4話 生徒会長からの私情ミッション
飛鳥はこのスキルネイチャースクールに入学して以来、ここまで緊張したのは初めてだった
スキルネイチャースクール生徒会副会長…白銀の綺麗な髪をショートにしたつり目気味の生真面目そうな雰囲気を醸し出す少女 イリス・アルジェントに案内されつつ、職員校舎にある生徒会室へと放課後、案内されていた
なんでこうなったのか…疑問に思いつつも数時間前の事を思い出す
飛鳥は誰とも喋る気分ではなかった
舞踏会での結末…
新垣絵里華は退学となり、三年間、スキルアレストに収容されることとなったと聞いた
飛鳥も唯も喜ぶことなんて出来なかったし、自分たちの力の無さを噛み締めていた
だが、それよりも喜べなかったのは、新垣絵里華の乗っていた護送車が何者かに襲われ、職員四人が気絶させられている間に新垣絵里華は消えたということ
その後足取りがどうなっているのかはわからず直接襲われた飛鳥と唯の処遇について、今協議されているとのこと
学生寮に入れられるならまだマシだが、教師やミッションコーディネイターのどちらかの監視の元暮らすことになるかもしれないということも考えられているとのこと
だからといって気分が優れないというわけではない…
飛鳥や唯は姿をくらました絵里華が何かに巻き込まれたのだろうか?今どうしているのか?無事なのだろうか?と気になっているのだ
そんなときに舞踏会以来やっと飛鳥の立ち位置が普通に戻ってきたため、少しだけ話せるようになったクラスメイトと楽しく談笑できるほど神経は図太くない…と飛鳥は思いつつ、机に顔を伏せ、ため息をつく
「水樹飛鳥はいますか?」
だが突然知らない声に呼ばれ、飛鳥の思考は妨げられ、顔を上げると入り口のほうには生真面目そうな眼差しの白銀の髪をしたバランスの取れた体型の少女が立っていた
男子生徒から「また水樹か…」という風な視線が降りかかってくるが、今は反応するほど気力も無かった…だからこそ…
「えと…何か用ですか?」
飛鳥は軽く手を上げつつ、その少女へと歩みを進める
飛鳥は近くまで行ってやっと気付く…目の前にいるのが生徒会の副会長であるイリス・アルジェントであるということを…
飛鳥はその瞬間、冷や汗が流れ…
「す…すみません!!!!失礼な態度をとってしまって!!!!」
思い切り土下座をする
イリスはそんな飛鳥の姿に目もくれず、一度ため息だけつき…
「放課後また来ます…その時に用件を話しましょう」
そういわれ、イリスは帰っていった
飛鳥のその姿を見た男子生徒たちは「ざまぁみろ…」という風に笑う
飛鳥は何をやっているんだろう…と思いつつため息をつき、その後の授業をその憂鬱なまま受けた
ということで今飛鳥はイリスに案内されつつ、校舎三階にある生徒会室の目の前まで来ていた
イリスは扉をノックすると
「どうぞ?」
優しげな高音寄りの青年声が聞こえてきた
そして、イリスが扉を上げると、一礼し…
「イリス・アルジェントです、チーム【Salvation】のリーダー、水樹飛鳥を連れてまいりました。」
イリスは頭を上げると、先に入室し、手で中に入るように促す
飛鳥は恐る恐る中に入ると、視界に入ってきたのは、事務用の机が五つ、まるで事務所のように中央に配置してあり、中央の奥にいる窓の外の景色を見ていたのか、後ろ姿でしか視認できなかったが、まわる椅子のため、座ったままこちらを向き、ニコッと笑みを浮かべる金髪無造作ヘアの青年 瞳はアイスブルーで男子の中でも上級の美形と言えるだろう雰囲気から優しげで、同じ学生なのに何故か少し貫禄を感じる…
「来てくれてありがとう水樹くん、私はカイル・フォールデン、よろしく」
生徒会長 カイル・フォールデンは立ち上がると飛鳥の方へ近づき、飛鳥に握手を求める
飛鳥は目の前で何が起こっているのか理解できず固まってしまう
「だめ…かな?」
「いえっ!!!?そんな!!光栄です!!」
カイルが困ったように苦笑いを浮かべているところを見て、飛鳥は慌てて、両手でカイルの手を掴み、握手をする
飛鳥は、イリスに睨まれているんじゃないかと思っていると、イリスは思ったよりも無表情で、自分の席に座り、事務作業を始めていた
「アルジェント君は生真面目だけど、そこまでお堅いわけじゃないよ?今日は君に頼みたいことがあってね?そこにあるソファに座ってて?」
飛鳥は広い生徒会室の中で壁際に配置された書棚の近くにあるソファに座り落ち着かない様子で部屋全体を見る
壁には歴代の生徒会長の写真が飾ってあり、書棚には古そうな本から資料までが閉まってあり、簡易キッチンまで配置されている
「今紅茶入れるから待ってて?」
「うあっ!!!?僕がやりますから!!!!」
さすがに生徒会長に紅茶を入れてもらうのはかなり気を使うため、飛鳥は慌てて立ち上がり、簡易キッチンの方へと向かう
だが、そんな飛鳥をイリスがカイルとの間に割り込むように立ち…
「貴方は客なんです、あちらでお待ちを…」
「そうだ水樹くん?君は客…それにこれくらいしないと…今回君に頼みたいのは私が抱えてる私情だから…」
飛鳥はカイルの私情といわれ、首を傾げる
そんな飛鳥の姿を見て、カイルは苦笑いを浮かべながら、紅茶を入れる準備をする
「私は舞踏会での君の評判を聞いている、燃え盛る炎の中、軌条唯と関わらせないために中にいる犯人を一人捕まえに向かうという…」
「犯人って言わないでください!!!!」
飛鳥の叫ぶ声にカイルは驚く
飛鳥としては、新垣絵里華を犯人と言われたくない…
確かに世間では犯人と言われても仕方ないことをしているのかもしれない
だが、飛鳥は絵里華も一人の被害者なんだ…とも思えた…誰がやったかはわからないが、絵里華の姉 新垣千鶴は殺された…殺されたことにより、絵里華の人生は狂ってしまったのだと…
そんな飛鳥の思考と真剣な表情を見て、断片的に理解したのかカイルは満面の笑みを浮かべる
「そうだね…私の失言だった…謝罪する…すまない…」
カイルは一度作業の手を止めると、飛鳥の方を向き、頭を下げる
飛鳥はそんなカイルの姿を見て、少し戸惑いを覚え…
「もう頭を上げてください…僕の身勝手な意見ですし…」
飛鳥はカイルにそう呟くと、カイルは頭を上げ…
「君は優しいな…ホントやはり君が適任だ…」
意味深な言葉を言ってきた
飛鳥は一度ソファのところに戻り、座って、しばらくすると、カイルも紅茶を淹れ終えたのか、飛鳥の目の前にあるガラステーブルにティーカップに注がれた紅茶を飛鳥の前に置き、カイルは飛鳥の向かいにあるソファに座る
「君に任せたいのは…」
「どういうことですか?飛鳥?」
黒い笑みを浮かべる唯とジトッとした視線を向ける玲羅、そんな二人を見てため息をつく千尋、愛妻と電話している王斬の4人がいる中、、ミッションメイト校舎 チームSalvationの私室で唯に問い詰められる飛鳥
カイルからのお願いというのは、飛鳥には自信をなくして引きこもっている妹のシンディ・フォールデンの友達になってほしいということと、普通にスキルネイチャースクール中等部に行くようになってほしいというものらしい
飛鳥はカイルが本当に困っているということを理解したからこそ、飛鳥はそのミッションを受けて、三連休であるゴールデンウィークに、カイルの家に泊まりに行くことになったのだ
学校に集合し、そこから送迎ということらしい
「いや…会長の私情って言ってたし…全員で行くことも無いかなと思ったから僕一人でって…」
「そして生徒会長の妹さんを我手に…?」
飛鳥が弁解をしていると、横から玲羅のとんでもない言葉に思わず固まってしまう
「いや!!!?有り得ないしそんなことしたら会長になんていわれるか!!!!」
飛鳥の震える姿を見て唯と玲羅は首をかしげる
飛鳥は思い出していた
データで君が男であるということは知っているんだ…でね?シンディのことは救ってほしいけど…もし手を出したら…わかってるね?
