VS剣帝−覇装−
「まさか、サークルまで使うとはな」
ライザーは極めて真面目な顔でいい、ええ、とシルフィも神妙な顔つきで頷いている。
《infinite sword World circle》はライザーとシルフィですら話しには聞いていたものの見たことはなかった。
しかし、今、現にそれは使われている。
二人の目から見てもリョウの奮闘は称賛に値するものだった。
ただ実際に戦っていないかから、《infinite sword World circle》を使うほどのやつなのかと疑っているあたり未だリョウの力量を量りきれていないのかもしれない。
「あのレイリー君がここまでするとはね〜」
シルフィが呟く。
独り言のつもりだったのか非常に小さい声だったが、ライザーは完璧に聞き取った。
「そうだな。
今でも信じられん」
だがそういうわりにはライザーもシルフィも好奇に満ちあふれた眼をしていたのであった。
−−−−−−−−−−−
「《infinite sword World circle》」
リョウは絶句した。
そしてその光景に唖然とし、すべての切っ先が自分に向いていることに困惑した。
逃げ場はない。
これが今のリョウの頭を占めていることだった。
それはあたりまえだ。
全方向に剣があるのだから。
《infinite sword World 》の数倍。
さっき脳が焼き切れるかの勢いでようやく防ぎきったのがなんだか可愛く見えるほどだ。
しかし、そのような状況なのにもかかわらず、リョウの顔は何故か笑っていた。
「これはあれか、今までこれを防ぎきったものは一人もいないとかいうやつか?」
まぁ俺がその最初の一人になってやるから心配するな
「?
なにを言っている。
だが防ぎきったものがいない、か。
残念ながら、いや、残念ではないのだがな
これを使ったのはこれで二度目なのだが一度目は簡単に防がれてしまったよ」
そう言ってレイリーは懐かしむような顔をする。
「じゃあ俺が二人目だな」
リョウは笑みを深めた。
−−−Side レイリー−−
やつは何を考えているんだ?
俺は純粋にそう思った。
この状況はリョウにとって確実に絶体絶命だ。
恐怖こそすれ、笑うなど理解できない。
さっきの会話からも恐怖や焦りといった感情は微塵も感じなかった。
「どうした?
頭でもおかしくなったのか?」
だから内心の動揺を悟られないように、冗談のような口調で聞いた。
しかし、返ってきたのは、
「うるせぇ。俺の頭は正常だ!
…………そうだな、やっと決心したというか、いや、決心はついていたんだが。
まぁいざ決めちまうとスッキリするわな」
というわけのわからない言葉だった。
ただ今のリョウの様子に少しだけ既視感があったのだ。
それを知りここにきて初めて俺は気付いた。
自分がリョウに興味を持った理由に。
俺は自分の察しの悪さを少しばかり嫌になったが。
それは………
目の前の少年が以前の自分に限りなく似ていたということだった。
あの頃、誰にも負けず、自分が最強だと自負していた頃、そして大切な人をなくしたあの頃に。
今のまま行くと目の前の少年も自分と同じ道を辿りかねない。
俺は以前の自分に嫌気がさしている、しかし否定するつもりはない。
あの時の自分がいたからこそ今の俺がいるんだ。
だがそれに気づくのに遅すぎるはあれど早すぎるということはない。
最初は帝が一介の冒険者などに負けるわけにはいかなかったために発動したものだが、今ではまるっきり違う。
どうせいつか同じ痛みをうけるなら早い方がいい。
だからここで………倒す!
