魔獣の軍勢−王門の攻防−
ビーストユニゾン
「≪獣化融合≫!」
ミーヤは高らかにその名を叫ぶ。
黒の熱線は今にも防御魔法を破らんとしている。
時間はあまり残されていない。
金と黒の混じった不思議な色の光に包まれたミーヤは≪獣化≫によって高められた脚力で弾丸のように熱線へと迫る。
跳び上がったミーヤの身体は光に包まれ、さらに黒色の光が螺旋を描くようにミーヤを囲う。
それに加え、嵐属性による速度のブースト。
まさに一筋の光となってミーヤは熱線に突っ込む。
そしてついに熱線が防御魔法を破る。
ミーヤとの距離がゼロになり
「《黒嵐光牙》!」
レナ、エリア、アリシアの力がつまったミーヤの一撃と黒の熱線が正面から衝突する。
ドガーン!!
派手な爆発音があたりに響き渡る。
結果は
相殺。
熱線は爆発と共に消失。
しかしミーヤも大きく吹き飛ばされる。
「うぐっ」
かなりの衝撃がミーヤを襲い容易に体勢を立て直すことができない。
獣人族の中でもその機動性、身のこなしに関しては最高峰である猫人族。
その中でもかなりの実力者であるミーヤ。
普段の身のこなしを持ってすれば簡単に体勢を立て直すことができただろう。
しかし今回に関してはそれができなかった。
あまりの衝撃に制御しきれないのだ。
体勢が立て直せなければあとは無防備に落下するしかない。
墜落を覚悟していたミーヤであったが訪れたのは硬い地面ではなく柔らかく暖かい風のクッションだった。
「ミーヤさん、大丈夫ですか〜」
「うん。大丈夫
って言いたいところだけどあれはちょっときついかな」
レナとエリアもミーヤのもとへと走り寄る。
「やはりまだ試作品の段階では厳しかったか」
≪獣化融合≫はリョウの≪覇装≫をモチーフにしたものである。
だが改良しなければならない点が多々あるため未だ試作品なのだ。
もちろんSSランク魔獣のブレスを相殺してしまうほどなのだからそれを試作品と呼んでよいかは定かではないが。
「とにかくあのブレスはまずいですね」
「そうですね〜
ベストは〜ブレスをはかれる前に〜倒すことですが〜」
「難しいだろうな。
こちらが唯一有利に運べる方法は数を利用してひたすら攻撃をしかけ、ブレスをはく暇をあたえないということだな」
「確かにそれが最善の選択ですね」
「最良とはいいがたいがな」
「もうエリア!
そういうこと言わないでよ!」
「ごめんごめんミーヤ。
そうだな今はやるしかないな」
そして天を切り裂くように奴はついに姿を現した。
巨大な漆黒の翼にそれに見合うほどの体躯。
全てをえぐりとってしまえるような強靭な爪に長い尾。
絶対的な存在感を持って、そこに舞い降りたのは、
SSランク魔獣、翼獣竜種
その中でも古来から存在する竜。
古黒竜 エンシェントドラゴン
「ついに姿をあらわしたか」
「うん。想像以上だよ」
「でもここで止まるわけにはいきません」
「そうですね〜
さっさと片付けてしまいましょうか〜」
「うん。一気に行くよ」
「ああ。いつでもいいぞ」
「はい。いつでもいいです」
「準備完了ですよ〜」
最初に仕掛けたのはエリアだった。
「最初から全力でいくぞ!
《千光》!」
可視、不可視、幻視
三種の光がエンシェントドラゴンに襲い掛かる。
通常の魔獣であれば一撃で葬ることのできるほどの威力を持ったこの魔法だがエンシェントドラゴンの体に傷一つ付けることができない。
「く、なんてやつだ……」
エンシェントドラゴンはエリアの姿をとらえる。
そして翼をはためかせることで真空波を生み出しエリアへと放つ。
予想以上のスピードに通常の回避では間に合わない。
よって地面に《フォトンレーザー》を打ち、その爆発力を利用して大きく後方に跳ぶ。
それが幸をそうして真空波がエリアを貫くことはなかった。
しかし
再びエンシェントドラゴンは翼をはためかせる。
(連撃!?)
