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Salvation!  作者: フォルネウス
第一章 かけがえのない仲間
6/10

5話 蘇るトラウマ・悪夢の名を持つ者の再来 前編

 

 カイルの家に泊まってから二週間が経過し、学校の制服も衣替えを迎え、、学年別に色が分かれているカッターシャツの胸ポケットに新たに発行されたチームSalvarionバッチをつけ、2学年のカラーでもある青のカッターシャツを着た飛鳥は、王斬と千尋に呼び出され、ミッションメイト校舎のミッション受注部屋に向かっていた

 

「授業が終わったら来いって…何の用なんだろ…」

 

 飛鳥はそう思いながら、いつも笑顔の受付のお姉さんに軽く「おはようございます」と挨拶をしてから、ミッション受注部屋の扉をノックする

 それから入ると、モニターの前で真剣に悩んでいる千尋と王斬の姿があった

 飛鳥は悩んでいるのはモニターの内容が原因か…と思いながら、二人に歩み寄るとモニターには…

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!!!!?」

 

 自分の姉 水樹亜栖葉の姿が映し出されていた

 飛鳥が発狂したことにより、ミッション受注部屋にいた全員の視線が飛鳥に注目する

 勿論、千尋は呆れた視線を送り、ため息をつくと気絶しそうになる飛鳥の体を支える

 

「まったく…どれだけ自分の姉のことが怖いんだ…」

 

 呆れながらも、リーダーである飛鳥を抜きに話を進めてもいけないと思い、意識を失いそうになる飛鳥に対して気付けと…

 

「夏服の唯は刺激的だぞ…特に上半身がな…」

「うきゃっ!!?」

 

 耳元で男の子復活の呪文を唱える

 飛鳥はそれにより、何とか意識を取り留める

 そこら辺、飛鳥もちゃんと男の子らしい…

 

「俺も母ちゃんが学生だった頃の薄着には…滾るものがあったものだ…」

 

 そして、必要が無いおっさんまで反応したことにより、千尋は心の中でげんなりする

 千尋は咳払いをし…

 

「話を進めるぞ…今回思い切った行動ではあるが…護衛任務…つまり戦闘任務込みのミッションを受けようと思う…」

 

 今回の用件を話し始める

 飛鳥は護衛任務と画面に映し出されている姉とどう関係が…と一瞬思ったがそこで思いとどまる

 自分の姉はアイドルであり、ファン関連の事件が無いともいえない…

 

「今回、人気急上昇アイドル ASUこと水樹亜栖葉の事務所から依頼があった、事務所に水樹亜栖葉宛ての脅迫状…これがそのコピーだ…」

 

 飛鳥は家でまったくそんな素振りを見せない姉に少し腹が立ちながらも、千尋からコピーを受け取り、内容を読む

 

「お前は俺のものなんだ…あの男と別れろ、さもなくばその男を殺す…ですか…」

 

 アイドルならありがちな脅迫状だと飛鳥は思ったが、千尋と王斬の様子を見るとそれだけで済む話ではないことは飛鳥でも察することが出来た

 

「実際、最近水樹亜栖葉と熱愛報道として流れている同じアイドルのブリーズのカイトが昨日の朝襲われた…使われた異能は不明だが、カイトは逃げられないように足を折られ、何度も殴打され、現在活動停止となっている…既にカイトの護衛にはうちの学校のチーム アストラルファミリーが護衛についている…本当なら警察の異能事件科に依頼するような事件なのだが、大事にしたくないという両プロダクションの考えでうちに依頼が来た…」

 

 飛鳥はカイトと言われ思ったことは、姉とはまったく熱愛なんかもしてない上にたまたま、言い寄られていたときに週刊誌に撮られ、そうなったと聞いていた

 聞いている限りでは、女たらしで何股もしているほどの女遊びのひどい人ということを聞いており、正直ざまあみろとも思い、可哀想とは思うが、姉のことを考えればその気持ちも薄れる

 ただ、自分の姉も狙われているということを考えると放置できない…

 

「つまり…僕たちが姉さんの護衛を受けないか?という話ですか?」

 

 そんな飛鳥の問いかけに千尋と王斬は考える素振りを見せる

 

「これはな飛鳥…ランクで言うとBに相当する任務だ…正直まだお前たちに任せるのは不安なところもある…唯、玲羅、カイルに関しては問題ない…だがお前の力は不安定だ…」

 

 そして、王斬は懸念している事項を飛鳥にはっきりと伝える

 つまりこうだ…飛鳥の力は平常時、出せたとしてもカイル戦の序盤が限度

 カイル戦の後半に出した爆発的な力は飛鳥自身、無意識にしていたため、あれ以来まったく出せていないのだ

 

 飛鳥としてもそれが最近の悩みであり、どうしたらあのときの力を出せるのか…壁に突き当たっていた

 

「不安定な力は仲間を危機に貶める上に、おまえ自身が死ぬ可能性がある…」

 

 王斬がいうことはもっともだ

 飛鳥は俯き、考える…

 こう考えれば怒られるかもしれないが、仲間の危機を助けるためなら自分の力を超えた力を使って自分が死んでもいいとは思える

 だが…仲間を危機に貶めるのは飛鳥自身本意ではない

 

「だが…」

 

 「だが…」という言葉に、反応し、飛鳥は顔を上げると王斬は飛鳥の肩をつかみ、真剣な表情で見据える

 

「お前の意思に任せるというのが、俺と千尋の意思だ…お前はどうしたい?」

 

 飛鳥は真剣な王斬のその言葉を聞いて、目を見開く

 足手まといの自分が決めていいのだろうか…そんなマイナス思考な問いかけを自分にしてしまう

 でも…

 

「僕は受けたい、実の姉が困っているのに黙っていられる弟なんていないよ…」

 

 飛鳥は大きく深呼吸をしてから、はっきりとした意思を伝える

 それを聞いた千尋と王斬は笑みを浮かべ、千尋はミッションの予約をいれ、王斬が承認する

 残りは理事長と校長の承認のみ…

 

「よし…今日から二日間、お前をガッツリ鍛える…覚悟しておけよ飛鳥」

 

 そして、千尋の鬼軍曹としての血が騒いできたのか、不敵に笑みを浮かべ、ミッション受注部屋から出て行った

 飛鳥はそれを見て、これから起こるであろう出来事に不安を抱きつつも、まずは訓練を生き抜いて、帰ったら、姉さんを今日は説教する…そう決めたからこそ、部屋から飛鳥も出る

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 唯と玲羅とカイルの三人は、トレーニングルームの床に寝転び力尽きた飛鳥の姿に苦笑いを浮かべていた

 他にもトレーニングルームでラフなTシャツとホットパンツ姿のウェーブの掛かった長い茶髪をポニーテールにした千尋の姿がそこにはあり、息切れしている様子もなく、床に寝転がっている飛鳥に向かって…

 

「まだくたばる時間じゃないぞ飛鳥…」

「ふぇっ!!?」

 

 そう言放ち、飛鳥の腕を掴むと無理矢理立たせる

 飛鳥は朦朧とする意識の中立たされ、次に視界に映ったのは…

 

「異能制御も大事だが、お前は体術も足りない…この二日間で目を慣らし、空いている時間はガンブレードに異能力を注ぎ込む練習とパイロキネシスを纏うのではなく放つ練習だ」

 

 練習内容を言う教師らしい半面と左から迫る鋭い中段蹴りを放つ鬼軍曹らしい肉体言語を繰り出す半面…その両方が現れ、飛鳥は千尋から教わった中段防御をしようとするが、

 

「間に合わないか…」

「間に合いませんね…」

「間に合わない…」

 

 カイル、唯、玲羅の三人が呟くと同時に、千尋の鋭い蹴りが飛鳥の腹部に直撃し、軽く吹き飛び、飛鳥は壁に直撃してから、床に倒れた

 それを見た玲羅は今までは堪えていた…だが、咳き込み痛みにより、悲痛に歪む表情を見た瞬間、1番に駆け寄ろうとしたが、唯が玲羅の手を掴み、首を横に振る

 

「これは飛鳥自身が望んだことですよ、今回のミッションを考えてのことです…」

 

 玲羅はなんでそこまで冷静になれるのか?と唯を睨もうとしたが、自分の手を握る唯の手が振るえ、堪えていることがわかりやめる

 

「私としても戦闘は私や玲羅、会長さんに任せればいいと思いますが…会長さんとの戦いを見て、いえ、あの舞踏会の時から思っていましたが…黙ってみていることが出来なく、気付いたら体が動くタイプなんでしょう…そんな人が私たちのその言葉を聞いて黙っているなんて出来るわけがありません…ならば強くなってもらうしかありません…それに強くなることを飛鳥は望んでいます…だったら私たちに口を出せることではありませんよ…」

 

 唯はただ真剣に飛鳥のことを考え、また千尋に無理矢理立たされる飛鳥の姿をただ真っ直ぐと見据える

 

「私も軌条くんと同意見だ…飛鳥には今力が圧倒的に足りない、だからこそ自分の正義を証明するためにも飛鳥は力をつけないといけない…」

 

 カイルも唯と同じように真剣な表情で飛鳥の諦めずになんとか防御しようと試みる姿を目に焼き付けるように見据えていた

 玲羅はそんな上級生の大人の意見に自分もまだまだ飛鳥のことを考えきれていないと感じ、目を背けたくなるのを堪え、飛鳥の姿をただ見据える

 

「もう一度だ飛鳥!!!!はっ!!!」

 

 飛鳥はもう体力の限界でいつ倒れてもおかしくない…そう思えていた

 背後で唯たちが何かの話をしているのは聞こえたが、遠い意識のせいか何を話しているのかわからない…ただ目の前にいる千尋がもう一度蹴りを放つ態勢に入ろうとしている

 避けないと…避けるためにはどうする?

 飛鳥はろくに働かない思考を何とか回転させようとするが、考えが浮かばない

 そこで飛鳥は気付いた

 

『そうか…浮かばないなら……………す…』

 

 飛鳥は迫る鋭い蹴りを一瞬確認し、千尋の間合いに踏み込む

 

「…………」

「っ!!?」

 

 すると、千尋は完全に油断したのか虚をつかれ、蹴りは飛鳥を捉えたが完全に捉えきれず、踏み込んできた飛鳥に押し倒され、千尋は床に倒れてしまう

 

「…………」

 

 そんな飛鳥の姿を見ていた唯、カイル、玲羅…そして、押し倒された千尋はあまりのことに固まったが、最後の最後に見せた飛鳥の根性に賞賛の笑みを浮かべる

 

「すまないカイル…飛鳥を医療センターに運んでくれるか?唯は飛鳥の荷物を頼む…玲羅、お前は少し残れ…」

「はい」

 

 玲羅が何故残されるのかが、唯とカイルには検討がつかなかったが、それでも今は飛鳥を何とか休めるためにカイルは千尋を押し倒したまま気絶している飛鳥を背負うと医療センターに向かうため、トレーニングルームから一足先に出て行った

 唯は何の話をするのか気になりはしたが、今は言われたことをしようとトレーニングルームから出て行く

 

 残された玲羅は何の話をされるのか?と気にななりながらも、体を起こし、表情が一気に変わり、思考をめぐらせながら立ち上がる千尋が話始めるのを待つ

 

「玲羅…アイツは本当にただのパイロキネシストなのか?」

 

 千尋の問いかけに玲羅は首を傾げる

 髪を縛っていたゴムを外し、千尋は床が隆起し、収納されていたスポーツドリンクを手に取ると、一口飲み…

 

「それは結論を急ぎすぎたな…すまない…だがお前は見覚えが無いか?血のように真っ赤に染まった飛鳥の瞳を…」

 

 次に千尋が呟いた言葉に玲羅は目を見開き驚愕し、足元から崩れ落ちるように体が振るえ、床に座り込んでしまう

 そして、その姿を見た千尋は頭の中に点と線が繋がった

 

「見覚えがあるようだな…」

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 唯と玲羅に今日は家の前まで送ってもらうこととなり、女の子に支えてもらうのは恥ずかしいとおもい、飛鳥は何とか今は根性で歩いていた

 医療センターで言われたのは一日目としては最低限の合格点と千尋から言われた

 ただ情けなく千尋にボコボコにされていたのが現状で、飛鳥としてはあれだけ頑張って最低限の合格点といわれ、正直へこむ

 

「はぁ…」

 

 飛鳥がため息をつくと、唯は優しく笑みを浮かべ…

 

