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エデン〜創造と破壊〜  作者: 近山 流
第2章 天界
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天界大戦−奇襲の後−



「こ、こは………?」


目を覚ましたエリアが見たのは見覚えのない光景だった。明るい光りが照っていることからここは野外だと判断できるが、それ以外は何もわからない。


「目が覚めましたか?」


顔を覗き込んでくる人影。少しずつ目の焦点があっていき、その人影の輪郭も鮮明になってくる。


「……メイヤさん………?」


「メイヤでいいですよ。おはようございますエリアさん」


にこりと微笑む女性。


「あ、ああ。私のこともエリアでいい」


かすれ声だったが、しっかりと声がでたことに安堵する。だが、どうしてこんな状況になっているのかぼんやりとした頭を無理矢理使って思い出させる。最初は朧げだった記憶も次第に確かな物となっていく。天龍の襲撃。一斉攻撃を単身で防ぐリョウの姿。そして特大の攻撃を防ぐと共に崩れ落ちる。打つ手が無く絶体絶命の状況で現れたメイヤ。最後に見たのは自分を包み込む青い光りだった。


「……みんなは!」


思わず立ち上がろうとしてよろける。自分の足でないかのようにがくがくと震えるそれを無理矢理制御しようとすると、今度は酷い嘔吐感に襲われる。


慌てて口を抑えるエリア。そのおかげが寸でのところで最悪の事態は回避された。


「落ち着いてください。おそらく転移酔いです。あの空間は狭い範囲にかなりの密度の魔力が集まるので慣れていない方だとそのように酔ってしまうんです。少しの間安静にしていれば治ると思います」


そう言って、優しく手を添えエリアが横になるのを手伝う。


「すまない。ありがとう」


礼を言うエリアに優しく微笑みかけるその姿は天使のようだった。


「それでみんなは?」


「大丈夫です。ちゃんと全員いますよ」


「そうか………みんな無事か。よかった」


「ですが−−−」


口ごもるメイヤ。

その様子になにやら嫌な予感がしていた。


「そうだ。リョウは?リョウはどうなったんだ?」


メイヤは顔を伏せる。


「リョウさんは………まだ意識が戻っていません」

エリアは一瞬固まってしまった。メイヤの言葉が理解出来ない。


「詳しいことはリョウさんの所で話しましょう。なので今はお休みになってください」


「いや、そんな話を聞いて休んでいられるわけがないだろう」


即答での拒否。


「それもそうですよね。

わかりました。案内しましょう。立てますか?」


「ああ、もう心配ない」


酔いによる気持ち悪さもほとんどなくなり、もう立つことにも支障はなくなった。


すぐ横に立て掛けられていた己の愛刀を腰に携え、気持ちを一新する。


「またせたな。準備完了だ」


メイヤによって案内された場所はエリアがさっきまでいた場所とかなり離れていた。

エリアのいた場所は開けた場所にあり、ちらほらと他の天狼・天狐の姿も見られたが、この場所はまず位置からして森の中であり、樹木がおりなす緑のベールに囲まれていることもあり、何やら神聖な感じがする。