エリアは急いで回避行動をとろうとする。
だがそれは叶わない。
エリアは先ほどの真空波を避けるために爆発力まで利用して後ろに跳んだのだ。
つまり今現在エリアは地にふしている状態で、充分な回避をとるのはほぼ不可能だと言えるだろう。
回避を諦め魔法で打ち落とすことを選択したエリアだったが、即席で放った魔法ごときでエンシェントドラゴンの攻撃を凌げるわけがない。
威力は落ちたが、それでも猛然とエリアを切り裂かんとばかりに襲い掛かる。
「《ファイヤートルネード》!!」
しかし、それはエリアの後方から発せられた乱暴な声と共に炎の嵐に巻き込まれ消失する。
その声質がどこか知り合いに似ていてエリアは自分が死にかけていたことも忘れ、超スピードで後ろを振り向く。
そして驚愕。
「………ア、アリシア?」
そこにいたのは紛れもなくアリシア。
(ということはさっきの声も………)
「エリア!」
「は、はい!!」
いつも間延びした喋り方をするアリシアであることを忘れさせるような強い語気に思わず『きをつけ』の姿勢で返事をしてしまう。
「ぼけっとしてねーで早く動け!」
普段と正反対な乱暴な口調に戸惑いながらもその声に急かされ動き出す。
「アリシアなのか?」
再度出されたエリアの問いにアリシアはめんどくさそうに答える。
「こいつはアリシアだが、そうじゃない。
今の俺は炎の精霊フレイア。
契約によりこいつの体を借りている」
「契約………精霊………借りている……………
はっ!まさか≪降霊≫!?」
「ほう。人間族のくせによく知ってるな」
≪降霊≫とは精霊との対話が可能なエルフ族にしか使えないものだ。(人間族や獣人族には精霊の姿は見えないし声も聞こえない)
契約した精霊を自らの体に宿し、力を借りる。
よって≪降霊≫時には宿った精霊の人格になるのだ。
もちろんアリシアの人格が消えたわけではなく、今は内部でフレイアと対話しているのだ。
「俺が≪降霊≫できるのはそう長くはない。
1分持たせろ。
そうすれば俺が勝機をつくってやる」
「1分か」
「なんだ?
そんなんも無理なのか?」
「いや。そういうわけじゃない。
ただ短すぎて聞き返しただけだ」
「へっ。なら頼んだぜ」
そう言ってアリシア(フレイア)は黙り込む。
魔力が密度を増していることから準備を始めたのだろう。
それに気づいたのかエンシェントドラゴンがアリシアをマーキングする。
漆黒の翼を大きくはためかせ真空波を作り出す。
その全てがアリシアをターゲットにしているためエリアには全て打ち落とすという選択肢しかない。
何度もエンシェントドラゴンは真空波を放ち、何度もそれをエリアが光の矢で迎撃する。
その攻防に嫌気がさしてきたのかエンシェントドラゴンは頭を少し後ろに下げる。
この何かをためるようなモーションは熱線を放とうとしているからに違いない。
そして熱線は案の定アリシアに向いている。
そこまでしてアリシアを狙うとはどれ程危機意識を持っているのか。
エリアは一瞬そう思ったが。
そう好きにはさせられない。
「そうはさせるか!」
エリアは熱線が放たれる直前に口を攻撃する。
「≪纏い≫
《フォトンフルバースト》!」
エリアの全力の一撃がエンシェントドラゴンの口の部分に直撃する。
だが、それでも止まらない。
のけ反らせるにとどまる。
エンシェントドラゴンは全てを滅ぼさんとするように黒の熱線をはなつ。
エリアがのけぞらせたことで熱線は多少向きを変えた。
しかしまだアリシアは熱線の範囲内。
このままでは直撃してしまう。
(もう一回撃つしかない)
エリアは瞬時にそう判断し再び≪纏い≫を発動しようとする。
しかし……………発動しない。
エリアの魔力は尽きかけていたのだ。
そんな魔力量では≪纏い≫を撃つことは不可能。
下位魔法程度では到底無理だとわかっていても今はそれをするしかない。
迷っている暇などないのだ。
「《フォトn………」
「《トルネードオーバーストリーム》」
エリアの声を遮るようにその言葉は発せられた。
その巨大な嵐はエンシェントドラゴンの黒い熱線を下からえぐるように直撃する。
それにより熱線の軌道は大きくずれる。
エリア、そしてアリシアの頭上数メートルのところを熱線が通過する。
「ったく。
一人でつっぱしってんじゃねーよ」
そんな乱暴な言葉とは裏腹にその声はこちらを案じていると知り、エリアはふっと顔をほころばせる。
「じゃあなんだ?
