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エデン〜創造と破壊〜  作者: 近山 流
第1章 出会い
54/73

番外編 レイリー 後編

後編投下



俺は走っていた。

今、村を挟んだ両側に魔獣の群れが来ている。


西側に現れた魔獣の群れが村にたどり着くのは時間の問題。

現にそれに備えて西に向けてバリケードを作っていた。


だが、次の報告により正反対である東側にも魔獣の群れが出現したことが分かったのだ。

西側の魔獣達と比べ村との距離は離れているが、いつ襲ってきてもおかしくはない。

そして西側よりも少ない。

だから俺は迅速に、且つ村からできるだけ離れた場所で西側の魔獣を殲滅する必要があった。


村に近いところで戦闘を行ってしまうと非常にまずいことになる。


例えば、すぐ後ろで盛大な戦闘が繰り広げられているとしよう。そんな状況で前だけを見て自分の戦いに集中することができるだろうか。

俺が出した結論は「無理」だ。

確かに俺の力と実力については皆も知ってくれている。

だからこそたった一人で魔獣の群れに特効することを許されたのだろう。

だが、それとこれとは話が別だ。

いくらその強さを分かっていたとしても、かかっているのは自分の命。いかなるものより大切な天秤にかけられないもの。

もし、レイリーが負けたら。

そう考えてしまわずにはいられないし、俺がそれを責めることはできない。

信用などの問題ではないのだ。


そんなこともあり俺は今必死にその足を動かしている。

世の中には飛行魔法なる便利なものがあるらしいがさすがに俺もそこまでの実力はない。

というか飛行魔法を行うほどの魔力コントロール力を持つものなんざ、何千人に一人という逸材である。


魔獣の姿がだんだん鮮明に見えて来る。


数は20体ほど。そしてどれもDやCランク(2体ほどBランクがいたが)。どうやら俺の心配も杞憂に終わったらしい。

もちろんどんな敵がこようが負けるつもりは毛頭ないが。


もう村の方でも戦闘が始まっているようだ。

さっさと片付けて合流せねば。



俺は右手を掲げる。


「召喚」


頭上に30本ほどの剣を召喚する。

俺が作り上げた召喚魔法の中でも、このようなものを同時召喚と呼んでいるが、その利点はまずその圧倒的な攻撃力だ。

それぞれが致死の一撃であり、一発でも当たればただでは済まない。

さらにその貫通力は甲殻獣の殻ですら容易に貫く。

そして第二に範囲攻撃ができること。

確かに同時召喚するためには結構な量の魔力を使用する。

だがそれをデメリットと感じさせないほどの広範囲殲滅能力。

だが、未だ完全な制御はできておらず、一方行に飛ばすのが精一杯だ。


しかし、今の場合ではそれで充分だった。

光の速さで射出された剣は次々と魔獣を穿っていく。


30本の剣が打ち出された後残っていたのは、5体の魔獣。


Bランクの2体だけだと思っていたため、多少は驚いたものの次の瞬間にはニヤリと笑っていた。


大剣を召喚し、未だ突然の襲撃に混乱している魔獣達に突っ込む。

全速力で走り、その勢いを乗せたまま、こちらに一番近い魔獣に突き刺す。

全速力によってつけられた勢いは凄まじく、大剣が根元まで突き刺さる。

そのまま後ろに倒れていく魔獣を尻目に大剣から手を離す。

今度は両手に小振りな剣を召喚。

次の標的は今大剣を突き刺した熊型の魔獣の右後方にいた四足の巨大な猫のような魔獣。

鋭利な爪で切り掛かってくるも左の小剣で冷静にいなす。

そして右の小剣で切り付ける。

顔から血を吹出しながら絶叫する魔獣。

だが、俺はあくまで冷静に返す剣で切り捨てる。


あと3体。


どうやら完全にこちらに気づいたようで殺気を撒き散らしながら、押し潰すかのように向かって来る。

長槍を召喚。

どちらかというとリーチを意識した選択。


魔獣がその牙で襲い掛かるよりもはやく、長槍を突き入れる。

串刺しになり絶命する魔獣を足場に思い切り飛び上がる。

それによって後ろからの攻撃をかわす。

そしてバク転の要領でくるくると後ろに回転しながら着地し、完璧に魔獣の後方をとる。


「はああ!!」


気合いと共に一閃。

再び召喚した大剣で魔獣を一刀両断。

