武闘大会−準々決勝−
明日からテスト記念に投下
リョウは冷静に今起こったことを考えていた。
ネルの≪纏い≫には驚いたが、何よりもその後起こったことが不可解すぎる。
魔法が跡形もなく消え去ったのだ。
魔法で相殺したのならわかるが、まずあれほどの攻撃力をもつ魔法を相殺しきるにはかなりの時間がかかるはず、一瞬で消すなんて普通に考えれば不可能なのだ。
まぁ、今目の前でその不可能は壊されてしまったのだが。
ネルはどうやら魔力の枯渇によってしばらくは目覚めないらしい。
試合中になにがあったのかが分からない今、結論を急ぐべきではないだろう。
リョウは思考を一段落させると、タイミングよく、リョウを呼ぶアナウンスがあった。
どうやらそろそろ出番のようだ。
この試合に勝てば次の試合では仮面の男と戦うことになる。
そんなことを考えながら歩いていると、闘技場に到着していた。
リョウの次の相手はローブを頭からかぶっている女性だった。
ローブのせいで顔がよく見えないが、それでもかなりの美人であることが伺える。
リョウがローブの女性を凝視していると、その視線に気付いたらしく、優雅に一礼して、
「あなたがリョウさんですか〜」
間延びした声で話し掛けてきた。
リョウはその仕草から冒険者には見えない。どっかの貴族かなと思いながらも答える。
「はい。そうです。
あなたは?」
「私はアリシアといいます〜
今日はよろしくお願いしますね〜〜」
「は、はい」
アリシアの喋り方に少し調子を崩してしまう。
そのまま沈黙が続けたまま、二人は闘技場に入っていく。
どうにもなれない。
これが今のリョウの心境だった。
これまで何度も試合をしているが、やっぱり大勢の人が見ている中でやるのはなんだか緊張してしまう。
元の世界でもリョウはそこまで目立つほうでもなかったし、どちらかというと人見知りの気があったくらいだ。
こちらの世界に来て緩和されてきたが、やっぱり大勢に注目されながら何かをするというのは、いつまでたっても慣れないものだ。
リョウは気を紛らわすためにアリシアを見る。
武器らしき物を持っていないことから魔法タイプだと推測できる。
となるとセオリーは、一足で距離を詰めて意識を刈るというところだろう。
リョウは体勢を低くしていつでも走り出せるように準備する。
アナウンスがあり、開始を告げるブザーの音が聞こえる。
そう脳が判断した時には既にリョウの足は地を蹴っていた。
10メートル近く離れていた距離が一瞬で縮まり、リョウは拳をふりあげる。
しかし現実はそう甘くはなかった。
アリシアの周りに氷の壁ができていた。
氷属性は水の派生属性だ。
それを詠唱なしで発動させたのだから、さすがここまで勝ち残ってきただけのことはある。
もちろんこのまま突っ込めば氷の壁は破壊できる。
だが、アリシアの狙いはおそらく氷の壁が破壊されたあと。
インパクト直後の硬直時間を利用して攻撃するつもりなのだろう。
でも、それは甘い。
こちらも打撃だけじゃないのだ。
リョウは左手をあげ、炎弾を放つ。
三個程で氷の壁はくだけちった。
その瞬間内側からかなりの圧力を持つ風が発生した。
やはりトラップか、と後ろにさがる。
アリシアの周りを守護するように風が吹き荒れる。
そしてその風の隙間からちょくちょく遠距離下位魔法で攻撃してくる。
こちらからの攻撃は全て風に阻まれ。
その風のせいで近距離戦にも持っていけず、防戦一方になってしまう。
それにしても嵐の壁を持続的に出しつづけるというのは並の魔力量でできるレベルじゃない。
(どうするか………)
アリシアもいつかは消耗するだろうが、あの余裕そうな雰囲気を見るかぎりいつになるかわからない。
(なら……………吹き飛ばすか)
リョウはニヤリと笑う。
「炎龍、水龍!」
二対の龍が顕現し、アリシアへと向かっていく。
スチームバースト
「《水蒸気爆発》!」
この技は天狼状態のリズですら吹っ飛ばすほどの威力を持った一撃。
その爆風は容易に嵐の壁ごとアリシアを吹き飛ばした。
嵐の壁のおかげで直撃は免れたのにもかかわらず想像以上のダメージに内心驚きつつ、風を使って状態を制御し、難無く着地する。
そしてアリシアがさらに驚いたことはリョウが使った魔法。
魔法自体は見たことのない物だったが、おそらく炎属性と水属性の《融合》だろう。
(それにしてもこの年でユニゾンまで使えるなんてこの子いったい何者なんでしょうね〜〜)
一方、リョウもアリシアと同じく、しかし別の意味で驚いていた。
ローブによってフードのように隠されていた顔が爆風によってフードが取れたせいで、見えていたのだ。
見た目20歳くらいの絶世の美女がそこにはいた。
聖母のような優しさがあふれている顔が今は土埃でよごれている。
そして注意を引く部分がもう一つ。
それは長く先端が尖った耳だった。
その特徴的な耳を持った種族は一つしかいない。
「あなたはエルフ族なんですか?」
リョウが聞くと、アリシアは頭を触りフードがとれていることを確認し、あらあらと呟く。
「ばれちゃったみたいですね〜
そうですよ〜私はエルフです〜」
「ばれちゃったってなんかまずいんですか?」
リョウは首を傾げる。
「いえ〜まずいってことではないんですがね〜
ただ〜エルフは〜こういう場にはめったにでないので〜
かくしたほうがいいのかな〜と思ったんですよ〜〜」
「そういえばこれまでエルフ族の人をみたことがなかったような」
「エルフは〜めったに人前にはでないですからね〜〜」
「そうなんですか?
