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エデン〜創造と破壊〜  作者: 近山 流
第1章 出会い
51/73

謁見


魔獣の大進行から3日、町の復興は驚くほどのスピードで進んでいた。

そして同時にリョウに、いかに魔法が使えるのかを再確認させた3日間だった。


瓦礫を風魔法で排除したり、土魔法で家を補強したりと、もとの世界では考えられなかった方法で、もとの世界で二ヶ月はかかるであろう作業を3日ですでに7割近く終わらせている。


「主殿、そろそろじゃないかの」


「まじで?もうそんな時間か。やだな〜行きたくないな〜めんどくさいな〜」


「まったくしっかりせい。いずれにしてもあれだけやったんじゃ、いつかは通る道じゃろう」


「そうですよ、リョウさん。こういうことは早めに終わらせておいたほうが後が楽ですよ」


「ふふ、もっとも一度で済むとは限らないがな。

私も一ヶ月以上付き纏われて相当いらいらした覚えがあるぞ。

まぁ結局ぶちギレて、使者とかいうやつを叩きのめして送り返したら静かになったが」


「え、エリア、それはちょっとやりすぎかも」


「要するにこれぐらいするつもりがないとやつらは諦めないということだ。経験者の言うことだぞ、それなりに信憑性は高いと思うが」


「うぐ」


リョウは胸を押さえる。


「たしかにそうかもしれんのう。

なにぶん主殿は万単位の魔獣を一撃で葬り去ったからのう。しかも大勢の人間の前で」


「くっ、あ、あれは確かにやりすぎだったかもっていまさらながらに思ってるよ!」


リョウ達が何故こんな話をしているのか。それは国王への謁見の要請があり、それを受けてしまったからに他ならない。


国王になら以前、既に会っている。

しかしあの時はあくまでパーティーへの招待。

今回はれっきとした謁見。

政治的な話になるであろうことは火を見るより明かだ。


なにせリョウは魔獣の軍勢をたった一人(もちろんエリア達や帝、ライアン達の活躍も大いにあったわけだが噂ではリョウ一人で退けたことになっている)で退けたことによって、武闘大会の優勝者、そして帝に勝利した冒険者という肩書きに加え、この国を魔獣の手から救った英雄とまで言われるようになっているのだ。


そのような人材を前にして、何もしないことがあろうか。答えは否だ。


今やリョウの存在は半ば国民の心の支えと化している。


さらに、リョウのランクはいまだCランク。

大概的には一人前になったと認められはじめた冒険者を国に入れたということになる。

これがAランクやSランクだと、国同士のパワーバランスが完全に崩壊してしまうことになるため、どんどん国は孤立していくことになりかねない。

わざわざ自分達の国を滅ぼせるほどの力を持っているところに力を与えようとは思わないはずだ。

もっぱら国八分といった状況に陥る。

しかしリョウの場合は、Sランク以上の実力を持ってはいるが、書類上はCランク冒険者なのだ。


「ああ、こんなことになるならAランクくらいとっとけばよかったな」


「ふ、全冒険者を敵に回すような発言だな」


エリアはからかうようにニヤリと笑う。


「ほんとですよ。これが冗談じゃなくて本当にできるほどの力があるからなおたちが悪いです」


「でも〜何はともあれ受けてしまったわけですから〜でるしかないですよ〜」


「チャッチャと行ってきちゃえばいいのに」


ミーヤのどうでもよさ気な言い方にお門違いではあるがムッとしてしまう。


「そんな人事だからって」


「だって人事だもん」


そう返されてしまったらリョウはもう何も言えない。

しかし次に発せられたミーヤの言葉にリョウは別の意味で何も言えなくなる。


「だってもう答えは決まってるんでしょ」


「………………」


そのミーヤの言葉でこれまでリョウをからかっていたエリア、リズ、レナも神妙な顔付きに戻る。


「リョウ、貴様は何を心配しているのだ。

まぁといっても大体は想像はつくが」


「まったくです。本当にわかりやすいんですから」


「レナさんやエリアさん、ミーヤはともかく〜私の心配をするなんて百年早いですよ〜」


「!!

