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エデン〜創造と破壊〜  作者: 近山 流
第2章 天界
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天狼の姫−争奪戦開始−



争奪戦の開催が宣言されてからあっという間に二日がたち、リョウはコロッセオのような巨大な場所でウガルドと対峙していた。


「てっきり逃げると思っていたのですが違かったようですね。」


あたかも感心したかのようにいうウガルド。


「うん。逃げる必要がないからね」


対するリョウはそんな皮肉にも動じず鮮やかに受け流す。しかも笑顔で、だ。

そんなリョウに苛立ちがつのる。


「そんな口を叩いていられるのも今のうちですよ。この前も言いましたが、間違えて殺してしまうかもしれませんが−−」


「さっさとやろうぜ。そんなこと言ってたってなんもはじまらねーよ」


言葉を遮られたウガルドはリョウを睨め付ける。


「ええ。わかりました。そんなにすぐに殺して欲しいのなら、喜んでそうしましょう。レガルス様。はじめてもよろしいですか?」


と対する二人の中央に立っている男、レガルスを伺う。

レガルスはこの戦いの見届け役としてこの場にいる。

とはいえレガルスも隙あらばリョウを殺そうとしているため(主にリズによる私怨で)、かく言うレガルスですらリオルガルドがどのような意図で行ったのか謎である。

だが、今は見届け役の役目を果たさねばならない。


「ああ、小僧も準備いいか?」


「もちろん。いつでもいいぜ」


リョウの余裕な表情を訝しみながらも、コインのようなものを取り出す。


「これが地面に落ちたら試合開始だ」


頷く両者。


「では、いくぞ」


そう言い、天高く弾いた。





リョウとウガルドの遥か上空。広大な会場を全て俯瞰できるような専用の観客席。そこにレナ達はいた。ここには他に多くの観客がいるのだが、レナ達の周りには誰もこようとしない。まぁ理由に関しては下民だから、で全て説明がついてしまうのだが。


「大丈夫ですかね…………」


「まったくレナったら、さっきからもう五回目だぞ」


エリアのツッコミにそんなにしていたのかと顔を赤らめる。


「まぁ気持ちはわかるけどな」


「うむ。これまでのような温い相手ではない。相手は天狼なのじゃ。いくら主殿といえども難しい戦いになるじゃろう」


「なんだよリズ。あんときはあんなに自信たっぷりだったのに」


「仕方ないですよ〜。私たち人間、こちらで言うと下民ですか〜それと天人では〜次元が違います〜」


「まぁな」


ネルはチラッとリズを見る。魔獣の大進攻の際にそれに関しては痛感していた。たった一人で無数の魔獣を切り伏せていたあの姿。それは今でもネルの頭の中に残っている。


「それに主殿の相手のあの男。あやつのことじゃ、必ず殺しに来るはず」


「あいつ、嫌い」


ミーヤのなんとも嫌そうな顔に苦笑する。

ウガルドには悪いがこの意見に関しては満場一致で賛成なのだ。


「あやつは狭量じゃが憎らしいことに腕は確かじゃ。天狼のなかでもかなりの上位におる。もっとも我には及ばないがな」


最後にフォローのような違うような言葉もうまくいかず、再び暗い雰囲気が立ち込める。


「結局のところさ」


「ああ。ここで何を言っても仕方ないな」


「今はリョウさんを信じるしかありませんね」


「そうじゃな」


『天狼だろうがなんだろうがぶっ飛ばしてやるよ』


リョウのその言葉を胸にただ見守るのであった。




コインは落下運動に入った。あと数秒で地面に届くだろう。

やけにゆっくりと感じられるコインの動きを目で追いながらリョウはあらためて決意を固める。



そして−−


チャリーン


甲高い音を響かせてコインが地面にたどり着いた。と、同時にリョウの口が開かれる。そして紡がれたのは三文字。

次の瞬間リョウの体が跡形もなく消失した。

少なくともウガルドにはそう感じられた。しかしすぐさまそれは間違いだったと気づく。リョウは消失したのではない。あくまでそう見えただけだと。だがもうそれは既に手遅れだった。リョウが消えたと同時に聞こえたピチッというなにかが弾けたような音。そこに全ての答えがあった。