さらに後ろから迫って来る魔獣に振り向き様に左手を向ける。


一瞬手に魔法陣が浮かび上がったと思うと、次の瞬間には魔獣の頭が柘榴のように弾けとんだ。

召喚したものを射出する(打ち出す)。

最初にやったものとおなじだが、その数が少なければ少ないほど、スピードはあがる。

剣一本であれば召喚から射出まで一秒もかからない。

最後の魔獣が倒れふしたのを確認してから息を着く。


村を出てからまだ10分そこらだろう。


6、7分を移動に費やしていたことを差し引いても、かなり高タイムと言えるだろう。



だが、さっきから気になっていることがある。


魔法を感じないのだ。


さっきまでは村の方から複数の魔法を感じた。

魔法を使っているということはまだ戦いが続いているという証拠。

だが、今は全く感じられない。

もちろん俺と同じく既に殲滅したという可能性はあるだろう。

だが、数の少ないこちら側と違い、随分な数の魔獣がいた。

いくら父がいて、優秀な人物も多いとは言っても流石にこの早さはどこかおかしい。

そう結論づけると、これは俺の思い過ごしであってくれと、はやる気持ちを抑えて村までの道を駆け戻った。





結果から言おう。


最悪だった。


−−−−茫然自失。

それ以上に今の心境を表せる言葉はない。


「どうして…………」


誰に尋ねるでもなく、その言葉は出てきた。

大急ぎで村に戻ってきた俺が見たのは息絶えた村人の姿と、魔獣達が村を破壊しているという地獄絵図だった。


「……なんで」


再び出てきた疑問符。

だが、その問いに答えてくれるものはいない。


ころころころと何かが転がって来る。


足にあたるそれ。


首だけになった母の姿だった。


そしてその前方には上半身と下半身が分断された父の姿。


それらを視界に写した瞬間。



−−−−俺は我を失った。



「ウァァァァアアアアアア」


獣のごとき叫び声をあげる。

その時頭の中にあった言葉は「殺す」という一単語のみ。


先程とは比べものにならないほどの剣の量。

それを一瞬で召喚し、射出する。

召喚からのタイムラグは1秒もなかった。

雨のごとく降り注ぐ剣。

次々と息絶えていく魔獣達。

だが逃げ惑う魔獣達の中で、たった1つ、微動だにしないものがいた。

そいつの姿を視界におさめたとき、俺は思わず目を疑った。


SSランク魔獣、人魔獣イビル。

悪魔と呼ばれ、出会った瞬間死が確定すると言われている伝説級の魔獣。

それがなぜこんなところに。

自分でもわかるほどの動揺。

我を忘れたのは最初だけだったようだ。意外と冷静な部分も残っていたらしい。

こんな時でも冷静に分析している自分に少々嫌気がさしたが、冒険者としては当然のことだ。

冒険者の世界では我を忘れる→死ぬという構図が成り立つ。

たった一つのミスで全てが終わってしまうのだ。

それを感謝するべきか、忌むべきかはわからないが。

だが、これでだいたいのことはわかった。

イビルの襲撃。

イビルのすぐ近くで息絶えている父。

そこからこの状況を想像するのは容易だ。


………想像したくもないが。




先程の一斉射出によって残りはイビルだけとなった。


本来、つまり冒険者の正解としては「逃げる」だろう。

冒険者には自分の命より重いものはない。だから何としてでも生き残る方法を考えろ、という鉄則がある。


俺もいつもだったら第一に逃げることを考えていただろう。

だが、今の俺は普通ではなかった。


仇討ちと言えば聞こえはいいかもしれない。

でも心にあるのはそんな言葉で美化できないほどのどす黒い感情。


とりあえず今は、




こいつを殺したくてたまらない。



「はぁああ!!」


熊型の魔獣を一刀両断したときのように巨大な大剣を振り下ろす。



人魔獣に分類されるだけあって非常に人に形が似ているイビル。その最大にして最恐の特徴が長い刀身となっている腕だ。

大人の男程度の体格であり、それだけをみればさほど危機感は感じないだろう。

しかし、両の剣のまがまがしさを目にした途端それは間違いだと思わされる。


そして今も、俺の渾身の一撃は漆黒の剣によって止められていた。


理性が瓦解してしまった今、全ての思考はやつをいかに効率よく殺せるかに集中している。

距離をとる場面。

