天狼の姫−アリシアVSリオルガルド−
お待たせしました。
「天界大戦!?それは本当なのですか!?」
動揺し語気が荒くなるリズ。
「そうだ。こんなこと嘘をついてもしかたないだろう。もっとも嘘であってほしいがな」
それに答えるリオルガルドは弱々しく首をふる。
「しかし父様!ロキは何と言っているのですか!」
「詳しいことはわからないが狐の方でもいろいろあるのだろう。
今わかっていることは龍から宣戦布告があり天界大戦が始まろうとしているということだけだ」
「そ…んな………」
「詳しいことは上で話す。戻って来てくれるな」
リズは困ったような目をリョウに向ける。
だが、リョウを含めリズ以外にはもはや何がなんだかわからなくなっていた。
立て続けにいろいろなことがおこったのだ。
混乱するのは仕方がないことだろう。
「それは〜つまり〜私達も〜天界に連れていってくれるということですか〜」
その中で口を開いたのはアリシアだった。
混乱のため正常な判断ができなくなっている皆のかわりにアリシアが打って出たのだ。
こんな状況でもいつも通りというのはさすがである。年の功と言っていいかは定かではないが。
「ほう。やけに冷静だな」
リオルガルドは突然出てきたエメラルドグリーンの瞳を持つ女性を視界に映す。
そして最初に出た言葉は称賛だった。
天狼の長である自分を前にして冷静さを保っていることに驚いていた。
「そこのやつらのように呆然と突っ立っていればいいものを」
リオルガルドが言うのはリョウとリズ、そしてアリシアの後ろで呆然としているエリア、レナ、ネル、ミーヤだった。
アリオレス達が出てきた時点で既に混乱していた彼らはリオルガルドの登場によって混乱の極地に立たされていた。
「ふふ。このままではこちらの不利ですからね〜
それに〜私もこういうのには慣れてますから〜伊達に歳をとってはいません〜」
ニコリと笑い、
「それにですね〜あなたは私達を天界に連れていくとしか言っていませんよ〜」
リオルガルドは何を言っているのかわからないという顔をする。
勿論演技の可能性もあるが………
「それでは不服なのか?何もおかしなことはないと思うがな。
下民が天界に行けるというのだぞ。これ以上名誉なことはないだろう?」
「はい〜私も〜他に類を見ないほどの名誉だと思います〜」
アリシアは素直に頷く。
「そうであろう。なら、何が問題なんだ?」
「それはですね〜」
一旦言葉を切る。
「連れていく、とだけしか言われていないことです」
アリシアの口調がガラッと変わる。
いつもの間延びした声でもフレイアが≪降霊≫した時の乱暴な声でもない、凛とした声音。
そしてアリシアの口調の変化に驚くと同時に、その言葉にリョウはハッとする。
確かにリョウ達は天界に連れていくとしか言われていない。連れていった後のことは何も言われていないのだ。
それがなんだ。忘れていただけだろう。と思うかもしれない。
しかしその甘い考えが落とし穴だった。
「極端な話ですが、私達が天界に着いたとたん死ぬということもあるのです。
あなたたちが下界と呼ぶこの世界は天界と大きく異なっているかもしれません」
「異なっている?」
「そうです。人間は弱い生き物です。ちょっと環境が変わっただけで死んでしまう。まあもちろんこれはさっき言ったように極端な話ですよ。そんなこと考えていたら何もできなくなってしまいますしね。
後はそうですね。天界についてから殺されるというのも無い話ではないと思います」
そう言いリオルガルドをまっすぐに見る。
「貴様ら下民など殺すにも値しないわ!」
叫んだのはアリオレス。
だが、すぐにリオルガルが目で制したことでビクッと震え再び静かになる。
「貴様達を殺す、か。
アリオレスの言った通りだ。下民は天界の民からすれば殺すにも値しない」
「普段であればそうかもしれませんね。しかし今は違う。
戦争が起きるのでしょう?だったらわざわざ士気を下げるようなことは避けたいはずではないのですか」
リオルガルドは黙っている。
「大方連れていった後のことは知らないとか言って殺すかどこかに幽閉するつもりだったのでしょう」
「なぜそう断言できる。俺達の目的はリズだ。そのリズが天界に戻る条件としてお前達を連れていくことを望んだから連れていくといっただけだ」
「あなたは天狼の長なのでしょう。もしそうであったとしても、あまりにも決めるのが早すぎたと思いますよ」
「早すぎた?」
「はい。あなたは天狼の長。私達を天界に連れていくリスクをよくわかっているはずです。
