VS剣帝−試合開始−
「ホントにお前が言った通りになったな」
「まぁな」
男二人の会話をすぐそばで聞いていた女性がふふっとふき出す。
この三人の人物、何を隠そう、獣帝、剣帝、魔帝その人である。
今日はエキシビションマッチの日。
妙に街が浮足立っているのもそのせいだろう。
エキシビションマッチとは武闘大会優勝者が四帝の内の一人と戦うことだ。
優勝者は賞金と共に帝への挑戦権をえる。
今回は剣帝、レイリー自らが志願したのだ。
ところで過去4回行われた帝とのエキシビションマッチ(武闘大会の歴史は古いが、エキシビションマッチは4年前から始まったのだ。)。
回数は獣帝ライザーが3回、魔帝シルフィが1回だった。
レイリーは一度もでたことがないのだ。
龍帝はほとんど姿を現さないことで有名だが(半ば伝説の生き物とされている)………。
レイリーはそもそもエキシビションマッチというのをを好まない。
自ら望んでこの立場につくにあたり、それ相応の覚悟はしていたつもりだが見せ物感がどうにも嫌なのだ。
明るい性格で誰にでも公平で優しく、そして何より強い。
レイリーにあこがれ冒険者になったものは数知れないため皆はレイリーが出ることを望んでいたがレイリーは拒否してきた。
ただレイリーが出ないのは獣帝ライザーがいるからでもある。
ライザーは言ってはなんだが戦闘狂だ。
この地位についたのも、より強い相手、魔獣と戦うのに都合がいいからという理由が八割をしめる。
よってライザーが出つづけていたし、レイリーとシルフィもそれでいいというスタンスだった。
しかし4回目になってついにストップが出たのだ。
レイリーとシルフィは今回もライザーが出るのに異存はなかったが、大会関係者の必死のお願いで不本意ながらシルフィが出場したのだ。
その関係者はライザー様だけでなく、レイリー様、シルフィ様のお力も是非皆に見せてあげてほしいというのをひたすら表現を変えながら言っていたが、話題性が欲しかった、いつも同じではつまらないがほぼだろう。
様と呼ばれるのを好まない三人、そして特に好まないライザーはなんだか冷めちまったといってエキシビションマッチ出場を止めた。
そして渋るレイリーのかわりにシルフィが出たのだ。
しかし今回はレイリー自ら志願したのだ。
燃えるような瞳と共に。
レイリーの性格を知っているライザーとシルフィはこれにはひどく驚いたものだ。
そして同時に二人はレイリーにこんな瞳をさせたリョウという冒険者に強い興味をいだいた。
今大会には千光エリアや公国の騎士王ライアンなどの超強豪がエントリーしていた。
どこかで未だリョウの実力を信じていなかった二人はリョウがその二人をを倒して優勝してしまったことに驚いていた。
ライザーも今更になってレイリーに交代しろだのとうるさいがレイリーの耳には入っていなかった。
自分でも何故リョウという冒険者にそこまでこだわるのか分からない。
その意味を知るためにもよりリョウと戦いたいという気持ちが強くなっていった。
「でも一応手加減してやれよ。
実力は認めるがお前が本気になったり秒殺だろう」
ライザーがニヤリと笑いながら言い、シルフィもくすくすと笑う。
「そうだなぁ」
レイリーは曖昧に笑うが、心のどこかでリョウを甘く見ていたのかもしれない。
武闘大会で見せたのはリョウの実力の一端にすぎないことをまだ彼等は気づいていなかった。
−−−−−−−−−−−
リョウは宿の自室で机に突っ伏していた。
ネルとおこしてしまった騒動、喧嘩騒ぎのせいでリズ達におしおきをくらったのが昨日。
昨日は体中が痛かったが一日たった今痛みは完全になくなっていた。
さすがに体中に激痛が走っている中で帝と戦うのは不憫だと思ったからか手加減はしていてくれたらしい。
ただ昨日の激痛を思い出し身震いしてからリョウは突っ伏している体勢から立ち上がりドアを開けたのだった。
ドアを開けると謀ったかのようにそこにはリズとレナの姿があった。