それはどういうことですか!」


「そうだよ!私は大人だよ!」


「アリシア、貴様とは一度話し合う必要があるようだな」


「ふふふ。私とやるつもりですか〜」


「ああ、ここらへんでどっちが強いか見極めておかなければならないと思っていたところだったんだ」


なんだか危ない雰囲気になっていたためリョウは慌てて口を挟む。

もっとも先程の動揺で全くうまく喋れていなかったが。


「お、おい。落ち着けって。てかなんで俺が止める係やってんの?今そういう話じゃなかったじゃん!」


リョウの止めているのかよくわからないシャウトに冷静さを取り戻した4人はなんともシリアスな口調で言った。



「「「「私もどうせついていくんだからなにも心配することはない!(ないですよ〜)」」」」


見事に揃った声よりもその内容にリョウは驚く。

驚くというか、もはやパニックである。


「ついていくってどういうこと!?」


ミーヤが言ったようにリョウの答えは既に決まっていた。

そしてその答えは時期にこの国から出るであろうことを示している。

リョウとリズはこの国から出て行くため問題はないが、それにレナ達まで付き合わせるわけにはいかない。

だがもう4人はリョウの仲間だと認識されているし、リョウ自身もそう思っている。

だからこそリョウは自分ではなくその4人に矛先が行くのを恐れたのだ。

だからと、悩んでいたのにこの四人は何を言っているんだろうか。

そう混乱していた時、


「様子見にきてやろうと思って来たらなんだかおもしれー話してるじゃねーか」


「ネ、ネル!」


「おいリョウ。お前まさか一人で行くつもりじゃねーよな」


「だって」


「だってじゃねーよ。

お前が何かをかかえてんのは知ってんだ。それにお前のその常軌を逸した力と関係があるじゃないかっていうのも見当ついてる。

あんたらもそうだろ」


そう言ってネルはエリア達に目を向ける。


「ふん。ネルのくせに生意気だが、まぁその通りだ」


ネルはエリアの言葉に若干胸を押さえるも、すぐに立ち直る。


「だとよ、リョウ。

わかったか?俺達はお前と一緒にいる時点でそういう覚悟はできてんだよ。

まぁ俺も含めここにいるのは根っからの冒険者だ。そんな危険で楽しそうなこと喜々として行くに決まってんだろ」


そのネルの言葉を聞いてリョウの口から最初にでてきた言葉は


「俺、そんなにわかりやすい?」


その瞬間何故か全員が笑い出す。


たっぷり数分笑い転げた後、むくれているリョウに声をかけたのはリズ。


「主殿は普段はそんなでもないのじゃが、悩んでいるときはすぐに顔にでるからのう」


「気にしないでいいですよリョウさん、それがあなたの良いところなんですから」


「…………レナ、なんだか喜ぶべきか悲しむべきかわからない言葉をありがとう」


「まぁなんにせよだ。

これで悩みの種はなくなったんだろ。

さっさと行ってこいよ」


「ああ、行ってくるわ」


リョウは晴れやかな顔で向かって行った。




所変わって王城。

ここも魔獣の襲撃によってかなりの打撃を受けたようだが、既にかなりの復興が進んでいるようだ。

今もいろんな指示が飛び交っている。


それを軽く聞きながしながら、リョウは王城の門までつくと、一人の男がリョウに向かって片手を上げながら小走りに近づいてくる。



「私はリシュテイン王、セルデラ様の秘書、ドレッドと申します。

王が中でお待ちしております」


細長いひょろっとした体つきをしていてどこかひ弱そうに感じられるが、その眼光はすでに熟年のもので、まさに敏腕秘書とはこのようなものなのかと納得させられる。


そしてリョウはドレッドに連れられ、王城内に入ったのだが、なにぶん視線が多い。


リョウの名声は既に王城内部の騎士、魔術師から雑用係まであらゆる所に知れ渡っているのか、通路ですれ違うたびに尊敬の眼差しを向けてくる。

もう馴れたと思っていたが、やはり気恥ずかしいものだ。

リョウは若干顔を伏せながら歩いていると、尊敬の眼差しの中に、そうでないものがちらほらあることに気づく。

訝しげな視線というか、要は疑いの目だ。

それはそうだろう。

リョウの外見は未だ少し幼さを残していて、そこから歳は容易に想像できる。

そして噂に聞くリョウの英雄談。それは全て人外のようなふざけた内容だった。

もはや人間という括りを遥かに越える数々の所業。

それとどうにも目の前の少年が結び付かないのだ。

まぁ現場を見ていないのだからしょうがないと言ってしまえばそれまでだが。


そうこうしている内に部屋に着いたらしい。

ドレッドが確認するかのようにこちらを見る。

