表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Salvation!  作者: フォルネウス
第一章 かけがえのない仲間
4/10

3話 黒炎に染まる舞踏会

 

 放課後となり、飛鳥たちチームSalvationは昨日と同じようにミッションメイト校舎の自室にて集まっていた。

 唯は自分の武器でもある片刃剣とクナイの手入れをし、玲羅は拳銃二丁の手入れを千尋から教わっていた

 飛鳥はというと昼に起こった出来事を考えながらも、誰にもばれてはいけないと考え、普通を装いながら、ガンブレードの刀身を磨いたり、ガンブレードの波紋にたまっている自分の異能力を見つめつつ、今日こそはこれから自分に降りかかってくるであろう最悪のことを考え、完全に溜めれるようになろうと考えながら、次に変形させ、銃口の手入れなどを始めた

 

「あ、飛鳥?ガンブレードは手入れが大変ですが、やっぱりバラして手入れした方がいいですよ?一応もう一つの形態は拳銃ですし、手入れ不足は危険ですから…」

「そっか、わかった、ありがとう唯」

 

 飛鳥は唯にガンブレードのバラしかたを教わりながら、一先ず刀身と銃でバラし、丁寧に唯に手伝ってもらいながら、手入れする

 のだが…

 

「いつの間にそんなに仲が良くなったの…?」

 

 飛鳥はいつもより低い声の玲羅に気付き、振り返るとそこにはジトっとした視線を飛鳥に向けていた

 飛鳥と唯は一瞬、何のことだろうと思いながら、自分たちの言葉を思い出してみるが、何にも該当しない…

 そんな二人を見て、玲羅はため息をつき…

 

「昨日まで唯さん、飛鳥さんって呼んでたよね?」

 

 二人に指摘すると、その瞬間、飛鳥と唯は顔が真っ赤になり視線を互いに逸らす

 そういえば気付いたら…と思いながら、飛鳥はあたふたする

 

「キャぅ!!!!違うんだ違うんだよ玲羅!!!僕…あのその…あぅ…」

 

 そして、そんなあたふたする飛鳥を見た瞬間…

 

「きゃぁ~ん!!!!飛鳥ちゃん!!!!」

「ムギャッ!!!?唯!!!刃物持ってるから刃物持ってるから!!!?」

 

 唯が、ガバッと飛鳥を抱きしめ頬擦りをしながら、甲高い声をあげる

 その姿を見た玲羅と千尋は表情が固まり、事態を把握して、玲羅はジトっとした視線が強くなり、千尋はこめかみを人差し指でつき、自分にブツブツと「こいつら高校生だから…こいつら高校生だから…」と自分に言い聞かせていた

 

「飛鳥ちゃん!!やっぱり私のマスコットにっ!!!!」

「だから僕男!!!!!?」

 

 唯のキャラ崩壊に飛鳥は少しタジタジとなり、慌てて、唯の抱擁から逃れる

 飛鳥は内心こんな言葉を向けられるということは唯から男と見られていないんだな…と少し落ち込みながらも、とりあえず…

 

「ごめんなさい!!!!」

 

 飛鳥は抱擁から何とか逃れると部屋から出て行き、扉を閉めると扉に背を預け、思い切り全力で踏ん張る…じゃないとこのまま開けられ、逃亡劇が始まるからだ

 

 だが…

 

「お前が水樹だな?」

 

 雰囲気が一転する

 エレベーターの方に視線を向けると、そこにはあの上級生がつけていた黒炎のロゴが入ったマントをした髪をボウズの鋭い目つきをしたマントの色からして同級生の男が立っていた

 

「うん…そうだよ…」

 

 飛鳥は完全に予想外だった…

 今日一日くらいは持つかと思われたがこんなにも早くそして、部屋の近くまで来るとは思わなかったからだ

 

「軌条唯には手を出さない…だけどお前には少しストレス解消に付き合ってもらうぜ?偽善ぶった教師どもの説教食らった腹いせにな…」

 

 静かにそう呟くとそのボウズの男は飛鳥にゆっくり近づき、鋭いジャブが飛鳥の腹部を捉える

 

「っ!!!!!」

「声に出すなよ?この扉の反対側には俺の手に負えない化け物が二人いるんだからな…」

 

 飛鳥は痛みに堪えながら、自分の仲間を化け物と言ったボウズの男を睨みつける

 そんな飛鳥の姿を見て、滑稽だ…と嘲笑い、耳元で…

 

「お前は軌条唯を握られている限り…何も出来ないんだよ…さぁ…トレーニングルームへ行こうぜ?」

「くっ…」

 

 呟かれ、何も出来ず、ただ相手が気が済むまで、殴られるしか出来なかった

 トレーニングルームに移動してからも、トレーニングを装われながら、ただサンドバックになることしか出来なかった

 そして、飛鳥が動けなくなるとボウズの男は舌打ちをし、トレーニングルームを後にした

 それから飛鳥は三人と合流するまで、ただ体を休め、何もなかったかの用に装い、全員とトレーニングへと移った

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 翌日となり、事態は悪化していた

 靴がなくなるというわかりやすいものはない…

 休憩時間は基本一人の飛鳥は黒炎のロゴをしたボウズの同級生が引き連れた不良集団に滅多に人のいない異能デュエルスタジアム裏へと連行され、飛鳥が気絶するまでリンチが繰り返された

 顔面や目のつきやすい場所はしない…

 ただ服に隠れる場所を重点的に痛めつける

 そして、飛鳥が気絶しているうちに財布の中からお金を抜きとられ、不良たちは飛鳥の少ない小遣いに舌打ちをし、気絶している飛鳥に財布を放り投げる

 

 飛鳥はしばらく立てなかった

 だが普通を装わないといけない…

 だからこそ、普通に立てるようにはならないとと思い、根性で立ち上がるとゆっくり…ゆっくりと歩みを進める

 視界が霞み、まともに前が見えない故に誰かが立っていることに気付くのが遅れ、やばい…と思いながら、避けようと考えたが、足に受けたダメージのおかげで、倒れそうになる…

 

「お願い…誰にも言わないで…」

 

 そして、意識が途切れ、目の前にいた赤髪ポニーテールの顔に刺青の入っためんどくさそうな表情をした無地のマントの制服姿の少女が飛鳥の体を支え、担ぐように飛鳥を持つとミッションメイト校舎の方へと向かい始めた

 

 

 

 しばらくして、飛鳥は目が覚めると視界に入ってきたのは医療センターの病室の景色と、心配そうな表情を浮かべる千尋と真剣な表情の王斬が入ってきた

 

「えと…」

「お前は何を考えているんだ!!!!!」

 

 そして、1番最初に耳に入って来たのは千尋の怒号

 飛鳥は思わず目を瞑り、殴られることを覚悟するが…

 

「えっ…」

「少しは教師を信用しろ…」

 

 飛鳥は千尋に抱きしめられ、一気に罪悪感が胸にチクチクと突き刺さる

 でも…言うわけにはいかない、バレてしまえば唯に被害が行く

 それだけは避けたい…と飛鳥は思い

 

「ただ転んだだけですよ?僕もう平気ですから♪」

 

 滅多につかない嘘をついた

 それを見ていた王斬は…

 

「そこにいるフィルが一部始終を見ていたぞ?あの異能デュエルスタジアムはデュエル祭以外は人が集まらない…だからこそ、あそこはいいフィルのサボり場所なんだよ…」

「勝手にばらすな王斬…」

 

 真剣な表情のまま、飛鳥をしっかりと見据え、事実を伝える

 それを聞いた飛鳥は、悲しげな表情となり、入り口近くの壁にもたれかかっている飛鳥を支えて運んだ少女 フィルを見るが、めんどくさげな表情を浮かべながら、飛鳥の視線を無視する

 

「何があったんだ…飛鳥…」

「話せません…」

 

 千尋は真剣な表情で飛鳥を見据え問いかける

 だが、飛鳥は千尋から視線を晒し、返答する

 飛鳥としては話せるわけがない

 話したら、唯がどうなるかわからない…

 千鶴のことはいわば唯にとってトラウマ

 そんなトラウマを使われれば、強力な力量を持つ唯といえどどんな目に合うかわからない

 

「今のお前は男の目をしているな…」

 

 王斬の言葉にふと、飛鳥は王斬に視線を向けてしまう

 王斬の言葉を聞いた千尋は目を瞑り、しばらく思考をめぐらせる

 そして…

 

「唯のことか?」


 千尋の中ですべてのパズルのピースがはまる

 飛鳥の反応をじっくり観察する

 飛鳥は反応しないようにしているが、だからこそ真剣な表情を作ろうとする綻びを、千尋は見逃さなかった

 

「よし…事情は把握した…王斬、美琴と有馬統括学年主任を呼んできてくれ…私の可愛い生徒にこんなことをした代償は払ってもらうぞ…」

「待ってください!!!」

 

 飛鳥の静止の声に思わず王斬と千尋は立ち止まる

 バレてしまったことでこれ以上隠してられない…そう思ったが…大事にするつもりはない…

 

「確かに唯に降りかかっていたことが今…僕に降りかかっています…信用していないわけではないんです…でも僕は…僕で何とかしたい…先生が動くとなったら絶対に勘付かれます…そうなったら、唯は…唯が…」

 

 飛鳥は気付くと涙を流していた

 自分はどうなってもいい…だけど唯は…仲間には危害を加えられたくない

 そう飛鳥は思いながら、千尋と王斬を見据える

 そんな飛鳥の姿を見て、王斬はため息をつき、千尋に任せるといわんばかりに、めんどくさそうに飛鳥を見ていたフィルと一緒に部屋から出て行く

 千尋はため息をつき、飛鳥をしっかりと正面から見つめ…

 

