出国
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第1章→序章
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「今日か」
豪華な服に身を包んだ男は自分一人以外誰もいない部屋でそう呟く。
部屋はとても豪華であり、その中央の玉座といいまさに王の部屋のようだった。否、そこは王の部屋、リシュテイン公国国王セルデラの部屋だ。
もちろん呟いた男も国王セルデラその人である。
しかして、何が今日なのか。
それは件の冒険者リョウがリシュテイン公国を旅立つ日なのだ。
リョウは現在時の人であり、その力は誰しもが欲していた。
無論セルデラもそのうちの一人。
リョウがいれば国防はおろか占領だって思いのままだ。
しかし、リョウは勧誘を断った。
なんでも捜している人物がいるらしいがそれについての詳しい情報をセルデラは知らない。
だが、セルデラはリョウのその意見を認めた。
国に属さなくてもいいと言ったのだ。
その時の理由として出したものはリョウが命の恩人だからというもの。
確かにその通りである。
武闘大会前には暗殺者の手からセフィーリアを救い、魔獣が王城に攻撃してきたときにはセルデラ及び数多の国の貴族を救い、最前線では息子であるセルシオ含め、多くの兵士を救った。
リョウはこの理由で納得したらしいが、実際の所は今言ったような理由は表向きの、いわば、建て前に過ぎない。
その裏ではあらゆる算段があったのだ。
なんとしてもリョウを自国に取り入れたかったリシュテイン公国の貴族達はあらゆる方法を考えていた。
金、女、地位、名声。
それでなびかなければ武力行使、または人質による脅迫、というふうにだ。
しかし脅迫は不可能と思われた。
まずリョウ自体を脅迫するのは愚の骨頂である。
国を滅ぼされかねない。もちろんあの少年がそんなことをするとは思えないが、その戦闘力はたった一人で国を相手にできるほどのもの。
だからこそリョウと親交の多い者を狙おうと調査したわけだが、周りにいる輩も強い強い。
とてもじゃないが不覚をとれるような者達はいなかった。
暗夜族の娘に≪千光≫の異名をもつエリア、猫人族の娘にエルフ、リョウの側にいつもいる娘も現場を見ていた兵士達によると、魔獣本軍と相対した時、リョウの前衛をつとめ、かなりの時間たった一人で押さえ込んでいたそうだ。
戦闘能力はリョウと同程度もしくは少し下回るかぐらい。
以上の事から脅迫は愚策以外の何物でもない。
かといって女や金、名声などで靡くかどうかわからないのが現状である。
そこで出された妥協案が無理に勧誘せずに、借りをたくさん作っておくというものだった。
もしかしたらいつか気が変わって国に属しようと思うことがあるかもしれない。
国の心証をあげておけば利益にはなれど、不利益な事にはならないだろう。
存外あの少年は誠意に対してはきちんと誠意で返すようである。
今のところは全て計画通りにすすんでいる。
誰もいない部屋。
静けさが残る部屋でセルデラは一人ほくそ笑むのだった。
「今日だね」
きしくも同じタイミングで呟かれた少年の言葉に反応したのは、隣に佇む銀髪の美女。
「どうしたんじゃ主殿」
「うん?
いや、たった2、3ヶ月でいろいろあったなって思ってさ」
「たしかにのう。森を出たときは我と主殿の二人だけじゃったのに今となっては7人の大所帯じゃ」
リョウとリズが思い出に胸をはせていると
「リョウさーん、リズさーん
準備できましたよ〜〜」
呼び掛けてくる声が聞こえる。
「うん。今行くよ」
楽しくて仕方がないというようなレナの声に苦笑しながら答えると、レナの返事とはやくしろ〜という野太い声が聞こえてくる。
たどり着くとそこにはよく知った顔ぶれがいた。
もちろんリョウ達が国からでることを伝えたのはごくわずかな人達だったため、今はそのほとんどがこの場にいることになる。
「あ〜あ。俺も店が無ければ行きたかったのにな」
そうこぼしたのはガジル。
ガジルは冒険者であるが本職は武器商人だ。
さすがに店を投げ出すことはできなかったようだ。
「はっ、あんなオンボロ武器屋、いつ閉まったってわかんねーよ」
「なんだとこのやろう」
馬鹿にしたように言うネルに食ってかかる。
ネルが憎まれ口を叩いてガジルがそれに噛み付く。
一見、喧嘩のようだが、ここ最近よく見る光景だ。
喧嘩というよりかはじゃれあっているといったイメージが強い。
「たく、いい歳した大人がやめろって」
そうやって二人を抑えるのはいつもリョウの役目。
女性陣は面白がって増長させるきらいがあるため。リョウがとめるしかないのだ。