俺は右手をゆっくりと頭上高々に振り上げる。
そして、頂点までいった瞬間、振り下ろす。
「全刀、射出!!」
−−−Side Out−−−−
リョウはこの試合中ずっと迷っていた。
リョウの剣獣の森での生活の集大成。
それを使ってしまうかどうかに。
実際決心はすでにつけていたつもりだった。
ただそれはあくまで切り札としてとっておきたかった。
ここで使ってもいいのかと少なからず思っていたのだ。
しかし今現在、それを使わねばならない状況に立たされている。
リョウは負けたくなかった。
負けるとはすなわち、剣獣の森での地獄のような日々が無意味だったかのように思えるのだ。
一年間(といってもリズがきてからはいくぶん楽になったが)リョウは死と隣り合わせに生きてきた。
あの空間では安眠はおろか一瞬だって油断などできやしない。
初期のころは何度も死にそうなめにあっていた。
だからこそその生活の中で培ったものを使って負けるということはリョウにとって過去の否定につながるのだ。
今も無数の剣があらゆるところから迫って来る。
決心はしていた。
決意もした。
ならばやるしかない。
アイアンメイデン
「≪覇装≫、鋼鉄の王」
刹那、無数の剣がリョウに突き刺さった。
あたりは騒然としていた。
目の前で人が串刺しになったのだから当然だろう。
しかし、騒然とした空気を打ち破る声があった。
なんでもない観衆の中の一人に過ぎない。
その一人が呟いた。
「あれ…………血は?」
周りの人達は最初、なにをいってるんだこいつという眼で見ていた。
しかしだんだんとその言葉の真意に気付いていく。
剣で刺されているのだから人間でなければ血がでていないとおかしい。
リョウは今ハリセンボンのように体のそこら中に剣が突き刺さっているはずだ。
致命傷にはならずとも結構な血がでてもおかしくはない。
だが、でていないのだ。
一滴も
徐々に動揺は広がっていく。
その動揺が観客全体に伝わった時、轟音を立て、リョウに突き刺さっていたであろう剣の全てが弾き飛ばされる。
そこにたっていたのは漆黒の戦士。
「な、なんだ!?」
闘技場内全ての人が唖然としていた。
レイリーもその一人。
リョウの姿に唖然としている。
漆黒の鎧はライダースーツのように体をピッチリと包んでいる。
あたかも戦隊ヒーローのような風貌。
その鎧は無数の剣に突き刺されたにもかかわらずほんの少しの傷もない。
≪覇装≫それは剣獣の森でリズに出会ったときに使ったもの。
あの時はまだ試作品のような感じであったが、これは完成版。
絶対防御、それこそこのモードに相応しい。
リョウはゆっくりと、そして段々速くレイリーの元へ歩を進める。
そこでようやくレイリーが我に帰る。
しかし、遅い。
既にリョウはすぐ近くまで接近していた。
さらにさっきの《infinite sword World circle》でほとんどの魔力を使いきってしまった。
それでも魔力を搾り出し剣を一本召喚する。
これを防げば!!
レイリーは振り下ろされた斬波刀を受け止め切る。
だが、リョウは斬波刀を握っていなかった。
斬撃を囮にした攻撃。
気付いたときにはもう遅い。
「うぉぉぉぉぉおおおお!!」
リョウは雄叫びを上げる。
アイアンナックル
「《鋼鉄の拳》!!」
リョウの漆黒の拳ががら空きになったレイリーの腹を思い切りえぐる。
勝負はあった。
誰もがそう確信した。
しかし信じられない。
四帝が負けるはずはないという思いがあったからだ。
しかしレイリーは起き上がる気配を見せない。
そして、
『エキシビションマッチの勝者はまさかのまさか、挑戦者リョウ!!』
というアナウンスを聞いて、ようやく認識した。
帝は敗れたのだと。
闘技場中央、その場所でリョウは高らかに手を天に突き出している。
しかし次の瞬間、漆黒の鎧は跡形もなく消え去り、リョウは静かにたおれたのであった。
「……う……うぅ……」
リョウはユックリと眼を開ける。
すると最初に見えてきたのは見覚えのない天井だった。
「リョウさん!
気がついたんですね!」
隣から嬉しそうな声が聞こえて来る。
何かと思ってリョウは横に顔を向ける。
なんでもない単純な動作だが今のリョウには酷く辛い行為だった。
体中が痛く、そしてけだるい。
これ以上ないと言っていいほどの不調だ。
最初は焦点の合っていなかった視界がようやく相手の姿をとらえる。
そこには嬉しそうに微笑むレナの姿があった。
「れ………レナ………ここは?」
うまく声が出ずガラガラだ。
それでもしっかり聞こえていたのかレナは答える。
「ここは病室です。
あの試合の後、リョウさんは意識を失ってしまってここに運び込まれたんです。
病院の人も驚いていました。
ここまでの魔力枯渇なんて見たことないって
ほとんど零にちかかったそうなんですよ!
