魔獣の軍勢−帝の降臨−
「………たく、うちの姫さんはほんとにかっこいいな」
獣帝ライザーはシルフィを追うように空から舞い降りる。
「そうだなさすがは女王ということはある」
同じくレイリーも地上に到着する。
「ふふ、そんなこと言ってしっかりと働いてくださいね」
シルフィがニッコリと笑うと、二人は背筋を凍らせる。
「おおーこえーこえー
姫さんは絶対に敵にまわしたくねぇな」
「そうだな。同感だ」
笑い合う二人に絶対零度の視線が突き刺さる。
「わかったってちゃんと働くからそう怒んなって」
ライザーは顔を引き攣らせるが、シルフィはすました顔をしている。
「怒る?なんとことですか?私は怒ってなどいませんよ」
帝達の和気あいあい?とした会話をしっかりと聞いているものはいなかった。
彼等はただ呆然としていたのだ。
たった一人で一国ですら相手にできるであろう人物が三人も揃っているのだから当然だろう。
それはすごいと言うよりむしろ歴史的なことなのだ。
「無限剣に虹の魔女、牙王が一同に会するなんて」
誰かが呟く。
「すごい」
「勝てる、勝てるぞ!!」
呟きから始まったそれは次第に大歓声へと変わっていく。
ちなみに、無限剣、虹の魔女、牙王はそれぞれレイリー、シルフィ、ライザーの帝になる前の二つ名である。
大歓声を後ろにシルフィが始まりを告げる。
「まいりましょうか」
「おう!おれはいつでもいいぜ」
「同じくいつでもいけるよ」
「では私は正面の二千を」
「なら、おれは左の二千」
「じゃあ右の二千だな」
人間と魔獣の全面戦争が今始まった。
リシュテイン公国 王門
一人の兵士が進み出る。
「ライアン様、剣帝・魔帝・獣帝が最前線で戦闘を始めました」
「なに!
帝がでたのか!?
先程の声といい魔獣の数といい今回の進攻はどこかおかしすぎる。
しかも第二陣に関しては突然現れたと聞く。
どういうことなんだ!」
「はい。それについては現在全力で調査に当たっています」
「………光属性と闇属性の《融合》による空間の歪みを移動していたようです」
いきなり疑問に答えられ反射的にそちらを見る。
「君達は確か、リョウ君と一緒にいた」
「おいおいリョウの取り巻き扱いか?
そりゃちょっと異議をとなえるぞ」
「私は別に構いませんが」
「へいへい。
ったくリョウは愛されてんな〜こんちくしょう!
恨んでも恨みきれねぇ」
「そうだな。
もどってきたら一発いれてやらねーと」
「どうせ。いれられないんだからそんな希望持つのやめればいいのに」
「うるせぇ!
男にゃやらねばならん時があるんだ」
「へぇ〜やらねばならない時ですか〜」
「な、なんだその冷たい目は」
「おいおい、アリシア、ミーヤ、もうやめてやれ。
そいつらのいうように男にはやらなければならない時があるんだろう」
「そういうエリアさんも笑いを隠しきれてませんよ」
「………くそぅおまえら後で覚えとけよ」
ライアン達のもとにやってきて漫才のようなものを繰り広げているのはレナ、エリア、ミーヤ、アリシア、ネル、ガジルの6人だった。
何故6人が一緒にいるのか。
話は少し遡る。
リシュテイン公国 王城前
「行っちゃいましたね」
ミーヤが呟く。
続いてエリアとアリシアが顔を陰らせる。
「ああは言っていたが、やはり私達は足手まといにしかならないのか」
「そうですね〜
今の私達じゃ〜束になってもリョウさんには勝てないでしょうね〜
おそらく〜リズさんにですら勝てないでしょう」
アリシアの言葉にエリアは唇を噛み締める。
届かない。
リョウにもリズにも。
これまで強い強いと担ぎあげられ、帝に最も近いとまで言われたエリアにとって前にでるのは当然だったし義務であるように思っていた。
リョウそしてリズが現れるまでは。
明らかなる実力の差。
分かっていても認めることは出来ないでいた。
しかし、リョウの言葉でようやくそれを痛感した。
何故だろう。
何故彼の横に立てないのだろう。
何故私は弱いのだろう。
エリアは決して弱いというわけではない。
ただリズの存在が思ったよりもでかかったのだ。
リョウの隣に立てる存在、リョウが自ら後ろを任せる存在がいたからにほかならない。
それは醜い嫉妬なのかもしれない。
しかし、リョウの隣に立ち同じ舞台で戦いたい。
その思いは知らないうちに強くなっていた。
だからこそリョウの言葉は重く響いた。
気持ちがどんどん暗い方向へと向かっていく。
そんな空気を打ち壊すようにレナははっきりと聞き間違いのないように言う。
「じゃあいきましょうか」
「「「………は??」」」
三人の言葉がシンクロする。
「ここにとどまれってリョウが」
ミーヤの言葉に何を言っているんだとばかりにレナは首を傾げる。
「はい。でもそのあとに巻き込みたくないからと言っていました。
だから巻き込まれない範囲にとどまりましょう」
「巻き込まれない範囲ってそれへりくt」
言葉が尻つぼみになってしまったのはレナから反論を許さないとでもいうようなオーラのせいである。
「だが、どれほどの範囲なのか分からない以上そう進むわけには」
「いいえ。ここまでは進めるというラインがあります」
エリアは首を傾げる。
「王門までですかね〜
あそこには兵士達がたくさんいるでしょうから〜リョウさんも届かせないでしょう」
「その通りですアリシアさん。
リョウさんとリズさんとは同じ舞台では戦えません。
でもだからといって一緒に戦えないということはないんです!