自分より年下のリョウに諌められなんとか落ち着く二人。血気盛んこの上ない。
「まったくガジルも、寂しいのはわかるけどさ」
「ああん!?寂しいわけあるかっつうの、ボケ!」
リョウの思いもよらぬ攻撃にガジルはたじろぐが口早に捩じ伏せるというある意味正攻法でなんとか危機を脱する。
そんな光景を穏やかな目で見ているのはゼス。
「でもな、今日でこのにぎやかなのも終わっちまうと思うと確かに寂しいもんがあるな」
一瞬辺りが静まった。
みんなどこかでこの平和な日常を楽しんでいたのだろう。
リョウももちろんそうだ。できることならここでずっと馬鹿をやっていたい。
でも、リョウには知らねばならないことがある。
自分がこの世界に来た意味と持たされた力の意味を。
だからゼスのそんな言葉にリョウは笑顔で返す。
「これで永遠の別れじゃありません。
いつかまたみんなでどんちゃん騒ぎできる日が来ますって」
リョウの言葉に一瞬放心するも、その間の抜けたような顔はすぐさまにやにやしたものに変わる。
「まったくこの坊主。
生意気言いやがって」
そうしてリョウにヘッドロックをかける。
リョウも苦笑しながらやめてくださいよ、と言おうとゼスの顔を見上げる。
するとゼスは何故か真剣な顔をしている。
そしてリョウにだけ聞こえるような声で話す。
「なぁ、リョウ」
突然雰囲気が変わったゼスに少し動揺するも、その態度に答えるようにリョウも真剣な表情で答える。
「はい」
「あいつを、ネルのこと頼んだぞ。
あいつはな、お前と似てる。てめぇの心配しないで他人の心配ばっかしてやがる。
他人を守ろうとして自分の命をおろそかにするようなやつだ。
そういう意味じゃお前とはいいコンビになれるかもな。
でもな、これだけは覚えておけ。
他人の命は大切だ。だがな、それと同じくらい、いや、それ以上に自分の命も大切なんだ。
この先いろんな事があるだろう。
立ち止まることも、嫌になることも。
命を天秤にかけなきゃいけない時もくるかもしれねー。
だがな、その時は絶対にてめぇ一人でかかえこむんじゃねーぞ。
仲間に頼れ、自分一人でできることなんて限られてんだ。
それにお前の側には頼もしい仲間がたくさんいるだろ」
そう言ってリズ達を見る。
リョウも自然とその方向へ目を向ける。
「そのことを絶対忘れんなよ」
その言葉にリョウは力強く頷く。
「はい!」
「おう!なら冒険にでも地の果てまででも行ってこいや!」
ゼスはさっきまでの真剣な表情を消し、豪快に笑いながらいつかのようにリョウの背中をどんと叩く。
それがリョウには前に押し出してくれているように感じた。
「行ってきます!!」
リョウは再び力強く頷き仲間のもとへと駆けていったのだった。
「ネルにはなにか言わなくていいんですか?」
「ふっ、マルタか」
「はい」
「あいつにはもう教えることはすべて教えたさ。
あとはあの坊主と旅にでて一回りも二回りもでっかくなって帰ってくんだろ。その時を楽しみに待ってるさ」
「可愛い子には旅をさせろですか」
「そういうこっちゃな」
ゼスはにぎやかな輪の中にいるネルを見遣る。
ネルとはかなりの付き合いだ。
ネルが実家を金銭面で助けるために冒険者になったころ、ゼスは何かと世話を焼いていた。
そんなこともあり、ゼスにとってネルは弟のような存在だった。
そしてそんな弟の成長を嬉しく思う半面寂しく思っている自分がいる。
するとネルがこちらを見て、視線がかちあう。
−−−しっかりやってこいよ
−−−ああ、もちろんだぜ。期待して待ってろよ!
その視線による会話は一秒ともたたずに行われた。
一見限りなく不十分な会話。だが、二人の間ではそれで十分だった。
「じゃ、行きますか!」
リョウの威勢のいい声が響き渡る。
「そうじゃな」
「はい!」
「ああ、いざゆこうか」
「レッツゴー!」
「面白くなりそうですね〜〜」
「おう!」
リズ・レナ・エリア・ミーヤ・アリシア・ネル。
この世界に迷い込んでから一年。
孤独だった少年には、今では仲間と呼べる者達ができた。
返ってきた言葉に少年は満面の笑みで一歩を踏み出したのだった。
第一章 完
少々終わらせ方が強引だったでしょうか・・・・何はともあれこれで第1章は完結です。
まぁこのあと番外編と設定資料をいれるので第2章はまだ先ですが。
今回の話では、前回どうしてセルデラがそんなにも簡単にリョウの言葉にしたがったのか、という質問があったため、その理由ともなるところを入れてみました。
そしてご報告
ついに!!
お気に入り件数400件突破
総合評価1000pt突破!!
皆さん本当にありがとうございます。
書く原動力とさせて頂きますw
そしてこれからもエデンをよろしくお願いします^^




