武闘大会−ネルVS仮面の男−
武闘大会準々決勝。それはエリア・デル・ライトリードの圧勝で幕を開けた。
エリアはこれまで一度もダメージを受けていない。
まさに一方的な試合をしつづけているのだ。
そしてレナも準々決勝を通過した。
相手は大柄の斧使いの男だったが魔法と剣技を巧みに使い勝利を収めた。
レナはいまだ暗殺魔法どころか闇属性魔法を使っていない。
これがこれまでの試合の結果だ。
何はともあれこれで準決勝一回戦はエリアVSレナと組み合わせになった。
そして、準決勝のもう一つのカードが今から決まる。
仮面の男かネル、どちらかが準決勝へ進出する。
リョウが試合に勝った場合このどちらかと戦うことになるのだ。
リョウは仮面の男を見据える。
あの男からはさっきからよくわからないが、かなり強大なな力を感じる。
そして仮面の男を見ていると何故か心が疼く。
もちろん恋でもリョウにホモっ気があるのではない。
心と言うよりも魂と言ったほうがいいほど自分の奥底から起こる謎の疼き。
自分の何かと共鳴しているような疼き。
リョウは冷えた目で仮面の男を見つめる。
その瞬間、仮面と目が合い、仮面のせいで顔は見えなかったが、頬が微かに動いた気がした。
そして武闘大会 第三試合仮面の男VSネルの始まりを告げるブザーが高らかに鳴り響く。
ネルはロングソードを正眼に構えていた。
対戦相手である仮面の男の試合はこれまで何度か見たが、全く安心できない。
逆に言いようのない不安感に全身が支配されそうだった。
こいつには戦術と呼ばれうる物が何一つ存在していない。
戦術のある相手ならばいくらでも対処はきく、しかし、こいつは全てを己の実力、戦略も何もない純粋な実力だけで戦い勝ち進んでいる。
そんなやつにどうやって勝てばいいのだろう。
本能がこいつには勝てない。逃げろ、降参しろ。としつこく警告してくる。
だがここで下がるわけにはいかない。
この試合に勝てば念願のリョウとの試合が待っているのだ。
簡単に負けるわけにはいかない。
むしろ勝ってやる、とネルは怯える本能を必死に理性で奮い立たし、剣を構えなおす。
一方、仮面の男は毎度同じように何も武器らしきものは持たず、両腕をだらしなく下げている。
その完全にこちらをなめているような態度を見て、一瞬イラッとするもすぐに心を落ち着かせる。
よく見てみるとそのようなだらし無い姿なのにもかかわらず一切隙が生じていない。
ネルの全身に緊張が走る。
空気が変わったことで、観客にも緊張が走り当たりを沈黙が支配した。
そして、
−−−−−−−ブザーが鳴り響いた。
普通ならばここでする行動は二つの内どちらか。
一つ目は距離を詰める。
近接タイプであればこちらだろう。
そしてもう一つは魔法による遠距離攻撃をするために詠唱の開始だ。
魔法タイプであればこっちだ。
しかし、ネルの行動はどちらでもなかった。
ネルはその場で剣を三度振ったのだ。
剣は紛れも無い近接武器。
間合いに入らなければ意味をなさない。
だがネルは剣を振り、空を切る。
その瞬間、剣から風の刃が仮面に向かって放たれる。
ネルの剣はただの剣ではない。
風属性の下位魔法を付加させた魔剣だ。
よってこの剣に間合いは存在しない。
発動条件は剣を強く振ること。
三の刃が仮面に向かって飛んでいく。
そしてそれを追うようにネルが駆け出す。
仮面は三の刃を巧みに避けていく。
かわしずらい位置に放ったはずが、体勢も崩すことなくいとも簡単によけられたことに軽く舌打ちをしながら、ネルは魔法の詠唱をはじめる。
「祖は風、かの者をはじきとばせ《ウィンドキャノン》」
風が巨大な弾丸のようにいくつも打ち出される。