といいつつカイルは持っていたティーカップを何をしたかわからないが粉々にしているのを目の前で飛鳥は見たのだ
それを見た瞬間、勿論飛鳥は上ずったビビリ声で「はひっ!!!?」と叫んでいた
それを見かねた千尋は…
「フォールデンには私から言っておく…私も付き添うが、唯、玲羅…お前らもいけ、好きなだけ飛鳥を監視するといいだろ…」
「千尋先生!!?それ会長のご家族に失礼じゃ…」
飛鳥はそれを言った瞬間、自分の言葉が足らないことに気付き、恐る恐る唯と玲羅を見ると…
「どうやら私たちが暴れると考えているみたいですよ玲羅?」
「そうね…それは誰のせいか…わかってるのかわかってないのか…」
玲羅は無表情で、唯は背後に何故か黒いオーラが見えたりする
飛鳥は全力で訂正しようと考えたが…
「唯、玲羅、男はこの年代だともっと遊ぶべきなんだ…たとえ、女風呂を覗こうが、ナンパをしていようが見過ごすべきだと思うがな?」
とんでもないことを電話を終えた王斬がいいはじめ、飛鳥は気絶しそうになる
勿論そんな王斬の言葉を聞いた唯と玲羅は…
「あんた最低ね王斬…」
「女の敵ですね…王斬…」
鋭い眼光で睨まれた王斬はおもわず怯んでしまい、飛鳥肩に手を置き…
「飛鳥…二人のような女と結婚すると尻にしかれるからな…」
さらに余計なことをいい、訓練弾を装填されたハンドガン二丁を構える玲羅と異能で複製したクナイを構える唯の二人を見て、王斬は咳払いをし…
「今週からの三連休でのミッション頑張りな…」
部屋から出て行った
それは誰から見ても、逃走である
飛鳥は孤立無援の戦場で、唯と玲羅に腕を恋人のように組まれ…
「今から私たちが飛鳥の今日のトレーニングメニューを作る…」
「逃がしませんからね?」
地獄のトレーニングへの扉を開かれ、飛鳥は腕に当たっている二人の双子山のことなんてまったく気にならず、正直今から遭う地獄の開幕に震えることしか出来なかった
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
そして、三連休初日…
閉められた校門の前では、私服姿の飛鳥、唯、玲羅、千尋の姿があった
飛鳥は基本的にカジュアルなスタイルで薄手の黒のパーカーの下に白のカットソー、ボトムは濃い目のストレートジーンズに青と白のスニーカー、アクセサリーは十字架のネックレスという姿
唯はハイネックのベージュ色のセーター、赤と黒のチェックのフレアスカートまだ5月とはいえ、肌寒いということで黒のタイツをは履いて、黒のブーツを履いている
玲羅は寒がりということもあり、青の長袖シャツの上に白のピーコートを着て、玲羅のスタイルのよさを強調するスキニージーンズで濃い目の茶色をしたブーツを履いている
千尋は大人っぽい黒の七部袖のワンピース、ボトムは灰色のジーンズ、履いているのは大人っぽいハイヒール
飛鳥は玲羅の私服は良く見るが、唯や千尋の私服姿を見るのは初めてで少しだけドキッとした
そして、二人の私服を見ていることを視線が合うことにより、見ていた事を誤魔化したいために…
「でも遅いね…会長…」
とありきたりな言葉で誤魔化そうとする
だが、そんな飛鳥の姿を優しげな笑みを浮かべ、見守る唯と千尋
それが何よりも恥ずかしく、飛鳥は俯く
それを見ていた玲羅はため息をつき、道路の方を向き、表情が凍りついた
「私…夢でも見てる?」
玲羅の言葉を聞いて、飛鳥たちも玲羅と同じ方向を見るとやはり三人とも表情が凍りついた
何せ視線の先に来ているのは…
「リムジン……」
飛鳥は思わず呟いてしまう
飛鳥たちの目の前にそのリムジンは止まり執事が出てくると、後部座席…最後尾を開き、中からインナーは青のシャツの上に黒のジャケット、ボトムは濃い目のジーンズという姿のカイルが出てきた
「今日はありがとう、三日間よろしく頼むよ、乗って?」
まるでどこかの王子かのような登場に、唯、玲羅、千尋の三人は少し見入ってしまう
飛鳥はそんな注目を浴びれるカイルが少し羨ましいと思いながら、先にリムジンの中に乗り込む
そんな飛鳥の姿を見て、またため息をつく唯と玲羅、千尋は別の意味でため息をつき、唯、玲羅、千尋、カイルの順に乗り込んでいく
携帯電話で電話をしているカイルの姿を飛鳥は静かに観察していた
千尋とカイルの家での行動について打ち合わせをしているカイル
聞いているだけでも、カイルの完璧さが伺えて、生徒会長を任されるに値する人だということは飛鳥が見てもわかった
カイルは飛鳥の視線に気づいたのか、ニコッと笑みを浮かべ…
「緊張するかい?」
「はぅっ!!!?えと!!!あの…はい…」
カイルは飛鳥に問いかける
それを来た飛鳥は思わずテンパリながらも、返事をし、俯く
「緊張する必要はないよ、友人だと思ってくれていい、私のことはカイルと呼んでくれ」
「いえ!!!!そんな恐れ多いです!!!!」
そんな飛鳥に自分のことを友達のように呼んでくれと言われ、飛鳥は思わず叫んでしまう
玲羅と唯は飛鳥のテンパる姿を見て思わずクスと笑う
飛鳥はそれに気付き、情けのない自分に気付き、へこんで俯く
「飛鳥、逆にそれはカイルに失礼だぞ?まぁ…お前の性格上難しいとは思うがな…」
そして、千尋は今の飛鳥の姿を見かねて、ため息をつきながら、正論を言う
それを聞いた飛鳥はまた困惑してしまうのだが、カイルはクスッと笑みを浮かべ…
「大丈夫ですよ森嶋先生、水樹くんとはこの三日で絆を深めます」
また意味深な言葉を言う
飛鳥はカイルの言葉を疑問に思いながら、それから走り出して10分ほど経過すると、見えてきたのは中が見えないくらい高い塀
そこは学校から来るまで30分くらいの距離にある高級住宅街で、飛鳥だけではなく玲羅や唯も思っていたが、縁が無い場所だと思っていた
だが、リムジンが入っていったのは、この高級住宅街でも一番の広大な土地だと思われる場所
門が自動的に開き、リムジンでそのまま舗装された場所を通り、視界に入ってきたのは、映画とがでよく見られる豪邸
中央の噴水からの十字路で、北側には本邸があり、東側に別邸がある
西側には庭園やプールなどが見えた
リムジンが向かったのは、別邸の方で、別邸に到着すると…
「最初は水樹くんだけのつもりだったから部屋が用意できたのは、この別邸だけでね…森嶋先生、白銀くん、軌条くんはこちらで泊まってもらうよ?メイドたちに任せるつもりだから、気兼ねなくゆっくりしてくれ…あっ水樹くんは違うよ?」
メイドさん出迎えの元、千尋、玲羅、唯の順に降ろされると、飛鳥も降りようとしたがカイルに手を掴まれ、制止の声を掛けられ、飛鳥は首を傾げる
勿論それを見ていた唯と玲羅も首を傾げるが、一人千尋は勘付いたらしく…
「そういうことか…」
「ご名答です森嶋先生、水樹くんは本邸の私の部屋に泊まってもらいます」
納得し、飛鳥に同情の眼差しを向ける
飛鳥はあまりのことに固まり、同情の眼差しを向ける千尋や状況が飲み込めていない唯と玲羅の二人に見送られながら、リムジンの扉が閉まり、リムジンは本邸の方へと向かった
飛鳥はカイルと一緒にリムジンを降りると、はじめて見る豪邸に飛鳥は少し感動しながらも、今からここで三日間過ごすのか…と思いつつ、鞄の中にしまっている一般向け菓子折りを出せない…などなどと今まで以上にテンパっていた
「お帰りなさいませ、カイルさま…」
「出迎えありがとうメリーダ、私の部屋にベッドは置けたかい?」
そして、カイルが玄関の扉を開き、中に入ると十名くらいのメイドさんの出迎えがあり、飛鳥はさらにテンパる
カイルは玄関で靴を脱ぎメイドさんが床に置くスリッパを履き、メイド長だと思われる長い黒髪を前で束ねる凛とした顔つきの女性と話をしていた
「水樹様、こちらへどうぞ」
笑顔のメイドさんに飛鳥は促され、飛鳥も
「お邪魔します…」
といってから、靴を脱ぐとスリッパを履く
それを確認したカイルは
「先に説明しとくよ、この一階東側の部屋は父と母が所有する部屋で、一階西側は共有部屋、食堂、浴室、トイレ、キッチンなどはこちらにある、二階東側が私が所有する部屋で、二階西側がシンディの部屋となっている、さぁ、行こうか?」
歩き始め、玄関を入ってすぐに見えてきた階段をあがり、壁に飾ってある家族絵画に一礼してから、東側へと向かった
飛鳥もカイルの真似をして、一礼してから、東側へと向かおうとしたが…
「ん?」
西側の通路から覗いている金髪ツインテールのアイスブルーの瞳をした少女を見て、首をかしげながらも、笑顔を取り繕い、手を振ってみた
すると、今にも泣きそうな表情で近くの部屋へと戻っていった
「失礼な真似をしてごめん…あの子がうちの妹、シンディ・フォールデン」
カイルは飛鳥の近くに戻ると、怖がりで純粋そうな妹の代わりに紹介をした
飛鳥は、この三日間であの子を…と考えながら、再び歩き始めたカイルの後ろにつき、飛鳥はカイルの部屋へと向かう
通路に入って一つ目の部屋を開き、カイルは飛鳥に入るように促す
「ここが私の部屋だ、狭いところだけど、くつろいでくれると嬉しいよ」
カイルは狭いといったが、飛鳥からすれば広い…
自分の部屋は六畳なのだが、その倍以上はある
入り口から入って左側に明らかに特注である壁に埋め込まれている画面のかなりでかいテレビ、テレビの近くには二人掛け用のソファが一つとシングルソファが二つ、テーブルを囲むように配置してある、右側にはベッドが二つ並んでおり、二つともダブルベッドサイズ
窓側にはデスクがあり、そこでカイルは勉強しているのがわかる
窓側の壁際には最低限の勉強の教科書だと思える本が収納された棚がいくつかあり、入り口近くの壁際には大き目のクローゼットが置いてあるという配置になっていた
ただ、カイルはくつろげというが、飛鳥からすればゴージャスな部屋にタジタジでくつろげないのだ…なんせ明らかにカーペットは高そう出し、カーテンも高そう…すべてが高そうに見えて仕方が無いのだ
「ちなみにこの部屋の置物で総額…」
「それは聞かない方がいいよ水樹くん?」
そして、飛鳥はカイルに総額を問いかけてみるも、回答を拒否される
飛鳥はその時点でかなり高いということを予想し、くつろげなくなり、かくかくとまるでロボットのようにソファまで移動するとシングルソファに座る
『うきゃっ!!?座り心地が家のソファとまったく違う…』
飛鳥は心の中でそう思いながら、汚さないように…汚さないようにと、鞄が汚れていないか確認してから、床に置く
それから、亜栖葉に渡された菓子折りを渡さないと、帰ったら亜栖葉に怒られると思い…
「あの…これうちの姉から…三日間お世話になるんで、つまらないものですが…ほんとに…」
最後は小さい声で言ったが、鞄からちゃんと和風で大人びた雰囲気を醸し出す包装がされた菓子折りをカイルに渡す
カイルは受け取るとニコッと笑みを浮かべ
「ありがとう、お姉さんにお礼を言ってて、少ししたら私の所有する部屋の談話室でみんなで話そうか?」
「はい」
本当に嬉しそうに菓子折りを見つめる
飛鳥はカイルくらいのお金持ちならそういうものは良くもらうだろう…と不思議に思いながら、部屋から出て行くカイルを見送る
飛鳥はふと、自分はこの自分に似つかわしくない部屋に一人きりにされたんだ…と思いつつ、緊張から、挙動不審となる
どうしたらいいだろうか!!!どうしたらいいだろうか!!!?と
そんなことを考えていると…
「うあっ!!!!!!?」
ポケットに入れていた、学校配布の携帯電話の着信音が鳴り響く
電話を掛けてきているのは唯で、慌てて電話に出ると
「もじもじ!!!!!?」
『キャッ!!!?』
あまりの緊張プラス寂しさから半泣きになってしまった飛鳥
飛鳥の半泣きプラス大声のせいで悲鳴を上げてしまう唯
飛鳥は、しまったと思いつつ、深呼吸を何回か繰り返し…
「ごめん…今会長の部屋で一人だから…」
『そ…そうですか…』
唯に謝罪する
飛鳥は何の用だろうか?と思いつつ、いきなり聞く勇気もなく、とりあえず何か話題を…と考えていると
『本邸にいるということは、シンディさんには会いましたか?』
唯の問いかけに納得した
唯は本邸に向かうまでに何かしらシンディの情報がほしいのだろうと飛鳥は思い…
「うん、会ったよ…唯や玲羅とは違って可愛い子…だったね…」
まずは見た目と思いつつ、素直な感想を言ったのだが、飛鳥は気付く…また言葉が抜けていることを…
『飛鳥…本邸に行ったら覚悟しておいてくださいね?』
ブツ!!
