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エデン〜創造と破壊〜  作者: 近山 流
第2章 天界
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天狼の姫−ウガルド−

お待たせしました。



「さて、話はここまでだ」


天界大戦についての説明があらかた終わったことでそう締めくくる。


「でだ。リズ」


「はい」


リオルガルドの呼び掛けに何事かと返事をするリズ。


「お前達の部屋のことだが、お前の部屋とその隣を使え」


「あ、はい。わかりました」


部屋のことなどてっきり忘れていたようで、驚きながらも声を上げるが、すぐに平静を取り戻し


「では、お父様、レガルスおじ様、失礼します」


二人に礼をしてからリョウ達を引き連れる。


「じゃあ失礼します」


リョウもリズにならい礼をしてから歩きだす。

そんなリョウに殺気立つた目を送るレガルス。そして楽しそうな表情のリオルガルドに引き攣った笑みを浮かべながら部屋を後にするのだった。





「天界大戦か。今さらながらだけどとんでもないことになっちゃったね」


リズの部屋へ向かい歩きながら、リョウはそう呟く。それにアリシアが反応して


「あらら〜さっき言ったことは〜嘘だったのですか」


リョウは苦笑する。


「まさか。本気にきまってるよ。後悔なんて微塵もしてない。

ただね。結構話が大きくなっちゃったなって」


アリシアは頷く。


「そうですね〜。私も流石に〜ここまでは〜予想していませんでした〜」


「そういえばさ」


リョウは思いついたように言う。


「なんですか〜」


首を傾げるアリシアに


「びっくりしたよ。突然口調が変わったから」


「ああ〜そうですね〜」


リズもうんうんと頷いている。リオルガルドへの口調は今の間延びしたものとは違い、何とも凛々しいものだった。


「そういえばリョウさんとリズさんはアリシアさんの≪降霊≫の時、いませんでしたね」


「そうだったな。二人でいってしまったからな」


エリアのジト目に曖昧な笑みを浮かべるリョウ。


「時と場合によっては〜しっかりとした口調の方がいいんですよ〜今の間延びした声とのギャップもいい感じですしね〜」


その言葉に戦慄が走る。


「アリシアのその口調ってわざとだったの!?」


代表してリョウが問う。が、アリシアはうふふと笑うだけで答えるつもりはないらしい。


「女の子には秘密があるものですよ。それに謎に包まれた女の子っていいと思いません?」


そう言ってウインクするアリシア。その天使のような美貌と合わさり、何とも神々しいものとなっていて、思わずみとれてしまう。

そんな時、隣の銀髪の美女からおくられてくるジトッとした視線に気づき、ごほんとわざとらしい咳ばらいと共に目を反らす。余裕げに微笑んでいるアリシアが何とも恨めしい。



アリシアの衝撃の事実への驚きも少し冷めてきた頃、心に余裕ができてきたのか、あらためてリョウは周りを見渡す。


廊下は廊下でもただの廊下ではない。王宮のような高級感がただようもの。

もちろん高価な壺や絵画が飾っているわけではない。高級感が全体から溢れ出しているような感じだ。

これも天界の技術なのかと思いつつも周りを見渡しつづけていると、ふと先の方に気配を感じる。

そこには僅かだが殺気も含まれているようだ。


気配探知に集中してみると五人ほどの殺気を伴った気配が行くてを阻むかのように横に並び、こちらに近づいてきているのがわかった。


「リズ」


小さくリズに呼び掛ける。

リョウより気配察知能力があるリズだ。リョウが気づいているのだからもちろん気づいているだろう。そう思ってリズを見ると、何とも嫌そうな顔が視界に入った。


「どうしたんだ?」


リズの異変に気づいたのかエリアが問い掛ける。


「…………」


リズは唇を噛み締めたまま何も言おうとしない。


気配がついに視認できるようになるところまで近づいて来る。

それは五人の男達だった。横一列に並んでいるように思われたその一団はしかし、真ん中の一人だけ一歩前に出ていた。おそらくその男がこの集団のリーダーなのだろう。

その男はちらりとリョウの方を見る。そこには明らかな侮蔑の感情が宿っていた。

そしてその男が直ぐさまリズの前で膝をつき頭を垂れると、一歩後ろの四人も同じように膝をつく。


「お帰りなさいませ、リズ様。随分と汚らしいペットを連れているようですがいかがしたのですか?」


男の慇懃無礼な態度に、一気に怒りのボルテージが上がっていく。ネルなんて今にも飛び出しそうだ。それを視線で押さえ付けているエリアも殴り込みたくて仕方がないというような顔をしている。


「口を慎め、ウガルド。

この者達は我の大切な仲間じゃ。暴言は許さぬぞ」


そんなリズの刺々しい言葉にも


「これはこれは失礼致しました。このようなゴミ共がリズ様とそのような関係だとは知りませんでしたので」


ウガルドの態度にリズはこめかみをピクピクとさせる。


「白々しいぞ。我達は急いでるんじゃ。さっさとそこをどいてくれんか」


「もう少しお話ししていてもいいではないですか。婚約者なのですから」


ウガルドから発せられた言葉に衝撃を受ける。

だが、リズはめんどくさそうな顔をして


「何を言っている。婚約者はアリオレスじゃろう。お前は婚約者候補にすぎないということを忘れたわけではあるまい」


「あんなのはまぐれです。アリオレスごときに敗れるなどありえません」


口調自体は柔らかいが、ウガルドの瞳が一瞬怒りで燃え上がったのをリョウは見逃さなかった。


「自分の実力が分かっていないなどそれ以前の問題じゃ。あと言っておくがな、我の伴侶となるのはこの男じゃ」


そう言ってリオルガルドの前でやったようにリョウの腕に自らの腕を絡ませる。

何を言っているのかわからないという顔をするウガルド。それを見ながらいつのまにか伴侶にグレードアップされていたリョウは


(なんで全員似たような顔をするんだ?)