仮面は避けられないと判断したのか、大きく上方に飛び上がる。
しかしこれはネルにとって都合の良いものだった。
ここまでの戦いで分かったように、ネルの得意属性は風。
そして空中は風が最も力を発揮できる場所だ。
ネルのホームグラウンドといってもいいくらいに。
再び《ウィンドキャノン》を打ち、さらに魔剣によって《ウィンドカッター》も飛ばす。
空中という自由に動けず、回避もままならない仮面に、風の弾丸と刃が襲い掛かる。
そしてそのまま仮面に直撃したかと思われた。
しかし、爆発の煙りから出てきた仮面には傷一つない。
そのまま仮面は着地する。
ネルは動揺した。
すぐに気持ちを落ち着ける。この状況、有利なのはこっちだ。
逃がさないようにすかさず魔法を放つ。
「祖は嵐、かの者を微塵に変えろ《ストームカッター》」
嵐属性は風の派生属性。
そして《ストームカッター》は《ウィンドカッター》の数倍の威力とスピード、量がある。
無数の風の刃が嵐のように仮面に迫る。
しかし仮面は回避行動をとろうとしない。
いくら、着地直後の不安定な体勢の時に撃ち込んだといったって仮面の実力を見るに、今から回避行動をとればよけることは難しくないはずだ。
すると、仮面は奇妙な行動をとった。
しゃがんだのだ。
しゃがんだ姿勢はあきらかに行動を阻害する。
風系統の強みはスピードであり、行動を阻害している状態で全部かわすなど無理だ。
逆にその体勢だとかわすどころか、全弾当たったとしてもおかしくはない。
しかし、嵐のような無数の風の刃が仮面に届くことはなかった。
突然仮面の前に巨大の岩の壁ができ、刃は全てその壁によって防がれたのだ。
「!!!」
ネルは虚をつかれ、硬直してしまう。
そして硬直によって対処が遅れてしまった。
突如飛んできたナイフのようなものによって右肩が軽く裂かれる。
血が当たりに飛び散り、
「ぐっ!」
ネルの口からうめき声がもれる。
体勢を崩したまま苦し紛れに、《ウィンドカッター》をいくつかはなつ。
しかし、狙いが定まらず仮面はなんなくかわす。
再びネルに何かが飛来する。
右肩を押さえながらも、今度はなんとか全てよけることができた。
そして、飛来してきたものの正体をつかもうとする。
それは先端が鋭くとがっている土でできた物体だった。
土系統の魔法かとネルは判断する。
詠唱がなかったところから見るに恐らく下位魔法。
そこまでの威力はないはずだ。
だったら風魔法で障壁を作りながら距離を詰めれる。
多少リスクは伴うがやはり遠距離戦は性に合わない。
ネルが駆けだそうとした瞬間仮面がまたもや妙な動きをした。
再びしゃがみ、地面に右手をつく。
そして、ゆっくりと地面から手を上げる動作をする。
あたかも何かを地面から引きずり出すかのように。
次の瞬間仮面の右手に土が集まり何かを構成していく。
その様子は本当に地面から何かを取り出しているようだった。
仮面はそのまま立ち上がる。
その右手にはロングソードが握られていた。
「何をしたんだ」
リョウは仮面の奇妙な行動に疑問符を浮かべ問い掛ける。
それに答えたのはレナだった。
「あれはたぶん構成魔法だと思います」
「構成魔法?」
「はい。
それぞれの属性には専用の魔法があります。
例えば、火系統であれば爆発魔法、風属性であれば切断魔法。
私の暗殺魔法も同じ、闇属性の専用魔法です。
そして土系統の専用魔法が構成魔法なんです」
「なるほど
でもネルのやつ結構驚いてるみたいだけど、そんなにすごいことなのか??なんだか簡単そうに見えるんだが」
「まぁ確かにリョウさんから見れば簡単かもしれません。
でも上級属性を抜いた基本属性火・水・雷・風・土のなかで最も難しいのが土系統なんです。