それにリョウが頷くと、ドアを軽くノックする。


「ドレッドでございます。

セルデラ様、リョウ様をお連れしました」


すると中から、入れ、との声がしてドレッドが2メートル超はあるかと思われる扉を開く。

そしてリョウに入れと視線を向けてくる。


リョウは今一度覚悟を決め、揺るぎない覚悟で扉をくぐった。




「よく来てくれた。

そしてすまなかった。本来であればもっと早くに呼ぶべきだったろう。にもかかわるずこんな時期に、ましてやそちらから出向かせてしまうとは。私から向かうべきだったのに、今は国中が混乱しているのでな、暗殺の心配があるとか言って迂闊に外に出してもらえんのだ」


王の最初の言葉は歓迎と謝罪だった。


「いえ、構いませんよ。

それに今は確かに絶好の暗殺時ですし」


混乱に乗じ殺害というのは一番のセオリーであり、最も注意しなければならないものだろう。


「そう言ってくれるか」


そこでガハハハハハと豪快な笑い声をあげる。

隣のセフィーリアはそんな父の姿を見て、目を丸くしている。


この部屋には現在国王であるセルデラと王女のセフィーリア、そしてリョウの3人がいる。

ドレッドはリョウを送り届けた後、すぐにでていった。


本来護衛の兵士が何人かいるものだが、セルデラは下がらせたらしい。

リョウを信頼しているのかはたまた別の意図があるのかは分からないが、見たところ他の気配はない。


未だ笑いつづけているセルデラは咳ばらいを一つして真剣な顔に戻る。


「すまぬ。つい笑ってしまった。


では、本題に入ろう。

ここに呼んだのは貴殿へ魔獣襲撃における謝礼を渡すことともう一つ」


そこでセルデラは言葉を切る。


「この国に仕える気はないかね」


ついに来た。それがリョウの脳裏によぎった言葉だった。

しかしリョウの答えも既に決まっている。


「残念ですが、お断りさせていただきます」


リョウの即答とはいかないまでもかなり早い返答にセルデラは少々驚いた顔をするが、そこは一国の王。すぐに毅然としたものに戻る。


「理由を尋ねてよいかね。

この国に仕えるのなら、契約金として月に金貨100枚を渡そう。それに貴殿ほどの実力があればすぐに騎士団長クラスに昇格できるだろう。

どうだね。悪い話ではないはずだが」


たしかに悪い話どころか破格な話だ。一生遊んで暮らせるだろう。

しかしそれでもリョウは曲がらない。


「俺には会わなければならない奴がいるんです。

そいつは俺が知らない俺のことを知っている。

それがこのお誘いを断るにたる理由かどうかはわかりませんが、俺には大事なことなんです」


自分は何故この世界にきたのか。

何故こんな絶大な力を持っているのか。


それについてリョウはずっと考えていた。

しかし結論どころか突破口すら見えなかった。

そんな中で現れたフェイトと名乗る人物。

その口ぶりからしてその答えを限りなく正解に近い形で知っているはずだ。


「会わなければならない人物、か」


「はい」


そこでふっとかすかに笑う。


「分かった。この誘いは取り下げよう」



「………………ええ!!」


リョウはあまりにも潔い言葉に拍子抜けして間抜けな声を出してしまう。


「なにをそんなに驚くことがある」


「い、いやその」


「もっとこちらが粘って来ると思ったのであろう?」


「は、はい」


「はは、確かに貴殿は優秀な人材で、この国に必要な人材だ。

だがその前に私の、そして息子と娘の命の恩人でもある。

それにさっきの回答から察するに、他の国に仕えるきはないのだろう?」


「はい。そいつに会って聞くまではそういうことはまず念頭にすら置けないと思います」


「ふはははは。貴殿は本当に面白い男だ。

どうだ、その用事とやらが終わったらセフィーリアの婿にならないかね?

そんじょそこらの国にだすよりかは断然いい」


父たるセルデラの問題発言に派手に焦っているのはセフィーリア。


「お、お父様!何をおっしゃっているのですか!」


そんな娘の様子に面白いものを見たというようにニヤニヤと笑っているセルデラ。

その光景を苦笑しながら見ていると。


「そんなこと私が絶対ゆるさないぞ!!」


一際大きな声をしたと思ったら扉が勢いよく開け放たれる。


怒りを全身で発しながら入ってきたのはリシュテイン王国第一王子セルシオ。


勇将として知られるセルシオだが、実は重度のシスコンである。


「お、お兄様!?」


「セフィー、この男と結婚するというのは本気か!」


「い、いえ。それはお父様の冗談で」


「何故だセルシオ。いい話と思わぬのか」


「思いません!全く思いませんよお父様!

