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Salvation!  作者: フォルネウス
第一章 かけがえのない仲間
2/10

1話 チーム Salvation

 

 飛鳥の自宅でもある二階建て一軒家

 カラーリングは青と白を基調としている

 一階はリビングと和室、あと洗面所やお風呂があったりなどでシンプルなもの

 そして、二階には各々の部屋があったりする

 

 そして、そこは飛鳥の部屋

 清潔感あふれる水色と白を組み合わせたチェックカラーのカーテンが目立ち

 中央には正方形のテーブル

 後はテレビがあり、扉のからみて向かい側の窓際にベッドがあるというシンプルな部屋

 

 その中央のテーブルで今、飛鳥と長い赤髪を後ろでまとめてバレッタで留めた髪型のつり目気味のバランスの取れた体型をしている少女 白銀玲羅は今日の学科授業で出された宿題をこなしていた

 

「今日は遅かったね……飛鳥……」

「あ…うん……」

 

 玲羅は飛鳥の生返事を聞き、顔を上げる

 すると、飛鳥の表情は何処か遠い目をしていた

 意識ここにあらずという風に…

 玲羅はペンを一度置き、飛鳥を見据えたまま…

 

「宿題の進み具合どう?」

「あ……うん……」

 

 問いかけてみてもまた生返事

 これはなんかあったな?と思いつつ、玲羅は少し身を乗り出して、飛鳥を見据える

 

 いつもの飛鳥ならこんなことすれば、瞬時に離れていくものだが、今日はまったく離れようとしないうえに、接近したことにも気づいていない…

 そこで考えて飛鳥が覚醒しそうなことを聞いてみようと

 

「飛鳥…?」

「あ……うん……」

「女でも出来た?」

「キャぅ!!!!!!!!!!?違う違う!!!!!!!!!!」

 

 探ってみたが、案の定引っかかり、飛鳥の意識は覚醒した

 玲羅はため息をつき、真剣な表情で飛鳥を見据える

 

「なんかあった?」

「えと…その…」

 

 すると飛鳥は玲羅の眼力に負けて、諦めて話すことにしたのだが、かなり戸惑ってしまう

 なにせ今まで考えていたのは…

 

「今日…軌条唯先輩って人から…チームを組もうって誘われたんだ…」

 

 玲羅に誘われたチームを組もうという誘いを断ったのに、飛鳥は唯に誘われたというチームを組もうという誘いに呆けていたのだから…

 

 当然、玲羅はムスッとした表情となり…

 

「そう…で?」


 ジトッとした視線を飛鳥へと向ける

 飛鳥は玲羅から醸し出される怒りのようなオーラに視線を合わせることもできず、俯く

 

 ただ、何も言わないままというわけにも行かないため…

 

「一応保留って形で受けてます…軌条先輩が考える時間も必要だからって…」

 

 正直に答える

 玲羅はまたため息をつき、宿題をしていたノートを閉じるとしっかりと飛鳥を見据え…

 

「明日その軌条先輩って人に会わせて…」

「えぇっ!!!!!!!?なっなんで!!!?」

 

 唯に会わせろと言う玲羅

 飛鳥はあまりのことに驚き叫ぶ

 

 と同時に…

 

「飛鳥!!!!!うっさい!!!!!」

 

 隣の部屋から姉の怒号が飛んでくる

 そんな姉の怒号に完全に萎縮する飛鳥

 弟という立場から見て、姉はそれほど恐怖を感じるポジションに君臨していると言ってもいいだろう

 

 そんな飛鳥の言葉に玲羅は宿題を鞄の中にしまい、立ち上がり、飛鳥を見据えると…

 

「どういう人か確認する…」

 

 それだけ言い残すと、玲羅は部屋から出て行った

 飛鳥は玲羅のどういう意図により会いたいといっているのか理解できないまま、玲羅が出て行ったため、それを問いただすこともできないまま、玲羅の家は隣にあるため、大概毎日開かれている宿題会は閉会となった

 

 それから、飛鳥はどうして玲羅が会いたいと言い出したのかという疑問を考えながら、何とか宿題を終え、さっきの出来事で怒号を発した姉に連行され、必殺アイアンクローをかまされた上に説教を受け、飛鳥はその日、何故か何も大して悪いことをしてもいないのに、意識を落とされる羽目となった

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 そして翌日…

 玲羅に唯と会わせて欲しいといわれていたが、あの様子からしていいことがあるとは思えないため、飛鳥は今日一日玲羅との接触を避けるため、いつもより早く出たり、休み時間ごとに身を隠したりなどしていた

 

 そのため昼となった今、この1時間近くあるこの休み時間を乗り切らないといけない…のだが…

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!」

 

 男子諸君の歓喜の声が聞こえ、何事だ?と思いつつも、飛鳥はクラスから出て行こうとすると…

 

「水樹くん?いらしたんですね」

 

 その男子諸君の歓喜の声が聞こえた方向からなにやら男子とは違うおしとやかというか優しげという風な声が聞こえてくる

 

 僕は視線をそちらに向けるとニコッと笑みを浮かべる可愛いキャラクターの巾着袋に入ったお弁当二つを手に持ち、こちらに歩み寄ってくる唯の姿がそこにはあった…

 

「き…軌条先輩…?」

 

 何故唯がここに来ているのか?何故、飛鳥のクラスを知っていたのか?ということに困惑しながらも、まずは、ここから離脱しないとということだけが、飛鳥の頭の中にはあった

 

 なぜなら、飛鳥を見える男子生徒の嫉妬にまみれた視線と…

 

「なんであの水樹に軌条先輩が!!!!」

「あの孤高で美しい先輩がアイツなんかに微笑んでんだよ!!!」

 

