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Salvation!  作者: フォルネウス
第一章 かけがえのない仲間
3/10

2話 新たなる始まり

 

 その日飛鳥は、スキルネイチャースクールに通い始めて、初めてルンルン気分で登校していた

 なぜなら、チームは無事設立されたが、活動が開始されるのは一週間後、チームの刺繍が出来、戦闘任務を受ける人間だけが許される特権と言ってもいい、活動部屋の取得、顧問の決まりなどが完全に決まってから開始される

 そして、その三つが今日揃った…

 設立から一週間、飛鳥は待ちに待ったときだった

 

 放課後になり、飛鳥は帰りのHRで千尋に渡されたミッションメイト校舎の地図を渡され、ミッションメイト校舎へと向かった

 ミッションメイト校舎は各学年校舎のある場所より学校の敷地内をもっと奥に向かわないといけない

 ドーム三つ分の広大な敷地を誇るスキルネイチャースクール

 飛鳥は行くことがなかった、学年校舎を抜けて、並木道の歩いた先にある三本の分かれ道を左に向かう

 真っ直ぐ行けば異能デュエルスタジアム

 右に行けば医療センター

 左に行けば今回の目的地でもあるミッションメイト校舎へと到着する

 概観は研究所…に近いものがある

 前もって受けた千尋の説明によるとミッションメイト校舎には、数多くの開発された武器や戦闘ミッションの際に使われる異能が発達してきたことにより開発された通信器具から増幅器まで数々のアイテムが保管されている、要するに研究室もかねていることにもなる

 原則として、研究者は親の同意と本人の同意がなければ、研究の申し出をすることが出来ない

 だからこそ、学年の生徒を使っての実験は滅多に起こることはない

 珍しい能力が生まれない限りは…


 到着するとまずしないといけないこと…

 ミッションメイト校舎の入り口にはセキュリティーロックが掛かっており、認証をしないといけない

 扉の横にセキュリティーリーダーがあり、そこにカードキー、入学と同時にもらえるカードキーをスキャンし、指紋認証と異能認証をしないといけない…ただし、入学当初はここにアクセスする権限がなく、ここに認証できるようになるには教師側からチームを組んだというデータ登録と担当教師名が必要となる

 

「えと…指紋認証と異能認証…」

 

 飛鳥は指紋認証用のスキャナーに手の平を合わせるとロック解除とセキュリティーリーダーの上にあるモニターに表示される

 次は異能認証…ということで飛鳥の頭上、天井が開き、円形のスキャナーから緑色の光の波が発せられ、飛鳥は手に炎を灯すと指紋認証で認証と出ていたモニターには異能認証ロック解除という文字が浮かび、消えると、飛鳥の写真と名前、所属クラス、チーム名、担当教師 森嶋千尋と表示され、扉は自動で開いた

 

「なんだか緊張するな…」

 

 飛鳥は一人緊張しながら、中へと入る

 すると、学年校舎とはまた違う感覚に驚いた

 学園校舎みたいに学校という雰囲気ではなく、白を基調とした清潔感溢れる研究所としか思えない場所

 飛鳥は帰りのHRで千尋から受けた説明の通り、受付へと向かい…

 

「あの…チームSalvationの水樹飛鳥です、認証IDはM732132です」

 

 チーム名、自分の名前、認証IDを受付に伝えるとニコッと営業スマイルを浮かべるピンク色の長い髪をポニーテールにした白衣の女性から部屋のロック解除のカードキーをもらえる

 今回は初めてということもあり、受付をしないといけないとのことで、今回の受付を終えるとミッションメイト校舎内をセキュリティーレベル設定され管理されている場所以外は自由に移動可能となる

 

「水樹くんたちの部屋は三階にある3012号室となってるわ。これからの活躍を期待しているわね♪」

「ど…ども…」


 飛鳥はフランクな受付のお姉さんの言葉にオドオドしながら、受付の両脇にあるエレベーターの左側に乗り、三階へと向かった

 エレベーターから外の景色が見え、どうやら一階の側面の入り口から中庭にいけるらしい

 中庭は整備されたオープンカフェとなっており、どうやらこの校舎に長期滞在も出来るシステムとなっているのかなと飛鳥は勝手に予想しつつ、三階に到着し、エレベーターから降りる

 

 エレベーターを降りると、壁に大まかな三階の地図が表示されていた

 左側に行けば3001号室から3010号室まであり、右側に行けば3011号室から3020号室までとなっている

 飛鳥は3012号室だったなと思いつつ、右に曲がり、2部屋目の扉を開く

 なんの警戒もなく…

 

「えっ…」

「…………」

 

 飛鳥の視線の先にはただ特殊そうな10人分のロッカーが置いてあるだけで、それ以外は何もない10人いても軽くゆったり出来るような広い部屋の中で一人先客がいた

 先客は何をしていたのかというと、今から前もって何が起こるのか知っていたのか、着替え中なのだ

 今から配られるということもあり、マントはなくその下の制服のジッパーを降ろして脱ぎ、カッターシャツを脱いだ状態で彼女は固まっていた…着やせするタイプだった彼女は制服の圧迫から解放された自己主張の激しい胸を惜しみなく晒し…勿論白のレースの下着は装着されている…だが、それでも女性にあまり免疫のない飛鳥にとって刺激は強い…しかも相手は年上の女子…あの優しくておしとやかで笑顔がよく似合うあの女子…憧れを抱いている軌条唯の色気を全力で受けているのだから…

 

「えと…ハヒョッ!!!?」

「閉めてください…飛鳥さん?」

 

 そして、声を掛けようとした飛鳥だったが、唯が一瞬のうちに腰に装着していたホルスターから何かを掴み、飛鳥の頬を見事に掠めるように狙いを定めて投げた

 もちろん恐怖から勢いよく扉を閉めた

 飛鳥は恐る恐る振り返ってみると、壁に刺さっていたのはクナイ…掠めた頬には血がほのかに流れていて…

 

「あわわわわわわわわわわわ………」

 

 飛鳥はその場で座り込み、震え始める

 一瞬のうちにヘタレ心で1番怒らせてはいけないのは唯さんなんだ…と思い知らされ…

 

「どうぞ、入ってください飛鳥さん…」

「は…はい!!」

 

 と唯の許可が下りるまで入る事が出来なかった

 まぁかといって、さっきの衝撃的な唯のお胸さまを忘れられるかといえば、飛鳥の脳裏に焼きついている

 恐る恐る扉を開くと、いつもの笑顔の中に黒いものがある…黒笑を浮かべる運動がしやすいアンダーシャツにジャージ生地の長ズボンという姿の唯がいた

 

「飛鳥さん…今日が楽しみですね…先ほどの私の姿を忘れるくらい貴方をしごけそうですから…」

「あわわわわわわわわわわわわわわっ!!!!?」

 

 そして、唯から死刑宣告が下る

 飛鳥は一気に部屋の隅まで後退り、座り込んで震え始める…心の中で誰か助けて…と思っていると…

 

