武闘大会−二回戦、VSライアン−
お待たせしました
武闘大会本選の二回戦、すでに7試合が終わった。
エリア、レナ、ネル、仮面は皆準々決勝へと駒を進めている。
そして二回戦最終試合、リョウが対戦するのは公国最強の騎士ライアン・ドラ・バシュリエド。
公国の騎士王という二つ名を持つ男だ。
「君がリョウ君か、はじめまして」
「え?は、はい。どうも。はじめまして」
「君の事は聞いているよ。
なんでも姫の命の恩人だとか」
「それはどうも。
でも、賊は逃がしましたけどね」
「うむ。それは残念だが、相当のてだれだったのだろう?」
「まぁはい。悔しいですけど」、
「ならしょうがない。次までにそいつを捕まえられるように強くなればいいだけだし、姫を守ってくれたことには変わりないんだからね」
楽観的なのかポジティブなのか。
リョウにはいまいち判断がつかなかった。
「でも姫の恩人だからといって手加減する気はないよ。
僕もいろいろ国から言われてるんでね」
「俺もそのつもりですよ」
「うむ。ではお互いベストを尽くしてがんばろうか」
「そうですね」
『ついに二回戦もラストとなりました。
公国の騎士王とも呼ばれるリシュテイン公国が誇る、最強の騎士ライアン・ドラ・バシュリエド。
対するは、今回初出場、絶対的な力で数多の選手をたおしてきた今大会のダークホースの一人、リョウ選手です。
リョウ選手は騎士王相手にどう戦うのでしょうか。
それでは参ります』
ライアンは腰の剣に手を添える。
その瞬間、ライアンの目がこれまでの穏やかな目ではなく、鋭く冷たいものになった気がした。
『二回戦第八試合……………開始!!』
突然、ライアンの姿が薄くなった気がした。
リョウは嫌な予感がし、とっさに腰からナイフを抜き、前に掲げる。
次の瞬間、リョウをかなりの衝撃が襲った。
衝撃を殺しきれず後ろに吹っ飛ぶ。
衝撃の犯人はたった数秒でリョウとの距離を縮めたライアンによる斬撃だった。
薄くなったというのは残像だったらしい。
残像を残す程の速さということだ。
なにも予備動作のなかった攻撃に内心かなり動揺しつつも、太刀を抜かねば負けると判断する。
リョウはライアンの斬撃の勢いで後ろに吹っ飛びながら、それを利用し左手で炎弾を放ち、太刀を抜く時間を稼ぐ。
しかし、ライアンはそれをかわすでも防ぐでもなく、気?オーラ?のようなものを全身に纏い、リョウに肉薄する。
炎弾はライアンにあたる。
だが、何故か炎弾が弾かれる。
攻撃はライアンには届かない。
剣を振りかぶり、どんどん距離を詰め続ける。
ついにリョウとの距離がゼロになり、剣がリョウに振り下ろされる。
「魔導歩法、爆流《兜割り》」
リョウは間一髪抜いた太刀を額の上に掲げ、両手で支え腹で受け止める。
想像を絶する衝撃によりリョウの立つ地面が大きく陥没する。
腕が少し痺れているのを感じながら、左手でナイフを抜き、水平に切り付ける。
しかし、その時にはすでにライアンの体はリョウから3メートルほど離れたところにあった。
これがライアンを騎士王たらしめているもの、その名も、≪魔導歩法≫。
ライアンの上級魔術師に匹敵するほどの魔力量を全て剣士として注ぎ込んだ結果だ。
≪魔導歩法≫には二種類ある。
静流と爆流。
静流は静の歩法。
体を地面からほんの少し浮かせることで、地面との抵抗を無くし、滑るように移動するというもの。
人間は行動する時、必ず予備動作をする。