 などなど…とんでもない言葉が飛んでくる

 飛鳥は学園のことに興味を示さない…というか知りたくても示せないため、情報を知らない上に、友人は学園内でも幼馴染の玲羅のみという現状…だからこそ、目の前にいる軌条唯のことはまったく知らなかったわけで、この2学年で唯が人気であるということなんてまったく知らなかった

 

 そして現在…

 

「一緒に昼食をとりませんか?ご迷惑でなければ、食べていただいてよろしいですか?」

 

 と昼食のお誘い+軌条先輩手作りのお弁当というイベントが発生した

 飛鳥は一瞬受け取るのを戸惑いはしたが、ここで受け取らずにという勇気もなく、飛鳥は受け取る

 

「ありがとうございます///」

「では、屋上に行きましょう、今の時期ですと風が気持ちいいですよ?」

「はい」

 

 そして、飛鳥はクラスの中でこれ以上いたら、眼力でクラスメイトの男子から殺されると思い、早々に唯と一緒に出て行く…

 だが人生そんなに甘くない…

 

「その人が軌条先輩?」

「うげっ……玲羅……」

 

 そう…今度は幼馴染の眼力に殺されそうなのだ…

 出た瞬間、唯と同じように二つの弁当を持った玲羅がいるではないですか

 

 飛鳥は唯の弁当を受け取っていた…

 基本クールな表情の玲羅が、怪訝な表情のまま、飛鳥の持つお弁当を見据えていた

 

「初めまして、軌条唯と申します」

 

 ただ、そんな修羅場の中で一人天然なのか物ともせずに、自己紹介を始める唯

 さすがの玲羅もキョトンとした表情へとかわり、次に呆れた表情へと変わり…

 

「白銀玲羅…よろしくお願いします…」

 

 とりあえず自己紹介をする

 ただ、正直飛鳥的にはこの天然さに少し助けられたような気がしたりもしてた

 ここで上手いこと逃げることができたらと思い、玲羅と唯が見ていない隙にそっと逃げ出そうと考えたが…

 

「水樹くん、白銀さんも一緒でもいいでしょうか?」

 

 だが、一瞬のうちに捕捉

 逃げ出そうと考えていたのが玲羅にはばれたのか、一瞬のうちに表情に表れる

 

「はい…どこなりと連れて行ってください…」

 

 飛鳥はもう諦めて二人に連行されることを覚悟する

 後…そこまで大食いではないのだが、唯と玲羅の二人のお弁当を食べるという覚悟も…

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 屋上に来ると地面にレジャーシートを敷く飛鳥

 最初は唯がレジャーシートを敷こうとしていたが、さすがに先輩にやらせるのは気をつかった飛鳥は自分からレジャーシートを敷くことにした

 

 そしてレジャーシートの上に飛鳥、唯、玲羅の3人で座りお弁当を開く

 飛鳥はまず唯のお弁当を開けてみると中は健康に気を使っていそうなヘルシーな献立となっていた

 中でも目玉はきんぴらゴボウとちゃんと鮭の身をほぐして作ったであろう鮭の身がふんだんに混ぜられたおにぎり…正直、これを食べれるなら生きてて良かったと思えてくる

 

「おいしそうです!!軌条先輩のお弁当!!!あ…あぅ…」

 

 あまりにテンションが上がり、飛鳥は満面の笑みを浮かべるも、玲羅にキッと睨まれ、また萎縮してしまう…

 

 そして、飛鳥は次に慌てて玲羅のお弁当を開いてみるもこれビックリ

 玲羅の姉とは違い、玲羅はちゃんと普通に料理ができるほうだということは幼馴染として当然の情報だったが…

 

 開いてみるとちゃんとバランスを考えられた献立のお弁当

 目玉は飛鳥の好物でもある鶏のから揚げと出汁巻き卵

 幼馴染にお弁当を作ってもらうというのもなんか恥ずかしくて回避したいことだったが…

 

「玲羅!!!すんごいおいしそうだよ!!!」

 

 飛鳥がそう素直に伝えると、玲羅は滅多に笑みを浮かべないが、嬉しそうに笑みを浮かべていた

 

「お弁当のお披露目は済みましたし、食べましょう♪いただきます。」

「「いただきます」」

 

 そして、唯のいただきますの音頭と共に、飛鳥と玲羅も続く

 飛鳥はまず玲羅の作った鶏のから揚げを頬張る…

 弁当だから当然冷めていて当然なのだが…

 

「なんていうんだろう…味に深みがあってこの鶏のから揚げ美味しい!!」

「そう…」

 

 正直飲み込んでしまうのがもったいないと思うほど美味しかった

 飛鳥は玲羅を見据え、ちゃんと美味しいと伝えるが玲羅はソッポを向き、イソイソと食事を進めていく

 

 そんな様子に飛鳥はらしくないと疑問に思いつつも、次にご飯が欲しくなり、唯が握った鮭の切り身をほぐしたおにぎりを一口頬張る

 

 鮭のうまみと辛すぎない塩使いが美味く、あと美人に握ってもらったおにぎりということが男心により+アルファして、ほんとに美味しい!!