「………これどんな状況…」

 

 と扉が開き、玲羅がボソッと呟く

 すると、唯はニコッと黒笑を浮かべ…

 

「ただ、飛鳥さんが女の子の見てはいけないところを見ましたので、お仕置き内容をお伝えしただけですよ♪」

 

 飛鳥に対して更なる追い討ちを掛けてくる

 玲羅はそんな唯に対して…

 

「着替えとかくらいならまだマシ…私は触られたし…」

「ハッ!!!!」

「キャゥッ!!!!?」

 

 自分の経験を話すと、黒笑がひどくなった唯が異能を使って文字通り複製したクナイを飛鳥が微動だに出来ないように、飛鳥の持たれ掛かっている壁の顔を模るように壁に投げつけた

 飛鳥は顔スレスレ当たらない背後の壁に刺さったクナイを横目で見ながら、恐怖から涙目になる

 

「ふふっ♪飛鳥さん…貴方のそのラッキースケベなところ…私たちといる間に矯正しないといけませんね♪私の異能は三十秒間複製いくらでも異能力が続く限り複製できますので…忘れられるまで人間ダーツが出来ますね♡」

「あわわわわわわわわわわっ!!!?」

 

 飛鳥は自分より強い力を持つ女子といるのも考え物だと少し思いながら、自分の意識しないラッキースケベという天敵を治すためにこれから勤しまないといけないと思い、次に玲羅が着替えるということらしく、飛鳥は再び部屋の外へと退散した

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 飛鳥が着替えを終えたのは、玲羅が着替えを終え、その後のこと、唯と玲羅には部屋の外で待ってもらい、着替えを済ませた

 それから、しばらくして…

 

「揃ったか~…」

 

 欠伸をしながら入ってくる腰に剣を携えた千尋

 この人が僕たちの担当教師…と飛鳥は心の中で少し呆れていたが、只者ではないことは知っているため、侮ることはけっして三人ともしない

 

「とりあえずまぁ、今日の予定を説明すると、飛鳥と玲羅…お前たちは戦闘訓練用の武器を選ぶこと…その間、唯…お前は一人訓練ルームで感覚を取り戻せ、飛鳥と玲羅の武器選びが終了次第、1時間ほど筋トレ、軽い模擬戦をする…が、飛鳥、お前は私と基礎からやるぞ…」

「はい…」

 

 飛鳥の表情は少し暗くなる

 ここから既に自分は足を引っ張っているんじゃないのかと…

 だが、当然のことで基礎からやらないと、いきなり応用なんて出来ない…わかっているからこそ、なんとかマイナス思考を振り払い、千尋の表情を見据え、頷く

 

「その後、ミッションの説明と戦闘ミッションの窓口を紹介する…それで今日は終了だ…」

「「「はい!」」」 

 

 千尋が言い終えると三人はしっかりと頷き、返事をする

 そして、千尋は業務は終わり…という風に、飛鳥に視線を合わせ…

 

「お前…その傷どうした…」

 

 首を傾げながら問いかける

 飛鳥はその瞬間、脳裏にあのグレイトなお胸さまを思い出してしまい、顔が赤くなる

 もちろんその瞬間、唯は真剣な表情から、黒笑へ一気に変わり…

 

「今…思い出しましたね?」

「いえっ!!!?そんな!!!!唯さんの純白の下着なんてあっ!!!?」

 

 飛鳥が口を滑らせた瞬間、首元にクナイを突きつける

 玲羅は飛鳥の隣で呆れた表情を浮かべながら…

 

「アンタ見た目は女の子みたいなのに不憫ね…」

「不憫だと思うなら助けてよぉ!!!」

 

 飛鳥をまったく助けようとせず、やり取りが終わるまで休憩といわんばかりに鞄から小説を取り出し、読み始める

 飛鳥は絶望しつつ…

 

「千尋先生と訓練が終わったあと…私と少し模擬戦をしましょうね♡」

 

 耳元で唯に囁かれ、飛鳥は頷くことしか出来なかった

 一連の流れを見ていた千尋はため息をつきつつ…

 

「じゃあ予定に入れとくぞ唯…行くぞ?飛鳥、玲羅…」

 

 飛鳥は解放され、手を振り、満面の笑みを浮かべる唯に見送られ、千尋と玲羅と一緒に部屋から出た…

 

 

 

 千尋に案内され、飛鳥と玲羅は最下層でもある地下五階に降りた

 地下五階は武器庫ということもあり、部屋ごとに武器が分類され、選ぶ形となっている

 

「武器はいろいろと置いてある…剣、銃、暗器、槍、棍棒、ガントレット、複合武器などで分類される…」

 

 千尋の説明を聞きつつ、飛鳥と玲羅は視線をめぐらせる

 左側に剣、銃、暗器、右側に槍、棍棒、ガントレット、そして中央視線の先に複合武器という部屋割りになっていた

 飛鳥は恐る恐る剣の部屋を覗いてみると、綺麗に種類ごとに分けられていた

 両刃剣、片刃剣、刀、シュタール、ダガーなどいろいろ…

 

「飛鳥、お前は複合武器のところへ行け」

「は…はい…」

 

 飛鳥は千尋に言われたとおり、複合武器部屋へと向かう

 中にはいろんな複合武器があった棍と槍が組み合わさったものや、暗器が仕込まれたガントレットなどなど…さまざまな形状の違いがある

 飛鳥は千尋にここを勧められたということは自分がここにあっているんだ…と思いながら、武器を考える…

 飛鳥的に1番惹かれたのは、ガンブレード…

 ガンブレードの中でも種類はあるみたいで、異能の力が込められた弾丸を内部で打ち出すことにより力を付与するタイプ、いくつかの形態を持つ変形型タイプ…

 自分が前線だけで戦うなら前者のガンブレードを選ぶべきだろうが、オールラウンダーとして戦うなら後者の方がいいだろう

 飛鳥はどうしようと迷っていると視界の中に一つのガンブレードが入る

 

「えと…これ異能付与型…だよね…」

 

 飛鳥はそう思いつつ、壁に掛けられているガンブレードを手にもつ…

 柄頭にはマガジンを収める場所がある

 飛鳥はマガジン交換のボタンの下にもう一つボタンがあることに気付き、恐る恐るそれを押すと固定具が解除され、刀身が動くようになり、柄も動かすことが出来、刀身を上部に、柄を下部に動かすと、銃口上部にある固定具が刀身を固定し、銃の形態へと変化した

 

「つまり…これは両方の性能を使えるようにしたガンブレードなんだ…」

 

 飛鳥はそう思いつつ、再び形態変化用のボタンを押すと、少しだけマガジンが出て、少し振ってみると、再び剣の形態へと戻った

 もともとの身体能力と異能の弱さを考えると、飛鳥はこういった武器に少し頼った方がいいのかもしれないと思い、このガンブレードにすることにした

 