「すぐに完全合格できるほど、武の道は甘くありませんよ?」

 

 厳しいことを言ってくる

 それは重々承知のことなのだが、まだ本決まりではないが、姉を助けるというミッションがあるのだ

 それぐらいやってのけなければ、足手まといで誰かをまた傷つけてしまうかもしれない

 飛鳥としてはそれだけは避けたい

 

「それでもやらなきゃいけない…そんな顔してる…」

 

 玲羅に自分の心の中で思っていた事を言われ、苦い表情を浮かべてしまう飛鳥

 そんな飛鳥の頭を唯は優しく撫で…

 

「焦りは禁物ですよ、焦ると身につかないうえに、中途半端になりますから…まぁ、明日は最後の仕上げということなので、同じ剣術を使う者として手合わせさせていただきますし、少し予習をしますか?」

 

 唯からのいつもなら死刑宣告だと思える言葉が出てくる

 それを聞いた飛鳥は思案し…

 

「じゃあお願いしようかな?」

 

 飛鳥はいつもは自分で選択しないであろうと思われる選択をする

 だが…

 

「却下…」

「きゃぅっ!!!?」

 

 飛鳥は玲羅に頭を叩かれる

 それを見ていた唯は玲羅から睨まれ、いつもの玲羅と少し態度が違うことに気付く

 

「アンタなら無理をしかねないから今日は監視する…」

 

 玲羅はそういうと、先に自分の家に向かうためなのか、もう目前まで迫っていた飛鳥の家を通り過ぎ、隣の家へと入っていく

 

「ホント玲羅が羨ましいですよ…できることなら私も監視に入りたいところですが、今日は着替えをとりに行く時間もありませんし…」

 

 今日は飛鳥のトレーニング+医療センターでの治療の時間を含み、もう夜も遅くなってきている

 時間を見ると、時計は9時を指していて、唯の家は少し遠いため、ここから駅まで向かい、着替えを持って帰ってくるとなると10時を過ぎ、学生が補導される時間となるだろう…まぁ既に危ない時間ではあるが…

 そうなると唯としても親に心配をかけてしまうため、それだけは回避したいと考えている

 だからこそ、今回は泊まることが出来ないことを飛鳥に伝える

 

「大丈夫だよ…ちょっと復習するくらいだし」

「それが駄目なんですよ…普通だったら、今日一日再起不能になっていてもおかしくない状態だったんですから…」

 

 そう…担当医から千尋が説教を受けているところを飛鳥は見ていた

 状況を察するに、それだけ飛鳥の体は痛めつけられていたのだろう

 唯や玲羅、カイルは飛鳥のその時の容態を知っているらしいが、まったく教えてくれなかったが、今回のこの唯の言葉にそれだけ体にダメージを受けていたのだということを理解できた

 

「わかった…とりあえず今日は異能力だけにしとく…その代わりにさ、駅まで送るよ唯?」

 

 飛鳥の言葉に唯は一瞬目を見開き驚くが、次の瞬間呆れた視線に変化する

 飛鳥はなんでそんな視線になるのだろうかと疑問に思っていると

 

「それ…ナンパ師の台詞ですよ飛鳥?」

「はぅッ!!!!?」

 

 飛鳥は唯の言葉に飛鳥は顔を真っ赤にしながら慌てる

 

「ちがう!!!夜だし女の子一人歩かせるわけにはいかないじゃないか!!!唯とは仲間だし心配だし…そのあのあぅ…」

 

 飛鳥の慌てる姿を見て、いつもの唯のあの病気が発病し…

 

「もぅ!!慌てる姿可愛いです!!私なんかよりこんな可愛い子を一人にする方が心配です!!!」

「論点ずれてるよ唯!!!?キャゥゥゥゥゥッ!!!?」

 

 飛鳥は、唯に抱きつかれ薄着のせいかいつもは着やせしている双子山の自己主張が強くなり、それが全力自分の胸元に全力攻撃してくるため、飛鳥の理性という防御力がどんどん削られていく

 ブルーゾーンからイエローゾーン…レッドゾーンへとどんどん削られていき…

 

「あんたら何やってるの…」

 

 最終的に仕事から帰ってきた姉 亜栖葉と遭遇し、二人のテンションは一気に消沈する

 二人は慌てて離れ…

 

「何もやってないよ姉さん!!」

「そうです亜栖葉さん、ちょっと可愛くてじゃれてしまっただけで…」

 

 飛鳥と唯は全力で何もやっていないと否定するが、一部始終見ていた亜栖葉は…

 

「嘘つかなくてもいいわよ…こんなところまで歩いてきてるってことは唯ちゃん泊まっていくの?」

 

 呆れた視線を飛鳥に向けてから、唯に視線を向けると笑顔で問いかける

 それを聞いた唯は困ったように笑みを浮かべ

 

「個人的には無理をした飛鳥を監視したい気持ちがありますが、今日は時間も遅いですし、着替えの用意ももって来ていませんので、おとなしく帰らせていただきます」

 

 と亜栖葉に返答する

 亜栖葉は飛鳥がまた何か無茶をしたのかと呆れた視線をまた向けてから…

 

「そっか、飛鳥はこっちで説教しとく…」

「うげっ…」

 

 飛鳥の表情は引きつり、反射的にうめき声を上げてしまう

 そんな飛鳥をキッと亜栖葉は睨みつけると、飛鳥は勿論反射的に視線を逸らしてしまう

 唯は飛鳥の隣でクスッと笑みを浮かべ、あんまり長居をしては終電がなくなってしまうということで…

 

「それでは私はこれで…」

 

 一礼してから、一人帰路に着こうとしたが…

 

「送ってくわよ、今車出すから、おとなしく待ちなさいよ?」

 

 亜栖葉の言葉に唯は思わず立ち止まり、苦笑いを浮かべる

 強制的ではあるが、亜栖葉なりの優しさだと思い、唯は受け取る

 飛鳥はそんな唯に同情しつつ…

 

「じゃあまた明日学校でね?」

「はい、また家に帰って一息つきましたら、連絡を入れますね」

 

 軽く手を振り、ニコッと笑みを浮かべる

 もちろん唯も笑みを浮かべ飛鳥と同じように軽く手を振り、家の中へと入っていく飛鳥を見送り、車庫から出てきた唯の目の前に停まる赤色のスポーツカーに乗り込むと、亜栖葉の運転により帰路に着いた

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 飛鳥は亜栖葉が唯のことを家まで送って帰ってくるまでに食事を作ってしまわないとと思い、飛鳥は晩御飯の下ごしらえをし始めていた

 冷蔵庫を開くとちょうどいいことに天ぷらをする用に買っていた海鮮素材や野菜

 天ぷらは亜栖葉の大好物ということもあり、飛鳥は出来るだけ亜栖葉がリラックスしている状態で話をしたい…そう考えていたため、家の中で料理担当でもある飛鳥はいつも以上に気合を入れて料理を作っていた

 

 そうしていると…

 ピンポーン!

 とインターホンの音がなり…

 

「インターホン リンク飛鳥…はい、どちらさまでしょうか?」

 

 飛鳥は脳波のリンクにより、喋らずに言葉を思い浮かべるだけで、玄関で待つ人間に話しかける

 異能の発達により、インターホンに記憶した脳波の人間による音声認識により、リンクをつなげられるようになっている

 だからこそ、料理をしながらでも、慌てて向かう必要もなくなり、火元を離れたことにより発生する火事を大きく減少させたという実績を備えている

 

『玲羅…今料理中だった?』

 

 どうやら来たのは玲羅らしい

 飛鳥は玲羅ならいいか…と思い…

 

『まぁそんなところ、鍵開いてるから入って?』

 

 外にいる玲羅に入るように促すとガチャッと扉が開く音がし

 

「お邪魔します」

「今リビングにいるから入ってきていいよ!」

 

 玄関の方から玲羅の声が聞こえ、飛鳥はリビングの方に来るように促す

 すると、リビングの扉が開き、衣替えが終了しているはずなのに、未だにパステルカラーの長袖のパーカーを羽織っているラフな格好の玲羅が入ってきた

 ただ…

 

「うっ…」

 

 飛鳥は顔を真っ赤にし、そむけてしまう…

 玲羅は呆れた視線を飛鳥に向け…

 

「ムッツリ…」

「うっ!!?」

 

 と呟く

 飛鳥が視線を逸らしたのは今日の玲羅のインナーの白のデザインTシャツが胸元を少し強調したスクウェアネックのTシャツで思い切り、玲羅の胸の谷間が見えているのである

 いつもはハイネックのTシャツを好むのになんで…と飛鳥は思いながら、邪念を振り払うように料理に集中する

 

「何か手伝うけど?」

「えと…じゃあ…お味噌汁見ててもらってもいい?」

「うん」

 

 玲羅はリビングにあるソファに荷物の鞄を下ろすとパーカーを脱ぎ、鞄の上に乗せ、飛鳥のいるキッチンの方へと向かう

 そして、飛鳥が同時進行で作っていたお味噌汁の管理を、玲羅は承る

 

「一口味見して?」

「ありがとう、少し楽しみにしてた」

 

 物静かな口調ではあるが、声の調子は少し嬉しげに飛鳥は聞こえ、自分も嬉しくなり、笑顔で食器棚から取り出した小皿を玲羅に渡す

 玲羅は鍋の中でグツグツと沸騰しているお味噌汁をオタマですくい、小皿に適量注ぐと、何度か息を吹きかけ、少し冷ましてからゆっくりと飲む

 

「やっぱり飛鳥の料理は好き…飛鳥の数少ない取り柄…」

 

 玲羅は褒めているつもりなのだろうが、肝心の飛鳥は数少ない取り柄といわれ、少しグサッと来た

 飛鳥は苦笑いを浮かべながら「ありがとう…」と呟き、天ぷらの下ごしらえを終え、隣でお味噌汁を見ている玲羅のことを考慮しながら、温まった厚手の鉄鍋の中に満たされた揚げ油の中にゆっくりと入れていく

 

「亜栖葉さん…飛鳥に話さなかったんだね…」

 

 玲羅の言葉を聞いて、飛鳥は俯き、ため息をつく

 

「そうだね…姉さんは相手の感情を察する分、自分のことを隠すのは上手いから…」

 

 飛鳥が本当に心配そうな表情を浮かべていることに玲羅は気付き、ボタンを押し、味噌汁が完成したため、コンロの火を止めると玲羅は後ろから飛鳥を抱きしめる

 飛鳥はその瞬間ビクッとし、天ぷらをキッチンペーパーの敷かれた天台の上に菜箸で持っていた海老の天ぷらを置き、テンパリながら…

 

「うぅ…えと玲羅…らしくないよ…」

 

 玲羅に話し駆ける

 そんな飛鳥の問いかけに玲羅も少し頬を赤く染めながら

 

「飛鳥が唯にも…昔の私にもやったこと…」

 

 そういってくる

 つまりは、いつも何かあると泣いている人、悲しげな表情を浮かべている人抱きしめて悲しみを分かち合い、元気付ける…それが亜栖葉から教えてもらった飛鳥なりのやり方

 飛鳥はされるとこんなにも恥ずかしいのか…と今更ながら自覚し、少しこれからは考えることにした

 ただ…

 

「飛鳥…らしくなくても、大切な幼馴染に対してなららしくないことをする…」

 

 玲羅がふざけてしていることではないということは飛鳥は理解し、玲羅の綺麗な手に油が飛んではいけないと思い、一度コンロの火を止めると玲羅の手に自分の手を添える

 

「ありがとう…僕も玲羅が困ってたらそうしてた…でもそろそろ離れてくれると嬉しいかな…あの…その…胸押し付けられてる…」

「アンタって…」

 

 後ろから呆れた視線を向けられているのがわかる

 飛鳥は苦笑いを浮かべながら、離れてくれるのを待つのだが…

 

「アンタ、唯で慣れてるでしょ?やたらあの巨乳と密着してるし…」

 

 玲羅はまったくと言っていいほど離れてくれない

 

「そんな!!!?慣れるわけないじゃないか!!?ドキドキするし、玲羅は睨むし、王斬は弄ってくるし!!!」

 

 飛鳥は必死に玲羅に反論するが、玲羅は聞く耳を持たない

 玲羅はもう一度ギュッとしてから、離れ、リビングのソファの方へと向かった

 飛鳥としては高鳴る心臓を何度も深呼吸し、収まるように自分に何度も何度も言い聞かせるが、一向に収まってくれない

 