だが俺は逆にさらに距離をつめた。そして自ら武器から手を離す。

当然回避行動のたぐいもとっていない。

跳び上がってからの落下の勢いを乗せて剣を振り下ろしていたのでそこから手を離し、回避行動もとらないとなると、支えを失い下に落ちるのみ。

そしてそれこそが俺の望んだものだった。

正面から切り掛かっていたため一瞬で懐に入り込むことができる。

さらにイビルの右手、もとい右の剣は俺の斬撃を受け止めるために頭上にある。

つまり胴体ががら空き。

左の剣がこちらに届くよりもこちらが切り裂くほうがはやい。

両手に小刀を召喚。

それをそれぞれ逆手に持ち、交差するように切り付ける。

二つとも強度、切れ味、共に一級品。

イビルの上半身と下半身は分断されるはずだった。


しかし………


……そうはならなかった。

それどころか傷一つつけることもできなかった。


イビルを覆う漆黒の鎧に阻まれたのだ。


一瞬だけ理性を取り戻したのか、はたまた野性的な防衛本能なのか。

咄嗟に大きく後ろへ飛ぶ。

次の瞬間、ついコンマ数秒前まで立っていた場所を黒い線が横切る。

あとコンマ1秒でもとびすさるのが遅ければ、今頃は真っ二つになっていた。


明らかに力の差が開きすぎている。

しかし、今の俺にはそんなことも判断できなかった。

俺の脳裏にあったのはどのように殺すかだけ。


一本の刀を召喚。

ただ切ること、切断することだけを考えて作られたフォルム。


そして


魔剣を発動させる。


雄叫びをあげながらイビルに迫る。

そして刀を振るうも右の剣に呆気なく阻まれる。

イビルはそのまま左の剣を凪ぐように振るう。

この時の俺は確かに我を失っていた。

でも、体に染み付いているものはそう簡単にはなくならないものだ。

召喚魔法を作り上げてから、何回、いや、何十回やったかわからない。


そう。召喚時の空間固定化現象を利用した一時的な絶対防御。


それがイビルの剣を止めていたのだ。

それと同時に刀から手を離す。

そしてもう一度召喚。

左右の剣を封じられ、完璧な隙ができているイビルに


「死ねぇぇぇぇえええええ!!」


全ての力を注ぎこんだ一太刀を叩き込む。


それはイビルの強固な鎧を切り裂いた。



………………だが、そこまでだった。

全身全霊の一撃でさえもイビルにとってはかすり傷程度。


そしてもう体は動かない。

力が入らないのだ。

魔剣の力を極限にまで高めるため全ての魔力を注ぎ込んでしまった。


力が入らずがら空きとなった胴にイビルの蹴りが突き刺さる。

それは、ほんとにただの蹴りかと思われるほどの威力で、俺は10メートル以上吹き飛ぶ。


吹き飛ばされている間一瞬戻った思考が最初に考えたことは


母との約束だった。


絶対に怪我をしないという約束。

これまでずっと守ってきた約束。

だが、それも今この瞬間呆気なく破られてしまった。

ゆっくりとこちらに歩んでくるイビル。

もう抗う力はおろか立ち上がる力さえもない。

そしてイビルは横たわる俺のところにたどり着く。

右の剣を振り上げ、その剣先はまっすぐ俺の首を捕らえている。


そしてそれは静かに振り下ろされ





    なかった。



突如視界を横切る白い閃光。

それは真っ直ぐに突き進み、イビルの右の剣を覆う。

白い閃光が消えたとき、イビルの右肩から先が消失していた。

突然のことに動揺するイビル。

すると今度はいくつもの線のように細い、白い閃光がイビルに襲い掛かる。

まるで当然のことのようにイビルを貫いていく白い光。剣を盾にしても、それすらも貫く。


圧倒的な殺戮だった。





「なかなかのものを見せてもらえた。

そこについては感謝しよう」


そう言いながら近づいてくる足音。


朧げな視界で捕らえたそいつは、漆黒の髪に金の瞳を持った大柄の男だった。


「…………おま………え…は誰……だ」


声帯がおかしくなってしまったのかと思うほどしゃがれた声。


「誰だ、か。

ふ、残念だが教えられんな」


「………なん………だと……

そう……いえば…どう……してこん…なところ……にいる」



そもそもこんな辺境の村に人が訪れること事態おかしい。


「助けてもらった分際でそうぬかすか。

まぁいい。いい余興を見せてもらえたからな。

