武闘大会−閑話−
「それにしても昨日はすごかったな」
「そうか?」
とリョウはすました顔で言う。
「そうですよ。
まさか負けるとは思いませんでした。
ほんとびっくりしましたよ」
猫耳と尻尾を持つ少女、ミーヤは嬉しそうな顔で言う。
今日は予選決勝の一日後。
本選の前の休みの日。
リョウ、リズ、レナ、ネル、マルタ、ゼス、ガジルのいつもの面子と、新たにミーヤを加えた7人で集まっている。
ちなみに本選に出場できたのは、リョウ、レナ、ネル、マルタ、ミーヤだ。
ゼスは準決勝で負けてしまったらしい。
ところで、何故、ここにミーヤがいるのか。
それを説明するためには予選決勝後まで遡らなければならない。
『Cブロック決勝
リョウVSミーヤ
勝者、リョウ!!』
それが聞こえた瞬間、リョウは地面にへたりこんでいた。
少しの間体力回復につとめていると、ミーヤが目を覚ましたようでこちらに歩いてきた。
そして口を開く。
「さっきはすみませんでした」
開口一番、謝罪だった。
「はい??」
リョウは予期していなかった言葉に間抜けな声をだしてしまう。
「あなたにいろいろ酷いことを言ってしまいましたので。
舐めていたのは私の方だったみたいです。
本当にすみませんでした」
「いや、大丈夫だよ。
俺もちょっと舐めてたのは事実だし」
言った瞬間リョウは地雷を踏んだかと後悔したが、ミーヤはどうやら気にしなかったらしい。
「じゃあ、おあいこですね」
そう言ってミーヤはニッコリと笑う。
リョウはたじろいだ。
試合前と雰囲気が違いすぎるのだ。
そこにはあの刺すような殺気はどこえやら、天使のような笑みを浮かべた美少女が降臨していた。
「…………」
「………」
しばし、無言の空間が生まれる。
堪えられないとばかりにリョウは話し掛ける。
「あ、あのさ」
「はい」
「大丈夫?体とか……」
一応最後軽く力を抑えたとはいえ、直撃したのだ。
大丈夫なわけないだろ、とリョウは自分に怒鳴り付けるが、ミーヤの返答はまたしてもリョウの予期していなかったものだった。
「はい。もう大丈夫です。
獣人族は回復スピードも速いんですよ」
確かに、ミーヤの体にはもうほとんど傷という傷はなかった。
スゲーとリョウは称賛の声をあげる。
「あなたこそ本当に人間なんですか?
最後のやつ、まさか受け止められるとは思いませんでした」
ミーヤは落ち込み半分、喜び半分という顔でリョウを見る。
リョウは気になった。
さっきから顔に喜びが滲んでいるのがどうしてなのか、と。
後で聞いたところによると、ミーヤは獣人族の中ではかなり強い方で、未だ体術では負けたことがなかったらしい。
さらに獣化の才では猫人族の中でも五本の指に入るほどだそうだ。
しかし、獣化はめったなことがなければ使用することはできない。
強すぎるため、相手を殺してしまうからだ。
だからミーヤは強者を求めていた。
自分が全力で戦うことのできる相手を探していた。
そしてリョウによってその願いは果たされた。
自分が全力で戦っても足元にも及ばない絶対的な力を目の当たりにした。
落ち込みはするが、憎く感じることはなかった。
リョウは最初、ミーヤに対してぎくしゃくしていたが、次第に打ち解けていった。
ある程度仲良くなったところで、リョウはリズ達を紹介するため、ミーヤをこの場に呼んだのだった。
「ミーヤ、お前一回戦から≪千光≫とあたるぞ」
本選のトーナメント表を見ていたガジルが苦い顔で言う。
≪千光≫、エリア・デル・ライトリードは予選Aブロックを一位で通過していた。
ミーヤは確かに強いが、エリアの強さは未知数。
四帝に最も近いと言われているくらいだ。
実力は相当なものだろう。
千光はこれは意外、武闘大会には今回初出場らしい。
だから、誰がいったか≪千光≫という名の由来もよくわからない。
優勝候補間違いなしだろう。
そして、注意すべきはもう一人。
ゼスを簡単に破った仮面の男だ。
名前は匿名ということであかされていない。
なんとも胡散臭く、怪しい話だ。
しかし、ゼスが言うにその仮面の男は相当に強く、リョウと同じく未だに体術しか使っていないらしい。
そして、リシュテイン公国の枠で近衛団長、ライアン
他にも、強い奴はたくさんいるがとりあえずこの三人が要注意人物だろう。
ちなみに近衛団長はマルタの一回戦の相手でもある。
「リョウ、俺の分まで荒らしてこい」
ガジルが笑いながら言う。
「ああ、もちろん。
でるからには優勝するつもりでいくぜ」