 飛鳥は複合武器の部屋から出ると、既に玲羅は決まっていたらしく、ハンドガンを二丁持っていた

 そして…

 

「まさかそれを選ぶとは思って見なかったが…まぁお前には1番相性がいいだろうな…」

 

 千尋に真剣な表情で飛鳥は見据えられ、なんとか武器の了承は得た

 

「これからそれがお前たちの武器だ、卒業まで貸し出され、チーム部屋で保管することとなる大事に使うんだぞ?」

 

 千尋の言葉に飛鳥と玲羅はコクリと頷き、三人揃ってエレベーターへと向かう

 武器は多分部屋で見たあの部屋で保管するのだろう

 ただ、千尋が押したボタンは地下3階のボタン

 どこの部屋なんだろう…と飛鳥は思いながらもエレベーターの扉が開くと、視界に入ってきたのはガラス張りでトレーニングルームの様子が見える一本道…少し離れた場所に十字路に分かれているのが見えた

 千尋はゆっくりと歩き始め、飛鳥と玲羅は後ろにつき、ついていく

 

「トレーニングルームはこの地下3階に20部屋用意されている…一つのトレーニングルームでいろいろと使う人間に適したシステムを用意されている…例えばだ…」

 

 十字路を左に曲がり、次に左側にガラス張りのトレーニングルームが視界に入ると、飛鳥と玲羅は目を見開き、見入ってしまう…

 二人の視線の先には両刃剣を逆手に持ち、壁前面に並んで配置されている穴から、100キロは出ているであろう速さでランダムで射出されている光弾を次々に打ち消していきながら、地面や天井から出て来るターゲットの中心を次々に射抜いていく唯の姿がそこにはあった

 

「唯は暗器と剣を駆使し、中距離と近距離を得意とする…だからこそ、唯の立場上、近距離を任せられる人間のフォローと遠距離の人間が狙いやすいように視野を広く持って遠距離に配置している仲間を守らなければいけない…だからこそ、これが唯専用のトレーニングメニュー、襲い来る合計1000発の光弾を切り裂きながら、ランダムで出てくるターゲットをクナイで射抜くというものだ…、一応飛鳥と玲羅の二人のトレーニングメニューも用意してある覚悟しておけよ…」

 

 千尋がそう呟くと同時に、トレーニングルーム内の壁の穴は塞がり、何もない真っ白な空間に戻る

 そして、唯が経っている近くの床が隆起し、床のタイルが開くと中からスポーツドリンクの入った容器が出てきた

 唯はそれを手に取るとストローに口をつけ、スポーツドリンクを一口飲み、一息つく

 

 飛鳥は素直に唯の身体能力が凄いと思った

 全体を確かに把握し、ターゲットを的確に打ち抜き、すかさず異能でクナイをどんどん補充していく

 ゲームで言う弾無限のチート拳銃使いのようなものだ

 正直敵に回したくない相手だと飛鳥は素直に思った

 

「さて…玲羅…お前は中距離と遠距離を担当する…中距離での狙い方を唯に教われ」

「はい」

 

 飛鳥がぽ~っとしているうちに玲羅は唯のいるトレーニングルームの中へと入っていく

 飛鳥は状況を把握出来ずにあたふたしていると、千尋はため息をつき、向かいの部屋を指差す

 

「飛鳥…お前は私の個人授業だ…ガンブレードを自分の手足のように動かせるようにならなければな…」

「うっ……」

 

 飛鳥は手に持っているガンブレードを見つめつつ、オドオドしていると、千尋に手を掴まれ、飛鳥は部屋の中へと連行された

 飛鳥は誰かに助けを求めるように背後を振り向くと、苦笑いを浮かべる唯の姿とため息をつき、ジトッとした視線をこちらに向ける玲羅の姿がそこにはあった

 もちろん、飛鳥はそのままなすすべもなく千尋にトレーニングルームの中へと連れて行かれた

 

 

 

「いいか…お前には前線を任せるつもりでいる…」

「ふぇっ!!!!!?なんでですか!!!!」

 

 筋トレが終わった飛鳥は戦闘訓練に入る前に千尋からチームを組み戦闘に入るときの立ち位置を聞かされていた

 唯が中距離と近距離を担当

 玲羅が中距離から遠距離を担当

 唯が近距離を担当するといっても近距離のフォローと千尋は考えていた

 だからこそ、近距離をメインで行う人材が必要なのだ

 

「能力を考えてみろ、唯の能力は複製、近距離をメインで行う実力もあるが、能力は補助役に向いている、次に玲羅だ、玲羅の能力はイリュージョン…サークル範囲内に入った者、指定した人間の脳に干渉することに幻覚を見せる能力、遠距離で待機しているとき、自分の身を1番守れる可能性がある能力だ…だから玲羅が遠距離を勤めるんだ…そして、お前の能力は?」

 

 飛鳥は千尋にそう言われ、気付く

 

「パイロキネシスト…」

「そうだ、つまりお前の持つそのガンブレードに異能付与弾を使う必要もなく、お前の異能力が持つ限り、そのガンブレードに炎熱付与が出来る、三人の中でお前が1番近距離に向いている…」

 

 だが、飛鳥はそこでまた俯いてしまう

 千尋は何を考えているのか、もう1年以上の付き合いとなっているため、わかった

 

「自分の異能力の許容量のことを考えているだろ?」

「うっ…」

 

 飛鳥は千尋に自分の考えていることを見透かされていることに気付き、俯いたうえに千尋と視線を合わさないように視線を外す

 飛鳥の異能力の許容量は平均の半分以下…

 強い炎を大体3回生み出せばガス欠で使えなくなる

 普通のパイロキネシストなら強い炎を最低でも20回近くは使える…普通に力の調節をしながら使えば、ガス欠などすることはない…

 

「だからそのガンブレードだ…」

 

 千尋の言葉に飛鳥は顔を上げ、今にも泣きそうな表情で千尋を見据えると首を傾げる

 千尋はまたため息をつき…

 

「いいか、そのガンブレードの刀身には異能を蓄積する機関が存在する、練習は必要だが異能力…つまり異能者だけが持つ異能を生み出すエネルギーを生成し蓄える機関、その生成機関から生み出されるエネルギー…異能力の状態で流し込み、蓄積させる、そうすることにより、戦闘中、異能を発動させるようにお前の異能の波長を流し込む、あとは柄近くにある出力リミッターで異能力の分配制御をし、発動させる…」

 

 泣きそうな飛鳥を安心させるように、説明をする

 つまり、この武器は飛鳥にとって最高に相性がいいといえるのだ

 異能力は異能者が生きている限り、許容量を回復させる

 だからこそ、飛鳥みたいな異能力が少ない人間にとってこの武器は最大の力となる

 

「言ったはずだ…大事なのは心だと…」

「でも…僕にそんな高度な技術…あいた!!?」

 

 飛鳥が反論しようとしたが、千尋に頭を叩かれ、余計に涙目になる

 千尋は何度ついたかわからないため息をまたつき…

 