筋肉の収縮だったり、重心の移動だったりだ。
しかし、静流はその予備動作を必要としない。
よって相手は常にこちらが動いてから反応することになる。
つまりこちらが常に先手を取れる。
優位に立てるということだ。
そして今のようにスピードがほぼ互角の場合それは絶対的なアドバンテージとなる。
ほんのコンマ何秒かの差が勝負の命運を握る、そういう世界の話なのだ。
最初にリョウに放った技は、魔導歩法、静流《居合い》。
加速したスピードを乗せて居合いの要領で剣を振るう技だ。
単純だが、単純だからこそ一発にこめられた威力は計り知れない。
リョウはふっとばされたもののナイフごときで受け止められたのはほとんど奇跡だ。
運が悪ければナイフは折れ、リョウの体は分断されていただろう。
しかし、静流にも弱点がある。
それはカウンターだ。
静流発動中は直線的な動きしかできず、無理な方向転換が難しい。
無理に行えば重大な怪我を負うことになるだろう。
リョウの≪破壊≫があれば実現可能だが、ライアンにはそんなものはない。
静流ではカウンターを防げない。
一発でも喰らえば自分のスピードと相まって逆にこちらがノックアウトされてしまう。
そこでできたのが、もう一つの≪魔導歩法≫、爆流だ。
これは体全身に強力な魔力プロテクトを纏いながら移動するもの。
下位魔法程度であれば問題なく、びくともしない。
だから攻撃を恐れず相手に向かって行ける。
カウンターの問題はこの爆流とを交互に使うことで克服された。
静流で相手まで接近、そのままいけるのであれば攻撃。カウンターの恐れがあったら爆流に変え、特攻。
まさに鬼神のごとき戦い方だ。
リョウはライアンを見据える。
同じくライアンもリョウを見据える。
そこには先ほどまでの温かな雰囲気は微塵もない。
あるのは冷徹な殺気だけだ。
(剣を持ったら、人が変わるタイプか………いや、もしかしたらこっちが本物なのかも)
リョウは心の中でそう考えていた。
「兜割りを受け止めるか」
ついにライアンが口を開く。
その声にも先程までの穏やかさはない。
「まぁな」
リョウはまだ多少痺れがのこる腕を握りながら答える。
「ふっならば本気でいっても問題はないのだろう?」
「どうだかな」
ライアンは冷たい笑みを浮かべ、消えた。
「くっ!!
またさっきのやつか!」
リョウはライアンの姿を探すが、すでにライアンはリョウの目と鼻の先まで来ていた。
「魔導歩法、静流《八突き》」
八連続の超速の突きがリョウを襲う。
リョウは初撃をかろうじてよけるも、最終的に二発かすってしまう。
右肩と左脇腹、二カ所から少量の血が流れる。
リョウは最後の突きを避け、すぐに太刀で切り付ける。
しかし、その時にはすでにライアンの体はリョウの間合いの外にでていた。
リョウはすぐさま左手から炎弾、水弾、雷弾など多種な魔法をぶつける。
しかし、静流から爆流にチェンジしたライアンには傷一つ付けられない。
リョウの額から汗がこぼれる。
(たぶん。あれは下位魔法程度じゃ破ることはできないな。とするとやっぱり中位以上か………)
「炎龍!」
炎の龍がライアンの前に出現する。
ライアンは一瞬驚いたような表情を作るが、それもすぐに消え、剣を握りなおす。
目はまっすぐ炎龍を見つめている。
そして炎龍がぶつかるその瞬間、セイッという気合いの声とともに一閃、炎龍を一刀両断した。
(なに!?
炎龍を切っただと!)
