武闘大会−フェイト−
(同類?どういうことだ?
まさかこいつも俺がいた世界からきたのか。
それとも、俺の特殊な力に関係することなのか?)
リョウの頭のなかで次々と疑問が沸き起こる。
「まぁ、お前と戦えば分かることだよな」
「はは、じゃあはじめようか」
そこでねらったかというほどのタイミングで始まりの鐘がなった。
フェイトはいきなり手を地面に突っ込み、剣を引きずり出す。
そして間髪入れずにリョウに向かって思い切り跳躍する。
これまで受け身的であったことからは想像もできないほどの行動、あまりにもアクティブな攻撃に驚きつつも、反射的に背中から太刀を抜く。
刹那、剣と太刀がぶつかり合い、鉄と石のなんともいえない音が鳴り響く。
リョウは≪破壊≫で腕力を上げ、力任せに振り切る。
フェイトもそれに逆らおうとはせず、勢いに任せて後ろに下がる。
その間にもリョウは炎弾を放ち続け、フェイトは剣を巧みに振り回し切り落としていく。
アクセル
リョウは《加速》を発動し、一瞬で懐に潜り込む。
しかし、それはフェイトも分かっていたようで、突如リョウの足元から石の杭が勢いよく打ち出された。
リョウは咄嗟に回避することができたが、思いもよらぬトラップに完全に態勢を崩す。
その隙を見逃さずフェイトは突きを放つ。
太刀でそれをなんとか受け止めその衝撃で転がりながら距離をあける。
しかも転がりながら立つというよくわからない芸当をこなし立ち上がったリョウは空高くジャンプする。
さきほどの土の杭はおそらく構成魔法だろう。
そして今のを見てしまうと地の上はフェイトのホームなのだろう。
リョウからすれば完全にアウェーなのだ。
なにぶんいつどこから攻撃がくるかわからない。
今自分が立っている地面が次の瞬間には鋭利な槍になっているかもしれないのだ。
しかし現状は足場が地面の上から空中に造った風の塊にかわっただけなのだが。
もちろんリョウにかかれば≪創造≫で飛行ユニットを造ることは可能だろう。
イメージさえできれば生命以外はなんでも造ることができるこの能力の前では朝飯前だ。
しかし、今はそれをやるわけにはいかない。
なんでと問えば、リョウはからなずこう返すであろう
だってあとあとめんどくさそーじゃん
、と。
そのような理由でリョウは自分にいくつかの足枷をつけているのだ。
よって今はあくまで風魔法にやる空中での姿勢維持ということにしている。
ただ、魔法を永続的に使えること事態が既に化け物レベルなのだが………
リョウの鋭敏化された耳にはいくつもの声が聞こえてきている。
そのセリフは大抵が、あいつ浮いてるのか!?だった。
これなら大丈夫かと思ったけどやっぱダメなのか、と呟きながら、太刀に炎を纏わせる。
空中からおりるにしてもただでおりてやるわけにはいかない。
「≪纏い≫、大爆炎」
太刀から大量の炎が吐き出され、地面を紅蓮に染め上げる。
そしてフェイトの体が炎に包まれたかと思われたその瞬間、それはネルの時と同じように形もなく消えていた。
「なに!!」
リョウの顔は驚愕で染まり、思わず大きな声を出していた。
(どういうことだ!
水属性か氷属性で相殺したのか?