「昔お前と同じことを考えていた奴がいたよ…だがな…そいつはあることをきっかけに変わった…どんなに難しくても…どんなに困難でも、諦めないで前に進み、立派に成長した…最終的には人間、力量じゃない…気持ちが大事なんだよ…お前は何をしたい?」

 

 千尋は飛鳥に問いかける

 飛鳥はふと後ろを見て向かいのトレーニングルームであちらも筋トレを終えたのか、玲羅に狙いの定め方を教えている唯

 素早く狙いを定めることに悪戦苦闘を強いられている玲羅

 二人を見て、また視線を千尋に戻すと…

 

「誰かを救世したい…困っている人を助けたい…確かにそれがチームでの目標で、僕の将来なりたい人物ですが、今僕は二人を守りたい…二人には内緒ですよ?自分たちより弱い僕に守りたいなんて大それたこと言われたら、二人のプライドを傷つけるかもしれないし…まだ守れる程力があるわけじゃないし…その…」

 

 オドオドとしながらも、飛鳥は自分の意思をゆっくりと千尋に話す

 自分の持っているガンブレードに視線を向け…

 

「いつか…唯さんが猫を助けたときに僕に向けてくれたあの笑顔を浮かべて…誰かを安心させたい…唯さんみたいに誰かに優しい笑顔を浮かべられる強い人間になりたい…」

 

 憧れである唯の姿を思い出しながら、また千尋に視線を戻した

 すると、千尋は…

 

「お前…唯が好きなのか?」

「プギャラプっ!!!!!!?」

 

 飛鳥に質問をぶつけ、その質問を聞いた飛鳥は変な奇声を上げながら、激しく動揺を表した

 飛鳥は挙動不審となり、ガンブレードも危うく落としてしまいそうになる

 僕が…唯さんに好意を…と飛鳥は考えた瞬間、顔が真っ赤になり、オーバーヒートしそうになる

 

「えとあのその!!!好きとかそんな大それたこと!!!だって僕…こんな見た目だし…あの唯さんだったらもっと相応しい人がいるだろうし…その…」

 

 そして、飛鳥は自分のことを自分で追い詰めすぎて、逆に今度は落ち込んでいった

 そんな姿を見た千尋は飛鳥の頭を撫で、優しく笑みを浮かべる

 

「まぁいい…一つだけ助言だ…お前の中ではっきりアイツのことが好きなら…諦めないことだ…」

 

 それだけ言い残すと、床に座る

 それに続くように慌てて、飛鳥も座り、視線を千尋と合わせる

 

「そろそろトレーニングに入るぞ…お前はまずそのガンブレードに異能力を注ぎ込めるようになる必要がある…まずは異能を発動させる原理を考えろ」

 

 飛鳥は千尋に言われ、授業で学んだ異能を発動させる原理を思い出す

 

「えと…まずは使いたい量の異能力を出したい場所に集め、脳から送られる各個人の異能の波長を送り込み発動させる…ですよね?」

 

 飛鳥は恐る恐る千尋に伝える

 千尋はコクリと頷き、手をガンブレードの柄に触れる

 

「つまり簡単に言うと異能力を溜めるのではなく、流し込めばいいだけだ…」

 

 飛鳥は次の瞬間起こったことに驚きを隠せなかった

 千尋が説明を終えると同時に刀身の波紋が青く輝き始めた

 今何が起こっているのか理解できた…

 今異能力が注ぎ込まれている

 

「なるほどな…お前の今の思考大半が唯の下着姿の記憶だということがわかった…」

「ブッ!!!!?」

 

 飛鳥は再び理解した

 森嶋千尋の持っている異能は精神解析…

 生徒のことを想える教師らしい能力であり、反面戦いとなると精神を解析し、弱い部分をつき、精神的に追い詰めることができる

 つまり、ガンブレードに触れさせることで、強引に精神解析を相手にリンクさせ、解析する

 それを今、飛鳥はやってのけられたのだ

 

「まぁ唯の下着姿は置いといてだ…お前の精神は解析できた…すまない…お前の見てはいけないところまで見てしまった…」

 

 飛鳥は千尋の言葉を聞いて、表情が暗くなる

 トレーニングとはいえ、覗いてはいけない部分を覗いてしまった…と千尋は思い素直に頭をさげる

 飛鳥は力なく苦笑いを浮かべ…

 

「構いませんよ…いつかは…みんなに話さないといけないことですから…」

 

 そういうが、千尋から見て、飛鳥はまだ覚悟できていない…そう思えた

 だからこそ、千尋は飛鳥の知られたくなかった過去を知ってしまったことに追い目を感じ、飛鳥を優しく抱きしめる

 飛鳥は千尋からの優しい抱擁に心が解放され、気付くと頬には涙が伝っていた


 コンコン…

 だが、ガラス張りの窓をノックする音が聞こえ、二人はそこに視線を向けるとそこには口パクで「貴方たちは何をしているんですか?」という黒い笑みを浮かべた唯の姿がそこにはあった

 一瞬のうちにさっきまでの暗い気持ちが吹き飛び、飛鳥は恐怖でガタガタと震え始める

 飛鳥は慌てて千尋から離れ、ガンブレードを指差し…

 

「ガンブレードの使い方を教わっていたんです!!!!」

 

 と必死に叫ぶが、扉が開き…

 

「なんでガンブレード使い方を教わるだけで抱きしめられているの?おかしいよね?」

 

 玲羅から白い目で見据えられ、痛いところをつかれる

 だが、決してやましいことがあったわけではない…一応飛鳥の過去に関しては玲羅も知ってはいるが、玲羅まで暗い気持ちにさせるわけにはいかないので、飛鳥としては話せない…そう思っていたが…

 

「えと…あの…その…」

「私の精神解析で飛鳥の過去を覗いてしまったんだよ…」

 

 千尋はチームワークが悪くなってはいけない…そう思ったのか、素直に話した

 飛鳥からは、なんで…という風な視線を向けられるが、玲羅はその瞬間理解したのか、表情に悲しみが浮かび、「そう…」とだけ言うとトレーニングルームから出て行き、向かいのトレーニングルームへと入っていく…

 

「飛鳥…さん?」

「いつか…唯さんにも必ず話します…」

 

 飛鳥はそういうとその場に座り込み、千尋に習ったことをガンブレードで始めた

 唯はそんな飛鳥の悲しげな後ろ姿を見て、心配になりながらも、玲羅に練習をつけるため玲羅のいるトレーニングルームへと戻っていく

 飛鳥にはさわりだけでも話すチャンスがあった…でも、それを話せる覚悟が今の飛鳥にはない、だから、飛鳥はトレーニングの方に逃げることしか出来なかった

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 トレーニングが終わり、唯と飛鳥の模擬戦がなくなり、飛鳥、唯、玲羅、千尋の四人は一階にあるミッション受付事務所へと向かった

 