 肝心の玲羅はソファの方から、キッチンでテンパっている飛鳥を見て、少し満足げに笑みを浮かべてから、鞄から文庫を取り出し、読み始めた

 

「話を戻すね?」

「あ…あぁ、うん!!!!」

 

 飛鳥はなんとか真面目でクールな玲羅の声に意識を取り戻し、咳払いをし、再び料理を再開する

 

「でも亜栖葉さんの気持ち…私わかる…」

 

 玲羅の言葉を聞いて、亜栖葉に対して飛鳥もイライラはするが、実際わからないでもないとは思えた

 実際隠れて個人行動をとったりは既に何回もしている飛鳥

 唯に被害が行かないように自分がリンチにあったり、唯が絵里華とぶつかることを阻止したり…昔も何度もあった

 でも…

 

「それでも…知らないうちに姉さんがそんな目に遭っているなんて…それなのに僕のことを考えて、何もないふりをしていたんだ…辛いなら…辛いって言って欲しかった…」

 

 飛鳥としては言って欲しかった

 たとえ頼りない弟だとしても…愚弟だと言われても、話を聞くだけでも出来る

 少しでも亜栖葉の重荷を一緒に背負いたい…そう思えたからだ

 

「いえないと思う…」

 

 玲羅の言葉に驚きを隠せず、飛鳥は玲羅の方を見る

 玲羅は、文庫を閉じるとテーブルの上に置き…

 

「自覚をしてないだろうけど飛鳥もいつもそう…大切だからこそ自分は傷ついてもいいけど仲間を巻き込みたくない…私もそうだし、唯もそう…亜栖葉さんも…亜栖葉さんはアンタが大切だから…だから言わない…」

 

 玲羅の言葉に飛鳥は納得し、俯く

 飛鳥は亜栖葉が帰ってきたら本気で説教をするつもりだったが、そんなこといわれたら飛鳥としては説教なんて出来るわけもないし…

 

「はぁ…もう弟のことなんてほっといて、恋愛の一つでもしたらいいのに…だから未だにキスもしたこと無いんだよ…」

 

 飛鳥は苦笑いを浮かべながら玲羅の方を見ると、飛鳥は首を傾げる

 なぜなら玲羅は完全にリビングの入り口の方を見て血の気が引いて固まっているのだ

 飛鳥は疑問に思いながら入り口の方に視線を向ける

 すると…

 

「なるほど…私がファンに脅しをかけられたり、ライブの途中でも嫌な視線を感じたりしていることを知ったらしいけど…まぁそれは置いといて…今なんていった?愚弟?」

 

 そこには黒い笑みを浮かべる見知った姿がそこにあった

 危うく揚げ終えた野菜を再び、油の中に落としてしまいそうになったところを何とか根性で天台で受け止める

 震える手でなんとか台の上に置くと、なんとか逃走経路を確保しようと当たりを見渡すが、勿論キッチンはリビングの広い間取りとは違い、隔離されていて、ただいまリビングの方へ繋がる道は怒れるAsuにより塞がれている

 飛鳥は後退りながら、情けなく尻餅をついてしまう

 そんな飛鳥の様子もお構いなく亜栖葉は飛鳥の上に跨ると思い切り顔面を掴み…

 

「恋愛でもしたらいいのに?ふざけるな!!!!恋愛したくても出来ないのよ!!!好きな人が出来ても私の素を見ると逃げるのよ!!!基本的にチャラくて不倫ばかりしてるような男しかよってこないんだからッ!!!!!」

「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!いだいだいだいだいだい!!!!!?こんな暴力的だからでしょーがっ!!!!!?」

 

 亜栖葉はぼやきながら、力を込め、飛鳥にアイアンクローを決める

 それを客観的に観察していた玲羅は意外にもちょっとだけ飛鳥に似てるところがあるんだ…と思いながら、飛鳥のいらない言葉を聞いた怒れるAsuによる折檻を心の中で合掌しつつ、観察した

 

 そして、その後、飛鳥は千尋とのトレーニングによる疲労もある為か、一瞬のうちに意識が落とされた

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「なるほど…ということは飛鳥が私の護衛につくかもしれない…ということね…」

 

 飛鳥の作った天ぷらを味わいつつ、考える素振りを見せる

 飛鳥が何故今日二人に送ってもらったのかなども、玲羅がことある部分以外細かく説明し、亜栖葉はもぐもぐと咀嚼していた天ぷらを飲み込み、ため息をつく

 

「まずバレたらアンタに説教されるって思ってたんだけどね…」

 

 珍しく苦笑いを浮かべる亜栖葉の姿に飛鳥はため息をつき…

 

「勿論したいよ、もっと弟を頼って欲しいってね…でも玲羅に言われて気付いたよ…僕も姉さんの立場なら同じことをしたし…絶対に唯にも玲羅にも言わないだろうし…」

 

 飛鳥は言い終えると自分作のお味噌汁を啜りながら、もう一味何か…と考えながら、視線を玲羅に向けると玲羅は寂しそうに俯いていることに気付き…

 

「まぁでも…いつも唯や玲羅にこんな気持ちをさせてたんだなって自覚は出来た…ごめんね…玲羅…」

 

 素直に謝る

 玲羅は飛鳥の謝罪に一瞬きょとんとした表情を浮かべていたが、ため息をつき呆れた表情を浮かべ、飛鳥に視線を合わせると…

 

「今更…でもアンタの場合はそれが美点なところもあるし、私は気にしてない…」

 

 そういって、まるで照れ隠しのように飛鳥作の天ぷらを食し始める

 もちろん飛鳥はいつも落とすことばかりの玲羅に褒められて、少し照れてしまい、飛鳥もイソイソと食事を進める

 

「でもだからって、医療センターに運ばれるまで特訓するのは…姉としては感心しないわ…」

 

 亜栖葉の言葉に飛鳥は少し苦笑いを浮かべてしまう

 

「僕弱いし…みんなの足を引っ張りたくないから…仕方ないよ…」

 

 飛鳥はそれだけ言うとご飯を食べ終わり「ごちそうさま…洗い物はまかせてもいい?」といってからキッチンへと向かい、「えぇ…少しゆっくりなさい」と亜栖葉がいうと飛鳥は一人自分の部屋へと向かった

 

 亜栖葉と玲羅は二人きりとなり、玲羅はやっと二人きりになれた…といわんばかりに…

 

「今日、飛鳥があの目を発現させました…」

 

 玲羅の言葉を聞いた瞬間、笑顔で食事を楽しんでいた亜栖葉の表情が一気に変わる

 真剣な表情の中に悲しみを帯びているような表情

 

「そう…飛鳥は気付いたの?」

 

 真剣な表情で玲羅に問いかけると、玲羅は首を横に振る

 それを確認すると亜栖葉は安堵し、胸を撫で下ろす

 

「玲羅…貴方にも詳しくあの子の異能について話してはいないけどあれが出てきたのなら、危ないわ…もし護衛ミッションが受けれるようになったら…玲羅、あの子のことを頼むわね…」

 

 亜栖葉の言葉に、玲羅は真剣な表情でコクリと頷く

 ただ、玲羅は…

 

「私も命がけで飛鳥を守ります、でも飛鳥はもう私だけではありません、唯も会長も千尋先生も王斬もいます…だから、大丈夫ですよ亜栖葉さん」

 

 仲間たちのことを思い出し、少し笑顔を浮かべ、亜栖葉にそういうと、亜栖葉も一瞬キョトンとしたが、笑顔になり、自分も食べ終えたのか盛り付けられていた食器をキッチンの方へと持っていき、荒いものを始める

 玲羅も食べ終え、亜栖葉の洗い物を手伝うということで亜栖葉の隣に並び、洗い物を手伝った

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 飛鳥は今日は玲羅が泊まるということもあり、お風呂に浸かることは無く、シャワーのみを浴びてから部屋に戻り、ベッドの上で休んでいた

 

「っ……」

 

 何故だか医療センターから出た後から、隠していたが、頭痛がしていた

 二人がリビングに来る前に頭痛薬を飲んだが、一向に収まってくれない…

 

「なんでいきなり…」

 

 飛鳥は痛みを堪えながら、忘れるために眠りにつこうと考え、布団の中にもぐりこむ

 だが、痛みのせいで寝付けない…

 何度も何度も寝返りを打ち、飛鳥は疲れのせいか、やっと痛み以上にまどろみが襲い、瞼を閉じるとやっと意識が落ち、眠りにつけた

 

 

 

 

 そこは真っ暗な空間…

 誰もいない…自分だけの空間…

 飛鳥は真っ暗な中一人歩いていた

 

「っ…」

 

 ただ…この空間が嫌で…気持ち悪くて…落ち着かなくて…

 飛鳥はこの空間から脱出したくて、ただ歩くスピードをどんどん速める

 歩きから早歩き、早歩きから走り、走りでも全力で駆ける

 

「っは!!!!?」

 

 飛鳥は目の前に現れた小学生から上がったばかりなのか幼さの残った中学生くらいのゴシックドレスを着た金髪の少女が立ちふさがる

 その少女を見た瞬間、飛鳥の表情が怒りにみち、飛鳥にはまったく似合わない…まるで憎しみをぶつけるように手に全力で炎を纏わせ、少女の顔面を鷲掴みにする

 

「お前!!!!!!お前!!!!!!!絶対に許さない!!!!!!うあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」

 

 炎に晒されているはずの少女の顔は何故か笑っていた

 それを見た飛鳥は完全に切れ、悲鳴のような声をあげ、ありったけの異能力を使いきり、全身で炎を纏い、少女を包み込むような火柱が上がる

 だが…

 

「あっちゃん…」

 

 少女のうめき声が聞こえ、飛鳥は我に返る

 少女の姿が変わり、その瞬間、飛鳥の憎しみに満ちたような表情が一瞬のうちに苦痛に歪む

 金髪の少女が別の少女へと変わる

 

「あっ…ああっ……くっ…」

 

 飛鳥は異能の発動を止め、黒ずみとなった死体を見つめつつ、飛鳥は涙を流す

 こんなつもりはなかった…あの時もそうだった

 相手を捕まえたと思ったら、目の前には…

 

「うあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!?」

 

 

 

 

 息を荒げ、汗で濡れたTシャツが気持ち悪い…

 頭痛は治まったが、どうにも嫌な夢を見たせいか…記憶に焼きつき、勝手に涙が流れる

 

「飛鳥?」

 

 声が聞こえ、そこに視線を向けると驚いた表情を浮かべている赤のパジャマ姿の玲羅の姿が視界に入ってきた

 飛鳥はこんな情けない姿を見られてはいけない…そう思い改めて布団にもぐりこみ、玲羅に背を向ける

 

「泣いてる?」

 

 玲羅の問いかけに飛鳥は答えない…正確には答えられない…

 そんな飛鳥を見て、玲羅は…

 

「っ…玲羅…?」

「ごめん…私は唯や姉さんみたいに元気付けられるかわからないけど…」

 

 布団の中に自分も入り、飛鳥を後ろから抱きしめる

 飛鳥は驚きはしたが、今はそれよりも…

 

「久しぶりに見た…茜を傷つけちゃう夢を…」

 

 大切な幼馴染 玲羅の姉 茜を夢で傷つけてしまったことを玲羅に気付いたら話し始めていた

 玲羅はその瞬間、表情が強張り、飛鳥を抱きしめる強さが強くなる

 飛鳥は少し痛い…と思いながらも夢とはいえ、実の姉を傷つけてしまったということを知れば仕方が無いことだと飛鳥は思いながら堪える

 だが…

 

「そう…でも飛鳥…アンタも辛いよね…」

 

 玲羅の言葉は飛鳥の中で予想外のもので玲羅の方に振り返る

 飛鳥の視界に入ってきたのは、涙を浮かべながら心配そうな表情を浮かべる玲羅の姿

 飛鳥は驚きのあまり固まっていると、そのままギュッと抱きしめられ、飛鳥は顔を玲羅の胸に埋めてしまう形になってしまう

 

「正直に言うと…アンタには無理して欲しくない…いつもそう…昔私が姉さんにいじめられていることをいえなかったとき、アンタに見つかって、アンタは一人自分が怪我することを気にせず、上級生にケンカふっかけて、最終的に一人泣かせたけど、自分は結局上級生以上に怪我してるし…そういうところは変わらない…今も姉さんのこと引きずって普段から辛いとは言わないし…本当は昔みたいに姉さんと一緒にバカしたいと考えているのに、あれ以来うちに来ないし、姉さんと会おうとしない…」