リョウ驚くが、すぐに笑みを浮かべる。
(でも…………)
「ビンゴ!!」
今、ライアンは炎龍を切った。
それは魔力の鎧で受け止められないということ。
要するに、中位魔法からはライアンに届く、リョウの予想は見事的中したのだ。
かと言って、ひたすら中位魔法を打ち続けるわけにはいかない。
ライアンも今のリョウの中位魔法を見て対策を考えているはずである。
甘く見積もって有効打を与えられるのは三回というところだろう。
それまでにライアンを倒さねばならない。
リョウは剣獣の森で味わっていた緊張感を再び味わい、軽く心を踊らせる。
リョウは太刀を握りなおしライアンへと駆ける。
−−−Side リズ−−−−
あやつ、かなり強いの。
我は主殿の相手、騎士の男に対してそう呟いていた。
主殿はまだ本気をだしていない。
というか、本気をだしたらこんな闘技場なぞ一瞬で灰と化すだろう。
「リョウさん勝てるでしょうか」
となりのレナがそう呟く。
「まず無理じゃな
今のままでは」
「今のまま?」
「ああ、そうじゃ。
主殿はいろいろと力を抑えているからの」
「それじゃあリョウさんは………」
「普通に考えれば負けるじゃろう」
そこでニヤリと笑い、疑問符を浮かべるレナに言う。
「《あれ》を使えばどうなるかわからんがな」
我を一瞬で倒した《あれ》ならきっと勝てるじゃろう。
じゃが、主殿が《あれ》を使うかどうかはわからないが…………
そんなことを考えながら、ライアンに向かって行こうとしている主殿を見遣る…………。
−−−Side Out−−−−
リョウはこちらから攻めるという方法をとった。
いつまでも受け身では相手の思う壷だ。
リョウは右足で思い切り地面を蹴り、ライアンへと迫る。
まずは太刀で横に一閃。
しかし、ライアンの剣にたやすく防がれてしまう。
リョウはくるりと回しげりをはなつ。
ライアンは静流を発動し、一瞬で距離をとる。
リョウは尚も左手から炎弾などの魔法を放ちながら距離を縮めていく。
ライアンも爆流に変え、魔法を弾きながらリョウとの距離を縮める。
再び太刀と剣がぶつかり合い火花を散らす。
何度かの切り合いをしたあと、互いに後ろに下がり距離をとる。
(《あれ》を使うわけにはいかないし、近距離戦は歩がわるいな
かといって上位以上を使うわけにはいかない、遠距離から中位以下の魔法で仕留めるしかないか)
「炎龍!水龍!」
リョウの左右に二体の龍が出現する。
「いけ!!」
二体の龍はうねりながらライアンへと向かっていく。
しかし、ライアンにさっきと同じように真っ二つにされる。
だが、リョウの狙いはそれではない。
スチームバースト
「《水蒸気爆発》」
ライアンを爆風が包む。
いくらライアンの爆流が魔法を防ぐといっても、スチームバーストは中位魔法レベル、爆流では防ぎきれない。
爆風で巻き起こった砂嵐が晴れる。
そこには多少かすり傷を負っているものの、問題無く立つライアンがいた。
ライアンは爆発が起こる寸前静流で後ろに下がり、爆流で防御したのだ。
爆発系の魔法はかなり威力が高く、中位魔法以上が多い。
しかし、中位魔法以上の攻撃力をほこるのは直撃した場合であり、直撃から少し離れたところでは下位魔法程度の力しかないのだ。
よって直撃さえ免れれば無傷でなくとも戦闘不能になることはない。
「マジかよ………」
リョウは思わず呟いてしまう。
これを防がれたらあとはもう《あれ》しかない。
こんな早く使うことになるとはな、とリョウは苦笑する。
「どうした。
全ての手が封じられて諦めたか?」
ライアンは笑っているリョウをいぶかしげに見る。
「いや、違うよ。
ただそろそろ終わらせようと思ってね」
「ふっ、それはいい考えだ。
私もちょうどこの一太刀で終わらせようと思っていたところだ」
ライアンは剣を正眼に構える。
リョウは太刀を右側に倒し、前傾姿勢になる。
二人が動きを止め、あたりを静寂が包み込む。
刹那、ライアンが恐ろしいスピードでリョウへと向かう。
「魔導歩法、静流、奥義《百花繚乱》!!」
魔力のアシストを受けての目にも止まらぬ無数の斬撃がリョウに迫る。
アクセルアイ
「《加速眼》!!」
ライアンは一瞬リョウの目が金色に光るのを見た。
次の瞬間、ライアンの体は強い衝撃を受ける。
しばしの硬直の後、リョウの太刀に峰打ちを決められたライアンは崩れ落ちた。
ついにライアン戦です。
いかがだったでしょうか。
次回
加速眼の説明。
そして、ネルVS仮面の男です。
では、
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