魔獣の軍勢−終結−
目前には数えきれないほどの魔獣が迫って来ている。
リョウが魔法を発動させるまでの30秒間、魔獣達を抑えていなければならない。
「楽勝じゃな」
リズは不適に笑う。
「ロキの狐野郎にはかなわぬが我も天界に住んでいた身じゃ。
その程度の数で我を抜けられると思うなよ」
魔獣はリズの言葉を理解したのか怒りのような唸り声をあげ、いっきに距離を詰めようとする。
しかし
「天狼流防御結界」
その瞬間魔獣達はあたかも壁にぶつかったかのように跳ね返る。
不可視の壁は、何度も何度も体当たりや魔法などの方法を試すもびくともしない。
するとその状態を見兼ねたのか、体当たりをしている魔獣達の後ろから巨大ななにかが現れる。
「ほう。Sランクか」
リズが言った通り、その魔獣はSランク認定されている人魔獣サイクロプス。
サイクロプスは己の手に持つ巨大な斧を横凪にふるう。
「無駄じゃ」
かなりの衝撃が走っているにもかかわらず、先程と同様に障壁はびくともしない。
サイクロプスの目が驚愕で見開かれる。
それでも何度も何度も斧を振りつづける。
そして何度目かの攻撃をしようとしたその時、
サイクロプスの脳天を白い線が貫いていた。
驚いたのはリズだった。しかしその答えはすぐに見つけることができた。
白い線が現れたのはリズの後方。
そしてそこには一人しかいない。
「もうよいのか?」
「ああ、準備は完了したよ」
ゆっくりと崩れ落ちていくサイクロプスを見て、魔獣達は怒りを募らせる。
「じゃあ我はゆっくりと後ろで見物でもしとるかの」
「ああ」
そうしてリズは結界をとく。
行く手を阻んでいたものが取っ払われたからか、それを合図にしたかのように怒涛の勢いで襲い掛かってくる。
それが大きな間違いとも知らずに…………
「創造」
リョウは右手を魔獣の軍勢に向ける。
魔獣達は本能的な危機感でその場から離脱しようとするも、すでにかなり進んでいたため、その数も相まって逃げ場はなくなっていた。
「世界は氷に閉ざされる。
そこに一切の生は許されない。
全てはただ氷結の世界に捕われるだけ」
ニヴルヘイム
「《氷結地獄》」
魔獣の軍勢を右側から氷結の地獄が覆いつくしていく。
次々と氷漬けになっていく有様を見て魔獣達はそれから逃げるように左側に走り出す。
しかしリョウの攻撃はまだ終わらない。
「続けて創造
世界は火炎に包まれる。
その炎は全てを焼きはらい灰となす。
いざ、灼熱の炎を
ムスペルヘイム
《灼熱地獄》」
氷結地獄たるニヴルヘイムの対極に位置する技、灼熱地獄、ムスペルヘイム。
因果の理を曲げて創られた紅蓮の炎は左側に逃げていた魔獣達をどんどん焼き尽くしていく。
右側から氷結地獄、左側からは灼熱地獄が浸食している。
つまり二つの地獄は必然的に衝突することになる。
そして
「創造!