「わかっているさ…だが、唯と同じようにお前も私の大事な生徒なんだ…お前ばかりがひどい目に合うのは私としては見逃せない…」

 

 千尋の教師としての意見を言う

 飛鳥はそれも理解出来た…わかっていて見逃すなんて根は真面目な千尋がそんなことできるわけがないということも、飛鳥も悩んでしまう…怖いけど…僕自身はどうなってもいい…唯が助かるなら…でもこうして千尋にバレた以上、千尋先生も黙ってはいられない…ならばどうしたら…

 と考えていると…

 

「明後日、ホームルームで言ったとおり、舞踏会があることは知っているな?」

 

 千尋はため息をつき、呆れた表情を浮かべ、飛鳥を見据える

 飛鳥は首を傾げていると…

 

「そこですべての方をつけろ…お前は唯とパートナーを組み、私、美琴、有馬統括学年主任でバックアップをする…詳しい作戦は、唯以外の全員が集まり、計画する…今日の放課後8時…会議室に集合だ、唯に伝えない代わりに…玲羅には言うぞ?」

 

 千尋なりの最大の譲歩をいう…

 飛鳥に一日堪えさせる…だが、その代わり、唯以外の…つまり玲羅も参加させ、ランキング上位に入っている教師陣三人と力をあわせて、黒炎のマントをしたあの唯を追い詰めていた上級生のチームを明後日の舞踏会で決着をつけるとのこと…

 それを聞き、玲羅を巻き込んでしまうということに飛鳥は戸惑いを覚えてしまう

 

「本当は私からすればチーム全体で解決したい…それが絆というものだ…だが、今回唯を巻き込むのは最大限のリスクだ…千鶴のこと…お前のこと…そして、私が予想しているであろう人間のことを考えると、唯は今回の作戦の弱点となる…だが玲羅に関しては…自分が知らないうちに大切な人が傷ついていた…それを知ったときの怒りと悲しみ…お前に理解できるか?」

 

 千尋の言葉に飛鳥は思わずハッとしてしまう

 飛鳥は玲羅との付き合いに関して、家族以外には誰よりも長い、いつもクールで物静かな玲羅だが、本当は傷つきやすいし怖がりだからこそ、静かにしている…そんな玲羅が今の飛鳥の状況を知ればどうなるだろうか?

 

「ごめんなさい…」

 

 理解できる…

 飛鳥も逆の立場なら本気で怒っている

 飛鳥はとりあえず、今日の不良たちの暴行よりも、痛い一撃を食らう覚悟をした

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「っ!!!!!?」

「飛鳥のバカ!!!!!!」

 

 アレから授業に復帰し、放課後までの休憩除き三時間…

 不良たちが教師達からの説教に逆上し、飛鳥に休憩時間のたびに暴行を受けたが、それよりも今の玲羅からのビンタの方が何百倍も痛い…

 なんせ滅多に泣かない玲羅が泣いて声を荒げて怒っているのだから…

 唯にばれないように、前もって交換していた携帯電話のメールアドレスでメールを送り、今日は用事があるから解散と伝えていた

 唯のいないミッションメイト校舎の部屋で飛鳥と千尋、玲羅の三人

 成り行きを見守り、学校側からの許可を得て、部屋の外のステルス状態の監視カメラにて室内に繋いであるモニターに映し出し様子を観察中の千尋

 飛鳥を懇々と泣きながら説教をする玲羅

 飛鳥は玲羅の説教を甘んじて受ける…それが今飛鳥に出来ること…飛鳥はそれがわかっているからこそだ

 

「ヘタレ!!!!女たらし!!!!女装野郎!!!」

 

 あれ…なんか子供の悪口みたいになっているんですが…

 と飛鳥はそう思いながらも甘んじて受ける

 

「なんなの?姉さんにこれ着てって言われて普通メイド服とか着る!!!?ありえない!!!」

 

 あれ…これ昔の思い出したくない過去をバラされてない?

 と飛鳥はやっぱり思いながらも甘んじて受ける

 

「私の胸触ったときも…あっ…ごめん!!!でも感触あんまりわからなかったから、ちっさすぎてわからなかったから!!!!!ですって!!!?悪かったね!!!!あの頃はまだ中一!!!そこまで発達してなかったけど今やDカップです!!!!」

 

 あれ!!?なんか玲羅自身が自爆し始めたんですけど!!!

 と飛鳥は甘んじて受けようと思ったが、さすがにこれ以上はと思い無言でそろそろ終わった方が玲羅のためだよ?と視線だけで問いかけてみるが、まったく反応しない

 そこで思い出した…玲羅は昔から一度キレると歯止めが利かなくなるのだ

 今まで溜め込んでいた不満をその場で洗いざらい吐き出す…

 途中で止めようとした玲羅の姉 茜が涙目になるほど逆に追い詰められ、最終的に茜にトラウマを埋め込んだのだ

 下手にこれを止めると飛鳥も茜の二の舞となる

 

「それに知ってる!!!あんたが女の子を見るとき1番最初に目が行くのはお尻だってこと!!!」

「なるほど尻フェチか…」

 

 グアッ!!!?なんか矛先が僕の1番知られてはいけないところに!!!?

 飛鳥は思わず表情に焦りが表れる

 女の子みたいな見た目の飛鳥がそんなことを考えているというギャップ、男の子所以の仕方ないことではあるが、飛鳥にはギャップがでかすぎる

 

「もうホント最低!!!!」

 

 玲羅さん…もう飛鳥のライフはゼロよ…

 といわんばかりに飛鳥はいろいろバラされた上に最低という女の子に1番言われたくないことを言われて、飛鳥はその場に倒れ、うなだれ始めた

 玲羅は大きく深呼吸をし、もとのクールなあの表情へとかわり…

 

「死ね…アンタとはもうこれっきりよ…私はこのチームを抜ける…」

 

 全力で軽蔑した眼差しと声で飛鳥との決別を告げる

 突然のことで、飛鳥は何が起こったのか理解できなかった

 突然の決別の言葉

 玲羅は無言で部屋を出て行く

 飛鳥は何が起こったのか理解できなかった…

 さっきまでは普通だったのに…なのに…なんでいきなり…

 

「残念だな…飛鳥…」

 

 千尋もそういって部屋から出て行く

 飛鳥は一人何が起こったのか理解できないまま、扉が開き、ボウズの黒炎のロゴが入ったマントをした同級生が入ってきた

 ボウズの男子生徒は嘲笑うように飛鳥を見下ろす

 

「無様だなぁ水樹…」

「ぐっ!!!?」

 

 そして、飛鳥がショックで何も考えられない時に殴りとばし、何度も何度も高笑いをあげながら、飛鳥に馬乗りとなり殴りつける

 容赦なく飛鳥の顔面を殴りつけるが、飛鳥は、玲羅のことがショックで、殴られていることなんて、気にならない…

 だが、実際は口の中が切れ、血が流れ、口の中に血の味が広がっている

 

「ホントお笑いだよなぁ!!!!お前みたいな落ちこぼれにあんないい女がつくわけねぇよな?クソみたいな役立たずにな?そのクセ調子に乗って他の女のためにかっこつける…結局強者に貪られるんだよ…お前みたいな落ちこぼれは…白銀は俺が面倒見てやる…いいな?だから俺に引き渡せ…クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!!!!!」

 

 飛鳥はボウズの男の言葉にキレ掛けたが…嫌われた僕に何が出来る…と、塞ぎこみ、何も出来なかった

 ただ殴られるだけ…でも悔しい…僕は…僕は…

 

「グアッ!!!!!?何すんだ水樹!!!!!?」

 

 気付くと飛鳥はボウズの男を殴っていた

 

「僕はどうなろうといい…でも!!!!誰にも手は出させない…唯にも…玲羅にも…僕が大切に思っている仲間には…嫌われても玲羅は仲間なんだ…僕にとって…大切な幼馴染なんだ!!!だから絶対に手出しはさせない!!!」

「ふざけんじゃねぇぞ落ちこぼれ!!!!!」

 

 そして、その後何度も何度も男から殴られた

 何十分と全身を殴られ、蹴られ、飛鳥は完全に気を失い、男は飛鳥の顔面に唾を吐きかけ、部屋から出て行った

 だが、男が出て行った瞬間、まるで蜃気楼が晴れるように飛鳥だけだった部屋の中に…

 

「顔は覚えた…舞踏会の時のターゲットはお前よ…」

 

 完全に怒り心頭し、敵を見るように冷たい眼差しで扉の方を見る玲羅の姿とどこかへ電話で連絡をしている千尋の姿がそこにはあった

 玲羅は倒れている飛鳥を抱きしめ、静かに涙を流した

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 今日二度目の医療センターのベッド

 飛鳥は意識を取り戻すと視界に入ってきたのは千尋と玲羅の姿…

 

「玲羅…?」

「飛鳥…飛鳥!!!!!」

 

 玲羅は飛鳥をギュッと抱きしめ、飛鳥は暴行のせいで受けた痣のせいか激痛が走るも、我慢し、玲羅の抱擁を受け止める

 

「ごめんなさい…飛鳥…私…私…」

 

 飛鳥は突然のことに事態が飲み込めないという風に思っていると、千尋が飛鳥近づくと優しく頭を撫で…

 

「玲羅の異能を使ってお前が殴られるところを見ていた…用は玲羅の異能でアイツの脳に干渉して私たちを見えなくしていたというわけだ…ちなみにお前にも異能を掛けていた」

 

 今までの出来事について軽い説明を聞いた

 つまり、飛鳥はおとりとなった…ということになる

 飛鳥は思い出したことが一つあった、千尋がずっと横目で見ていたモニター…

 監視カメラがあったとして、外を監視してボウズの男子生徒が現れたとするとどうする

 