 

 玲羅の言葉を聞いて、飛鳥の表情は暗くなってしまう

 

「会えるわけがないよ…だって…僕は…」

 

 そして、飛鳥の頭の中に過去の事件が浮かぶ

 自分が生きてきた中での最大の事件

 だからこそ、自分が許せなくて、あの時は死にたいと思うほど辛くて…飛鳥は今まで自分に枷をつけてきた

 また飛鳥は勝手に涙が流れる

 玲羅は少し結論を急ぎすぎたと思い…

 

「ライトオフ…」

 

 静かに玲羅がそう呟くと、飛鳥を抱きしめたまま…

 

「今日はゆっくり休む…アンタ…少し疲れてるだろうし、怖い夢を見ないように…私が…そばにいる…」

 

 コクリと頷く飛鳥の頭を撫でつつ、玲羅も静かに眠りにつこうと瞼を閉じる

 飛鳥は玲羅の抱擁に安心し、その夜はまるで昔親がいないときに怖い夢を見て眠れなかった時、亜栖葉に眠れるまで添い寝してもらったときと似たような感情を抱き、眠りにつけた

 不思議と頭痛も治まり、不安も収まっていた

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

「よく平然と登校できるよね…玲羅…」

「何が?」

 

 朝となり、学校に行く時間となった飛鳥と玲羅は一緒に登校していた

 飛鳥は朝になると顔に広がる柔らかな感覚と頭上から聞こえる女の子の寝息に、悲鳴を上げそうになりながらも必死に堪え、玲羅を起こさないように脱出しようとしたが、拘束を抜けることも出来ず、飛鳥はそれから三十分くらい目覚めたまま、理性という名の男の子と戦いながら、玲羅が目覚めると同時に平静な玲羅に拘束を解除され、「制服に着替えてくる…」という玲羅に取り残され、飛鳥は一人オーバーヒートしていた

 

 そんな朝を迎えたのに、幼馴染の玲羅は何にも感じてないかのように平然と今登校しているのだ

 ちなみに飛鳥は茹蛸のように顔が真っ赤で、ちょっとテンパリ気味である

 

「一緒に寝たことなら、気にしてない…アンタとは幼馴染だし…アンタなら問題ない…」

 

 そして、玲羅のこの言葉を聞いた瞬間、飛鳥は一気に落ち込んでしまう

 つまり、飛鳥は「男と見られていないんだ…」と思いながら、並木道の駅の方向へと繋がる十字路に差し掛かったところで

 

「おはようございます飛鳥、玲羅」

 

 いつも通りおしとやかで笑顔の似合う女の子 軌条唯が現れる

 唯に声をかけられ、飛鳥と玲羅は立ち止まる

 そして、唯は飛鳥に視線を合わせると少しムスっとした表情へと変わり…

 

「飛鳥?昨日連絡入れたんですよ?」

「あ…ごめん…僕疲れて寝て…」

 

 飛鳥に電話をしたという唯の言葉に飛鳥は答えようとしたところで固まってしまう

 飛鳥の脳裏には、昨日の玲羅の胸に顔を埋めて泣きじゃくっていた自分が浮かび、一気に茹蛸のように顔が真っ赤になる

 それを見た唯は勿論何かに勘付いたのか玲羅に視線を向けると、玲羅はツンとソッポを向く

 

「何をされたんですか?いえ、何が起こったんですか?」

 

 玲羅から飛鳥に視線を向けると同時にそそくさと飛鳥の目の前まで移動すると

 

「イダダダダダダダダダダダダダダッ!!!!!!?」

 

 黒い笑顔を浮かべる唯のアイアンクローが見事に飛鳥の顔面に決まり、飛鳥の顔面に激痛が走る

 飛鳥はアイアンクローをくらいながらも、最初の唯の下着姿を見てしまったときの事を思い出し、あんな目に合うのではないのだろうか…と思い、いえない…

 

「いえないことをしていたんですね?飛鳥…貴方は不潔ですね…少しお仕置きをしないといけませんね…」

 

 と思っているうちに飛鳥のお仕置きが決定した

 飛鳥は結局お仕置きじゃん!!!と飛鳥は心の底から叫んでいると

 

「おやおや、今日も朝から仲がいいね?おはよう飛鳥、軌条くん、白銀くん」

「おはようございます、水樹さん、軌条さん、白銀さん」

 

 視界に手を振りながら、駅へと繋がる道から現れるカイルとペコっと頭をさげるシンディの姿が入ってきた

 これは助けてもらえると飛鳥は思い…

 

「助けてカイ「ちょっと飛鳥が玲羅と何か私に言えないことをしていたようなのでお仕置きをしているんですよ」」

 

 助けを求めるよりも先に、唯が先手をうってきた

 それを聞いたカイルは「へぇ~♪」とニコッと笑みを浮かべ、シンディは「水樹さん…」といいながらウルウルと何故か涙目

 この瞬間、退路を立たれた飛鳥は唯のお仕置きを甘んじて受けるしかないのか…と飛鳥は思っていると…

 

「飛鳥のトラウマが原因だから…私は幼馴染としてただずっとそばに居ただけ…」

 

 玲羅の言葉を聞いた瞬間、唯の表情が一変し、飛鳥はを解放すると一瞬寂しげな表情へとなったが、苦笑いへとかわり、頭をさげる

 

「すみません飛鳥、そうとは知らずに…」

「いや、別に…」

 

 飛鳥は一瞬寂しげな表情を浮かべる唯に気付き、その場にいられなくなり…

 

「ごめん、僕先に行くね…」

「私もついて行こう」

 

 そういって、飛鳥は一人学校の方へ歩いていく後ろをカイルは追い一緒に登校する

 そんな飛鳥の姿を見た玲羅は心配そうな表情を浮かべる唯やシンディにフォローを入れるため…

 

「アンタたちになら、いつか話すと思う…久しぶりに自分でいられる大切な仲間だから…特に唯…アンタにはね…」

 

 玲羅はシンディには優しげな表情だったが、唯に対しては少し嫉妬しているような眼差しを向け、玲羅も学校に向けて歩き始めた

 シンディはそそくさと玲羅についていくが、唯は疑問に思いながら、二人についていくために歩みを進める

 

 玲羅は後ろからついてくる唯の姿をチラッと見て昨日のことを思い出す

 昨日の夜、飛鳥が眠ったことを確認し、自分も眠りに落ちかけたとき聞こえた

 

『嫌わないで…僕…君に嫌われたら…唯…』

 

 唯に嫌われる…見捨てられる夢を見ているのだろう…抱きしめているのは自分なのに他の女のことを考えている…まるでほかの事を考えている不倫中の彼氏を見ているときの彼女のような気持ちになった玲羅は実は朝から少し苛立っていた

 

「私のほうが飛鳥との付き合い長いのに…」

 

 ボソッと呟いた事に気付いたシンディは玲羅の表情を見ると、玲羅が明らかに不機嫌な表情を浮かべていることに気付き、一人涙目になっていた

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 朝みんなと話をした飛鳥はみんなにした態度を悔やむというより…責めていた

 それもあってか、今日は一人、昼食を学食でとるつもりだった

 のだが…

 

「カイル…」

「君の行動は読めるよ…私を誰だと思っているんだい?」

 

 目の前で優雅にパスタを食べる上、有名な生徒会長が珍しく学食で食事を摂っているということで周りにいる女子は興味津々な眼差しで見つめているという飛鳥には辛い状況を作り出す人物 カイル・フォールデンがそこにいた

 飛鳥はそんな女子からの何故か嫉妬の眼差しで見られ、正直げんなりする

 

「まぁ考えていることはわかる…君のトラウマが云々で仲間に嫌な態度をとってしまったから会いにくかった…というところではないかな?」

 

 カイルの言葉を聞いて飛鳥はこの人は実はサイコメトラーではないのか…と少し思ってしまう

 飛鳥はそんなカイルの言葉に図星をつかれ、黙って今日自分で作ってきた弁当を無言で食べ始める

 そして、黙っている飛鳥を見て、これ以上は突っ込めないと思ったカイルは

 

「まぁ…言いたくないからこそトラウマ…だね…」

 

 そういうとカイルは静かに食事を進める

 飛鳥はそんなカイルの姿をチラッと確認し…

 

「ごめん…」

 

 一言謝る

 飛鳥のその一言を聞き、カイルは苦笑いを浮かべ、一度食事をとめて、飛鳥の顔をしっかりと見据える

 飛鳥はなんだか落ち着かなくなり、カイルの顔を見つめ返すと…

 

「で、白銀くんと何があったんだい?」

「っ!!!?」

 

 とんでもないことを言ってきた

 カイルの問いかけに飛鳥は顔を茹蛸のように真っ赤にする

 それを見た瞬間、カイルはいたずらな笑みを浮かべ…

 

「そうか…幼馴染の一線を越えて…」

「あうぅっつ!!!?そそそそ、それは無いよ!!!!!」

 

 とんでもないことを言ってくる

 飛鳥は勿論ちょっとエッチな想像をしてしまい、オーバーヒートしてしまう

 カイルはそんな飛鳥の姿を見て押し殺すように笑みを浮かべ…

 

「ごめん、ちょっといじりすぎたかな、君にそんな度胸が無いことはわかっているよ?」

「ぐあっ!!!?」

 

 飛鳥の心を言葉のレイピアで貫いた

 あの場で玲羅にあんなことやこんなことをすれば今の言葉を撤回してくれるのですか?と飛鳥は少し心の中で思ったりもしたが、自分でもそんな度胸が無く、出来ないことはわかっているため、落ち込むことしか出来なかった

 

「まぁでも君はラッキースケベだからねぇ…シンディのお尻に顔からダイブしたのはさすがに殺意が湧いたよ…」

 

 そして、追い討ちといわんばかりに御泊り会での三日目の出来事を思い出させた

 それはカイルの部屋でツイスターゲームをカイル以外のみんなでしたときのこと…

 カイルは参加を拒否し、飛鳥は女勢がいる中参加した…

 女性の体に密着しないように頑張っていたが、ついに限界が訪れ、こけた拍子にシンディのお尻に顔からダイブしてしまったのだ…

 勿論その後、黒い笑みを浮かべたカイルから、殺意丸出しの視線を向けられていた

 唯と玲羅からも白い目で見られているうえにシンディは涙目…飛鳥はそんな状況でただ涙目になることしか出来なかった

 

「大方、白銀くんが君を抱きしめたときにあの胸に顔を埋めたが1番可能性的に考えられるかな?」

「っ……/////」

 

 飛鳥はまたもや直感的推理的なカイルの言葉に驚き、顔を真っ赤にしてしまう

 ある意味自分よりも完璧に水樹飛鳥という人物をわかっている目の前の人物に飛鳥は恐怖を感じてしまうくらいである

 

「そっか…それは男として羨ましくもあるけど…軌条君がしればどうなるかな?」

「あわわわわわわわわわ…」

 

 さっきからうめき声しか上げていない飛鳥

 これじゃあまるで…と飛鳥がそこまで考えたときに理解する…

 

「えと…」

「本当はこれくらいじゃ済ませたくないんだけど…そうだよ…君が考えている通り…友達として少し私は怒っている…」

 

 カイルは飛鳥に対して怒っていた

 カイルは真剣な表情となり、しっかりと飛鳥を見据える

 飛鳥は戸惑いながら、思わずカイルから視線を外してしまう

 

「私を見損なってもらっては困る…私は今まで友人がいなかった…だが、初めて出来た友人を裏切るほど友情を軽く見てはいない…君の何を知ろうが、私は君を裏切らない…」

 

 カイルの言葉を聞き、飛鳥はカイルの方に向き直ると少し悲しそうな表情をしていることに気付く

 飛鳥は少し戸惑いながら…

 

「わかった…話すよカイル…でもまだ…唯には…」

「わかってる…聞かせて?」

 

 カイルに話すことを決意する

 飛鳥は何度も何度も深呼吸をしてから…

 

「僕は昔…」

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 そして、ミッション受注が決まってから二日

 学校近くの駅から四駅ほど離れている…千尋の運転する車で1時間近く掛かる飛鳥たちの住む上菜市の中でも1番発展し、ここに来れば何でもそろえられるといわれている日本の中でもかなり発展した町 上菜町にやってきていた