 

「軌条先輩が握ったおにぎりほんと美味しい!!!」

「ありがとうございます水樹くん」

 

 飛鳥は唯に視線を向けるとまた満面の笑みで美味しいと伝える

 もちろん唯も苦労して作った甲斐があったと喜びを感じ、唯もまた満面の笑みを浮かべる

 

 そうして、3人でなんだかんだで楽しくお弁当を食べていた

 飛鳥はこんな感じで何もなく済むと思い、飛鳥はお弁当をなんとか完食し終えると、来る前に買ったお茶を一口飲み一息つく

 

 すると…

 

「さて…では本題に入ります…」

 

 玲羅が真剣な表情に戻り、唯を見据える

 この現状を見て飛鳥は何が起こるかわかったのだが、唯はきょとんとした表情のまま玲羅を見据える…

 

「玲羅!!!」

「黙って…飛鳥…」

 

 飛鳥は何とか玲羅を止めようと叫ぶも、玲羅に遮られる

 その姿を見て唯もただ事ではないと理解できたのかだんだん真剣な表情へと変わっていく

 だが…

 

「それと…飛鳥に聞かれたくないから…席を外して…」

 

 飛鳥はなんとか仲裁したいと考えたが、玲羅から下されたのは退場命令

 何か反論したい…ここにいて僕がヘタレだから起こったこの出来事をなんと収めたいと考えたが、玲羅の表情から、それを許してくれるという雰囲気ではなかった…

 

 飛鳥は俯き、立ち上がろうとした…

 

「大丈夫ですよ水樹くん…貴方のせいではありません…だから悲しまないでください。」

 

 飛鳥は唯に優しく撫でられ、涙が溢れそうになる

 自分の無力さ…自分のヘタレさ…確かに玲羅にも聞かれたくないことの一つや二つはあるかもしれない…それでも…互いにぶつかり合うということを止められないことに、飛鳥は悲しみを覚える

 

 だが、ここで自分が居座っても何も解決できない…ただの自分のわがままだということを理解した飛鳥は悲しくても、その場からいなくなる選択を選ぶ…

 

 飛鳥は屋上出入り口から室内へと入っていくと俯いたまま、歩みを進める

 こんな表情…誰にも見せられない…

 クラスに戻ったら、出るときに騒ぎを起こした分、笑いものにされることはわかっている…なら…どこに行く?…行く場所なんてない…

 

「おっ…いたいた…おい水樹!!ちょっと先生に付き合…お前どうした?」

 

 そう思い、三階に差し掛かったとき、飛鳥は自分の担任教師でもある赤渕眼鏡が特徴的でウェーブのかかった茶髪ロングヘアの女性 森嶋千尋と遭遇した

 

「ぜんぜい……」

 

 その担任教師と遭遇した瞬間、今まで堪えてきた涙が決壊し、飛鳥は涙を流し始める

 千尋は飛鳥に近寄ると、ため息をつきつつ、飛鳥の頭を不器用に撫で…

 

「行くぞ…お前も見られても嫌だろ?少し二人で話すぞ…」

 

 千尋はちょうど二階にある自分の管理している特別教室へと飛鳥を連れて行く

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 その頃…屋上では…

 

「それで、話とはなんでしょうか?」

 

 レジャーシートの上で二人とも上品に飛鳥と同じく、上がってくるときに買ってきた紙パックのお茶を一口飲み、そして、唯は問いかけ、玲羅は静かに口を開く…

 

「何故飛鳥をチームに勧誘したの?」

 

 玲羅はまず唯に問いかけ、一呼吸置き…

 

「飛鳥とは違い、私は学園の噂には敏感で、貴方の噂は聞いています…」

 

 玲羅のこの言葉に、唯の表情に一瞬ピクリと反応が見えた

 それを玲羅は見逃さない…

 

「飛鳥を……殺すつもりですか?」

「違います!!!!そんなつもりはありません!!ただ私は水樹くんの人柄に!!」

 

 玲羅の言葉に、唯は声を荒げ、否定する

 だんだん唯の真剣だった表情は悲しみへと変化する

 それに対して玲羅の表情は冷たい無表情へとだんだん変化していき…

 

「そう……軌条唯…去年の12月…元チームメイト 新垣千鶴とAランクミッションを受けた際「やめてください!!!!!!」」

 

 玲羅はただ自分の記憶にものを読み上げようとする

 だが、それに耐え切れなかったのはもちろん唯だった…聞いているだけで俯き、耳を塞ぐ…

 

 でも玲羅は容赦なく唯の手を掴むと耳から強引に引き離す…

 

「アンタは新垣千鶴の制止の声も聞かず、犯人の盗んだ美術品を取り返そうと一人単独行動に出たために新垣千鶴が異能を使って割って入り」

「いやあああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

 

 そして、忘れたい過去として自分の心に刻まれた唯にとっての悪夢をただ玲羅は聞かせ続けようとする

 

 たとえ、唯の中のパンドラボックスを開き、泣き叫び…精神が壊れようとも…

 

「重症を負い、病院に運ばれるも死亡…学園側から下されたのは二週間の停学、一部からは退学という処分という意見もあったが現理事長と校長の心に傷を負った異能者を退学処分にし、追放するより、停学処分とし、教育し直したほうがいいという処置に落ち着いた…」

「うっ…あぁ…」

 

 玲羅は悲しみに表情を歪ませ、震えている唯を睨みつける

 まるで玲羅の怒りに呼応するように風が吹き荒れ、唯の髪をバサバサと強く靡かせる

 

「さっきまではアンタの人柄を見るために様子を見ていたけど…アンタがその事件以来変わったかどうかはわからない…私はアンタを深く知らないから…でも…私は飛鳥が傷つく可能性があるのなら…そのすべてを打ち払う…たとえアンタを壊してでも!!!大切な幼馴染を傷つけさせはしない…」

 

 玲羅はそれだけ言い終えると、立ち上がり、屋上から出て行く

 ただ、残された唯は思い出したくなかった事実が今でも付きまとい、自分を孤独にする

 わかっていた…わかっていたが…

 

「私は…私は…うっ…」

 