専用魔法を使えるということはその属性を完璧に使いこなせているという証拠です。
ただでさえ扱いずらい土系統を専用魔法まで使えるなんてかなりの魔力コントロールが必要になるんです」
「でもだからといって土系統はそこまで攻撃に向く魔法じゃありませんよ」
そこでリョウの横の席に座るミーヤが付け足した。
ちなみに席順は右からミーヤ、リョウ、レナ、リズとなっている。
最初はリズ、リョウ、レナ、ミーヤの順で座るはずだったのがミーヤがリョウの隣に志願したのだ。
それもすごい勢いで。
リョウは別に誰の隣でもよかったので快く承認した。
よってリズはリョウの隣から外され、今かなりの不機嫌オーラを放ちながらブスッと黙っている。
リョウは何か声をかけようと思ったが、直感がやめろと言うのでリズには触れなかった。
まさに触らぬ神に祟りなしだ。
リョウはミーヤを向いて尋ねる。
「威力とかの問題か?」
「いえ、確かにそれもありますが、そもそも土系統自体が攻撃に向いていないんです。
どちらかというと生活向きってかんじなんです。
専用魔法が使えると言うのはその属性を極めている証拠。
でも攻撃のためにわざわざ難しいしリターンも少ない土系統を極める人なんて普通いません。
だから驚いたというのもあると思います」
リョウはなるほどと言うように頷き、仮面を見る。
しかし心のどこかでリョウは違和感を感じていた。
あれは本当に構成魔法なのか、と
本当にそんな生易しいものなのか、と
根拠は全くない。
さっきは簡単そうだと思ったくらいだ。
だが、何故かリョウの頭には違和感が残る。
自分の中に眠る神のごとき力が何かに反応しているような感覚が………
ネルは動揺した。
めったに見ることのない構成魔法に心を乱してしまった。
しかしそれも一瞬のこと。
次の瞬間には再び集中力を高めていた。
土系統は攻撃には向いていない。
そう。恐れることは何もないのだ。
ネルは地面を蹴る。
かなりの数の土の刃が飛んでくるが風の障壁によって勢いを殺し、遅くなったところを冷静に致命弾だけを剣でたたき落とす。
仮面も飛び道具だけでは無理だと思ったのか、剣を構える。
ネルと仮面が交錯し剣がぶつかる。
その瞬間仮面を包むローブの肩の部分が少し切れる。
仮面は少し驚いたように体をビクッと動かす。
それはそうだ。
受け止めたはずなのに自分が攻撃を受けているのだから。
ネルの魔剣は遠距離攻撃を可能にするためだけではない。
発動条件は剣を強く振ること。
すると任意の方向に風の刃が放たれる。
この剣が本当に恐ろしいのは接近戦だ。
剣を防いでも剣から放たれる風の刃を防ぐことができない。
要するに、この魔剣には受け止めるという防御方法が通用しないのだ。
ガジルのが防御をも可能にする万能型の攻撃型魔剣だったのに対して、ネルは防御を微塵も考えない攻撃特化型魔剣だ。
ただ貫通攻撃を与えるのはかなり難しい。
鍵は強く振るという曖昧な発動条件だ。
強さの設定をして、後は風刃を生み出したい時と出したくない時とで、強さの加減を行う。
本来ならば不可能だ。
人がコンピュータのように精密に動けるはずがない。
しかし、ネルはそれを血の滲むような努力によって可能にした。
この微妙な力の加減を操るということに特化させた。
それは何万回にも及ぶ反復練習によって得た力。努力の結晶。
冒険者としてそこまで優れた才能を持たなかったネルをB+ランクまであげ、さらには武闘大会の準々決勝まで進めたもの。
それは努力に他ならなかった。
そしてそれこそがネルの最大の武器であり、技術であり、強さだ。
仮面の土の剣とネルの魔剣が何度もぶつかり合う。