 そしてその流れで飛鳥たちの目的地でもある亜栖葉が所属しているプロダクション 【アドミラシオン】は上菜町の中心部にあり到着

 飛鳥たちは通信用の黒のチョーカーを首にし、学園から来た者だとわかるように校章の刻まれたブレスレットをしている

 こういうプロダクションや政府機関に入る時は

 

「改札口のリーダーに学園、政府機関、うちのプロダクションから配布された通行証を翳してください」

「はい」

 

 ビルの玄関に入ったところで受付の近くに設置された改札口に設置されたセキュリティー端末に受付嬢の案内の通り、飛鳥はブレスレットを翳す…すると

 

『スキルネイチャースクール チーム【Salvation】リーダー水樹飛鳥 通行許可』

 

 飛鳥は大きく深呼吸をしてから、改札口を通る

 そんな飛鳥に続くように、唯、玲羅、カイル、千尋、シンディの順に通る

 

「でも…よくカイルが許可したよね…」

「うっ…」

 

 飛鳥はそんな言葉に、最後に改札口を通ったシンディが涙目になる

 それを見た飛鳥は…

 

「違う違う!!!僕はシンディちゃんの力よく知ってるし、実際カイルと戦ったときに助けてもらったしさ…能力を過小評価してるわけではないんだ…ただ、実戦だし…僕が言えることじゃないけど、シンディちゃんにも危険が迫るわけだし…それをカイルは許さないんじゃないかな…ってさ?」

 

 言葉を付け加える

 それを聞いたシンディは何とか涙目ではなくなるが、シンディのかわりにといわんばかりに、カイルが前に出て…

 

「さすがに鬼気迫る表情で水樹さんの力になりたいんです!お兄様、私は将来水樹さんのチームに「あわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわわっ!!!!!」」

 

 説明をしようとしたが、再び涙目となったシンディがぴょんぴょん跳ねながら、カイルの口を塞ごうと頑張る

 飛鳥はそんなカイルとシンディの姿が微笑ましい上に、昔姉さんに対して同じことしたな…と少し思い出に浸る

 

「まぁ…シンディなら歓迎…」

「そうですね、飛鳥よりは頼りになります」

「うんうん…」

 

 唯と玲羅が揃って飛鳥に対して毒を吐く

 飛鳥は心にダメージを受け、二人に視線を向けると唯は黒い笑みを浮かべていて、玲羅はこちらを睨んでくるではないか…

 

「全員遊びじゃないんだ…さっさと行くぞ…」

「「「「「はい…」」」」」

 

 飛鳥は落ち込んでいると呆れた視線を向ける千尋に全員諭され、苦笑いを浮かべる受付嬢に案内され、エレベーターに乗り、プロダクション社長のいる最上階へとエレベーターは向かう

 

 

 エレベーターで最上階に到着すると既にエレベーターが開くと部屋となっていた

 当然それだけ大きい部屋だということ…この一部屋だけで50人くらい呼んでパーティーを開いても問題ないという風な広さを持っている

 どうやら3区画に分かれていて、社長室でミーティングを開けるエレベーター側 左にあるテーブルを囲むようにソファが配置され、壁際には40インチ以上もある巨大なテレビがかけてある

 エレベーター側 右は社長や所属アイドルの受賞したトロフィーなどが飾られている区画

 窓際は社長や秘書のデスクが配置されている事務区画、壁際にはいろいろな資料などがファイルされているファイルがおいてあった

 そして、飛鳥の視線の先には自分の姉 水樹亜栖葉と白髪をオールバックにした優しげな顔つきをした初老の男性が立っていた


 

「ようこそ、スキルネイチャースクールの学生さんたち…」

 

 優しい出迎えをする初老の男性が飛鳥へと近寄る

 飛鳥は『この人が姉さんのお世話になっているプロダクションの社長さん…』と思いながらも…

 

「は…はじめまして、チーム【Salvation】リーダーの水樹飛鳥です!」

 

 飛鳥はこういう時はどうすればいいのかわからず、思わず敬礼をしてしまう

 それをみた唯、玲羅、カイルは笑いを必死に堪え、千尋はあきれた視線を向け、シンディは同情していた

 

「はぁ…早速やってくれたわね愚弟…」

 

 社長の後ろにつき、一緒に近づいてきた亜栖葉の言葉に飛鳥はごもっともだ…と思いながら落ち込んでしまう

 

「亜栖葉?わしはそうはおもわないよ…家族のために危険に立ち向かういい弟さんじゃないか…わしは海女槻あまつき 忠雄ただおといいます、よろしく、飛鳥くん」

 

 そういった忠雄は飛鳥に握手を求める

 飛鳥は一瞬きょっとんとしていたが、慌てて、忠雄と握手をする

 優しく笑みを浮かべる忠雄の姿を見て飛鳥も少しだけ緊張がほぐれる

 

「海女槻社長、チームSalvationの監督教師の森嶋です。早速ですが、任務内容を…」

「わかりました」

 

 忠雄が手で飛鳥たちにミーティングスペースへと促し、飛鳥たちはそこに向かい「失礼します」といってから、ソファに座る三人掛けソファの中央に飛鳥が座るとその両脇には唯と玲羅、エレベーター側にある3人掛けソファにカイルとシンディ、千尋、窓方向にある一人掛けソファに忠雄、亜栖葉は飛鳥の後ろに立つ形となった

 

「ことの発端は亜栖葉が初めてドラマ出演を勝ち取り、主演であるブリーズのカイトや他の出演者との親睦会が開かれた時のことでした、酔ったカイトが亜栖葉をナンパしたところを週刊誌に抑えられ、熱愛報道が広がりました、それにより、亜栖葉へのファンレターでちょくちょく別れろなどのファンからの手紙が届いていましたが、ですが一通だけ異様なものがありました…それがこれです…」

 

 社長の着ているスーツの懐から一通の手紙を飛鳥に渡す

 飛鳥は手紙を受け取り、最初の脅迫状を開く…

 唯と玲羅は飛鳥の持っている手紙を覗き込むと、一瞬のうちに表情が苦痛に歪む

 飛鳥も同じように、自分の姉にこんなものが…という風に表情が歪む

 

「お前は俺の女なんだ…あんなクソヤロウになんて渡さない…って…」

 

 そして、同時に怒りもこみ上げる

 そんな飛鳥に気付いてか、後ろから飛鳥の頭を撫でる亜栖葉

 

「こんなストーカー野郎なんて気にしてないわ…今はミッションに集中なさい…私を守ってくれるんでしょ?」

 

 そして、亜栖葉のいつもは言わない言葉に飛鳥は思わず驚いて振り返ってしまうが、なんだか少し嬉しくなり、コクリと頷いてから…

 

「えと…続きをお願いします。」

「わかった」

 

 忠雄の方に向き直り、忠雄に続きを話してもらうよういう

 忠雄は優しく笑みを浮かべ、真剣な表情に切り替わり、全員を見渡す

 

「それからいくつかの脅迫状が届き、皆さんも知っている通り、カイトは入院、ブリーズのプロダクションでもあるアンペラールがスキルネイチャースクールへ護衛を頼み、現在護衛をしてもらっています…カイトを狙い、重症を負わせた後、次に亜栖葉に被害が行きました…亜栖葉…」

「そうね…」

 

 飛鳥たちは自分たちも知らない情報に戸惑いながらも、前に出た亜栖葉は少しだけ着ていたTシャツをまくると亜栖葉のお腹には…

 

「っ!!!?」

 

 と思ったが、飛鳥はそれよりも一人の方に視線が行く

 飛鳥の視線に気づき、唯や玲羅も視線がそこにいくと、呆れた視線へと変わる

 飛鳥は仕方ないけど…今はどうなの?と思いながら、カイルへと視線がいく

 そう…うめき声をあげたのは珍しくカイルなのだ…

 

「姉さん…カイルは姉さんのファンだから、ちょっとね…」

「そうなの?じゃあカイルくんには後でサインあげるわ…」

 

 と亜栖葉は今回護衛をしてくれる報酬といわんばかりに、そういうと、カイルは亜栖葉の方に視線を向け…

 

「感激です!貴方の騎士が如く私は貴方を守ります!!」

 

 いつもの落ち着いたテンションとは違うハイテンションのカイルにそれぞれ、唯は苦笑い、玲羅は呆れ顔、千尋はため息、シンディは失笑、飛鳥はというと…

 

「カイル?僕は姉さんに手を出してもいいと思うけど慎重にね?たぶん…ある人が君を試験しに来るから…」

「うぇっ!!!!?いや!!!飛鳥!!?私にそんなつもりは…」

 

 前もってといわんばかりに飛鳥が忠告すると全力で動揺するカイルに忠告をする

 亜栖葉は飛鳥の言葉を聞いて、げんなりした表情を浮かべる

 飛鳥もため息をつき、改めて亜栖葉のお腹に視線を向ける

 すると…

 

「姉さん何その傷!!!!?」

 

 飛鳥はかすり傷ではあるが、確かな傷が視界に入る

 立ち上がると慌てて飛鳥は亜栖葉に近寄りる

 

「昨日、ここを出たときに全身黒ずくめの男に襲われた…マネージャーのおかげで何とか助かったけど、実際、いなかったら、私はどうなっていたかわからないわね…顔は見えなかったけど、身長は160前後…体型は細めで特徴は…」

 

 飛鳥は亜栖葉の表情を見て、気付く

 よほど気持ち悪かったのだろう…表情は苦痛にゆがみ、思い出したくも無いのだろうか近くの壁にもたれかかり、瞼を閉じ、少しだけ服を捲っていたTシャツを離し、忘れようとしているのか、亜栖葉のクセでもある、額を人差し指で小刻みにつつく

 

「亜栖葉、今から握手会の準備をしてきなさい、その後はレコーディング、終わるまでに私が全員に説明しておきましょう」

 

 そんな亜栖葉を察してか、忠雄の言葉を聞いて、亜栖葉は一人出て行く

 飛鳥はそんな亜栖葉の姿が心配だったが…

 

「玲羅…お願い…」

「うん、わかった…」

 

 玲羅にお願いをすると、玲羅は一人亜栖葉の後を追い、亜栖葉と一緒に部屋を出た

 

「行ってきてもいいのですよ?話なら私が聞きますし…」

 

 飛鳥の心配そうな表情に唯は気付いたのか、飛鳥に問いかける

 だが飛鳥は首を横に振り…

 

「僕に出来るかはわからないけど…どうしても捕まえないといけないんだ…僕は弟だから、姉に何かされて、黙ってなんかいられない…だから、全部僕が直接聞くよ…僕が守らないといけない人だから…すみません海女槻社長、話の続きを…」

 

 毅然とした態度の飛鳥を唯は隣で見つめ、少し心配げな表情を浮かべる

 あの舞踏会のときと同じようにならないかと…

 

「犯人の特徴は妙なクセです、まるで痛みで生きている実感を味わうように自分の腕の関節を外したり、嵌めたり何度も繰り返し、【ほら…君のためならこんなことも出来る…愛しているのは俺だけだ…さぁ…一緒に暮らし愛し合おう】といいながら、完全に戦意をなくした亜栖葉に襲い掛かったのです…」

 

 飛鳥は亜栖葉が表情をゆがめたのも理解できた

 話を聞いただけでも気持ち悪くてあまりにも変態すぎる

 

「亜栖葉のマネージャーは体術Aランク、異能Bランクの護衛としても有能な人材です、彼女がそばにいてくれたおかげで、襲い掛かってきた犯人を止めることは出来ました…ですが…」

 

 そこにいた全員が忠雄のですが…という言葉の続きが理解できた

 

「亜栖葉のマネージャーの話では、何故か一瞬、何かに気をとられた瞬間、犯人の異能でしょう…手も触れずに両足を折られ、重体…その後逆上した犯人が亜栖葉にナイフで切りかかり、咄嗟に亜栖葉が回避できたことによりかすり傷で済みましたが、騒ぎを聞きつけたビルに残っていた人間が大勢出てきたことにより、犯人は逃げていきました」

 

 亜栖葉のマネージャーは重傷で入院

 飛鳥は何度かあったことはあるが、女性ながらオーラが凄く、飛鳥は気絶した覚えがあった

 そんな人が今回重傷を負うくらいだ

 相当強い敵であることは確かだろう…

 

「以上が…亜栖葉が遭った被害の全容です…」

『こちら玲羅…亜栖葉さんの着替え終了』

 

 飛鳥はチョーカーに備え付けられている、登録した脳波の人間が通信開始の合言葉と同時に同じ周波数のチョーカーをしている人間とテレキネシスを科学的に利用する技術により、声を直接脳に送ることが出来る…ただし効果範囲は限られているし、地下などに入られては通信が出来なくなる、その機能により玲羅の声が飛鳥の脳に入り込んでくる

