魔獣の軍勢−帝の力−
大変お待たせしました
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」
互いの健闘を讃え合いながら抱き合うもの、嬉し涙をボロボロと流しながら抱き合うもの。
ただただ歓声をあげるもの。
その中で間違いなく今回大活躍したミーヤ・アリシア・レナ・エリアは抱き合って喜びを噛み締めていた。
抱き合うというかミーヤが三人に抱き着く形であったが。
誰しも疲労と何より魔力の枯渇でいつ倒れてもおかしくないにもかかわらず皆、満面の笑みである。
「まさかあそこでミーヤが来るとは思わなかったぞ」
エリアが依然笑みを絶やさず言うとそうですね〜とアリシアも頷く。
アリシアに宿っていた炎の精霊フレイアは再びアリシアの中へと戻ったためいつもと同じ口調だ。
「えへへ。エンシェントドラゴンの唯一の弱点は分かってたから、アリシアの言ってた1分を使わせてもらっちゃった」
「ほんとにミーヤからそれを聞かされたときには驚きましたよ。
私の魔力ももつかわからかったですし」
レナがやれやれといった表情を浮かべる。
レナがミーヤから聞かされた作戦はこうだった。
まずエンシェントドラゴンがアリシアをひたすら狙っていることを利用してレナに闇属性の魔法で気配を消してもらう。
さらにレナに風属性の魔法でエンシェントドラゴンの遥か頭上まで運んでもらう。
それを聞かされた時レナは問うた。
何故頭上なのか、と。
それはエンシェントドラゴンの唯一の弱点が首だからだ。
エンシェントドラゴンは体のほとんどが硬い鱗に覆われている。
しかし首だけは覆われていないのだ。
よってミーヤは首を狙うことにしたのだが流石にそこまですれば気づかれてしまう。
弱点であるが故にそれに対しての危機感も尋常でないのだ。
だからこその闇魔法。
それに加えて注意は完全にアリシアの方にいっている。
だからミーヤは1分間に渡りエンシェントドラゴンにばれずにありったけの力を右腕にためることができたのだ。
未だ興奮が冷めやらぬ中四人はかなた、最前線の方へと目を向ける。
そして四人はそこで恐らく鬼人のごとく戦っているだろう少年に向かって呟く。
今度はそっちの番だからな
時を同じくして最前線
魔帝シルフィは己の前に立ち塞がった敵。
竜種サラマンダーとの戦闘を開始していた。
「《虹の一刃》」
シルフィの手から三日月状の虹色の攻撃が放たれる。
サラマンダーはその巨大な体格からは想像もできない速さでそれを避ける。
これにはシルフィも驚いた。
防がれたり、受けとめられることはあれどまさか避けられるとは予想もしていなかったのだ。
しかし次の瞬間にはもう認識を改める。
その柔軟性が、シルフィをここまでの使い手にさせた一因でもあるだろう。
シルフィは次々と虹の攻撃を加えるもサラマンダーはその巨体に似合わぬ俊敏さでよけていく。
シルフィが魔法を放ちサラマンダーがよける、を何度か繰り返した後、これまで防戦一方であったサラマンダーがついに攻撃に移った。
口から火の玉を連続ではく。
しかしシルフィは防御体勢をとろうとはしない。
左手で《虹の弾丸》を撃ち火の玉を相殺させつつ右手で《虹の一刃》を放ち続ける。
サラマンダーが火の玉をはき、それをシルフィが迎撃しつつ攻撃を加える。
それをさらにサラマンダーが驚異的な俊敏性でよけ、再び火の玉をはく。
それをまたシルフィが、という無限ループに陥る。
「なるほど。私の魔力切れを狙っているということですか」
シルフィは冷静に分析し、どこか納得したように呟く。
余談だが、≪魔法≫というものは一見万能であるように見えて意外と弱点、短所というものが存在する。
まず一番は魔力切れのことだ。
魔力量は始めから決まっているためどうしようもない。
魔力量が少ない者はそれに見合った魔法を使うか、燃費をよくするような方法を考えなければならない。
そしてあと一つ。
それは、追尾機能、いわゆるホーミングができる魔法が極端に少ないということだ。
エリアのオリジナル魔法である《千光》があんなにも有名になり、二つ名にまでなったのはもちろん光第三の可能性である幻をあみだしたからであるが、その全ての魔法にホーミング機能がついているからというのがかなり大きい。
つまり何が言いたいかというと、魔法は三次元的な動きに弱いのだ。
