑賞し続けた

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 唯の手術は成功し、細胞再生の治療により、傷も既に塞がり、動いても大丈夫な状態になった

 カイルの方も何も異常は無く、ただの打撲などの軽いものですんだ

 

 だが、二人とも心の中では飛鳥を助けられなかったという無力感により落ち込んでいた

 唯は飛鳥に対して恩もあるし、それ故に絶対に守ると心で誓い、飛鳥の憧れでいられるよう振舞ってきた…だが、それを否定されるように今回は完膚なきまでにやられた

 

 カイルも初めて出来た友達を守りきることが出来ず、ただやられることしか出来なかった

 

 唯とカイルは治療が終わると同時に家に帰されることになったが、それを拒否し、学校のミッションメイトルームに残った

 それは玲羅もシンディも同じで、今警察が動いているということで情報を得るため、千尋が帰ってくるのを待っていた

 

「はい…ご心配をおかけしてすみませんお父さん…でも大丈夫です私は…」

 

 唯は父親から掛かってきた電話に自分は大丈夫…と答え、電話を切る

 電話口の父親の声はほんとに唯の身を案じている様子だったが、今は自分よりも連れて行かれた飛鳥の身の安全と重要な状況で何も出来なかった無力な自分を強く責めていた

 

「えぇ…私は私が正しいと思うからこそ今ここに残っています…今お父様が言ったとおり私は無力かもしれません…それでも、私はだからと諦めたくはない…それを大切な友が教えてくれました…罰ならいくらでも受けましょう…それでは…」

 

 カイルは父親から珍しく怒鳴り声を浴びせられ、説教を受けた

 だが、カイルとしても言い分がある…ここで諦めて帰れば、最悪飛鳥にあえなくなるかもしれない…

 カイルは初めて出来た友人を見捨てたくない一心で、父親に反抗し、残ることを決意した

 

「シンディ…君は帰るんだ…メリーダに迎えに来てもらえるよう手配する…ここからは君を巻き込むわけには行かない…」

 

 そして、カイルは携帯電話でメリーダにかけようとしたが、咄嗟にシンディは携帯電話を奪い取る

 

「嫌です!!私も…何か出来ることをしたいです…」

 

 カイルは涙を浮かべ駄々をこねるシンディを真剣な表情で見据え…

 

「返すんだシンディ…君に何が出来るんだ…これはもう命がけの戦い…中学生の君にもう出る幕は無い…」

 

 わざと冷たい言葉を浴びせ、泣いて帰ることを考え言放つ

 嫌われても構わない…だが、妹には生きていて欲しい…もし参加することが出来るなら…いやこの戦いに無理にでも参加する気でいるカイル、この戦いは既にもう命がけとなっているそんな戦いに大切な妹を巻き込むわけには行かない…

 だが…

 

「私にとってお兄様以上に飛鳥さんは大切な存在なんです…そんな方を放置するなんて私にはできません!!!」

 

 シンディは真剣な表情でカイルを見据え、カイルの辛辣な言葉に正面から向かい討つ

 シンディのこの言葉を聞いたカイルはさすがに驚き、固まっていた

 

「中学生だろうとなんだろうと、将来はこのチームに籍を起きます…私が高校生になる前に消えることは許しません!!」

 

 カイルはシンディの手や足が震えていることに気付き、シンディは逃げたいと思いながらも自分を奮い立たせ、飛鳥のために主張していることを理解する

 

「飛鳥はいい影響も悪い影響も与えるらしい…」

 

 いい影響…妹を前向きにしてくれたということ、悪い影響…妹が前向きになりすぎて自分の大切な友人の悪いところまで似てきたこと

 そんなことを考えながら、ため息をつき…

 

「まず帰ってきたらちょっと飛鳥をお仕置きしないと…」

 

 カイルは黒笑を浮かべ、シンディの頭を撫でる

 シンディはそれを見た瞬間、悲鳴を上げそうになったが、これではまた連れて行かれないといわれると考え、毅然とした態度を装う

 

「わかった…約束しよう…シンディも連れて行くと…」

 

 その言葉を聞いたシンディの表情はパ~ッと明るくなったが、そんな緩んだ態度を引き締めるように自分の頬を叩き、気を引き締める

 

 それを見ていた玲羅は静かに立ち上がり…

 

「もしもし姉さん…」

 

 携帯電話をポケットから取り出すと自分の姉 白銀茜に電話を掛け始める

 

『どうしたの玲羅?飛鳥の家の方が騒がしいし、父さんと母さんは見るなって言うし…』

「飛鳥が連れて行かれた…」

 

 玲羅の言葉に電話口で茜は絶句する

 そして…

 

『父さん母さん!!!!なんで飛鳥がさらわれたことをなんで黙ってあっ!!!?』

「姉さん!!!」

 

 父親と母親の二人に詰め寄ろうとしたのだろう…だが、茜は車椅子から落ちたのだろう

 玲羅は心配になるが、今は何も出来ない

 

「父さんに代わって…私は姉さんの力を借りたい、飛鳥を助けるためには必要だから…」

 

 玲羅は茜の力が今必要だということを信じて疑わなかった

 だからこそ、父親から無謀だと言われても、玲羅は折れずに真っ向から立ち向かい、自分にとって必要なことだと譲らなかった

 