「今起こそうと思っていたんです」
レナが微笑みながらそういうとリョウは昨日のネルの言葉を思い出す。
確かに自分は幸せものだなどと考えていると、リズがジト目でこちらを見てきた。
「主殿、なんだそのだらんとした顔は、気持ち悪いのう」
リズの辛辣な言葉にリョウはうぐっと胸をおさえ、そこまで言わなくてもと口を尖らせる。
レナは何がなんだかわからず首をしきりに傾げていた。
リズは否定はせんのかと苦笑いをしながらも、レナの姿を見て、次の瞬間にはそれも微笑みに変わった。
「そろそろあやつらとの待ち合わせの時間じゃが」
「ああ、分かってるよ。
もう少しで準備おわっから」
リズの問い掛けにリョウは答える。
リョウは未だ寝巻のままなのだ。
レナはいきなり話が変わったことでさっきの空気はどういうことなのか聞きたかったが、どうにも憚られ、わかりました。待ってます。と言うに留めた。
それにリョウはありがとうと微笑みドアを閉める。
待ち合わせとはエリア達とである。
昨日意気投合した彼女達はもちろんリョウ達と宿が違うのでエキシビションマッチの前に待ち合わせをしているのだ。
リョウは迅速に服を着替えはじめる。
そして最後に腰にナイフ、背中に太刀を背負った。
準備が完了したリョウは気合いをいれるように両手で両頬を叩くと再びそのドアを開いた。
リョウ達が待ち合わせ場所に着くとそこにはすでにエリア達がいた。
「おまたせ、まったか」
「いや、そこまで待っていたわけではない。
気にするな」
リョウが申し訳ないように言うとエリアは淡々とそう言った。
ミーヤも大丈夫ですと笑顔で言ってくれたことで、リョウもならよかったと笑みを見せた。
その横でリズとレナがリョウのデレデレとした顔に負のオーラを出していたが、今回はデレデレしている自覚のないリョウは気づかなかった。
そしてアリシアはその様子をあたかも傍観者かのようにくすくすと笑って見ている。
閑話休題、エキシビションマッチが始まるのは約2時間後だ。
1時間前には控え室に行かねばならないため、あまり遠くにいくこともできず、6人は近くの喫茶店に入ることにした。
そこでリョウに向けられた視線は大きく分けて3つ。
尊敬・嫉妬・好奇だ。
リョウは慣れないな〜などとおもいながら席につく。
「リョウさんはなに飲みますか?」
レナに尋ねられリョウはここでコーヒーと言えたらかっこいいんだろうなぁなどと思いつつもオレンジジュースを頼んだ。
どうにもコーヒーは飲めないのだ。
正確にはコーヒーという名でもオレンジのジュースでもないのだが、似たような味だったため、それぞれリョウはそう呼んでいる。
皆が飲み物を頼んだところで話題を切り替えたのはエリアだった。
切り替えたというかこっちが本題なのだが。
「リョウは今回戦う剣帝についてどこまで知っている?」
「う〜ん、無限剣っていう二つ名があるってことと剣を主体とした戦い方をするってことくらいかな」
「まぁそんなところか。
ただな」
そういってエリアは言葉を切る。
「帝の一人だ。
そう簡単にはいかないと思うぞ」
エリアはリョウの言葉から緊張感というものを感じなかった。
だからこそ忠告のような形で言ったのだが、リョウはそんなもんかね〜と惚けたことをいっている。
そんなリョウを見兼ねたのかアリシアも口を開く。
「そんなに甘くないと思いますよ〜
なんでも〜召喚魔法のエキスパートとか〜なんだとか〜」
アリシアが間延びした声で言った召喚魔法という言葉にリョウはくいつく。
「召喚魔法?」
「はい〜
別の場所にある物を〜魔法陣を通して〜呼び寄せる魔法です〜」
次から次へと剣が出てきてびっくりしちゃいましたよ、とはミーヤの談。
それにレナがうんうんと頷いている。
そこでリョウは疑問に思った。
「ミーヤとレナは見たことあるのか?」
「はい。
というかリョウは見たことないんですか?」
ミーヤが信じられないという目で聞いてくるがリョウには覚えがない。
「え、なんで?