「そっか…僕こそごめんね玲羅…本気で見捨てられたって思っちゃった…」

 

 飛鳥も静かに涙を流し、玲羅を抱きしめ返す

 玲羅もそんな飛鳥に甘えるように胸元に顔を埋める

 飛鳥は心の底から安心した

 大切な仲間に見捨てられる…飛鳥にとって1番辛いこと…だからこそ安心したのだが…

 

「ほんとに安心した…玲羅…でも…いいの?」

「何が?」

 

 飛鳥は正直恥ずかしくてたまらない…

 気付くと目を輝かせる金髪ショートヘアの子供のような身長と体型のパッと見中学生くらいに見える教師

 

「うわぁ~♪千尋ちゃんもしかしてラブシーン!!?ラブシーンなの!!?」

 

 桐生美琴がハッチャケ…

 

「おい水樹…お前はもっと落ち着いていると思ってたんだが…どうやらあいつらと同じにおいを感じ始めたぞ…」

 

 呆れた表情を浮かべる口元に紳士を思わせる髭を蓄えた短めの黒髪を逆立てた王斬とはまた違う覇気を身に纏う中年男性有馬鉄夫が忠告してくる

 あいつらと同じにおいを感じるというのはどういうことなのか飛鳥はわからなかった故に突っ込むのは辞めといた

 勿論そんな状況に気付いた玲羅は慌てて飛鳥から離れ、視線を二人から外しながら、千尋の隣に並ぶ

 

「といいますか…有馬先生に僕名前を覚えられているなんて思いませんでしたよ…」

 

 飛鳥は話を誤魔化すように鉄夫に問いかけるとまたため息をつかれ…

 

「なんだかお前とアイツがだんだんかぶってきたな…」

 

 余計に印象を悪化させてしまった…飛鳥はへこむとドッとその場に笑いが溢れる

 飛鳥は鉄夫の知っているの誰かというのが気になってきたような気がした

 

「でも大丈夫?その口元すんごい痛そうだよ?」

 

 天然なのか、美琴は飛鳥にグィッと近づくと顔同士が急接近、頬を撫でる柔らかな手が凄く心地よくてなんだか…

 

「桐生先生…」

「もぅてっちゃん硬いんだからぁ~♪」

 

 そして、それ以上に飛鳥の中でこの桐生美琴という先生はかなりの強者であるということは理解できた

 なにせ、厳格で有名なあの有馬鉄夫をてっちゃんと呼び、あの凄みの入った呼びかけを平気で笑い飛ばしたのだから…

 

「飛鳥、今考えていることはわかる…美琴が教師らしくないと思っているだろ?」

「あぁ~ひどぉ~い!!!」

「ごっごめんなさい!!」

 

 飛鳥は思わず謝ってしまい、認めたことになる

 ムスッと子供のように膨れる美琴の姿を見て、飛鳥は何とか弁解しようと考えたが、何も浮かんでこなかった…

 そんな飛鳥の姿を見ていた千尋は…

 

「気にするな飛鳥、それは事実だ…なんせお前と三つしか変わらん…」

「千尋ちゃん!!レディの年齢ばらすとかやめてよぉ!!?」

 

 あっさりと美琴の実年齢をばらしてしまう

 だが、そうなると飛鳥と玲羅の頭の中には一つの疑問が浮かぶ

 そう…どうやって教師になったのか?という疑問だ

 

「千尋先生、じゃあどうやって教師になったんですか?」

 

 玲羅の質問に、千尋は隣で無い胸を張る美琴を見てため息をつき…

 

「こいつは戦闘の天才でもあり、学問でも天才とされている…あの有名な海外の大学 リヴァルヴを飛び級で卒業し、教員免許を取ったからな…あ、ついでだから博士号も何個かとっとくぅ~♪とかいいながらな…」

 

 この小さい体から想像も出来ない偉業に、飛鳥と玲羅の二人は驚愕しすぎて、美琴を見入ってしまう

 

「崇めなさい!!美琴先生は偉大なのよぉ!!はぅっ!!?」

「うちの可愛い生徒に何をいうかバカ美琴…」

 

 だが、やっぱり性格はこどもっぽ過ぎて飛鳥と玲羅は素直に尊敬できないと思ってしまう

 なんだか千尋に頭を叩かれている美琴が似合いすぎて素直に先生だと思えない…

 

「そろそろ話を戻してもいいだろうか?森嶋先生、桐生先生…」

 

 そんな話をしていると鉄夫の咳払いと共に低い声が響き渡った

 飛鳥は思わず体が震え始める

 なぜなら飛鳥は一瞬鉄夫の背後に阿修羅のような幻覚が見えたのだ…間違いなく怒っていると今まで当たり障りの無い生活を送っていたことによりつちつかった人の様子を観察し続けた力量により、今の鉄夫の状況を理解できた

 

 だが…

 

「りょ~かい!!てっちゃん!!!」

「そうですね、有馬統括学年主任」

 

 さすが先生といったところか…いや、この二人はベクトルが違う…

 美琴は持ち前の明るさと天然で動じないだけで、千尋にいたってはそれだけの度胸が据わっているからである

 

「では、話を戻す…まずは、水樹…よく頑張ったな…」

 

 真剣な表情でねぎらいの言葉を言う鉄夫

 飛鳥は一瞬なんのことか理解できなかったが、自分の今の現状を考えると一目瞭然

 

「いえ…たかが二日とちょっとです…もしかしたら唯はもっと辛い目に合っているかもしれませんし…僕なんて頑張ったとかそんな…僕はただ…唯のかわりになれたらって思っただけですし…」

 

 飛鳥の言葉を聞いて、鉄夫は飛鳥のいる病人用ベッドの隣にある椅子に座り、しっかりと飛鳥の表情を見据える

 

「無謀で無茶な策だが、実に男らしい…お前は軌条を好いているのか?」

「ブハッ!!!!?」

 

 飛鳥は思わず咳き込んでしまう

 鉄夫からまさかそんな言葉が聞けるとは飛鳥は思わなかったし、千尋と玲羅、あの美琴ですら表情が固まっているくらいだ

 勿論、飛鳥は激しく挙動不審になる上に顔は真っ赤

 

「いえ!!!!そんな大それたこと!!!!?唯にはもっと相応しい人がいるでしょうし、僕なんかにはもったいないです…僕は…いえ…その…ただ…憧れているんです…僕が学校を辞めようと考えたとき…猫を助けて笑顔を浮かべる唯が…凄く素敵であの人のようになりたいと思ったから…だから、そんな人が苦しんでいるなら助けたい…僕は仲間ですから…唯の支えになれる一人です」

 

 でも…飛鳥はちゃんと自分の意見を話す

 そんな飛鳥の姿をしっかりと鉄夫は見据え、静かに笑みを浮かべる

 

「そうか…わかった…だそうだぞ…」

 

 そして、最後の言葉がおかしいと飛鳥は思いつつも、鉄夫が立ち上がり、美琴は「がんばれぇ~」と呟き、玲羅は何が起こっているのかわかっていないまま、千尋に連れて行かれ、飛鳥は一人になると次に入ってきたのは…

 

「えっ…」

「黙ってください…」

 

 涙を流し、静かに飛鳥に近づく一人の少女の姿…

 笑顔が似合っていて、たまに黒い笑顔を浮かべて、チーム内で1番怒らせてはいけない人で、何故か自分が照れていると抱きついてきて、やたらマスコットにしたがるような人だが…誰よりも優しく、戦力としても強いが過去の出来事のせいで傷を抱えていて一人で抱え込んできた強い人物…そんな彼女が…軌条唯が目の前にいた

 

「私のせいで…私のせいでそんな傷を負ったんですね…」

 

 唯は静かに飛鳥の頬を触れ、次に腕や体の痣に視線をめぐらせる

 飛鳥は何故唯にばらしたんだ…と言わんばかりに入り口の方を見るがもう既に誰もいない…

 激しく文句を言いたい…千尋自身も巻き込んだら今の唯は戦力ダウンの元になると言われたし、飛鳥としても、唯が知らない間に解決したいと考えていた…なのにばらされた…と飛鳥はおもいながら、その場に足元から崩れ落ちるように座り込む唯の姿を見て、飛鳥も慌てて、ベッドから降りて、唯と同じように地面に座り、子供のように泣く唯を静かに抱きしめようとした…

 

「触らないでください!!!!」

 

 だが、明確な拒否…

 

「私はやっぱり死神のままなんです…いたら誰かを傷つける…今も…飛鳥を…傷つけてしまった…」

 

 唯の中でそれほどまでに飛鳥のことを仲間だと思っていたし、大切な人物だということを思っていた…なのに、自分のせいでそんな大切な人…仲間のことを傷つけてしまった…

 そんな自分を責められずにはいられない…だからこそ…

 

「私は死んだ方がいいんです…私がいなくなればいいんです…」

 

 唯はそう思った…

 でも…

 

「えっ…」

 

 病室の中で響き渡ったおとは乾いた人を叩く音…

 唯は叩かれた頬を押さえながら、目の前で涙を浮かべる叩いた本人でもある飛鳥のことを見据える

 

「ふざけるな!!!!!!君がいなくなってすべてが丸く終わるなんて大間違いだバカ!!!!!」

 

 唯の目の前には見たことが無い本気で怒っている飛鳥の姿がそこにはあった

 

「唯…君がいなくなったら…僕は…玲羅は…千尋先生は…必ず自分たちの力のなさを恨むよ…今の…千鶴さんを失ってしまった君のように一生後悔する…君が死んだら僕は…立ち直れないよ…」

 