 勝手に涙があふれ、唯は悲しみに押しつぶされそうになり、ただその場で蹲ることしかできなかった

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 飛鳥が先生に連れてこられたのは理科準備室

 実験器具が整理しておかれた棚や薬品などが納められた棚などがあり、中央には実験などに使うテーブルがあり窓際にレポートなどをまとめる用だろうか?職員室でありそうなデスクがあり、その席に座る千尋と、その隣に用意されたパイプ椅子に座る飛鳥

 

「まぁ、お前の様子を見ると既に一悶着あったみたいだな?」 

「はい……」

 

 飛鳥は千尋の問いかけに素直に頷き答える

 飛鳥は恐る恐る千尋に視線を向けると、何があったのか、理解している…そんな表情をしていた

 だからといって何もいえない…僕には何も出来ない…

 飛鳥はそう考えているのか、口をつぐむ

 千尋は一度ため息をつき…

 

「お前、昨日軌条とミッションしたんだってな…」

「………はい…」

 

 千尋はデスクの上に飾られているフラスコを弄りながら、横目で飛鳥に視線を向ける

 また飛鳥は俯きながら、頷くしか出来なかった…

 

「別にアイツとミッションをしようが、私は何も文句は言わないさ…むしろアイツにとっては少しの成長だろう…」

 

 千尋の言葉に飛鳥は少し引っかかり…たぶん玲羅が話しているであろうことの関連することだろうと思い、喉元まで言葉が出かけたが、そんな人の心に侵食するようなこと…度胸のない飛鳥には出来ないことだった

 

 そんな飛鳥の心境を察してなのか、千尋はため息をつきつつ…

 

「1年私はお前を見てきた…たぶん、自分にはどうせ何も出来ない…そう考えていたんだろう…」

「っ……」

 

 完全に図星だった…

 先生に見透かされている…そう感じたのか、飛鳥は恐る恐る千尋に視線を合わせ…

 

「だって…僕には対して力がないんです…パイロキネシスも基本的にすぐガス欠してしまいます…だからただ腕に少し纏うだけで実際使い物になりませんし…学科も最低ライン…実技も落ちこぼれ…人間関係も構築できない…そんな僕に…何が出来るって言うんです…」

 

 今にも泣きそうな表情で呟く

 そして、千尋は呆れた視線を飛鳥に向け…

 

「あっ!!!?」

 

 飛鳥に軽くデコピンをする…軽くといっても、千尋の力加減のため、元来力が強く、男子生徒も軽く相手する千尋のデコピンは飛鳥にとって強烈…泣きそうになるくらい痛い…というかもう涙目である

 

「だから学校を辞めようと考えていた…か?」

「うっ…」

 

 そんなところまで見透かされていたのか…と飛鳥は内心思いながらも、後ろめたさから、視線を千尋から外す

 だが、腕の力で無理矢理視線を合わせられ…

 

「お前の問題はそのマイナス思考な所だ…別に力量なんて関係ないさ…大事なのは心だと思うがな私は…」

 

 千尋は笑みを浮かべ、そう答える

 飛鳥は自分の心…と言われ、何をどうしたいのか…考える…

 でもすぐには浮かんでこない…

 

「でも…僕は…」

「まぁゆっくり考えろ…いっておくが…今のお前の悩みの数倍…軌条は悩んでいるぞ…それこそ一度精神が壊れかけるくらいにな…」

 

 それだけ千尋は言い残すと、飛鳥の頭を不器用に撫で立ち上がり、次の授業の準備を始めた

 飛鳥は一瞬少しだけ見ていようかなと考えたが、そんな気分でもない…むしろ早くこの部屋から脱出したい…そう思い、立ち上がると、一度頭を下げ、部屋から出て行った

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 今日は玲羅が部屋に来ることはなかった

 クラスに向かって玲羅がいるかどうか確認したが、先に玲羅は帰ったらしく、姿が見えなかった

 クラスの人に聞こうとか考えたが、僕の姿を見ると嘲笑を受け、話しかけることも出来なかった

 出来損ないである自分が普通の人に話しかけるなんてできないからと…

 そのため、結局真っ直ぐに家に帰ってきた

 でも何をするわけでもなく、ただベッドに寝転び、天井を見つめていた

 

「大事なのは心…か…」

 

 千尋の言葉を頭の中で反芻する

 でも答えがすぐ出るわけでもなく、ただ、胸の中でモヤモヤとしていて、ため息だけが漏れる

 そして、もう一つ…

 

「僕の悩みの数倍、軌条先輩は悩んでいる…」

 

 飛鳥は、唯の踏み込んではいけない部分…そう思いながらも、唯のことを思い浮かべる

 わかっている…飛鳥自身の悩みを解決するために与えられたチャンスであり、自分が変わるためのチャンスでもある…そう思えた

 だがまだ一日二日くらいしか会ったことがない唯

 もしかしたら、チームに誘ったのも何かの策略なのかもしれない…そんな不安がないわけではない

 

「あぁ!!!もうわかんないよ!!!!!」

「昨日からうっさいわよ飛鳥!!!」

 

 頭の中がこんがらがり、思わず叫んでしまった飛鳥

 それと同時に、扉がガンとものすごい音を立てて開き、金髪セミロングヘアで前髪で片目を隠した女性がずかずかと飛鳥の部屋に侵入してきた

 

「あ…あああああ亜栖葉ねえさん…」

「あんた相当絞められたいわけね…」

 

 今は亜栖葉姉さんに絞められている場合じゃないのに…

 そんな風に思いながらも、片隅では、学校であった案件のことを考えていた

 千尋の言いたいことは理解できた

 つまりは何をしたいのか…それがわからないからモヤモヤしているんだろう

 

