武闘大会−決勝戦−
武闘大会編終了
『武闘大会もついに決勝戦!!
優勝し、四帝と戦う栄光を掴むのはだれだ!
では、決勝戦出場者を発表します。
まずはこの人、圧倒的な力で相手を倒してきまさた。
≪千光≫の異名を持ち、四帝に最も近いとされる冒険者、エリア・デル・ライトリード!』
エリアの名が叫ばれ、観客から歓声がおくられる。
『そしてそのエリアに対するは今大会のダークホース、リョウ!
公国の騎士王を打ち破るほどの実力は果たして≪千光≫に通用するのでしょうか!』
観客の歓声がうるさく響いている中、その中央にリョウとエリアは立っていた。
「ついに貴様と戦うときがきたか」
エリアはその美しい金色の髪を風に靡かせながら言う。
「まぁね、やっぱり出るからには優勝したいからさ」
リョウは少しおどけたような感じでかえす。
それにエリアは苦笑し、挑発的な笑みを浮かべる。
「楽しませてくれるのだらうな」
「どうだろうね。
やってみない限りにはわからないよ。
でも負けない自信ならあるよ」
エリアの態度に対抗するようにリョウも挑発的な笑みで答える。
そして武闘大会最後の鐘が鳴り響く。
「《フォトンバースト》」
エリアの右手から勢いよく、光の奔流がリョウに襲い掛かる。
《フォトンバースト》は放射状の攻撃。
横への回避は難しいと判断したリョウはすぐさま跳躍し、己の戦友を抜刀する。
空中に風の塊を作り、それを足場に弾丸のようにエリアに突っ込んでいく。
エリアは後ろに下がることでリョウの落下地点から外れようとする。
しかし、リョウはエリアの後方に炎弾を放つことで後退を許さない。
回避を諦めたエリアは絶妙な剣さばきで衝撃を逃がしながら紙一重でかわす。
一瞬の判断でここまで行動できるのはかなりの場数を踏んでいるだけでは無理だ。
それは一種の才能なのだ。
思わぬ回避により不完全な形での着地になってしまったリョウには決定的な隙ができる。
そしてその隙をついてエリアの神速の突きがはなたれる。
リョウは無理矢理頭を右に傾け、回避しようとするがぎりぎりのところで剣に頬を切り裂かれる。
リョウは地面に炎弾を放ち、その爆発を利用して後ろに飛ぶ。
これにはエリアも少し驚いたようで、追撃をせず防御に徹していた。
「ふぅ〜今のは危なかった」
一難去ってリョウは安心していた。
しかし、一難去ってまた一難ということわざを忘れていた。
エリアの顔に美しい笑みが浮かべられる。
しかし、それは上品などとはほど遠い野性的な笑みだった。
不視魔法の一番の用途は奇襲である。
相手はどのように攻撃したのかさえわからず崩れ落ちていくのだ。
しかし、先日のレナとの試合でエリアの手の内(不視魔法の存在)はわかっているだろう。
しかし、わかっていても、視覚に頼ってはいけないとわかっていても、人間は自分が見たのものを信用してしまう。
しかもリョウはちょうど安堵して気を抜いていたところだ。
この機会を逃すつもりはなかった。
油断しているときこそ一番奇襲がかけやすい。
反射的に回避することができないのが不視魔法の強みだ。
だからこそエリアは目を大きく見開き驚いたのだ。
全ての不視の攻撃をかわし、平然と立っているリョウの姿に。
エリアは最初はまぐれかと思っていた。
だから角度や方向を一つずつ変え、《インビジブルランス》を次々と放つ。
しかし当たらない。
一発もあたらない。
かすりもしない。
それも勘たよりの大雑把な回避ではない。
最小限の動きで、次の行動に支障がでないような回避。
到底勘でやっているとは思えなかった。
全ての攻撃が見えているとしか思えないのだ。
「どうしてよけれる……」
気付けばエリアは口に出していた。
「お前のその魔法はさ。
姿はけせても気配はけせてないんだよ」
リョウはさも当然だろとでも言うような顔をしている。
そしてエリアは自分の予想の遥か上をいく答えにしばし絶句していた。
確かに不視魔法は気配までは消せない。
姿が見えないだけでそこにあるのだ。
しかし、気配、言わば勘のような物になんの躊躇いもなく従える。
一体どんな中を生きてきたのだろうとエリアの中でリョウに対する興味が更に深まった。
「……おもしろいっ!」
エリアは満面の笑みでリョウに剣を振りかざす。
(なんかシュールな映像だよな、これ)
リョウはため息をつきながらエリアの攻撃をよけていく。
笑顔で剣を振り回すのはやめてほしい、怖いからなどと考えながら的確な回避を行う。
エリアのスピードは人型のリズにも及ばないもの。