という場外れなことを考えていた。


「それだけ〜前代未聞ということですよ〜」


ギョッとするリョウ。

思考を読まれたような感覚。恨めしげな目で見ると、アリシアはうふふと意地悪気な様子で笑っている。


「話は終わったようじゃの」


唖然としているウガルドを尻目に颯爽と隣を抜けていくリズ。その様子にウガルド同様道を塞いでいた四人も思わず道をあけてしまう。

混乱しながらもリズの後に続き横を抜けていく。


「リズ様」


搾り出すような声。その声にリズは一瞬立ち止まる。


「私は認めませぬぞ。私が下民に劣るなど………」


「ふ、認める認めないなどお前がいうことではない。分を弁えよ」


振り返りもせず厳しい口調で言うと、もう話は終わったとばかりに再び歩きだす。




リズ達が去った後には歯を激しく鳴らしながら顔を屈辱で歪ませているウガルドとその隣でおろおろしている四人の取り巻きだけが残された。





所変わってここはリズの部屋。


「そろそろ説明してくれるよね」


「ああ、そのつもりじゃ」


ウガルドと別れてからリズは一言もしゃべっていなかった。

ゆっくりとそして忌ま忌ましく語りだす。


「まず、天狼の長になるためにはどうしたらいいと思う?」


「そりゃ、何度も言ってたじゃねーか。天狼の中で一番強いやつが長になるって」


何を分かったことをと言いたげなネル。


「そうじゃ。じゃがそれだけではない」


「「「「「え?」」」」」


根底から覆されたような感覚。


「だってそうであろう。天狼の長の中で一番強いといったら現在の天狼の長に勝利する必要がある。そんな逸材はそう簡単には現れないものじゃ」


「それは確かに……」


頷く一同。


「現段階で我を含め父様に勝てるものは一人もいない。互角に戦えるのはレガルスおじ様くらいじゃ。じゃが、それでは天狼の長をいつまでたっても変えることはできない。そこでもうひとつの条件が、現長が認めた場合その者を新たな長とするというものじゃった」


「なるほど………」


「兼ねてから我には多くの婚約の申し出があったのじゃ。といっても、それは我を求めてではない。

愚か者どもは外堀から埋めるつもりだったのじゃろう。我の伴侶となればそのまま天狼の長になれると勝手に思っておったのじゃ。

たえず送られて来るそれに嫌気がさしてきたころじゃ。父様が名案を思いついたなどとふざけたことをぬかしたのは」


鼻をフンと鳴らす。


「父様は自分で選ぶのが面倒臭くなったのじゃろう。我に自らの婚約者を選ばせ、その者を次の天狼の長にするなどと言いおったのだ。あのときほど父様のいい加減さを恨んだ日はない」


「でも、婚約者とか、婚約者候補ってなんなの?」


「うむ。父様の言葉の後、我の元には求婚の書が段違いに増えてしまった。じゃが我は決して靡かなかった。

そうしてそろそろ収束がつかなくなったころじゃ。流石に言うだけ言って放り投げるのはどうかと思ったのじゃろう。我に婚約を申し込んでいる全ての天狼を集めて、争奪戦を行うと言ったのじゃ。それで優勝したら婚約者にするっていいおっての。そこで優勝したアリオレスは婚約者に、準優勝のウガルド含め上位3人までが婚約者候補となるんじゃ


「確かにそりゃ逃げたくもなるってもんだな」


ネルが思わずといった調子で呟く。


「そうじゃな。ネルの言った通りじゃ。それに嫌気がさした我は天界をでた。レガルスおじ様に頼んでゲートを開けてもらっての」


「それにしても天界をでるって行動力ありすぎだろ」


リョウの笑いながらのツッコミに


「こういう時の行動力は父親譲りじゃとよく言われておった」


そう懐かしみながら言う。


「そんなことならもっと早く言ってくれればよかったのに」


リョウの口調は心なしか責めるようなものになってしまっていた。それにリズは申し訳ないと思ったのだろう。顔を伏せる。


「まぁでも、ちゃんと言ってくれてありがとね」


リョウの言葉に無言で頬を赤くさせる。そんなリズに対し、いつもだったらパンチの一つでも飛んでくるのに、今日のリズはどうにもおかしいと首を傾げるリョウであった。




ずっと気になっていた事が解決したことで、リョウ達は部屋を見回す余裕ができはじめていた。


「それにしても広い部屋だな」


「俺達7人が入ってもぜんぜん窮屈じゃない。てか、むしろ広く感じるってどういうことだ!」


「私の家の3倍はあります………」


あまりの格の違いにダウナーになる三人。


「すごい!このベッドふかふか!」


「確かに〜この弾力は〜素晴らしいですね〜」


「そうだな。こんなベッドは私も見たことがないぞ」


ミーヤ、アリシア、エリアの三人はきゃあきゃあ騒ぎながらベッドを堪能する。そしてその三人を優しげな目で見ながら笑っているリズ。


なんとも平和な光景がそこにはあった。



しかし、現実はそう甘くない。翌日事態は急変するのだった…………





明日のこの時間にも投稿します。もしかしたらもっとはやくなるかも。


とりあえず天狼の姫編は終わらせたいと思います。


では、

感想・評価・アドバイス・質問お待ちしております。




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