そして、弁解することも出来ず、唯に電話を切られた
飛鳥は冷や汗を掻き…
「お待たせ、じゃあ談話室に…どうしたんだい?」
カイルが入ってきた途端わかるくらい、飛鳥は泣きそうな表情で固まっていた
そして、談話室にて…
「へぇ…私たちを不細工っていったんだって?」
「ぐあっ!!?」
玲羅に腕を掴まれると関節技を掛けられ
「不細工で悪かったですね…飛鳥…」
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!?」
唯に思い切りアイアンクローを食らわされる
そんな飛鳥が痛めつけられているところをカイルは苦笑いを浮かべながら見つめ、千尋はため息をつき、メイドさんがだしたいかにも高そうなコーヒーカップに注がれたコーヒーを気にせずに一口飲み、持ってきていた文庫を読みながら、飛鳥への折檻が終了するまで待つことにした
「いや!!!僕よく言葉が抜けるんだよ!!!?唯と玲羅は美人系だけど、シンディちゃんは可愛い系だって言おうとして!!!?」
飛鳥はやっといえた…と思い、二人から解放されると二人はため息をつき…
「まるで言わせたみたいでなんだが納得できませんね…」
「そうだね…」
玲羅は千尋の座る二人掛けのソファの隣に座り、飛鳥と唯は空いている二人がけのソファに座った
ちなみにカイルはシングルソファに座り、壁際に配置されている本棚からあらかじめとって置いた書籍を読んでいた
飛鳥はまだ機嫌が直っていない唯と玲羅の二人と視線を合わせないようにしながら、カイルの会議の始まりを待つ…
カイルは書籍を閉じ、テーブルの上に書籍を置くと全員を見渡し…
「会議という会議はしないんだけど…ただ、水樹くんたちにはシンディの話し相手になってもらいたいんだ…シンディは悩んでいるんだろうけど、自分の中に抱え込んで、何も話さないから…だから私にも話してくれない…」
カイルの本当に困ったような表情を見て、飛鳥は疑問に思う…
それはそうだ…
「あの…実の兄に話も出来ないのに…他人の僕らに話せるわけがないですよね…?視線が合って手を振っただけで逃げ出すほど人見知りでしょうし…」
飛鳥の疑問はもっともだ
このカイルの話し方だと、要は家族やメイドたちにも話をしていないということなのだろう
飛鳥は一度遠目とはいえ、会っている…手を振るだけで半泣きになりながら逃げるくらいの人見知りだ…だからこそ上手いこといくとは飛鳥には思えないのだ
だが、飛鳥以外の三人は、まるでパズルのピースを嵌めているように考え込んでいた
「これは一つの賭けかもしれませんね…」
「そうね…」
「何故飛鳥だけを呼び出したのか…理解できたよフォールデン…」
そして、飛鳥以外の三人は納得した
一人取り残された飛鳥は何のことか理解できないまま…
「お兄様…」
ノックの音が聞こえ、扉を少しだけ開き、覗き込んでくる少女が現れた
少女の声が聞こえ、唯、玲羅、千尋の三人が扉の方へ視線を向けると「ヒィッ!!?」という声が聞こえ、談話室の扉が閉められる
そんな少女の姿を見た玲羅は…
「同じ匂いを感じる…まぁ…似たという意味だけど…」
不意に呟き、立ち上がると、扉を開く
「はぅっ!!!?」
すると玲羅の視界に入って来たのはオドオドと挙動不審な涙目の可愛い少女 シンディ
「大丈夫…この部屋の中にはアンタをどうこうしようなんて人はいないから…一人はアンタと同類だし…」
飛鳥は玲羅のいう同類って誰のことだろと考えつつも、渋々入り、何故か唯がシングルソファに移動するとシンディはペコっと頭をさげてから、飛鳥の隣に座った
玲羅は扉を閉めると、千尋の隣に戻るそれを確認するとカイルはニコッと笑みを浮かべてから、全員を見渡し
「さて、全員揃ったところでゲームをしよう…王様ゲームから人生なんでもありゲーム、クリエイトすごろくなんてものもあるね?どれをする?」
飛鳥は何がいいだろうか…と考えつつ、王様ゲームだけは除外する
この年齢でするようなものじゃないと思うし、まず、中学生を交えてするものではない
飛鳥と同じことを考えていたのか、じっくりと唯は考えた様子で…
「人生なんでもありゲームがいいと思います。これならなんにも嫌がる内容はないと思いますし、シンディちゃんも楽しめると思いますよ♪」
唯の言葉はもっともで飛鳥も普段はしないのだが、自ら挙手をし
「賛成、僕もそれがいいと思う!」
とテンションをあげて盛り上げようとする
玲羅と千尋もそれを見て頷く
だが、何故かカイルだけが浮かない表情で立ち上がり、本棚の下段にある引き出し閉まってあった楽しそうに騒いでいる絵が描かれた大き目のパッケージに入っている【人生なんでもありゲーム】が出てくる
「わかった…一度しよう…覚悟はしておいた方がいいよ…」
そういって、パッケージをあけ、テーブルの上に広げる
そのおもちゃはクリーンなイメージを受けるような立体的に人生を模ったようなデザインがされていた
200マスくらいで一つずつ質問が書かれてあり、スタートは小学生からで、ゴールは死去となっている
つまり本当に人生を模ったようなゲームなので、パッと見ただけでもいろいろ年齢にあわせた質問が書かれていた
特におかしな質問内容はない…
何故カイルはこれを嫌がるのか飛鳥たちはわからなかった…
「では始めようか…」
カイルがそう呟いた瞬間、飛鳥たちは実感し始めた
なぜなら、何故か全員そのおもちゃらしきものからまるでスキャンされるように光が発せられ、光が収まると、スタートに人数分の立体映像人形が現れ、一つずつ特徴が示されていた
飛鳥は水色の髪の女の子
唯は黒髪パッツンヘアの女の子
玲羅は赤髪のつり目気味の女の子
カイルは金髪無造作ヘアの青年
シンディは金髪ツインテールの女の子
千尋はウェーブの掛かった茶髪の眼鏡女性
そして、死去まであった質問が縮み、年齢が18までと変化し、それ以外のますは年齢の関係ない質問へと変化する
カイルはため息をつき、全員に視界をめぐらせ…
「今このボードゲームは私たちとリンクし、情報を読み取った…このボードゲームに記録されることは無いが、終わるまで消されることは無い…そして…」
(一ターン目、水樹飛鳥さんどうぞ)
「えっ!!!?」
カイルの説明のさわりは聞いたが、飛鳥は驚いてしまう
なぜならいきなり自分の名前を呼ばれたのだから…
驚きはカイル以外全員も感じている
飛鳥は恐る恐るボードに設置されたボタンを押すと、ダイスがまわり五を示した
すると自動で飛鳥の人形が動き、五つ進んだマスに止まる
(水樹飛鳥さんに質問です 貴方は小学四年生です 幼馴染の玲羅さんが教室にいました 彼女はいつものように読書をしています、貴方はどうやって声をかけましたか?本当のことを言わないとこちらで暴露します。)
「ブッ!!!!?なにこれッ!!!!?」
飛鳥は顔を真っ赤にしながら、驚愕する
それを見ていた玲羅は思い出したのか、なるほど…と理解していた
「えと…あの…やっほ~玲羅!!今日もクールビューティーだねぇっ!!!…グアッ!!!?」
飛鳥はあまりの恥ずかしさにダメージをくらい、テーブルに突っ伏す
それを見ていたカイルはご愁傷様…と言わんばかりに苦笑いを浮かべていた
もちろん過去の飛鳥の所業を聞いた唯と千尋は驚いた表情のまま突っ伏している飛鳥を見ていた
「ほんと…あの時は反応に困った…飛鳥は根暗だって言われて一人でいた私を元気付けるためにやったんだろうけど、キャラを考えるべきね…」
「ハゥッ!!!?」
そして、飛鳥の最後のトドメを玲羅がさした
玲羅と飛鳥、シンディ以外の全員は苦笑いを浮かべる
(次は軌条唯さんです。どうぞ)
次にまわってきた唯はビクッと驚き、恐る恐るダイスのボタンを押す
すると、ダイスは3を示す
唯の立体映像人形は三つ移動し…
(貴方は小学二年生です、その時に呼ばれていたあだ名は?)
「うぅ…」
ボードの質問はどうやら唯の嫌な過去を思い返すものだったらしい…
唯の顔は真っ赤で俯く…そんな唯の姿はやはりレアで再起不能になった飛鳥もそんなレア映像を記憶に納めようと顔を上げる
「いえません!!!!」
唯は全力で答えるのを拒否するとボードのがレッドアラートを発し…
(回答拒否によって暴露に入ります。軌条唯さんはその頃より発育がよく、同年代の男の子から【おっぱい魔神】と呼ばれていました)
「はぅっ!!!?」
唯が全力で隠したかったあだ名を暴露された上に理由まで話されるというひどいもの
飛鳥は赤くなっている顔を見せないために再び顔を伏せる
紳士的なカイルは最初から耳を塞いでいたらしい
ちなみに玲羅と千尋とシンディの視線は唯の胸へと向いていた
(ちなみに現在Eカップの89センチです)
「言わなくていいです!!!!」
そして、現在のバストサイズを暴露され、玲羅の視線が厳しくなり、シンディは涙目、千尋は自分の胸と唯の胸を見比べていた
「わかったと思うけど、回答を拒否すると今のようにいらないことまで暴露されるから注意することだ…なにせ生徒会で一度したときに、あのアルジェント君が再起不能になったくらいだからね…」
カイルの言葉を聞いて、さすがの玲羅も唯も千尋も冷や汗をかき、シンディにいたってはもう泣きそうになっている
(次は白銀玲羅さんの番です)
玲羅は自分の番となり、おそるおそるダイスを回すボタンを押す
すると示したのは六
立体映像人形の玲羅は六マス目に移動すると…
(貴方は小学四年生です、実の姉と水樹飛鳥さんの部屋を訪れたとき、姉の行動を見て真似たことを教えてください)
「…………」
質問が流れ、玲羅は表情をしかめる
やっと復活した飛鳥は顔を上げると、自分の部屋で玲羅にされたことと考えながら、玲羅ならそんな大したことをされていないだろうと考えていると…
「隠れて飛鳥のベッドで転げまわった…」
(それもうふふ~と笑いながら…)
「っ!!!!?」
玲羅はちゃんと言ったのに、まるで不足分を付け足すようにいった
それを聞いた玲羅は立ち上がり、おもちゃを破壊しようと試みたが、咄嗟に思いとどまる
「ちなみに中途半端に言ってもある程度暴露されるから注意してくれ白銀君…」
どうやらカイルもこの手のことで痛い目にあったらしい…
カイルの目が遠い目をしていた
少なくとも、飛鳥は今すぐにこのゲームをやめたい…そう思った
だが…
(辞めたいと思った水樹さんにペナルティーです)
「えっ!!!?なんで!!!!!?」
考えただけで、どうやらこのゲームにはお見通しらしい
飛鳥は何が起こるのか…と震え始める
(水樹さんは、先週の舞踏会にて思ったこと 玲羅…ほんとに胸成長したな…)
「飛鳥…?」
飛鳥を玲羅が鋭い眼光で睨みつけ、飛鳥は光の速さで視線を逸らす
(唯…怒ると本気で怖いな…なんか…亜栖葉姉さんがもう一人増えた気分だ…)
「飛鳥?どういう意味ですか?」