リョウは決意を新たにする。
それにならい、
何故か全員が決意表明することとなった。
絶対勝ちます。リョウさんにリベンジしてみせます、とレナ
俺もそうだなリョウと戦うまでは負けられねーな、とネル
まぁがんばるよ、とマルタ
千光は強いだろうけど絶対勝ちます、とミーヤ
情報交換会という名の宴会は夜遅くまで続いた。
−−−Side エリア−−−
「やはり来たか」
私は明日行われる武闘大会本選のトーナメント表を見て、そう呟いていた。
私の拳を片手で受け止めたあの少年、リョウは案の定、本選へと駒を進めていた。
トーナメント表によるとあいつと戦えるのは決勝だ。
これ以上面白いことはない。
優勝をかけてあいつと戦うのだ。
私は自分が戦闘狂だとは思っていない。
だが、あいつと出会ってから戦いたくて体がうずうずしているのだ。
それを考えると自分は戦闘狂なのではないかとちょっと落ち込む。
予選で戦った程度のやつらではこのうずきを抑えることはできなかった。
抑えることができるのは恐らくあいつだけだ。
私は伏せた顔に黒い笑みを浮かべていた。
−−−Side Out−−−−
−Side セフィーリア−−
やはり彼は来てしまった。
彼はまだ気付いていない。
武闘大会がどのようなものなのかを
武闘大会はこのユストラシア大陸最強を決める大会だ。
まぁ四帝を抜いてだが
ようするにそこで優秀な成績を修めれば言わずもがな多くの国が注目するだろう。
彼のことだ、もしかしたら優勝してしまうかもしれない。
そうしたら、大国同士で彼の取り合いになるだろう。
確かに彼がこの国に入ってくれれば、私としてはこれ以上嬉しいことはない。
しかし、もし彼がどの国の誘いも断ったら(そうする気がする)、彼に平安は二度と訪れないだろう。
いつ敵になるか分からない強大な力を持ったやつを野放しにはしておけない。
きっと暗部が動く。
ようするに暗殺だ。
彼は私の命の恩人
彼がいなければ私は死んでいた。
だから、今度はこっちの番だ。
彼を死なせる訳にはいかない。
たとえ、断られたとしても私は絶対に彼の味方であり続けよう。
これでも私は第一王女、これまで私は自分の今の地位にいい感情をもっていはなかった。
常に他人より優遇されるてしまう。
孤独だった。
私は普通が良かったのだ。
普通に友達ができ、一緒に遊ぶような日常が欲しかった。
しかし、今この時はこの地位についていることが何よりも嬉しかった。
権力とは何もしなければ宝の持ち腐れ。
まさに振るうためにあるのだ。
何も、純粋な戦闘力だけが力じゃない。
私は戦闘面では彼の助けになることはできても、守ることはできないだろう。
だったら私なりの、私だけの力で彼を守ろう。
私は夜空に輝く満天の星に向かってそう決意した。
−−−Side Out−−−−
−−Side レイラ−−−
私は、滞在している部屋の一室でトーナメント表を見ながら、笑っていた。
あやつはやはり本選まできたか。
あやつ、リョウは予選を一位通過で本選に進んでいる。
私は昨日のCブロック決勝を見て、リョウの力は本物だと確信した。
あの戦闘は今から思い出してもワクワクする、ホントに目を離せないものだった。
次は何を見せてくれるのだろうか、そう思うだけで私の胸は期待で膨らむ。
ん?今小声で膨らまないだろとかいったやつはだれじゃ!
絞首刑にするぞ!
うん?誰もいってないって?
それは悪かった。
こちらのミスだ。
……だ、だが決して私は胸の事を気にしているわけではないからな!
ほんとだぞ!
重要事項だからな!
忘れるなよ!
……………こほん。
わしは頭の中で何をやってるじゃ………
ちょっと自己嫌悪に陥りつつも開き直る。
まぁ気にせずに行こう。
そういえば何を考えてたんだっけ……
……………もうわしはダメかもしれん
ああ、そうそうあの男のことじゃった。
わしの頭もまだ捨てたもんじゃないのう。
セフィーには悪いがあやつはなんとしてでも我が国に来てもらおう。
そのための手段は選ばんぞ
「優勝して、わしの目が節穴でないことを証明してくれ」
わしは小さく笑った。
−−−Side Out−−−−
様々な思いや思惑を乗せ、武闘大会本選は幕を開ける……………
今回は比較的短いです。
次話からまた戦闘回になります。
次回
武闘大会本選一回戦
戦いの火蓋が切って落とされる。
では、
感想・評価・アドバイス・質問お待ちしております。




