エルフの村へ
「エルフの村だと!?」
エリアが叫ぶ。
その顔は何を馬鹿なことをと言っているようだった。
その意図がわからずリョウはエリアに問い掛けようとするが、珍しく動揺しているエリアにはリョウの問いに答えることはできそうになかった。
そこに助け舟をだしたのはレナ。
「エルフ族の特徴でもあるんですが定住すると決めた地からはめったなことがない限り動くことはありません。変化を嫌うようなんです。
それもあってたいていのエルフは一生を里ですごすんです。
もっともアリシアさんみたいにそれと正反対のような人もいますけどね」
レナはそう言ってアリシアの方を見ながら苦笑した。
そしてリョウは一人納得していた。
寿命が長いというのも一見素晴らしいものに見えても、それはそれで大変なのだろう。
(あっちの世界でもそんなことあったな。どうしてか夏休みとか休みの日には特にやることないのに、テストの時とか忙しい時に限ってどんどんやりたいことができるんだよな………)
限られた時間だからこそそれを有意義に使おうとするものだ。
「うん。とりあえずレナの言ってることは分かった。でもそれとエリアがあんなに驚いてんのは何の関係が?」
するとその言葉を待っていたかのように
「そんなの決まってるじゃない。エルフは自分達は里からでないし、里以外の誰も里に入れない。そうやって里の平穏を保っているのよ」
得意げな顔でミーヤは言う。
「あ、ああ、そうだ。
エルフの里に他の種族が入ったなんて話は聞いたことがないし、もし強引にでもそんなことしてしまえば国際問題になってしまう」
そう言うのはやっと我を取り戻したエリア。
リョウはそれにふむふむと頷く。
「なるほどね。鎖国みたいなもんか」
「鎖国?」
「あ、いや、そのなんだろう。国を閉ざして誰とも会わないようにするってことかな」
「ほう。なるほど。そんな言葉は初めて聞いたがまさにその通りだ」
何でそんな言葉を知っているのかとこちらを見てくるエリア達。
そんな中、リョウは苦し紛れにリズに視線をおくる。
リョウが異世界から来たというのを知っているのはリズだけだ。
リズ以外にはまだ言っていない。
言わなければいけないのは分かっているのだがついつい先送りにしてしまう。
今この時もリョウはつい口を滑らせた元いた世界の言葉に内心動揺していた。
「そんなことよりもエルフの村じゃ。
ほんとうに大丈夫なのかの」
そんなリョウの姿を見て、やれやれとばかりに助け舟を出してくれるリズ。
普段はSを発揮してくるくせににこういうときにはきちんと助けてくれる。リョウがリズに頭が上がらないのはこのためだった。
「ええ〜問題はありませんよ〜
エルフの村のきまりでは〜他種族を〜村に入れてはいけないとありますが〜何事にも例外はつきものです〜
エルフに認められたものは〜村へ入るのを認めているんですよ〜
もちろん〜入る前には精霊が〜その人のことを調べるので〜嘘なんかをついちゃったら〜一発で分かっちゃいますけどね〜」
「そうしないと里の外に出ているエルフが危ないからな」
エリアが補足する。
「アリシアの話を聞く限りだとそれほど問題ないように思えるんだけど、そんな驚くことなの?」
リョウに問われたエリアは先ほどの醜態を思い出し僅かに顔を赤くするものの、すぐにいつもの凛とした雰囲気を取り戻す。
「アリシアはなんでもないように言っているが、実際のところ相当ふざけたことを言ってるんだぞ。
確かにエルフの村に渡ったことのある者の話は聞いたことがある。
だが、それもたった数人。しかもどの人物もその当時の英雄だ。私も自分がそれなりに強いと自負しているが、それでも過去の英雄には到底及ばない。
まして、私達は他種族の代表になるようなものだ。
まだそんな大きい物を背負える器ではないことは私が一番分かっている」
辺りが沈黙に包まれる。
リョウもいかに自分が信じられないほどの力を持っていたとしても中身は所詮17歳の少年だ。
エリアの言葉の前に、何も言うことができない。
そんな空気を打ち破ったのは、ネルとそして我等がムードメーカー、ミーヤだった。
「おいおいどうした千光さんよ。弱気なおまえとかちょっと気持ち悪いから。
いつもの自信に満ちた表情はどこにいったんだよ?」
「そうだよ。
まぁとりあえずネルは多分このあと死ぬだろうからご冥福をお祈りしとくけどさ。
別に深く考えることなんてないって。世の中なるようにしかならないんだから」
ミーヤの妙に達観した発言はさておき、みんな(特にネル)が聞き逃さなかった一言。
その真意を知るために、ネルが口を開く…………が、その瞬間、恐ろしいほどの殺気に晒されていることに気づく。
命を捕まれたような殺気。
そこには修羅と化した千光の姫がいた。
「………………下僕の分際できもちわるいだと?」
いつもネルを弄るときの悪戯じみた声音ではなく、ただただ冷たいそれ。