そして、黒い笑顔を浮かべる唯、飛鳥は再び光の速さで視線を逸らす
(そして現在、シンディちゃん可愛いなぁ…こんな可愛い妹ほしいよ…僕の周りは姉ポジションの人ばかりだし…唯は怖いし、玲羅はたまにヒステリーだし、千尋先生たまに睨んでくるし、亜栖葉姉さんは論外だし…)
「はぅっ!!!?」
飛鳥は思わず悲鳴を上げてしまう
なぜなら一気にシンディ以外のそこにいる人物から、睨み+黒笑という集中砲火が一斉に飛鳥に降りかかる
「さて…どうしましょうか?こちらのウサギさんを…」
「唯…このウサギはきっと始末するべき…」
「その意見には賛成かな白銀くん…私も少し水樹くんを甘く見ていたよ」
「そうだな…ではこのゲームを終えたら、まずすることは飛鳥が余計なことを考えられなくなるほど鍛えるべきだろうな…」
飛鳥は本当にウサギのように震え始め、隣を見ると、同じように四人の雰囲気に当てられたシンディもウサギのように震えていた
それから全員で何とかゲームを終了させると全員満身創痍の中、飛鳥はシンディ以外の四人から言い渡されたトレーニングメニューをこなし、飛鳥は力尽き、カイルに運ばれ、今日用意されたベッドに連れて行かれた
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
目が覚めると既に外は夜だった
あたりを見渡してみると一人で、ベッドの上に寝転んでいた
飛鳥は体を起こすと気絶する前のことを思い出した
お風呂は勝手に使ってもらって構わないとのこと
飛鳥はほんとに大丈夫かな…と思いつつも、汗のおかげでべっとりのシャツを着替えるために先にお風呂に入る必要がある
鞄の中から着替えとタオルを持ち、カイルの部屋を出る
飛鳥はメイドさんにお風呂場はどこか聞き、一階西側へと向かう
最初に説明は聞いていたが、気絶することによってどの部屋かはわかっていない
それに正直勝手に人の家の部屋に入るなんて出来るわけもない…
「し…失礼します…」
飛鳥はお風呂場の扉の目の前まで来ると、ノックし、恐る恐る扉を開く
脱衣所には誰もいないが、浴室の方からシャワーの音が聞こえている
誰か入っていることはわかった
「えと!!!どなたですか!!?」
「私だ、気にせず入って?」
声をかけてみると中からカイルの声が聞こえてきた
飛鳥はカイルだということに安心し、脱衣所で服を脱ぎ、腰にタオルを巻くと浴室の方へと入っていく
中に入るとフルオープンなカイルがそこにいた
飛鳥としては男同士だということもあり、気にせずにまるで銭湯を豪華にしたような浴室に感動しつつ、カイルの隣に並び、風呂椅子に座るとシャワーの温度を確認しながら蛇口を捻り、適温になると頭からシャワーをかぶり、濡らしてから、丁寧に自分の長い髪をシャンプーで洗う
「まるで女の子のような洗い方だね?」
冗談っぽく笑顔を浮かべながらカイルはそういうが、飛鳥からすれば少しグサッときて、無理矢理男らしく洗おうと考えるが、昔からロングヘアの自分は姉に洗ってもらっていたこともあり、この洗い方が定着していて、洗い方がわからない
「ほっといてください!僕だって男なんです!あ…すみません…」
飛鳥は思わず馴れ馴れしく接してしまった…と考え、謝ってしまう
そんな飛鳥を見て、カイルは苦笑いを浮かべながら、洗い終わったのか旅館の温泉をイメージして作られたであろう大衆浴場サイズのお風呂に浸かる
飛鳥はしばらくして、全身洗い終えると同じようにお風呂に浸かる
それから数分、無言の時だけが続く
飛鳥は正直何を喋ったらいいのかわからなく無言になってしまったのだ
「水樹くんには何でも話せる友達はいるかい?」
「え?あの…」
そして、さらに無言が続いたところで、カイルは飛鳥に質問を投げかける
正直そんな質問の意図がわからなく、戸惑ってしまうが、少し悩むが…
「いた…が正しいですね…玲羅にも大概は話せますが、すべては話せないです…唯も…そうですね…」
飛鳥は誰かを思い出すように遠い目をしながら、カイルの質問に答える
カイルは飛鳥の表情が悲しみを帯びていることに気付き、悪い質問をしてしまったと思いながら、これ以上言わせては酷だと思い
「私にはいない…」
飛鳥はカイルの答えに驚き、視線を向ける
そこには笑顔を浮かべているが、どこか悲しげであることを察する
「みんな気を使ってるんだろう…どうにもそうさせてしまうオーラが出ているらしい…周りの人の表情を見ているとそれをよく思う」
カイルの姿を見て、自分の行動の間違いに飛鳥は気付いた
カイルは本当に友達として接して欲しかった…シンディのことを助けてもらいたい…そういう願いは確かにあるだろうが、カイル自身ももしかしたら…
「まぁ自分の立場は理解している…父親が企業の社長で私はその跡継ぎだ…絡みづらいのはわかるけど…」
自嘲気味に笑顔を浮かべるカイルを見て、飛鳥は大きく深呼吸をし…
「いきなりなるっていうのは難しいかもしれないけど…その…友達って友達になろうっていってそれで友達じゃないし…互いにわかっていかないといけないし…でも、今回のお泊り会が終わっても、いいかな?たまに泊まりに来たり、生徒会室に遊びに行ったりしても…いい?カイル…」
最大の勇気を振り絞り、飛鳥はカイルに伝える
カイルはそんな飛鳥の言葉を聞いて、大きく目を見開き、しばらく固まる
そして、笑顔になると…
「まるで、私が言わせたみたいじゃないか…飛鳥?」
冗談っぽく飛鳥にウィンクをしながら立ち上がる
飛鳥は確かにそろそろのぼせてきた…と思いながら、立ち上がり、二人は一緒に脱衣所へと向かう
そんなカイルを見て、飛鳥はこの前の亜栖葉の言葉を思い出し、がっくりとしてしまう
「ごめん…姉さんにも前それで怒られた…」
飛鳥は自分の情けなさを噛み締めつつ俯くと…
「だが、少しだけ楽にはなった…ありがとう…」
カイルは飛鳥の肩を軽く叩くと満面の笑みを浮かべ、飛鳥よりも先に脱衣所に入る
飛鳥も、そんなカイルの後姿を見つめつつ、満面の笑みを浮かべ、脱衣所に入っていった
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
飛鳥がおきてから食事ということで、食堂には滞在用のラフな格好をした飛鳥、唯、玲羅、千尋、カイル、シンディの六人が集まり、メイドさんたちがいる中、食事をしていた
飛鳥は今食べているもののあまりの美味しさに感動しつつも、こういう場所では食事マナーをちゃんとしなさいという亜栖葉の教育があり、テーブルマナーに従いながら、食事を進める
前菜を終えた後の肉料理…正直飛鳥は見たことが無いオリーブオイルの香りがする鶏料理に鶏肉好きな飛鳥は興奮する気持ちを抑えながら、ナイフで一口サイズに切り分けるとゆっくり口に運ぶ
口に入れると堪能するように咀嚼する
「美味しい…」
飛鳥は名残惜しいと思いながらも飲み込むと無意識に呟く
それを聞いていたカイルはナイフを八の字に皿の上に置き、ニコッと笑みを浮かべて飛鳥を見据える
「よかったよ飛鳥、君に喜んでもらえて、軌条君たちも美味しいかい?」
唯たちも上品にマナーに則りながら食事を進めていたが、カイルの言葉を聞いて、食事をカイルに見習って中断すると、カイルを見据えながら頷く
「えぇ、このように美味しい料理を食べたのは初めてです。」
「私としてはこの世で1番美味しいと思っていた料理に匹敵しているところ…」
「私は久しぶりだな…美琴に誘われて高級レストランに行ったときに食べた料理に似ている」
そして、口々に感想を述べると、カイルは満足そうに笑顔を浮かべる
そんな中…
「先に戻りますお兄様、ご友人方と食事をお楽しみください…」
シンディは一人食事を終えていないのにも関わらず部屋へと戻る
飛鳥は気絶する前にした人生なんでもありゲームのせいで気分を害してしまったのか…と思っていたが、カイルの様子を見ると違うということを理解する
「ごめんカイル!失礼だけど…」
飛鳥は一瞬僕で大丈夫なのかな…と考えたが、マイナス思考を振り払い、立ち上がると、足早に出て行くシンディの後を追い始める
その姿を見た玲羅は飛鳥が出て行くと同時にため息をつき、唯は笑顔を浮かべる
「飛鳥の病気ね…困っている人をほっとけない…誰かさんのせいで再び復活したのよね…」
「誰かさんとは誰のことでしょうか?玲羅?」
唯の笑顔を見て、玲羅も静かに笑みを浮かべる
カイルは何のことだろうと思いながら、興味を惹かれ…
「差支えがなければ聞きたいんだけど…いいかな?飛鳥との馴れ初めをさ?」
二人に質問する
それを聞いていた千尋はため息をつき…
「なかなかにコアだぞ…玲羅は飛鳥至上主義で、唯はマスコットにしたいと考えているくらいだからな…」
「「千尋先生!!!!」」
千尋は大雑把だが、的確に二人の飛鳥への感情を表した言葉をいうと焦る玲羅と唯
そんな姿を見たカイルは面白い話が聞ける…と感じたのか、しっかりと二人を見据え…
「絶対に聞きたいな…話してくれるかい?軌条くん、白銀くん?」
話してくれとせがむ
その姿を見た唯と玲羅はこれは絶対に折れないと感じ、諦めて話すことにした
飛鳥は階段を上がっていくシンディを見つけ…
「シンディちゃん!!ちょっと…話をしない?」
飛鳥は呼び止めると、シンディは戸惑いながらも、階段をゆっくりと下りてくる
シンディは一番下の段差に座ると、飛鳥も一言「隣いい?」と聞き、シンディがコクリと頷いてのを確認してから、隣に座る
「あの…話って…」
戸惑いながら呟くシンディ
飛鳥は咄嗟に、話をしない?という問いかけをしたが、話題も浮かばず、情けないことに悩んでしまう
何を話す?普段何しているの?暇だったら今度遊ばない?これじゃあカイルに殺されるしナンパだ…と飛鳥は思い、次の案を考えようとする
だが、小手先で勝負できるほど飛鳥はナンパ師ではないし、口が上手いわけではない…大きく深呼吸をし…
「カイル…心配してるよ?」
「うぅっ……」
飛鳥はシンディに実際カイルの悲しげな表情を見ているからこそ伝える
シンディはそんな兄の姿に気付いていたのか、俯き涙目になる
直球過ぎたか…と飛鳥は少し思ったが、飛鳥にも同じ経験がある
「僕にも姉さんがいてね?昔…カイルと同じような表情をさせたことがあるんだ…」
「え?」
シンディは驚いた表情で飛鳥の横顔を見据える
飛鳥はその時のことを思い出したのか、俯いてしまう
「ホント最低だったよ…何でも出来る姉さんにはわからない…才能がない僕と違って天才の姉さんには!そんな人に僕の気持ちなんてわからない!ってさ…あの時初めて見たよ…泣きながら僕の頬を叩く姉さん…強いと思っていた姉さんが泣いたんだもん…僕からすれば罪悪感でいっぱいだった」
両親は海外に出張に行っていて、飛鳥と亜栖葉は二人きりで喧嘩をして、しばらく気まずかった
