魔獣の軍勢−始まりは突然に−
リョウはたくさんの高位な者達に取り囲まれ、我先にとでもいうように休む暇もなく矢継ぎ早に話し掛けられている。
最初は丁寧な応対をしていたリョウだが、今ではげんなりしていて、こなければよかったと後悔していた。
話は昨日に遡る。
エキシビションマッチも終了し、武闘大会は本格的に終わりを迎えていた。
それに名残惜しそうにするものが多かったが、リョウはもっぱらこれからのことへの精神的疲労でそんなことに浸っている余裕はなかった。
勧誘などにある程度の経験を持つエリアのアドバイスはまぁしつこいだろうが聞き流せ、というものだった。
その言葉に即座に、いや、それアドバイスになってないだろう。というツッコミをリョウが入れたのは当然のことかもしれない。
それに対しエリアは、だったら慣れろというがそれができたら苦労はしないし、今悩んでもいない。
そしてまたリョウはブルーになるという負のスパイラルを続けていた。
そんな時、唐突にドアがノックされた。
ドアの前に立っていたのは、なんと公国の騎士王とも名高いライアンその人だった。
突然の訪問にリョウ達は眼を丸くする。
その中でも対して驚いた様子を見せず、いつもの調子で口を開いたのはアリシアだった。
「なにか〜御用でしょうか〜」
と言いつつも、既になんの用かは見当がいるらしい。
リョウ、リズ、レナ、ミーヤが不思議そうにしていると、ああ、そういうことか、とエリアも何かを察したようだ。
未だになんのことだか分からずに首を傾げる四人。
そんな四人にライアンが説明を始める。
「今日はリョウさんに招待状を届けにきたんです」
心が安らぐような優しい声。
リョウは戦闘中のライアンを知っているため苦笑いしてしまう。
戦闘中のあの冷え冷えとした視線と殺気。
そして今のとても穏やかな様子。
どちらが本物の彼なのか。
そんなことをリョウが考えたところで正解など分からないだろう。
だがリョウは考えずにはいられなかった。
リョウが悶々としている横で、
「招待状とな?」
リズが訝しげに尋ねる。リズのあまりにもといった様子にライアンは笑い出す。
「いやいや。そんな怪しいものじゃありませんよ。
武闘大会が終わると大国同士での総会が行われるのです。
その総会の後に行われるパーティーにあなたを招待したいと王がおっしゃっています。
それから≪千光≫殿も是非、と」
「ふ、私はおまけということか?」
「いえいえ、けっしてそんなことはありませんよ」
「どうだかな。
まぁ深く考えないようにしよう」
「そうしていただけるとありがたいですね」
そして、お互い笑う………のだが、その笑顔の中に時折相手を探るような顔を見せる。
「どうするのじゃ、主殿」
「どうしようかな。
そういえば俺とエリアは行けてもリズ達は来れないのか」
「そりゃ当然じゃろう。
なにせ各国の要人が集まるのじゃ。
そんな簡単に人を入れられる場所でもなかろう」
「それもそうだな。
でもだったらどうしよう」
リョウは困った表情を見せる。
「別に我らの事は気にせんでもよいぞ」
リョウの内心を探ったのかリズがそう言った。
レナとミーヤもこくこくとうなずいている。
さらにエリアがリョウが行くのであれば私も行ってやってもよいが、と言ってくれた。
リョウも流石に一人で行くには少々難易度が高かったため眼を輝かせてエリアを見た。
するとエリアはぷっと吹き出す。
その様子にリョウは憤慨する。
「な、なんだよ。
人の顔見て笑うって」
「すまんすまん。
あまりにも輝いた眼で見てくるからつい可笑しくなってな」
「いや、だってリズ達も言ってくれたことだし、出ないわけには行かないじゃん。
でもかといって一人で行くのは気が引けてたからさ」
「では、きてくださるのですか?」
ライアンが期待を少し含んだ視線で問い掛けてくる。
「はい。是非いかせてもらいます。
エリアも一緒なので」
「ええ、もちろん大歓迎です。
王もさぞお喜びになることでしょう」
そう言ってライアンは軽い足取りで去っていった。
人は一人では生きることができない。
何をするにしても多少は人が関わっている。
よって人の集合体である国との繋がりをわざわざ断ち切る理由はない。
そう思ってこのような決断をした。