お前があいつを倒してくれるのか?」
「ああ、そうだ。
、と言いたいところだが
残念ながら俺一人でやるのは無理だ」
「じゃあどうするんだ
」
「簡単なことだろ。
仲間はもっといるんだからな」
刹那、三人を巨大で長い影が覆う。
それがエンシェントドラゴンの巨大な尾だと気づいた時にはもう遅すぎた。
振り下ろされる。
回避は不可能。
しかしエリアとネルの顔からは絶望や恐怖といった負の感情は見えない。
そしてそれを裏付けるかのように尻尾は受け止められていた。
「≪爆流≫《天涯》」
見るものに絶対的な安心感を持たせる騎士王の後ろ姿。
しかしライアンといえども竜種クラスの攻撃を正面から受けきれるほどの力はない。
よってライアンが作った時間は数秒。
「≪纏い≫《アブソリュート・ウォークラッシュ》」
その数秒を狙っていたかのように高らかな叫びをあげながらガジルは尾の横面に炎を纏ったバトルアックスをたたき付ける。
尾はガジルの絶大なる一撃によってそのまま横に弾かれる。
「グァァァァアア!」
苦痛に満ちた声と共に尻尾がライアンの剣をほんの少しだがすべるように移動する。
そしてライアンはその隙を見逃さなかった。
「≪清流≫《刀狼流し》」
相手の技をあえて受け、勢いを倍増させて流す柔の刀法。
それにより尻尾はアリシアの数メートル先に衝突する。
地震かと思われるほどの揺れが襲う。
だがそれにまったく動じずにライアンはさっと後ろを向く。
視線の先には自分の部下達の姿。
エンシェントドラゴンの登場に腰を抜かし、今も尚呆然としている部下達の姿に騎士王は激をとばす。
「お前達は何しにここへ来た!!
国を町を、そして何より愛する人を守るためではないのか。
何故剣をとらない。
この国の者でもない冒険者達が身を削って戦っている。
SSランク?竜種?
何を迷う。何を躊躇う。
見ていただろう。
決して勝てぬ相手ではない!
守る気があるなら剣をとれ!
勝つ気があるなら剣をとれ!
そして我らが最強であることを示せ!!」
そう言って、言わねばならないことは言ったというようにエンシェントドラゴンに向きなおす。
しかしライアンには聞こえていた。
背後にいる兵士達が続々と鎧を軋ませながら立ち上がる音を。
アリシアが言っていた時間まであと約20秒。
「いくぞ!!
リシュテイン公国国軍の名にかけて後20秒何が何でも持たせる」
全ての兵士が下位魔法を放つ。
一つ一つは大した威力を持っていない。
エンシェントドラゴンの強固な鱗には傷一つつけられない。
しかしそれが何十、何百、何千となったらどうだろうか。
個々の力は微々たるものだ。
しかし集まり積もれば威力は二倍三倍と膨れ上がる。
何千という魔法に打たれつづけ苦痛に満ちた叫びをあげる。
エンシェントドラゴンはそれでもこちらとの距離をつめようとしている。
いやこちらというよりかはアリシアの方へといったほうがいいだろう。
正確にはアリシアに宿っているフレイアにだ。
それほどまでに潰そうとする存在。
いったいアリシアは何をするつもりなのだろうという疑問とアリシアが提示した1分を守り切れればという希望。
二つの思いがないまぜになりつつも希望を信じてひたすら魔法を撃つ。
そしてついに……………
「時は満ちた」
アリシア(フレイア)は目を開く。
「我が生み出すは紅蓮の業火。
全てを包み全てを灰に返す地獄の業火。
《ヘルズブレイズ》」
1分間という短いようで長い期間を経てついにそれは放たれた。
その熱気は、《ヘルズブレイズ》が放たれると共に限界まで退避したエリア達ですら燃えるような熱さを感じるほどだ。
そして直撃したエンシェントドラゴンというと
あれだけ絶対的な強度を誇り、エリア達の攻撃にかすり傷一つつけなかった鱗が溶けだしている。
「グガァァァァァアアアア!」
一際大きな叫びと共に炎から離脱しようとするも翼には所々穴があいていて飛ぶことができない。
永遠かと思われる時間の中、アリシアの魔力が尽きる。
《ヘルズブレイズ》の消失と共にエンシェントドラゴンの勝ち誇ったような雄叫びが響き渡る。
鱗は溶け翼にも穴が空き、瀕死の状態であるにもかかわらずその雄叫びはいっそう力強く鳴り響く。
希望が撃ち砕かれ呆然とする兵士達の目にそれは突然現れた。
それが出現したのはエンシェントドラゴンの頭上数十メートル。
最初は米粒ほどにしか見えなかったそれはどんどん姿を大きくしている。
「やぁぁぁぁああああ!!!」
「≪獣化融合≫解放!!
《龍牙繚乱》!」
ミーヤの右手を包む光。
それは後ろになびき、巨大な光の鎗を作り出す。
さらに闇の光がそれを包み込む。
《黒嵐光牙》の数倍にも届くであろうその攻撃を携え、一閃の光となりエンシェントドラゴンに向かって落下していく。
落下のエネルギーをも力に加え、さらに膨れ上がったそれはエンシェントドラゴンの首を刈り取った。
果てしなくゆっくりと感じられる時間の中でエンシェントドラゴンの首が落ちていき、その巨体が重々しい音をたてながら崩れていく様を眺める。
そしてズシーンという音と共に完全に崩れ落ちたその瞬間。
爆発かと思われる程の大歓声が上がる。
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」」
すいません。
想像以上に長くなってしまったため今回は結構中途半端なところで終わってしまいました。
次話はできるだけはやく投稿します。
では、
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