魔獣の軍勢−戦いの始まり−
リシュテイン公国 王城 パーティー会場
魔獣の登場にパーティー会場にいる人々はあわてふためいた。
確かにそれは仕方のないことなのかもしれない、なぜならここは安全だと大声で宣言されたばかりだったのだ。
安心していたところに突然だ。
最初は半ば呆然としていた人達も自分が立たされている状況を理解したのか顔面蒼白になり、大声で何かをわめきちらす。
それは大抵はリシュテイン公国への罵倒だった。
だんだんと混沌化していく状況のなかで、リョウはやばいなと思っていた。
このような状況で一番大切になってくるのが統制だ。
統制が崩れてしまえば全滅も考えられる。
だがリョウ程度の力でこの場を抑えることはできない。
どうすれば………
具体的な打開策が浮かばず、悩んでいたところに、
「しずまれぇぇええい!!」
という馬鹿でかい声が鳴り響いた。
会場中の全員が動きを止めている。
王達を逃がすために翼獣を食い止めていた10人ほどの衛兵達ももう持たないだろう。
ただでさえ今王都は混乱中なのだ。
人員が足りな過ぎる。
しかし、リョウが危惧したことはおこりそうになかった。
セルデラの言葉、そして指示によりだんだんと統制を立て直し、避難誘導をうける。
リョウは椅子からゆっくりと立ち上がる。
隣にはまたもいつのまにかエリアが立っていた。
「動くのか?」
エリアは物凄く端的に聞いてくる。
だが、それは質問ではない。確認だ。
「ああ。あそこまでお膳立てしてくれてるんだから今度は俺の番だろう」
着々と避難誘導が進む。しかし、ついに衛兵達が捌ききれなかった一体の翼獣が避難している人達の元へ向かう。
さらにそれに一瞬思考を持ってかれたためあっという間に戦線は崩壊する。
あとは魔獣に蹂躙されるだけだ。
その場にいただれもがそう思った。
翼獣は急降下し、その鋭利な嘴で獲物を突き刺す…………ことはなかった。
惨状を予測し、思わず目をつむってしまった者達が目を開けた時見たのは………踏み付けられている翼獣の姿と、それを踏み付けている青年の姿だった。
リシュテイン王都内
サイレンが鳴り響いている。
それは魔獣の襲撃があったということであり、民間人は避難せねばならないはずだ。
しかし、避難しようとしない。それはこれまでの経験から杞憂であるとわかっているからだ。
セルデラが言ったようにこの国の防衛力には目を見張るものがある。
そして周辺の魔獣に対する対策もしっかり立てていて、未だ魔獣を王都内に入れたことはなかった。
そう。今日までは。
翼獣はそもそもこの付近には生息していない。
だからこそ、王都を魔獣から守る壁には高さよりも強度を意識していたのだ。
要するに翼獣への対策は一切されていない。
そもそも翼獣がくる可能性を考慮にいれていないのだから当然だろう。
だが、それは逆にそれくらいおかしな状況であると言える。
生息地域的にこの国にくるのはまずありえないと言っていたものが大群で来たのだ。
その中で、
「これはまずいかの」
リズは誰ともなしに呟いていた。
「たしかにまずいですね」
リズの言葉が聞こえたのであろう、あわてふためき逃げ回る人々を見ながらレナが答える。
「そうですね〜
思わぬ翼獣の襲撃に〜国中混乱しちゃってますからね〜」
「リョウとエリアさんは大丈夫なのかな」
ミーヤがふと呟く。
その言葉にリズがふっと笑う。
「主殿がこれくらいで死ぬたまにみえるか?」
「そうですよ。
それにエリアさんもついてますし」
「まずは〜リョウさん・エリアさんと合流しなきゃいけませんね〜」
「そうじゃな。
あまりうかうかしてられなそうじゃ」
リズは神妙な顔付きでいう。
レナとミーヤが恐る恐るといった調子で訳を聞くと、リズは想像を絶する答えを返してきた。
「少なくとも王都内に数百、王都の外に数千、いや万くらいの魔獣がおる」