「何悩んでんのよ…あんた…」

「ふぇっ!!?」

 

 飛鳥は思わず上ずった声をあげてしまう

 飛鳥はここ17年間…小さい頃以外は基本的に姉にこんな優しい問いかけをされたことは滅多にない…というか皆無だと言ってもいいと思っている

 

「はぁ…聞いてあげるわよ…今日から父さんは出張、母さんはその付き添い…親代わりのことを出来るのは私だけだし、聞いてあげるわ?」

 

 優しく微笑む亜栖葉

 その姿を見て、飛鳥は涙ぐんでしまう

 でもさすがに実の姉の前で泣かされるのは…まぁ他人の前でもそうだが、泣くのは嫌だ

 だからこそ、必死に堪え、亜栖葉に視線を合わせると

 

「ありがとう…姉さん、えと…」

 

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 翌日となり、飛鳥は今までの自分では考えられない行動をとっている…と思いながら、学年別に分かれている校舎…三学年の校舎に向かっていた

 このスキルネイチャースクールの校舎は円を作るように集まっている

 守衛が駐屯している校門を抜けるとお客を迎えるためにも見栄えのいい、庭園があり、そこを抜けると校舎が見えてくる

 1番最初に見えるのが一学年の校舎

 その左隣に2学年、右隣には職員校舎、そして、2学年の左隣に3学年、3学年の左隣に4学年、4学年の左隣に5学年という形で校舎が建っている

 その立ち並ぶ校舎の中央に学年それぞれの玄関があり、そこから学生たちはそれぞれの校舎へと向かうことになる

 

 いつもなら、登校してそのまま2学年の自分のクラスへと向かうのだが、一瞬迷いながらも、3学年の校舎へと向かう

 3学年の校舎も雰囲気は変わらないが、下級生が入ってきているということで注目だけはいやがおうにも集まってしまう…でも気にしている場合ではないと自分に言い聞かせつつ、昨日の夜、千尋と連絡を取り、唯のクラスを聞いた飛鳥は唯のクラスでもある3組へと向かう

 

 そして、教室の前まで来ると、大きく深呼吸をする

 今から上級生の教室にはいるのだ…ただでさえヘタレの飛鳥は緊張してしまう

 でも今日はやるべきことがある…なけなしの根性を搾り出し

 

「ああの!!!!軌条先輩いらひゃいひゃひゅか!!!」

 

 扉を開き、叫ぶ

 だが、あまりにも緊張しすぎて若干噛んでしまって後半かなりおかしくなった

 あまりに恥ずかしくなり、俯こうとしたとき、窓側の1番前の席にいる唯と視線があった

 唯は悲しみを押し殺すような不安定な笑みを浮かべ、一度お辞儀をする

 飛鳥は意を決して、一度お辞儀をしてから、教室の中に入り、唯の前まで歩み寄る

 

「おはようございます、水樹くん」

「おはようございます、軌条先輩」

 

 互いに挨拶を交わして、飛鳥はまた大きく深呼吸をする

 今にも緊張で倒れそうな飛鳥は早く用件をと思い…

 

「軌条先輩…今日の放課後、二年の屋上で少しお話をしませんか?その時にあの時の答えを出します…」

 

 飛鳥はそれだけを伝えると、唯は一度俯き、考えるよな素振りを見せる

 玲羅との間で何があったのかはわからない…

 でも今の唯の様子を見ているだけで只事じゃないことが起こっている事は理解できる

 だからこそ…

 

「絶対に来てください!!軌条先輩!!来てくれないのなら、何度でもお誘いに参ります!!」

 

 それだけ言い残すと、足早に教室から出る

 教室から出て、飛鳥は緊張が最高潮に達したのか、すれ違う上級生たちと視線をあわせることも出来ず、俯いて早歩きをする

 

「キャッ!!?」

「ごっごめんなさい!!!!!」

 

 勿論前を向かずに早歩きなんかしてたら、誰かとぶつかることは当然のこと、飛鳥は慌てて頭を下げて、三年の校舎から出る

 でも本番はこれから…そう思いながら、飛鳥は時計で始まりのHRまでもう少しということに気づき、自分の教室へと向かった

 

 

 

 

 

 時間は昼になり、飛鳥は一人学食で昼食をとっていた

 亜栖葉からお小遣いをもらい、景気付けに学食でもたべなさいなといわれたため、甘んじて今日は学食で食事

 いつもなら周りの目を気にして、学食に来ようとも考えないのだが、今日はそれ以上のイベントが待ち構えている…いつも隠れて一人でしているギャルゲの主人公の気持ちが…今ならわかる気がする

 そう思っていると…

 

「向かいの席いいかしら?」

 

 顔を上げると知らない上級生から話しかけられた

 マントの色からして3年…そして、マントには黒い炎のデザインが施されていた

 つまり、チームを組んでいるという証

 チームを組むと同時にチーム内でデザインを考え、学校側に新生すると一週間ほどでマントへの刺繍は完了する

 

「あ…はい!!!」

 

 茶髪ショートヘアで七三の比率で髪を流した前髪のスリムな体型の女性…

 飛鳥は少し緊張しながら、早めに食事を終わらそうと、天ぷらそばを啜ろうとした

 

「貴方三年の中で噂になってるわよ?」

「ふぇっ!!?」

 

 が、啜ろうしたそばを汁の中にもう一度落としてしまう

 そして、どんどん飛鳥の体が震え始める

 いや…そんなまさか…僕の噂をするなんてありえないよ…だって僕は無能で何も出来ない…とそこまで考えて、飛鳥は思考が戻される

 今日自分がした暴挙…いつもなら絶対にしないことを…

 

「えともしかして…」

「そ♪今日の朝から持ちきりよ♪」

 

