VS剣帝−無限剣−
ついに幕を開けたエキシビションマッチ。
リョウはすばやく背中から己の愛刀を抜くと、同時に《加速》を発動させる。
10メートル近い距離を一瞬でつめ、レイリーの懐へと潜り込み太刀を突き出す。
しかしレイリーはそれを完全に見切っていたかのように体を横に捻りかわす。
そしてそのまま回転し、勢いをのせ横に凪ぐ。
リョウは思い切りしゃがむことで髪の毛を数本切られたがよけきることに成功する。
剣が通り過ぎたのを確認し、太刀を持たない左手をレイリーへと向ける。
そこで初めてレイリーが焦りの表情を浮かべる。
ゼロ距離から発射された炎弾が襲いかかる。
しかしその炎弾がレイリーに届くことはなかった。
炎弾が発射されるほんの前(と言ってもコンマ何秒の世界だが)に後ろに跳び、水の障壁でそれを防いだのだ。
たった一瞬でこれだけの判断を行ったレイリーにリョウは驚いたが、次の瞬間には帝だから当然かなどという元も子もないことを考え出していた。
余計なことを考えているあたり、未だリョウには余裕が感じられる。
一方レイリーはリョウの並外れた動きに驚いていた。
「少し君の事を甘く見ていたようだね」
「そりゃどうも。
帝様に言われて感激ですよ」
レイリーの言葉にリョウは皮肉で返す。
怒りに我を忘れ判断力が鈍っている相手と戦うのは非常に楽だ。
リョウは半ば怒らせるつもりで皮肉を言った。
しかし対するレイリーの言葉はリョウの意図から大きく外れていたものだった。
「様と呼ばれるのは好きではないな」
レイリー様は顔をしかめそうのたまった。
これにはそこかよ!というリョウのツッコミが炸裂しそうだったが、なんとかたえることができたリョウは微妙な顔をする。
そしてレイリーはそれを知ってか知らずかしかめた顔から一変逆に笑みを深めた。
そして−−
「せっかくだから少しだけ見せてあげよう。
無限剣を」
そう言ってレイリーは右手を頭上高々に上げ、厳かに言葉を紡ぐ。
「形成」
レイリーの頭上に無数の魔法陣が浮かび上がり
「召喚」
その魔法陣から次々と剣が姿を見せる。
そして
「展開」
出現した数えきれないほどの剣がレイリーの頭上あちこちに移動し、しかし全ての切っ先はリョウへと向いている。
インフィニット・ソード・ワールド
「《infinite sword world》」
「マ……ジ…かよ………」
さっきまでほうけていたリョウは我に帰りその異様な光景に絶句する。
ただ本能が告げている。
逃げろと
リョウは我に帰りすぐさま《加速》で離脱しようと試みる。
しかし時既に遅し。
「射出」
レイリーは頭上高々に上げたを思い切り前へと振り下ろす。
瞬間、剣は次々とリョウに向かう。
リョウは直感で逃げきれないと判断する。
ならばどうするか。
みすみす串刺しになるつもりはない。
そこでリョウは思った。
だったら全部たたき落とすしかないじゃないか。
リョウは《加速》を巧みに使いながら魔法で打ち落としていく。
しかしそれにも限界が来る。
魔法を撃つのをやめ、太刀を構え直す。
アクセルアイ
「《加速眼》!!」
目が金色に染まり、世界が速度を失っていく。
そして《加速》を使い縦横無尽に移動し、剣をできるだけ避けながら、それでも当たるであろう剣を太刀でたたき落とす。
だが一本の剣で全てたたき落とすのは難しい。
リョウは太刀を左手に持ち帰る。
「斬波刀!」
リョウは本来の愛刀を呼び起こす。
右手に刀は形成されていき、強固なものとなっていく。
一刀流から二刀流になったリョウは《加速眼》を維持できる限界までひたすら剣を振りつづける。
「うぉぉぉぉおおおお」
雄叫びを上げながら鬼神のように剣を振りつづける。
あと少し。
しかしそう思った瞬間、非情にも《加速眼》のタイムリミットがきてしまう。
リョウの目は元の黒に戻り、世界も速さを取り戻す。
その急激な変化により二本の剣に反応できず、右肩と左足を裂かれる。
それほど深い傷ではなかったがそれでも激痛が走る。
その痛みに一瞬剣を落としそうになるも、踏ん張る。
そして再度雄叫びを上げる。
「《斬波刀!斬風!!》」
斬波刀は≪纏い≫のように属性を纏わせることによって様々な力を得る。
炎の場合は威力、雷の場合は耐久力というふうにだ。
そして、風の場合は剣速。
アシストにより人間技とは思えないほどの速度で振られていく剣。
すれはまたたくまにレイリーが放った剣をたたき落としていく。
そして最後の一本。
一際大きな雄叫びを上げ、跳ね上げるように斬波刀をふるう。
カァンという金属音が鳴り響き、剣は空高く舞い上がる。
空中でしばしクルクルと回り続けザクッという音を立て地面に突き刺さる。
その流れをリョウは《加速眼》を使っていないのにもかかわらずやけに遅く緩やかに感じていた。