実際のところそれほどまでの上流階級が集まるパーティーの食事を食べてみたいというのもあったが。
なにはともあれ、リョウはてっきりただ招かれただけだと思ったのだ。
だからありったけの食べ物を食べるつもりでいた。
しかし、それはリョウの考えが甘すぎた。
そもそもリョウは貴族でもないただの平民だ。
平民がこの場に呼ばれたのはひとえに武闘大会優勝、そして帝に勝利をおさめるという快挙があったからだ。
そして、パーティー会場には数多の国の長、及び幹部達。
つまりわざわざ火の海に飛び込むようなものだ。
そんなことを1ミリも考えずリョウは会場へと向かった。
その結果
「もぅ、いやだー」
リョウの精神的疲労はもはやピークにたっしていた。
かれこれ2時間ひたすら話し掛けられている。
「まぁそういうな。
料理ばっか食べていればあっという間に終わるぞ」
リョウの独り言が聞こえていたのか、いつの間にか隣に来ていたエリアがくすくすと笑いながら言ったのだが、料理を食べる暇すらないんだからそれ以前の問題である。
今はようやく落ち着いていたところだ。
だがそれが一時のものにすぎないということをリョウは知っている。
知りたくないけど知っている。
だから今、その時間を利用して精一杯くつろいでいるのだが、なにぶんこのあとのことを考えると気が重くなってしまう。
そんなことを思っていると背後から足跡が聞こえてくる。
休憩時間も終了か、と呟きながら後を振り向くと、そこにはなんとも麗しい美女と美少女が立っていた。
「今日はようこそおいでなさいました」
「ひさしぶりじゃのう。少年」
「あ、セフィーリアさんとあと………誰だっけ…………」
「ぬお、おぬし、誰だっけとは何事じゃ!
あったじゃろうが、武闘大会の前に!」
「え…………まじで?
会ったの?まるで覚えがないんだけど………」
「なんじゃと!
あの時じゃあの時。
くそぅ。どうやって説明すればよいのじゃ…………」
少女は深くうなだれている。
リョウは徐々に鮮明になる記憶からついにレイラの事を思い出す。
「……………ああ!
あの時の生意気な子か」
リョウの言葉に少女は一瞬目を輝かせるも、すぐに怒ったような表情をつくる。
「生意気じゃとぉ!
無礼じゃぞ貴様!
わしは18じゃ!貴様より年上なんじゃぞ!」
まさにぷんすかという言葉が似合いそうな様子で怒る。
だがリョウはそんなことよりも18歳という言葉に驚いていた。
見た目は小学生。
甘く見積もっても中学生くらいだろう。
10歳から13歳くらいの外見だ。
見る限り精神年齢もそれくらいだろう。
未だに信じられない頭の中にある言葉が浮かぶ。
そして思わず呟いてしまう。
これが世に言う合法ロリというものか、と。
口は災いの元とはよく言ったものだ。
今のが聞かれてしまったら社会的な死亡は間違いないだろう。
いくら自分がロリコンではないといったところで信用される確率はゼロに等しい。
ロリコンであることに誇りを持っているものであれば、問題ないだろう。
逆に開き直ることだってできるかもしれない。
しかし、リョウはそっちの道に関しては全く興味はない…………と思っている。
だからリョウにとってロリコンの称号は社会的な死を意味するのだ。
さらに武闘大会のせいで変に名前が売れてしまっている。
復帰は不可能といっても過言ではない。
しかし、こういうときはほとんどの確率で神様は味方してくれない。
隣でごう……ほう…ろり?と首を傾げているエリアが見えてしまった。
全身が強張る。
幸いなことにエリアは言葉の意味を理解していない。
思わず呟いたとはいえこれ以上自ら地雷を踏むわけには行かない。
「レイラ、もうやめなさい。わかったから」
「…………むぅ」
そんなリョウの内心の攻防を知ってか知らずか、未だに喚いていたレイラをセフィーリアがなだめるようにいう。
「………というかリョウ」
「うん?
どうしたのエリア」
「いや………どうしたというわけでもないのだが。
そのちっこいのは一応ガルダ王国の王女だぞ」
リョウは目を丸くする。
「え!まじで!
こんなちっこいのに!?」
「そうだ。そんなにちっこいのにだ」
そう二人が言ったところでレイラが涙目で反応する。
「その通りじゃ!
わしはガルダ王国第一王女、レイラ・リア・ガルダ!
あとそれから、わしはちっこくはないぞ!