 どうやら今日の朝から一気に広まったとのこと

 飛鳥は今にも気を失いそうだが、必死に堪え、とりあえず滅多に食べれない学食を食べてしまおうと再び、麺を箸でつまむが…

 

「死神に声をかけた勇敢なる下級生として…ね」

 

 今度は別の意味で固まってしまう

 もしかして…軌条先輩のこと…なのだろうか…と飛鳥は思いながら、視線を目の前の上級生に合わせる

 

「これは上級生としての忠告…たとえ、見た目が綺麗でおしとやかであろうとあの子は死神…好意を寄せるのは勝手だけど、ほんとにやめた方がいいわ…」

 

 真剣な表情で忠告してくる上級生

 これは何かある…そう思い、今のうち情報を集めた方がいいのか…一つの選択肢として、飛鳥は考えたが…

 

「えと…好意かどうかはわかりません…でも、あの…死神だなって…僕は思いませんだから、失礼します…」 

 

 飛鳥は選ばなかった

 そして、去ろうと考えたが、上級生に手を掴まれ、再び視線を向けるとその上級生の瞳の奥から何か異様なものを感じた

 

「あの女と一緒にいたら…貴方死ぬわよ…あの女は任務中一人の上級生を殺した…」

 

 そして、聞かないと決めていた言葉を聞いてしまった

 飛鳥は驚きながらも、同時に千尋が言っていた言葉を思い出し、心の中で納得する

 これが…軌条先輩を悩ませてる原因だと

 

「そう…ですか…」

 

 飛鳥はそう呟くと同時に上級生から解放され、飛鳥はまだ中身が残っている食器を持つと、返却口の方へと歩みを進める

 返却口に食器を戻すと、振り返り、自分がいた席の方へと視線を向ける

 すると、上級生はニコッと笑みを浮かべ、飛鳥に手を振る

 飛鳥は一度お辞儀をすると食堂から出て行く

 不可抗力ではあるが、飛鳥は唯が悩んでいるであろう原因を知ってしまった

 昨日の夜亜栖葉に言われた言葉…あんたの思うがまま行動しなさい…その言葉と千尋の大事なのは心…という言葉、後は自分がどうしたいのか…飛鳥はその答えを出すためにの残りの放課後までの二時間必死に考え始めた

 

 

 

 

 放課後になり、飛鳥は二年生校舎の屋上へ到着する

 するとそこには…

 

「玲羅…」

「今日は邪魔するつもりはない…ただ、私は聞きに来ただけ…」

 

 玲羅が屋上の中央で立っていた

 玲羅の言葉を信じて、飛鳥は周りを見渡す

 まだ、軌条先輩は来ていない…飛鳥はそう思いながら、玲羅の隣に並ぶ

 

「君が何をしたのか…それはわからない…でも軌条先輩は悲しそうな顔をしていた…」

 

 飛鳥がそう呟くと、玲羅は飛鳥に視線を合わせ真剣な表情で

 

「そう…でも私はアンタのためなら…なんでもする…」

 

 そう呟く

 飛鳥はその言葉を聞いた瞬間、幼い頃のことを思い出し、すべてが繋がった

 玲羅は飛鳥と違い、情報に鋭い

 だからこそ、前もって唯の情報を聞いていれば、予防線を張ることが出来る

 自分を守るため、玲羅が予防線を張るために唯を傷つけた…そう考えると玲羅を怒る気にもなれず、悪いのは弱い自分だ…と飛鳥は思い

 

「ありがとう…そして、ごめん…」

 

 お礼と謝罪を言って、開く屋上の扉に視線を向ける

 すると夕焼けの光に照らされた唯の姿が飛鳥の視界に入ってくる

 僕に何ができるんだろうか…軌条先輩を救うなんてこと…できるわけないのに…心の片隅で、飛鳥はそう思っているが、そんな弱い心を頑張って振り払い、歩み寄ってくる唯に飛鳥も自ら歩みを進める

 

「水樹くん…私考えたんです…チームへのお誘い…白紙に戻させていただきます…」

 

 唯の言葉に、飛鳥は一度俯く

 少しは予想していたが、やっぱり面と向かって言われると悲しい

 飛鳥としては、幼馴染の玲羅以外からチームに誘われた…それが嬉しくて内心喜びと幸せで満ちていた

 だからこそ、白紙に戻させていただきます…この言葉は飛鳥の心をえぐるほどに悲しかった…

 

「昼休み…食堂で言われたんじゃないですか?私に関わらないほうがいいと…」

 

 食堂に唯もいたということに飛鳥は再び驚きながらもコクリと頷く

 

「私は…死神ですから…戦いとなると周りが見えなくなって、気づいたら目の前で大切な親友が…死んでたんです…」

 

 後輩に情けないところを見せられない…という風に唯は微笑みながらも、頬を伝う涙は嘘をつかない…

 痛いほどに悲しいのだろう…平静を保とうとしているが、それが出来なく体は震えていた

 

「白銀さんを責めないであげてくださいね…あの子は水樹くんのためを…あ…」

 

 そんな唯の姿を見た飛鳥は力強く唯を抱きしめる

 さすがにそれを見ていた玲羅も驚きを隠せなく、勿論抱きしめられている唯も驚きで思考がフリーズしていた

 

「僕…悲しいことがあるとよく姉さんにこうして抱きしめられていたんです…小さい頃、玲羅の姉と喧嘩したとき、大切な勝負で完膚なきまでに負けた時…昨日僕が何も止めることが出来なくて千尋先生に慰められて、悩んでいたときも…」

 