「す、数千……」
現実離れしすぎて何も言えない。
沈黙を打ち破ったのはミーヤだった。
「だったら早く行こう。リョウの元に」
リシュテイン公国 王城 パーティー会場
リョウは襲い掛かろうとしていた翼獣をけり落とし踏み付ける。
リョウのその姿を見てあちこちから声が上がる。
「あれは帝を倒したっていう冒険者か!」
「一体なにが起きたんだ?」
リョウは考える。
考えるべきことは二つ。
まず一つ目は守らねばならない対象がたくさんいるということ。
エリアもいるが、たった二人で何十人も長時間守りきるのは厳しい。
よってできるだけ早く無力化、ようするに殲滅せねばならない。
ここで考えるべき二つ目のことがらが問題となってくる。
ここは室内であるということだ。
翼獣に破られた壁の穴はあるがそれ以外は密閉された室内である。
そして翼獣の特徴はスピードと防御力。
高火力の魔法は室内では使えない。
かといって下位魔法ごときでは容易によけられてしまうだろう。
考えるリョウに痺れを切らしたのか、一匹の翼獣がリョウの元へと迫りくる。
リョウは下位魔法で打ち落とそうとする。
たがそれよりも早く後方から二筋の光線が放たれ、翼獣を貫く。
一筋は光のレーザー、もう一筋は水のレーザーだった。
リョウに近づいてくる、足音は二つ。
エリアとそして………セフィーリアだった。
「姫さん!?」
思わぬ人物の登場にリョウは驚きを隠せない。
そして同時にそれはこの場にいる誰もを驚愕させていた。
「セフィーリア!!」
再び王の声が轟く、それは先ほどのとは違い、ただただ自分の娘を案じるものだった。
「下がりなさい」
セルデラの言葉にセフィーリアは首を横に振った。
「それには従えません。お父様。
私は王女である前に一人の魔術師です。
一番使わねばならない状況で使わないなんて、魔術師ではありません。
私はこんな時のために魔法を習得したのです。
たとえお父様の命令であっても私は引きません」
その目には闘志の炎が燃え上がっていて、何者の言葉も聞かないと語っている。
そんなセフィーリアの表情を見て、リョウはため息をつく。
「ほんとやれやれだよ」
手の平を上にあげ、苦い顔をしながら首を横に振る。
「どうするんだ?」
エリアの問い掛けは少し弾んでいた。
これから何が起こるか楽しみと言外に言っているようだった。
なにを人事みたいに、とリョウはひどく抗議したかったが今はそんなことしている場合ではないとしておさえる。
「そうだなぁ。
この状況、もう出し惜しみはしてらんないよな」
リョウは決意する。
「エリアは俺の援護と逃がしちまったやつを倒してくれ」
「了解した」
エリアは頷く。
「………あと」
リョウはぎこちなく言葉を紡ぐ。
セフィーリアが期待と意志に満ちた目で見つめてくるからだ。
「姫さんは後ろの人達の護衛、あとエリア同様抜け出たやつを頼む」
そう言った瞬間セルデラに凄い形相でにらめつけられる。
そこにいるのは一国の王ではなくただ娘の身を案じる不器用な父親の姿だった。
しかし、それに気づかずセフィーリアは声を弾ませる。
「はい!わかりました!!」
その言葉を聞いて止めることを諦めたのか今度はリョウに視線をやる。
その視線は娘にけが一つでもさせたら許さないぞと言っているようだった。
それにリョウは視線で答える。
一瞬で終わらせる。
姫さんには指一本触れさせない。
セルデラは神妙な顔つきで強く頷いた。
それにリョウはふっと笑うと、
「じゃあ、行くか!」
力強く一歩を踏み出した。
リシュテイン公国 門前
「これから魔獣の本格的な進行がはじまる」
ここはリシュテイン公国の最終防衛戦。
公国の騎士王ライアンは集まった衛兵千人に向けて、語っていた。
「我々は翼獣に侵入を許してしまった。
たが、仲間を信じろ!
そして自ら為すべきことを為せ!
