天界大戦−天狐の長−
争奪戦終わり正式に天狼側から協力関係になってほしいと言われてから、心身共に落ち着いた日々を過ごしていたリョウ一同であったが、それはわずか二日で終わりを告げる。
「なんか慌ただしくない?」
廊下を歩いていると、先程から侍女服や騎士の鎧を着た天狼が走り回っている。
「そうじゃな………おい」
リズはすれ違おうとしていた天狼の騎士を呼び止める。
「リズ様。何か御用でしょうか?」
その騎士は一瞬リョウに鋭い視線を送った後リズに尋ねる。
「なんだか慌ただしいようじゃが、何かあったのか?」
「はい。天狐の長がやってくるという話しで…………大慌てで皆仕度をしているのです」
「天狐の長?ローダイス様が来るのか?」
「いえ、ロキャーリア様です」
「む?ロキャーリア?誰じゃそいつはって、ちょっと待てよ。
ロキャーリア………ロキャーリア…………ロキャーリア……」
顔を伏せその名前を呟く。
「ロキャ…………ロキ………ロキ?」
突然バッと顔をあげる。
「…………ロキャーリアってまさかロキのことか?」
天狼の兵士は不思議そうに頷く。何をそんなに驚いているのかというように。
「はい。リズ様はそう呼ばれているのですね」
「あ、ああ……………て、ちょっと待て!
天狐の長と言ったか?」
「はい。言いましたが」
「ロキが天狐の長じゃと!?
いつなったのじゃ!少なくとも我が天界を去る前はなっていなかったはずじゃ!」
「確か姫様が下界におりてすぐだったと思います」
「そうか………」
「リズ様、まだ準備が途中なのでこれにて失礼させていただきます」
「あ、ああ。引き止めて悪かったの」
一礼して騎士はさっていく。
「リ、リズ?」
わなわなと震えているリズに問い掛ける。
だが、リズは聞こえていないようで、前を向いたと思ったら足早に歩きだす。リョウ達もリズから離れるわけにはいかず、なんだなんだとついていく。
そうしてたどり着いたのはリオルガルドのいる長室。
「リズ、どうす−−−」
リョウが最後まで言う前に、リズが扉を蹴破った。爆発したかのように吹っ飛んでいく扉。
「「「「「「……………」」」」」
ただ唖然とするしかなかった。
あんなに綺麗に扉が吹っ飛ぶなんてアニメでしか見たことがない。そう言えてしまうほどだった。
「なんだ?ああ、リズか」
「落ち着きすぎだろ!!」
思わずツッコミをいれてしまったのは仕方のないことだろう。あんな衝撃的な登場に、なんだ?の一言だけだったのだから。
「まあ、初めてでもないからな。前回は俺が争奪戦の事を決めたときか?」
そう言って蹴り飛ばされ哀れにも吹っ飛んだ扉を見る。
「前回より飛距離が伸びている。天界から離れている間何もしていなかったわけではないようだな」
「そこかよ!!」
「「???」」
疑問符を浮かべるデンジャラスでバイオレンスな親子二人に呆れるしかない。
「それで、リズ。なんのようだ?
ここまでしたのには理由があるのだろう?」
「はい。ロキが来るという話を聞いたのです。そしてロキが現在の天狐の長という話も………」
「ああ。全て事実だが、どうかしたのか?」
「!!
なぜそれをもっとはやく言ってくれなかったのですか!」
「なぜ先にって言われてもなあ。それ以上に重大な問題を持ってきやがったのはどこのどいつだ」
「うぐ………」
何も言えなくなってしまうリズ。
「ロク………こほん、ロキはいつ頃来るのですか?」
何事もなかったかのように話続けるリズ。今かんだよね。とは口が裂けても言えない。言ったが最後首が飛ぶかもしれない。
「うむ。もうそろそろだと思うが」
そこで誰かが走って来る音が聞こえる。
「リオルガルド様!ってええ!ド、ドアがない!?
ど、どうなってって今はそんなこと言ってる暇はないんだ!リオルガルド様ー!」
なんともハイテンションな天狼さんがやってきた。
「どうした。あともう少し静かにできんのか」
「すみません!気をつけます!!