 飛鳥は唯のサラサラの長い髪を撫でながら、自分の頭の中で必死に整理をしながら、唯に伝えたい言葉を選ぶ

 

「僕実は…学校辞めるつもりだったんです…」

「えっ…」

「飛鳥…」

 

 唯は驚き、顔を上げ、飛鳥の視線と合う

 飛鳥の背後で玲羅も驚き、動揺していた

 

「でも…貴方に助けられたんです軌条先輩…初めてミッションの手助けを…っていっても流れでですけど、したあとに、軌条先輩とファミレスに行って、初めて玲羅以外にチームに誘われました…あの出来事から僕は…あれ以来何も考えられなかった僕の中に誰かの助けをしたいって少しですけど浮かんだんです…だから、今の僕がいます…」

 

 飛鳥は大きく深呼吸をして、再度唯に視線を合わせる

 よく見ると本当に唯は綺麗で動揺してしまいそうになるが、今はそんなことしている場合ではない

 

「僕は困っている人…悩んでいる人を助けたい…昔憧れていた救世主って存在のように僕は誰かを救世したい…だからってわけではありませんが、身近に悩んでいる人がいるんです…あの時貴方が猫を助けたように僕は貴方を助けたい…軌条先輩、僕とチームを組みませんか?勿論玲羅も…3人でチームを組みましょう!いえ…組みます!」

 

 飛鳥は今まで考えていたことをすべて吐き出した

 授業中も今もずっと考えていた

 どうしたら、軌条先輩と玲羅を助けられるのだろうか?

 軌条先輩は誰かを任務中に亡くしてしまって悲しんでいる…そしてそれにより、学校では孤立している

 玲羅は僕のために鬼になり、嫌われ役を買って出た…勿論辛いはずだ…普通に嫌われるだけでも相当に辛い…

 だったら、3人で気持ちを分かち合えたら…一人より二人…二人より三人…それが、飛鳥が出した答え…飛鳥はマイナス思考な考えかもしれないが一人で支えきれるなんて思わなかった…だから、仲間全員で誰かを支えられたら…みんなは一人のために、一人はみんなのために…飛鳥は昔から玲羅と玲羅の姉の茜と一緒にいるとき、よく好きだと話した言葉

 その関係をみんなで築けたらいい…それが飛鳥なりに出した今回の問題の回答

 

「でも私は…」

 

 唯はまだもう一歩踏み出せない…そんな様子だったが…

 

「こうなったら強情なんです飛鳥は…唯先輩…」

「白銀…さん…」

 

 玲羅の言葉に、唯は驚きながらも、涙を流し始める

 

「玲羅で構いません…私自身貴方の傷をえぐった罪の償いもしないといけない…飛鳥と一緒に支えさせていただきます…まだ信じられるかどうかはわかりませんが、貴方の人柄だけは信じます」

 

 玲羅は微笑み、唯のことをしっかりと見据える

 飛鳥はニコッと唯に微笑みかけ…

 

「さぁ、後は唯先輩だけですよ♪」

 

 少しだけ、唯の後押しをする

 すると唯は静かに涙を拭い、静かに飛鳥を見据える

 

「わかりました…チームを組みましょう…私のことは唯と呼び捨てで構いません、これから仲間なのですから!」

 

 そして最後に、唯の満面の笑みを見ることが出来た

 飛鳥と玲羅はその笑顔に釣られて、満面の笑みを浮かべた

 

 

 

 

 それから、食堂のオープンカフェスペースで飛鳥、唯、玲羅の三人で決めなければいけないことを決めていた

 チームを組むにはまず、チーム名からリーダー、マントに描く刺繍のデザイン、どういう風に活動するかを教師からもらう申請書に書かないといけない

 そして、申請書は校長、理事長へと渡り、許可をもらえれば無事チームを組むことが出来る

 

「まずリーダーね…これは…」

 

 玲羅が仕切る中、申請書の作成は進められていく

 飛鳥はリーダーか…と考えつつ…頭の中で唯が1番いいかな?と考えていると…

 

「私は飛鳥さんが一番だと思います」

「そうね…じゃあリーダーは飛鳥と…」

 

 満面の笑みで唯に推挙される飛鳥

 そして、申請書に記入する玲羅

 一瞬のことで飛鳥はフリーズしたが、一瞬のうちに思考が復活し

 

「なんでなのさ!!リーダーなら唯さんが1番だよ!!僕なんて能力弱いし、何のとりえもないし!!」

 

 異議を唱える

 だが、玲羅はしれっとした様子で…

 

「あんたしか考えられない…むしろアンタが言い出したことなんだから責任取りなさい…」

 

 もっともなことを言ってきた

 そういえば自分が組むって言ったんだよね…と飛鳥はうなだれながら、何とかリーダーになるということを回避する術を考えようとするが、何も浮かばない…

 

「大丈夫ですよ、飛鳥さんはリーダーに向いています、能力なんかじゃない、仲間を思いやる心を持っています…それが私は1番大切だと思いますよ?」

 

 飛鳥の手を包み込むように掴む唯

 唯の手の温もりが飛鳥の心を癒やし、その効果もあってか…

 

「わかりました…僕でよかったら…そのリーダーをやらせてもらいます…」

 

 飛鳥は渋々ながら受け入れる

 玲羅が咳払いをすると同時に唯は慌てて、飛鳥の手を解放する

 そして…

 

「いっった!!!!?なんで蹴るのさ玲羅!!!?」

「なんかムカついた…」

 

 飛鳥は玲羅に足を蹴られ、潤んだ瞳で玲羅を見るが、玲羅はプイッとソッポを向き、申請書をまとめることに集中する

 