過去の話を思い出していた飛鳥は自分の情けない話をしてどうするんだ…と我に返り、立ち上がり、食堂に戻ろうと考えていると…
「水樹さん…私…お兄様に嫉妬しているんです…水樹さんと同じなんです…えと!ごめんなさい!!同じなんて失礼ですよね!!あのえとその!!」
立ち上がり、話してくれようとしたが自分の失礼なことをしてしまったということから、シンディはテンパリながら挙動不審となる
飛鳥はそんなシンディの姿を見て、唯や玲羅から見たら、もしかしたら自分はこうなのかな?と思いつつ…
「気にしなくていいよ…話、聞いてもいい?」
シンディの頭を撫でるとニコッと笑みを浮かべて伝える
シンディと飛鳥は再び階段の段差に腰を降ろすと、飛鳥はシンディが話し始めるのを待ち、シンディは何度か深呼吸を繰り返し、涙を必死に堪えてから…
「お兄様は完璧なんです…高等部では生徒会長で、誰からも慕われていますし…異能者としても優れていて、去年の大会では最強の能力といわれているエヴォリューションシリーズと対等に戦った…私はスキルネイチャースクールの中等部に通っていますが、お兄様の評判は中等部にまで伝わっていていつも私は比べられて…才能が無い私は…周りを失望させてしまう…フォールデンの妹なのに…なんでここまで無能なんだ…って…先生からも言われて…」
飛鳥にさらけ出す
そして、シンディは堪えられなくなり、涙を流す
中学生の女の子には辛い経験だろう
飛鳥は同じくらいの時期に経験しているからこそ、シンディの気持ちはよく理解できた
「わかる…その気持ち…」
飛鳥は泣いているシンディを優しく抱きしめると、嗚咽を漏らし、泣き声が大きくなっていく
これはカイルに怒られるかな…と飛鳥は少し思ったが、それよりもこの現状を見られるのが先だろうな…と感じていると、案の定、食堂の方から心配そうに出てきたカイルたちが現れる
「シンディ…?」
悲しみに歪むカイルの表情
飛鳥はこの二人のために何をする…と自分に問いかけ、何が出来るのか…と考えてみる
「シンディ…僕も高等部で同じことを言われた…君にはミッションを任せることなんて出来ない…戦闘訓練授業でEランクの君に…無能の君に任せることなんて出来るわけが無い…ってね?でもね…たとえ才能が無いとしても…証明することは出来る…明日…それを証明する…カイル、僕は君に模擬戦闘を申し込むよ…」
そして、飛鳥の頭の中で浮かぶことは一つだけだった
たとえ無能だろうと、天才に対抗する力を得ることが出来るということを飛鳥はまったくもってカイルに勝てるとは思えないがやらないといけない
カイルは飛鳥の目を見て、心意を図る
カイル自身飛鳥が何を考えているのか一瞬の間で分析を繰り返し、言動と行動を考慮し、一つの答えへと導かれる
「つまり…飛鳥は私と戦い、シンディに証明したいわけだね?オーケー…でも大切な妹なんだ…私は本気でいく…」
飛鳥はカイルの真剣な表情から本気だということは理解できた
こんなときに震え始める体を押さえ込むように何度も何度も深呼吸を繰りかえし…
「望むところ…僕は君に勝つよ…」
飛鳥も真剣な表情でしっかりとカイルを見据え、戦闘をする意思を示す
だが…
「その前にシンディちゃんを離したらどうですか?飛鳥?」
「そうねロリコン…」
カイルの後ろで傍観していたはずの唯と玲羅が真っ直ぐ飛鳥に歩み寄り、二人に言われて解放した飛鳥の右腕を唯、左腕を玲羅が掴み、引きずりながら外へ向かおうとする
「せめて靴を履かせて!!!!?せめて靴を!!!?外では引きずらないでよ!!!?」
飛鳥は必死に叫ぶが、唯と玲羅は気にせず自分だけ靴を履くと外へと引きずりながら飛鳥を連れて行く…せっかくお風呂に入ったのにかわいそうな飛鳥である
それを見届けたカイルは笑顔に戻る
「ホント…あの子は恐ろしいよ…シンディ、飛鳥の姿を見届けておいで?」
「え…はい…」
カイルに言われ、シンディは足早に外へと向かう
千尋はカイルの隣に並ぶと携帯電話をポケットから取り出し…
「有馬統合学年主任ですか?森嶋です。許可をいただきたいのですが、フォールデンの屋敷にて、飛鳥とフォールデンの模擬戦を行います、なので学校より訓練用の模造武器を持ち出せる許可を取りたいのですが…えぇ、そうです飛鳥のガンブレードの模造武器とフォールデンのレイピアの模造武器です。はい…ありがとうございます。」
鉄夫に電話を掛け、話し終えたため電話を切る
カイルは千尋に視線を向けると
「許可が出るかどうかは明日わかる…お前にも確認の電話が行くから、対応しておいてくれ」
千尋は結果をカイルに伝え、外へ向かった飛鳥たちを追いかけるため、そろえられた飛鳥の靴を手に持ち、自分もはいてきたハイヒールを履き、扉のドアノブを掴む
「ありがとうございます、森嶋先生…本気で迎えるために地下にてウォーミングアップをしてから休みます。では森嶋先生…飛鳥によろしくお伝えください。」
それを見たカイルは満面の笑みを浮かべ、これから飛鳥がすることを予想できたのか、自分も本気だと言うアピールをもう一度伝えるために、千尋に伝言をたのむ
それを聞いた千尋は手だけ上げると、外へと出て行く
カイルは見届けると階段の裏側にある地下へと続く階段を降りていく
飛鳥が引きずられてつれてこられたのは別邸前
飛鳥はせっかくお風呂に入った後なのに引きずられたせいで服も汚れて気持ちが悪い感覚が蘇る
「せっかくお風呂に入った後なのに…唯…玲羅…恨むよ…」
飛鳥は思わず二人に恨み言を吐くが、二人は気にする様子もなく、飛鳥の手を離すと唯は何か無いかあたりを探し始める
玲羅はウォーミングアップをするように体をほぐし始める
それを見ていた飛鳥はもしかして…と嫌な予感が頭をよぎり、冷や汗をかく
「じゃあ…今から組み手をするから憂さを晴らせばいいんじゃない…」
そして、1番頭の中で考えていたことの中で1番あって欲しくなかった選択肢を突きつけられ、飛鳥は玲羅から視線を逸らす
「メイドさんに聞いてきましたら、木刀があるらしいのでそれを使いましょうか…」
そして、次に唯が物騒なことを言ってきたではないか
飛鳥は小動物のように震え始め、逃げ出そうか…と一瞬考えたが、視界に入ってきたこちらへ向かってくるシンディの姿を見て、思いとどまる
シンディと同時に現れた千尋からスニーカーを渡され、飛鳥はそれを履くと立ち上がり、大きく深呼吸をし…
「ありがとう…僕のわがままに付き合ってくれて…」
飛鳥は二人にお礼を伝える
それと同時に、別邸から出てきたメイドさん三人が木刀二本、訓練弾が込められた二丁拳銃をそれぞれが持ち、飛鳥、唯、玲羅の三人の隣に立ち、それぞれの武器を渡す
「気にしなくていい…私はただ…天然女たらしをそろそろお仕置きできると思って付き合うだけだから…」
「それは同意ですね…」
そして、その瞬間、玲羅がジトっとした視線になり、唯は黒い笑顔を浮かべる
飛鳥は、一瞬何が起こったのか理解が出来なかった
ただ、千尋とシンディの二人は見た
玲羅が的確に訓練弾を飛鳥の木刀を持つ手に当て、逆手に構えた木刀を素早い動きで距離を詰めた唯が飛鳥の腹部に決め、一瞬のうちにうめき声を上げる暇もなく飛鳥を気絶させたところを…
それが、何回も繰り返され、1時間もしないうちに飛鳥は休憩を与えられることとなった
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
飛鳥は気がつくと視界に入ってきたのは…
「気がつきましたか?」
記憶に鮮明な何回も何回も自分を倒した人物 軌条唯の姿が入ってきた
自分は今どんな状況なんだろうか…と冷静に分析する
そこは本邸にもあった談話室に似た場所であり、二人掛けソファに寝転んでいる
そして、囲むように配置しているソファの向かいの二人掛けソファには読書に勤しむ玲羅の姿とシングルソファ、飛鳥が頭を向けている方には心配そうにこちらを見るシンディの姿、シンディの向かいにはノートパソコンで何かを作成している千尋の姿がそこにはあった
「飛鳥…いつまでその態勢?」
飛鳥は玲羅の声が聞こえ、玲羅の視線を向けるといつもの何か飛鳥がしでかしたときの呆れる表情を浮かべている
それから自分の状況を改めて把握しようとすると
「うあっ!!!!?」
飛鳥は慌てて起き上がる
気付いたら唯に膝枕をされているのだ
意識した瞬間、自覚した唯の柔らかな太もも…後頭部に残る感触に飛鳥は顔が真っ赤になりながら、唯を直視しないでオドオドとしてしまう
それを見た唯はスイッチが入り…
「あぁぁ~もう!!!!ホント可愛いんですから飛鳥はっ!!!」
「ふみゅっ!!!!?」
飛鳥は後ろから唯に抱きしめられ、奇声を上げてしまう
それを見た玲羅はまたか…という風に呆れ顔になり、読書に集中することにした
飛鳥は何とか千尋に助けを求めようと考えたが、千尋は状況を無視して、ノートパソコンで何かの作業をしている
シンディはどうしたらいいのかわからずテンパリ…
「ほっとけばいいのよ…あのバカはなんだかんだで唯の胸が背中に当たってて喜んでるんだから…」
玲羅の助言を聞いて、まるでそんな人だとは思いませんでした…という風に涙目になるシンディ
「玲羅!!!僕は喜んでない!!」
「そうね…アンタ尻フェチだし…」
「ギャブッ!!!!?」
そして、新たに仲良くなった人物たちに飛鳥のフェチをばらす玲羅
飛鳥はダメージを受け、へこみ俯き涙目になる
「談笑は終了だ…おっぱい魔神も飛鳥至上主義の隠れ変態も落ち着け…」
「「っ!!!!!?」」
そんな状況を見かねてか、ノートパソコンをテーブルの上に置くと、唯と玲羅に精神的ダメージを与え、静かにさせる
へこむ唯を見かねた飛鳥は今度は逆に膝枕をし、何とか慰めようと試みる
玲羅は一人ブツブツと呟きながら机に突っ伏し、へこんでいた
「状況がすすまんが…まぁいい…肝心の飛鳥は起きているからな…ハードディスクの中に保存していた去年の大会の映像がある…これは去年の準決勝…カイル・フォールデンvs閃条アキラの映像だ…」
飛鳥は最近クラスメイトと話すようになってから、噂話を聞くようになった
閃条アキラ
同じ2学生なのに、既にAランク戦闘ミッションを受けるほどの実力を持つ男
ノートパソコンの画面を見ると舞踏会の時霞む視界の中で唯の遥か後方に見えた茶髪ショートボブヘアの男子生徒に似ている
2学年でトップに君臨するチーム【Evolution】のチームリーダーであり、2学年で1番モテているといわれている彼女のいない人間からすれば、最高に羨ましい人物である
「ということは…」
「ご明察だシンディ、最強クラスの能力エヴォリューションを相手にカイルが引き分けにまで持ち込んだ戦いだ…」
ノートパソコンに映し出された映像は凄いとしかいえなかった
飛鳥は二人が何をしているのかさえわからなかった