いや、だが魔法を使ったような仕草はなかった。
だけど、炎は跡形もなく消え去った。
いったい何したっていうんだ)
リョウは頭の中で何度も問い掛け、答えを模索するも何一つわからない。
なんとかしてリョウは平静を取り戻す。
(遠距離がだめなら接近戦にすればいいだけの話だ)
リョウは太刀を構えなおし地をかける。
無数の土の矢を太刀で弾きながらひたすらかける。
フェイトも迎撃するために剣を構える。
剣と太刀が再び衝突し、今回は鍔ぜり合いが行われた。
嫌な音をたてながらお互い一歩も動かず競り合う。
最初に口を開いたのはリョウだった。
「さっきのはなんなんだ」
「もう少し使いこなせてると思ってたのにな〜」
そう言ってフェイトはため息をつく。
リョウは今度はいらだたしさを孕んだ声で問う。
「俺の質問に答えろ」
「がっかりだよ。
惜しいけどここで殺しちゃうか」
しかしフェイトは答えようとしない。
さらにフェイトの口からでた物騒な言葉にリョウは絶句する。
そこには明確な殺意があったからだ。
生まれて初めて受ける同じ人間からの純粋な殺意。
盗賊の時でさえ、嘲りが主で、それを受けることはなかったのだ。
フェイトは大きく後ろに下がり、地面に手をつける。
「《ロックワールド》」
そう言ったフェイトの手から波紋が広がっていく。
そして盛大な地響きと共に地面がひび割れ、次々と巨大な岩石となって地面から分離される。
まるで重力がなくなったかのように、数えきれないほどの岩石が空中へと上がる。
リョウはその様子を唖然とした顔で見つめる。
今まで地面に手をつけていたフェイトは立ち上がり、パチンと指を鳴らす。
「《ワールドエンド》」
無数の岩石がリョウの元に集結し、押し潰そうとする。
それは確実に『殺す』ための攻撃。
久しぶりの避けられない死の感覚。
恐怖と裏腹に何故か胸が高鳴る。
−−−−−そしてリョウはフェイトの首筋にナイフを突き付けていた。
どうしてこうなったか全くわからない。
そこにあるのはフェイトの首筋にナイフを突き付けているという明確な事実のみ。
リョウは思考と体の動きが分離したような奇妙な感覚に苛まれる。
突如フェイトが笑いはじめる。
しかし、それは決して大きいものではなく、近くにいるリョウがやっと聞こえるような笑い。
その状態がしばらく続き(実際には数秒だがリョウにとってはかなり長く感じられた)ついにフェイトは口を開く。
「なるほど。死が迫ったときに爆発するのか。
うんうん。これだよ僕が求めていたものは
殺すつもりだったけど、もうしばらくまってみてもいいかもしれないね」
フェイトはナイフが首筋にあてられているのにもかかわらず、何が可笑しいのかケラケラと笑いながらうんうんと頷いている。
リョウは訝しげな目で見る。
フェイトは今度は皆に届くような声で言う。
「サレンダー」
そう言った瞬間ブザーがなり試合は終了する。
リョウはまだ聞きたいことがやまやまだったが、試合が終わったことによりもうナイフを突き付ける事は出来なくなった。
リョウは渋々ナイフを下げる。
「最後に一つ聞いていいか?」
フェイトは相も変わらず上機嫌な声で答える。
「ん?なにかな」
「お前の目的はなんだ?」
リョウはいきなり核心に迫った。
今度はフェイトも真面目な声で言う。
「目的、ね。
いずれわかることだと言っておきたいけど、しょうがないヒントだけ教えてあげよう」
ごくりとリョウは息を呑む。
フェイトはこれまでとは全くかわらないトーン、しかし何故か思いの強さそして悲しみが滲むような声で言った。
「化け物の運命を変えることだよ」
リョウは立ち去るフェイトを呆然と見ていることしかできなかった。
戦いが終わりリョウはすぐさまレナの元へと向かう。
「レナ〜だいじょぶか?」
そう言いながらレナがいる病室のドアを開ける。
そして一瞬目を奪われる。
真っ白で質素な病室の中にいる、漆黒の髪に純白の肌を持つ少女に形容しがたいはかなさをリョウは感じていた。
可憐な少女とでも言うべきか、いつものキリッとしたレナとは違う印象に少し戸惑う。
しかし何故リョウが微動だにせず固まっているのか不思議そうに首を傾げるレナを見て、なんとか我を取り戻す。
レナはなんともないような感じでベッドに腰掛ける。
「はい。大丈夫です。
魔力切れの状態になっただけだそうです。
少し寝たらすぐ治るそうなので」
「そうか。それはよかったな」
そういえば、とレナは話を変える。
「準決勝突破おめでとうございます。
さすがリョウさんですね。
これでついに決勝ですか………
気をつけてくださいね。エリアはすごく強いですよ」
褒められた事に内心ニヤニヤしつつ、あえて平静を装った声で答える。
「ああ、わかってるよ」