 飛鳥の姿を見て、唯は俯く

 だが、床にポトポトと涙が落ち、飛鳥の顔をしっかりと見据え…

 

「じゃあ…どうしたらいいんですか…千鶴への償いは!!!私は…私は…」

 

 飛鳥に答えを教えてほしい…そんな涙に濡れたまるで胸に突き刺さる…悲しげな表情を浮かべ、懇願する

 飛鳥は一瞬怯みそうになる…

 どれだけ悲しいか…どれだけ悩んでいるかが飛鳥は理解できた

 でも一つだけ言いたいことはあった

 

「だからって死んだら意味が無い…悲しいことが続くばかりで、何にも解決しないよ…じゃあ…」

「?」

 

 唯は不思議そうに首をかしげて飛鳥を見ている

 飛鳥は近くの机の中をあさり、誰かが入れて忘れていたであろうカッターナイフを取り、刃を出すと…

 

「飛鳥!!!!やめ!!!!」

「ぐっ…」

 

 手首に刃を当てると思い切り引く

 すると、飛鳥の手首から飛び出した鮮血が床とベッドに飛び散り、飛鳥は思わず涙目になってしまう

 それ以上に目の前でそれを見ていた唯は表情全体に動揺が浮かび、慌てて近寄ると飛鳥の手を制服のポケットから取り出したハンカチで手首を押さえ…

 

「誰か!!!!!誰か!!!!!!」

 

 そして、何かを思い出しているかのように涙を流している

 飛鳥はドクドクと流れる自分の血に少し動揺しそうになるが、大きく深呼吸をすると唯の頬を少しつねり…

 

「僕が助けることが出来なくて…もし唯が死んだら…僕は…こうする…死ぬよ…だって僕も唯の気持ちがわからないでもないから…でも僕はある人に教えてもらったから…悲しむ人がいることを…だから…」

 

 飛鳥は血を流しすぎたのか、意識が朦朧となり、その場に飛鳥は倒れた

 その後、飛鳥の手首の傷は学校が保有している最新医療でもある再生型異能発動機器により、治療され、親が海外に行っているため、仕事中の姉 亜栖葉が呼び出されることになった

 

 

 

 

 

「アンタは何をしでかしてるの!!!!!」

「ウキャゥ!!!!?」

 

 思い切り頭を亜栖葉に叩かれ、飛鳥は医療センターのベッドに座る飛鳥は涙目になる

 そして、部屋の中にいる鉄夫と千尋、美琴、担当医師に平謝りをする

 飛鳥は痛い…と思いながら、隣の亜栖葉の経験上再び来るであろう一撃を回避する作戦を考えようとするが…

 

「今日は亜栖葉さんに味方する…」

 

 飛鳥を睨む玲羅に後ろから拘束され、脱出が不可能となる

 

「アンタ…反省もしてないようね…」

「あわわわわわわわわわわ……」

 

 亜栖葉の怒りの形相に飛鳥は思わず恐怖する

 そんな飛鳥の姿を見ていた唯は…

 

「すみません!!!私が…私が…」

 

 亜栖葉に頭を下げる唯

 唯の姿を見た亜栖葉は思い切り唯を睨みつける

 それを見た唯は亜栖葉の覇気に怯む…それでも…

 

「私のせいで傷つけました…もう…水樹君には近づきません…」

 

 唯は亜栖葉にもう一度頭を下げる

 すると亜栖葉はため息をつき…

 

「キャッ!!」

 

 唯の頭を叩く

 その姿を見た飛鳥と玲羅は驚きを隠せず、固まってしまう

 勿論見ていた鉄夫、千尋、美琴、担当医師の四人も固まってしまう

 

 そして、唯は顔を上げると、亜栖葉は優しく笑みを浮かべていた

 

「別にアンタに怒ってるわけじゃないわよ…怒ってる相手はうちの愚弟だけ…」

 

 そして、それを聞いていた飛鳥は

 

「愚弟いわないでよ」

「なんか言った?愚弟…」

 

 否定するも、亜栖葉の言葉と眼光に、飛鳥はおもわず視線を逸らし、ぶんぶん首を横に振る

 後ろで飛鳥を拘束していた玲羅も流れ弾をくらい、視線を晒してしまう

 亜栖葉は髪をかきあげ、しっかりと両目で唯の姿を見据える

 

「私が怒っているのはもっとまともな方法で助けなさいってこと…まったく…このバカ…父さんに似ているからホント困るわ…」

 

 亜栖葉はため息をつき、ほんとに困ったような表情をしている

 唯は表情に動揺しか浮かばない

 

「でも…私は貴方の弟さんを傷つけてしまいました…」

「また叩かれたいかしら?」

 

 ニコッと笑みを浮かべる亜栖葉を見て、唯は思い切り首を横に振る

 それを見た亜栖葉は唯の頭を撫で…

 

「ちょっと待ってね?玲羅、飛鳥を外に連行…」

「はい!!亜栖葉さん!!」

 

 玲羅に飛鳥を外に連行するように指示を出すと、激しくかしこまった玲羅は飛鳥を外に連行する

 空気を察した鉄夫と千尋、美琴、医師の四人も外に出る

 それを確認した亜栖葉は唯をベッドに座るように促すと隣に亜栖葉も座る

 

「そりゃ姉としたら心配よ…怒るけど、別にあの子が選んだことで怪我をしようがやめろとはいわないわ…確かに昔からマイナス思考で自分に自信がもてないところはあったけど…実はね?あの子、昔は玲羅と玲羅の姉の茜を引っ張っていくくらいパワフルな所がある子だったけどあるときから、今の塞ぎこんだ子になってね…」

 

 亜栖葉が何をいいたいのか唯はわからなかった

 でも最後まできけばわかるかもしれないと唯は思い、亜栖葉の表情を見据える

 

「出来事についてはあの子から聞いて…いえ、あの子が自分から言えるときまで、待ってあげて…」

 

 亜栖葉の表情はほんとに姉そのもので、一人っ子でもある唯はこんな姉がほしかったなと思いながら、亜栖葉の話を聞く

 

「飛鳥はね貴方のことを嬉しそうに話すのよ…凄い人がいる…優しくて怒ると怖いし、なんだか茜にも似てるけど…またベクトルが違って…その上手くいえないけど…なんだか憧れる…僕も…あんな風に…僕の心を救ってくれたように、誰かを救えたら…って言ってたわよ?昔布団の中で私に甘えてずっと言ってた、僕のこの力で誰かの救世主になりたいって夢を思い出したかのように話していたわ…」

 

 唯はこの話を聞いて、驚きと同時に、自分を勧誘してきたときの飛鳥の言葉を思い出していた

 昔憧れていた救世主

 飛鳥は確かにそういっていた

 唯は自分では大したことをしていなかった…そう思っていたのだが、飛鳥に大きな影響を与えていた

 

「でも私は…こんなにも弱い…」

「そう?」

 

 唯の弱気な言葉を遮り、亜栖葉はまた優しく頭を撫で、ゆっくりと抱きしめる

 

「誰かのために涙を流せる…それは優しくて強い人の証よ…誰かのために動くことが出来るそんな人じゃないと、誰かのために涙を流すことが出来ないわ…それに詳しくは聞いてないけど、長い間辛いことを一人で抱えてきたんでしょ?そろそろ、誰かに甘えてもいいと思うわ…それでも躊躇してしまうなら…今回飛鳥がリストカットした償いとして、飛鳥のそばに居なさい…それが私への償いでいいわ…」

 

 そして、唯にニコッと笑みを浮かべる亜栖葉

 唯は亜栖葉の表情からメッセージを感じることが出来た

 それはまるで、世話のかかる弟だけど、よろしく頼むわね?といっているような優しい姉のような表情だった

 

 唯は自然と涙が流れ…

 

「はい…私が…飛鳥を守ります…飛鳥の憧れであれるようすべてを…」

 

 飛鳥のことを守ると亜栖葉に誓った

 実際に直面しないとどうなるかはわからない

 それでも、飛鳥と出会った時、少しだけ一歩踏み出したことで自分の世界は変わった

 だからこそ、一歩でも踏み出さないとわからない…

 唯は少しだけ不安を覚えたが、自分に活を入れるために両手で頬を叩き、しっかりとした眼差しで立ち上がった

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 そして、舞踏会当日

 午前中は授業があり、昼休みが終われば舞踏会の準備が行われる

 衣装選びから、今回の舞踏会の説明などが行われる

 そして、学園の近くにある多目的ホールを貸切、舞踏会は開かれた

 学園近くには二つホールがあり、飛鳥がいるホールでは1~3学年がいる

 ホールの外では前もって誘っていた人や現地でダンスをする相手を探している人がたくさんいた

 勿論飛鳥のダンスの相手は決まっているが、ドキドキが止まらない

 学校から借りたものとは言え、似合わないし慣れないタキシードを着て玲羅以外の女性を待つ…それが飛鳥としてはどうにも落ち着かない…

 

 それだけではなく、この舞踏会で飛鳥は任務がある

 自分と唯に降りかかる災厄を振り払うということ

 最初の関門はクリアした

 飛鳥は来たとき、少し席を離した隙に、タキシードをビリビリに破かれていた

 あのボウズの男が胴体だけではなく、怒りから顔面を殴り打撲の痕と傷を作った時点で周りにはばれる…実際あれから、授業に復帰したとき、飛鳥を見る目はいつものあざけるような笑いは無かった…むしろ可哀想という同情の視線が多かった

 この時点で学園の誰かが飛鳥に同情して、教師に報告するというリスクはあるが、周りを気にする必要はなくなり、飛鳥や千尋たちの予想ではあるが、不良やボウズの男の恐怖の力でクラスの人間を抱き込めば、嫌がらせの幅は広がる