四方八方から襲ってくる風を掻い潜り、カイルは訓練用レイピアで攻める
アキラはそれを回避しながらも、カイルの行動を警戒しつつ、アキラも持っている模造刀でカイルの異能を警戒しながら攻める
「飛鳥の能力は既にカイルは知っているだろうから説明する…カイルの能力は自分の行動によって衝撃波を生み出すことが出来るんだ…だからこそ…」
映像でカイルが横薙ぎに手を振ると衝撃波が走りアキラはギリギリで刀でガードするが、吹き飛ばされる
互いの実力は拮抗している
だが、次の瞬間、なんとか武舞台から落ちることを免れたアキラの周りに風が吹き荒れ、観客席にいるはずの客が風のせいでまともに観戦できない状況に陥っていた
「これがエヴォリューションだ…パイロキネシストである飛鳥はわかると思うが…普通ならば、強さに応じた異能力を消費して発動させるものだが、エヴォリューションはその必要はない元々力を発現するために使用した異能力に再びエヴォリューションの波長を送ることによって進化させ、強い力として使用する…だからこそ、これだけの風を起こせば普通なら異能力を使いきり、すぐにバテてしまうだろうが、見ての通り…閃条はまだまだ余力を残している…」
そう…飛鳥は理解できる
映像で映し出されているほどの力を使えば、普通なら異能力切れですぐに使い終わってしまう
だが、映像ではそんな強大な力を自由自在に使い、余裕の表情でカイルを追い詰めていた
カイルはなんとか衝撃破でせめて来る風による攻撃を相殺している
こんな絶対絶命の状況でカイルはどうやって引き分けにまで持っていったのかと飛鳥は不思議に思ったが、次の瞬間理解した
カイルは鋭い突きを繰り出し、その攻撃に乗せた強い衝撃波でアキラの生み出す風を貫通させていき、それを見たアキラがその一点に風を収束させたことで防御を図る
その瞬間、カイルはアキラと距離を詰めるために駆ける
アキラは衝撃波を掻き消すために収束した風を再び広げる時間も無く、そのまま的確にカイルを打ち抜こうとするが、カイルはそれを回避し、目の前に到達すると…
『決着だ!!閃条アキラくん!!!!!』
『負けないよ!!!!僕のチームのためにも!!!!』
カイルは再び横薙ぎに手を振り、衝撃波を生み出し、アキラは咄嗟に小さな風を生み出しエヴォリューションで強い風を生み出すが、同時に二人の異能は二人に直撃し、同時に吹き飛ばされ、場外へと同時に追いやられた
そして、審判である鉄夫の掛け声により、二人の勝負は引き分けとされた
「実際の映像を初めて見て思いました…お兄様の強さを…普通ならエヴォリューションを発動された時点で勝負の決着はつくはずです…特に閃条さんがもつ風の能力なら、縦横無尽、自由自在に攻めることが出来ます…それも風を感じたときにはもう既に巻き込まれているはずなのにお兄様にはそんな様子もありませんでした、仮定の話ではありますけど、お兄様は薄い衝撃波と強い衝撃波を風による異能攻撃を回避するために回避行動をとりながら生み出し、攻撃の軌道を読んで隙をうかがっていたのですね…身体能力も要し、異能を使いこなしていなければ出来ない行動ですね…はぅっ!!!!?偉そうにすみません!!!!!!」
そして、映像が終わった瞬間、シンディの説明を聞いて、飛鳥、千尋、再起した唯、玲羅の四人はシンディの説明を聞き入ってしまった
飛鳥は素直にシンディの分析力が凄いと思った
飛鳥同様、玲羅も正直映像でなにが起こっているのか理解できない部分もあったのだが、それをまだ中学生の少女がそれを看破し、説明もやってのけた
「シンディ、君を無能と言った教師を教えてくれ…私が責任を持って説教をする…」
「ふぇっ!!!?そんな!!!私は大したこと出来ていませんし!!あの…その…あぅ…」
千尋は本気の目で、シンディを無能といった教師を説教すると言った所をみると、どうやらその教師を捜し当てる気でいるようだ
「話は脱線したが、つまりエヴォリューションを使う閃条アキラと拮抗するほどの実力を持つ人物を相手にするということだ…正直、今のお前では絶対に勝てない相手だ…それこそ、ここにいる人間で勝てるとすれば…私と唯ぐらいだろうな…」
ノートパソコンに映し出されていた映像を見ればそれは理解できた
飛鳥は身体能力も異能も追いつけていない…まったく持って論外
玲羅は異能は相手の脳にリンクし、幻覚を見せる能力…だからこそ、異能としては問題ないにしろ、玲羅は身体能力が追いついていない…衝撃波を回避する術が無いのだ
「千尋先生は私も含みましたが…正直自信は無いですね…クナイでの攻撃が封じられる分、近づかないといけませんし、近づこうとすると、まず衝撃波に直撃してしまうでしょう…これは強敵ですよ…飛鳥…」
実力差に打ちのめされていた飛鳥に、追い討ちをかけるように唯が真剣な表情で忠告をしてくる
飛鳥もそれは痛いほどにわかっている
だけど…
「でも…やらないといけないんだ…シンディちゃんのために証明したいし、情けないところなんて見せられないよ…」
飛鳥は打ちのめされた心を奮い立たせるように大きく深呼吸をしてから、全員に自分の意思を伝える
それを見た唯、玲羅、千尋は笑顔になり…
「こういう時は折れませんよね…飛鳥は…」
「そうだね…」
「その気持ちで頑張ってもらうしかないな…」
それぞれに飛鳥の数少ない美点を褒める
飛鳥は滅多に褒められないため、少し照れくさくなり、誤魔化そうとシンディの方に視線を向けると…
「はぅっ…」
顔が赤いシンディがそこにいた
飛鳥は熱でもあるのだろうか?と思い、シンディの額に手で触れると
「はぅっ!!!?」
「ちょっ!!?シンディちゃん!!?しっかり!!しっかり!!!」
シンディはオーバーヒートしたのか、気絶する
飛鳥は若干テンパリながら、何故気絶したのか分けもわからず、メイドさんを呼びに談話室から出る
それを見届けた千尋はため息をつき、唯と玲羅の表情がジトっとした視線へと変化する
「会長に始末されるといい…」
「そうですね…そろそろほんとに痛い目に会うべきですね…」
そんな、二人の呪詛に気付かず、飛鳥はその後メイドさんに言って、急遽別邸にシンディの泊まる部屋を用意し、事なきを得たが、飛鳥はその後、鬼教官と化した、唯と玲羅の二人に、再びボコボコにされ、談話室で再び気絶することとなった
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
カイルの指示で別邸へと飛鳥の荷物は移されたのだが、飛鳥は途方にくれていた…
元々フォールデン家の別邸は客を泊めるという目的で作られているわけではなく、住み込みのメイドたちのために用意されたものであるらしい…
執事用の別邸は本邸の裏にあるとのこと…そのためそこまで数多く部屋を作る必要もないことから、元々8部屋しか寝室は用意していないらしく、住み込みメイド四人と泊まることになっている唯、玲羅、千尋、そして、気絶したため、休んでいるシンディ
飛鳥は談話室で寝るといったのだが、それはメイド魂にかけてさせられません!!ということで、飛鳥は途方にくれているのだ
談話室に集まった四人で悩んでいた
選択肢はこうだ…談話室に泊まれない以上
①唯の部屋に泊まる
②玲羅の部屋に泊まる
③千尋の部屋に泊まる
この三つのどれかである
カイルの部屋に戻るという選択肢もあるかもしれないが本邸に勝手にお邪魔するのも気が引けるし、シンディを連れ戻らないで帰った結果、理由を聞かれた時、なんだかカイルの逆鱗に触れそうで、それもあり戻れない…
「私の部屋に来ればいい…幼馴染だし、アンタの家に泊まるとき、一緒の部屋じゃない…」
迷っているとそんな飛鳥に見かねてか、玲羅がそういってくる
飛鳥は確かに…と思ったのだが、家の場合姉と言う絶対的恐怖があるため、玲羅の今のセクシー女体と化した体でもなんの情欲も無く過ごせたのだが、今日はその絶対的恐怖がいない…
だからこそ、玲羅の部屋に泊まるといっても悩んでしまう
「私の部屋なら問題ないだろ飛鳥?」
千尋先生のお誘い…
確かに先生という立場だからこそ、安心して泊まれるというのはあるのだが、飛鳥からすれば、千尋にはまた玲羅や唯と違った大人の色気を感じる
だからこそ寝ているところを見てしまうと殺人的な色気を発揮してしまうのでは?という飛鳥の予想もあり、また迷ってしまう
「私となら問題ありませんよね?前も一緒に寝ましたし…」
「ブッ!!!?」
飛鳥は思わず噴出してしまう
前のお泊り会の時、飛鳥はとある事情により、唯と自分の部屋で過ごした
勿論そのことは玲羅にも千尋にも内緒にしていたわけで、唯にばらされたことにより、今玲羅から飛鳥へ軽蔑するようなジトっとした眼差しを集中砲火のようにくらい
「じゃあ…私も唯の部屋に泊まる…ベッドはダブルだったし、ソファもあったから問題ないとおもう…」
と玲羅が言い出したことにより…
「じゃああまり騒ぐなよ…」
と千尋が眠くなってきたのか、欠伸をしながら談話室から出て行き、三人で泊まることで解決となった
唯はしばらく考えてから「しかたないですね…」とだけ呟き、飛鳥は二人に連行されながら、唯の部屋へ…
唯の泊まる部屋はカイルの部屋ほどではないが、客室のためか、高級ホテルくらいの大き目の部屋くらいの広さはあった
必要最低限であるダブルベッドやテレビ、ソファ、勉強や書類まとめをするためのデスクなども用意されていたり、冷蔵庫までも用意されている
これで簡易キッチンなどがあれば、この部屋で生活が出来るくらい整っていた
飛鳥は唯の部屋に泊まる前にお風呂に入りなおしているため、パジャマに着替えは終わっていた
唯や玲羅もそのうちに着替えたのか、パジャマ姿である
唯は色が青の普通のパジャマであり、玲羅はワンピースタイプの黒のパジャマ
そして、三人は寝付こうとした…
ダブルベッドに唯と玲羅、ソファに毛布をかぶった飛鳥
という配置にはなっているが、ベッドの前にソファがあり飛鳥の姿は背もたれのおかげで見えないが唯は寝付けなかった
玲羅はどうやら眠っているらしく…静かな寝息が唯の耳に届く
さすが幼馴染…対して意識をしていないのか眠れていると唯は思い、あの時寝付けた自分が不思議なくらい、今は心臓がバクバク鼓動が鳴り、寝付けない
飛鳥は今眠れているのだろうか…と思い、静かに布団を抜け出すと、飛鳥の様子をソファの背もたれの所から覗き込む…
すると…
「っ!」
「ぅ!」
互いに視線が合い、驚き悲鳴を上げてしまいそうになったが、玲羅が眠っていることに二人は気づいているのか、何とか堪える
飛鳥は、立たせていてはしんどいだろうと考え、飛鳥は座ると、唯は静かに飛鳥の隣に座る
「えと…唯も眠れないの?」
「えぇ…」
玲羅が起きないように小声を意識して話す
飛鳥と唯は同時に大きく深呼吸をしてから、必死に思考をめぐらせ、話題を探す
