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エデン〜創造と破壊〜  作者: 近山 流
第2章 天界
68/73

天狼の姫−決着−

天狼の姫編完結



争奪戦の決勝。リョウとアリオレスの戦いがはじまったころ、はるか上空の観客席ではリズ達がリョウの戦いを一瞬も見逃さないとでもいうかのごとく見ていた。


「うむ………。最初の読み合いでは主殿が勝ったようじゃが、今は劣勢じゃな」


リズの声に呼応するように


「確かにあれじゃじり貧だな」


「ああ。あんなに距離を縮められてしまったら、太刀が逆に荷物になってしまう」


エリアの言うことは正しかった。太刀の最大の武器であるリーチをいかせなければ、小回りのきかぬ邪魔な荷物になってしまう。


「どうにかして距離を離せませんかね………」


思案顔のレナに。


「今のままでは難しいじゃろうな。アリオレスも主殿が距離を離そうとしていることは分かっておるじゃろう。じゃからあのように退避の隙を与えないようにしておる」


「うん。あの猛攻から抜け出すのはかなり難しい」


ここにいる中で最も近接戦闘に精通しているであろうミーヤが冷静に見解を述べる。そう述べるミーヤの顔はいつもの抜けたようなものではなく戦士のものだった。


そんな中、突如爆音が響き渡る。

リョウがゼロ距離で《纏い》を発動させたのだ。


かなりの爆音に耳を抑えているネルは


「おいおい。あいつ頭大丈夫かよ!