あ、そうだ!ロキ様がお見えになりました!」
なんとも狙ったようなタイミング。
そしてその天狼さんは相変わらずうるさかった。
「そうか。天狐の長がわざわざ出向いてきたんだここは俺が出迎えないとな」
そう言って玉座から立ち上がる。
「父様!」
「なんだ?」
「私達も一緒に行ってよろしいですか?」
「別にとめる理由もない。好きにしろ。
では行くぞ」
最後の言葉は知らせにきた天狼にむけたもの。
「はい!リオルガルド様!」
ハイテンションな天狼さんを引き連れ歩いていく。
それについていくように歩くこと数分。宮殿の外に出ることになり、初めて宮殿の外に出たこともあり人間組はみな若干浮ついた雰囲気を持ちはじめていた。
遥か前方の時空が歪んだかと思うとそこから5人の影が現れる。
おそらくあの5人が天狐なのだろう。どんな人物か楽しみにしていた…………のだが…………
真ん中にいるのは………子供だった。身長は140をぎりぎり超えるくらい。中学生、下手したら小学生でも十分通じるだろう。髪は輝くような金髪。そしてその髪はおそろしくサラサラのようで風に揺られて靡いている。さらに顔は人形のように整っていて、まさに美少年といった風情だった。
そしてその美少年を囲むように男が二人、女が二人。いずれも細くひ弱そうである。リョウが思わず強いのか?と思ってしまったのも致し方ないことだろう。
ついに天狐達がリオルガルドの前にたどり着く。
「今日はいきなり来てしまい申し訳ありませんでした」
口を開けたのは中央の美少年。その声は透き通るように美しかった。
「いやいや、わざわざ出向いてもらったのだ。感謝を述べるのはこちらのほうだよ」
「ありがとうございます、リオルガルド様」
弾けるような笑顔。
「だから礼をするのはこちらの方だといったろ?
それに様はもういらない。
俺とロキはもう対等な存在だ。トップがそんなだと部下になめられるぞ」
「対等だなんて。まだリオルガルド様には遠くおよびませんよ」
「何をいうか。俺ですらわからないぞ」
「お褒めにあずかり光栄です!
でも気づいているではないですか」
「気づくだけでは対処はできないものだよ」
美少年が天狐の長だったことに驚きつつも、今まで理解できていた会話が急にわからなくなったためリズに解説を頼もうと横を見る。するとそこには再びワナワナと震えるリズの姿が。
「リ−−−」
リョウが尋ねようとする前にリズは地面を蹴っていた。
「ロキーーー!!」
叫びながら右手に展開した魔力爪を美少年に突き刺す。
爪は完全にその華奢な体を貫いており、誰もが唖然としてその光景を見ていた。。もちろんリョウ達人間組もだ。
かなり動揺していたが、ふとおかしな点に気づき訝しむ。だが結論がでるよりはやく
「もーーリズは暴力的だなあ。そんなんじゃモテないよー」
爪が刺さったままの美少年がしゃべりだしたのだ。
とてつもなくシュールな光景が広がっていた。
衝撃に口をパクパクとさせていると、美少年の姿がどんどん薄くなっていき最終的に何もなかったかのように消え去る。
「それにしても久しぶりだねー」
そして突然リズの背後に現れる美少年。
リズは舌打ちと共にふりかえり様に一閃。その攻撃は流れるように美少年の体を切り裂き、その体を5つにわける。
「なんでいつもそうなのかなあ。もしかして僕のこと嫌い?
そんな冷たい子にはでこぴんするぞー」
五枚におろされた少年は、その体のままで背伸びをし、リズの額にでこぴんをする。
子供が大人ぶっているようで実に愛らしい風景になるはずだったのに、何故か全くそんな風に感じられない。
今のが幻覚なのか他の何かかはわからないが、やはり長。あんな小さな体をしていてもその実力は化け物級だ。
未だ誰も少年の正確な位置が掴めていない。しかもダミーは物理攻撃もできるようだ。
「ごめんねー。ほんとはさ、こんなの使いたくないんだけどさー。皆が戦争中なんだから危ないっていってきかなくて。まったくみんな過保護だよねぇ」
リズの手によって五枚におろされた美少年は、だがそのままの姿で輝くような笑みを浮かべるのだった。
天狐の長の衝撃的な登場のあと、リオルガルドはリズを連れ、天狐達を自室へと案内した。
さすがにリョウ達人間組が、その話し合いに参加する訳にもいかず、後でリズから話を聞くという形で落ち着いた。つまり何がいいたいかというと、現在進行形で暇なのだ。
ちょっと外の空気吸ってくるわ〜とリョウはアリオレスに啖呵を切ったあの場所へと向かう。
天界に来てからは立て続けにいろんな事が起こったなと妙な感慨に浸っていると。
「何黄昏れてるのー」
という声が背後から聞こえて来る。聞き覚えのある声に驚いて振り向くと、そこには予想通り天狐の長の姿が。
「あ、ロ、ロキャーリア様?」
「うん。そうだよ。君がリョウ君でしょ」
「あ、はい。リョウです」
若干テンパりながらも受け答えしていると、
「むう〜〜」
美少年が可愛く唸りだす。ショタコンのお姉さんがいたらすぐに食べられてしまいそうだ。などと場違いなことを考えてしまう。
「敬語やめにしない?」
予想外の言葉だった。
「敬語、ですか?」
「それそれ!ですもなしー」
「は、はあ」
「あのねーあとねー僕の事はロキって呼んで!」
「ロキ?」
「そうそう!僕の名前っさあ。なんか女の子っぽくない?