「飛鳥…明日はどうするつもりなんですか?」
同じ寝室ということからの緊張のせいか、唯は漠然とした質問になってしまったのだが、飛鳥はなんのことか理解した
「正直自信はないよ…なんせあのエヴォリューションをもっている人と引き分けになるくらいの実力を持っている人なんだから…一つだけあるにしても…明日にならないとわからないよ…」
そう、唯がいいたいのは明日のカイル戦のことである
何か飛鳥は作戦を考えているのだろうか?という質問だ
もちろん、飛鳥は作戦をたてれる程の力を持っているわけでもない…戦闘能力は玲羅と唯にやられるほどまだまだな部分がある、異能でも元々の異能力も少ないため、応用はあまり利かない
一つだけ飛鳥の中で浮かんではいるが、正直それは実戦にならないと出来ない上に、まだ一度も出来たことが無い技…異能量を考えても一度しか使えない
それを聞いた唯は首をかしげていると、唯に作戦を耳打ちする
「確かに…それですと効果はあるかもしれませんが、本当に明日にならないとわからないですし、賭け…ですね…それに…まずは堪えることが重要ですね…」
唯の言葉を聞いて、飛鳥も改めて自覚する
どれだけ無謀な作戦をしているのか…ということを…
「それでも…僕はやらないといけないから…」
そう…シンディのためにも証明しないといけない…だからこそ、飛鳥はここで逃げるわけにはいかないのだ
そんな飛鳥の姿を見て、唯は優しく笑みを浮かべる
「シンディちゃん…自信を持ってくれるといいですね…」
「うん…ちょっとそこが不安だったりする…」
ただ、飛鳥は少し不安を感じる
自分は今まで何もできている気がしない…舞踏会のときも、最終的に唯が来なければ死んでいたかもしれない…最初にした猫を助けるミッションも結局やりきってはいない
何も完遂できていないのだ…
「ほんと…マイナス思考ですね…飛鳥は…」
「はぅっ…」
飛鳥は唯に指摘され、俯いてしまう
それを見た唯は飛鳥の体を抱き寄せる
飛鳥は思わずドキッとしてしまったが、感覚からして、亜栖葉に抱きしめられたときと同じような感覚…つまり唯は姉のような気持ちで今抱きしめてくれているとこがわかる
「大丈夫ですよ…貴方はこういうときが1番強いんです…私の心を救ってくれた貴方なら…大丈夫です…私は心の底から信じています」
そして、唯のこの言葉に、飛鳥は心が熱くなり、明日のカイルと自分の戦いが二人を恥じないような戦いをすると決意し、二人は眠ることにした
もちろん唯はベッドに戻り、飛鳥はソファで寝転がり、眠ることが出来た
そして…朝となり、飛鳥とカイルの戦いが始まる
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
カイルと飛鳥の模擬戦は本邸にある地下訓練場で行われることになった
審判は武器を運んできてくれた王斬がやってくれることとなった
「飛鳥…お前もすみに置けないな…まさか生徒会長の妹を口説き落とすために戦うたぁ…男だな…」
「勘違いしないでよ王斬…僕は証明するだけだよ…それにそんなことしたら…」
飛鳥は広々とした地下訓練場の中央向かいにいるカイルの黒い笑顔を指差すと、王斬は理解したのか、ため息をつき、飛鳥の肩を叩く
カイルの武器はレイピアであり、近距離専門の武器であり、中距離戦が出来る飛鳥が有利に思えるが、カイルの異能を考えれば、中距離だの遠距離だのは関係ない
衝撃波により相殺され、異能力切れを起こして、カイルが攻める隙を作ってしまうだろう
飛鳥は大きく深呼吸をしてから、部屋の壁際に避難している唯、玲羅、千尋、シンディの四人に視線を向ける
シンディの心配そうな表情を見て、飛鳥は笑顔を浮かべて手を振る
シンディはそんな飛鳥の姿を見て、顔を真っ赤にしながら俯く
なんでかな…と飛鳥は首をかしげていると、千尋と玲羅の二人はため息をつきながら、飛鳥を見る
そんな二人にまた疑問をもちながら、唯に視線を向けると唯は苦笑いを浮かべながら手を振ってくれる
飛鳥は手を振り返すと、視線をカイルに合わせるため、前を向く
「飛鳥…君のことだから私のことを調べただろう…森嶋先生からも、エヴォリューション戦のデータを見せたと聞いている…私は今あの時と同じように戦うつもりだ…君も本気で来るんだ…」
するとカイルは戦闘前の挨拶といわんばかりに飛鳥に話しかける
飛鳥はそれを聞いた瞬間、カイルの眼差しと言葉の重みに自覚する
今全力で倒しに着ているということを…
カイルの覇気は王斬とは違うが確かに恐怖を感じるほどの覇気を纏っている…学生でこれだけの覇気を纏える人は数少ないだろう…
飛鳥の体は正直で、そんなカイルを見た瞬間、震え始める
訓練用のガンブレードを持っている手が震える
自分は情けないな…と思いながらも、大きく深呼吸をし、階段で話したときのシンディの涙を浮かべる姿を思い出し、唯が自分に言ってくれた大丈夫だ…という言葉を思い出した瞬間、震えは止まった
「わかりました…期待に答えられるほど僕は強くない…でも…全力で貴方に勝つために戦います!!」
飛鳥がガンブレードを中段に両手で持ち構えると、カイルは笑顔を浮かべ、レイピアを持つ右手の肘を軽く曲げ、少しだけ腰を落とし、構える
それを見た王斬は真剣な表情で…
「準備はいいな…ただいまより、水樹飛鳥vsカイル・フォールデンの模擬戦闘を開始する…始め!!」
模擬戦闘の開始を告げる
飛鳥はその瞬間、ガンブレードは同タイプのため、変形ボタンを押しながら、流れる動作で銃形態に変形させる…この流れる動作を身につけるだけで一週間以上は掛かった
そんなことを思い出しながらも訓練用の弾丸をカイルに向かって後方に下がりながら放つ
衝撃波を警戒して、若干の横移動も加えて一つ目のマガジンが空になるまで放つ
だが、カイルはそこに立ったまま、弾丸をレイピアでひとつひとつ正確に弾いていく
それを見ていた飛鳥はおろか、唯、玲羅、千尋、シンディも驚きを隠せていなかった
ノートパソコンのデータで見た映像は去年の大会の映像…時間からして下期に開催されていた全国大会選抜大会の映像らしいため、半年くらいしか経っていないが、身体能力が間違いなく成長していることを誰が見ても伺える
「腕試しはよした方がいい…小手先だけの攻撃なら私には通用しない…本気というのはこういうことだ…」
カイルはその場で踏み出し体全体で鋭い突きを放つ
普通なら距離をとっている飛鳥に突きが届くはずが無い…だが、その瞬間、飛鳥は何かの衝撃が体全体に受け、吹き飛ばされ背後の壁に直撃し、地面に蹲り、むせ返ってしまう
「飛鳥!!!!」
思わず心配になったのか玲羅の叫び声が訓練場の中に響き渡る
玲羅はここで飛鳥を降参させれば、飛鳥の決意に泥を塗ってしまうとわかっている…
だが、あの映像より強くなっている人物に今の飛鳥が勝てるわけがないと思い、玲羅は王斬に止めるよう近寄ろうとするが…
「待ってください玲羅…」
「唯…」
唯に腕を掴まれ、思わず唯を睨みつけてしまう
そんな玲羅の表情を見て、唯は真剣な表情で…
「玲羅…飛鳥を信じてください…幼馴染である貴方が信じないで誰が信じるんですか、少なくとも私は信じていますよ、貴方より付き合いは短いです…それでも、飛鳥の誰かを守るとき、誰かを救うときの飛鳥の力、救ってもらった分私はわかります…こんなところで諦める飛鳥じゃありません!」
玲羅に自分の想いを伝える
それを聞いた玲羅は黙って元にいた場所へと戻る
玲羅は倒れている飛鳥に視線を向けると、確かにゆっくりではあるが立ち上がろうとしている
王斬もそれがわかっているからこそ、制止の声をあげなかった
体全体に走る痛みを必死に堪え、飛鳥は何とか立ち上がる
それを見た玲羅はため息をつき…
「貴方の言うとおりよ唯…私は飛鳥が大切な幼馴染だから守らないといけない…そう思っている…だから、貴方のように信じるということができていなかった…謝る…ごめん…」
自分と唯との相違点を認め、素直に唯に謝る
唯はそんな玲羅の姿を見てニコッと笑みを浮かべ…
「構いませんよ…心配なのは私も一緒です…あの子は無茶をしますから…」
素直に自分も心配だということを話す
玲羅も唯の言葉を聞いて、コクリと頷き、二人は笑みを浮かべる
そんな二人の姿を見たシンディは飛鳥がどれだけ仲間に信頼されているかを知り、自分も、飛鳥のことを信じよう…自分に出来ることを少しでも…と考え、カイルの動きを分析し始めた
飛鳥はカイルの厄介な能力をどう対処するか…
必死に思考をめぐらせる…衝撃波は目に見えない…
地面を這っているなら、床がえぐれたりなどで 軌道を読むことは出来るのだが、目に見えない衝撃をどうやって視認するか…それが一番の問題だということを理解する
『ひとつだけあるけど…僕の異能量がもつかどうか…だね…』
飛鳥はガンブレードを変形ボタンを押しながら振り、剣形態に戻すと構え、静かに目を瞑る
精神を集中する…諦めたら駄目だ…シンディちゃんのためにも…唯のためにも…修行に付き合ってくれた玲羅のためにも…
飛鳥が瞼を開くと同時にガンブレードに炎が灯り、カイルに向かって駆ける
それを見た、カイルはレイピアを横薙ぎに振る
それを真似て、飛鳥はガンブレードを横薙ぎに振る
すると…
「へぇ…考えたね飛鳥…でも…」
ガンブレードに纏っていた炎はカイルが放った衝撃波と拮抗し打ち消した
ノートパソコンの映像を見ていたときから感じていた
カイルは異能を発動させるときに一つ一つ動作がある
例えば横薙ぎに手を振る、レイピアで届くはずも無いのに突きを放つなど
つまりは、カイルの異能の発現は基本的に動作が必要であるということ、だからこそ、飛鳥はカイルと動作を真似ればその直線状に衝撃波が走るということがわかった
それがわかったからこそ、飛鳥は自分の頭の中で自分の残りの異能力を計算しながら、また再び炎を灯し、カイルへの距離を詰める
だが、やはり会長という役職を得るほどの力を持っている
衝撃波を一発相殺させるだけで、飛鳥の異能力は一気に消費された
「さて…いつまで持つかな…」
飛鳥のデータも頭の中に叩き込んでいるのだろう
異能力が少ないからこそ、突きと同時に放ったカイルの衝撃波を相殺させると同時に、飛鳥の異能力は残りわずかとなった
だが、カイルの目の前まで来ることが出来た
飛鳥はカイルの間合いに踏み込むと同時に両手で持ち、横薙ぎにガンブレードを振る
刀身の太い飛鳥のガンブレードなら、カイルのレイピアをへし折ることも可能
だが、考えが甘かった…
「飛鳥、詰みだ」
カイルが静かに呟いた言葉…
一瞬何のことか理解できなかった
素早い動きで横薙ぎに放った飛鳥の斬撃をしゃがんで回避する
そして、流れる動きをすると同時に異能を解放、飛鳥は正面から軽い衝撃波を受け、態勢を崩したところ、背後に回られ、また軽い衝撃波をくらう