それぞれ範囲はあれど所詮は直線。
前後上下左右に動くことのできる空をテリトリーとおいているサラマンダーにあてるのは相当難しい。
だからこそ物量でせめているのだが如何せん相手の回避能力の方が上である。
だがシルフィの顔には焦りはない。
ループが何度か続き、シルフィがもう何度目かの《虹の一刃》を放ったときシルフィは告げた。
「私の勝ちです」
サラマンダーは何をいっているかわからないといいたげである。
シルフィが魔帝として魔術師の頂点に立てたのは全属性の≪融合≫である虹属性故だと言われている。
たしかにそれもある。しかしそれだけではないのだ。
虹属性はわかるように消費する魔力が半端でないのだ。
そんなものを撃ち続ければすぐに魔力切れをおこしてしまうだろう。
元来魔術師というものは長期戦になればなるほど不利になる。
魔力量は有限であり、魔法をつかうごとに消費していく。
だから純魔術師(魔法のみしか使わない魔術師)と戦う時には長期戦に持ち込めというセオリーがある。
サラマンダーにも知性はあるためおそらくそう考えたのだろう。
だがシルフィだけにとっては大きな間違いだった。
「虹の残骸よ」
そう言って右手を振り上げた瞬間、全てが虹色に染まった。
空間が虹色に輝いているようだった。否、輝いているのだ。
《虹の残骸》、空間中に広がっている虹属性の粒子を操る魔法。
シルフィが時間をかければかけるほど強くなるというのはこれ故だ。
空間に散らばった無数の虹の粒子、残骸を操ることで相手を翻弄する。
もはやこの空間はシルフィの領域であり、それこそ女王のような存在感を持っている。
虹の粒子を集め、竜巻をいくつも作るとそれを一斉にサラマンダーへと放つ。
サラマンダーは再び回避に専念するも先程とは違い、追尾能力が備わっているその竜巻から逃げるのは厳しい。
さらにそれがいくつもあるのだ。
完全に回避するのはもはや至難の技と言っても過言ではない。
そしてそれを証明するかのように一つの竜巻がついに回避しきれなくなったサラマンダーの片翼をえぐり取る。
「ゴアアアアア!!」
サラマンダーは苦痛に満ちた悲鳴をあげながらも、もう片翼を使い体勢を立て直そうとする。
だが、無情にもその片翼すら虹の竜巻によってえぐり取られる。
空中で体を支えるものがなくなり、真っ逆さまに地面へと落ちていくサラマンダーを身ながらもシルフィは冷静であった。
シルフィは誰からも慕われる人格の持ち主である。
ただ、それは敵を前にすれば変わってくる。
シルフィは敵と認識した者には一切の情をかけない。
地に伏す真紅の竜を見ながらシルフィは唱えた。
「虹の残骸よ、集まりそして再び虹となれ!
リバースオブレインボウ
《虹の爆誕》」
まばゆい虹の光に包まれたサラマンダーは次の瞬間には爆音と共に跡形もなく消えていた。
あとに残ったのはサラマンダーを弔うように淡い虹色の光が集まり虹を形作っているというその神秘的な光景だけだった。
ライザーは地を思い切り蹴る。
≪獣化≫によって極限にまで高められた身体能力は跳躍にも発揮される。
全てを置き去りに一瞬で遥か上空のSSランク魔獣、幻獣ペガサスのもとへと迫ると、そのまま爪を振るう。
しかしペガサスは微動だにもしない。
ライザーは警戒心を強めるも振るわれた爪をとめることはしない。
そしてそのままライザーの爪はペガサスを切り裂いた と思われた。
何故か全く手応えがない。それこそ空を切っているようで、ライザーは多少混乱しつつも、危険を察知すると一瞬でその場から離脱し、地面に着地する。
その瞬間、先程までライザーがいた場所が突然凍った。
大気を瞬間冷凍することによってできた巨大な氷塊は重力に逆らわずに下へと落ちる。
ライザーはすぐさま落下場所から距離を離れると、再び爆発のような大きい音と共に跳躍し、ペガサスの元へと向かう。
そして爪の攻撃や蹴りなどの打撃攻撃を与える。
しかしどれもペガサスをとらえることはない。
いや、とらえてはいるのだ。
全ての攻撃が当たっているにもかかわらず空を殴っているような感覚。
気配も姿もそこにあるのにまるで実体がないとでもいうようだ。
その言葉を胸の内で出したとき、なにか掴んだような顔と共にそういうことかと呟く。
まず、気配はあるが実体がないというのはどういった状況の時につくられるのか。
