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エデン〜創造と破壊〜  作者: 近山 流
第2章 天界
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天界大戦−転移魔法−



「じゃあ僕たちは里に戻ります」


そう告げたのはロキ。そしてその周りには来た時と同様4人の護衛がついている。


「わざわざこちらまで出向かせてしまって悪かったな」


リオルガルドの謝罪にもいつものごとく


「いえ、こちらとしてもやるべきことがあったのでちょうど良かったです」

と輝くような笑みを浮かべる。


「やるべきことと言ったら、下民組と同盟を結んだことか?」


リオルガルドの言葉にニヤリと笑い。


「おかげさまでいい返事がもらえました」


お互いニヤニヤとしながら無言の探り合いをしている。そんなところは流石長というところだろう。


リョウは既にロキに同盟を受けることを伝えていた。

その時のロキの言葉は凄く印象に残っている。


よかった〜。これで、余計な死体を増やさなくてすんだよ!いや〜よかったよかった。

愛らしい顔に可愛らしい表情を浮かべながらそう言うのだ。リョウは背筋に何やら冷たい何かが這う気がしたとか。



沈黙が数秒続いた後。


「では、次は戦場であいましょう」


そうだな、と言ってコクりと頷くリオルガルド。


長同士の話が終わったのだろうか。ロキの視線の先にはリョウ達人間組。

ロキは一瞬リョウに微笑んでから


「リーーーズーーちやーーん」


リズに向けて手を振る。だが、リズはプイと横を向いてロキを見ようとしない。


「また来るからその時は一緒に遊ぼうねー!」


と手を振りつづけるロキに


「二度と来るなバカ狐!!」


ズバッと切り捨てるリズ。何故ロキはここまでリズに嫌われているのか逆に不思議になってきた。


「まったく、いつまでたってもツンツンしちゃって。何時になったらデレてくれるの?」


「未来永劫ないわ!

というかこれが普通じゃ。我はツンツンなどしておらん!」


そう言い張るリズにも


「もう。リズったら照れ屋さんなんだから」


どこまでもポジティブに受け取るのがどうやらロキらしい。


「く、このバカ狐。その尻尾切り捨ててやろうかの」


そうしてロキの体の半分はあるでろう九つにわかれた尻尾、九尾に展開した魔力爪を向ける。


「切り捨てるって、そんなことできるの〜?」


尻尾をゆらゆらとゆらしながら挑発的な声で言うロキ。リズは今にも飛び掛かりそうだ。

リズはプライドが高い。かなり高い。

そういう挑発をするから嫌われるのではないか。原因が見えてきた気がしたリョウであった。


そのままバトルが勃発するのかと思いきや、後ろに仕えていた天狐の女性がロキに耳打ちする。華奢だが、神々しい魅力を備えている美女の耳打ち。リョウが内心うらやましいと思ってしまったのは仕方のないことだろう。

まぁ、リョウの不穏な空気に気づいたらしいリズがロキに向けていた目のままリョウに視線を送ってきたため、すぐに天狐の女性からは目をそらしたのだが。


耳打ちが終わり離れていく女性。ロキは残念そうにしながら


「ストップかかっちゃった。

もう帰んなきゃいけないみたい。もうちょっと遊んでたかったんだけどなー」


リズの様子を見ているとどうやら遊んでいるつもりだったのはロキだけだったような気もするが。


「まぁ、また会えると思うしね。次は戦場かもしれないけど」


そう可愛く言い、最後にウインクまでつける。

そんな仕草もとっても似合っていて、なんとも愛らしいのだが、何だろうこのもんもんとした殺意にも似た苛立ちは。疑問に思うリョウであった。


ロキは先ほどの女性に目配せする。

すると女性はコクりと頷き、残り三人の天狐とアイコンタクトをする。どうやらこの女性が護衛のリーダーのようだ。


三人とその女性はロキを囲むように四方に立ち、右手の親指と人差し指、中指をぴんと真っ直ぐにたて薬指、小指を畳んだ形にして胸の前まで持ってくる。忍者が使う印によく似ていた。