最初はそんなこともわからないほどの馬鹿という可能性も考えましたが、あなたはそのようなタイプではありません。むしろその正反対」
リオルガルドは険しい顔の中に笑みを浮かべる。
「ほう。どうやら貴様も俺と同じタイプのようだな」
「ふふ。恐縮ですわ」
「ふ、心にもないことをいうでない。
ならば貴様は何を望む?」
「それは…………対等の関係です」
アリシアは力強く答える。
「対等の関係か。大きく出たな。天界に到着してからの安全の保障じゃないのか?」
「はい。私達はそんなこと微塵も欲していませんよ」
「……………どういうことだ?」
「だから私達は天界に着いた後の安全なんて微塵も欲していないと言ったんです」
ここで初めてリオルガルドが呆けた顔を見せる。
当然だ。言っていることがめちゃくちゃすぎる。
だが、アリシアは本気だった。
「私達はリズの仲間なのです。リズが戦うとなれば私達も一緒に戦うに決まっているじゃないですか?」
「おいおい。これは天界での問題なんだぞ。お前ら下民が遊び半分に突っ込んでいいもんじゃないんだ」
「はい。そんなことは十分わかっています。ですがリズは天界人である前に私達の仲間です」
「お前はバカじゃないはずだ。ならわかるだろう。その条件は俺にとってデメリットしかない。それを俺が認めるとでも?
これはあまりやりたくはなかったが実力行使でもいいのだぞ」
「アリシア!!」
せっかく避けられた最悪の事態に再びなりそうな雰囲気だったためリョウは思わず声を上げる。
だが、アリシアは静かに首を横に振る。
「あなたの言いたいことはわかります。ですがもはや早いか遅いかの問題なのです。いずれにしても戦闘はさけられません。ここで言っておかなければ手遅れになります。
それにここはまだ私達のホームです。天界で戦闘になれば私達の勝ち目はゼロですが、今ならまだ可能性はあります」
アリシアの言葉に沈黙するリョウ。
アリシアはいたずらを思いついたかのように笑い、
「では、最後に一つ確認を。
私は独断で取引を持ち掛けました。
勿論、それはあなたが望んでいると思ったからです。
ですがそれはあくまで私の意志。あなたの意志を聞かせてください」
アリシアは変わらず微笑を浮かべている。
まるでリョウが何を言うかわかっているかのように。
程なくしてリョウは降参する。
「………わかった。リズは俺達の仲間だ。リズ一人で戦いに行かせたりしないよ。
あと、この件はアリシアに任せる。もし戦闘になったとしても全員守ってやるから心配すんな」
リョウはそう決意する。が、
「誰が誰に守ってもらうって?寝言は寝てから言えってんだ」
「ああ、その馬鹿の言う通りだ。リズは私達の仲間。私も一緒に戦うに決まっているだろう」
「そうですよ。リョウさんだけにやらせたりはしません」
「私にかかればこんなやつらへっちゃらだよ!」
仲間達が成す光景に微笑むアリシア。向き直り、
「私達は戦闘も辞さないつもりです。もし掛かって来るのであれば死ぬ気でお相手しますよ」
リオルガルドはアリシアの目を見る。
そしてそこに宿る光から今言ったことは本気なのだと悟る。
「リズ!」
リオルガルドが呼び掛けたのはアリシアではなくリズだった。
「は、はい!」
仲間達の思いに瞳を潤ませていたリズは急な呼びかけにビクッとしながら返事をする。
「お前はどうなのだ?
もし今ここで俺達が戦うとしてお前はどうする」
「もちろん父様と戦います」
即答だった。
「ほう。この俺と戦うのか?俺の強さはお前が一番よく分かっているだろう?」
「はい。確かに父様は強いです。ですが私はこの方を我が主としました」
そうしてリョウに寄り添う。
「そしてこの方達は私の仲間です」
そのままの体勢で背後の仲間を見る。
そして全員が力強く頷いたのを確認し再びリオルガルドへ向き直る。
「我が主と仲間が私のために戦ってくれるというのです。私が共に戦わないわけが無いでしょう」
「それが勝ち目の無い相手だったとしてもか?」
「父様は少々私達をなめすぎているようですね。それが命取りになるということを教えてあげます!!」
リズのその言葉を最後にリョウは背中の太刀に手をかけ臨戦体勢をとる。
次々とそれぞれの武器に手をかける仲間達。
それを見たことで、アリオレスともう一人の天狼も戦闘体勢に入る。
一触即発の雰囲気。
「ふ、ふ、ふふ………ふははははははは!!!」
しかしその雰囲気は大地を揺るがすかのような笑い声によって霧散する。
「おもしろい!実におもしろい!」
心底楽しそうに叫ぶリオルガルド。そんな彼を怪訝な目でみる面々。もちろん警戒は怠っていない。
「リズ!よくこんなにもおもしろいやつらを集めたな!