「唯は知っているだろうが、戦闘ミッションに感じてはチームごとに担当のミッションコーディネーターがいる…それぞれチームの力量を見て、戦闘ミッションを設定してくれる…お前たちの担当官は通称 王斬おうざんといわれている人間だ…」

 

 王斬という名前を聞いた飛鳥と玲羅はいかにも威圧的な名前だと思いながら、知っているであろう唯に視線を向けると唯は何か考え事をしていたのか…

 

「えっ…あ…何の話でしたっけ?」

 

 唯は苦笑いを浮かべながら、飛鳥と玲羅の二人に問いかける

 飛鳥と玲羅はらしくないと思いつつ…

 

「王斬さんって人の話よ…」

 

 玲羅が唯にもう一度尋ねる

 唯は玲羅の問いかけに次はまた違う苦笑いを浮かべ…

 

「あはは…あの方はホント見た目とは違って気さくな方ですよ、ただ…初めてあった時、千鶴は卒倒しましたけど…」

 

 唯はいい思い出だったな…と思いながら、飛鳥と玲羅に話す

 飛鳥と玲羅は千鶴という前のパートナーの名前が出て、若干気を使いそうになったが、ここで気を使うと、余計に唯が暗くなると考え、優しく笑顔を浮かべていた

 

「まぁ唯の言うとおりだな…飛鳥、お前はちゃんと気を張っとけよ?じゃないとお前は千鶴の二の舞になるだろう…」

 

 そういいながら、千尋を先頭に、飛鳥、唯、玲羅の三人は一階に上ると、受付がある中央出入り口を左に曲がり最初の扉の中に千尋が入っていく

 次に唯が入り、玲羅が入る

 そして、最後に飛鳥が入るといくつも区分けされていたミッションカウンターのそこには…

 

「紹介しよう、こちらがお前たちのミッションコーディネーター 王斬だ…」

「久しぶりだな唯…お前が復帰できて俺は嬉しく思うぞ」

 

 小麦色の肌をした鋭い斬撃のような眼差し、王の貫禄を思わせるガタイのいいスーツ姿のスキンヘッドの50代くらいの男が存在していた

 飛鳥は思わずその覇気で…

 

「きゃぅ…」

 

 卒倒した…

 玲羅と千尋は呆れた表情を浮かべながら、唯は苦笑いを浮かべながら、倒れそうになる飛鳥の体を瞬時に支えた

 

「予想通りでしたね…」

「あぁ…王斬…お前もう少し覇気を抑えたらどうだ…」

 

 予想通りという唯の言葉に続くように、千尋が王斬にジトっとした視線を向けつついうと王斬は頭をかきつつ困ったような表情を浮かべ…

 

「いやな…覇気を出しているつもりはないんだが…」

 

 まったく覇気を出していないため、困り果てていた

 

「とりあえず…飛鳥が目を覚ますまで、休憩だな…」

 

 千尋は飛鳥が目を覚ますまで休憩ということで、ミッションカウンターから出てきた王斬が待合用の背もたれのない四人程座れる連結された椅子まで運び、唯はそのままでは頭が痛いだろうという配慮で飛鳥を膝枕する

 

 

 

 そして、それから数十分して、飛鳥は目を覚ます

 飛鳥の視界に入ってきたのは優しい笑顔を浮かべる唯の姿と…

 

「いや…すまない…覇気を出しているつもりはなかったんだがな…」

 

 心配しているような眼差しの王斬の姿が視界に入ってきて、飛鳥はクマに出会った登山家の間違った対処法である

 

「…………」

 

 死んだふりをし始めた

 勿論そんな飛鳥の対応を見て、玲羅は飛鳥の頭を叩き…

 

「さっさと起きる…そして、王斬さん気さくないい人だからその態度失礼…」

 

 玲羅から注意を受ける

 飛鳥はまた瞼を開くと体を起こし、ビクビクしながら、王斬に視線を合わせるとペコッと頭をさげ…

 

「えと…失礼な態度をとって…すみません…」

「おうさ、気にすんな俺としても最近慣れてきたところだ…まっよろしく頼むな飛鳥?」

 

 王斬に握手を求められ、飛鳥は握手をすると、手を握る強さからしてかなりのつわものだと言うことは理解し、王斬の態度からして、悪くない人だということは理解できた

 

「飛鳥が目を覚ましたところでミッションについて説明するぞ?」

 

 千尋は壁際にあるコンソールが設置されているデスクがあり、千尋はコンソールにある電源ボタンを押すと壁に設置してある40インチくらいはあるモニターに映像が浮かび上がり、学園の校章が浮かび、ミッション選択画面が映る

 

「ミッションには2種類がある…お前たちが知っているように、一つは基本的には学生らしく、通常ミッションが大まかなところだ…探し物から説得、アルバイトの急なヘルプなどが当たるところだ…それに関しては教員から受けることが基本となるが、もう一つの戦闘ミッション、護衛が基本となるが…B~Sまではターゲットの確保というミッションがある…AやSに関しては、学生の受けるものを逸脱しているものが多い…戦闘ミッションはここで受けることしか出来ないから注意をしろ?」

 

 千尋の説明を聞いているだけで通常ミッションとは違い、戦闘ミッションはかなりのリスクがある…聞いていた飛鳥と玲羅は素直に思った

 

「学生だからこそ、戦闘ミッションに出てみたいという好奇心の多い奴がいる…だが、教師としてはそれを許し重症を負わせてしまえば、問題となる…だからこそ、王斬のようなミッションコーディネーターがいる…王斬」

「おうさ」

 

 千尋に呼ばれ、千尋が立ち、入れ替わりで王斬が千尋が座っていた席に座り、ミッションのなかでDランクの部分を選択し、ミッション一覧を画面に映し出す

 

「通常ミッションは教師に言えばすぐに受けることが出来る、だが、戦闘ミッションには承認に二日掛かることを覚えておいてほしい、今このミッション一覧の中で青と黄、赤文字で分かれているミッション名があるだろ?、青はミッションをまだだれも受けていないという印だ、基本的にここから選んでもらうことになる、そこから各チームのミッションコーディネーター、つまりこのSalvationに関しては俺だな、まずは選択すると各々のIDを入力する画面となる、ここにIDを入力すると、次に呼び出しボタンを押してもらう、そこでお前たちに相応しいミッションと俺が判断すれば一先ず保留をする、保留されたミッションは黄の文字へと変化し、チームの担当教師、校長、理事長の判断により、承認するか、承認しないかに変わっていく、承認されれば、赤へと変化し、承認されなければ、青へと戻る…一通りの流れは以上だ、何か質問はあるか?」

 

 王斬は一通り説明を終えると質問があるかどうか、飛鳥と玲羅に問いかける

 飛鳥と玲羅は少し考え、まず玲羅が挙手をする

 

「おう、玲羅」

「はい、まず私たちの力量の判断はどういう風に行われるのですか?」

 