この世は神にあだなした。
一切の躊躇もなく、一瞬の迷いもなく神は裁きの一撃を与える。
ライトニングボルテックス
《雷神の鉄槌》」
二つの地獄がぶつかったその地点に特大の雷が落ちる。
右は青色、左は赤色に染まり、天からは黄金色の光が降り注いでいて、まさに幻想的といった雰囲気。
ただそれは終わりの前に訪れる一瞬の煌めきだった。
リョウは高々と右手を挙げる。
ユニゾン
「≪融合≫
二つの地獄が交わり、そこに神の怒りが落とされるとき、世界は終わりを告げる。
そこは楽園の終わり。完全なる無の世界。
一切の生は許されない…………
超広範囲殲滅創造魔法
パラダイスロスト
《楽園終末》」
三原色の交わった所から黒い波動が生まれる。
それは球状に徐々に広がっていき、ついに全てを覆い尽くす。
全てが形すら残らずに消え去る。
CランクからSランクまで、あらゆる種類・あらゆる能力を持つ魔獣だが、そのどれもにそれは訪れた。
消滅
暗黒の波動に飲み込まれた者は何一つ残さず消える。つまり、消滅
波動が消え去ったときには魔獣だけでなく虫も草も、全ての命が跡形もなく消え去っていた。
そこにはもう何もなかった。
リョウの一連の戦いを見ていた帝三人、そしてリシュテイン軍の兵士はしばし呆然としていた。
状況を飲み込むことができない。
その中で一人の兵士が呟いた。
「魔………獣が………消え…た………のか?」
それを皮切りに次々と波紋が広がる。
「な、なんだよ今の!!」
「何が起こったんだ?」
「うそだろ!?」
「信じられねぇ、あんなん人間にできる芸当じゃねーよ!」
「あれほどの数の魔獣を一瞬で消しさるなんて、彼は一体」
シルフィの問いに答えたのはレイリー。
「俺にもよくわからない。
正直な所、やつの力は未知数だ。
実際問題、俺達が太刀打ちできるものなのかすらあやしいな」
「おいおい。それはちょっと言い過ぎじゃねーか?
武闘大会の時だって引き分けてたしな。
もちろん互いに全く実力を出せてなかったことは分かってるが、その分条件は同じだ。
さすがに俺はあいつを俺達より弱いとは思っていねー。だが、俺達より強いとも思わなかったが」
確かにライザーの言い分はもっともである。
しかし
「いや、あいつには何かがあるはずだ。だろう?シルフィ」
突如話をふられ、驚くかと思われたが、シルフィはまるでその問いが来るのを分かっていたかのように自然に答える。
「ええ。そうね」
「どういうことだ?姫さん」
「ライザーはあまり魔法面に精通してないからわからないだろうですけど、さっきの魔法を使った時、あの子の魔力量はほぼゼロだったのです」
「は?
そりゃああんなばかみたいな魔法出しやがったんだ。魔力がほぼゼロになるのは当然だろう」
シルフィは首を振る。
「いいえ、違います。
あの子の魔力量がほぼゼロだったのは魔法を使う前からなのです」
「???」
ライザーは何を言っているのかさっぱりわからないという顔をする。
そしてその顔がつぼに入ったのかシルフィはくすくすと笑い出してしまう。
そこに助け船を出したのはレイリー。
「つまりあいつは魔力ではないなんらかの力でさっきの現象を引き起こしたということだ」
レイリーの説明でようやく理解したライザーは眉をよせる。
「ああ。言いたいことは分かった。
だが、そんな俺達はおろか姫さんまで知らない方法なんてあるのか?」
「それがわかれば苦労はしないさ」
「……………そりゃそうだな。
まったくあいつは何者なんだ…………」
「………………」
「……………」
(どうしよう。リズがすっごいジト目で見てくるんだけど)
魔獣を殲滅したリョウの元に戻ってきたリズはさっきから何もしゃべろうとしない。
それそろ気まずいな、と思っていた矢先だった。
リズが口を尖らせながらついにその一言を投下する。
「なんじゃいまのはぁぁぁぁぁあああああ」
声のかぎりに叫んだのかゼェハァゼェハァと激しく息を切らせているが、その目はギラリとリョウを捕らえていた。
「なにって創造魔法、リズは知ってるでしょう?、それの派生系というか発展系というか」