それは二つある。
一つ目は魔獣の軍勢が出現に利用した光属性と闇属性の≪融合≫だ。
そしてもう一つは魔獣特有の能力だろう。
まず始めに考慮すべきは一つ目の可能性。
ふん、という勢いのある声と共にライザーの体から球状になにかが広がっていく。
ライザーが飛ばしたのは魔力波。
光属性と闇属性の≪融合≫の場合は、気配が消え、姿が見えないだけで必ずどこかに存在しているのだ。
よって全方位に攻撃をしかければ位置を知ることも攻撃することも可能だ。
さらに魔力を飛ばすだけであるから魔力コントロールが苦手である獣人族でも可能である。
結果
「どうやらその選択肢は消えたみてーだな」
魔力波は今現在ペガサスが佇んでいるところでたしかに反応したのだ。
よって自然と二つ目の選択肢に絞られる。
「特殊能力持ちか。
まったくめんどくせーやつにあたっちまったぜ」
ペガサスはなんらかの能力で物理攻撃が全て効かない相手であり、ライザーの天敵といっても過言ではないだろう。
ペガサスは動かないライザーに何を思ったのか、氷の槍を相次いで放つ。
ライザーは上空からふりそそいでくるそれを視認するとこれまた巧みなステップで避けていく。
しかし氷槍の雨はどんどん勢いをましていく。
もちろんレイリーの《infinite sword world》やシルフィの《虹の流星》などに比べたら足元にもおよばないが、それでも十分なスピードと威力、そして何より数を持っている。
常人であればあっという間に串刺しになっていただろう。
しかしライザーにとってはなんでもないことだった。
全て避ける。
リョウがやったときのように弾く、いなす、防ぐといったことは一切しない。ただ避ける。
まるで次どこに槍が来るのか、どの順番で来るのかが完全にわかっているかのように避けつづける。
獣人族としての並外れた身体能力。そしてこれまで積んできた膨大な戦闘経験がそれを可能にしていた。
だがよけているだけでは勝利は掴めないのも事実。
ライザーは氷槍の勢いが弱まった一瞬をついて空を駆け上がる。
空に向かって見えない階段が続いているように錯覚させるほどの上昇。
あっという間にペガサスの元へと舞い戻ると、今度は爪による斬撃ではなく拳を握りしめ大きく勢いをつける。
そして思い切りふりぬく。
どん!、という鈍い音と共にペガサスの体が大きく揺れる。
先程のライザーの怒涛の攻撃の時はびくともしなかったペガサスの体が揺れたのだ。
ライザーはニヤリと笑う。
その目はこう言っていた。
謎は解けたぞ
さてライザーは今何をしたのか。
ライザーがふりぬいた拳はペガサスに当たったのではない。
ペガサスの手前数十センチの所に入ったのだ。
つまりライザーの攻撃は拳による打撃攻撃ではなく、それが生み出す風圧を利用して攻撃したのだ。
するとどうだろう。
ペガサスの体は波打ったように揺れたのだ。
それを見た瞬間ライザーは理解した。
ペガサスの体は流体なのだ。
だから物理攻撃に無敵の強さを誇っていた。
流体なのだから切っても殴ってもなんともないのは当たり前と言ってしまえば当たり前だ。
そしてだからこそ自分の相手として登場したのではないかとライザーは考えていた。
相手としては弱点をついたつもりなのだろう。
事実、ライザーは魔法があまり得意ではない。
使えないというわけではない。ただ制御ができないのだ。
よって遠距離魔法などの攻撃手段がなく、自然と近距離攻撃、いわゆる打撃や斬撃といった攻撃が多くなってくる。
しかし、その攻撃はペガサスには通用しないのだ。
まさにペガサスはライザーの天敵と言ってもいいはずだった。
ライザーの攻撃手段が本当に近距離物理攻撃のみだったらだが。
ライザーは瞑想をするかのように目を閉じる。
依然として降り続いている氷の槍をいにもかいさず集中しつづける。
そして氷の槍が今にもライザーに直撃すると思われた時、ばっと目を見開いたライザーの体を突如炎が包む。
それによって氷槍は弾かれ、ライザーを包む炎は徐々に四肢へと集結する。
ふうとライザーが息をついた時には四肢は完全に炎で覆われていた。
ライザーは魔法が苦手なだけでできないわけではない。
これまでの数ある戦いのなかで今のように物理攻撃が効かない者はいた。
そういう時のためにライザーが用意していたもの。