 

『わかったよ、今から僕たちもそっちに向かうね』

 

 飛鳥はそういうと「通信切断」と呟き、通信を切る

 今からミッションが始まる…そう考えると途端に飛鳥は緊張してきた

 失敗は許されない…失敗すれば姉がどうなるかはわからない…もしかしたら死ぬかもしれない…

 仲間はいるけど、自分の力が足を引っ張るかもしれない

 少しはうたれづよくはなったが、異能力操作や体術は少しだけ進歩した程度…

 他の仲間たちとは力量がまったく違う

  

 飛鳥は大きく深呼吸を何回か繰り返し、両手で自分の頬を叩く

 やれるかじゃない…やるかやらないかだ…

 飛鳥は自分の心にそう言い聞かせ、立ち上がる

 

「ありがとうございました海女槻社長、僕たちは水樹亜栖葉の護衛ミッションにつかせていただきます」

 

 そういって、隣にいた唯、他のソファに座っていたカイル、千尋、シンディの三人も立ち上がり、忠雄が立ち上がり…

 

「よろしくお願いします、飛鳥くん」

 

 一礼し、エレベーターの方へと向かう飛鳥たちを見送った

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 そこはプロダクションの近くにある

 イベント開催に良く使われることで有名な多目的ホール【ユートピア】

 その多目的ホール二階の広さ20畳ほどの広さの部屋にて亜栖葉の握手会が今行われている

 

「応援ありがとう!これからも応援してね♪」

 

 明らかに普段とキャラが違う亜栖葉を今狙われているということを伏せ、握手会で問題が起きないようにということで堂々と亜栖葉の背後で飛鳥と唯、玲羅の三人で護衛をしている

 カイルとシンディ、千尋は会場の外で列整理という名目で、怪しい人物がいないか探りを入れている

 特にシンディは精神リンク、千尋は精神解析と相手の精神を読み取る能力を持っている

 だからこそ、適任である

 もし紛れ込んでいた場合、精神を読み取り、犯人を見つけることが出来る

 

「いつも大変ですね…」

「いやぁ…俺も今日初めて代わりでつくから実感湧かないんだけど…ホントすごいよね…」

 

 飛鳥は監視を続けながらも、飛鳥の隣に立つ、半袖カッターシャツ姿の少しおっとりとした小太りの男性マネージャーは自分の頭を掻きつつ、苦笑いを浮かべながらそういう

 

「ねぇ、サイン色紙切れそうだから、とってきてくれませんか?」

 

 亜栖葉はファンの前ということもあり、丁寧にいう

 それを聞いた小太りのマネージャーは慌てて、サイン色紙を隣の控え室の方にとりに行こうとするが…

 

「あぐっ!!?」

 

 盛大にこける

 飛鳥はまるで自分を見ているようで、少し同情してしまう

 玲羅はため息をつき、唯とキャラ作り亜栖葉は苦笑い…

 小太りのマネージャーは恥ずかしくて愛想笑いを浮かべながら、そそくさと隣の控え室まで急ぐ

 

「ん…もう表に出してる分のストックも少なそうだし…」

「なら私が行ってくる…アンタはASUさんのこと見守って…」

 

 飛鳥は表に出している分のストックが少ないということに気付き、控え室の方へと向かおうと考えたが、それを阻止するように玲羅が隣の部屋へと繋がる扉の方へと歩みを進める

 

 

 

 玲羅は隣の部屋に入ると机の上に積んでいたはずのサイン色紙を盛大に床にばら撒いてしまっている小太りのマネージャーの姿を見て、ため息をつく

 

「もうストックも少ないですし、さっさと持って行きますよ…」

「うっ…ごめん…」

 

 小太りのマネージャーは申し訳なさそうに謝り、色紙をかき集めて、一人足早に会場の方へと出る

 玲羅はパッと見綺麗だったが、落ちたものを渡してしまうのも…と思い、改めてカゴの中に50くらい入れて置いていた色紙を持ち、他に何か持って言った方がいいかと、事務所から持ってきた荷物の中をあさりながら、考える

 亜栖葉はファンとコミュニケーションをとりながらということもあり、喉が乾いているだろうと思い、一緒に500mlのペットボトルにはいった水をあいている手で持ち…

 

「通信開始、会長、そちらはどう?」

『君もカイルでいいといったじゃないか?軌条くんといい君といい…』

 

 通信早々カイルのこの言葉に玲羅はため息をつき、呆れた表情へと変わり…

 

「そんなことはどうでもいい…」

『うわ…なかなかひどいね…とりあえずこっちは異常なし、千尋先生もシンディも異常なしって言ってる』

「そう…通信切断」

 

 玲羅はこれ以上カイルと通信していたら、また呼び方について突っ込まれると思い、強制的に切断した

 

「私が男を名前で呼ぶのは飛鳥だけ…唯はどうか知らないけど…」

 

 何独り言を呟いているんだろう…と玲羅はなんだか昨日からおかしい自分に対してため息をつき、床にまだ少しだけ散らばっているサイン色紙を拾い集め始める

 

「……はぁ…」

 

 玲羅は小太りのマネージャーがこけた拍子に擦りむき、その血がサイン色紙にべっとりついていることに気付き、げんなりしながら、ゴミ袋を探し、その中に血のついた色紙を捨てる

 玲羅は整理を終えると、必要なものを持ったか確認をし、会場へと向かう

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 午前の部1時間、休憩に入り、午後の部1時間と計約二時間を終え、飛鳥たちは弁当にありつく

 学校からは弁当が出ないということで、亜栖葉を仲間に守ってもらっているということで手作り弁当重箱四段分を持参し、現在ユートピアの控え室にて食事をしていた

 テーブルを囲むように、飛鳥、シンディ、カイル、千尋、玲羅、亜栖葉、唯の順に座っている

 予定ではレコーディングまで二時間の空きを作っているということもあり、食事をのんびりする時間はある

 そして、小太りのマネージャーは次にレコーディングの確認をするということもあり、席を外している

 

「飛鳥…あんた私の好物少ないわよ…」

 

 守られている立場なのに贅沢を言う姉に少し飛鳥はため息をつき…

 

「別に姉さんのために作ったわけじゃないし…今回はお世話になる唯たちのために作ったんだから…一応好物入れてるでしょ?玉子焼き…」

 

 亜栖葉は一瞬鋭い眼光で飛鳥を睨み「私は仕事で疲れてるのよ…」と文句をいいながらも、しっかりと好物である玉子焼きはしっかりと食べる

 ただ飛鳥としては、わがままな亜栖葉の鋭い眼光に一瞬でも視線を背けてしまった弱い自分に泣きたくなったのはいわずと知れたことだ

 

「しかし飛鳥に昨日好物を聞かれた時はなんなのかな?と思ったけど、これは実に美味だよ」

 

 カイルの言葉に飛鳥は視線をカイルに向けると本当に満面の笑みでほうれん草の御浸しを食べる姿を見て少しだけ嬉しくなった

 

「そうだな…実に嫁に欲しい…」

「なっ…」

 

 そして、カイルに同調するようにきんぴらゴボウが大好物だという千尋の嫁という言葉に再び飛鳥はげんなりする

 飛鳥は何度も言うようであるが男である

 女の子の見た目をして、嫁にしたがるほどの可愛さを持っているが…

 

「うちの姉と同じことを言わないでください先生…正直引きます…」

 

 そんな千尋の姿を見てため息をつき言全力で毒を吐く玲羅

 ただ、この前はお味噌汁作ったときにおいしいといってくれた玲羅で、今回は玲羅の大好物でもあるちょっと手間のかけたエビチリを今食しているのだが、玲羅は何も言ってくれない

 二人でいる時はありのままの自分でいるのだが、どうにも他に人がいる時はよほどのことが無い限りクールのままだ

 飛鳥はしょうがないか…と思いつつ、隣のシンディを見ると黙々と一人好物のシンディのために小さい一口サイズで作ったハンバーグを食べていた

 

「美味しい?シンディちゃん?」

「はい!!水樹さんの料理は最高です!!はぅっ!!!?ご…ごめんなさい…」

 

 あまりにもテンションが上がっていたのか、シンディは満面の笑みで、爛々とした眼差しを飛鳥に向け大声を上げる

 正直飛鳥はここまで大きな声をあげるシンディを見たことが無いので、少しキョトンとしてしまい、それを見たシンディは謝り、俯きながらハンバーグを食べる

 

「謝る必要はないよ…えと、そこまでよろこんで食べてもらえるなら、僕としても嬉しいよ♪」

 

 飛鳥はそういいながら、シンディの頭を撫でる

 ただ、そこで飛鳥は気付く…そんな飛鳥の姿を視認したシスコンの存在に…

 

「飛鳥…それは兄である私の仕事だけど?」

 

 飛鳥は苦笑いをしながら、シンディの頭を撫でるのをやめると次に…

 

「特別ですよ?今回はあ~んして差し上げます」

 

 そういいながら黒い笑みを浮かべる唯が亜栖葉の好物でもあり、飛鳥の大嫌いなものでもある酢豚を飛鳥の口元へと持っていく唯

 

「ほら…せっかく女の子に食べさせてもらえるんだから早く食べたら?」

 

 無表情のままエビチリを食しつつ、飛鳥を凝視する玲羅

 飛鳥はそんな二人のオーラに気圧されつつ、諦めて、唯に酢豚を食べさせてもらう

 その瞬間、口の中に広がる酸味に悶絶しつつ、机に顔を伏せ、何とか飲み込もうと試みる

 そんな飛鳥の姿を見て、亜栖葉と玲羅以外は本当に嫌いなんだ…と思いつつ、すこしだけ飛鳥を哀れむ

 

「さて…飛鳥を弄った後で、話を戻そう…再度確認をしたい…犯人の手口…」

 

 千尋は忠雄からノートパソコンへデータを送ってもらい、犯人の脅迫状の内容をリストアップし、脅迫状の内容を確認する

 

 送られてきた脅迫状は計10枚

 始まりはブリーズのカイトと熱愛というデマが週刊誌に載せられて始まった

 一通目は

 【お前は俺の女なんだ…あんなクソヤロウになんて渡さない…】

 勘違いしたストーカーファンにありがちな脅迫状

 二通目は

 【いつも見てるのになんで気付いてくれない…なんで俺よりアイツを…】

 DVDでのライブ映像や実際にサイン会とかで見ているうちに脳内で妄想した結果、勘違いした結果の脅迫状…の手紙に見える

 三通目は

 【偉い君なら気付くはずだ…あんな奴より俺の方が君を愛せる…気づけ…気づけ…】

 四通目は

 【お前は俺のものなんだ…あの男と別れろ、さもなくばあの男を殺す】

 五通目は

 【なんで…なんで気付いてくれない…わかった…じゃあ俺の愛を証明しよう…】

 六通目は

 【まずは警告…あはは!アイツ滑稽だったよ!!何度も何度も殴ってやったら助けて助けてってあはははっははははははははははははっ!!!!】

 七通目は

 【邪魔が入った…下手な小細工を打つね…いや…俺が悪かったかな?そうだね…】

 八通目は

 【一日考えた…カイトを襲っても意味が無い…愛を証明するなら君に…】

 九通目は

 【今日は待ちにまった日だ…さぁ…会いにいくよASU】

 最後は

 【ごめん…傷つけるつもりは無かった…でもこれでもわかってくれないんだ…君を愛せるのは俺だけなのに…】

 

「最後の一通は今日の朝届いたとのことだ…」

 

 飛鳥たちは十通の脅迫状や勘違いレターを元に犯人を特定するために、どういう人物か推理する

 これだけの手紙を見たら、ただの勘違いした頭のおかしい人物だということが理解できる

 

「感情ばかりが表に出て、性格が読めない…」

 

 玲羅が言うことももっともだ

 ほとんどが自分の欲望ばかりを述べている

 ただ亜栖葉に振り向いて欲しい…自分だけを見て欲しい…というただの欲望だけを…

 

「ですが…最後の一文で、もしかしたら、少し控えめな人…だという可能性もありませんか?あと今までの手紙と行動を考えれば、本当は自分に振り向かせることが出来る力が無くて欲しているからこそ力で証明する方法をとっているとも考えられませんか?」

 