リズのスピードに慣れ、事実リズ以上のスピードを出せるリョウからすれば今まで戦ってきた者よりは早いが所詮五十歩百歩というものだった。
ところで先ほどエリアに、何故よけれたかと聞かれ、リョウは気配と言った。
エリアはすごく驚いていたようだが、リョウからすれば生き残るために必要な技能だったのだ。
剣獣の森ではいつ魔獣が出てくるかわからない。
安心して眠ることだってできないのだ。
リズが来てからは少し楽になったが、それまではずっと一人。
気を抜けば死ぬという恐ろしくわかりやすいシンプルな状況。
だからその力が必要だったのだ。
≪創造≫でも≪破壊≫でも成し遂げられない力、危機察知能力が。
これを会得したことによってやろうと思えば半径1Km内の気配をすべて知ることができる。
今では危機察知能力ではなく気配察知能力といったほうがいいかもしれない。
よってたかだか十数メートルの距離から放たれた攻撃の気配をつかむなんて造作もないことなのだ。
エリアはリョウに手を向け、連続で不視の攻撃を放つ。
が、やはりすべてよけられる。
端から見るとリョウはへんな踊りを踊っているようだが、その実、凄まじい数の不視の矢を避けているのだ。
方法はどうであれ見切られていると判断したエリアは不視を可視にすることで魔力の消費をおさえながら剣に光を纏わせる。
「≪纏い≫、フォトンセイバー」
≪纏い≫には二種類存在する。
一つはかなりの攻撃力を持つ単発の攻撃。
もう一つは一撃の威力は低いものの持続するもの。
エリアが使ったのは後者だ。
今やエリアの持つ剣からは光が漏れ出て凄まじい明るさを誇っている。
「いくぞ!」
エリアは光の剣でリョウに切り掛かる。
リョウも≪纏い≫を発動させ、これに対応する。何度も剣と剣とがぶつかりあい、しばし均衡が保たれる。
しかしエリアは予感していた。
このままでは負ける、と。
力、スピードがあきらかに相手より劣っているため、いずれ均衡は破られる。
さらに先ほどの《インビジブルアロー》の連発により魔力残量も結構危ないのだ。
あの時焦ったツケが回ってきたかとエリアは舌打ちする。
しかし、攻撃をセーブする余裕はない。
このインファイトはすこしでも気や力を抜けば一瞬で終わりそうな程の激しいものなのだ。
距離をとりたいがリョウはそれがわかっているかのように、後ろに跳ぶ寸前に攻撃したりと、エリアからすれば最悪のタイミングで攻撃を加えて来る。
よって距離をとることすらままならない。
だがエリアの焦りはやがた高揚へと変わっていった。
こんなスリリングな戦いは久しぶりだった。
エリアはリョウに剣を叩きつけるように振るう。
リョウは太刀でいとも簡単に防いでしまうが、エリアは端からリョウに攻撃する気はなかった。
剣がリョウの顔の正面、言わば目の前にあるという状況こそがエリアのねらいだった。
突如エリアの剣がものすごい光を放った。
それはとても簡単なこと、めくらましだった。
リョウは思いもよらぬ攻撃に一瞬視力を失う。
次の瞬間には≪破壊≫で回復させるが、その一瞬はエリアはすかさず距離をとるのには充分だった。
リョウは目を押さえる。
目の痛みはまだとれていない。
しかし、あえて目を大きく開く。
それは戦闘続行の意思であり、エリアへの挑発だった。
そしてそれに対応するかのようにエリアは切り札を切ることにした。
武闘大会のように大勢の目の前では絶対に見せないと自分に誓っていたが、今はそんな誓いなど跡形もなく忘れ去っていた。
エリアは光の矢を放つ。
それも可視だ。
リョウはそれを視認し、避けた…………はずだった。
リョウの肩から鮮血が舞う。
これこそエリアの切り札。
不視魔法を応用して作り上げたエリアオリジナルの魔法。
その名も、幻影魔法。
人間は見たものを1番に信用する。
不視魔法を何故見抜けたのか。
気配を察知するというのは素晴らしい技能だ。
ただ、それは何もないという状況だからこそ最大限にはたらいていたのだ。
姿が見えない以上、気配を信じるしかないのだ。
しかしそこに視覚に訴えかけるものがあったらどうだろう。
それこそが幻影魔法。
幻だがそこに姿はあるのだ。
別の場所から気配をかんじても、頭ではわかっていても、反射的に見える方、幻をよけてしまう。
「くっ」
次々と放たれる幻影魔法にリョウはしばし翻弄される。
気配で居場所は分かるが、視覚に反応するものを反射的に避けてしまうのだ。
しかしリョウに焦りはなかった。
(だがこれならどうだ?)