ほんのすこし背が伸びなやんでるだけじゃ!」
「え、それをちびというんじゃ…………」
リョウのダイレクトアタックにより、レイラの精神に3000のダメージ。
「な!
これでも日々伸びつづけているのじゃぞ!
昨日だって量ったら145あったし……………いや、あったかな………まぁいいあったんじゃ………きっとそうに違いない」
散々墓穴を掘ったあげくレイラはがくっと首を落とした。
そんなレイラをセフィーリアがなだるためにレイラを抱きしめ、よしよしと頭を撫でる。
するとどうなるかレイラの身長だとちょうどセフィーリアの胸の部分に顔がくるのだ。
そして悲劇が起こった。
レイラはセフィーリアの豊満な胸に飲み込まれ、呼吸困難に陥った。
レイラはぷはぁっという声と共にセフィーリアの胸から脱出する。
セフィーリアは何故レイラがそのような行動をとったのか分からず首を傾げる。
すると体が少し揺れ胸も揺れる。
レイラは絶句した。
ゆっくりとした動作で自らの胸に視線を向ける。
揺れてみる…………変化無し。
ジャンプしてみる…………変化無し。
レイラはすごい形相でセフィーリアを見た。
「え、な、なに!?」
セフィーリアが戸惑っていると、レイラが厳かに口を開く。
「その身長にその胸…………何故わしにはなくてセフィーにはあるのじゃ」
レイラは悔しそうに言う。
そんなレイラを見たからか、セフィーリアは
「………そうだ。奪えばいいのか」
というレイラの言葉に顔を強張らせ、ゆっくりと後ずさる。
それに気づいたのか、レイラの眼がピキーンと光る。
そしてセフィーリアに猛獣のように襲い掛かった。
それをセフィーリアは巧みに避け、逃走をはかる。
リョウからあっという間に離れていく二人。
それは二人の王女という立場を忘れさせるほど朗らかなもの。
仲の良い姉妹がじゃれあっているようで、リョウ達は嵐のようにすぎていった二人を半ば生暖かい眼で見ていた。
リョウの元に再び人が集まりだしたころ、突然、今からリシュテイン公国、国王、セルデラ・ド・リシュテインからの挨拶があるとの主旨がアナウンスによって皆に伝えられた。
リョウは初めてセルデラを見る。
いかにも国王といった雰囲気を持っている。
一対一で立ち会ったら威圧感で確実に震え上がるなと考えてリョウは身震いした。
セルデラが壇上に上がる。
会場中の視線がセルデラに集まる。
そして息を吸い、話しはじめようとしたとき、それは起こった。
いや、起こったというよりかは始まったというほうが正しいであろうが。
それはけたたましいサイレンの音だった。
この世界にサイレンと概念があるのかわらかないが、緊急時になるあのサイレンの音に酷似していた。
不安の声が会場中に広がっていく。
それはそうだ。
このような展開を彼等は全く予想していなかったのだ。
ただ、話をし、話を聞き、料理を食べ、他人のご機嫌をとる。
それがここでの仕事。
すぐに壇上のセルデラの元に男がやって来る。
男に耳打ちされると、セルデラはとたんに険しい顔になる。
思ったよりも状況は良くない、いや悪いといった方がいい。
セルデラはたった一瞬で頭を整理し、声を上げる。
会場全体に聞こえるような声量。
「今のサイレンは魔獣警報です。
魔獣がこの国、この町に迫って来ています。
しかし、焦ることはありません。
我が国の衛兵は有能です。
すぐさま鎮静化するでしょう。
皆様は安全のため、ここから動かないでいただきたい」
そう言った矢先だった。
バリンという何かが割れる音がしたのは。
「…な……に…」
流石のセルデラも絶句する。
何せ、そこには何十もの翼を生やした魔獣。
剣獣、甲殻獣に続く、スピードと防御力に優れたBランク魔獣、翼獣がいた。
ついに魔獣の軍勢編、新編突入です。
まだ具体的な構成はきまっていませんが、群青劇?っぽく行きたいと思います。
次に今回の話には、ロリコンやらちびっこやらをネタにさせていただいたわけですが、あくまでリョウ一個人の意見とネタというわけで、ロリコンさんやちびっこを否定しているわけでは決してありませんのでご了承下さいm(__)m
次話
ついに始まった魔獣との戦い、それはどんどん激化していく。
では、
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