できれば使いたくない隠し玉といってもいいものだったがペガサスに物理攻撃が効かない今、それ以外の手段はない。
それは≪纏い≫に似ていたが完全にライザーのオリジナル。
ライザーは魔力コントロール能力がなく魔法を飛ばすことは無理だが魔法を発動させるところまではできるのだ。
≪纏い≫は武器などにその属性を覆わせるのを前提にした魔法だが、ライザーのそれはまさに無理矢理という表現が似合うものだった。
火の玉を持ったままパンチすると考えてもらっていい。
周りに巧みに纏わせるほどのコントロールがない。
ならどうやって魔法を活用しようか。
決して少ない魔法量ではないライザーは考えた。
そしてでた結論が、魔法が手から離れる前に相手にたたき付ければいい、というものだったのだ。
ライザーのスピード、そして肉体の強度があるからこそなしえる芸当である。
爆発音が響き渡る。
直後何の予備動作もなくライザーの姿が消えていた。
そしてその爆発音がライザーが脚部の炎を爆発させて跳躍した時の音だと気づいた時には、ライザーは目の前に迫っていた。
ペガサスの目が一瞬見開かれる。
それを確認する前にライザーは右腕を振り上げ
「《魔弾炎拳》!」
《魔弾拳》、それこそがこのライザーが持つ唯一の近距離魔法攻撃であると同時に最強の技なのだ。
それを勢いよく振り下ろした。
その拳は導かれるかのように真っすぐにペガサスの眉間へと向かい。
爆ぜた
ゼロ距離で起きた大爆発に自分で行ったこととはいえ、耐え切れずに吹き飛ばされる。
しかし、持ち前の俊敏さですたっと巧みに着地すると、爆発に巻き込まれた右腕を伺うように動かす。
どうやらこれといった異状はないと知るとライザーはもう一度息をつく。
頭上を見上げればペガサスの姿は跡形もなく消えていた。
レイリーは地を思い切り蹴り、同時に両手に召喚した二振りの剣を携えてかなりの速度で距離を詰めていく。
まずは様子見とばかりにレイリーは右の剣を突き入れる。
しかし人魔獣ヘラクレスは微動だにもせず、レイリーの剣が来るのを待っている。
ガン!という甲高い音とともに弾かれたのはレイリーの方だった。
驚愕で一瞬目を丸くするもそこはさすが帝と呼ばれるだけはある。そのまま無理に攻撃を加えようとするのではなく、弾かれた反動を利用して距離をとる。
大きく後ろに跳んだレイリーは左手の剣を投擲する。
しかしそれもヘラクレスの硬質な体によって弾かれ、傷をつけることすらできない。
「なるほど。硬さは甲殻獣以上か」
レイリーは冷静に分析する。
シルフィのような火力も、ライザーのようなスピードもないレイリーの一番の持ち味は手数である。
「しょうがない。久しぶりにあれをやるとしよう」
そう言ってレイリーは再び召喚する。
今度は剣ではなく刀。
どちらかというと叩き切るといった表現ができる剣とは違い、流れるように切ることだけを意識した形状。
それを左右に二振り召喚し地を駆ける。
レイリーは《infinite sword world》の印象が強すぎるため、中距離タイプだと思われがちだが、このレイリーのオリジナル魔法、≪召喚魔法≫の真価が発揮されるのは近距離戦、いわば白兵戦の時である。
レイリーはヘラクレスの懐へと潜り込む。しかし、それを予期し、ねらっていたかのようにヘラクレスは拳を振り下ろす。
だが、拳がレイリーに届くことはなかった。
リョウ戦の時にも使ったもはやレイリーの十八番とも言えるもの、召喚時の空間固定化現象による防御。
突如現れた剣がヘラクレスの拳を阻む。
その隙にレイリーはがら空きの胴に向けて交差した刀を振るう。
そして
「魔剣発動」
風の魔剣はヘラクレスの超硬な肉体を確かに切っている。
1センチ程度で刀は止まってしまったが、ヘラクレスから苦悶の声が漏れた。
さらにレイリーは刀をそのままに巨大なバトルアックスを召喚する。
「魔剣発動」
炎の巨大斧の強大な一撃を腹に見舞う。
超硬の皮膚には傷一つないもののその衝撃は決してなくなったわけではない。
こんどこそヘラクレスは顔を苦痛で歪ませ、左拳を苦し紛れに振り落とす。
だが、それをよんでいたかのように召喚していたこれまた巨大な大剣の面の部分を拳の側面に当て軌道をずらし、自分はそのまま外に逃げるように右に回転しながら拳の軌道から完全に外れる。
そしてその遠心力を力に乗せ、振り返り様に大剣を首にたたき付ける。