 実際、ボウズの男は飛鳥とは違うクラスの生徒、トイレに行くために少しの時間しかはなれていないのに、飛鳥の一着目のタキシードが破られていたのは既にクラスの誰かが抱きこまれているという証拠でもある

 

 飛鳥は大きく深呼吸をし、今回の作戦を成功させるためのキーポイントは不良を使うボウズの男を引き出すことと、黒炎のチームのリーダーでもある女上級生を引きずり出すこと

 

 黒炎のマントをしていたということで、教師陣により、チームの全容は把握しているチームの人数は三人、戦闘任務を受けるようにしていたが、戦闘任務を受けている形跡はなく、ただ、ミッションメイトルームを溜まり場として利用しているようだ

 だからこそ、飛鳥のことをミッションメイト校舎で襲うこともできるし、入出も行うことは出来る

 

 メンバーの全容は一つの不良チームのリーダーのボウズの男とその補佐、そして、それを操る女上級生…

 千尋たちと立てた作戦では、必ずホールへ入場するまでは三人でまずは行動するということ、入出後、飛鳥は着替えはかならず教師陣の使う更衣室の中でする

 着替えが終わると絶対に教師がいるところで唯、玲羅の二人を待つ

 だからこそ、飛鳥は着替えが既に終わっている鉄夫や千尋、美琴のいる場所で待機している

 普通に隣にいるのでは今回の作戦が上手くいかないということも考慮して、三人からは少し離れたところで待機している

 鉄夫、千尋、美琴の三人の視界にあり、いても目立たない場所

 ホール入り口近くの壁にもたれかかり、鉄夫たちが他の生徒たちを注意しているところを眺めていた

 

 そうしていると…

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」

 

 男子たちの歓声が聞こえ、そちらの方を見ると、いつもと違い髪を後ろでまとめ、バレッタで留めている青のパーティドレス姿のいつもより大人の色気がある唯といつもと違い髪を降ろして、飛鳥視点として大人の色気が出ている黒のパーティドレスを着た玲羅の姿が視界に入ってきた

 確かに歓声を上げるのはわかる…二人とも美人の中でも上のランクであり、飛鳥が玲羅から聞いている限りでも、在学中でもう既に20回は告白を受けているとのこと…全部断っているらしいが…

 

 そんな二人が飛鳥のところに到着すると同時に、男子たちの歓喜の視線が、飛鳥に向かっての殺意へと変化し、飛鳥はどうにも別の意味で落ち着かなくなる

 

「えと…二人とも似合ってるよ」

 

 飛鳥も二人と面と向かって会うと落ち着かなくなり、はにかんだ笑みを浮かべながら、二人の衣装を褒める

 そんな飛鳥の姿を見て、どうやら唯は今抱きしめたくてウズウズしているんだろうなということを隣にいる玲羅は察したのか、呆れた表情を浮かべながら唯の手を掴む

 

「ありがとう飛鳥…飛鳥は…………似合ってないね…」

「玲羅……」

 

 そして、玲羅からの上から下まで飛鳥のタキシード姿を見て、いつものクールな眼差しで、はっきりと似合ってないという

 飛鳥は思わず玲羅の名前を呟いてから、心の底からげんなりし、落ち込む

 自分でも自覚している分、女の子から言われたときはダメージがデカイ

 まぁ簡単に言うと、可愛い女の子が男の格好をしているというのが今の飛鳥の姿を説明する言葉に適しているだろう

 

「そんなことありませんよ?タキシード姿の飛鳥も…似合ってます♪」

 

 唯…その間は何?

 と飛鳥は少し思いながら、苦笑いを浮かべている唯の姿を見て、本気で思っていないんだろうな…と思っていると…

 

「じゃあ今から扉の近くにいる人間から入場していけ」

 

 鉄夫が先導し、入場していく中、飛鳥は唯に手を差し伸べ…

 

「こんな僕だけど…今日はよろしくお願いします…」

 

 飛鳥は卑屈なダンスの誘いの言葉を言う

 唯と玲羅は弄りすぎたかと思いつつ、唯は飛鳥の手を掴み、まるで姫がダンスを受けるようにスカートを掴み、頭を下げる

 

「こちらこそよろしくお願いします飛鳥♪」

 

 そして、互いに身だしなみをちゃんと確認してから、手を握ったままホールへと入場する

 玲羅は飛鳥が入場し後、振り返ると遠目から気に入らないという眼差しをするタキシード姿の写真で昨日確認したボウズの男が立っている事に気付いた

 視線で千尋に合図を送ると、千尋はコクリと頷き、冷めた冷たい表情へと変化した玲羅は一直線にそのボウズの男の方へと歩みを進める…

 

「飛鳥を痛めつけたお礼はさせてもらう…」

 

 

 

 

 

 

「あの…すみません…」

「あん?」

 

 玲羅はボウズの男に話しかけると最初は怪訝な表情を浮かべていたボウズの男の表情はだんだん下心を隠している笑みに浮かべる

 玲羅はそんな表情を見ても、ニッコリと笑みを浮かべる

 

「どうしたんだ白銀?水樹とは一緒にいねぇのか?」

「あんな奴…私にとって御荷物よ…本当は…貴方みたいな強い人間が私は好きなの…」

 

 そして、艶やかな表情へと変化し、ボウズの男の手を握り、頬に手をあてる

 そんな姿を見て、興奮してきたボウズの男は玲羅の肩を抱き…

 

「そりゃ間違いねェや…白銀?お前は偉い選択をしたぜ?俺がずっと飼ってやるから覚悟しとけよ?」

「ふふ…はぁ~い♡」

 

 下衆な言葉を言って、会場の中へと玲羅と一緒に入っていく

 でも…

 

「あの…その…私…貴方と二人きりで踊りたいです…」

 

 頬を紅潮させた玲羅が恥ずかしげにボウズの男に懇願するが、先ほどから玲羅の胸とお尻にしか視線が言っていないボウズの男は、下衆な笑顔のまま…

 

「まぁまて…まずは水樹の野郎に幼馴染をとってやったという絶望を与えないとな…うちのリーダーがあの野郎にご立腹で、自殺するまで追い込めとのことだからな…それには俺も賛成だ…これだけエロい幼馴染とあんな上級生の中でもトップクラスの美人と一緒にいるんだ…ホントムカつくぜ…」

 

 玲羅を抱き寄せたまま、会場の前の方にいる飛鳥の方へと歩みを進める

 楽しそうに唯と談笑しながら、曲が始まるのを待つ飛鳥

 そして…

 

「残念だったなぁ水樹…お前の幼馴染は俺がいただいたぜ?」

「えっ…」

 

 ボウズの男は玲羅を抱き寄せたまま、飛鳥に声をかける

 飛鳥はボウズの男にウットリした眼差しをしている玲羅の姿をみて確かなショックを受けていた

 

「そんな…玲羅!!!!僕と唯のために協力してくれるはずじゃ…」

「そんなわけ無いでしょ…あんたみたいなさえない男とも思えない男とそんなクソ女のために…」

「玲羅…」

 

 ショックを受けている飛鳥と唯の姿を見て、玲羅は冷めた眼差しのまま、鼻で笑い、ボウズの男の頬にキスをする

 

「おいおい玲羅、人前だぜ?そんなに我慢できねぇのか?エロい女だぜ…」

 

 そして、答えるように玲羅の唇にキスをする坊主の男…

 それを見ていた飛鳥は涙を浮かべ、崩れ落ちるように座り込み、絶望する

 そんな飛鳥を慰めるように唯は座り込み、玲羅の姿を睨みつける

 二人の姿を見たボウズの男は、絶望した飛鳥を蹴りつけながら…

 

「クハハハハハハハハハハッ!!!!!ほらみろ!!!!お前なんかがこうやって暴力を受けてもまわりは気にしねぇんだよ!!!!!前に殴ってくれたお礼は今させてもらうぜ!!!!!倍返しがモットーでな!!!!!!」

 

 まわりの生徒たち教師達が黙ってみている中、顔面血だらけの飛鳥を見て狂喜に近い笑いを浮かべ叫ぶ

 だが…

 

「もう限界…」

 

 隣にいたはずの玲羅の声が背後から聞こえ、ボウズの男から笑顔が消える

 周りの景色が蜃気楼のように揺らぎ、景色が変わる

 そこはホールとは思えない小さな部屋

 目の前にいたはずの飛鳥と唯の姿もなく、大勢の生徒、教師もいない

 そして…

 

「アンタみたいなクソヤロウに惚れるわけないじゃない…よく見ると猿のようなゴリラのような不細工だし、有り得ない…お礼をするのはこっち…なんせ私の大切な幼馴染である飛鳥にあんな目に合わしたのだから…」

 

 隣にいたはずの玲羅が真後ろにいて、隣にいてウットリしていたはずなのに、冷めた眼差しで殺気を全身から出している姿がそこにはあった…

 

「な…何故だコラ!!!!!!!!!!?」

「アンタめんどくさいわ…」

「グアッ!!!!?」

 

 そして、気付くと間合いを詰められ、ボウズの男は動揺している中、玲羅に顔面を蹴り飛ばされ、地面に倒れる

 女子の蹴りにしては重く、思ったよりもダメージを受けたボウズの男は完全に頭に血が上り…

 

「クソが!!!!調子にのんじゃねぇぞ玲羅!!!!!!!」

 

 ボウズの男は玲羅に殴りかかる

 身体能力強化系の能力を持っているのか、飛鳥を蹴っていたときよりも間違いなく威力が乗り、拳を繰り出すスピードも上がっている

 だが、玲羅は完全に紙一重で見切り、片手で掴むと相手の力を利用して、足払いをし、投げとばす

 