突如視界を何かが覆う。それは黄色い影だった。

帯電しているかのように黄色く輝くその姿。それを視認した瞬間、腹に何かが突き刺さった。否、突き刺さってはいない。だが突き刺さったような衝撃が駆け巡ったのだ。思わず体がくの字に曲がる。

恐る恐る視線を下に向けると、そこには腹に深くめりこんでいる拳があった。


ガハッ


誰かが血を吐く音が聞こえる。だが、混乱の極地にいるウガルドにはそれが自分だと気づかない。


「これを耐えるってすごいな。流石は天狼って感じだよ」


感嘆の声が聞こえ反射的にそちらを見る。

そこにはリョウの姿。先程一瞬見た金色に輝く何かは気のせいなのかもしれない。

そう思った時だった。

急速に力が抜けていくような感覚。

程なくしてウガルドは地面に突っ伏し、気を失う。≪破壊≫による生命エネルギーの操作。リョウの十八番といっても過言ではない。事実その使い勝手と威力は素晴らしいものなのだ。

結果はリョウの圧勝。しかも瞬殺とはまさにこのことをいうんだとばかりの鮮やかな勝利。


ウガルドの勝利を疑っていなかった天狼達は絶句していた。リオルガルドもレガルスも。


だが、たった一人。険しい顔付きでそれを見るものがいた。アリオレス。リズの婚約者であり、天狼の次期長となる男だ。その男は小さく遥か下方のリョウに向かい呟く。



「昨日言っていたことは虚言ではなかったようだな」




リョウは倒れ伏したウガルドを見遣る。完全に気を失っているウガルド。それは如実に自分の勝利を示していた。


リョウが紡いだ三文字の言葉。それは、は、そ、う。つまり≪覇装≫だ。雷属性の≪覇装≫《雷速の王》(ケラウノス)。


《鋼鉄の王》(アイアンメイデン)が圧倒的な防御力を誇るならば《雷速の王》(ケラウノス)が誇るのは圧倒的な速さ。その速度は《加速》(アクセル)の比ではない。


リョウはこうすることを決めていた。

相当無茶な勝ち方をしなければ自分のことを認めることはないと思ったからだ。最初はリョウ達人間組がなめられていたのだが、徐々にリズもなめられはじめていることにリョウは気づいていた。だからインパクトが必要だったということもある。

とまぁ言い訳じみたことをリョウであったが、要はウガルドがうざかったのだ。

さらに言うと、これは牽制でもあった。

リョウは≪破壊≫で強化した瞳を頭上に向ける。

その瞳はこちらを見下ろすアリオレスを完全に捕らえていた。


「待ってろよ。必ず潰してやるから」





話は昨夜に遡る。



「連続じゃと!?そんな馬鹿な話があるか!」


怒りを表にするリズ。


前日の夜に告げられた試合の日程。それは連続試合というものだった。

天界大戦までの時間があまり残されていない今、それは仕方のないことかもしれないが、リョウ達からしたら大問題だ。

天狼と連続で戦わなければならない。それも天狼の中でも一桁に入るような強者とだ。これは想像以上に厳しいことだろう。第二戦のことも考え、力を温存しながら戦うのことは切迫した戦闘の中では容易ではない。


だが今から何を言っても遅い。というかそれを狙ってこんな時間に言われたのだろう。


リョウは揺れていた。力を認めさせるには勝てばいい。だが、どう勝つのがベストなのか。言ってしまえば、≪覇装≫を使えば勝つことは容易だろう。いくら天狼といえども、だ。

だが、もしそれが悪い方向に傾いてしまったらと考えてしまう。危険人物として命を狙われるかもしれない。それだけならまだいい。自分の身にふりかかった火の粉は自分で振り払えばいいだけだ。そしてそれに見合う力を持っている。

だが、そこに仲間が含まれてくると話は変わってきてしまう。皆は心配するなと言うだろう。自分の思ったように戦えと言うだろう。だが、リョウにとっては仲間がもっとも大切なものなのだ。その葛藤のせいでリョウの思考はとまってしまっていた。