 玲羅は何とか父親を説得すると…

 

「姉さんの異能は特定の人間の脳波を記憶…姉さんは飛鳥の波長を最重要人物として記憶している…だからこそ、飛鳥の位置を特定することも出来る…姉さんは記憶している脳波の人間の居場所を見つけることが出来る」

 

 玲羅は電話を切り、カイル、シンディ、唯の順に見て呟く

 それを聞いた三人は驚愕し、玲羅に視線を向ける

 

「本当ですか?」

 

 唯は玲羅の言葉を聞くと立ち上がり玲羅に詰め寄る

 

「うん…私が今から姉さんを迎えに行くから、それから教師の判断を仰がなくても出発できる…」

 

 それを聞いた唯はコクリと頷き、ロッカーから鞘に納まった片刃剣とクナイや侵入用の端末が入ったバックパックを取り出す

 

「急ぎましょう…」

「待て…」

 

 そして、唯は一足先に部屋を出ようとしたが部屋に入ってきた千尋に止められる

 

「退いてください…千尋先生…」

 

 行く手を阻む千尋を唯は焦りが浮かぶ表情で見据える

 千尋はため息をつき…

 

「行くことを許可することは出来ない…これは担当教師としての判断だ…お前たちが関わろうとしているのは学生のランクミッションじゃない…社会人のランクミッション、それもAランクのな…」

 

 今回の事態の重さを四人に伝える

 それを聞いたカイル、玲羅、シンディは驚愕し、事態の重さを思い知る

 

「今飛鳥を捜索するために政府の精鋭機関【ヘルト】が動いている…警察機関も動いている上、一学生のお前たちが行っても足手まといになるだけだ」

 

 そして、無残にも千尋は唯たちに現実を突きつける

 学生が首を突っ込んだとしても何も出来ない…

 足手まといだということ…毎日訓練をつんでいる精鋭機関の人間にとっては邪魔なだけだということを千尋は唯たちにはっきりと言う

 だが…

 

「っ!!!!!それでも私は行かないといけないんです!!!亜栖葉さんにも誓った…飛鳥が憧れを抱いてくれている私でいられるように飛鳥を守れる存在であるということを…彼を守れないまま私は他人に任せきりなんて出来ません!!!」

 

 はっきりと唯は千尋の言うことを聞かずに反抗する

 そんな唯に続くように…

 

「私もそのつもり…千尋先生が言ったところで私は止まらない…自分たちのリーダーは自分たちで取り戻す…」

 

 玲羅も静かに千尋の言うことに反抗する

 

「こうなった二人は止められない…千尋先生?まぁ私も同意見…少なくともあのクレイという男性に借りを返さなくてはいけないという目的もある…」

 

 そして、カイルもいつもの飛鳥がいるときのように笑顔を浮かべ、千尋に自分の意見を伝える

 そんな三人の姿を見ていたシンディは…

 

「あの…唯さん、玲羅さん、お兄様…森嶋先生は最初から皆さんを行かせるつもりですよ…」

 

 精神をリンクすることが出来る能力を持つため、千尋の精神を読み取り、三人に伝える

 自分の本音を暴露された千尋はシンディを呆れた表情で見据え、またため息をつく

 

「台無しじゃないかシンディ…カイルや唯は知っているだろうが、うちの教師は独自の政府機関に繋がる組織に所属している人間がいる…だからこそその組織に一時的に所属するということで戦いに参加することが出来る…お前たちは私が率いる…いいな?」

 

 それを聞いた唯と玲羅、カイル、シンディは真剣な表情で頷き、シンディ以外はロッカーにしまっている自分たちの武器とバックパックを取り出し、武器の整備を始める

 

「私とて大切な教え子を奪われたまま黙っていられない…今から一時間後にミーティングを始める…武器の整備が終えたら、一階第一ミーティングルームに来い…」

「「「「はい!!!!!」」」」

 

 千尋の言葉に唯たちは頷き、武器の整備を始めた

 千尋はそんな唯たちの姿を見届けると笑顔を浮かべ、部屋から出て行く

 これから命がけの戦いになるが必ず教え子は自分が守ると胸に誓って…

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「ほぅ…なかなか持つじゃないか飛鳥…」

「っ…はぁ…はぁ…」

 

 飛鳥はドーム状の部屋の中で、メディカルチェアに座らされ、エミリアに額に触れられたまま、ずっと痛みを堪えていた

 

「必死に抵抗しているようだが、何をそこまで必死になる?仲間のため?白銀茜の足を奪うよう仕向けた私が憎いからか?どちらにしてもくだらない…人間支配するかされるかだ…友情ごっこ…仲間意識…そんなものは幻想だよ…」

 

 そんな飛鳥を嘲笑し、エミリアは飛鳥の顔に自分の顔を近づけ、飛鳥の額をさらにぐっと手に力を込める

 

「ぐあああああああああああああああああああああああっ!!!!ふっ!!!!ああああああああああああああっ!!!!!!うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!」

 

 それと同時にまるで思考を強引に捻じ曲げられるような気持ち悪い感覚と強くなった頭痛に飛鳥は大粒の涙が流れるも、エミリアを睨みつける

 

「やはり面白い…」

 