じゃあアリシアさんはなんで?」
「えーと〜なんででしょうね〜
強いて言えば面白そうだったからですかね〜」
「面白そう、ですか」
リョウは苦笑する。
そしてアリシアは挑発的な笑みを浮かべる。
「これからもっとおもしろくなりますよ〜」
「??
どういうことですか?」
リョウは訝しげにアリシアを見る。
「エルフってばれちゃったので〜これで思いっきり戦えますからね〜〜」
そう言った瞬間、アリシアの体から膨大な魔力が溢れ出す。
「マジかよ・・・」
エルフはかなりの量の魔力を持つと聞いていたが、まさかここまでとはとリョウは戦慄する。
(今までは抑えてたってことか。
どうやらこっからが本番みたいだな)
「いきますよ〜〜」
フワフワとした声が耳に届いた時、《サンダーボール》が迫って来ていた。
慌てて回避する。
追撃がないことから、今のは試合再開の合図なのだろう。
(なら、いくぞ!)
リョウは走り出す。
リョウの狙いはあくまで接近戦に持ち込み有利に事を進めるというもの。
もちろん、アリシアがそれに気づかないわけがない。
道を阻むように次から次へと魔法を放っていく。
リョウも魔法で相殺したり、太刀で切ったり弾いたりしながら進むが、距離が詰まるにつれ対処がどんどん難しくなっていく。
「祖は炎、祖は嵐」
アリシアが呪文を唱えはじめる。
なにかいつものとは違うような気がしたがそのままリョウは進む。
ユニゾン
「≪融合≫、魔の炎嵐、《ファイヤーストーム》」
アリシアの手から高出力の攻撃が放たれる。
炎が嵐のように放射状に広がる。
リョウは咄嗟に水の壁を作り出す。
と同時に嫌な予感がしたため上空に思い切りジャンプする。
次の瞬間 《ファイヤーストーム》がリョウが作った水の壁を一瞬で突き破り、リョウがついさっきまで立っていた地面を大きくえぐった。
「マジ……かよ」
あまりの威力にリョウは唖然とする。
(まさか属性の融合なんてもんができるなんて、聞いてねーぞ)
リョウは心の中で悪態をつく。
しかしアリシアの攻撃は始まったばかりだ。
「祖は雷、撃ち抜け《サンダーボルトアロー》」
雷は雷の派生属性だ。
以前の試合でリョウは《サンダーランス》を受けたが、それとは比べものにならない程の威力だ。
リョウは太刀を下から入れ、受け流しその反動で落下を促す。
リョウは落下の間にも下位魔法を放ち続けるが、ダメージは与えられない。
「なら!!」
リョウは太刀に炎を這わせる。
「≪纏い≫、業火爆炎!!」
太刀から巨大な炎の塊が放たれ、アリシアに襲い掛かる。
「祖は氷、祖は大地
ユニゾン
≪融合≫、魔の氷域、《アイスゾーン》」
アリシアまであと少しというところで炎塊が氷塊と化し砕け散る。
アクセル
リョウは《加速》を発動し、一気に距離を詰める。
アリシアとの距離は数メートル。
充分リョウの射程圏内だ。
リョウは今度は太刀に風を這わせ、横凪ぎに振るう。
「≪纏い≫、風牙一閃!」
一つの巨大な真空波が生み出される。
この距離だとリョウからすれば零距離と言っても過言ではない。
アリシアの顔に焦りが出る。
結局同じ真空波で相殺しようとしたが、所詮即席で作った物。
相殺仕切れず、ぶつかった時の爆風で吹き飛ばされる。
なんとか受け身を取り立て直そうとするも、すでにリョウは目の前まで迫ってきていた。
無詠唱で魔法を放とうと手を向け、放つ。
しかし、魔法があたることはなかった。
前には何もいなかったのだ。
直後、後ろから強い衝撃とともに、自分の腕が握られる感覚がした。
その犯人はリョウだった。
両手が拘束され、アリシアはなすすべがなくなってしまう。
リョウに両手を抑えられ、身動きがとれない状態でアリシアは言う。
「どうやら〜私の負けのようですね〜
まさか≪纏い≫を使えるなんて思わなかったです〜〜
隠しておくなんてずるいですよ〜」
そう言ってアリシアは頬を膨らませる。
なまじアリシアは美人の部類なのでそのような可愛らしい仕草は新鮮だ。
「隠してたわけじゃないですよ。
今初めて使いましたもん」
「初めて〜?