当然、ニヤニヤは隠しきれていなかったが、そこはご愛敬といったところだろう。
ふと背後から声がかかる。
「まぁ主殿が負けることはないじゃろ」
いつの間にかリズが部屋に入ってきていた。
リズの後ろにはミーヤとアリシアの姿も見える。
「そうですね〜
先ほどの戦いも〜何が起こっているのかよくわかりませんでしたし〜」
リョウはフェイトとの戦闘を思い出す。
《ロックワールド ワールドエンド》
恐らくリョウの創造魔法に匹敵するであろう攻撃。
明確な死が迫った時、なにがなんだか分からずに力を行使していた。
フェイトはそれが本来の力だと言っていたが、リョウは自分が何をしたのかサッパリ覚えていない。
「獣人族の私でもとらえきれませんでした」
ミーヤがどこか悔しさを滲ませたような声で言う。
「たしかにあれは常人に視認できるレベルをこえていたからの」
そう言ってリズはリョウに耳打ちする。
「あやつから主殿と同種の力の波動を感じたのじゃが一体何者なんじゃ?」
リョウはリズ以外には聞こえないようにできるだけ小さな声で答える。
「分からない。
あいつは俺の同類としか言っていなかった。
それ以外には何も……」
「そうか………」
「ああ、だけどあの試合では全く力をだしていないと思う。
あいつの力は計り知れないよ」
「いつにも増して弱気じゃのう。
じゃが確かにそうじゃな。
うむ。あまりあやつとは関わらない方がいいと言いたいところじゃが、主殿はそんなこと聞かないのじゃろう」
「まぁな。
あいつは絶対知っているはずなんだ。
俺の力とこの世界に来た意味を
だから逃げるわけにはいかない。
意地でもあいつに会って、聞き出さないと」
「まぁ、我は主殿にどこまでもついていくだけじゃからな」
「頼りにしてるぜ、相棒」
「相棒とは嬉しいことを言ってくれるの、主殿は」
そこでリョウとリズがこそこそと話ながらピンク色の雰囲気を出していることに気づき、レナとミーヤはムッとし、アリシアはあらあら〜と傍観を決め込んでいる。
「リョウさん!!
リズさんと何を話してるんですか!」
レナが若干怒ったような口調で言い、それに、そうだそうだ〜という小学生のようなノリでミーヤが追撃をかける。
リョウはいつの間にかリズのペースにのせられていたことに気づき、頭を悩ませる。
リズと会話をしているといつもペースを握られてしまい、リズのいいように話が進んでいってしまう。
気をつけてはいるのだが一向にペースを握りかえすことが出来ないのだ。
ただそれよりも重要なのはどうレナとミーヤからの威圧を抜けだすかだ。
しかし、名案は浮かばず、いや、なんでもないよ、とごまかすに終わった。
なんとも情けない限りだが、こういう時に皆を納得させることのできる言い訳を考えられるものがいるなら是非レクチャーしてもらいたいとリョウは思うのだった。
しかし、レナとミーヤはリョウから思い詰めたような気配を感じたのか(先ほどの戦いで何かあったのかと思ったのか)まだぶつくさいっているにはいっているのだが、それ以上はあまり聞いてこなかった。
リョウはふうと胸を撫で下ろす。
こういう時の突発的な嘘はどうにも思いつきずらい。
まだ本当の事を話すときではないと思っていたのでとても有り難かった。
そのまま心機一転、しばらくいろいろな他愛のない話を繰り広げ、それは病室を閉めるという声がかかるまで行われた。
どうやらレナは一日病室に泊まることになっているらしい。
リョウ達はレナに別れを告げ、病室を後にした。
レナは最後にリョウに明日は頑張ってくださいと言い、笑顔で手を振り、送ったのだった。
まだ考えねばならないことはいっぱいある。
リョウは寝床につきながらそう考えていた。
しかし、考えたから解決するなどという問題でないことも事実。
とりあえず明日の決勝のことを考えながらリョウは深い眠りについたのだった。
−−−Side エリア−−−
ついにきた。まちにまった決勝が。
私は狂喜乱舞していた。
そもそもは四帝(実質剣帝・魔帝・獣帝のだれかだが)と戦うつもりで参加していたのだ。
しかし、なにごとにもイレギュラーが存在するということをこの大会で知った。
リョウという青年。
あの日出会い、私の拳を受け止めた青年。
そいつにであってから私はもうそいつのことしか考えられなくなっていた。
戦ってみたいそうつよくおもった。
「ついに、明日だ」
エリアは妖艶に微笑んだのだった。
総合評価500ポイント突破!!
お気に入り200人突破!!
いやぁ〜嬉しい限りです。
もっと楽しんでいただけるようにがんばりますのでこれからも応援よろしくお願いいたします。
次回
リョウVSエリアです。
お楽しみに
では、
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