だから行きましょう王門へ!」
三人は伏せていた顔を上げる。
「ふ、さっきまであれこれ悩んでいた私がバカみたいではないか。
確かにそういうやり方もあるな」
「何を〜悩んでいたんですか〜」
「普通そこは聞かんだろう。
まぁわかってるだろうから言わないがな」
「あらあら〜ばれちゃいましたか〜」
「まったくエリアもアリシアもそんなことやってないで行くよ!」
「おいおいミーヤ。
私は被害者だぞ」
「そんなの知りません!
喧嘩両成敗です!!」
「喧嘩なんてしたおぼえはないんですけどね〜」
「皆さんさっさといきますよ!」
既にそこには先程までの暗い雰囲気は跡形もなく消えていた。
リシュテイン公国 王都
ネルとガジルは王門への道を走っていた。
王門まであと少しというところ。
突如二人を暴風が襲う。
それと同時に信じられないほどの魔力を感じる。
続いて頭上をものすごい勢いで何かが通り過ぎる。
「な、なんだ!?
ってリョウじゃねーか!!」
思わぬ知り合いとの遭遇にネルは目を丸くする。
だがネルの声が聞こえなかったのかリョウはそのまま進みつづけあっという間に見えなくなってしまった。
嵐のように過ぎ去った一連の出来事。
二人はしばし固まっていたが、ネルが苛立たしげに言う。
「おいおいほんとにどうなってやがんだ」
「ああ、何かに乗ってたな。
一瞬だったからよくみえなかったがおそらくあれは狼」
「狼だ?
知り合いに狼なんていないぞ」
ガジルが最後まで言い終わる前にネルが否定の言葉を投げかける。
「ああ。だがあれはたしかに狼だった」
「狼に乗って高速空中飛行ってか。
まったくあいつはなにもんなんだ」
「そういやあいつは最前線の方に向かって行ったよな。
ってことは、はやくいかねーとあいつに全部やられちまうぞ」
「………おっとあぶねぇあぶねぇ。
そうだよな。
あいつだったらやりかねない」
「そうと決まればもっとペース上げるぞ。
おくれんなよ」
「誰に言ってやがる。
俺の得意属性は風系だぞ」
「ふ、そうだったな。
じゃあ行くぜ」
「おう!」
王門付近
「後少しですね」
「ああもう見えてきてるな」
「感じる魔力も〜より強くなってきてますね〜」
「魔獣の群れが近くまで来てる証拠だよ。
はやくいかないと」
「ええ。
最前線を抜けてきた魔獣達ですね。
まだそこまで数はいないようです」
話ながらも4人は足を止めることはない。
そして王門まで後少しというところで見知った顔を見つける。
「ネルさんにガジルさん!」
「おうレナじゃねーか。
それに≪千光≫まで」
「私を忘れるな!!」
ドス
ネルの腹にミーヤの強烈なキックが直撃する。
ネルは咄嗟に風魔法で勢いを緩和したがそれでも殺しきれない。
痛いものは痛いのだ。
「おいてめぇ。ミーヤ!
俺を殺す気か!!」
「いやいやめっそうもない。
せいぜい死んだらいいな〜くらいにしか思ってませんよ」
「いやアウトだろそれ!」
「そうですよ〜ミーヤさん。
そんな事いっちゃいけませんよ〜」
「ア、アリシアさん………」
ネルは感動で目を潤ませる。
「そんな中途半端な言葉は〜いってはいけません〜」
「え」
「死んだらいいな〜ではダメですよ〜
殺す気でいかないと〜」
「ア、アリシアさん!?」
ネルは再び目を潤ませる。
もちろん悲しみ的な意味で。
思わぬ伏兵にネルは心身ともにボロボロだった。
味方だとおもったら敵だったのだ。
ご愁傷様としかいいようがない。
そんなネルを見ながら楽しそうに微笑んでいるアリシア。
案外S気質なのかもしれない。
「そんなばかなことやってないでさっさといきますよ!」
そんな三人を見兼ねたようにレナが急がせる。
ネルは皆が走りだしてしまったので不服そうにしながらも走り出した。
時は戻り現在
「光属性と闇属性の《融合》だと?」
「そうです。
だから気配察知も目視も難しかったということです」
「なるほど。
確かにそうだとするとしっくりくる。
だがそれを何故君達が?」
「町の中で出会った男の人が言っていたんです。
あと奴はまだ本気ではないとも」
「奴?
誰のことだ?」
「いえ、わかりません。
それを聞こうとしたところ魔獣が現れてうやむやにされてしまいました」
「そうか………
ふむ、男か。
こちらでも少し調べてみよう」
「そうしていただけるとありがたいです」
「うむ。
だがその前に目の前の問題を片付けねばな」
目の前には最前線を抜け出た魔獣、およそ三千の姿があった。
「さて、もうひとあばれするか」
祝!!
お気に入り件数300突破!!
いえーい!
今後ともエデンをよろしくおねがいしますm(__)m
本格的な戦闘は次回から。
今回まではその前段階でした。
次回
帝の戦闘が始まります。
レナ達の方の戦闘もスタート。
リョウはでてくるかなぁ………
まだ力を見せていない魔帝シルフィと獣帝ライザーにも注目です。
虹の魔女、牙王の理由がわかるかも。
では、
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