「アンタに玲羅って言われたくない…言っていいのは家族と仲間である唯と…私の大切な人…飛鳥だけよ…」

 

 身体強化の能力のおかげか、ボウズの男はそれほどダメージを受けていないのか、ゆっくりと立ち上がり不敵な笑みを浮かべる

 

「いいのかよ…このまま俺が騒いで教師に知られればお前はただじゃすまねぇぜ!!!!?それでもやんなら好きにやれよ…」

 

 確かにそうだ…

 確かな証拠がなければ、玲羅は逆に他の生徒をいじめたというレッテルを貼られる

 停学で済めばいいが、ほとんどは退学となるだろう

 ボウズの男は卑怯にもそれを武器として使おうとしていた…だが…

 

「いいよ…飛鳥のためなら私は退学してもいい…」

「なっ…」

 

 ボウズの男は絶句してしまう

 確かに迷いはなく玲羅ははっきりと退学になっていいと答えた

 

「それが最大の武器なんだろうけど…私には効かない…10倍返しで行く…」

 

 そして、動揺して座り込むボウズの男に向かって、冷めた眼差しのまま近づき、思い切り殴り飛ばそうとしたが、ボウズの男に当たるか当たらないかスレスレのところで止まる

 ボウズの男は冷や汗を掻いたまま何が起こったのか理解できず、目の前で怪訝な表情のまま隣を見る玲羅の姿を見たのと、隣が蜃気楼が揺れ消えるように何も無い空間から、ウェーブの掛かった茶髪ロングヘアの眼鏡をかけた女性 千尋が現れ…

 

「玲羅…そろそろ教師として静止をかけるぞ…」

「千尋先生…ちゃんと録音した?」

 

 玲羅の腕を掴んだまま、コクリと頷いた

 玲羅はため息をつき…

 

「今度やったら私がアンタを追い詰めるから…」

 

 最後にボウズの男に脅し文句を言うと、千尋から解放され、部屋を出て行こうとする

 だが…

 

「くっ…ふふふ…」

 

 ボウズの男は千尋に拘束されるなか笑いを漏らす

 玲羅は聞きたくない…と思いながら部屋を出て行こうとしたとき…

 

「あの現場に俺だけがいたと思ったら大違いだぜ…」

 

 不振な言葉を漏らしていた

 玲羅は範囲を限定して異能を発動させることは出来るが、今回はボウズの男を精神的にも追い詰めるため、ボウズの男限定でかけていた

 だからこそ、玲羅はボウズの男をこの部屋に誘いこむ中、他の生徒はクスクスとボウズの男を笑い辱める現状を作り出していた

 玲羅は必死に思考をめぐらせた時、もしあそこに黒炎チームのリーダーがいたら…

 

「千尋先生…私飛鳥のところに行く…」

 

 玲羅は扉を開き、勢いよく外に出るが…

 

「ちょっと待ってもらおうか…うちのリーダーをよくも辱めてくれたな…」

 

 もう一人の黒炎のメンバーが不良を引きつれ、部屋の前で待機していた

 玲羅は時計を確認すると既にパーティは始まっている時間…

 

「あぁ…めんどくさい!!!!!」

 

 玲羅は叫び、全力で異能を解放し、不良たちに異能を掛ける

 そして、玲羅の異能のせいでめちゃくちゃな方向に殴る蹴るを繰り出す不良たちをかいくぐり、パーティー会場へと急ぐ

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 その頃飛鳥は、事態が早まっていることに気付かず、緊張しながら唯と社交ダンスを踊っていた

 互いに手を握り、もう片方の手は相手の腰…

 社交ダンスの種類でいうワルツというもの

 あらかじめ、踊りはワルツだけで踊りたいときに踊って後は談笑しながら食事をするという交流を目的とするイベントであるということをホームルームで聞いていたため、飛鳥は姉の亜栖葉からワルツを叩き込まれ、今なんとか唯と踊れるまでの形にはなっていた

 

「飛鳥、上手いですね…ちょっと驚きました」

 

 ニコッと笑みを浮かべ見つめてくる唯に飛鳥は少し顔が紅潮し、俯きながら…

 

「姉さんに教えてもらったんだ…姉さん仕事でたまにやるみたいだから…」

 

 素直に男のプライドを捨てて、唯に話す

 唯は少し驚いた様子で

 

「亜栖葉さんって凄いんですね…どんなお仕事を?」

 

 亜栖葉のことを飛鳥に問いかける

 飛鳥は言っていいのかな…と少しだけ迷ったりもしたが、玲羅も知ってるし、唯は信用できるし大丈夫か…と思いつつ…

 

「亜栖葉姉さんアイドルなんだ…最近ちょっとずつ有名になってきたからレコーディングとかバラエティー番組とかでよく呼ばれてたりするんだけど…」

 

 飛鳥が唯に話すと、唯は一瞬思考が固まったのか、浮かべていた笑顔が固まり、冷や汗を流す

 飛鳥は昨日唯がまったく姉の顔を見ても反応していなかったのでまさかとは思っていた

 そう唯はまったく亜栖葉のことに気付いていなかったんだ

 

「はい…音楽番組とかで確かに見たことが…」

「まぁ仕事とリアルではキャラが違うし、本名でやってないから、気付かなくても仕方ないよ?」

 

 飛鳥は唯を慰めようと考えたが、多分唯の頭の中では今、怒り狂った亜栖葉が唯を追い詰めている映像が流れているのだろう

 気持ちはわかると飛鳥は思っていた

 何せ、アイドル活動を始めた亜栖葉が初めてテレビに出たとき、「この人可愛いけどなんか裏がありそう!あはは!!!」なんていった相手が亜栖葉であり、亜栖葉に面と向かっていったため、その後、チョークスリーパーから寝技に持っていかれ、マウントポジションに入りビンタの嵐が入ったという記憶が飛鳥の中であったのだ

 

「えと…昨日怒っていませんでしたか?」

 

 唯は少し怯えているような表情で飛鳥に問いかける

 そんな唯をみて少しおかしくなり、クスッと飛鳥は笑みを浮かべながら、首を横に振る

 

「むしろアンタには勿体無いお姉さんポジションの先輩って言ってたよ…」

 

 飛鳥はほんとにそう思う

 姉に説得されて、再起した唯の姿からは最初に感じた強さが飛鳥には伝わっていた

 だからこそ、今も再起できない飛鳥は素直に尊敬できた

 おしとやかで美人で可愛い…優しくて戦闘、心でも強さを持った先輩…

 飛鳥は正直今そんな人とワルツを踊れている…それが夢見たいでいつまでもこうしていたそう思っている

 

「そんな…勿体無いですよ…でも嬉しいです、存分に甘えていいですよ飛鳥?」

 

 だけどまぁ…面と向かってこういわれると甘えられないし、そんなことしたら、間違いなく周りの男子から殺意の眼差しで睨まれることがわかっている

 だからこそ…

 

「えと…それは無理かな…たぶん他の男子から殺される…」

 

 断る飛鳥

 なんせ今も踊っている現在、男子から殺意の眼差しを受け、口々に…

 『軌条先輩の腰を…』『軌条先輩と密着…』とか呪詛のように言われているのだ

 これで唯~とかいって飛鳥が唯に甘えでもしたら、たぶん黒炎とか関係なく、追い掛け回されることになるだろう

 

「それは残念です。膝枕くらいはしてあげようとは考えていたのですが…」

 

 飛鳥は心の中で悲鳴をあげる

 なんせホント魅力的な誘いであり、飛鳥は男としてはしてもらいたくて仕方がないことである

 だけどまぁ飛鳥は男子の殺意を振り切ってしてもらうなんて勇気もなく…

 

「あの…そのいいです…」

 

 断ってしまう

 唯はそんな飛鳥の姿を見て苦笑いを浮かべながら、静かに二人はワルツを踊り続ける

 だが…

 

「うああああああああああああああああああっ!!!!火事だ!!!!!!?」

 

 一人の生徒の叫び声が聞こえ、飛鳥と唯は声が聞こえた方向を見ると轟々と黒炎が燃え上がり、煙が上がっていた

 

「早く避難しろ!!!!各教師は生徒たちの避難誘導をしろ!!!」

 

 壇上に上がった鉄夫の叫びにより教師陣は生徒たちを外へと誘導していく

 飛鳥と唯も誘導されつつ、外へと出るために入り口に差し掛かったとき、飛鳥の視界に蛻の空となりつつあるホールの奥で一人赤のパーティドレス姿の上級生がこちらに向かって手を振ってくるのが見えた…

 飛鳥は唯に言うべきか…と考えたが…

 ホール全体に黒炎が広がり、炎のに遮られ、その上級生の姿が隠れた…

 それと同時に自分の中の勇気を最大に振り絞った

 飛鳥は近くにいた鉄夫に向かって…

 

「有馬先生!!!!唯をお願いします!!!!」

「えっ…飛鳥!!!?」

「水樹!!!!!」

 

 叫ぶと同時に、唯の悲痛な叫びと鉄夫の制止の声を無視し、飛鳥は人垣を掻き分け、炎の燃え盛るホールへと走る

 飛鳥はパイロキネシストでもあり、炎を全身に纏うことが出来るため、炎への耐性があり、長時間炎に当たらない限り焼死することは無い

 背後から飛鳥を追いかけようとする唯の手を掴み、無理矢理外に出す鉄夫

 そんな姿を飛鳥は確認すると前をしっかりと向き、大きく深呼吸する

 

 飛鳥は黒炎の障壁を抜けるため、全身に炎を纏い黒炎の障壁に体当たりする

 全身に纏った炎が黒炎と相殺し、黒炎の障壁を抜け、中に入る…

 そこで見たのは黒炎燃え盛る中、満面の笑みを浮かべるあの上級生の姿、飛鳥は少しだけ燃えたタキシードの袖の炎を払い消すと、しっかりその上級生の顔を見据える

 