ほんとに無茶して!」
最後の言葉はこれまでの優しい言葉とは一変、強い口調だった。
そしてそれからレナのお説教タイムが始まった。
リョウはレナの説教を尻目にはうまく働かない頭で考える。
リョウの力は≪創造≫と≪破壊≫だ。
そこには魔力は必要ないのだ。
その二つを使うのに必要なのはあくまで精神力と生命エネルギー。
魔力は人が元から持っているもので、最大値が変化することはない。
要するにレナが言う、ほとんど零に近い魔力というのが異世界人であるリョウの魔力量なのだろう。
でも流石にここまで精神力を使ったのは剣獣の森で魔獣およそ1000体に囲まれて以来だ。
リョウはこの試合で自分がやったことを思い出す。
《加速》を使った高速戦闘
《infinite sword world 》を防ぐため、《加速眼》をぎりぎりまで使用
斬波刀の創造
《纏い》と《斬》の併用
覇装の使用
その他もろもろ……………
……………そりゃこうなるわな
リョウは自分でやっといておいてそのバカさ加減に呆れる。
下手したら魔獣1000体の時よりもきつかったかもしれない。
そこであらためて剣帝レイリーの凄さに驚かされた。
たった一人の人間が1000体の魔獣に匹敵、否、それを超えるのだ。
確かに人外だと言われても仕方ない。
もっぱらリョウがそんなことを言えた義理ではないのだが。
そんなことを考えていると、どでかい音がした。
それをリョウがドアが勢いよく開かれた音だと分かったときには、何かがリョウの元へと飛翔してきた。
リョウは目が点になる。
次の瞬間、リョウの腹部に強い衝撃が訪れる。
「ごはっ!!」
「リョウ!!
ホントに眼を覚まして良かったです。
もし覚まさなかったらどうしようかと
あ、それとエキシビションマッチ勝利おめでとうございます!!
すごいかっこよかったです!
って、あれ?リョウ?
大丈夫?眼を覚まして!
リョウーーー!」
「うるさい!」
とんでもなくハイテンションのミーヤにエリアの手刀が炸裂する。
あぅ、といい頭を抑えとりあえず落ち着くミーヤ。
リョウはというと再び気絶していた…………
「本当にごめんなさい」
今リョウはミーヤに全力で頭を下げられている。
そりゃ痛かったことこのうえないが、それでもリョウの無事をよろこんでのことだったため責めることはできないだろう。
さらにミーヤほどの美少女に涙目上目遣いをやられたらもう無理だった。
ひどい罪悪感に苛まれてしまう。
決してミーヤは狙ったものではないのだが、それが余計に可愛さを底上げしている。
それもあって(というかそれが9割くらいだが)リョウはすぐにミーヤを許した。
そもそもあまり怒っていなかったためそれでよかったのだが何故か周囲から殺菌が漂っている。
ニヤニヤしおって、などという言葉がちらほら聞こえてくるが、リョウにはなんのことだかサッパリ分からない。
ただ以前眼はミーヤに向いたままだった…………
これにてVS剣帝編は終了となります。
ちなみにこの話にでてきた≪覇装≫という言葉の経緯について話したいと思います。
まぁそこまで語ることでもないのですが。
最初、リズのところで出した時には≪創造≫と≪破壊≫の複合型というふうな書き方をしました。
でもそれだとなんかしっくりこないなと思いまして、名前を付けることにしたんです。
ネタバレになってしまうのでモードについては言及できませんが(それについてはまたいずれ)なんとかぴったりくるものがないかと考えた結果。
やっぱ創造と破壊両方のどっちか一文字をひろってつなげばいいかという考えに落ち着きました。
勘のいい方は気づかれたと思いますが、覇装は破創の漢字をそれっぽく変えただけなんです。
なんの落ちもなくてすいません。
ただなんで覇装なの?みたいに聞かれるかと思って一応あとがきに載せておきました。
それと報告が、
この話で本当に少しだけ触れた剣帝レイリーの過去。
これを二章番外編として執筆しようと思います。
一章の少年と狼のとある一日と同じようなものです。
話数は1、2話くらいになると思います。
すいません、まだそこらへんは未定です。
えー、では次回からについてですが、ついに第二章 出会い の最終編となります。
まぁ番外編がそのあとにありますが。
さて、次編は、
それは偶然か………それとも…………
魔獣の軍勢編
スタートです。
では、
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