「次は活動目的…これは飛鳥が唯に言った誰かを救世したい、守りたいってことから考えて、困った人の手助け、探し物から護衛、戦闘任務まで請け負うでいいわね?」

「う…うん…」

 

 飛鳥は玲羅の言葉に戸惑いつつもコクリと頷く

 戦闘任務を請け負うということは、これから授業以外にも戦闘訓練を受けないといけないということになる…あと、普通の探し物任務だけならつく必要はないのだが、学生という身分だけで戦闘任務に就くのは危険極まりないということから、部活の顧問のような立ち位置、管理者として先生がつくことになる…それだけ、戦闘任務を請け負うということは責任が付きまとうのだ

 

「迷っているのなら…受けない方が身のためですよ?戦闘となると何が起こるかわかりません…それこそ飛鳥さん…貴方が命を落とす可能性が高い…」

 

 唯は真剣な表情をしていた

 そりゃそうだろう…戦闘任務で親友を失っているのだから…

 飛鳥は大きく深呼吸をし…

 

「それでも僕は…唯さんみたいに悲しい想いをしている人を助けたいと思います…だから…戦闘任務も請け負います…」

 

 真剣な表情で唯をしっかりと見据えて答える

 飛鳥の回答に唯と玲羅は少し心配そうな表情を浮かべていたが…

 

「それが飛鳥さんなりの答え…なのですね…」

「はい…」

 

 唯の再度の問いかけに飛鳥はしっかりと頷き、玲羅からペンを借りると、自ら活動目的記入欄に困った人を助けたいという理由から探し物から護衛、戦闘任務なんでも請け負いますと記入した

 飛鳥自身が決めたということで、唯と玲羅はこれ以上何も言うことはなかった

 

「刺繍デザインはどうしますか?出来れば…」

 

 唯は鞄の中から、スペアのマントではなく…

 一本の渦を巻き肩の方へと伸びた線とその上部に湾曲した線が刺繍された今までチームを組んでいたときに使っていたであろうマントが出てきた

 つまり、亡くしてしまった親友とデザインした刺繍の上から新たな刺繍を生み出してもらいたいということなのだろう…

 

「飛鳥さんも千鶴と同じ目的を掲げています…そして、私としても千鶴の意思を継ぎたいです…よろしければ…この刺繍を元に新たなチームデザインを作っていただけませんか?」

 

 唯は申し訳なさそうな表情をしていたが、飛鳥は迷うことなく頷く

 

「わかりました…では…えと…こんな感じでどうですか?こうやって線を増やしていって…翼のような…守った人たちが羽ばたけるように…僕たちはその翼になる…そんな意味も込めて書いてみたんですが…どうでしょうか?」

 

 そして、飛鳥は線を増やしていき、翼のようなデザインを作り出す

 それを見た唯と玲羅は…

 

「素敵です…飛鳥さん…」

「うん…私もこれなら背負えるわ…」

 

 納得いったのか笑顔を浮かべ、何度も頷く

 飛鳥はホッとしたのか胸を撫で下ろし、最後にチーム名に視線を降ろす

 

「最後はチーム名…だね…」

「Salvation…英語で救済って意味よ…」

 

 飛鳥がチーム名を何にするか…と迷っていると玲羅は考えていたのか即答する

 飛鳥は重い名前だ…と思った

 救済ということは苦しむ人を助ける…キリストでは人間の罪や悪から解放し、真実の幸福を与えること…などとも言われている

 救済という意味の言葉を背負うということは僕たちは名前に負けない事をしないといけない…と飛鳥は心の中で考える

 

「重い名前…ですね…」

「そうね…自分で言ってなんだけど…私もそう思う…」

 

 唯と玲羅も飛鳥と同じことを考えていた

 チーム名はチームの指針…進む方向を示すものでもあると考えられる…かっこよさを求めて名付ける人もいれば、ノリでつける人もいるだろう…

 でも飛鳥たちは少なくともチームの指針を表すものだと考えていた

 だからこそ悩むのだ…でも

 

「それにしよう玲羅…えと…上手くはいえないけど…背負えるか背負えないかじゃないんだと思う…背負うか背負わないか…じゃないかな…僕は背負う努力をする…力は弱いし、とりえはないけど…背負いたい…」

 

 飛鳥は1番最初に玲羅の提案を受け入れた

 飛鳥の言葉を聞いたとき、玲羅は驚き、唯は優しく笑みを浮かべていた

 玲羅は飛鳥を少なくもと10年近く見てきた…ここぞという時の飛鳥の覚悟の強さを知っていたがここ五年近く見ていない…とある事件以来…次に飛鳥から唯へと視線を移すと玲羅は唯が笑顔を浮かべていることに気づき、唯が飛鳥のそういった内面に気付いていることに気付く

 

「そうですね…私もその名前、背負わせてください…飛鳥さん」

「はい!!」

 

 そして、玲羅よりも先に、唯は名前を背負うことを決意した

 玲羅は心の中でまた、少しだけ唯のことを認めつつ…

 

「私も背負う…飛鳥…」

「ありがとう玲羅!」

 

 玲羅もまた、チーム名を背負うことを決意した

 すべてが決まり、申請書を完成させると三人は、前もって買っていた紙パックのジュースで乾杯をし、飲み干すまで談笑し、それから職員校舎にある職員室へと向かった

 

 申請書を提出し終えると、同時に自分たちのマントを提出し、翌日わかる結果を待つ

 三人は翌日わかるであろう結果を心待ちにしながら、その日は三人とも帰路についた

 そして、その夜開かれた職員会議の議題で唯が再びチームを組むという議題に激しい論争が繰り広げられたが、千尋の言葉と校長、理事長両名の判断により、飛鳥たちのチームは無事設立された

 

 

 

 

 


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