ホントですか〜〜?
嘘っぽいですね〜」
アリシアがジト目で見てくるが、リョウとしてみれば事実なので困ってしまい、つい口がとがる。
「ほんとですよ〜」
「あらあら〜、まぁ〜今はそういうことにしておいてあげましょうか〜」
「いや、してあげるじゃなくてt」
「ところで〜この体勢はいろいろまずいんじゃないですか〜」
リョウがいい終わる前にアリシアがクスクスと笑いながら口をはさんできたのを聞いて、リョウは今の状況を確認する。
リョウは現在アリシアの背後から前に手を回し、覆いかぶさるように両手を押さえ付けている(もちろん魔法を撃たせないためだ)。
アリシアは相当な美人でしかも胸もかなりでかい。
よってこの状況を簡潔に説明すると(客観的に見ると)、リョウが勝利にかこつけてアリシアを後ろから襲っているというふうに見えてしまう。
そして、リョウはここで始めて自分が無数の殺気に晒されていることに気付いた。主に男からの………
そしてもちろんその中にはリズ達の姿も・・・
リョウの背中から悪寒が走り、冷や汗が流れ出す。
しかし、ここで手を離してしまえば、また攻撃して来る恐れがある。
本来であれば首に刃物を突き付けてサレンダーを促すのだが、そんなことしたら完全にこちらが悪者になってしまう。
今後の円滑な人付き合いを実現するためにもそのような事態はなんとしてでもさけなければならない。
かといってこのままでも悪評が広まるばかりだろう。
気絶させるという方法もあるがこの体勢からではかなりきついだろう。
リョウが悩みに悩んでいると、アリシアが口を開いた。
「ふふ、ちょっとイジメすぎてしまっかもしれませんね〜〜」
と言って、降参です〜〜と敗北を認めた。
その瞬間、試合は終わったのだが、闘技場をあとにしながらリョウは疑問をぶつけた。
「なんで降参を?」
「私はただ楽しみたかっただけですからね〜〜
充分楽しませてもらいましたから〜もういいんですよ〜〜」
エルフ族は器が大きいのかな、などと呑気に考えていると、突然後ろから声をかけられた。
「主殿」
「リョウさん」
「リョウ」
聞き覚えのある声にリョウが笑顔で振り返ると、そこにはやはりリズ、レナ、ミーヤの三人が立っていた。
そしてリョウの笑みは凍りついた。
天使のような笑みを浮かべながら、悪魔のような濃い殺気を放ち続けている、三人の美女、美少女を前に、リョウはこれまでにないほどの冷や汗を流す。
本能が逃げろと告げてきて、脊髄反射でリョウは逃走を試みる。
しかし…………
「ミーヤ」
リズが名を呼び、
「はい!」
とミーヤがリョウの前に回り込む。
ここは廊下のような場所だったため前後にしか移動することができない。
前と後ろが封鎖されている今、命は風前の灯だ。
リョウは未だかつてない死の恐怖に歯をガクガクとうちならす。
未だ三人の笑みは全く崩れていない。
ただ目が全く笑っていないが……
(なんでおれがこんなめに)
と泣きそうになりつつも、アハハハハと空笑いを続ける。
それにウフフフフと笑いで答えながら三人は距離を詰めて来る。
リョウはアリシアに視線で救助を求める。
しかし、アリシアは何を勘違いしたのか、うん、と大きく頷いてこちらを楽しそうに見ている。
(万策尽きたか………)
今なら死刑執行前の死刑囚の気持ちが分かるかも知れないと思いながら、迫り来る悪魔に身を委ねるリョウだった。
数時間後
「ごめんなさい。ごめんなさい。すみませんでした。申しわけありません。許してください。ごめんなさい。悪気はなかったんです。ほんとうです。ごめんなさい。ごめんなさい。生きててごめんなさい。ごめんなさい。ごめn・・・・・」
リョウは虚ろな目で時折物音にビクッとふるえながらひたすら謝り続ける機械と化していた。
リズ達がちょっとやりすぎたかもと思ったのは言うまでもない。
次回
エリアVSレナ
エリアの謎は分かるのか。
レナは勝つことができるのか。
そして、リョウは元に戻ることができるのか………
では
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