そして、各々口を開きはじめる。おそらく詠唱をしているのだろうが、聞いたことのない言語だ。

エリアやレナを見てみるも不思議そうな顔をしているため、リョウだけが知らないというわけではないだろう。天界の言語だと思うのが妥当だろう。

詠唱が始まり、青く輝く巨大な魔法陣が五人の足元に広がる。


その輝きはだんだん強くなっていく。そして一際輝いたと思った瞬間、五人の姿は跡形もなく消えていた。



「転移魔法だと…………」


「どうかしたのか?」


戦慄しているエリアに問い掛ける。

だが、どうやら聞こえていない様子で、不思議に思い周りをみわたしてみるもリョウを除く人間組は全員あんぐりと口を開け、唖然としている。


「……………」


「おーい。エリアー大丈夫かー応答しろー」


目の前で手を上下にふっていると


「ひぁっ!」


驚いたような声をあげてようやく覚醒した。

しかし、自分が出した声がよほど恥ずかしかったのか、俯いてこちらを見ようとしない。

輝くような金色の髪からわずかに見える耳が真っ赤になっていることから、俯き隠されたその顔は相当大変なことになっているのだろう。

いくらかかけてようやく落ち着きを取り戻したエリアはこほんと咳ばらいを一つしてから何事もなかったかのように顔を上げる。


「どうしたのいきなり?

っていうか。みんななんかおかしいんだけど………」


リョウの手助けもあったためエリアは覚醒するのが早かったが、他の仲間達は未だ放心状態にある。


「どうしたのってお前、今のを見ていなかったのか!?」


「今の?」


「転移魔法のことだ!」


「転移魔法?

へえ、今のやつが転移魔法って言うんだ」


目を輝かせるリョウ。

伊達にこの世界に来るまでオタクをやっていたわけではない。

転移なんて聞いてしまうと、心躍るものがあるのだろう。

しかし、気になる点が一つ。


「転移魔法を使ってる人見たことないんだけどさ。なんでこんな便利な魔法があるなら使わないの?」


その疑問を


「アホ!使えるならみんな使ってるわ!

使いたくても使えないからロストマジックなんだ!」


と、ぶった切る。


「は、はあ。そんなに凄いものなんですか?」


「凄いなんてものじゃない!そんなこともわからないのか!

一回出直してこい!!」


両者の温度差、テンションの差には、それこそ天と地ほどのものがあった。

エリアのキャラが崩壊していることはひとまず置いておこう。


「いや、あの…出直してこいと言われましても…………」


そのテンションと暴走についていけずに、思わず敬語になってしまう。


そこでようやくエリアは自らの失態に気づく。


「あ、ああ。済まない。動揺してつい熱くなってしまった」


「は、はぁ………」


「うぅ………そんなに引かなくても………」


エリアは誰にも聞かれないように、小声で呟いたつもりだったのだろうが、すぐ近くのリョウにはバッチリ聞こえていた。


内心でドン引きしていたつもりが、しっかりと表に出てしまっていたらしい。


拗ねるエリアに不覚にも萌えてしまったのは仕方のないことだろう。



エリアが沈んでしまったため、フォローもかねて続きを促す。


「でさ。転移魔法が使いたくても使えないってどういうことなの?

あとロストマジックって?」


「そうだな。転移魔法は私たちの世界では、さっき言った通りロストマジックの代表的な一つとして知られている。

ロストマジックとは現代の技術や能力では使うことはできないが、魔法理論が解読されているもので、古代では使われていたとされている魔法だ」


「魔法理論?」


「うむ。まずどんな魔法にも発動までの手順というものがあるのは知っているだろう」


「うん」


「魔力をどこにこめるか。詠唱はどんな風にするのか。

これらの情報が入ったものが、魔法を放つ前にでてくる魔法陣というやつだ。

つまり、魔法陣が出来上がれば、理論上その魔法は使えるということになる」


「なるほど……

要するに転移魔法の魔法陣自体は完成していると………」


「そうだ。遥か昔の文献を読み解き、魔法陣を完成させたまでは良かったのだが、、いざ実用化という時、問題が起こったんだ」


ゴクリと息を呑むリョウ。


「消費する魔力が恐ろしく高いのだ」


「消費魔力?