驚くべきは仮面の男の適応能力。
一太刀目から防御がさして意味をなさないという結論に至り、受け止めるではなく弾くにきり変えたのだ。
これではネルの狙いが定められない。
風刃は仮面には当たらず、すれすれのところを通っていく。
少しでも弾く方向を間違えれば、風刃が当たるこの状況で微塵の迷いもなく、対処しきる精神力は並じゃない。
一体どれほどの場数を踏めばこうなれるのかというほどだった。
ネルの顔にだんだんと焦りが見えはじめる。
そして14度目の衝動をしようと剣を振りかぶった時、つい攻撃が大振りになってしまった。
その瞬間を仮面は見逃さなかった。
剣を下から振り上げネルの剣を思い切り弾く。
ネルがまずいと思った時には既に時遅く、剣はネルの手から離れていった。
仮面の剣が迫る。
とっさに足元に風の塊をぶつけ、その反動で自らを後ろに飛ばす。
この一瞬の判断で戦闘不能になるほどの傷をおうことは回避できた。
ただ完全には回避できず浅く切られてしまい、さらに地面にすごい勢いで転がったことで、全身傷だらけだったが。
すぐさま風を使って剣を手元に引き寄せる。
この時、ネルは思っていた。
格が違いすぎる、と
おそらく仮面は全く力をだしていない。
それが余裕なのか、なんらかの事情があるのかは知らないが。
(だが僥倖だ。
あいつがなんで力を使わないかなんて知ったこっちゃねー
ただ力を使わなかったことを……………後悔させてやんよ!!)
「ぉぉぉぉおおおおお!!!」
ネルは雄叫びをあげ、大量の魔力を練りながら地をかける。
飛来してくる大量の土の刃には目もくれずひたすら距離を詰め続ける。
そして練られた大量の魔力は魔剣へと注がれていく。
剣が風を帯びる。
それは魔剣とは違い、魔法を剣に纏わせる高等技術。
≪纏い≫だった。
≪纏い≫を行うには大量の魔力が必要だが、その攻撃力は上位攻撃魔法に匹敵する。
ついに仮面との距離が詰まり、ネルは剣を振り上げながら叫ぶ。
「祖は嵐、絶対的な神風は全てを消し飛ばす!!
《ストームオーバーバースト》ォォオオ!!」
必殺の暴風が零距離から放たれる。
ネルの全残存魔力を使った正真正銘全力の一撃。
しかし、それは仮面が右手を払うことで呆気なく消滅した……………
魔力の枯渇により薄れゆく意識の中、ネルは信じられないという顔をする。
そして呟く。
…………嘘だろ?、と
直後ネルは腹部に強い衝撃を受け、意識を失った。
どうも、テストが間近に迫り半泣きの作者です。
今日これを投下する時にこの小説の目次を見てみたんですよ。
たいして意味はなく気のおもむくままに。
そしたら気付いたんです。
読者の方々の中にも思っている人がいるかもしれません。
武闘大会編長すぎじゃね?
確かにそうなんです。今日見て自分でもびっくりしました。
でも武闘大会編が長くなったのには二つ理由があります。
一つは私がバトルシーンをいっぱい書きたいから。
もう一つはこの後の話を進めていく上で結構重要なんです。
章のタイトルが出会いというように、今まで出てきた人(モブキャラは除く)は全員関わってくるからです。
まぁ比率的には前と後が7対3くらいです。
なんだよ。偉そうなこと言っといてバトルシーン書きたいだけじゃねーかといいたい気持ちもあると思いますが許してください(T-T)
話は変わりますがもう一つお話が、
これまで結構いろんな用語を出してきたのですが「設定」みたいな感じでまとめたほうがいいでしょうか?
ご意見お待ちしております。
次回
試合のあとからです。
リョウの試合もあります!
では、
感想・評価・アドバイス・質問お待ちしております。