 玲羅の質問はもっともだ

 力量により判断するということは常々、担当教師は勿論、ミッションコーディネーターも力量を把握しておかなくてはいけない

 

「力量の判断は定期的に教師から送られるデータと自らお前たちが訪れている時はトレーニングを見に行く+俺自らと模擬戦を行うことで判断する」

「言っておくが計100人近くいる教師とミッションコーディネーターの中でもトップ10に入る男だ…」

 

 王斬の実力を聞き、飛鳥と玲羅は驚愕しつつも、何故か納得してしまう

 そりゃそうだ…一目みただけで相手を気絶させられる覇気とあの貫禄だ

 まぁそれもそうなのだが、飛鳥としては教師とミッションコーディネータートップ10を実力を怖いながらに知りたいと思ってしまい…

 

「ちなみにトップ10にどなたが入っていらっしゃるのですか…」


 とつい質問してしまった

 飛鳥の質問に対して、王斬は少し悩んだ様子だが…

 

「定期的に教師やミッションコーディネーターの模擬戦を行うのだが…総当たり戦の結果はこうなっている…」

 

 模擬戦結果の順位をコンソールを操作し、映し出す

 するとそこには…

 一位 御神静葉

 二位 衣座波雪成

 三位 有馬鉄夫

 四位 桐生美琴

 五位 王斬

 六位 リイナ・アミュエルド

 七位 森嶋千尋

 八位 杵島源蔵

 九位 稲上浩一郎

 十位 天川一縷

 

 と画面に表示された

 飛鳥は思わず驚いてしまう

 王斬だけではなく、担当教師でもある千尋も10位以内に入っている

 ちなみに上位二人で御神静葉は理事長、衣座波雪成は校長である

 

「この上位に入っている人間は基本的に頭角を現しているチームの担当教師でもあり、担当コーディネーターでもある…いい例が四位の桐生美琴先生はチーム【Evolution】の担当教師であり、天川一縷は担当コーディネーターだ、基本1年で組まれているチーム中で頭角を現している【アストラルファミリー】の担当教師が杵島源蔵先生であり、担当戦闘コーディネーターがリイナ・アミュエルドだ…つまり言いたいのはだな…」

 

 王斬は三人を見渡し、豪快な笑顔を浮かべ…

 

「お前たちも頭角を表すと信じている…チームを持たないで有名の千尋と修羅場を経験してきた俺が見るんだ…トップを目指せよ?」

 

 一人ずつ不器用だが頭を撫でていく

 飛鳥にしろ、玲羅にしろ、唯にしろ、まるで王斬は父親のようで、頭を撫でられるとなんだかホッとした…そんな気持ちになった

 

「「「はい!!!」」」

 

 そして、三人はしっかりと強く頷く

 それを見た千尋と王斬も満足げに頷き、その日のトレーニングと説明は終了した

 

 

 

 

 が、最終下校時刻である9時近くになっても、飛鳥はまだ学校に残っていた

 異能力を節約しながら、何度か異能力だけをガンブレードに留める作業をしていたのだが、異能力だけを注入するのは予想以上に繊細な作業で、少しでも集中力を乱してしまうと異能の波長を送ってしまい…

 

「うあああっ!!!?」

 

 飛鳥はガンブレードの波紋が飛鳥の異能の象徴でもある赤色に染まることはなく、ガンブレードの刀身に炎を纏わせてしまう

 異能力を消費しすぎて、後残りわずかだということがわかる

 

「はぁ…もう今日は打ち止めかな…」

 

 結局出来なかったな…と飛鳥は思いつつ、床に寝転ぶ

 今日は諦めようと飛鳥は考えたが、その瞬間、脳裏に千尋の言葉を思い出し、飛鳥はガバッと体を起こし、もう一度目を瞑りイメージをする

 

「集中…集中…」

 

 まずは異能力を送り込みたい部位に送り込んでいく

 異能を発動させる波長を送り込まないように、異能力だけに留めることを集中する

 飛鳥の手が赤いほのかな光を生み出し、刀身にゆっくり…ゆっくり流れ込んでいこうとする

 飛鳥はもう少し…もう少しと思っていると…

 わずかに刀身の波紋が赤く光ったが…

 

「っ!!!!!」

 

 刀身が発火し、集中力が切れてしまう

 だが…

 

「やった!!!!!」

 

 まるでゲージがわずかにだけ溜まったかのように刀身の波紋一ミリだけ赤く光っていた

 だが、そこで飛鳥は自分の小ささにへこんでしまう…

 まだ一ミリ溜めれただけで残りはすべて発火させてるじゃん…と…

 

「そろそろ下校しろ飛鳥?そのトレーニングはまた明日だ…」

 

 一人でやっていたと飛鳥は思っていたが、どうやら外から千尋と王斬の二人に見守られていたことに飛鳥は今更になって気づいた

 

「無理して体を壊すなよ?お前がリーダーなんだからな?」

 

 王斬に言われたことは飛鳥がリーダーをするということが決まったときから口すっぱく千尋から言われていることだった

 リーダーがいなくなれば仲間は心配するし、不安となる

 だから、お前は戦闘では必ず生きないといけないし、無理をしてはいけないといわれた

 

「はい…」

 

 飛鳥はへこみながら立ち上がると、ガシっと王斬に肩を組まれ…

 

「まぁ男としていうなら多少無理をしていいと思うがな?」

 

 豪快に笑う

 そんな王斬を千尋はため息をつき、呆れた視線を向ける

 まぁそんな千尋の視線もお構いなく、王斬は

 

「もう一回やるか!!飛鳥!!」

「はい!!!」

 

 もう一回やるという提案を出したが、すかさず

 

「やめろお前ら!!!」

 

 千尋の怒号に飛鳥は萎縮し、王斬はまぁしゃーないか…という風にまた豪快に笑い、ラスト一回はなかったことになった

 飛鳥は仕方なく千尋と王斬に見送られながら、トレーニングルームから出て行く

 だが、飛鳥がトレーニングルームから出て、しばらくして、エレベーターに乗る音が聞こえ、またしばらくしてから、千尋と王斬の表情は真剣なものへと変わり…

 

「このチーム…本当に変わり者揃いだな?」

 

 王斬の問いかけに頷く千尋

 

「千鶴と組んでいた時、守護神と呼ばれていた実力を持つ軌条唯、2学年の中でヴェルトシリーズに次いで最強の能力と呼ばれているエヴォリューションとデュアル能力者がいる中、異能を使う実力で上位に食い込んでいる白銀玲羅、落ちこぼれだといわれながらも、誰かのためとなると力を発揮する水樹飛鳥…」

 

 千尋は優しい笑みを浮かべながら、脳裏に三人の姿を思い出す

 再びチームを組もうとすることを諦めかけたが、改めて誘ってもらった飛鳥に報いるために、ブランクを乗り越えようとする唯の姿

 大切な幼馴染のために、一生懸命強くなろうとすることを努力する玲羅の姿

 そして…

 

「しかし驚きだな…まさか数時間で少しとは言え、異能力制御を出来るようになるとはな…」

 

 千尋が思い浮かべていたのは、王斬が言った言葉そのもの

 異能力の制御は一日練習して出来るようなものではなく、最低でも一ヶ月は掛かるといわれている

 なのに、飛鳥は仲間に追いつくため、仲間の足手まといにならないため、仲間を守るためという思考の元、一日でやってのけたのだ

 

「これからが楽しみだよこのチームは…美琴や杵島先生に負けないチームには仕上げてやるさ…協力してくれるか王斬?」

「おうさ!」

 

 千尋の問いかけに王斬は力強く答えた

 が…

 

 ピリリリリリリリリリリリ!!!