その中でリョウは眠っていた。その傍らには付き添うように寄り添っているリズとレナの姿。


「なんじゃエリアか」


なんじゃとはなんだ。と言い返そうとしたエリアだったがリズの様子を見て飲み込む。憔悴とまではいかないが、顔を不安の色で染め上げている。


「リョウはどうなんだ?」


リズは顔を伏せ


「魔法による治癒は終わっておるんじゃが…………」


「目を覚まさないんです。いつ覚ましてもおかしくはないんですけど………」


「外傷は治癒したが、目を覚まさないってことは………」


「魔力の使いすぎでしょうね〜」


エリアに続くようにして発せられた背後からの声。

聞き覚えのある声ではあったが、振り向くとそこにはやはり薄い金髪にエメラルドグリーンの瞳。そして特徴的な先の尖った長い耳を持つエルフの姿があった。


「あれだけすごい魔法を長時間使いつづけたんだ。そりゃ、魔力切れにもなるってもんだろ」


「リョウは後先考えないからね。そのおかげであたし達も助かったわけだけど」


アリシアに続いて緑のベールをくぐり抜けたのはネルとミーヤ。


「そうですね。リョウさんがいなければ私達はここにはいませんでした。

…………あの時私はなにもできなかった……」


悔しそうなレナ。何も出来なかった非力な自分。リョウがこのまま目を覚まさないかと思ってしまうと悔やんでも悔やみきれない。


「レナ、それは全員が思っていることじゃ。我も自分が苛立たしくて仕方がない。悔やむのはいい。じゃが大事なのはその先じゃ」


「その先ですか?」


リズは力強く頷く。


「まさかこのまま何もせずにそこで悔やみ続けるつもりか?」


リズの真意を理解したレナはバチンと自らの両頬を打つ。顔を上げたレナの瞳はもういつものものだった。


「はい。リョウさんが安心して寝ていられるようにですね」


「ああ、こいつにはちょっと休養が必要だ」


「だな。次は私達の番だ」


「まとまりましたね〜

では〜本題に入りましょうか〜」


「本題?」


疑問の声をあげるエリアとは逆に承知したとばかりに頷いたリズがメイヤに尋ねる。


「メイヤ、今の状況をわかる範囲でいいから教えてほしい。何故あのタイミングで来たのかも気になっていたしの」


メイヤは既に悟っていたのだろう。神妙な面持ちになると、ゆっくりと話し出す。


「わかりました。私の知っている範囲、といっても些細な物ですが、お教えします。


今は非常にまずい状況だと言えると思います。

まず、天龍軍の襲撃にあったのは天狼だけではありません。ほぼ同時刻天狐も天龍軍の襲撃にあいました」


「やはりそうでしたか〜」


アリシアは予想できていたようで淡泊な反応だったが、それ以外はみな驚いている。


「そしてその襲撃で同士の三分の一以上が戦闘不能になってしまいました」


「三分の一以上って………」


「天狐は天狼と比べると身体的能力はかなり低いのじゃ。もちろん耐久力もな。それだけを見るなら人間とさほど変わらん」


「リーズリット姫のおっしゃる通りです。私達天狐はあまりある魔力と技能の変わりに身体面の方はあまり発達していないのです」


確かにメイヤを含め天狐達は全体的に華奢に感じていた。いや、そう感じるではなくそうなのだろう。


「だから天狐は他に多くの隠れ家を持っているんです。ここもその一つなんですよ」


どこにあるかは言えませんけど、と付け足す。


「じゃあすぐにここへ?」


「いえ、すぐには無理でした。突然の攻撃に皆動揺して、指揮系統がめちゃくちゃになっていましたから。

それにここに来るには転移魔法が必要なのですが、転移魔法といっても万能ではありません。

詠唱が必要ですし、詠唱している間は無防備になってしまいます。いつ自分が攻撃に晒されるかわからない状況でそうやすやすと使えるものではありません。

詠唱なしで使えるなんてロキ様くらいです」


最後はなぜか誇らしげだった。だが、その表情はリズの一言で一変する。


「もう一人いるじゃろう?詠唱なしで転移魔法を使えるやつが」


その瞬間、なぜか寒気を感じた。発生源はメイヤ。表面状は笑顔だが、目は全く笑っていない。絶対零度の笑みだった。


「姫様、それは他言しないようにとお願いしたつもりですが?

いったいどういうおつもりなのでしょうか?」


「そう怒るでない。

別にこやつらに言ったところでどうとなる話でもないじゃろう。

それに我は天狐の内部のことなどどうでもよい。おぬしがその力を隠したければ隠せばよいしの。じゃが、今は少々事情が違う。我は主殿を守るためには使えるものは全て使うつもりじゃ」


リズの目を見てメイヤはため息をつく。


「本気のようですね………」


「当たり前じゃ。こんなところで嘘をついてどうする」


メイヤは再度ため息をつき


「わかりました。ですが、ロキ様の許可なくして使うわけにはいきません」


「それはわかっておる。言質をとっただけでも良いとしよう」


「ええと、さっきからなんの話をしてるのかな?」


耐え切れなくなったネルが思わずといった調子で切り込む。

みんな切り込む機会を伺っていたようで、ネルにグッジョブと指を立てる。


「よいか?」


メイヤはリズにジト目を送る。


「あれだけに言っておいていまさらですか。

仕方ありませんね……

ですが、くれぐれも他の天狐には黙っていてください」


頷きあう二人。他も話が掴めていないが、とりあえず承諾する。


「天狐の長の決め方は少し変則的での。

天狼は長を倒すか認められるか、つまり前長が決める形じゃろう」


「天狐の場合はもっとシンプルなんです。

天狼の爪。天龍の翼のように、天狐にはその象徴として尻尾があります」


ネル達はロキの体に不釣り合いな長い尻尾を思い出す。


「その尻尾の本数がすなわち、その天狐の魔力量を表します。つまり天狼でいうところの強さですね。

そして九本の尻尾、九尾を持つ天狐が長になるんです」


「その九尾ってのは先天的な物なのか?それとも後から鍛練でどうにかなるものなのか?」


「そうですね。やっぱり先天的なものが大きいです。もちろん鍛練で本数を増やすこともできますよ。それこそ血の滲むような鍛練が必要ですけどね」


「我が最後にロキとあった時はまだやつの尻尾は八本じゃった。やつが長になったと聞いた時は驚いたものじゃ」


短期間で尻尾を増やす。まして八から九にするというのは並大抵のことではない。ロキは本物の天才なのだろう。それこそ何万年に一人の逸材と言えるだろう。


「それとメイヤさんのことにどう関係が?」


わからないといった様子のネル。


「よく思い出してみろ。メイヤの尻尾の数を」


たしか……と眉をそばだたせ頭を捻る。


「八本の長い尻尾に小さな一本…………って九本じゃねーか!」


驚きのせいかつい声が荒立つ。


「つまり−−−」


「メイヤさんにも長になれる権限があるってことか」


メイヤは無言だった。そして無言は肯定の証でもある。


「長になれるのは一人だけじゃ」


ようやく話が繋がった。


「なるほどな。

そりゃ結構面倒なことになるな」


「もし九尾として認められてしまったら、掟によって、ロキ様と戦わねばなりません。

九尾が二人現れた場合決闘をして勝った者が長となるという決まりがあるんです。

ですが私は戦いたくありません。ロキ様と敵対するなどあってはなりません!