 エミリアは一度手を離し、近くの椅子に腰を降ろす

 指を鳴らすと同時にメディカルチェアの腕置きと足置きに仕込まれた拘束具が働き、飛鳥は拘束される

 

「っ…はぁ…はぁ…なんで僕にそこまでこだわるんだ…」

 

 飛鳥の問いかけに、エミリアは少し驚いたような表情を浮かべ、それから笑い声を上げ、もう一度指を鳴らすと天井から巨大なモニターが出てくると同時に…

 

「生まれて初めてだった…私に一撃を与えた人間を見たのはな…」

 

 映像が映り、そこには怒りを浮かべている飛鳥がエミリアの腕を掴み、絶叫しているところが映っていた

 

「未だに忘れもしない…あのときの痛みをな…」

 

 エミリアは自分のゴシックドレスの袖を捲くるとそこには目も背けたくなるような火傷の跡がそこにはあった

 飛鳥はそれを自分でしたという記憶がまったく無く逆に戸惑いの表情を浮かべてしまう

 

「どうした?私はお前を評価している…それこそ絵里華やクレイ、レイスよりな…」

 

 エミリアは袖を元に戻すと、医療器具を除けると机の上に座りこむ

 飛鳥はなんとか息を整えながら、エミリアを見据え…

 

「それこそ理解できない…僕は無能だ…それこそ君なんかのせいで茜の足を奪ってしまうほどにね…」

 

 エミリアの意見を全否定する

 だが…

 

「あははははははははははははっ!!!」

 

 それを聞いたエミリアは笑い声をあげ、メスを手に取ると軽く放り投げ…

 

「馬鹿を言ってもらっては困る…私はお前の潜在能力を見た一人なんだからな…」

 

 手を掲げると上空に腕に纏わりつくように発生した電撃を操り、さっきまでと違い真剣な表情へと変わり、飛鳥を見据えながら、落ちてくるメスをまるで電撃て掴み取るようにゆっくりと降ろし、最終的には掴み取り、机の上に置く

 

「さて…だからこそお前に抵抗されては面倒だ…上手く引きずり出せない上におまえ自身を壊す可能性もある…」

 

 エミリアは机から降りると、再び飛鳥の目の前に立ち、ゆっくりと飛鳥の額を掴み…

 

「僕がいては仲間を傷つけてしまう…」

 

 エミリアが呟いた言葉に、飛鳥は目を見開き驚愕する

 頭痛と胸の痛みよりも…

 

「やめて…やめてよ…」

「茜の時みたいに唯を、玲羅を…カイルをシンディを千尋先生を傷つけてしまうかもしれない…」

「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

 

 心が痛い…

 エミリアはメディカルチェアに座りながら暴れる飛鳥を押さえつけながら、口元がつりあがる

 

「いいぞ…いいぞ!!!!」


 飛鳥の抵抗は無くなっていく

 最終的に無抵抗となり、飛鳥は完全に気絶する

 それを見たエミリアは手を離すと不敵な笑みを浮かべ…

 

「さて…ではそろそろ腕試しの相手が欲しいところだ…通信システム解放…」

 

 通信システム解放という合言葉と同時にモニターの映像が切り替わり、そこにはクレイが映し出された

 

「何か御用でしょうが主」

「飛鳥をベッドへ運べ、あとレイスに伝えろ、防衛システムモードレッドだ」

 

 エミリアの言葉を聞いたクレイは少し疑問を抱くが、一礼し…

 

「わかりました主、レイス、主の命により、防衛システムモードレッド発動だ」

 

 クレイはそうつぶやくともう一度一礼し、通信を切る

 それを見たエミリアは気絶した飛鳥に視線を向け、上品ではあるが、中に邪悪さが孕んだ笑みを浮かべ、飛鳥に近づき頬を撫でる…

 

「さぁ…これから新しい水樹飛鳥の人生が始まる…私につき従いすべてを破壊する新しい戦士に…」

 

 そして、まるで契約を無理矢理押し付けるかのように、エミリアは飛鳥の額にキスをする

 その瞬間、飛鳥の体は何かが入り込んだかのようにビクンと反応し、再び飛鳥はまぶたを開き、血のように赤い瞳を露わにする

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 ミーティングルームに集まったのは飛鳥のチームでもある【Salvation】と茜、それ以外にも統括学年主任である有馬哲夫と千尋の同僚でもある桐生美琴、王斬、黒髪ショートヘアの眼鏡を掛けたスーツ姿の凛とした男性 天川一縷(あまかわいちる)

 美琴が抱えているチーム【Evolution】

 茶髪ショートヘアの笑顔が似合ういかにもお人好しさがにじみ出ている青年 閃条(せんじょう)アキラ

 水色の長い髪をポニーテールにした美人形の女性にしか見えないつり目気味の青年 朝霧勇(あさぎりいさむ)

 水色の髪をツインテールにしたつり目気味のクールさがにじみ出る少女 朝霧楓(あさぎりかえで)

 茶髪ロングヘアで横髪を後ろで束ねた優しげな表情を浮かべる女性 閃条紗江(せんじょうさえ)