もちろん名前が嫌いな訳じゃないんだよ。父様と母様から貰った名前だからね。でもちょっと複雑な気分なんだよねえ」
ロキャーリア、確かに女の子っぽいかも知れない。
それにしてもこの少年は本当に楽しそうに話す。
語尾に音符がついていそうだ。
「それにしてもなんでここに?
今リオルガルドさんの部屋で話し中じゃ?」
リョウの疑問に
「そうだよー。
でもさあ、なんかつまんなくて………
ダミーおいて出てきちゃった」
「で、出てきちゃったって…………
そんなことして大丈夫なの?」
大丈夫じゃないだろ、と自分の中で既に結論はでているものの、思わず聞いてしまう。
「う〜ん。リオルガルド様は気づいてたと思うし。何も言われなかったからだいじょぶじゃない?」
なんといい加減なと頭を悩ませるリョウ。
天狐ということはリョウより明らかに年上のはずなのだが………身体年齢に精神年齢がついてくるというのは本当なのかも知れない。
「でも、なんでわざわざここに?」
「それはねー。君としゃべりたかったからさ!」
決まったというようにどやるロキ。今のどこにそんなどやる要素があったのか甚だ疑問である。
「俺としゃべる?」
「うん。それが僕がここまで来た目的の一つなんだよねえ」
「目的?」
そりゃそうだ目的があるに決まっている。
「そうだよ。全部で3つある目的の一つ」
「3つ………」
「一つは下界から帰ってきたっていうリズに会うこと。リズはいつも僕に意地悪してくるけど、これでも幼なじみなんだよ」
「へぇ。じゃあリズの弟って感じか」
「違うよう!!
まったく失礼だなあ。僕の方が200歳も年上なんだよ!だから僕がお兄ちゃんでリズが妹だね」
「ええええ!!!」
間違いなく今日一番の驚きだった。
出るとこは出ているモデル体型のリズ。対して中学生、下手したら小学生に見間違われそうなロキ。
さらに精神面でもリズの方が圧倒的に大人びている…………はずだ。
それがロキの方が年上。しかも200歳も。天界における200年がどれほどのものなのかはわからないが、それでもかなりの差が生まれて来るだろう。
リョウが悶々と考えていると
「どうせまた失礼なことでも考えてるんだろうけど、しょうがない。今日は大目に見てあげよう。
それで二つ目の目的だけど」
「う、うん」
「天狼と天界大戦における同盟を結ぶこと」
「同盟?」
「そうだよ。流石に同盟の意味はわかるよね?」
若干いらっときたが、俺は大人だ、とその感情を沈める。
「でも、なんでそんなことを教えてくれるんだ?」
「そっちに利益はないと思うんだけど」
「それがねー。ちゃんとあるのです!
三つ目の目的を達するために必要なのです!」
「三つ目?」
「うん。その最後の三つ目はね…………」
その瞬間恐ろしい殺気を感じ、横に転がる。
それまでリョウが立っていた地面は焼け焦げ、少し溶けているようだ。
「すごいすごい!
ほんとに避けちゃうとは思わなかったよ!
そうそう三つ目の目的が今の。
初めて天界に来た下民。その中でもリズに主と呼ばれ、天狼の次期長候補二人を倒した君の実力を見極めること」
手をパチパチと叩きながら興奮したように言う。
「それで?結果は?」
もうこの展開にはなれてきたこともあり、すぐに落ち着きを取り戻したリョウは転がったため少し汚れてしまった服と手をはたきながら問う。
「合格合格ー
いやーすごかった!かっこよかったよ!」
「そりゃよかった」
何故か絶賛されている。
「それを踏まえて相談なんだ」
「相談?」
「三つ目の目的はあれだけじゃないんだ」
「どういうことだ?」
警戒心を強めていく。
「そんな身構えることないよー。悪いようにはしないからさー」
「で、教えて欲しい?」
ここで焦らしてくるとは存外いい性格をしている。
「ああ」
「教えてあげなーい」
「たった今目の前のクソ狐に明確な殺意を持ってるんだけど、解き放っていいかな?」
「もー、そんなに怒んなくてもいいじゃないかー」
「ちょっとしたジョークだよ。ジョーク」
「…………」
「しょうがないなー。じゃあ言うよー」
「僕たちと同盟を結ばない?第4の勢力として」
ようやくロキ登場です!
ロキに関しては結構前に伏線はっていたのですが気づきましたか?
まあ伏線といってもすごく軽いものでしたが………
では、
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