おい、貴様セフィーを嫁にするというのなら私に認めさせてみろ!」


リョウは嫌な予感がしていた。

矛先が少しずつ自分に向かって来ているのだ。


「い、いや。認めさせるというか。そもそも婿になんてなりませんよ」


「なんだと貴様!セフィーを愚弄する気か!!」


「どっちなんすか!!」


「どっちだと!

そんな中途半端な気持ちでセフィーの婿になろうだなんていい度胸だな」


「もうこの人やだ」


敬語すら忘れて若干涙目のリョウに、さらに迫るセルシオ。

それは見兼ねたのかセフィーリアが叫ぶ。


「お止め下さい!!」


「だ、だがセフィー」


「お兄様は黙っていてください!

お父様、お話は終わったのですか?」


「あ、ああ、また後日呼ぶかもしれぬが今日のところは終わりだ」


「わかりました。ではリョウ様を門までお送りしますので」


「セ、セフィー。君がそんなことをしなくても」


そう言ったセルシオをきっとにらめつけると


「リョウ様、では行きましょう」


「え?あ、はい」


リョウを連れて部屋からでていったのであった。




「兄と父がご迷惑をおかけしました」


セフィーリアの第一声は謝罪だった。


「いやいや、大丈夫。

それにしても随分と………なんというかアグレッシブなお兄さんだね」


「はい。でも兄は普段はすばらしいお人なんですよ。

皆から尊敬されて勇将なんて呼ばれて。

なのに私の事となると人が変わったように……………」


「あはははは」


リョウも先ほどのことを思いだし渇いた笑いをする。


「でもなんであそこまで?」


何事にも理由はあるはずだ。そう思って尋ねたところ、セフィーリアは顔を伏せる。


咄嗟に聞いてはいけなかったことだと察し謝ろうとするが、セフィーリアに制される。


「いいんです、謝らなくても」


そう言って話し出す。


「私には弟がいたらしいのです」


「らしい?」


唐突に始まったセフィーリアの言葉におかしなところを感じ聞き直す。


「はい。私が5か6の時でした。弟が生まれたのです。

ですがその時、母と弟は非常に危険な状態で、母は弟を生むと同時に息を引き取りました」


「…………」


「さっきの『らしい』についてですが、私は弟にはあったことがないのです」


「会ったことがない?一度も?」


「はい。どうやら弟は生まれながらにひどい病を持っていたらしく当時幼かった私は会うことを許されなかったのです。

弟も領地の辺境に隔離されていたようだったので、それも会いに行く障害となっていました。


ですが7年が経ち、ついに会うことが許されました」


リョウは何故か安堵の息をついてしまうが、セフィーリアはゆっくりと首を振る。


「でも、ついに会えるというその前日。唐突に弟が息を引き取ったという知らせを聞いたのです」


「そんなことって………」


「私は幼少の頃から母を失い、国王である父はそれを忘れたいかのように一心に仕事へ向かっていたので、いつも孤独でした。

そんな私の面倒をいつも見てくれていたのが兄だったのです。

そして弟の死を聞いた瞬間私はさらに泣き崩れ、ただでさえ兄に少し依存していた私はさらに依存するようになっていました。

今ではもうそのことは受け止められていますが兄はやはり心配なのでしょう。兄があんなふうになってしまったのは私の責任でもあるのです」


軽い感じで聞いてしまった事がかなり、重い答えで帰ってきてしまったため若干重苦しい雰囲気になってしまう。


「で、でもほんとに今はなんともないんですよ。

逆にあんな兄に困ってるくらいです」


そんな空気を断ち切るかのようにセフィーリアが明るい口調で言う。

リョウの中でもセルシオのイメージが上方修正されていた。


「でも、いいお兄さんだな」


「はい。とっても」


そう言って笑ったセフィーリアの顔をとても輝いていた。




第ニ章も残すところあと1話となりました。


今回で結構話すすんだかな?



セルシオ君のキャラが若干残念なことになってしまいましたが…………



では、

感想・評価・アドバイス・質問お待ちしております。


6/25誤字修正しました


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