ただでさえパンチを回避されたことで前のめりにバランスを崩していたヘラクレスは背後からの強烈な衝撃に完全にバランスを崩す。
さらにそのタイミングでレイリーはヘラクレスが立つ地面に水魔法を撃つ。
足のふんばりもきかず、盛大な音をたてて倒れるヘラクレスを見ながら、レイリーはようやく距離をとる。
立ち上がったヘラクレスの目は怒りに満ちていた。
自分をはいつくばらせた相手を叩き潰すため猛然と向かって来るヘラクレスを見て、レイリーはふっと笑い、短剣を二本召喚する。
「魔剣発動」
二本の剣は稲妻となってヘラクレスを突き刺す。
それはダメージとしては硬質な体を誇っていることもあり、そこまでのものではあったが、何より、この状況でさらに攻撃を加えられたという事実にヘラクレスは余計に怒りを増す。
理性を持っているのが最大の特徴である人魔獣だからこそできる戦法。言ってしまえば簡単な挑発である。
それにまんまと引っ掛かる形になったヘラクレスは怒りに任せて拳を振上げる。
そのモーションが見えた瞬間、レイリーは長さ2メートルを超えるほどの長槍を召喚する。
そして拳が振り下ろされるその直前に、槍の切っ先を地面に突き刺し、棒高跳びの要領で空へと逃げる。
完璧によけられ驚愕しながら前のめりに倒れていくヘラクレスを見つつ、レイリーは言う。
「魔鎗召喚≪ミストルティン≫」
レイリーが持つありとあらゆる武器の中で最強を誇る三つの内の一つ、魔鎗ミストルティン。
刃の部分はドリル状になっており、切っ先も超速で回転している。
まさに貫通力に特化した鎗。
これまでのものは全てミストルティンでの一撃を確実に決めるための布石にすぎなかった。
巨大な鎗を引き絞り、
「魔剣発動」
ミストルティンに内蔵されている魔法を発動させる。
ミストルティンが電撃を放ちはじめ、貫通力を増していくがまだ終わらない。
「≪纏い≫サイクロンイレイザー」
数いる魔法剣士の中でも魔剣と同時に≪纏い≫、加えて違う属性を発動できるのは今のところレイリーだけであろう。
魔剣とはそもそも剣の中に魔力が内蔵されているものを言う。
つまり魔剣を発動させたまま≪纏い≫という自らの魔力でのコーティング行為を行う時、自分の魔力を魔剣に宿る魔力と同調させねばならない。
そうしなければ拒絶反応が起こり魔法は生まれず、最悪の場合にはその武器を大破させてしまうことだってある。
長年数多くの剣や魔剣を扱ってきたレイリーだからこそできる芸当なのかもしれない。
魔鎗ミストルティンは回転速度を徐々にあげていく。
ミストルティンが元より持つ貫通力に雷属性による貫通力と風属性による切断力が合わさり、断ち切れないものはないんじゃないかと思われるほどの威力を持っている。
それをレイリーは一瞬の迷いもなく振り下ろす。
今度こそヘラクレスの口から断末魔の叫び声があげられる。
「ゴァァァァァアアアアアア」
たった数秒でその鎗はあれだけ攻撃を弾いていた超硬の皮膚という鎧を突き破り、胸に大きな穴を穿つ。
ヘラクレスはゆっくりと倒れていく。
そして地に倒れ込んだ時には既に絶命していたのだった。
「主殿、着いたぞ」
「うん。ありがとうリズ。
でも随分時間かかっちゃったね」
「それはやむを得んじゃろ。
なんせ、何十匹もの翼獣を相手にしてきたんじゃからな。
それに誰かさんが背中の上でドンチャンドンチャンやってるんじゃからそりゃ遅くなるじゃろう」
リズはジト目でリョウ見ている。
今のリズは本来の天狼の姿ではなく、長い銀髪を持つ美女の姿。
つまりいつもの姿である。
さすがに天狼の姿で人前にでるのはまずいため上空で再び変化したのだ。
「そろそろ行こうか」
「うむ。我の期待にこたえられなかったら許さんぞ」
「ま、まあせいぜいがんばるよ」
二人は地上へと降りていく。
すべてを終わらせに。
定期試験などで執筆時間がとれず、こんなに遅れてしまいました申し訳ございませんm(__)m
今回は二話分を一気に投稿しちゃいました。
長くて読みにくいとかがあったら分けるので教えてもらえるとうれしいです。
そしてなにより、やっと主人公登場。
何話ぶりだろう…………
次回はリョウが一暴れすることになるとおもいます。
では
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