特別に見逃してやろう」


「……余………興………だと?」


「ああそうだ。

自分の力に酔いしれていたものが、大切な人を殺され我を忘れて怒り狂い、そして返り討ちにあう。実に滑稽だと思わないか?」


「…………………」


「おいおい。何か言ったらどうなんだ?」


「お………まえ……に………お……まえなんかに」



「何がわかる!!」


感情の暴走。それは魔力の暴走につながる。

上空に浮かぶ無数の魔法陣。

それは男を囲うように円周状に広がる。


そして魔法陣から剣が召喚される。


皮肉にも、初めて他方行からターゲットを狙うことができてしまった。

そして同時に《infinite sword world circle》ができた瞬間だった。


何百、何千という剣が男に襲い掛かる。

回避は不可能。

もちろんこれがやつあたりであることはわかっている。

やつあたりにしては度が過ぎすぎているのも。

あの男は自分の命の恩人であり、言っていたこと、俺が自分の力に自惚れていたということも今だと理解できる。


理解できてしまうのだ。


だが溢れ出すこの激情をおさえることができない。おさえる術を知らない。

だから止められない。とめることができない。


数えきれないほどの剣が降り注ぐ。

しかし男は一歩も動こうとしない。

動けないのではない。動こうとしないのだ。そして一瞬男が笑った気がした。

男を中心に白い波動が広がっていく。

それにともなうように剣も空中で動きをとめる。

ほんの数秒。たったそれだけの時間で全て無力化されてしまった。


「おまえは弱い。

だが、今ので確信した。

おまえは強くなることができる。


力が足りなかったが故におまえの大切な人は死んだ。


だったら強くなればいい。

そうすればおまえを阻むものもなくなる。今度こそおまえは大切なものを守ることができる」


「まも………れる?」


「ああそうだ。何度でも守ることができるさ」


「でも………どう……すれば」


「方法は自分で考えろ。

だが、それは少々酷か。仕方ない。少しだけ教えてやろう。

何者にも縛られず、自分の決めた道を突き進めるもの。

おまえは『帝』となれ」


「みか………ど?」


「そうだ。それこそが最強の証。最強の称号だ」


「俺が帝に」


「ああ。おまえは帝になる素質を持っている。

恐れることも気に病むこともない。おまえは自分の信じた道を行けばいいんだ」


「俺の………信じ………た……道…を?」


「ふ、期待しているぞ少年。帝となった時再び会おう。

それまで死ぬなよ。後輩」

そこで俺の意識は途切れた。






「−−−い、おい。レイリー聞いてんのか?」


思考の渦にのまれていた俺は誰かの声で、意識を浮上させる。

話し掛けてきたのは四帝の一人獣帝ライザー。


「………あ、ああ大丈夫だ」


「ったくしっかりしろよな〜剣帝さんよ〜」


そんな風に適当な受け答えをしながら、さっきまで思い出していたことに再び意識をやる。

結局あの男とは未だに再開していない。

名前もなにも聞いていないのだから会えるほうがおかしい。

会えないのが普通だ。


あの日の出来事が今の自分を方向付けたといっても過言ではない。


「ふ、何がそれまで死ぬなよ、だ」


「ああ?なんかいったか?」


「いや、別に特に意味があるわけじゃない。気にしないでくれ」


「おかしなやつだな〜

変なもんでも食ったのか?」




今の俺には仲間も目的もある。

それに帝を阻むものはいないのだろう?

だから俺は心置きなく自分の信じた道を行くさ。





これにて第1章は番外編も入れて終了となります。


レイリーさんの話だったのですが、思ったよりか暗くなってしまって………

序章のおまけとは違いずっしりとしたものになってしまいました。


今回の話は番外編ということになっていますが、いくつか本編に繋がっていたものもあります。

気づきましたでしょうか。



次回は一章をまとめる感じで登場人物紹介の回にしたいので、二章はその後からということになります。



では、

感想・評価・アドバイス・質問お待ちしております。




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