俺に啖呵をきったそこのエルフの娘といい、そこの娘といい!」
リオルガルドが指を指したところには何もいなかった。だが、確かに違和感は存在した。
リョウの背後でレナが唇を噛む。
「ミーヤ、解くよ」
そう言った直後、違和感のあった空間にレナと同じく悔しそうな顔をしたミーヤが出現する。
「くぅ、ばれちゃったか。流石にそう何度もうまくいかないよね」
そのやり取りを聞いてエリアは理解する。
魔獣の軍勢との戦闘のなかで戦ったエンシェントドラゴン。その時止めをさすために使っていた戦法だった。
リオルガルドはいとも簡単に見破ってしまったが、実際のところエリアは気づかなかった。
最初に出会った頃、武闘大会で戦った時とはあきらかにレベルアップしているレナの暗殺魔法に、自分も強くなると、強く決意するエリアだった。
一方エリアが決意している中、レナは見破られてしまったことに唇を噛んでいた。だがそれだけではない。
慢心があったのだ。リョウやアリシアに意識がいっているため、今ならばいくら天狼であろうと気づかないのではない、かなどという甘い考えで行動しまった自分の浅はかさ。
以前完璧にきまったからと少々甘く見ていた。下手をすればミーヤが死んでいてもおかしくはない状況。
隠密は相手が自分の存在を知らない状況から攻撃するから有利なのであって、存在をしられてしまったらそのアドバンテージは崩れ去ってしまう。
もしリオルガルドがミーヤの存在に気づいた瞬間向かって来ていたらミーヤはなすすべなく狩られていただろう。
それが一番レナの心に来ていた。
そのミーヤはというと獣人族特有の身体能力であっという間にリョウ達の元へと戻って来ていた。
リオルガルドとの問答はまだ続く。
「父様、お言葉ですが。私が集めたのではありません。むしろ私も集められた側です」
その言葉と共に頬をなぜか赤くする。
「どういうことだ?天狼であるお前も集められた存在だと?」
「はい。その通りです。私達6人はリョウの元に集まったのです」
「そこの小僧にか?
確かに俺の拳を片手で受け止めたり、なかなか見所のある面白いやつだとはおもったがそこまでとはな…………」
リオルガルドはため息と共に一つ大きく頷き
「分かった。お前達を天界に招待しよう」
その言葉にアリシアはにやりと笑う。
「よろこんで」
招待する、つまりアリシア達を対等な存在だと認めたのだ。
「リオルガルド様、本当によろしいのですか?」
アリオレスが発したのは否定ではなく確認だった。
「ああ、もちろんだ。
ちくしょう。まんまとお前の計画に乗せられたみてーだな」
憎らしげなふりをする。
それにアリシアは茶目っ気たっぶりにいう。
「はい。私としては100点以上の成果です」
「まぁ対等な立場としてお前らは連れていく。
そのかわり向こうでの安全は保障できないからな」
例えリオルガルドが認めたとはいえ、下民に対等な立場に立たれたなど多くの天狼が認めないだろう。
その時のフォローは一切しない、どちらかを立たせなければいけない時がきたら迷わず天狼のほうを立たせる。リオルガルドは言外にそう言っていた。
せめてもの反撃なのだろう。だが、その程度でアリシアは崩れない。
「それはもちろんです。
心配なさらなくても天界での自分達の立ち位置は自らの手でとりますから」
アリシアとリオルガルドの戦いはアリシアの勝利で終わったのだった。
この話を書くにあたりプロットを大きく変えたため更新が遅れてしまいました。
最初のプロットではすぐに天界に行く予定でしたが、それではなんか物足りないと思い、この話を加えました。
アリシアに活躍してもらいました。アリシア回だったかな?
戦闘描写とかだとすぐ書けるに…………
頭脳戦というか、こういうのってすごい時間がかかってしまった。
ですが、プロットと自体はできているので更新スピードを上げていきたいと思います。
次回の投稿は7日を予定
では、
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