あんな高威力の《纏い》をゼロ距離から撃つなんて正気の沙汰じゃねーぞ!下手したら腕がもげてたかもしんねーのに!」


「でも〜状況を変える〜きっかけを作らなければならなかったのも〜事実です〜」


「苦肉の策ってか?そのわりにはなんの躊躇もなくやりやがったように見えたんだが………」


「「「………」」」


そんな二人のやり取りを尻目にリズ・レナ・エリアの三人は頷きあう。


「お仕置きじゃな」


「お仕置きです」


「お仕置きだな」


綺麗に揃った声。

余計な事を言ってしまったかと一瞬思うも、やはり自業自得だとリョウへの冥福を祈るネル。


「まぁなんにせよ距離を離すことはできたんだ。終わりよければ全て良しってやつだな。

問題はこっからどうするかだ」


「武器は吹っ飛んじゃったけどね」


ミーヤの言葉に今まで目を反らしていた事実に直面してしまう。


「あの馬鹿………」


エリアが頭を抱える。


「リョウさんって考えているようで結構行き当たりばったりですよね………」


リョウの姿を隠していた土煙が晴れる。

そして、そこから姿を現したリョウの手に握られていたのは二本のダガー。


「あいつどこにあんなもん隠してやがったんだ!」


リョウの≪創造≫の力を知らないネルは驚きの声をあげる。


「まぁなんにせよ。これで幾分かは楽になったな」


「うむ……」


「どうしたんだ?そんな釈然としない顔して」


ネルの問い掛けに


「それだけではアリオレスに勝つことはできないじゃろう」


「どういうことですか?」


「見ておれ。時期にわかる」


何故か明言しないリズをいぶかしみながら戦況を見守っていると、だんだんリズの言わんとしていたことがわかってきた。


リョウが少しずつおされはじめたのだ。


「経験の差か」


エリアの呟き。


「そうですね〜超近距離戦闘では〜アリオレスさんに歩があるようです〜」


「あのリョウがあんなに苦戦してるのはじめてみたぜ」


リョウはまだなんとか防いでいるようだが、その顔には再び焦りが見えはじめる。

だが、それもほんの束の間。ふとリョウの顔に笑みが浮かんだような気がした。


「まさかあいつ、また!」


一際大きい接触音。次の瞬間だった。


「《フレアドライブ》!」


その声とともにリョウを囲むように火柱があがる。


「なんだあの魔法は!!」


「こんなの見たことねーぞ!」


「規模でいうと上位魔法レベルですね」


「それを無詠唱だぞ!いったいどうなってやがんだ」


だが驚くのはそれで終わりではなかった。

リョウがダガーを投げたのだ。


「なにやってんだあいつ!そんなの当たるわけねーだろ!」


戦闘中に武器を手放すなど愚の骨頂。そう思ったネルだったが、突然隣から聞こえてきた笑い声に驚く。その声の主はリズ。


「ははははは、まったく主殿も人が悪い」


アリオレスがダガーを避ける。だが、すれ違うその瞬間。ダガーがまるで爆発物かのように爆ぜたのだ。

しばし呆けたあと


「どういうことなんですか!」


「どういうことなんだ!」


「なんだいまのは!」


「どういうこと!?」


レナ・ネル・エリア・ミーヤが一斉にリズを問い詰める。


「あれはな、我と主殿が剣獣の森にいたころじゃ。駿足兎じゃっけな?そんな名前の魔獣がおったんじゃ」


「え、駿足兎ってあの高級食材のですか!?」


「うむ。そうらしいのう。まぁ話を戻すかの。

駿足兎はかなりのスピードとその小ささもあり、なかなか捕まえることができんかったのじゃ。そんな時主殿が突然いいこと思いついた、などとぬかしての、どっからか弓矢をとりだしたんじゃ。矢は当然よけられたんじゃがの。我もその時は驚いたわ。避けられてただ進むだけじゃった矢が爆発したんじゃよ。で、その爆風を受けて、地面にたたき付けられ動けなくなっているところを捕獲したことがあったのじゃ。

まさか、ここで使うとは思わなかったがの」


そう言って笑うリズ。その瞳はリョウの勝ちを確信したようだった。

リョウが少し押されていたようだが、実際のところ実力差はほとんどない。つまりいつでも流れは傾くということだ。

リョウは瞬く間にアリオレスを追い詰め、ついにその腹に重い一撃を叩き込んだ。


しばらくしてアリオレスは全身から力を抜かれたかのようにうなだれていた。

リョウももう大丈夫だとおもったのか手を離す。

そしてそのまま闘技場を去ろうと歩きだした時だった。


「あれ、倒れないよ」


ミーヤの言葉。それを理解した時にはもう遅かった。


アリオレスの爪がリョウの腹に深々と突き刺さる。血へどを吐くリョウ。

何が起こったのか理解できず放心する一同。


「主殿!!」


そして状況を理解した、いや、理解してしまったリズの叫びとレナの悲鳴が響き渡る。



アリオレスはやり遂げたといった表情でそのまま倒れる。

リョウもすぐに後を追うのだと皆が思った。引き分けの場合はどうなるのか。既にそのことを話している者もちらほら見られる。

だが、彼らが目にした光景は、先ほどのことがまるで幻、嘘であったかのごとくピンピンしているリョウの姿だった………




(今のはまじでやばかったな)


リョウは内心冷や汗をかいていた。

≪破壊≫を発動させたことで勝利を確信し、油断してしまった。戦場で油断するなど絶対にやってはいけないことだったのに。その結果重い攻撃をくらってしまったのだから目もあてられない。

しかし、その傷はもう見る影もなく塞がっていて、傷口だった所に残る痛みだけがそこに傷があった事を証明している。


「久しぶりだな。この感じ」


リョウはしみじみとこの世界に来た当初のことを思い出す。

リョウは今ではチートと言ってもいいほどの人外級の力を持っているが、何も最初からそうだったわけではない。

瀕死の重症を負ったことだって一度や二度の話ではないのだ。

そしてその度に≪破壊≫の生命エネルギー活性による治癒能力上昇で乗り切っていたのだが、それが何度か続いた頃、リョウは不注意からまたしても重症を負ってしまった。

それもこれまでで一番ひどいものだった。

≪破壊≫を発動する間もなく意識を失ったリョウ。流石にその時は自分の死を覚悟した。

だが、目を覚ましたリョウはすぐさま異変に気づいた。傷がないのだ。たしかに想像絶する痛みはあるのだが、それに反して傷らしいものは一つも見当たらない。

その時リョウの鍛えられたサブカル脳はすぐにこの言葉をよぎらせた。『超回復』。おそらく致死量のダメージを受けたことで勝手に脳が≪破壊≫を最大出力で使ったのだろう。傷ができたそばから直っていく。すごい能力だが、ついに人間でなくなってしまったのではないかと一時期は落ち込んだものだ。