「やっと顔をだしてくれましたね…」

「あら、私と踊る?」

 

 飛鳥の問いかけにおどけるように笑う上級生の姿に飛鳥は…

 

「ご冗談を…貴方より唯と踊った方が幸せですよ…」

 

 真剣な表情で断る

 それを見た上級生はため息をつき…

 

「そこまでご執心とは…呆れたものね…」

 

 呆れた表情を浮かべながら、飛鳥と距離を素早くつめて、飛鳥の黒炎を纏った手で飛鳥の首元を掴もうとしたが、さすがに危ないと判断した飛鳥はギリギリで回避し、上級生と距離をとるために後ろに下がる

 だが、どんどん壁の方へ追いやるように、上級生の怒涛の攻めを回避しながら、気付くと壁に追いやられていた

 

「もう終わりよ…あの死神を恨んで死ぬことね…ここで貴方が燃え滓となれば…私が殺したことはわからない…ふふふ…バイバイ…」

 

 炎の火力がさっきより増し、たとえ同系統の能力とはいえ、くらい続ければダメージを受けるのは必至

 飛鳥は大きく深呼吸をし…

 

「さすがにそれは出来ませんよ…新垣先輩!!」

 

 飛鳥は残り少ない異能力を使いきり、全力で炎を腕に纏い、相手の炎よりも凌駕した火力で、相手の腕を掴み、火力勝負にでる

 自分の名前を呼ばれたことに少し動揺した上級生は黒炎を消してしまい、飛鳥の異能によるダメージを受けて、飛鳥の掴んでいる手を振り払い距離をとった

 

「新垣絵里華先輩…唯の前パートナー、新垣千鶴さんの妹さん…ですよね…」

 

 飛鳥の問いかけに上級生 新垣絵里華の表情が一転し、何の感情も無い無表情に変化する

 自分の腕に出来た小さい軽度の火傷の跡を見てから、飛鳥に視線を向ける

 

「黒炎のマントという情報から、貴方のこと千尋先生に調べてもらいました…それに貴方のやってきたことも知っています…うちのチームには隠密に適している人がいるんで…」

 

 千尋の教師としての情報と玲羅の能力【イリュージョン】により、ボウズの男からすべての情報を得た

 だからこそ、チームのリーダーが絵里華であるということを飛鳥は知り、今回全員に内緒で今回みたいな燃え盛る中でというのは予想外だったが、どうにかして一対一で決着をつけるつもりだった

 絵里華と唯は面識があるということはその時点で理解し、親友だった千鶴の妹と戦わせるのは酷だと思っての決断

 

「そう…うちのメンバーがおかしな行動に出たのはあの背後にいた赤髪の女のせいか…思ったよりは手強いわねあんた達…」

 

 無表情のままブツブツと自分か今まで感じてきたであろう疑問を納得させていく

 そして、飛鳥の方へゆっくりと歩みを進め始め…

 

「もう…終わりにしませんか?新垣先輩…先生たちに自首して今回の出来事を償ってください…自首して態度を改めればグッ!!!!?」

 

 飛鳥は何とか説得しようとしたが、目の前まで来て鋭い憎しみに満ちた眼光で飛鳥を睨み、異能も発動せずに飛鳥の首を掴み

 

「終わらせられるわけが無いじゃない…絶対に復讐するわ…なんとしてもあの女を殺す!!!!!姉さんは…姉さんは唯一の肉親だったのに!!!!!?」

「アグッ!!!!!!!?」

 

 激しい憎しみを飛鳥にぶつける、そのまま足払いをし、床に飛鳥の体を床に叩きつけるとマウントをとり、そのまま飛鳥の顔面を何度も何度も憎しみの力で強く殴りつける

 飛鳥は女性とは思えない力に動揺しながらも、何とか打開策を考えようとする

 だが、炎に耐性があるとはいえ、飛鳥は首を絞められていることにより、絵里華よりも酸素を必要となったことにより煙を吸い、意識が朦朧としてきている

 

「あはははははははっ!!!!でもその前にお前を殺すわ!!!!!!!」

 

 そして、憎しみで頭の中がぐちゃぐちゃの絵里華は何度も何度も飛鳥の顔を殴りながら高笑いをあげる

 それを見ていた飛鳥は何とかこの人を救いたい…そう思ってももう異能力は使い果たして、意識も朦朧としてきている

 どうしたらいい…自分にそう問いただす飛鳥…

 悔しそうな表情を浮かべている飛鳥を見て、絵里華は狂喜に近い笑みへと変化し、最後の一撃を与えようとしたとき…

 

「なっ!!!!?」

 

 意識が朦朧としている中飛鳥が見たのは、さっきまで黒炎燃え盛っていた炎が一瞬にして沈下し、あたりは白銀の世界へと変わっていた

 つまりは当たりか氷漬けとなり、次の瞬間、風が吹き荒れ、氷が砕かれる

 倒れている中、次に飛鳥の視界に入ってきたのは、扉の近くで待機する水色の長い髪をポニーテールにした女性と茶髪ショートボブヘアの男、そして…

 

「絵里華…私の大切な仲間に手を出したこと…絶対に償わせます…」

 

 怒りを露にした唯の姿が視界に入ってきた

 そして、唯は歩きから早歩き…早歩きから走りへと変わり、絵里華に近づくと絵里華も見切れないほどの鋭い唯の蹴りが絵里華の胴体を捉え…

 

「キャッ!!!!!!?」

「退いてください…」

 

 絵里華を蹴り飛ばし、絵里華は何度か地面を転がり倒れる

 唯は倒れている飛鳥を見て、寝かせたまま、気道確保し…

 

「んっ…」

 

 自分の唇を飛鳥の唇に重ね、飛鳥の体内に空気を送り込む

 つまり人工呼吸を始める

 飛鳥の朦朧としていた意識は巻き起こった風に運ばれてきた新鮮な空気と唯によって体内に直接送り込まれた空気で一気に晴れ…

 

「んんっ!!!!!!?///////」

 

 飛鳥の顔は茹蛸のように真っ赤になる

 ただの人工呼吸とはいえ、飛鳥は初キスを上級美人の唯としたのだ、戦いのことを忘れ、頭の中がテンパってしまう…

 だが…

 

「玲羅…飛鳥をよろしくお願いします…後で一緒にお仕置きしましょう…」

「わかった…」

 

 気付くと蜃気楼が消えるように背後の誰もいない空間が揺らぎ、鋭い眼光で睨んでくる玲羅の姿が飛鳥の視界に入り、一気にテンパリが消え、サーっと血の気が引いた

 飛鳥は玲羅に膝枕をしてもらいながらも、つり目だがいつもよりも遥かに眼光が鋭い玲羅に睨まれながら、唯が決着をつけるのを見届けないといけない…誰かに助けようと扉の方を見るがポニーテールの女性は興味なさげで、茶髪ショートボブヘアの男は手を振りながら満面の笑み

 まったく助ける気は無いらしい…

 

「やっぱり…やっぱりそうだ…アンタは姉さんのことなんかよりその男を選んだ!!!!!あはは!!!使い古した餌はもういらないってことよね!!!?死神らしくただ自分の糧にするだけよねぇ!!!!」

 

 飛鳥がそんなことを考えていると、気付くと絵里華は立ち上がり、高笑いを上げ、唯を見据え、罵声を浴びせる

 だが、唯はものともしない、いつもと違う怒りに満ちた表情のまま…

 

「今の貴方に私がどれだけ千鶴を大切に思っているか…飛鳥を…玲羅を…千尋先生を…王斬を…仲間たちをどれだけ大切にしているを言っても伝わるとは思っていません…だから今は…」

 

 唯はしっかりと絵里華を見据え…

 

「貴方を捕まえることだけを考えます…」

 

 しっかりと自分の目的を絵里華に伝える

 絵里華はブレない唯の姿を見て、舌打ちをし、両手に黒炎を纏うと唯に向かって突貫する

 憎しみの力を糧に絵里華は炎を纏った拳を唯の顔面向けて繰り出す

 だが、唯は冷静にそれを見切り、少ない動作で回避する

 飛鳥はそれを見て、自分と唯の身体能力の差を思い知る

 飛鳥は気付くと壁に追い込まれていたのだが、唯は少ない動作だけで絵里華の繰り出す炎を纏った拳の連撃をその場から動かずに回避をしている

 

「なんで!!!!アンタみたいな腐った人間なんかに!!!!!?」

「そっくりそのまま返しますよ…貴方みたいに憎しみに囚われて他人の命を軽く見る貴方になんか負けませんよ…」

 

 苛立ちを表情に浮かべる絵里華と冷静に対処する唯

 絵里華は怒りが頂点へとのぼり、黒炎を纏うだけではなく、黒炎を放出し、唯に向けて飛ばす

 唯は入り口に立つ水色の長い髪をポニーテールにした女性の方を見て、視線で合図を送ってから、唯は放出された黒炎を気にせず回避し、引火した炎は水色ポニーテールの女性が次々に鎮火していく

 

「もう満足ですか?絵里華…」

「クソ!!!!!クソクソクソクソクソクソ!!!!!!!!!」

 

 絵里華はやけくそになり、放出するのをやめて一直線の動きで異能を纏わず、唯に殴りかかったが、唯はそれを待っていた…という風にちゃんと見切り、左手で絵里華の腕を掴むとそのまま背負い投げをし、地面に叩きつけ、タイミングよく茶髪ショートボブヘアの男から投げられた手錠を掴み…

 

「貴方を拘束します…絵里華…」

 