体のあちこちが傷だらけな中、リョウはニヤリと笑う。
とっさにエリアは身構える。
しかし、攻撃はこない、訝しげにリョウを見たエリアは次の瞬間リョウがとった行動に目を見開いた。
リョウは目をつむったのだ。
目をつむったまま戦闘するというこちらをなめているとしか思えない行動にエリアは苛立つ。
そしてこれまで以上に《イリュージョンアロー》を打つ。
しかし、リョウはそれを全て避けた。
リョウは不視魔法を気配を察知することで避けていた。
視覚に訴えかけられることで回避行動が遅れるのならば、その視覚を消せばいい。
気配だけで察知しているリョウからすれば視界はいらないのだ。
幻影魔法をたった数撃で見切られたと感じたエリアはさらにあせる。
その間にもリョウはエリアの幻影魔法を避けながら攻撃を加える。
魔法の撃ち合いが終わり、
「≪纏い≫フォトンエッジ」
エリアは剣を振りかぶる。
「≪纏い≫風牙一閃」
対抗しリョウも≪纏い≫を発動する。
両者が勢いよくぶつかりあい、砂塵が舞い上がる。
どちらも単発系の≪纏い≫勝敗は純粋にどちらの威力がより高いかにかかっている。
そしてこの勝負に勝ったのはリョウだった。
エリアは勢いよく弾き飛ばされる。
普通なら勝敗が決定するところだが、そうはいかなかった。
エリアは風属性でだんだん勢いを殺していく。
その結果無傷とまではいかずとも軟着陸に成功していた。
ただエリアからすればこの状況は依然劣勢のまま。
魔力残量も多くはない。
不視魔法や幻影魔法を放ちすぎたと今更ながらに後悔するが、後悔先に立たずだ。
しかし、同時に胸の高鳴りがどんどん大きくなっているのも事実。
だからこそエリアは言葉を紡ぐ。
自分がもてる最強の技でリョウを倒すために。
「祖は光、実・虚・幻、光よ、我を照らせ。そしてあだなすものを殲滅せよ《千光》!!」
エリアの二つ名でもあるこの魔法はエリアのオリジナル。
カテゴリー的には上位魔法だが、その実、特位魔法並の攻撃力を誇る。
三種類の光、可視魔法、不視魔法、幻影魔法による全方面同時攻撃。
避けることは不可能、全方面が塞がれている今、回避できるスペースはない。
本来は魔獣の群れ等に使う広域殲滅魔法。
それをコントロールして全方面に配置し、リョウに一斉にぶつける。
殲滅魔法をたった一人のために使い、それを全て当てようというのだ。
とてつもなく難しい魔力とそのコントロールが必要なこの作業をエリアは疲労の色を一つとして浮かべず、成し遂げる。
誰もがその美しい光景に目を奪われていた。
しかし、
《千光》がリョウに届くことはなかった。
リョウは傍から見ると絶体絶命のこの状況に汗一つ浮かべていなかった。
そしてリョウは口を開く。
「黒龍」
闇属性の龍が全てを食らいつくすために姿を現す。
そして−−−−−−
ダークワルツ
「《黒龍舞踏》」
人々は闇が光を食らいつくす瞬間を見た。
エリアは驚きに声を出すことすらできず、口をパクパクと開閉するだけだった。
しかし、この闘技場にいる人物の中で一番驚いたのはレナだった。
闇属性のことを知り尽くしているからこその驚き。
初めて見る魔法、もはや人が成せる次元を越えているのだ。
リョウは静かに歩き出す。
黒き龍を従えながら………
今だ放心状態のエリアのもとへと
こうして、およそ一週間にも及ぶ武闘大会は幕を閉じたのだった。
総合評価が600点を越えました!
これからもがんばっていくのでよろしくお願いします。
話は変わりまして、エデンについてですが、ついに武闘大会編が終わりました。
同時に謝らねばならないことが…………
どっかのあとがきで四編構成といいましたが、すいません五編構成になってしまいました。
当初はこの武闘大会編て次のVS剣帝編を一緒にするつもりだったのですが、武闘大会編が予想以上に長くなり、分けることにしました。
次回
VS剣帝編開始
武闘大会を終えたリョウに待っていたものは………
では、
感想・評価・アドバイス・質問お待ちしております。