そして地面に刺さる音を聞いた瞬間我に帰る。
《加速眼》の限界までの使用、斬波刀の併用その他諸々でいくら外傷はすくないとはいえ、リョウの疲労は流石にピークに来ていた。
しかし、それはレイリーも同様だった。
あれだけの数の剣を一度に召喚したのだ。
消費魔力量は計り知れない。
レイリーはこれで決めるつもりだったのだ。
だからこそ驚きを隠せない。
外傷もあり、満身創痍のように見えるがそれでも立っているという事実にだ。
「嘘………ではないみたいだな」
レイリーは思わず呟いていた。
「嘘だったらどうすんだよ」
小さく呟いたつもりで返答が返ってくることを想定していなかったレイリーはリョウの言葉に恥ずかしそうに頭をかく。
「いや、特にどうという事はないよ。
ただ、一瞬信じられなくてね」
《infinite sword world》の強さは自分が一番知っている。
それこそ並大抵の人間では対処するなど不可能だと。
そしてレイリーは悟った。
目の前の少年は自分達と同じ世界に立っていると。
四帝と並ぶ存在だと。
レイリーは思わず笑みをこぼす。
それにリョウも笑みを見せる。
「さっきのはマジで焦ったよ」
「ふ、焦った、か。
余裕だな」
「いやいや、余裕だなんて滅相もない。
言っちゃなんだがもう満身創痍だぜ」
「自分からそんなこと言うやつがいるか。
安心しな。
あれはそうそう撃てるもんじゃないんだよ」
「あんたこそそんなこといっていいのかよ」
「帝相手にあんた呼ばわりか。
ますます面白い小僧だな」
レイリーは敬われるのを好んでいない。
剣帝という立場につく前にも想像はしていたが、現実はそれ以上だった。
皆、あたかも神のように崇めるのだ。
レイリーはそんなこと望んでいなかった。
冒険者だった時と同じような対等に接してくれる存在が欲しかったのだ。
今ではそんな存在ライザーとシルフィくらいしかいない。
だからこの少し生意気ともとれる(というかそうとしかとれない)ような口調にも目くじらを立てることはなかった。
「いいのかって聞いてるんだが」
「それをしったところでどうにもならんだろう?」
レイリーは挑発的な声を出す。
「おもしれぇ」
リョウはその声に呟くように言う。
リョウは二本の剣を構え、いつでも駆け出せるように前傾姿勢をとる。
一方レイリーは手の近くに魔法陣を作りそこから剣を召喚すると、それを掴み微動だにしない。
構えもしないのだ。
リョウはいぶかしむ。
レイリー程の実力を持つ者がなんの考えも無しにそのような無防備な姿勢をとるのはどうにも考えられない。
もちろん油断しているだけなのかもしれないが、さっきとは雰囲気が違うことにリョウは気づいていた。
リョウを認めたのかその目は紛れも無い本気。
もしあの姿勢が意味を持つのだとしたら考えられるのはカウンターだ。
そうなると迂闊に突っ込めない。
リョウはしばし逡巡する。
そして駆け出す。
ただし《加速》は使わない。
《加速》はカウンターを受けやすいという弱点がある。
レイリーがそれを狙っているのであれば、《加速》を使わずにいけばいい。
なんとも短絡的だがこれ以上ないカウンター対策だろう。
距離は10メートル弱。
リョウは太刀を構え、駆け出す。
−−−−観客席−−−−
さっきまで多くの歓声が鳴り響いていた観客席。
しかし、今は静けさが漂っている。
誰ひとり口を開かない。
否、開けない。
レイリーが《infinite sword world》を発動した時、観客席は大いに湧いた。
そして我等が剣帝の勝利を確信したのだ。
だが次の瞬間彼らが見たのは信じられない驚愕の光景。
未だ処理しきれないほどの衝撃が彼らを襲った。
しかしその中でいち早く覚醒したものがいた。
リズである。
リズはリョウの力を充分分かっているため回復が早かったのだ。
リョウがレイリーの怒涛の攻撃を弾き返したのには一瞬放心状態にさせられたが。
リョウを一番近くで見ていたリズですらそうなのだ。
レナ、エリア、ミーヤ、アリシア、彼女達が未だ放心状態なのはしょうがないことだろう。
それでも、とリズは呼び掛けることで覚醒を促す。
「おい。大丈夫かの?」
リズは声をかけるが反応がない。
「戻ってこーい」
今度は少々大きな声でいうとようやく覚醒した。
「え、あ、はい。
ってリズさん!?」
レナはいきなり目の前にリズの顔があったことでかなり驚く。
そんなに驚くとはおもわんかった、とリズが呟いている横でハァハァと胸を押さえている仕種から相当な驚きだった事が分かる。
レナの出した大きな悲鳴のような声に釣られたのか残りの三人も覚醒する。
そしてエリアが最初に言った言葉は
あいつは人間か?