 異能の発動を制限する昨日をもった手錠で絵里華を拘束した

 その瞬間、また蜃気楼が消えるように何も無い空間が揺らぎ、鉄夫、千尋、美琴の三人が姿を現す

 それを見ていた絵里華は絶句し…

 

「この女は…私の姉を…」

 

 まるで助けを求めるように鉄夫、千尋、美琴を順に絵里華は見るが、千尋が絵里華に近寄り

 

「私は唯と千鶴の担当教官の変わりにあの時見ていた…唯が殺したわけじゃない…むしろ唯は助けようとしていた…任務失敗となるのをいとわず、千鶴を抱えたまま病院へと走り、自分も重症なのにな…」

 

 現場を見ていた千尋が絵里華にその時の状況を説明する

 だが…

 

「嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だ!!!!!!?嘘だァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 絵里華は狂ったように発狂し、暴れる

 そんな絵里華を鉄夫が立たせ、出入り口の方へと歩みを進める、美琴も鉄夫と一緒に絵里華の体を支え、歩き始める

 

 飛鳥は最後の結末を見届けると、あることに気付く

 

「では帰りましょうか…飛鳥、玲羅…千尋先生…」

 

 だが、飛鳥は唯に声をかけようとしたが、唯が先に話し始め、飛鳥は立ち上がると、玲羅も立ち上がり、唯と千尋と一緒に学校へと戻ることにした

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 学校の帰り道

 飛鳥の代わりにことのてん末を聞くということで玲羅は学校に残り、今回の功労者でもある飛鳥と唯の二人は先に帰された

 帰り道は二人とも無言で、静かな夜に響き渡る風の音しか聞こえなかった

 

 飛鳥は少し気まずいと思いながらも、必死に朦朧とした意識の中で迫ってきた唯の顔が頭の中から離れず、唯の顔を直視できない

 そう…アレはただ人命救助のためのキスで…キスであってキスじゃない…

 そうただの人工呼吸!!

 と飛鳥は必死に自分に言い聞かせるが、頭の中から唯の顔が離れない

 目を閉じて、優しい誰かを想うキス

 女性関係に慣れていない飛鳥としては今回のイベントは強烈で忘れられない

 

『あぅ…気まずい…』

 

 飛鳥がそんなことを考えている中唯も…

 

『あれは人工呼吸です…アレは人工呼吸です…』

 

 異性とキスをした事が無い唯もずっと自分にそうやって言い聞かせていた

 あの時は一生懸命飛鳥が煙を吸いすぎて意識が朦朧としていたところを助けるために、無我夢中で人工呼吸を行った…唯としてはそれだけなのだが、ドキドキが止まらなく

 飛鳥の隣を歩いているだけで落ち着かないのだ

 

 だが、飛鳥は自分の欲求を振り払い言うことがあった

 

「あ…あのさ…唯…」

「は…はははい!!!」

 

 飛鳥のちょっと戸惑った小声に、いつもはおしとやかで笑顔が似合う唯は少しテンパリながら返事をし、互いに立ち止まり、見詰め合う

 飛鳥の顔は真っ赤で唯の顔も真っ赤…

 まるで恋人同士のような見つめあいだが、飛鳥は首を何度も横に振り…

 

「あのさ…今日いろいろあったしこのまま帰ったら唯一人で辛いだろうし…報告が終わったら玲羅も家に呼ぶから…来ない?」

 

 舞踏会の最後の結末のときに気づいたこと、それは絵里華が連行されるとき、涙を流していたこと

 だからこそ、気を紛らわせるためにも飛鳥は遊びに来ないかと誘いをしたのだが、テンパっている唯は大きく目を見開き気が動転する

 

「あわあわわわわわわわわわわわっ!!!!?」

 

 飛鳥がいつも言っている気が動転しているときにあげる声を唯があげている

 実に珍しくレアケース

 今の状況を飛鳥は写メに収めたいと思いつつも、その欲求を押さえ込み

 

「そういう意味じゃないから!!!ただ友達として遊びに来ないかってこと!!!玲羅もいるんだし!!!!」

 

 全力で否定するすると、どんどん唯の表情が真顔へと変わり、どんどんあの怖い黒い笑顔へと変わっていく…

 なんでそうなるのかは飛鳥は理解できないが、冷や汗が流れる

 

「わかりました…では飛鳥の家にお邪魔させていただきます。ちょうど明日休みですし、交流を深めるために御泊り会でもしましょうか?」

「ウニャッ!!!!?」

 

 そして、黒い笑みを浮かべたまま、唯はとんでもないことを言ってきた

 飛鳥は思わず変な奇声を上げて固まってしまう

 玲羅はいい…玲羅は昔からたまに泊まっていてある部分以外は慣れている…だが…

 

「えと!!!?親御さんが心配するんじゃないですか!!?」

 

 漫画であった女性のお泊りの誘いを断るフィニッシュブローを飛鳥は全力でぶつけてみる

 

「大丈夫ですよ、今からチームメイトと御泊り会をしますとお母さんに送ります。ちゃんと保護者もいらっしゃいますのでといいましょう…勿論玲羅に千尋先生も誘ってくださいとお願いします…そして、貴方が亜栖葉さんにチームメイトと先生で御泊り会をしますと送れば…万事解決です♪」

 

 だが、飛鳥のフィニッシュブローは完全に無効化される

 そういえば漫画でもこの方法は毎回打ち砕かれていたような気がした

 そして、飛鳥はメールを打ち始めた唯と唯の黒い笑顔に負けて、亜栖葉に御泊り会を開くというメールを送った

 飛鳥はメールを送り終わると、携帯電話をポケットにしまい、飛鳥の家に向けて二人は歩き始めた

 

 さっきまでのドキドキは互いに吹き飛んだのか、今は普通の表情、普通の態度で歩いている

 飛鳥はやっぱり唯には敵わないと思いながらも、パーティでの唯の戦う姿、起こっているあの黒い笑みを浮かべる姿、初めて見たテンパる姿、おしとやかで優しい姿…そのすべてをひっくるめて、飛鳥は憧れを心の底から抱いた

 飛鳥はいつか…この人をちゃんと守れるようになりたい…守られているだけじゃなく…

 そう思っていると…

 

「飛鳥…今日はありがとうございます…貴方のおかげで…踏ん切りがつきました…私や玲羅には力がありますが、貴方には心の力があります…私たちが組めば最強ですよ、いいですか?」

 

 まるで心を見透かしたように、いつものおしとやかな笑みを浮かべた唯がそこにいて、飛鳥の心を癒していく

 誰かを守るための力を得ることはやめないが、先を走っていると思っていた唯と玲羅の二人と並んでいいんだ…と飛鳥は安心して、大きく深呼吸をして、流れそうになる涙を堪え…

 

「うん…わかった…」

 

 飛鳥は唯の問いかけに頷いた

 そして、唯と飛鳥は飛鳥の家へと気兼ねなく談笑しながら、向かった

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 新垣絵里華の末路

 それは、重いものだった…

 録音していたボウズの男の発言が決め手となり、放火の罪と人を使っての殺人未遂

 それにより、学校で確保していた身柄は、スキルアレスト…異能者の教育収容施設へと収容されることとなった

 外界とは隔離された地下世界

 最新テクノロジーで作り上げられた場所で、普通に進入することも脱獄することも不可能

 異能を使っても相当な上位能力者…最強シリーズでもあるヴェルトやエヴォリューションを持っていない限り、脱獄は無理だと言われている

 

 スキルアレスト職員が今、絵里華を護送していた

 絵里華を護送するために、職人四人がかりで護送をしている

 ワンボックスカータイプの小型護送車…スモークフィルムがちゃんと張ってあり、フロントから見えないようにカーテンを運転席、助手席と後部座席の方にある監獄スペースの間にしてあり、誰を護送しているかはわからないようになっていた

 

 運転手も助手席に座る助手も、監獄スペースにいる絵里華を監視している職員二人も、いつもどおり気を引き締めて仕事をしていた

 だが…

 

「っ!!!!!!!!!」

 

 運転していた職員は急ブレーキをかけ、止まる

 走っていた道路は人気も少なく通る車も少ない…だが、人気が少ないというかいなかったはずなのに、目の前には一人の少女が立っていた

 どこかの令嬢を思わせる綺麗なゴシックドレスを着た少女

 髪は長い金髪でアイスブルーの瞳

 つり目気味で雰囲気はどこか高圧的…そしてニコッと彼女が笑みを浮かべた瞬間…

 

「「「「グアッ!!!?」」」」

 

 職員は四人とも気絶…

 そして…

 

「?」

 

 絵里華を拘束していた檻の鍵と手錠が何かがはじけるように壊された

 絵里華は恐る恐る外へ出ると…

 

「なかなか面白い茶番だった…まぁ3流といったところだが…おかげで面白い物が見つかった…そこだけは感謝する…」

 

 高圧的な口調で絵里華に話しかけてくる金髪の少女の姿が視界に入ってきた

 絵里華は警戒しようとしたが、まるで誰かに制御されているかのように、気付くと彼女に跪いていた

 

「これからも私が飼ってやる…いいな?」

「は…はい…」

「よろしい…」

 

 そして、金髪の少女が踵を返し、歩き始めると、意思とは関係なく、絵里華も彼女に付き従うように歩き始める

 

「やっと再び暇つぶしが出来る…あの時の借りは帰すぞ…飛鳥…」

 

 金髪の少女は袖を捲り、自分の腕にある重度の火傷の跡を見つめ、狂喜に近い笑みを浮かべながら、真っ直ぐ前を見据え、まるで支配者が支配する町を悠々と歩くように車道の真ん中を絵里華を付き従え、前に進む

 闇の道を歩く支配者のように…

 

 

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