もし言葉と視線での物理攻撃が可能ならば、確実にネルは蜂の巣だっただろう。
「いや、あの、さっきのは言葉のあやというか。いや、決して本心ではないので、冗談です。ほんと冗談なんです」
「ほう。貴様はか弱い乙女を傷つけておいてそれを冗談ですまそうというのか」
「え?誰がか弱い乙女だっt……エリア様は女神でございます!いや〜今日もなんとお美しい。もはや世界の宝ですよね!」
ネルの態度が途中から豹変したのは、エリアが無表情で抜刀したからだ。
なんとか取り繕うと必死に言葉を探し、おだてるが、ついにその時は来てしまった。
「そうか。それで遺言はおしまいか?」
「え、あ、ちょ、ちょまっ」
エリアが抜刀した愛刀をネルに振り下ろす。
次の瞬間二人を傍観していたリョウ達の目には信じられない光景が映る。
エリアの振り下ろした剣をネルが両手で挟んでいたのだ。
……真剣白羽取り……………。
ここまでくると最早ギャグである。
いくら両手に風を纏わせて衝撃や速度を緩和させていたとはいえ、あんな綺麗にきまるとは奇跡としかいいようがない。
ネルは体を張って、人間やればできるということを証明してくれたのだ。
その事実にリョウは涙ぐむ(演技をする)。
他の傍観者達も同様だ。リズなんか水属性魔法も使い涙を流し、普段止め役であるレナも流石にさっきのシーンが衝撃だったのか、笑いをこらえながら泣きまねをするという高度なことをしている。
ミーヤは大爆笑。アリシアも感動している(もちろんふりだが)。
そして目下命の危機であるネルは顔面蒼白、体中に冷や汗を流しながら、エリアの剣を受け止めている。
だが、その均衡も徐々に崩れていき、ギリギリと刃がネルに迫る。
そしてようやくネルは悟る。
−こいつ完全に俺をヤル(殺る)気だ−
そして即座に救援を求めるためリョウ達の方を見るが−−リョウは敬礼していて、リズは涙を流しながらこちらを見ている。レナは笑いをこらえながらこちらを見ていて、ミーヤは大爆笑。アリシアも潤んだ瞳でこちらを見てくる。
ネルは再び悟る。
この場に自分の味方はいないことを。
だが、だからといって諦めるわけにはいかない。
というか今の状況。諦めるということはすなわち死である。
「ちょっと、本気で助けください!
いや、あの、エリアさん?エリアさ〜ん。そろそろシャレにならないところまで剣がきちゃってるんですけど〜」
「そうか。悪かったな」
そう言って、エリアはさらに力を込める。
「あの、エリアさん?
どうやら言動が一致してないようなんだ」
「何を言う。いつだって私は自分を曲げないぞ」
「いやいやいや。なにそれ。いいこと言ってるかもしれないけど、今全然関係ないから!
まさか俺を切るという意志を曲げないってことか!?」
「そうだ。よくわかったな」
こう話している間でも攻防は続いており、徐々にだが剣がネルに迫っている。
「ちょっとまじで誰か助けて!レナ、レナさん、いや、レナ様!私をどうかお助けください!!
ほんと冗談抜きで助けてください!」
するとネルの思いが通じたのか、はたまた流石にかわいそうになってきたのか、女神レナの救いの手が差し延べられる。
「エリアさん。そろそろはなしてあげてください。ネルさんも悪気はなかったみたいですし」
もうすでに鬱憤は解消していたのかエリアはレナの声がかかるとすぐ剣をひいた。
「ふん。もし悪気があったのなら叩ききって血祭りにあげているところだ」
ネルは過ぎ去った命の危機に深い安堵の息をつき、傍観していたリョウ達を睨みつける。
そんなネルにリョウは苦笑すると、
「ネルには笑わされたけどさ。
たしかにミーヤの言う通りだな。もう深く考えるのはやめだ。それにネルのおかげでなんかどうにでもなるような気がしてきたし。
エルフの村がどんなところで俺達がどうなっていくかとかはわからない。
でも、それを楽しむのが冒険者なんだろ。
あれだよ。やらないで後悔するよりやって後悔しようってやつだよ」
そんなリョウの脳天気な言葉に皆苦笑する。
「どうやら私は深く考えすぎていたみたいだな」
「そうですね。それでこそ冒険者です」
「ああ、そうこなくっちゃ」
「これだから〜あなたたちは面白いんですね〜」
「私もエルフの村行ってみたかったし!」
「我は主殿からはなれるわけにはいかんからの」
こうして賑やかな八人は次の目的地ヘと向かって行くのだった。
この先何が起こるか彼らはまだ知る術もない……………
「リズ様の魔力を感知しました」
もちろん忍び寄る影にも……………
第二章二話を投稿しました。
書いてて思ったんですけど、ネルとエリアが最早ギャグ要員ww
なんだか書きやすいんですよね。
さて、第二章は三編構成となっています。
そして、次回からはリズ編始動!
いっきにシリアス突入です!!
では、
感想・評価・アドバイス・質問お待ちしております。