 

 携帯電話の着信音が聞こえ、誰のものだと思いきや、王斬がスーツのポケットから携帯電話を取り出し、通話ボタンを押し、耳にあてる

 

「おう、母ちゃんか、おうさ、帰りにトイレットペーパーだな?おうさ、了解した」

 

 王斬の現実味溢れる奥さんからのお使い電話に千尋は今の流れでこれかという風なため息をつき、一人王斬をのこして、エレベーターの方へ歩みを進める

 後ろの方から、愛してる美佐子という王斬の言葉が聞こえ、千尋は一人げんなりしつつ、エレベーターに乗り、一人身である自分の未来に少しだけ悲しげなため息をつく

 


 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 ミッションメイト校舎の部屋で制服に着替え終えた飛鳥は自分の進歩のなさにため息をつきながら、帰路に着き、並木道を越え、学年校舎を抜け、校門に差し掛かったとき…

 

「お疲れ様です飛鳥さん?」

「唯さん!!!?」

 

 校門にもたれかかりながら、飛鳥を待っていたであろう笑顔を浮かべる唯の姿がそこにあった

 飛鳥はさっきまで自分がもっと進歩しないといけないという悩みが吹き飛ぶくらい驚きが隠せなかった

 

「途中まで一緒に帰りませんか?」

「はい…」

 

 唯が歩き始め、飛鳥も慌てて、唯の後を追い、隣に並んで一緒に歩き始める

 唯は何故こんな時間になるまで待ってくれたのだろうか…それより玲羅はなんでいないのか?今なんで二人きりで歩いているのだろうか…と尽きない疑問を飛鳥は考えながらも、自分の学園生活でかなりレアであるイベントを堪能しようと唯と何か話さないとと思ったが…

 

「あまり無理をなさらないでくださいね…飛鳥さんは私たちのリーダーなのですから…」

 

 唯が心配そうな表情を浮かべながら、飛鳥をしっかりと見据えてくる

 飛鳥はみんなから心配されていることに気付きながらも…

 

「はい…でも…僕には力がないですから…玲羅も強いし、唯さんも強い…僕だけが未熟で、リーダーが足を引っ張るなんて出来ませんよ…」

 

 やっぱり飛鳥自身焦りが生じて、少しは無理をしないと…と考えてしまう

 すると…

 

「いひゃひゃひゃひゃひゃい!!!!?」

 

 飛鳥は隣にいる唯に頬を引っ張られ、変な声をあげてしまう

 唯は少し怒ったような表情を浮かべ、立ち止まる

 

「その考え自体が許せませんね…飛鳥さんには飛鳥さんの美点があるんです…戦いは私たちに任せてください、飛鳥さんには誰かを癒やす、誰かを救う力があります、私はそんな飛鳥さんの心に救われたんですよ?」

 

 唯はもう片方の手で、飛鳥のもう片方の頬を引っ張り、涙目を浮かべる飛鳥の顔をしっかりと見据えさらに続ける

 

「いいですか?私は貴方の人柄に惹かれました…自分には無理だと思いながらもあの猫を助けるために木に登り、助けた姿…今も私の目に焼きついています、そして、屋上で私を抱きしめてくださったとき、飛鳥さんの本当に私を救いたいというあの眼差しが素敵で…私は…」

 

 まるで、愛の告白のようで飛鳥は思わず顔が赤くなってしまう

 そんな雰囲気になっていることに唯もやっと気付いたのか、唯の顔も真っ赤になり、珍しくテンパリながら…

 

「今のは忘れてください!!!私飛鳥さんのことを好きなんてそんな感情持ち合わせていませんし!!!!」

「グミュッ!!!?」

 

 最後の止めを飛鳥に与えてしまい、飛鳥は静かに涙を流す

 僕のときめきを返して…という風に…

 唯は手を飛鳥の柔らかな頬を離すと咳払いをし、飛鳥の手を掴み…

 

「えと…総じていいますと…飛鳥さんは優しくて、誰かを思いやれる心を持っているんです…私にはない美点を持っているんです、ですから、私に出来ないことをしてください、飛鳥さんに出来ないことは私がします…それが、チームですよね?」

 

 真剣な表情を浮かべ、飛鳥に自分の想いを伝える

 飛鳥は一生懸命伝えてくれる唯の姿を見て、マイナスに考えていた自分を駄目だと思いつつ…

 

「ありがとうございます…えと…僕にそんなもったいないことを言ってくれるなんて…ほんと嬉しいです…」

 

 飛鳥は玲羅以外からの女性から手を握られているという緊張から顔を真っ赤に紅潮させながら、お礼を言う

 

「あと…そろそろ敬語をやめて、唯…と呼んで頂けませんか?」

 

 飛鳥はそういわれて思わずビクッとしてしまう

 飛鳥は今まで年上の人を呼び捨てにする…幼馴染でもないのに呼び捨てなんて出来るわけがないと思いながら…

 

「えと…唯…さん…」

 

 挑戦してみるも、飛鳥…TAKE1失敗…

 

「もう一度お願いします」

 

 なにやら飛鳥の茹蛸のように赤い表情を唯は楽しみつつ、満面の笑みを浮かべながら、もう一度呼んでくださいという風に促す

 

「うぅ…唯………さん…」

「はい♪もう一度♪」

 

 あえなくTAKE2も失敗

 二回目の失敗なのに、目がキラキラし始め、唯は飛鳥がオーバーヒートするとどうなるのかという好奇心で一杯となり、さらなる追い討ちを敢行

 

「あぅ…あぅ…うぅっ!!唯!!!」

 

 飛鳥は顔を真っ赤にさせつつ、恥ずかしさで今にも泣きそうな表情を浮かべ、しっかり唯を見据えて叫ぶ

 確かに唯といった…ちゃんと聞いた唯は…

 

「きゃぁ~ん!!!可愛いです!!!可愛いです飛鳥さん!!!!もうこれは飛鳥さんでも飛鳥くんでも飛鳥でもないです!!!もうまさしく飛鳥ちゃんですぅ!!!!!」

 