見たことないけど……」
「剣帝、レイリー様は6年前の武闘大会の優勝者なんですよ」
隣からレナが言う。
「6年前というとエキシビションマッチが始まる前の年か」
リョウの言い方にまたもミーヤが驚いたように尋ねる。
「知らなかったんですか!?」
うぐっとリョウは話につまる。
確かに知らないのはおかしい。
だがその時にはこの世界に来ていなかったのだから当然だ。
別世界から迷い込んじゃった、てへ☆
とも言えず、リョウは頭を悩ませる。
同時になんでこんな言葉が浮かんで来るのかと少し悲しい気分になった。
よく使われるのは記憶喪失のふりをする、だろう。
しかしそれでは確実にボロが出る。
そんなんでまかり通るほど世の中甘くできていない。
かといって本当の事を言ってパニックになるのもさけたい。
そこでパアッとリョウの頭に名案が浮かんだ。
「俺の故郷は辺境でさ。
あんまりそういう話ははいってこなかったんだよね」
完璧だ。嘘は言っていない。
そしてこれ以上ベストな答えはないだろうとリョウは自分の真の実力に戦々恐々としていた。
こうすればレナと会ったときの無知度にも説明がつく。無理矢理だが。
「なんていうところなんですか?」
と、ミーヤが聞くので、日本ってとこだよと答えると日本、はてそんなとこあったかな。どっかの地名かなと首を傾げ考え始める。
そんなミーヤの様子をニヤニヤしながら眺めていると突然周囲に冷気が漂ってきたので、本能的危機感でリョウは真面目な顔に戻った。
すると立ち込めていた雰囲気も柔らかくなったのでリョウは安心してため息をつく。
その後も話は続き、あっという間に時間は来てしまった。
途中でネルが来たことでまた喧嘩騒ぎにまで発展しかけたが、ぎりぎりのところで踏み止まった。
お互い昨日のおしおきは半ばトラウマとなっているのだ。
自分の理性に感謝しつつ、時間も来てしまったことでその場はお開きとなった。
リョウは皆にエールを送られながら控え室へと向かって行った。
前述したようにリョウは緊張など微塵もしていない。
リョウとかれこれ半年以上の付き合いがあるリズにはそれが分かっているようで、レナ達の信じられないという表情に微妙な顔をしていたが、普通の感覚からしたらおかしいのはリョウ達だろう。
帝と戦うということは冒険者最大の名誉であり、それに興奮、緊張しないはずはないのだ。
だがリョウは興奮はあれど緊張はない。
絶対的な自信かそれともそれがどれだけ名誉なことなのか分かっていないバカなのか。
リョウの場合はまぎれもない前者。
剣獣の森での一年間と森をでてからの戦いの数々はリョウに絶対的な自信をもたらしているのだ。
もちろん相手の事を過小視しているわけではない。
剣帝、帝の地位にいるものがどれ程の強さなのかリョウには見当もつかない。
だからこそリョウは切り札を解禁してもいいと考えているのだ。
衆人監視の中でやるのは少々嫌な気もするが、仕方ないとそこは割り切るべきだろう。
勝利への算段がある。
それも自信をなす一端なのだ。
−−−−−−−−−−−
『ついに始まりました!
エキシビションマッチ。
今回は初の剣帝の登場です!
対するは突如として現れた冒険者。誰が優勝すると思ったでしょうか。
並み居る強豪を打ち倒し騎士王や千光ですら彼を倒すことはできませんでした。
さぁ今回はどんなドラマを見せてくれるのでしょうか。
では、選手の入場です!』
アナウンスを聞き、リョウはついに来たかと思いつつ苦笑いしながら闘技場へと足を踏み入れる。
そして同時にレイリーも入場したらしい。
観客席から闘技場が揺れるのではと思われるほどの大歓声が鳴り響いた。
やはりレイリーに対する声援がほとんどだがその中にもちらほらリョウを応援する声はある。
その事実に再度苦笑いしてリョウはレイリーへと向き合う。
お互い何も話さない。話す事はない。軽口もたたかない。
今の二人の空間にはそんなもの必要ないのだと何故かお互い分かっていた。
戦闘でしか、戦ってこそ本当の気持ちが分かると思っているからだ。
リョウは背中の太刀の柄へと手を持っていく。
レイリーも腰に携える剣の柄へと手を伸ばす。
そして未来永劫語り継がれることになる歴史的な試合の幕が上がる。
次回はついに剣帝戦。
やっとここまで来たって感じです。
あと報告がアドバイスをもらい、登場人物や技やらについてまとめることにしました。
この章が終わったらにするのでもうすこしさきな気がしますが。
アドバイスをくれた方ありがとうございました。
これからも応援よろしくお願いします。
次話についてはなるべくはやく投稿するつもりです。
では、
感想・評価・アドバイス・質問お待ちしております。