とはいえ、もし≪破壊≫が発動できていなかったら普通に死んでいた。その能力に命を救われたのは事実だ。もちろん確証はない。あくまで予想だ。本当かどうか確かめるためにはもう一度致死量のダメージを受けるしかないのだが、もうそんなのは懲り懲りだとそれからは細心の注意を払ったし、怪我を負ってたとしても軽傷程度だった。

さらにリズと出会ってからはもう怪我をすることも少なくなっていた。

そんなこともあり、実をいうとリョウ自身この力を忘れていたのだ。

だが、今回ばかりは完全に油断していた。

剣獣の森でつんだ経験。そして街にでてから負け無しの自分。加えて天界に来てからは上位種である天狼相手に圧勝。天狗になっていたつもりはなかったが、やはりどこかでうかれていたのだろう。

気を引きしめつつも、これはリズ達に怒られるかもなあ、と少し憂鬱な気分になりながら観客席で待っているであろう仲間達のもとに向かうのであった。




争奪戦の夜。宮殿の一室に二人はいた。

一人はその部屋の中にある玉座に座り、もう一人はそれに向かい合うように立っている。


「どう見る?」


玉座に座る男、リオルガルドはいつもと雰囲気が違っていた。それは天狼の長としての言葉。そして向かい合って立っているレガルスはそれに気づいたいた。


「やつの実力は相当なものでしょう。ウガルドは確かに油断していましたが、それを差し引いたとしてもかなりの実力差があったかと」


だからこそそれ相応の態度で応対する。リオルガルド相手に敬語を使うのはいつ以来だろうと内心思いつつも話しを続ける。


「さらにアリオレスの時にはウガルド戦で見せた謎の高速移動も使わずに勝っています」


リオルガルドは頷く。


「そうだな。だが問題は」


「使わなかったのか、使えなかったのか」


「ああ。アリオレス戦での姿がやつの実力だとしたらそこまで恐れるものではない。だが、ウガルドとの戦いで見せた姿が本当の実力、さらに言うとその片鱗だとすると少し厄介だ」


レガルスは悔しそうに頷く。あの瞬間レガルスの目では何も捕らえることができなかった。

気づいたら姿が消えていて、ウガルドの腹に拳が突き刺さっていた。

レガルスは天狼の中でリオルガルドに次ぐ実力者だが、タイプが完全に違うのだ。リオルガルドは天狼の中でも特質な身体能力を有する。よって戦闘もその異常な身体能力を存分に使った力押しになることが多い。それに対し、レガルスは魔法を併用した戦いを繰り広げる。《カリバーン》がいい例だろう。そんなこともあり身体能力としては他の天狼とあまり変わらない。リオルガルドですら速いと感じたリョウの高速移動術。レガルスが反応出来なかったのは仕方ないのかもしれない。だが、戦場では仕方ないではすまされない。事実、もしウガルドに突き刺さったのが拳ではなく刃だったらウガルドは確実に死んでいた。

見きれなかったということは戦場で相対した時、殺される可能性があるということだ。


「利用するか消すか」


利用するか消すか。全てはこの一言に尽きる。


「消しましょう。リズちゃんをたぶらかすクソは迅速に消すべきです」


ここにきて何故かレガルスのリズバカが始まった。なんの前触れもなく唐突に始まるため、厄介きわまりない。


「おいおい。よく考えてみろ。やつを消すってことはリズと戦うことになるんだぞ」


今のリズは天界を出ていった時の彼女と確実に違う。仲間を持って強くなったのだろう。

もしリョウを狙えばリズは敵対する。確信を持って言えるだろう。


「それにあのエルフもいる」


「エルフ?あの女ですか。それはいくらなんでもかいかぶりすぎでは?