 黒髪ショートヘアで長い前髪で片目を隠した臆病さがにじみ出ている青年 天川(あまかわ)エイジ

 金髪セミロングヘアのつり目気味で明らかに自信に満ち溢れた表情を浮かべる少女 桐生美鈴(きりゅうみすず)の六人もミーティングルームに集まっていた

 

「唯と玲羅、将来的にシンディの三人は初めてなので紹介する、左から閃条アキラ、朝霧勇、朝霧楓、閃条紗江、天川エイジ、桐生美鈴だ…今回飛鳥救出作戦のメイン戦力になる六人だ」

 

 千尋の紹介で唯たちはブリーフィングテーブルを挟んだ向かいに立つ六人に視線を向ける

 すると

 

「みんなよろしく、あと久しぶりだねフォールデン会長」

「あぁ…あの戦い以来だね」

 

 アキラは全員に手を振ってから、視線をカイルに向け挨拶をする

 カイルもそれに答え、笑みで返す

 

「あまり足を引っ張るんじゃねぇぞ?あたしは仲間しか助けるつもりはないからな…」

 

 アキラとカイルのいかにもフレンドリーな挨拶を聞いていた勇はまるで全員にあたしの邪魔をするな…と言いたげに唯と玲羅とシンディの三人を見てから言う

 それを聞いた玲羅はムッとした表情になり…

 

「男の癖にあたしとかいうオカマにそんなこと言われたくないんだけど…」

「んだと!!!!」

 

 勇が気にしているであろうことをいうと勇も血が上ったのか玲羅を睨み付け叫ぶ

 

「はいはい、勇…これから一緒に戦おうとする相手に喧嘩を売らないの?」

「玲羅もそうですよ、飛鳥のためなんです、今は喧嘩をしている場合ではありません」

 

 それを見ていた唯と紗江は玲羅と勇に注意を促す

 聞いた玲羅と勇は互いに視線をそらし、舌打ちをする

 

「意外に相性よさそうだね?千尋ちゃん♪」

 

 そんな2チームを見ていた美琴はニコッと満面の笑みを浮かべ、千尋に視線を向けてそういうと千尋は少し考えるようなそぶりを見せるがこくりと頷く

 

「あぁ…まだ喧嘩をし合えるということはなかなかに見所はあるな…」

 

 勇と玲羅は「どこが…」とボソッとつぶやくが、それを聞いた千尋に睨まれ、二人は視線をそらす

 

「では…作戦会議を始める…」

 

 そして、咳払いをしてから哲夫の作戦会議をはじめるという言葉と同時に全員の視線が哲夫の方へと集まる

 部屋が暗くなり、中央にあるブリーフィングテーブルが発光し、立体的な施設図が浮かび上がる

 

「白銀の姉、茜さんの協力の下、飛鳥のいる位置が特定できた」

 

 茜の異能でもある【ターゲット】

 探知系能力の中でも上位能力でもある能力

 自分の中で記憶できる人間の脳波を元にどこにいようが探知できるという異能

 つまり、それにより飛鳥の位置を特定できたのだ

 

「飛鳥は今、A・トラウムの所有する研究所の地下に幽閉されているとのことだ、現在地下13階にて飛鳥の反応が見られる」

 

 立体的な施設図の地下を表示している中で、13階部分に発光している赤い点が存在する部屋がひとつあった

 つまりそこが飛鳥の今存在する部屋ということになる

 

「この施設はA・トラウム家が所有する施設…つまり、最新の防衛システムが有されている、進行するにはそれにふさわしい覚悟が必要となる…お前たちにその覚悟はあるか?」

 

 哲夫の問いかけ…簡単に言えば飛鳥を助けるために命を掛けられるかどうかの問いかけでもある

 哲夫の表情から、ここで逃げたい人間は逃げてもいい…そういっているようにも思える

 

「彼が私を助けるために命を掛けてくれたように私も飛鳥のために命を掛けます。」

「僕はかまわないよ有馬学年主任、閃条家次期当主としても彼のためにも命を張る覚悟はあるから…」

 

 一番最初に答えたのは唯とアキラの二人

 

「愚問…私が飛鳥のために命を掛けないわけがない…」

「アキラをほっとけるわけもねぇし、あたしも朝霧家次期当主として、命を掛ける…しかし、仲間のためにだがな…」

 

 そして、次に玲羅と勇

 

「私もそのつもりだ…初めてできた友人のため、私の命など安いものだ」

「アキラもほっとけないし、馬鹿兄貴もほっとけない…」

 

 次にカイルと楓

 

「私も恩人の飛鳥さんのためにがんばります!!!」

「私にかかれば何も心配することはないわ」

 

 次にシンディと美鈴

 とそこまでは全員覚悟を決めていたのだが…

 

「大丈夫?エイジ?」

「っ!!!」

 

 紗江の問いかけにエイジは驚き、回りの全員を見る

 不思議そうに首をかしげながら自分を見る唯たち

 アキラと紗江は苦笑い、勇と楓、美鈴はため息をつき、自分の兄でもある一縷は冷たいまなざしでこちらを見ている

 エイジはうつむき…

 

「僕は…」

 

 足手まといになると考え、この作戦の参加を辞退しようとした

 だが…

 

「エイジくんは必要だよ♪なんたって私のかわいいエイジくんだもん♪」

「うあっ!!!」

 