それを四方八方から繰り返され、飛鳥はどんどん強くなっていく衝撃波によって体にダメージを蓄積
「少し君を買いかぶっていたかもね…私の慧眼も落ちたものだ…」
最後に強い衝撃波を背後から受け、飛鳥は吹き飛ばされ倒れてしまう
全身に駆け巡る痛みに飛鳥は泣きそうになってしまう
「飛鳥…力こそ正義とは言わないが…自分の意思を相手に伝えるためには力も必要なんだ…君の今の現状は口先だけなんだ…そんな人がシンディのために証明する?笑わせないでくれ…」
飛鳥はカイルから浴びせられる言葉に悔しさで胸を締め付けられる
自分には力が無い…口で証明したいといっても、もう既に異能力は空っぽに近い…
あと弱い炎を灯すだけでも異能力切れになるだろう
「もう戦う気は失せたかい?なら…君の任務は失敗だ…」
カイルはレイピアを構えなおし、倒れている飛鳥目掛けて横薙ぎにレイピアを振る
それと同時に強い衝撃波が放たれ、飛鳥へと近づく
飛鳥の脳裏に浮かんだのは泣いている女の子を救う事も出来ない情けない自分の姿…
昔の自分と今の状況は同じ、強大な敵の前で何も出来なかった自分…
あんなのは嫌だ…いやだ…
「嫌だ!!!!!もう何も守れないのは嫌なんだ!!!!!!!!」
その瞬間、飛鳥の周りに膨大な量の強い炎が爆発するように顕現し、カイルの放った衝撃波を相殺するどころか、飲み込み、燃え盛っていた
それを見ていた唯も千尋もシンディもカイルも王斬も、飛鳥が発現したこのもない強い力に驚愕し、ただ見つめることしか出来なかった
「カイル!!!!そうだよ!!!!!僕には力が無い!!!!でも!!!でも!!!でも!!!!僕はもう何も守れないのは嫌だ!!!!!嫌なんだ!!!!嫌だよ…嫌なんだよ…」
カイルは飛鳥の瞳の奥にある悲しみを感じ、触れてはいけない部分に触れたと自覚した
だが…
「なら証明するんだ飛鳥!!!僕に勝って見せろ!!!!!」
カイルは飛鳥に向かって駆け、手でレイピアで、何度も何度も衝撃波を放ち、飛鳥が全身に纏う炎を打ち消すために何度もぶつける
ぶつけるたびに飛鳥の全身を覆う炎は小さくなっていく
そして…
「さぁ!!!これで最後だ!!!!」
最後の炎の鎧を崩され、飛鳥は確かに見た
そして…
『水樹さん!お兄様がレイピアを振り切る前に斬撃の始点に回りこんでください!!』
脳内に響き渡るシンディの声に飛鳥は少し驚いたが、考えるよりも先に体が動き、再び、飛鳥にレイピアを横薙ぎに振ろうとした時、カイルの繰り出す斬撃の始点に回りこみながら、地面に吹き飛ばされたときに落ちたガンブレードを拾う
「くっ!!!でも甘いよ飛鳥!!!!!君の異能力はさっきの力で使い果たしただろう!!!私の勝ちだ!!!!」
カイルはレイピアを振り切りながらも、勝利を確信し、空いている手を横薙ぎに振り、飛鳥に向かって衝撃波を放つ
でも…
「そっくりそのまま返すよカイル!!!!!」
カイルが見たものはガンブレードの波紋半分が赤い光を灯していること
それが何を意味するのか気付いた瞬間、飛鳥はトリガーを引き、ガンブレードに炎を灯す
そして、飛鳥はガンブレードを衝撃波に向かって振り、相殺し、飛鳥はカイルと距離を詰め、無理に体を動かしたせいで態勢を崩しかけているカイルを押し倒し、ガンブレードを突きつける
カイルは何が起こったのか理解できなかった
それは飛鳥も同様…だが確かに…
「勝者!!水樹飛鳥!!!!」
王斬の叫びと同時に、飛鳥が勝利したという事実がその場の全員に伝わった
飛鳥は今もまだそれが事実なのか夢なのか理解できず、周りをきょろきょろとしながらも、ガンブレードを床に置き、カイルから離れる
すると…
「飛鳥!!!」
「うあっ!!!!?」
駆け寄ってきた唯に抱きしめられ、飛鳥は上ずった声をあげてしまう
「心配したんですよ!!!ほんとに…でも…よく頑張りましたね飛鳥…私は貴方をリーダーに持てて嬉しく思います!!」
そして、唯の言葉に飛鳥は首を横に振り、視線をゆっくりと千尋や玲羅と一緒に近づいてくるシンディに視線を向ける
「僕だけの力じゃないよ…シンディちゃんが…ううん…シンディが僕に助言をくれたんだ…」
シンディが飛鳥の前まで到着すると、唯は飛鳥を解放し、飛鳥はシンディに視線を合わせ、肩に手を置く
シンディはその瞬間、ビクッと少し驚いたが、勇気を振り絞り、飛鳥をしっかりと見据え
「真剣勝負に差し出がましい真似をしたのは重々承知でしたが、私は、水樹さんのように誰かを護る為に立ち上がりたかったんです!」
しっかりと自分の意思を飛鳥に伝える
それを聞いていたカイルはゆっくりと体を起こすと
「さっき言ったことは訂正するよ飛鳥、君はシンディに立ち上がるきっかけを与えてくれた…ありがとう…心からお礼を言うよ…」
飛鳥にしっかりとお礼を伝える
カイルの声が聞こえ、飛鳥は振り返ると首をまた横に振り…
「君は僕を奮い立たせてくれた…カイル…僕こそありがとう…君は最高の友人だよ」
飛鳥も逆にお礼を伝える
カイルはまるでバレたか…という風ないたずらな笑みを浮かべながら立ち上がり、握手を求める
飛鳥は今度こそ、迷いなく、カイルと握手を交わす
戦った戦友として、これから友人としての関係を築き上げるために
「うっ…」
倒れそうになった飛鳥の体を唯が慌てて支え、抱きしめ、床で寝かせ膝枕をし、飛鳥の髪を優しく撫でる
「ホント…よく頑張りましたね…飛鳥…」
気絶しているはずの飛鳥はまるで、何かをやり切れた…という風な表情を浮かべていた
そんな飛鳥の表情を見て唯は嬉しくて、自分も満面の笑みを浮かべる
そして、カイルの家での二日目は戦いと飛鳥が休むことで終わりを告げた
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
飛鳥が目を覚ましたのは、三日目の朝
そこは本邸のカイルの部屋で、飛鳥のために用意されたベッド
カイルは既に早起きでソファに座り、新聞を読んでいた
「やっと回復したみたいだね飛鳥?」
「ごめん…せっかく泊まりにきたのに…」
カイルは振り返ると飛鳥のベッドを指差す
飛鳥は不思議に思いながら視線を落とすと…
「君はほんとに慕われているね…羨ましい限りだ…」
静かに寝息を立てる唯と玲羅の姿
今まで看病をしてくれたのだろう
ベッドの縁にもたれかかったまま眠っている
飛鳥は慌ててベッドから降りると、起こさないようにまずは唯を抱え、ベッドに寝かせる
続いて、玲羅も起こさないように抱えて、唯の隣に寝かせると掛け布団をかけてあげ、カイルの座るソファの隣に座る
「ほんと…僕を慕ってくれてほんとに嬉しいよ…でもカイルだって慕われているじゃない?アルジェント副会長とか…」
「あぁ…アルジェント君か…ただ真面目で会長である私を立ててくれているんだよ…まぁ慕ってくれているとおもいたいけどね?」
互いに笑いあい、普通の男子学生としての会話をする
飛鳥は初めての男友達を嬉しく思いながらも、男友達との会話って何をすればいいんだろう…と女友達とばかりいた飛鳥からすれば最大の疑問である
「私は気になるんだけど…君はどっちの方が好みなんだい?」
「へっ!!?」
確かに飛鳥は男友達としての会話をしたいと考えていたが、あまりのカイルからの質問に飛鳥は固まってしまう
どっちの方が好みなんだい?というのはつまり唯と玲羅どちらの方が好みなんだという質問だ
「えとあの!!…いやねカイル…僕としては唯にも玲羅にも幸せになってもらいたいし…僕みたいな女の子のような見た目のオカマみたいな男と一緒にいたら…その誤解されそうだし…それに…僕じゃつりあわないよ…二人ともすごく美人なのに…勿体無い…」
飛鳥の言葉を聞いたカイルはため息をつき、一度後ろを向くと、飛鳥のために用意したベッドの掛け布団が少しだけ動くのが見えた
隣に座っていた飛鳥は首をかしげ、まったくそのことに気付いていなく
カイルはまたため息をつく
「そっか…飛鳥に春が来るのはもっと先みたいだね…」
「ん?」
カイルはこの鈍感男…と思いながらも、この話題は駄目と思い…
「じゃあ、次の話題だけどシンディが少しでも前向きになってくれた御礼…つまり報酬だね?」
「そんなのいらないよ!!僕が好きでやったことだし!!」
カイルは今回のミッションの報酬の話を飛鳥にふる
勿論、滅多に頼られたことがない飛鳥は頼られたことだけで嬉しいと思い、報酬については断る
だが、飛鳥のその言葉を聞いたカイルは首を横に振り
「それじゃ私の気が済まないよ…いいかい?君は自分の体を酷使してまで私やシンディのために戦ってくれた…それが私は嬉しく思う、だから受け取って欲しい…といっても…」
飛鳥の胸に拳をあて、ニコッと笑みを浮かべる
飛鳥はカイルがここまで言うからには受け取らないと失礼だと察し、飛鳥はどんな報酬がと思っていると…
「私を君のチームに入れてくれないか?ということなんだけど…駄目かな?」
カイルは飛鳥の予想斜め上の報酬を出してくる
つまり飛鳥がリーダーであるチームに入りたい…飛鳥についていきたいというカイルの意思表示なのだ
今回の戦いを経て、中途半端にお礼だけでそんなことをいう人物ではないということは飛鳥は理解していた
だからこそ、飛鳥はほんとに驚き、戸惑いながらも、凄く嬉しかった
「ううん!!!うん!!!ありがとう!!!これからも僕の仲間だよカイル!!!」
飛鳥のそんな嬉しそうな顔を見て、カイルは心の底から笑顔を浮かべる
そして、カイルは飛鳥と肩を組むと…
「そうだね仲間だ…じゃあ交換条件だね…私の秘密を教える代わりに、君が軌条君と白銀君どちらが好みに近いのか…教えてくれるかな?」
「はぅっ!!?いや…あの…」
「さぁ、私の秘密でもある秘密の部屋へと案内しよう…立って」
「えっ…あ…あのいや!!」
二人は立ち上がると、部屋から出て、カイルの所有している部屋の一番奥へと案内される
二人はまるで長年連れ添っていた友達同士のように屈託の無い表情を浮かべ、1番奥の部屋へと向かった
ただ、飛鳥はどちらが好みというカイルの質問に戸惑いながら、部屋の中へ案内され
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!?」
飛鳥は心のそこから悲鳴を上げる
なぜならその部屋一面に飾られていたのは、自分の姉 水樹亜栖葉のポスターだったのだから
大切にシングルやアルバムも保存されており、カイルが自分の姉のファンであるということを知る
完璧人間のカイルの一般人が分かち合える秘密の一つアイドルオタクというところを…
そして、恐怖の存在でもある自分の姉に四方八方から見つめられながら、部屋の中央で失神した
カイルは心の底から戸惑い、起きてきた唯と玲羅がその現場に辿りつき、苦笑いを浮かべたのは言うまでも無いことだった