 玲羅の次にシンディが控えめに手を上げつつ発言をする

 シンディの発言に飛鳥たちは目を見開き驚かされる

 フォールデン邸でのシンディのカイルとアキラの戦闘の分析といい、今回の手紙の分析といい…シンディの分析力はずば抜けていると飛鳥は思った

 だが、シンディは飛鳥同様マイナスしこうな部分があり…

 

「私なんかが言わなくても、皆さんわかってましたよね…あはは…あはは…」

 

 と自虐に走る

 ただ飛鳥はそれを聞いて、首を横に振り

 

「そんなことないよ、僕はもっとシンディちゃんの推理聞きたいな?」

 

 優しくシンディに微笑みかける

 それを見たシンディはポッと頬を赤く染め、俯きながらコクリと頷く

 飛鳥は酢豚しか食べていないため、他のものをとろうと自分の紙皿へと視線を落とした瞬間…

 

「嫌いなものは克服しませんとね」

「そうそう…亜栖葉さんの好物だけど、きっと嫌いなもの克服とわかってくれれば理解してくれる」

 

 唯と玲羅により、重箱の中に入っている酢豚を全部飛鳥の紙皿へと移す

 飛鳥はその瞬間フリーズし、涙を流し悶絶しながら、ゆっくりと食事を進める

 

「じゃあそれでお腹一杯になるだろうし、私が代わりにから揚げをもらっておこうかな…」

 

 そして、次々に飛鳥の好物でもある鳥もものから揚げを食べていくカイル

 その姿を見た飛鳥は「僕が何をいしたっていうんだよぉ…」と完全に泣きながら、やけくそで酢豚を平らげる

 

「シンディ、続きを…」

「は…はい…」

 

 呆れた表情を浮かべ、ため息をつく千尋に促され、シンディは飛鳥を心配しつつ、大きく深呼吸を何度か繰り返してから…

 

「あとは…もしかしたら…ですが…いえ、水樹さん…」

「亜栖葉でいいわよ?水樹さんだと二人いるわけだし…飛鳥のことも飛鳥って呼んでいいだろうし…」

「は!はい!えと…亜栖葉さんからすれば気分が悪い話かもしれませんが…これは内部犯の可能性も捨て切れません…」

 

 シンディの言葉を聞き、亜栖葉の表情は悲しげに変わる

 全員が亜栖葉のその表情を見たとき、うすうす感じていたことなのだろうと思った

 

「何故そう思ったの?」

 

 ただ、仕事仲間のことを信じたくて、亜栖葉はシンディに問いかける

 シンディも同じように悲しげな表情を浮かべながら

 

「森嶋先生、少しパソコンを借ります…」

「あぁ…」

 

 シンディは千尋からノートパソコンを受け取ると、画面に映し出された手紙の内容と日付を見る

 

「私がそう思ったのは犯人の一つのミスなんです…1~6まではちゃんと郵便にて発送していたのでしょう…ですが、7枚目からです…分配され亜栖葉さんの所に7枚目が到着した時間が夕方の17時、8枚目がこちらに事務所に届けられた時間が昼の15時です…明らかに郵便で送るには到着に早すぎる時間です」

「でもそれだと、直接届けられたということは考えられませんか?」

 

 シンディの解釈を聞いて、唯は疑問に思ったことをぶつけてみる

 すると…

 

「うちの事務所は基本的に直接は受け取らないわ…それに、持ってきて特例として受け取ったとしても、郵便局と同じ方法で検査をしてから配分されるから、まず一日は掛かるわ…それに…こんな手紙を持ってくる人物がいたらまず、警備員が捕まえるわね…」

 

 シンディではなく、亜栖葉が唯の問いかけに答える

 郵便局と同じ方法…

 ここ何年かで異能が発達したことにより、やはり手紙での異能犯罪という可能性もあることが考えられ、郵便局では異能を感知する機材が投入され、まずは異能が干渉していないかを調べてから、分配されていくこととなる

 怪しいものに関しては、差出人に送り返されるか、捨てられることがある

 

 芸能事務所となるとそこは余計に厳しいものとなるだろう

 所属アイドルに何かあってからではおそい

 だからこそ、時間が掛かるのは当然であり、七通目と八通目の時間差は有り得ないものであり、内部犯という可能性が生まれる

 

「姉さん…」

「気にしなくていいわ…さすがに疑うのは辛いけど、だからって犯罪をかくまうわけにはいかないわ…」

 

 飛鳥は、悲しげな表情を浮かべる亜栖葉の表情を見て、早く解決して、今日の晩は亜栖葉の大好物ばかりを作って、パーティーを開こう…そう考え、とりあえずは全員がお弁当を食べ終えたことを確認し、重箱を片付ける

 

「皆さん手間取ってしまってすみません…ではレコーディングに行きましょう」

 

 それと同時にいいタイミングで小太りのマネージャーが入ってくる

 そして、話は最後まで終わっていないが、レコーディングの時間をおしてまで話をするわけにもいかないため、とりあえずはお開きをして、荷物をまとめてユートピアをあとにした

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 レコーディングが行われたのは、ユートピアから大体車で10分くらいの距離にあるレコーディングスタジオ【エフォート】に到着

 エフォートは地下に車の駐車場があり、10階建ての大き目のビルである

 一階の受付にて、小太りのマネージャーが亜栖葉のレコーディングが行われるスタジオと楽屋の場所をうかがっているところ、飛鳥たちは3チームに分けて動くことにした

 スタジオ内で亜栖葉を守るチーム、スタジオのある階層を巡回するチーム、一階にて怪しい人物がいないかどうかを確認するチームの3チーム

 

 割り振りの結果、スタジオにいる人材は安定して力を持っている人間、巡回と一階にて待機するチームには精神感応系能力を持つ人材が必要

 だからこそ…

 

 スタジオ待機 カイル・唯

 階層巡回   玲羅・シンディ

 一階にて待機 飛鳥・千尋

 

 という割り振りとなった

 亜栖葉の楽屋とレコーディングスタジオがある階層は八階とのことで、飛鳥と千尋の二人以外はエレベーターにてあがっていく

 

「残念だったな居残りで…」

「え?」

 

 千尋の問いかけに飛鳥は首を傾げる

 千尋は近くの自動販売機でコーヒーを二本買い、一本を飛鳥へと投げ渡す

 

「うあっ!!?」

 

 飛鳥は何とか受け取るとロビーにあるソファに向かう千尋のあとを追い、千尋の隣に座る

 

「本当はスタジオで守りたいのだろう?」

「あぁ…そのことですか…」

 

 千尋は、ビルに入ってくる人間一人一人を解析しながら、飛鳥の心のことも心配する

 飛鳥はその問いかけに苦笑いを浮かべながら、飛鳥も一階に怪しい人物がいないかどうかを確認しながら答える

 

「そりゃ姉さんのことを僕が守れたら…そう思いますけど、僕自身、パイロキネシスは一センチ離れたところで発動がやっとですし、ガンブレードへの異能付与は今でも10回中5回は失敗する…やっぱり異能力は強い炎、3回でガス欠…体全体で纏ったらそれ+一回ですし…そんな人間が確実に守れるとは思いませんよ…僕はまだまだ弱いです…でも出来ないから何もしないなんて姉のことですから出来ませんし、僕に出来ることをします…先生の言葉ですよ?大事なのは心だって」

 

 飛鳥の言葉を聞いて、千尋は少し驚きながらも、なんだか嬉しくなり…

 

「少し生意気だ…」

「あぅ…」

 

 不器用に飛鳥の頭を撫でる

 飛鳥は人前で恥ずかしい…と思いながらも、少しだけでも認めてもらえたようで、嬉しい気分となった

 

『唯と出会ってチームを作った…それが飛鳥にいい影響を与えたんだな…チームを持つのも…悪くない…』

 

 千尋は心の中でそう思いながら、少しだけ気合を入れて、ビルに入ってくる人たちを解析し続けた

 そうしていると…

 

「飛鳥くん!!ちょっといいかな!!」

 

 さっき上がったはずの小太りのマネージャーが飛鳥のいるソファに向かって小走りで…正確には息切れしているのかゆっくりと飛鳥のところへと走ってくる

 

「どうしました?」

 

 飛鳥が小太りのマネージャーに問いかけると、小太りのマネージャーは

 

「はぁ…はぁ…君のお姉さんがいつも携帯しているのど飴を切らしてるみたいで買いに行きたいんだけどちょっとわからなくてさ…」

 

 どうやら亜栖葉からの買出しを任されたらしく、飛鳥に着いてきて欲しいということを飛鳥に伝える

 飛鳥は一瞬と惑うが…

 

「ここは一人でいい、依頼人のケアも大事だぞ?」

 

 千尋からのこの言葉で飛鳥は立ち上がり

 

「わかりました、では行きましょうか」

 

 小太りのマネージャーと共に飛鳥は外へと向かう

 

 

 

 その頃、八階巡回中の玲羅とシンディは…

  

「シンディ、あんた飛鳥のこと好きなの?」

「ウミュッ!!!!?」

 

 思い切り恋バナをしていた

 玲羅の問いかけにオーバーヒートするシンディ

 そんなシンディを見て玲羅は、まるで飛鳥を見ているようでなんだか心が手に取るようにわかる

 

「えとあの…」

「飛鳥さんを好きだなんて私からしたら恐れ多いです…私には勿体無いですし、唯さんの方が相応しいと思います…でしょ?」

 

 シンディは玲羅に先に言われ、驚き半分、恥ずかしさ半分という感情で挙動不審となる

 誰かに見られれば一番に警備員に捕まってしまうだろう

 そう思い…

 

「じゃあこの話は終わり…そういえば、私ユートピアの控え室で血のついた色紙を見つけたんだけど…あんたどう思う?」

 

 真剣な離しへと話題をシフトする

 シンディは真剣な話となり、何度か深呼吸を繰り返してから、咳払いをし…

 

「えと…状況を教えていただけませんか?」

 

 シンディの問いかけに、玲羅はあわただしくスタッフたちが動く通路をよく観察しながら、人気の無い方の通路を調べるためそちらに向かう

 

「状況はあのマネージャーが表に出していたストックきれそうだったから色紙を取りに行き、私も後からついていったんだけど、部屋の中に入ると床に色紙をばら撒いてしまっているマネージャーを発見し、マネージャーが色紙をかき集めて出て行ったんだけど、全員が見ている中こけたせいで手でも切ったんだろうけど、血が付着している色紙があった…シンディならどう判断する?」

 

 玲羅の問いかけにシンディは玲羅についていきながら、思考をフル回転させる

 小太りなマネージャーの手には確かに怪我をした形跡はあった

 だけど絆創膏一枚分の怪我…

 

「その付着していた血ってどれくらいですか?」

 

 シンディの問いかけに、玲羅は一度立ち止まり…

 

「大体20センチの正方形の色紙四分の一が血で濡れてたくらい…でも今思い出してみると濡れ方が変だった…まるで…」

 

 シンディは玲羅が言い終える前に察することが出来た

 

「もしかして、まるで塗るようにつけられた…ではないですか?」

「そう…それ!」

 

 玲羅のヒントによりシンディの頭の中でパズルのピースが揃った

 

「通信接続、犯人がわかりました!多分今回の犯人はあのマネージャーさんです!!」

 

 シンディの叫び声を聞いて、そばに居た玲羅は驚愕する

 

『えと…それは確かですか?シンディちゃん?』

 

 通信で唯からの問いかけにシンディは「えと…」と少しだけ戸惑うが玲羅がシンディの頭をなで

 

「シンディの推理は私が保証する…」

 

 シンディを庇うように答える

 だが、この犯人の特定には一つだけかけている

 

『白銀くん、だが、犯人の体型はスリムって言ってたはずだよ?彼には悪いが、そうは見えない…』

 

 そう、カイルの言うことは確かだ

 マネージャーは完全に太ってるとはいえないが小太りなのは確かだ

 それでは犯人の体型と一致しない

 たとえ自傷趣味があったとしても、内部の人間が犯人だとしても、その一点で躓いてしまう

 だが

 

『カイル、そのアリバイは崩れるぞ…』

 

 千尋のこの言葉に全員が驚く

 だが、それも気にしないほど焦っているのか言葉を続ける

 

『その前に飛鳥を追いかけるぞ、今あのマネージャーと一緒だ…』

 

 その言葉を聞いた瞬間、シンディの隣にいた玲羅は目を見開き、慌ててエレベーターへと駆ける

 それと同時に通りかかった部屋の扉、亜栖葉が入ったはずのレコーディング部屋の扉が開き、中から唯が飛び出してくる

 