「我は知らなかったぞ!」
「いや、だって言ってないし………」
「ぬぐぐ」
リズはふて腐れたような顔をする。
それが普段とのギャップのせいか妙に可愛く見え、ついフォローをしてしまう。
「さっきのはついこないだ思いついたものだからさ。
まだ練習の段階だったしリズに見せられるようなもんじゃなかったんだよ」
「思いついた、じゃと?」
「うん。リズには前に言ったかもしれないけどさ、創造魔法もそうだけど、俺の能力って簡単に言うと想像の具現化なんだよね。
だから、イメージの強さが一番大事なんだ」
「ふむ………」
「でさ、この前武闘大会でアリシアと戦って、アリシアがユニゾンしたのを見て思いついたんだよ。創造魔法の《融合》を」
「思いついただけでできるとは…………主殿は化け物か?」
「それが俺の能力というか力なんだけど、さすがに今回は違うよ。
アリシアに《融合》についていろいろ聞いて、魔力、まぁ俺の場合は想像力だけど。
それを全部同じにするのがかなり大変でさ、とりあえず成功できてほんと良かったよ」
リズはくすりと笑い
「とりあえずでこの有様とはどういう了見じゃ」
あたりを見回す。
大地が一面焼き焦げ荒れ果てている様はなんとも異様だった。
「………………ま、まだちょっと制御できてなかったのかな」
「おーい!!」
そんなリョウとリズの元に走り寄って来る影が6つ。
既に存在を感知していた二人はさして慌てる様子もなく手を挙げてそれに答える。
「なんですか!この有様は!」
リョウとリズのところに着いたレナの始めの一言がこれだ。
ほかの5人は絶賛絶句中である。
その後我を取り戻した5人から話を聞いたところ、リシュテイン国内の魔獣は何者かに一掃されたらしく、王門に迫っていた魔獣達もエリア達が殲滅した。
そしてリョウの事を待っていた所、空が一瞬煌めいたと思ったら巨大な金色の光が空からリョウ達がいるであろう場所に落ちたのだ。
リョウからはここに留まるようにと言われたが、さすがに、さっきのを目にしてこんなところで待っていられるわけがないとばかりに、レナ・エリア・ミーヤ・アリシア・ネル・ガジルの6人は走り出したのだった。
途中、暗黒の波動が全てを飲み込んでいく光景を見て、ついぞ本気で走りここまで来たのだ。
そこまで話した所で6人は憤慨する。
これまで心底心配して、未だ辛い体に鞭打って少しでも力になろうとここまで走ってきたのに、ここにたどり着いた時に見たのは、朗らかに笑いながら手を振るリョウとリズの姿。
そしてその前方の焼き焦げ荒れ果てた大地。
心の中では二人が無事だったことに安堵するもやはり何か言いたくなるのは仕方がないだろう。
「お前、もうちょっと苦戦しろや!!」
「ええ!
勝ったのに、俺勝ったのになんて理不尽な!」
「そうだそうだ!」
「ミーヤ、君だけは俺のみかt」
「私たちが頑張ってきたっていうのに、リズといちゃいちゃして、私達の頑張りを返せえ!」
またしても後ろからそうだそうだの声。
「ミーヤまで…………
リズ!リズからもなんかいってよ!
カオスだよ!この空間限りなくカオスになってるよ!」
「それをうまい具合に丸くおさめてこそ我の主というものだ」
「くそ、いつもはあってないようなものなのに、こんな時ばっかり」
「リョウさん?
しっかり丸くおさめて下さいね」
「ああ、リョウ。期待してるぞ」
「こわっ。笑顔なのに、笑顔なのになんでこんな恐いの!
あとなんでそんな満面の笑みで少しずつ近づいてくる………」
「「「「…………ふふふふふ」」」」
「いや、ちょ、まっ
ぎゃあああああ」
「はははは、いいきみだぜこのハーレム男。
なぁガジル」
「ああ、ざまぁみやがれってんだ」
そこではいつまでも戦いの疲れを感じさせないような言い合いが続けられていた。
これにて魔獣の軍勢編は終了となります。
まだ第2章は少し続くのでこれからも応援よろしくお願いします。
では、
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