ちなみにどれくらいかお聞きしても?」


なんか通販で値段を尋ねる時みたいな言い方で問う。


「人一人を転移させるのに宮廷魔導師100人分の魔力が必要だと言われている」


宮廷魔導師100人分と言われても基準がわからないリョウにはそれがどれだけ馬鹿げたことなのかがわからない。


「宮廷魔導師?宮廷魔法師じゃないの?」


聞いたことのない名前だった。


「宮廷に使える魔法使い達は三つに分けられる。

宮廷魔法師・宮廷魔術師・宮廷魔導師の三つだ。


「騎士の階級で表してみると、魔法師は普通の兵士、魔術師は隊長格、魔導師は将軍格だ


「将軍格………それってどれくらいいるの?」


「そうだな。例えばユストラシア大陸最大の国で総人口約8億のリシュテイン公国ですら80人しかいない」


80人。転移魔法を使うのに必要な魔力は魔導師100人分だから、つまり−−


「え、20人足りないじゃん」


「そうなんだ。でも宮廷魔術師になるのも相当大変だ。さてはその上の宮廷魔導師などほんの一握りしかいない。今その職についてる者は全て幼少の頃から天才と呼ばれ、所持魔力も常人の数倍以上持っている者がほとんどだ」


「八千万人に一人の逸材が100人も必要って………。

想像できないな」


「だろう?

だから転移魔法はロストマジックに認定されているんだ。なのに−−」


「平然と使ってた」


「それだけじゃないぜ」


突然会話に入ってきたネル。いつの間にか茫然自失状態から回復していたようだ。


「考えてみろよ。

あいつらたった四人の魔力で五人も転移させたんだ。

つまり一人で宮廷魔導師125人分の魔力を持ってるってことだろ?」


「125人分…………。

私たちとは格どころか時限が違いますね………」


天界の恐ろしさを再認識瞬間だった。


「じゃが主殿なら出来そうな気もするがの」


天界三種族と同等、あるいはそれ以上の規格外さを持っているリョウ。だが、そのリョウはというと


「う〜ん。ちょっと難しいかな」


否定の言葉が出てきて驚く。そして同時に疑問も沸いて来る。


「ウガルドの時に見せたあれはなんなのじゃ?」


「ああ、あれは転移したわけじゃないよ。普通に突っ込んだだけ」


「突っ込んだだけって………

それはそれで十分凄い気がするのじゃが………」


リョウの創造は自分が想像する範囲でしかすることができない。瞬間移動を行うためには自分が今いる位置から自分が消え、さらに他の場所に自分が現れるという一連の流れの明確なビジョンを想像しなければならない。

凍った大地を想像したり炎に包まれた大地を想像したりするのとはまたベクトルが違うのだ。

さらにもし想像が不十分な状態で使ってしまったらどんな恐ろしいことになるのかわからない。

転移場所の指定を間違えて、地面に埋まってしまうとかいう話は結構有名だろう。

何はともあれ、危ない芽は摘んでおくのがベストだ。


「主殿にも出来ないことがあったとはの」


「いったい俺を何だと思ってるんだ。

超人かなんかと勘違いしてんじゃないか?」


というリョウの言葉に、え?違うの?と素で驚いている視線が12。


「逆になんでそう思われないと思ったのか聞きたい」


エリアの一言にうんうんと頷く一同。


それを見て、少々やりすぎてしまったかと反省するリョウであった。





「おい!本隊をウガルドに任せるってお前本気か?」


リオルガルドの話を聞いていたレガルスは驚きの声を上げる。


「ああ、精鋭の方にはアリオレス。本隊はウガルドに任せることにした。もちろんテールを補佐につける」


「確かにテールは優秀な男だが………」


テールは年長の天狼の男性で、戦闘能力はそこまで高くないが、頭がよく、脳筋ばかりの天狼の中で、頭脳で数少ない頼りになる人物というのがリオルガルドの認識だ。


「正直に言って、ウガルドは未熟だ。

それは俺もわかっている。当初の予定では、俺とレガルス、そしてリズの三人を精鋭にしようと思っていたのだがな」


リズは別の勢力に入ることを決意した。だからリズを頭数に入れるわけには行かない。


「無い物ねだりはやめにしよう。

ウガルドは実力だけならかなり高い位置にある。あの慢心のせいでそれがうまく機能していないがな」


「テールがうまく扱ってくれるのを祈るしかないな」




忙しいかった2月がようやく終わりました。

3月からは投稿スピードはやめでいきたいと思います。


そして何より、戦闘なしの話もこれで最後。次回からは戦闘のオンパレードです!(やっとかける………)



では、

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