 エイジに駆け寄った美琴がエイジを抱き寄せ、自信を持って作戦の参加を推薦する

 それを見た一縷は…

 

「美琴さん、それはあなたの観点であってうちの役に立たない愚弟になせるわけがありません、ミッションコーディネーターとして却下させていただきます。」

 

 冷徹にも美琴の発言を却下する

 それを聞いたエイジは落ち込みうつむく

 聞いていた美琴はムッとし…

 

「私は少なからずあなたより強いと思っているよ一縷…異能だけじゃない…心もあなたより…」

 

 珍しく真剣な表情で話す

 それを聞いた一縷も怒りとショックが入り混じった表情になり、叫びそうになるが、グッとこらえ…

 

「だからそれは貴方の主観、普段の貴方なら信用しますが、エイジのことに限っては信用しません…」

 

 ガンとして譲らない

 だが、それを聞いていた

 

「一縷くんには悪いけど、僕もエイジの力を信じてる人間の一人だったりするんだ」

「アキラ…」

 

 優しく微笑むアキラの姿があり、一縷は驚愕する

 そして、隣に立つ

 

「あたしもその一人…一縷にはわりぃけど、エイジがいなきゃEvolutionじゃねぇんだ」

「勇まで…」

 

 勇も同意することにさらに一縷は驚愕する

 

「一縷は知らないでしょうけど、私と姉さんはエイジの強いところを見てるのよ…だから、トレーニングとミッションの成績で判断しているアンタに何を言われても、私たちがエイジをはずすことはないわ…ということで統括学年主任…話の続きを…」

「美鈴お前…」

 

 まるでアンタともう話すことはない…そんな風に一縷との会話を美鈴は打ち切り、視線を哲夫の方に向ける

 それを見た哲夫はこくりと頷き…

 

「では作戦内容を伝える…」

 

 そうして、今晩開始される作戦の内容を話し始めた

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 唯は大きく深呼吸を何度か繰り返し、落ち着かせようとしていた

 王斬が運転する黒のワンボックスカー…運転席、助手席の後ろに境があり、後ろは対面式の席となり、武器や機材が積まれているカスタマイズされた車で制服に着替えた唯たちは移動していた

 

 亜栖葉の護衛ミッションの時、飛鳥がさらわれたと知った瞬間、思い出したように、今も唯の脳内でずっと再生されていた…親友だった千鶴が殺されたときのこと…

 もしかしたらあの時と同じように飛鳥を死なせてしまうんじゃないだろうかという不安が自分の心の中で生まれていた

 

「大丈夫か唯?」

 

 千尋の問いかけに唯は我に帰り、無理矢理笑みを浮かべる

 

「えぇ…私は大丈夫ですよ」

「そうは見えない…」

 

 だが、玲羅に否定をされる

 玲羅やカイル千尋、シンディから見ても今の唯の表情は青ざめていた

 事情を知っている玲羅やカイル、千尋は今何を考えているのか察することはできた

 

「軌条くん、無理をしなくてもいい私たちは仲間だ…不安なら吐き出せばいいよ」

 

 唯はカイルの言葉に驚き、苦笑いを浮かべる

 まるで飛鳥がいいそうなことをカイルがいっているからだ

 

「飛鳥の真似ですか?会長さん?」

 

 唯のそんな問いかけにカイルは苦笑いを浮かべ…

 

「まぁ多少なりとだけど…やっぱり私では無理だね」

 

 らしくないことをした…と自分なりにカイルは思う

 それを見ていた玲羅は当然

 

「当たり前…それを飛鳥がやってこそ効力を発揮する…」

 

 全力で否定する

 多少なりと自信があったカイルはプライドを傷つけられ苦笑い

 もちろん玲羅はそんなこともお構いなしに、そんなカイルを無視して精神を落ち着けるために読書を続ける

 

「そうですよお兄様?それを聞いて喜ぶのはお兄様のファンクラブくらいかと」

「あはは…」

 

 そして、シンディにまで否定され、カイルは力なく笑い、ため息をつく

 

「ふふっ…」

 

 そんな唯たちは笑い声が聞こえ、そちらに視線を向けると車椅子に座る茜が笑っていることに気づく

 

「ほんといいチームね…さすが飛鳥のチームって感じがする、誰かが落ち込んでいると意図してないのに誰かが盛り上げようと元気付けようとして、笑いが絶えない…なんだか懐かしい…」

 

 茜は昔のことを思い出していた

 自分が右足を失い、飛鳥が自分にあってくれなくなるまで、それまでは玲羅も含めて笑いが耐えなかった

 玲羅が落ち込んでいると飛鳥が馬鹿をして、自分がそれをツッコンで玲羅を笑わせる

 飛鳥が落ち込んでたら自分が馬鹿をして、玲羅が毒を吐く

 自分が落ち込んでたら、飛鳥が自分のことを抱きしめてくれて、玲羅がそのことについて毒を吐き、気づいたら自分は笑っていた

 

 それがごく自然の流れでこのチームで起こっている…それが水樹飛鳥のらしさ…というものだと茜は思った

 

「でも、貴方には負けるよ茜さん?」

「え?」

 

 だが、カイルの言葉に茜は驚き、カイルに視線を向ける

 