確かに頭がきれることは認めますが」


「それが厄介なんだ。主戦力が二人もいるんだ。しかもその能力は俺とお前に匹敵するレベル。そこに頭脳まで加わったとしたら」


「…………たしかに見過ごすことはできない」


「ああ。俺とお前、そして天狼の上位戦力を使えば消すことは可能だ。

だが………」


そこでリオルガルドは口ごもる。そこから先の言葉は天狼の長として言うわけにはいかなかった。


多くの被害がでてしまう。


それを言うことはプライドとそして天狼の沽券にかけて言うことはできなかった。しかし、それはレガルスにはしっかりとつたわっていた。

天界大戦を控えている今無駄な損害は出すわけにはいかない。つまり、


「協力して進めるしかないということか」


「そうだな。それにアリオレスとの戦いで見せた最後のも気になる」


「あれですか。傷がまるで幻のように……」


レガルスはそれを一番近いところで見ていた。


「やつは得体が知れない。そういう意味でも敵に回すよりかはこっちに引っ張ったほうがいいだろう」


「まさか人間と共闘することになろうとは」


「それは俺も同じだ。今回は何かが起こるぞ」


そう言う二人の顔は新しいおもちゃを買ってもらった少年のように輝いていた。





「おいおい。戦ったばっかりだったんだからもうちっと優しくしてやりゃあ良かったのに」


ネルの呆れたような物言いにリズはしゅんとする。凛々しく整った顔でやられると、それはもうかなりの威力であったが、それよりもネルはリョウへの同情が隠せないでいた。そのリョウはというと気を失うほどではないが、ひどく憔悴した顔でベッドに横たわっている。



リズ達の元へ悠々と戻ってきたリョウを待っていたのは労いの言葉でもなく、熱い抱擁でもない。

リズのボディーブローだった。

胃液を吐き出すほどの威力。完璧な一撃だった。確かに怒られるだろうとは思っていたし、その覚悟は決めていた。だけどこれは予想外すぎる。

完璧に入った一撃はかなりの痛みを届けてきて、思わず腹を抑えてうずくまってしまう。

≪破壊≫は傷や疲労までもを回復させてくれるが、痛みまでは消せないのだ。

リョウは目でなんてことをするんだと問い掛けると


「主殿は何故いつもそうなのじゃ!!」


リズが激昂した。

びくんとふるえるリョウ。


「見ている我達の身にもなってくれ!本当に心配だったんじゃぞ!主殿が刺された時なんて心臓が止まるかと思ったくらいじゃ!」


「ご、ごめん」


「いいや。主殿はちっともわかっておらぬ!」


ならどうしろと、と内心思うリョウだったが、悪いのはこちらのわけだし、ここで余計なことを言えば確実に灯的なものが消えるだろう。そう思い、いつもリョウを救ってくれる女神、レナに助けを求めようと視線をむけると………


無言で絶対零度の視線を向けてくる女神の姿があった。


一言もしゃべらない。しゃべろうとしない。それでいてその凍てつくような視線は、まるでゴミを見ているかのようだった。

ぞくりと背筋に何かが走った気がした。黒髪の清純な美女にそんな目で見られると何か新しい世界に目覚めてしまうような気すらしてくる。


「あ、あの。レ、レナさん?」


しどろもどろになりながら必死に言葉を紡ぐ。


そこで初めてレナの口が開く。瞳は依然として冷たいものだが。


「リョウさん。」


「は、はい!」


「もう少し私たちのことも考えてください!危ないことばかりしないでください!」


リズと多少の言葉の違いはあれど言っていることは似たようなこと。


「い、いや、だ、だって勝負だったんだし………。そ、それに勝ったんだから………」


その一言が完全に余計だった。あ、やばいと思ったがもう遅い。


「へえ」


怖い。レナがとてつもなく怖い。今まで色んな敵と戦ってきた。だが、その中の何よりも今のレナは怖かった。


「勝ったんだし、ですか」


「は、はい」


恐怖を隠せない。


「勝ちだけが全てじゃないんです!

死んでしまったら元も子もないんですよ!今回だってどれだけ私達が心配していたと思ってるんですか!それに…………」


そのままレナの説教はノンストップで1時間弱に及んだ。途中からリズも加わりより激しくなったそれは、端から見ても顔を引き攣らせるレベルだったそうだ。


この一部始終を見ていたネルは最後にこう思ったという。


「なんともしまらねぇ終わり方だな」




お久しぶりです。

更新が非常に遅くなってしまい大変申し訳ありませんでした。


忙しく執筆時間があまりとれなかったのと、書いては消し、書いては消しをしていたのが原因です。

これからも亀更新になってしまうかもしれませんが、どうか暖かい目で見てやってください。



今話で天狼の姫編は終わりです。天狼の中での立場を確立したところで2章の目玉。天界大戦編に入りたいと思います。

これからも応援よろしくお願いします。


では、

感想・評価・アドバイス・質問お待ちしております。



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