だった。
別に悪意があるわけではない。
純粋にそう思ってしまったのだ。
先ほどの光景を見たことによって。
「まだやめたつもりはない。
多分主殿ならこういうじゃろうな」
リズが笑いながら言うと
「そうですね。
きっとそう言うと思います。
それによくかんがえてみればあの人のことで驚いたのは今に始まったことじゃありませんし」
レナも驚愕の表情から呆れ顔になる。
その変化にエリア達三人はあいつは一体何をしたんだとすごく気になったがさっきの光景からなんとなく想像はつくのでやめる。
もう彼女達の顔に驚愕や恐怖の影は微塵もない。
そこにあるのは呆れ、そして何より次に何を起こしてくれるんだという期待だった。
彼を見ていると飽きない。
それが今彼女達の胸によぎった言葉だった。
−−−−−−−−−−−
リョウがレイリーのカウンター対策としてとった行動、それは単純に《加速》を使わずに距離をつめるというものだった。
だが、レイリーもそれは予想の範囲内直ぐさまカウンター狙いの無防備な姿勢から構えをとる。
そしてそれこそリョウが狙っていたことだった。
リョウは残り5メートルもない距離から《加速》を発動させる。
リョウのとった行動にレイリーは目を見開く。
しかし次の瞬間にはその目は笑っていた。
そして目を見開いていたのはリョウだった。
リョウが運動エネルギーを全て乗せた渾身の突きは突然現れた物体によって阻まれた。
それは紛れも無い剣。
絶妙なタイミングで召喚された剣。
召喚のさいに生じる空間固定(一瞬だけ空間に固定される現象)を利用したのだ。
リョウは後ろに大きくのけ反る。
そしてその隙を逃すレイリーではない。
手に持つ二振りの剣をリョウへと突き入れる。
リョウは風魔法で作り上げた即興の壁で威力を軽減することに成功したが、それでも脇腹をざっくりと切られてしまう。
痛みで顔をしかめつつ呻く。
しかし、相手は待ってくれない。
≪破壊≫による生命エネルギーの活性で応急処置を行い。
直ぐさま剣を構える。
右の斬波刀は斬炎、左の小鉄には風属性永続の≪纏い≫風神剣を発動。
そしてレイリーも二本の剣に炎を纏わせる。
今度ばかりは小細工無しの剣と刀の応酬。
切り上げ、切り下ろし、凪ぎ、突き入れる。
かわし、いなし、受け止め、弾く。
お互い一歩も譲らない拮抗した状態。
たった一瞬の集中の切れで勝負が決まるシビアな世界。
そのプレッシャーの中で二人はお互いに限界の戦いを行っていく。
何度目かの応酬の結果、ついに均衡が破られる。
リョウの一太刀がついにレイリーの剣を弾き飛ばした。
ゆらゆらと舞い上がっていく剣。
それを見た瞬間リョウはがら空きの腹へと一撃をぶち込もうとする。
レイリーは直ぐさま再度剣を召喚したことでなんとか直撃は免れるも、かなりのダメージであるに違いない。
レイリーは感じていた。
ここで決めなければ負ける、と。
だからこそあの戦略級魔法を使うしかない。
そう決心した。
「形成」
その台詞聞いた瞬間リョウは無意識に走り出していた。
あれを撃たせるわけにはいかない。
詠唱中に攻撃すれば防げる。
そう思ったのも束の間。
なにかがリョウ目掛けて空から振って来た。
リョウは咄嗟に後ろに下がる。
するとそれをみこしていたかのようにリョウの周りへと次々と剣が落ちてきて囲まれてしまう。
リョウは一瞬動揺したものの、すぐに冷静になりその剣達を吹き飛ばす。
しかし遅かった。
レイリーの魔法は既に完成していた。
《infinite sword world》の数倍の剣の量。
そしてそれはさっきのように正面にだけではない。
リョウを中心に囲むように、四方八方、上空にまで及び、全ての切っ先は先ほどと同じようにリョウに向いている。
「《infinite sword world circle》」
この小説を書きはじめたときから書きたかった描写がありました。
それがついに書けた!
やってみたかったんですよね。
こう大量の剣が襲い掛かってきてそれを弾く描写が。
今回のバトルはさながらチートVSチートでしたね。
念のため注意書きしておくと、レイリーさんの《infinite sword world》は某弓兵さんとは違い限度はあります。
自分がストックしている場所から召喚しているのであり、ストックが切れたら終了です。
ただ一度召喚された剣は5分後に元の場所へと戻ります。
てな感じですかね。
次回
剣帝戦終了です。
《infinite sword world circle》に対しリョウはどうするのでしょうか。
できるだけ早く投稿します。
では、
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