「軌条君や白銀君、シンディの前では話しにくいことだけど…たぶん、飛鳥が言ってた失ってしまった何でも話せる友達…それって茜さんのことだと私は思う…」

 

 そして、カイルの言葉を聞いた茜は目を見開き驚く

 唯は苦笑いを浮かべ、玲羅はため息をつく

 

「私には隠し事ばかりですしね…」

「まぁ当然…姉さんはずっと飛鳥と一緒にいたし、隠していたとしても姉さんのセクハラ攻撃で無理矢理聞いてたし…」

「ちょっと玲羅!」

 

 セクハラ攻撃という単語に茜は反応し、玲羅をとがめようとしたが、玲羅は知らないという風にプイッとそっぽを向き…

 

「それに私がそんな姉さんに嫉妬しているのにも気づかない上に寝ている飛鳥の布団の中にもぐりこむわ…背中をながしまぁ~すとか言いながらお風呂に乱入しようとするわ…」

「あの…玲羅…?」

「飛鳥たんとか言いながら勝手に私の制服着せるとか、学園祭でメイド服着せるとか…」

「えと…玲羅…」

 

 玲羅の怒りのスイッチが入り、ヒステリーモードに入った

 そんな玲羅のヒステリーモードの小言を茜は苦笑いを浮かべながら聞き、唯たちに助けを求めようと視線を向けるが、笑顔で首を横に振られ、玲羅の小言を耐えることにした

 

「などなど…姉さんはあんな手やこんな手を使って飛鳥の心を開かせた…それが私たちからすれば羨ましい…」

 

 ヒステリーモードから落ち着き、玲羅は真剣な表情で茜を見据え、自分の本音を伝える

 

「つまり私たちが言いたいのは、まだ飛鳥と姉さんの絆は切れていないってこと…やっぱり嫉妬するかもしれないけど、また昔みたいに飛鳥と姉さんが笑っているところを見たい…」

「玲羅…」

 

 そして、玲羅の真剣な想いに茜は思わず涙を流す

 その姿をみた唯は笑顔になり…

 

「そのためにも私たちは生きて、飛鳥を救出しないといけませんね…ありがとうございます茜さん、玲羅…貴方たちを見ていたら私もがんばらないと…そう思えました」

 

 ネガティブな思考に押しつぶされてはいけない…そう思い、不安を振り払い、飛鳥を助けるという想いを抱いて、唯はネガティブを振り払ったという証のように笑みを浮かべた

 

「姉さん、ちなみに今姉さんに近づいているのがこの軌条唯だから…」

「ほぅほぅ…確かに飛鳥の好みだと思われるお尻をしていますからなぁ…」

 

 だが、玲羅の言葉を聞いた茜はさっきまで泣いていたのに気づけば、唯のお尻を観察しているというなんともセクハラ親父のようなことをし始め、唯は思わず苦笑いを浮かべ、カイルとシンディ、千尋は玲羅が馬鹿姉と読んでいた理由を思い知り、ため息をついた

 

「お前ら、騒ぐのもいいが、もうすぐ現場に着く!気を引き締めろよ!!」

 

 王斬の言葉を聞き、さっきまで笑っていたが、全員の表情は真剣な表情へと変化する

 今からは命のやり取りをする現場…

 そして、飛鳥を必ず救出する…それが、自分たちの使命、そう誓い、唯たちは真剣な面持ちで現場に着くのを待つ

 

 

 

 

 現場に着いた唯たちは時間が深夜に差し掛かったせいか、不気味な雰囲気をかもし出す塀に囲まれた研究所に少しだけ気おされていた

 だが、飛鳥のためと恐怖を振り払い、真剣な表情で千尋を見据え

 

「では作戦を再度確認する…前衛は私、カイル、中衛が唯、後衛が玲羅、シンディ、茜、王斬で進んでいく…目的地は地下13階にいる飛鳥…救出後、私たちは現場から逃げる…施設の制圧はチーム【Evolution】に任せればいい…いいな?」

 

 小声で作戦を復唱する千尋の言葉を聞き、頷く

 それと同時に

 

『こちら【Evolution】閃条アキラ、こちらは全員配置完了だよ?そっちはどう?』

 

 と全員に通信が入る

 それを聞いた

 

「こちら【Salvation】軌条唯…こちらも配置完了です。いつでも決行できます…」

 

 唯がそうつぶやくと唯は片手にクナイを持ち、もう片方には逆手に鞘から抜いた片刃剣を持つ、そして、腰にはもう一本、飛鳥の武器でもある鞘に収まったガンブレードに視線を落とし、深呼吸をしてから前を向く

 玲羅は二丁の拳銃のを手に持ち、大きく深呼吸をする

 カイルはレイピアを鞘から抜き、精神を集中する

 千尋はガントレットを手につけると何度かこぶしとこぶしを軽く打ちつけ、ならす

 王斬は鎖分銅を手に持ち、落ち着いた様子で戦場を見据える

 

『では互いに生きて帰ろうね』

「えぇ…飛鳥のためにも死ぬつもりはありません…」

 

『作戦開始!』

 

 アキラの作戦開始の合図と同時に足に装備しているバックパックの中から端末を取り出し、で唯はセキュリティー端末にハッキングを試み、扉のロックを解くとまずは前衛である千尋とカイルから突入し、次に唯、次に玲羅、シンディ、茜、王斬と続いていく