「ちょっと外の空気すってくるよ」


気分転換にリョウは部屋を出ようと軽く声をかけると


「危険じゃ!今の主殿は敵地のど真ん中にいるようなもんじゃ」


と予想以上の勢いで返ってきた。

これには少々驚いたものの


「大丈夫だよ。すぐ戻って来るし、それに明日合法的に戦えるのにわざわざ今襲ったりはしないよ」


「じゃが…………」


未だ何か言いたそうなリズにぴらぴらと後ろ手に手を振りドアをあける。




リズの部屋から少し歩いたところ、といっても王宮の中だが、に開けた場所があった。そこは外へと出られるようになっており、新鮮な空気を吸うことができた。

そうして一息ついていると、ふと足音が聞こえてくる。

そしてその足跡はリョウの後ろでとまる。


リョウは気配でその人物が誰なのかを理解し、わざとらしくゆっくりと振り返る。


そこにはリズの婚約者であり、次期天狼の長でもある、リオルガルドの姿があった。


「なぜお前がこんなところにいる」


あきらかな敵意に満ちた瞳。


「いや、ちょっと外の空気を吸いにきただけだ。別に深い意味はないさ」


「ほう。俺はてっきり絶望にうちひしがれているのかと思ったぞ」


「残念ながら俺はそんなやわじゃねーよ」


「そうか」


もう話すことはないとばかりにこの場を離れていくアリオレス。

そんな後ろ姿にリョウは


「一つ聞いていいか?」


アリオレスは振り返ろうとはせずに答える。


「なんだ」


「お前はリズのことをどう思ってるんだ?」


「リズ様を、か?」


「ああ、お前もウガルドみてーに玉座が目当てなのか?」


「ふ、玉座か」


「それは俺にとってはついでだ。

リズ様は俺にとって女神のような方だった。強く、凛々しく、美しい。何事にも屈せず全てを力で捩じ伏せる。そんな彼女に憧れた。彼女に少しでも近づこうと俺はこの地位まで上り詰めた」


「だが!」


リョウを睨みつける。


「リズ様は下界に降りてしまい変わられた。今ではあの時の覇気は微塵も感じられなくなってしまった」


「全ては貴様のせいだ。貴様さえそばにいなければあの方はあの時の姿を取り戻してくれるはずだ」

怒りをぶつけるアリオレス。


「そうか………」



「お前のおかげで決心がついたよ」


リョウの言葉でアリオレスはここで始めて振り返る。


「完膚なきまでにぶっつぶしてやんよ」


リョウの精一杯ドスを聞かせた声(と思っているのは自分だけだが)


「せいぜいウガルドに殺されないようにするんだな。俺とやる前に終わってしまってはつまらん」


そういい残して去っていくアリオレスに向かって呟く。


「ああ。待ってろよ」




「何がおこったんじゃ」


リズは目の前で起こった信じられない出来事に驚きを隠せない。


「いつの間にかあそこまで」


レナ達も絶句している。

リョウの姿を全く見ることができなかったのだ。


「なんて速さだ………」


「あれがリョウの本気……」


ミーヤの言葉を否定したのはネル。


「いんやあれが本気かどうかはまだわからないぜ。たく、まだ何を隠してるんだか」


「あれも剣帝のときと同じやつなんですかね」


「ああ、規格外さでは同レベルだ」


剣帝の絶対不可避の剣撃に傷一つつかなかったあの漆黒の鎧。リョウへの謎は更に深まるのだった。




「おい。リオルガルド!」


リオルガルドの元へと駆け込んでくる影。


「レガルスか。どうかしたのか?」


「どうしたもこうしたもねえ。今の見てただろ!」


頷くリオルガルド。


「ああ。予想以上だった。まさかあれほどのものとは」


「予想以上ですまされるか!確かにウガルドはまだ未熟だが実力は本物だ。それを一瞬でなんてあいつはほんとに人間か?」


「リズが目をつけるだけの価値はあったようだな」


リオルガルドの落ち着いた様子に


「お前、もしかして。こうなることがわかってたっていうのか?」


リオルガルドは首を横にふる。


「いいや。俺は神じゃないんだ。流石にそこまではわからない。だがリズをあそこまで変えた男だ。ただの人間とは思えん」


「あの速度俺ですら見きれなかった」


悔しそうなレガルス。


「ああ、あいつはもしかしたら天界対戦のキーマンになるかもしれないな………」





やっと無双ができた^^


明日は少し私用があるので投稿できるかわからないです。でも遅くても明後日には投稿できるはず。


では、

感想・評価・アドバイス・質問お待ちしております。



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