「さすがは玲羅ですね…」

「うん…あのマネージャーが犯人だと知ったら飛鳥絶対無理するから…」

 

 唯と玲羅は二人揃ってエレベーターに乗る時間も惜しいと考え、階段で足早に降りていく

 飛鳥に迫っている危機を救うために…


 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 その頃、飛鳥は

 

「車で行くんですか?」

「うん、近いコンビニって車で行く方が近いから…」

 

 地下で小太りなマネージャーと共に車に乗り、飛鳥は助手席に座り、小太りなマネージャーの運転を待ちながら、千尋たちに通信を送っておこうと考えたが、地下では通信できないことを思い出し、車が発進してからしようと考えたが…

 

「やっぱり君…あのASUさんの弟だけあって可愛いね…」

 

 ボソッとマネージャーのそんな呟きが聞こえ、飛鳥はげんなりしながらも、今日は姉さんのお世話をしている人なんだから愛想良く…と自分に言い聞かせ、愛想笑を浮かべながら、マネージャーに視線を向ける

 だが…

 

「ほんと…綺麗な顔だ…男にはまったく見えない…」

 

 このマネージャーの雰囲気の変わりように飛鳥は疑問に思う

 そして、運転席から助手席の方に身を乗り出し、頬を撫でてくる姿…

 明らかに異様で、正直気持ち悪いとさえ感じた

 

「やめてください…僕…そんな趣味ないですし…」

「俺に触られているんだ…いいだろ?ASUの次に愛してやるから…」

 

 この言葉を聞いた瞬間、飛鳥は疑問に思った…

 何故そんなことをいうのか…

 まるで犯人じゃないか?と…

 

「疑問に思っている顔だね…ここまで言ったんだ…答えあわせはこうさ…」

 

 マネージャーの少し出ていたお腹が見る見るうちにへこんでいく

 

「かはっ…あぁっ…うぉぇっ…はぁ…はぁ…はははっ!!!?」

 

 そして、何かの力によって押さえつけられたかのようにお腹がへこみ、スリムになったところを…

 それと同時に飛鳥は確信した

 この人が犯人だと…

 

「姉さんにあんな脅迫状を送ったのはお前か!!!!」

「グッ!!!!?」

 

 飛鳥は怒りが湧き出し、小太りのマネージャーの顔を思い切り殴り飛ばす

 だが…

 

「こんな重さじゃ感じられないよ…なぁ…もっと…もっとだ!!!!」

 

 男はまったく意に返さない

 男の顔は狂喜に満ちていて、冷静ではないことは明白

 飛鳥は気持ち悪くなり、扉を開け、外へと逃げようとすが…

 

「うああああああっ!!!?グッ!!!!?」

 

 車は急発進し、目の前の柱に思い切りぶつかり、飛鳥は衝撃で気絶しそうになる

 シートベルトをする前だったため、思い切り体を打ちつけてしまい、腹の底から迫る吐き気を我慢しながら、狂喜に満ちた笑みを浮かべながら痛みを堪能する小太りなマネージャーを見て、今は逃げないといけない…そう思い、へしゃげたフロントのせいで開きにくくなった扉を蹴り開け、なんとか転げ落ちながら外に出る…

 

「カハッ!!!!?くっ…」

 

 飛鳥は何とか外の通信が届くところに出て助けを呼ばないと…そう考えたのだが…

 

「逃がさないよ!!!!」

「ぐああああああああああああああああああああああああああっ!!!!?」

 

 飛鳥は一瞬何が起こったのか理解できなかった

 自分の腕があらぬ方向に曲がった

 普通なら曲がらない…自分でも曲げようが無い方向に…

 元の体型に戻ったマネージャーが車からゆっくりと這い出て、こちらに手を翳している

 つまりそれを彼がやったということは確実なのだ…

 

「っ…ふっ…うぅ…」

 

 飛鳥はあまりの激痛に涙が流れる

 飛鳥はなんとか仲間を呼んでもらうために助けを求めようと考えたが、地下駐車場は人気が無く暗い…

 小太りなマネージャーはそれを見越してなのだろうか…車を入り口から1番遠い場所に停めていた

 

「もう逃げられないんだよ飛鳥…ASUを俺のものにする前に…君を…」

 

 飛鳥は小太りなマネージャーのこの言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になり…

 

「姉さんはお前なんかに渡さない!!!!っ!!!!!!」

 

 飛鳥は男に向かって手を翳す

 武器を転送するには千尋の承認がいる

 今現状武器は無い…だったらどうするか…自分の異能に頼るしかない

 飛鳥は『出来る…出来る…』と自分に言い聞かし…

 

「絶対に!!!!!」

 

 飛鳥が再び叫ぶと同時に小太りなマネージャーが車から降りると同時に車は発火し…

 

「なっ!!!!?」

「っ!!!!!?」

 

 車は爆発を起こし、飛鳥と小太りなマネージャーは爆風で吹き飛ばされ、二人とも壁に叩きつけられ、その場に倒れる

 

 飛鳥は体全体に走る痛みを我慢しながら立ち上がり、小太りなマネージャーを確保しないとと思い、足に装備しているバックパックから手錠を取り出し、しようとしたとき…

 

「っ!!!!!!?くっ…ああああああああああああああああああああああっ!!!!?」

 

 飛鳥は急な頭痛に思わず気絶しそうになる

 せっかく確保するチャンスなのに…と思いながら、痛みを堪えつつ、近づこうとする

 だが…

 

「っ……ぐあああああああああああああああああああああああああっはははははははははっはははははははっ!!!!!?最高だ…最高の痛みだよ!!!!!くっあっははははっはははっ!!!」

 

 意識を取り戻したのか、小太りなマネージャーはそういいながら、立ち上がり、足元から崩れ落ちそうになりながらも、飛鳥に視線を向け狂喜に満ちた笑みを浮かべる

 飛鳥は最後の最後で確保できなかった自分の情けなさと悔しさで小太りなマネージャーを睨みつける

 その瞬間、小太りなマネージャーの表情が変化する

 

「なんだよ…なんなんだよその目!!!?」

 

 飛鳥はマネージャーが何のことを言っているのか…まったく理解できない…

 ただ睨んだだけだ…それなのにさっきとはうって変わって怯えているそんな目だった…

 

「もういい!!!お前は要らない!!!死ね!!!死ね!!!!!」

「させません!!!!!」

 

 マネージャーが叫ぶと同時に、聞いた事がある声が聞こえ、同時に翳した手に飛んできた何かが腕にはまる

 マネージャーは発動しない異能への疑問が湧いた…だが、自分の腕についている手錠で何故発動しないのか理解できた…自分の腕にされた手錠は異能者を拘束するもの、つまり…

 

「15時46分…異能犯罪によりお前を拘束させてもらう…」

 

 飛鳥の視界に入ってきたのは唯、千尋、玲羅の三人の姿で、千尋がマネージャーの手を掴みもう片方の手にも手錠をはめていた

 それを見て飛鳥は安心し、そのまま意識は途切れた

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 飛鳥が次に目覚めたのは学園の医療センターだった

 腕の骨折の治療が行われ、医療技術が異能の発達により、進化したおかげで、今ギプスをされてはいるが、2週間すれば完治する

 病室の机の上にあった手紙によれば、初任務の成功…祝勝会をするために、ミッションメイト校舎の私室で行うということで、治療がとりあえず終わった飛鳥はミッションメイト校舎に向かっていた

 

「なんだその目…か…」

 

 飛鳥は一人あの小太りなマネージャーが言っていたことを思い返していた

 病室にあった鏡を見て、自分の目を何度か確認したが、何もおかしなところが無い普通のいつもどおりの目だった

 あのときだけ目が変だったのか?

 いくつかの仮定を考えてみるが、合致するものはないし、心当たりがあるものも無い…

 だったらどうして…と何度も自分に問いかけているうちに、ミッションメイト校舎に到着し、ロックを解除すると中に入り、受付のお姉さんに挨拶をしてから、エレベーターで3階に上がり、自分たちのチームに与えられた3012号室の扉を開く…

 

「「「「初任務成功おめでとう!!!!」」」」

 

 すると、同時にクラッカーの音が鳴り響き、飛鳥は驚ききょとんとした表情を浮かべていると、最近許可を得て買ったテーブルの上には大量の惣菜やオードブルなどが皿に盛り付けてあり、唯、千尋、カイル、シンディの四人が出迎えてくれた

 

「えと…」

 

 飛鳥は自分は対して何も…とか心の中で思いつつ、立ち上がった唯に手を引かれ、上座に座らされる

 

「飛鳥はリーダーですからこちらに、学生ですからお酒とはいけませんから、ジュースを注がせていただきますね♪」

 

 唯はそういって、紙コップを取り出すとそこに飛鳥の大好きなコーラをそそぐ

 飛鳥は戸惑いながら、あたりを見渡すと…

 

「あれ?玲羅は?」

 

 玲羅がいないことに気付く

 その質問に

 

「白銀くんなら、少し用があるから、それを済ませてから来るらしいよ?さ、お腹すいてるだろ?」

 

 カイルはオードブルの中で飛鳥の好物でもある鳥のから揚げやイカリングなどなど、唯に聞いたのだろう…飛鳥の好物ばかりを紙皿にとりわけ飛鳥に渡す

 飛鳥はカイルから紙皿を受け取ると、

 

「お箸をどうぞ?飛鳥さん」

 

 シンディから箸を受け取り「うん…いただきます…」といってから、まずは鳥のから揚げから食べる

 飛鳥は大きく深呼吸をし…

 

「えと…僕結局最終的に気絶したし…えと…唯がいなかったら…僕多分死んでただろうし…僕は…」

 

 一度紙皿をテーブルの上に置くと、俯きながら、自分がここまで祝いをうける立場ではないことをみんなに伝える

 だが、それを聞いた千尋は…

 

「お前は実際MVPだよ…私がお前を探すことで悪戦苦闘していたとき、大きな揺れと爆発音が地下の方から響き、一階は騒ぎになったんだよ…それを聞いて私たちは助けにいけた…お前がいなけりゃ逮捕できなかったさ…」

 

 千尋は滅多にフォローなんか入れないし、結果は結果でちゃんと伝える人間、そんな人に言われ、飛鳥は驚愕する

 

「まぁ…緊急回線を使用しなかったのは減点対象だがな…」

「あ…」

 

 飛鳥は確かにチョーカーの説明の時に緊急回線というものが存在し、同じチョーカーをしている人間が範囲内にいれば相手の異能力を感知して通信を開くことが出来るという異能力を消費して使う通信の存在を切羽詰っていて忘れていた

 飛鳥は自分の無能さに改めてため息をつき、俯きへこむと…

 

「でも今日は飛鳥がMVPです…今日は私が酌をしますよ♪」

 

 唯は満面の笑みを浮かべ1.5リットルのペットボトルに入ったコーラを飛鳥に見せる

 それを見た飛鳥は少し唯の笑顔にドキッとしながらも、誤魔化すように食事を進める

 

「遅くなった…」

 

 そんなことをしていると、扉が開き、玲羅が姿を現す…

 

「今日は成功おめでとう飛鳥…」

「あ…ありがとう…玲羅こそおめでとう…」

 

 玲羅は飛鳥の姿を見ると一番に成功を祝い、飛鳥も玲羅の祝いの言葉に同じように祝う

 だが、今の玲羅はどうにも落ち着かない様子で、いつもの玲羅らしくない…そう思えた

 

「玲羅も座ってください?」

「うん…」

 

 唯も玲羅に隣の席を開けていたため、そこに座るように促すが、まだ座ろうとしない…

 飛鳥は疑問に思い、立ち上がり、玲羅の方に向かおうとしたが…

 

「飛鳥…先に謝る…勝手なことしてごめん…でも…」

 

 飛鳥は突然謝られ、首を傾げ、なんのことをいっているんだろうかという風に玲羅に近寄ろうとした時…

 

「久しぶりね…あっちゃん…」

 

 飛鳥の表情は固まり、玲羅が扉を開けたまま、先に入るように促す車椅子に座った一人の少女を部屋へと入れる

 唯たちは誰だろうか?という疑問を浮かべていたが飛鳥だけはわかっていた

 長年会ってなかった昔は一緒によく玲羅と共に遊び、何でもいえた幼馴染…

 

「茜……」

 

 白銀茜しろがねあかねが飛鳥の視界には存在していた

 

 

 

 


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