 

 研究所へと続く並木道を警戒しながら走る

 だが、何も出てくる気配はない…

 まるで何かの罠を張っているかのように…

 

「警戒は怠るな…一瞬でも気を緩めれば私たちは命を落とす…」

 

 千尋の言葉に唯たちはこくりと頷き、感覚を研ぎ澄まし、警戒を怠らないようにする

 並木道を抜けると唯たちは南入り口の入り口に到着

 アキラたちは北入り口から進入ということになっている

 作戦としてはアキラたちが制圧をしている隙に、唯たちが侵入して飛鳥を救出するという単純だが効率がよく、救出作戦のときによく重宝されるもの

 

「中には誰もいねぇな…」

 

 そして、王斬の異能でもある透視により、中には何もいないということがわかる

 今度はカイルがバックパックから端末を取り出し、扉のセキュリティーにハッキングを試み、ロックを解除する

 

「広いエントランスですね…」

 

 警戒しながら中に進入すると唯は思わずつぶやいてしまった

 わずかな非常灯が着いているだけで暗く気味の悪い雰囲気をかもし出しているが、それ以上に広すぎて隠れ場所の少ないエントランスに、唯は別の恐怖を抱く…

 隠れる場所といえば柱の影や受付カウンターくらいであとはエレベーターに逃げ込むくらいしかない…

 つまりこの広い空間で狙われれば一網打尽にされてしまうということ…

 ただ…

 

「唯の考えていることはわかる…でも何かギミックがない限りは大丈夫だと思う…」

 

 玲羅がいうように逆に隠れる場所が少ないということはそれだけ敵も隠れて待ち伏せということもできないということになる…

 だが、ギミックがない限りは…という条件付ではあるが…

 

 そんなことを考えていると…

 

『ごきげんよう…飛鳥の仲間という名の偽善者たち…』

 

 中央にある壁に設置された巨大なモニターが映り、そこには金髪ロングヘアの少女 エミリア・A・トラウムが映し出された

 

『おやおや、これは驚きだ…白銀茜じゃないか…出来損ないの妹のために出張ってくるとは少し予想が外れたよ…お前と飛鳥はいつも私の予想を裏切ってくれる…だからこそ面白い…』

「そんな能書きはどうでもいい…飛鳥は無事なんでしょうね…」

 

 エミリアの言葉に苛立ちを浮かべながら、玲羅はモニターに拳銃を向ける

 

『白銀玲羅…お前はいつでもせっかちだな…まぁいい…北口から進入しているやつらは今お前たちの作戦通り私の精鋭たちと遊んでいるころだろう…だがこうして私がお前たちと話しているということは…わかるな?』

 

 エミリアの言葉に全員はあたりを警戒する

 するとどこからかまるで何かがせり上がってくるような独特の機械音が聞こえ、何かが来ることを理解する

 つまり二手に分かれて飛鳥を奪還するという作戦がどういうわけかばれているということになる

 

『今からゲームをしよう…お前たちは私の用意するステージをクリアしていく…そうすればおのずと飛鳥の下にたどりつける…ちなみにお前たちに拒否権はない…私の支配の下お前たちには動いてもらう…』

「ばかばかしいね…」

 

 エミリアの支配やゲームという発言を聞きカイルがそうつぶやき、エレベーターに向けて歩き始めようとした瞬間…

 

「っ!!!!!」

 

 壁から何かが射出されるような音がし、ぎりぎり視認できたシンディに向けて放たれたナイフをレイピアではじき、モニターを睨みつける

 そんなカイルの表情を見て、エミリアは不敵に笑い

 

『私をあまり舐めるなよ?この施設は私の手足のように動く…何か違う動きをした瞬間、お前たちは死ぬことになる…あと…こいつもな…』

 

 カメラから離れると次に映し出されたのは…

 

「飛鳥!!!!」

 

 自分の首筋にナイフを突きつける飛鳥の姿だった

 ただ様子が違うのはまるで操られているように無感情で、瞳が血のように赤いということ…

 この様子から見て、エミリアが死ねといった瞬間、自殺を試みるのは誰が見ても理解できる

 つまり残された道は…

 

「わかった…従おう…」

『よし…いい判断だ…』

 

 エミリアのゲームを受けるしかないということ…

 千尋が従うといった瞬間、エレベーターは開き、まるで入って来いという風になっていた

 唯たちは歩みを進め、カイル、千尋、唯、玲羅、シンディ、茜という順に入った瞬間…

 

『スキンヘッドの男は残れ…FirstStage うちの機械兵士 アンドロイドナイトとの死闘だ…』

 

 エミリアが言った瞬間、王斬を囲むように床がせりあがり、中から騎士甲冑のようなものを身に纏うアンドロイドが現れた

 それを見た王斬は不敵な笑みを浮かべ…

 

「機械兵士ごときで俺を止めようとはな…舐められたもんだ…」

 

 一度頭上で鎖分銅を振り回し、地面にたたきつけ、剣を構えるアンドロイド兵士を睨みつける

 

「王斬さん!!!」

「王斬…ここは任せたぞ…」

「おうさ!!!!」

 