私はずっとロキ様と共にありたいのです」


だんだんとヒートアップしていくメイヤ。


「共にありたいってなんか愛の告白みたいだね」


そこは年頃の女の子というべきか。こういう話には敏感である。だが、メイヤは何を思ったのか首をふる。


「みたいではありません。愛の告白です。私はロキ様を愛しています」


世界が凍った。さっきの背筋が凍る感じとは違う。一言で表すとむず痒い。非常にむず痒い。

ミーヤとレナは顔を真っ赤にしている。なんとも初々しい反応だ。

これで終わったのなら冗談ですむ。だがメイヤはとまらなかった。

なにかスイッチが入ってしまったのかロキのいいところをひたすらエリアに話している。エリアの顔は完全に引き攣っていて、必死に笑顔で応じようとしているのだろうがその笑顔もいびつだ。

ネルはというと、よほどショックだったのか隅でいじけている。アリシアが慰めているようだが、時々追い撃ちをかけているようにも見えるのは気のせいだろうか。


そろそろ混沌としてきた頃だった。リズがそろそろ、いつになく饒舌なメイヤを物理的に黙らせようかと画策していた頃。

エリアに永遠とのろけていたメイヤがふと動きをとめる。怪訝そうに見つめるエリアの先、耳を数回ぴくぴくと動かす。


「ロキ様からこちらに来てくれないかとのことです」


どうやらテレパシーみたいなものだったらしい。


リズ達はアイコンタクトで確認をとりあうと


「わかった。…………じゃが主殿をここに残していくわけには」


「それなら私が残ります」


レナが挙手する。


「レナ……。分かった。主殿を頼む。すぐ戻って来るからの」


まかせてください、とレナ。


「それでは向かいましょうか」





程なくしてメイヤに案内されたそこには細長いテーブルが一つだけあり、ロキとリオルガルドが腰掛けている。

リズ達を案内したメイヤはそのままロキの背後に控えるようにして立つ。

リオルガルドの背後にはレガルスの姿がある。


「久しぶり〜て程でもないね」


ロキの変わりない綺麗な声。


「そうじゃな」


声に僅かな苛立ちが伺えるが、ここは我慢しているらしい。それもあってか和やかな雰囲気に包まれる。誰しもが平和的な話し合いになると思っていた。

だがここにはやつがいるのだ。最強のKY。確信犯的KY、ロキャーリア・フォン・ワーフォックスが。


「リョウ君ぶっ倒れて寝てるんだって?

まったく、やわだね〜」


ピキリとなにかが弾ける音がした。


「おいおい。そりゃないんじゃねーか」


ロキの言いようにネルの口調も喧嘩腰になる。


「リョウさんのおかげで〜あなた達も助かったのですよ〜そういう言い方は〜あんまりじゃないですかね〜」


アリシアの視線の先にはリオルガルドとレガルス。その口調もアリシアとしては珍しく、わずかではあったが荒立たしさが感じられた。

一番最初に爆発するだろうリズは案の定今にも飛び掛かりそうで、エリアとミーヤに抑えられている。リズと同じく直情型のエリアも爆発する心配があったが、それより先にリズが爆発したため、なんとかおさえることに成功したようだ。


一方リオルガルドは、はぁとため息をつく。


「ロキ、冗談はそのくらいにしておけ。お前も怒らせるのは本意じゃないだろう。それに怒らせたところでこいつらの判断力が鈍るとは思えん」


ロキは両の掌を上に向け首をふる。


「ほんとリオルガルド様にはかないませんよ」


「これでもお前のことは小さいときからよく知っているからな。これくらい当然だ」


いつものダメ親父モードではなく、しっかりとしたお父さんモードだった。


「父様、こんなことをして、なんの御用ですか?」


エリアとミーヤに宥められようやく落ち着いたリズが単刀直入に問う。


「そう焦らんでもいだろう?」


その言葉に怪訝な顔をする。


「父様らしくありませんね。なにか言いずらいことなのですか?」


リオルガルドは盛大に吹き出す。


「ははははは、俺らしくない、か。言うようになったなリズ。

お前がそういうのなら俺も勿体振らずに言おう」


言葉を切り、威圧感が増す。


「この件から下りろ」


「………………え?」


「聞こえなかったのならもう一度言う。この件から下りろ。今すぐにだ」





読了ありがとうございます。


今話の展開いかがでしたでしょうか。主人公が目を覚まさないあれですw


今話を書くにあたり凄く迷いました。最初はリョウが最初から目覚めているパターンで書いていたのですが、なんかつまらない。

半分くらいまで書いたところで目覚めないのもありかもと思いまして。ガラッとプロットを変更してしまいました。

この小説の基本スタンスはあくまで王道なので、こういう展開もありかな、と。

王道が嫌いな人もいるかもしれませんが、読んでくれるとありがたいです^^



では、

感想・評価・アドバイス・質問お待ちしております。



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