王都中の敵はかならずや仲間が落とす。
最前線にいる仲間のためにもこれ以上一匹たりともこの門をくぐらせるな!!」
「「「「おおおおおおお!!!」」」」
総勢千人の雄叫びがこだまする。
そんな矢先、遠視の魔法をしていた兵が叫ぶ。
「ライアン様!
最前線で戦闘が始まりました!」
物語はついに動き出す。
最前線
ここにはリシュテイン公国国軍が集結していた。
いずれも精鋭揃い。
指揮官を勤めるのは、セルシオ・ド・リシュテイン、リシュテイン公国、第一王子であり、セフィーリアの兄である。
勇猛果敢であり勇将とも呼ばれている。
その采配も完璧であり、兵士達にこの人の指揮下ならば大丈夫という安心を抱かせるほどだ。
そしてついに魔獣の軍勢の姿を視認できるほどの距離になる。
いずれも高ランクの魔獣。
一対一は厳しい。
だから接触する前に叩く。
セルシオは高らかに声をあげる。
「大魔法よーい!!」
セルシオの声を聞き、20名ほどの兵士が集まり、魔力を合わせる。
大魔法とは大人数のユニゾンによって威力を最大限にまで高めた魔法。
そして大魔法が完成する。
「うてぇぇぇぇえええええ!!」
セルシオの合図と同時に大魔法を放つ。
それは魔獣の大群の中央付近にぶつかり、何十もの魔獣を一撃で葬る。
だがそれでも魔獣の総数からしたら些細なものでしかない。
「第二射、よーい!」
セルシオは再び声をあげる。
その内でセルシオは思っていた。
抑え切ることは不可能だと。
セルシオは勇将である。
だが、無理な戦いをしない、させないというのが信条であった。
勇将は行き過ぎると無能な将になってしまう。
その分、セルシオはあくまで客観的に戦場を見つめていた。
「第二射、準備完了しました!」
「第二射、うてぇぇぇええええ!」
第二射もきれいに決まる。
しかし、セルシオの顔はすぐれなかった。
リシュテイン公国 王城 パーティー会場
「じゃあ、行くか!」
リョウはしゃがみ込む、膝を限界まで曲げ、≪破壊≫で脚力を強化する。
ホッパー
「《跳躍》!」
リョウは曲げた膝を勢いよく伸ばし、爆音をたてながら跳び上がる。
リョウは一瞬で翼獣より高く跳び上がる。
「おまえらには悪いけど今回は俺、出し惜しみするつもりはないんだ」
リョウはそういうと風魔法で体を支えながら、言葉を紡ぐ。
それを見ていた者達はだれもが困惑していた。
それはリョウが詠唱をおこなったからに他ならない。
詠唱とはそもそも自分がその魔法をつかうための補助のようなものだ。
だから完璧に会得しているものには補助である詠唱は必要ない。
ここで本題に戻ろう。
リョウは未だ詠唱を見せていない。
上位魔法ですらリョウは詠唱無しでやってのけたのだ。
詠唱がいるということはコントロールが難しいということ同意である。
一体どんなものが見られるのか。
この場にいる誰もが命の危機を忘れ、リョウに見入った。
「スピードは速く尚且つ数は多い。
そんなのを魔法を使わずに一撃で殲滅しろっていわれたらこれしかないよな。
少々グロテスクになっちまうけど怨むなよ」
そうリョウは冗談のような口調で言い、次の瞬間には真剣な表情になる。
「創造、形状は糸。
その糸は鉄をも切り裂く凶刃。
蜘蛛の巣の如く獲物を喰らえ」
リョウの手が煌めいた、と思った矢先リョウの手から何かが勢いよく発射され、翼獣の群れを球状に包むように張り巡らせる。
その純白の檻からは何一つ出ることはできない。
糸で覆われたことを確認すると、リョウは掌を強く握る。
その瞬間檻は急速に縮められ中の翼獣を切り裂きながら圧縮していく。
翼獣の悲鳴が止み、血と肉片の雨が降る。
リョウはユックリと着地し、背後を見遣る。
誰もなにもいうことができなかった…………
魔獣の軍勢編本格的にスタートです。
では、
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