 そんな姿を見た千尋は真剣な表情で王斬の背中を見据え、悲痛な叫びを上げるシンディを手で制し、扉が閉じるまで見届ける…

 そして、扉が閉じると同時に、戦闘音が聞こえ始めた

 玲羅とカイル、シンディはこれが本当のミッションなんだということを今更ながら思い知った

 一見千尋の行動は冷たいようにも思えるが、仲間を信じて託した…また別の視点から見るとそう見える

 だからこそ、唯たちは文句を言うこともない…この流れを見ると次にとまったときは自分かもしれないのだから…

 

『おやおや…仲間が取り残されているのに意外に冷静じゃないか…さて…次は誰が犠牲になる番か…ふふっ…』

 

 唯たちが考えているとエレベーター内に備え付けられたモニターがエミリアの映るモニターに切り替わり、乗っていた全員はそのモニターを睨みつける

 

『怖い怖い…さぁ次のステージだ…Second Stage 人間UAVの支配だ…白銀姉妹出ろ…』

 

 そして、扉が開くと同時に何もない…まるで広い戦闘スペースのような部屋が視界に入り、玲羅の視線の先には自分の自信を完全に砕いたビジュアル系メイクの女性が気味の悪い笑顔を浮かべながら見ていた

 

「飛鳥のこと…頼んだね…」

「玲羅、いくわよ…」

 

 玲羅は真剣な表情のまま、茜の車椅子を押し、エレベーターから出て行く

 そして、最後に振り返り、唯の方に視線を向けると唯は真剣な表情でこくりと頷く

 

『あと四人…さて、お前たちは私とのゲームに勝てるか…ふふっ…』

 

 わざと挑発するような言葉を発するエミリアに内心唯たちは苛立ちを募らせる

 だが、ここで怒ってしまっては相手の思う壺…だからこそ、必死に怒りをこらえ、今は仲間を助けることだけに集中する

 

『さて次のステージだ…』

 

 そして、またしばらくしてから扉が開いた

 

『ThirdStage 異能支配地帯…金髪の男とちっこいの…出て来い…』

 

 そして、エミリアのアナウンスとともに、カイルとシンディはエレベーターからでる

 

「軌条君、千尋先生…飛鳥を頼むよ…」

「はい…」

「あぁ…」

 

 そして、カイルが満面の笑みでそうつぶやくと同時にエレベーターの扉が閉じる

 最初は六人もいたエレベーターの中がもう二人だけになっている

 エレベーターが示す階層はB10をさしていた

 次に開くとき、誰が来るか、唯はわかっていた…だからこそ…

 

「千尋先生…飛鳥のことを頼みましたよ…」

 

 エミリアの思考を読み、唯相手に誰を当ててくるか…自分なりに予想した結果、一人しか浮かばなかった…

 

『次のステージだ…』

 

 そして、扉が開くと同時にレイス、クレイのときと同じような部屋につながり、視線の先には唯の予想した人物が立っていた

 

「絵里華…」

 

 唯は大きく深呼吸をし、外に出ようとするが…

 

『勘違いしてもらっては困る軌条唯…FourthStage 復讐者の黒炎…おばさん出て来い…』

「誰がおばさんだ…しかしどうやら私みたいだな…さっきの台詞をそのまま返すぞ唯…」

 

 エミリアからとめられ、明らかに唯と戦えない不機嫌さをかもし出している絵里華と後を千尋託されたことに驚くが…

 

「唯…最初にあの飛鳥を見た瞬間から理解しているだろうが…この戦い…お前が一番つらい戦いになる…あきらめるなよ…唯…」

「はい!」

 

 唯は真剣な表情でコクリと頷き、エレベーターが閉まりそうになると同時に優しく笑みを浮かべる千尋に唯は気を引き締める

 この施設に侵入してからあの映像を見て、唯は覚悟をしていた

 飛鳥と戦う可能性

 自分じゃなくても誰かが飛鳥と戦う可能性を…

 自分に戦えるのか…飛鳥と…

 

 そう考えた瞬間、唯の表情は暗くなる

 飛鳥は恩人であり、大切な仲間…

 だからこそ、唯は飛鳥とは戦えない…

 

『さて…FainalStageだ…』

 

 エレベーター内にエミリアの声が響き渡り、唯は気を引き締める

 エレベーターが開くと同時に視線の先にはスーツ姿の飛鳥が佇んでいた

 いつもと違うのは無表情で、血のように赤い瞳をしていた

 それが飛鳥本人であるという印は骨折の治療を施された片腕

 腰にはエミリアから支給されたであろう武器である刀を携えている

 

 唯は飛鳥を見ると同時にゆっくりとエレベーターから降りる

 今まで戦うなんて考えたことも無かった…

 多分それは飛鳥も同じことであり、もしかしたら、心の中では泣いているかもしれない…唯はそう考えると胸を締め付けられる…

 

「今すぐ解放します…飛鳥…」

 

 唯は大きく深呼吸をしてから、しっかりと飛鳥の姿を見据える

 ただ片刃剣を鞘に収め、クナイはホルスターの中にしまう

 

『仲間同士の殺し合い 開幕だ…お前たちの戦いを楽しませてくれ!』

 

 そして、それと同時にエミリアの開幕の声が部屋の中に響き渡る

 

 

 

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