 と凄い勢いで飛鳥を抱きしめ頬擦りをしながら、ぴょんぴょん飛び跳ねる

 飛鳥はあまりのことに頭の中が真っ白となり、今何が起こっているのか理解できていなかった

 だが、一つだけ頭の中でインプットされたのは、軌条唯という人物は可愛いものが大好きで限界を超えると暴走し始めるということは理解できた

 

「飛鳥ちゃん!!このまま私のマスコットになってください!!!」

「それは駄目です!!!!僕一応男ですよ!!!!!」

 

 そして、危うくマスコットにされそうになったが、飛鳥はさすがにそれは出来ないと全力で拒否

 飛鳥は暴走しているせいで先ほどから胸元に押し付けられているあの着やせする双子山から逃げるため、飛鳥は唯の抱擁を振りほどき、全力で逃げる

 

「逃がしませんよ!!!飛鳥ちゃん!!!」

 

 そんな逃げてしまう飛鳥を後ろから全力で追いかける唯

 勿論身体能力で唯に敵わない飛鳥は、すぐさまに捕まってしまう

 そんなことが何回か繰り返され、唯は電車通学のため、飛鳥は駅まで送ると疲れ果てた様子で帰路に着いた…

 

 そんな様子を…

 

「なんなんだ…あのハートフルな光景は…」

 

 独身28歳行き送れ間近の森嶋千尋は見ていた

 そして、げんなりしつつため息をつき、唯と同じく電車通勤のため、寂しく唯とは反対側の車線の方へと、電子マネーで支払い、改札を抜け、向かった

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 翌日

 飛鳥はよくよく思うと昨日のあの唯との追いかけっこは誰かに見られたら勘違いされるんじゃないか?と思い、誰かに見られてなかった不安になってきた

 2学年での唯の人気を考えると、それを同じ2学年に見られていた場合、殺処分が確定する

 飛鳥は恐る恐る校門に入り、庭園を抜け、各学年と職員の靴箱がある校舎が集まる中央のホールに差し掛かり、飛鳥のドキドキは最高潮に達する…

 

「おはよう、飛鳥」

「ひゃぅ!!!!?」

 

 そんなときに限って後ろから挨拶をされ、飛鳥は奇声を上げてしまう

 飛鳥は後ろを振り返ると、そこには怪訝な表情を浮かべる玲羅の姿がそこにはあった

 

「なんかあったの?」

 

 さすがは幼馴染

 飛鳥のわずかな変化も見逃さない様子で…といっても飛鳥の場合は凄くわかりやすいため、普通の人でも変化はわかりやすい

 

「ううん!!何にもないよ!!」

 

 そのため、飛鳥は今まで経験してきたことにより、ここから全力で逃げ出す

 玲羅はそんな飛鳥の後姿を見つめながら、ため息をつき、自分も2学年の自分のクラスの方へと向かう

 

 

 

 

 昼休みとなり、飛鳥は屋上で一人ベンチに座りお弁当を食べていた

 ちなみに亜栖葉は料理が苦手のため、料理系統は飛鳥が作ることになっている

 ただし、両親がいる時は父親や母親が作ってくれるため、その時は楽を出来たりはする

 

 本当は唯と玲羅と一緒に食べたいと考えていたが、唯に関しては昨日のことがあり、少し恥ずかしさを感じるし、玲羅に関しては朝のことがあるため、絶対に聞き出されないために一人で食べることにしたのだ

 

 飛鳥はふと考えると唯と昨日からそういうイベントが多いような気がして仕方がなかった

 唯の下着姿を見たり、密着したりとか…

 思い出しただけで飛鳥の顔は赤く染まり、屋上は一人だけなのに見られていないかあたふたしてしまう

 

「一人であたふたしていると気持ち悪いだけよ…水樹くん?」

 

 飛鳥は背後から声が聞こえ、驚き、慌てて背後を振り向くと、そこにはチームを組む前、食堂で声を掛けてきた上級生がそこにいた

 

「えと…あの時の…」

「えぇ…」

 

 ニコッと笑みを浮かべる上級生を見て、飛鳥は少し違和感を感じた

 あの時、瞳の奥に感じた黒い何か…

 それが今は前面に出ている…そんな気がした

 

「隣いいわね?」

 

 飛鳥は何も言っていないのに、隣に座る上級生

 少し居心地が悪い…と思いながらも無言の時間が過ぎていく

 お弁当も食べる気がなくなり、お弁当の蓋を閉じ、専用の袋の中にしまうと鞄の中にしまい

 

「えと…僕失礼します…」

 

 そこから立ち去ろうとしたが…

 

「ぐあっ!!!!?」

 

 飛鳥は手を掴まれると足払いをされ、その場に倒れた

 その上級生は飛鳥の上に馬乗りになると飛鳥の首を掴み、睨みつける

 

「あんた邪魔なのよねぇ…あのクソアマを落とし入れるのに…あのクソアマは幸せになっちゃいけないの…あのクソアマは狂って一人死んでいけばいいの…あのクソアマにアンタみたいな支えは要らないのよ!!!!!!」

「ぐっ……あぁっ…そんな…そんなことない!!!!」

「きゃっ!!!?」

 

 飛鳥は思わず叫び、その上級生をなんとか突き飛ばす

 首を絞められていたため、酸素を欲するように咳き込みながらも大きく深呼吸し、飛鳥は立ち上がり、腹部を押さえる上級生を見据える

 

「唯は…唯は後悔しているんだ…僕は元々人とあまり関わろうとしなかったから一人の寂しさは少しはわかるよ…一人になると過去の後悔ばかりが蘇ってくるんだ…僕には玲羅がいるけど、唯には支えとなる人がいなかったんだ…それだけ苦しんでるのに、取り返しのつかない間違いをしたからって、背負うにしても、一生一人で背負わなければ行けないなんて…ましてや狂って一人死んで行けばいいなんて僕は間違いだと思う!!!そんなの…悲しいよ…」

 

 飛鳥は気付くと涙を流していた

 悩みの大きさは違うも、一人でいるときの悲しさはわかる

 だからこそ、一人でいるときの唯に感情移入をしてしまっているのだ

 そんな飛鳥の姿をその上級生は怪訝な表情で睨みつけ…

 

「どこまでも鬱陶しい人ね…アンタに理解しろなんて無理な話みたい…これから私たちチームはアンタをターゲットにするわ…覚悟することね…水樹くん…」

 

 それだけ言い残すと、上級生は屋上から出て行った

 飛鳥は急に震えが起こり、立てなくなってその場に座り込んでしまう

 だが、これで…

 

「僕をターゲットっていうことは…唯には…危害は行かないのかな…」

 

 飛鳥は唯から自分にターゲットがシフトした…

 そう思い、少しだけ安心した…

 これから始まるであろうライトサイドとダークサイドの新たな生活にいろいろと不安を感じながらも、飛鳥は何度も大きく深呼吸を繰り返し、自分に大丈夫…大丈夫…と言い聞かせ、立ち上がり、一歩一歩歩みを進める…これからの新しい生活を進んでいくように…

 

 

 

 


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