武闘大会−開催−
「冒険者の皆様には力いっぱい悔いの残らないように、武闘大会を戦っていただきたいと思っています。
なので…………」
リョウは武闘大会開催式のセフィーリア王女のスピーチをだらーと聞いている。
周りにいる奴らが何故そんなにも目を輝かせながら聞いているのか不思議だった。
リョウからしてみれば学校の全校朝会の校長の挨拶のようなものだ。
騒動が終わった後、レナに聞いてみたところによると、王女はかなりの人気者らしい。
姿を見れるだけでも幸運なのに、こうしてお会いしてお声をかけていただけるなんて、と感動していた。
そんなこと知らないし、興味もないリョウはそんなもんなんかな〜と軽く考えていたが。
王女暗殺未遂があってからリョウはいろいろと聞かれたのだった。
その時の事をここに記そう。
「一体何者なんだ」
と、リョウが呟いたころ、王女の後ろに控えていた騎士が呼んだのであろう、10人の騎士が到着していた。
「セフィーリア様ご無事でしたか!」
騎士の一人(声からしておそらく女性だろう)が聞く。
「はい。別になんともありません。
そこにいる方が守ってくださいました」
セフィーリアは頬を軽く染めながらリョウを指差して言う。
「貴公が、王女を守ってくれたのか?」
騎士はいぶかしげな目で見ながら言ってきた。
「ああ。
ていうか、そこの人がそういってたじゃん」
リョウがそう言った瞬間、あたりに戦慄が走った。
心なしか、女騎士の声がだんだん低くなっていく。
「王女を守ってくれたことには礼を言う。
しかし、そこの人だと?
調子に乗るなよ。冒険者ふぜいが、セフィーリア様を見られるだけでも幸せなのに。
身の程を弁えろ」
「あん?」
女騎士の喧嘩ごしな態度にリョウの口からチンピラのような声が漏れる。
いくら、平和が好きなリョウでもここまで言われればイラッとくるだろう。
あたりに険悪な雰囲気が漂いはじめる。
「お止めなさい。ルシア
この方は私の命の恩人です。
口を慎みなさい」
「しかし、セフィーリア様
それでは…」
「ルシア」
ルシアがしゃべる途中でセフィーリアは叱るように名前を呼ぶ。
「すみませんでした」
「私にではありません。
この方に謝りなさい」
セフィーリアにそう言われたら仕方がない。
ルシアはリョウを軽く睨み付けながらごめんなさい、と謝る。
リョウもその態度に一瞬イラッとしたが、なんとか沈め、形だけの和解をする。
そこで、空気を変えるためか、男の騎士が尋ねる。
「それで、賊は?」
「逃げられました」
「人数は?」
「おそらく一人です。
あたりに人影はありませんでした」
あの後、千里眼とサーチで捜したがみつけられなかった。
「一人か…………」
「何か問題でも?」
「いや、そういうわけではない。
ご協力感謝する。
謝礼の方は後ほど」
「わかりました」
リョウが即答すると、あたりにどよめきが起こる。
さっきの女騎士なんて、すごい殺気でこちらを見ている。
普通は謝礼を断るべきなのだろうがリョウはそうしない。
謝礼、すなわち金を貰わないということは、この国に属していると捉えられるだろう。
リョウは一つの国に縛られるつもりはなかった。
騎士達は、賞賛の目ではなく、ただ値踏みするような探るような視線だけをリョウに浴びせて、帰って行った。
リョウはやっと終わったかと言わんがばかり深く息をつき、騎士達に連れられている王女の背中を見ていた。
ただ、値踏みする視線の中で、ただ一つ、チラチラと熱っぽい視線でこちらを見てくる王女が気になっていたが。
「これで私、セフィーリア・ド・リシュテインのスピーチは終了させていただきます」
リョウが昨日の事を思い出していると、いつの間にか、開催式最大のイベント…らしい王女のスピーチは終了した。
王女の話が終わり、聞く気がなくなったネルに話し掛けられる。
「そういえばリョウ、お前かなり噂になってるぞ」
「だろうね」
あれだけの事をした(いい意味で)んだ。
噂にならないわけがない。
それはある程度覚悟していたことだった。
ちなみに騎士達が去ってから、ネル達と合流し、いろいろ話をした。
予選はネルがEブロック、マルタがHブロック、ゼスがKブロック。
そしてガジルはリョウと同じCブロックだった。
「なんでも王女になんかしたんだろ」
「おいおい、その言い方だといらん誤解が生まれる。
俺は助けたんだよ」
「しってらぁ、そんなこと
ただ相当マークされるだろうからな。
気をつけろよ」
「大丈夫だよ」
「そうだな。お前だもんな。
いらん心配だったかな」
「いいや、嬉しいぜ。
心配してくれて、ありがとな」
「な、なんだよいきなり」
リョウの言葉にネルは照れる。
「ホントにネルはいいやつだよな〜
こんな最高な友達を持てて俺は幸せもんだな」
「や、やめろよ」
これまでの会話でも分かるように、ネルはかなりの照れ屋なのだ。
今も、リョウがニヤニヤ笑いながら、いかにネルが素晴らしい友であるかを力説しているのを顔を赤くしながら聞いている。
「そ、そんな事よりさ!!」
耐えきれなくなったネルが突然大声を出す。
「お前ガジルと当たるかもな」
「そうだな予選は四試合だからな、当たる確率は高いっちゃー高いか」
「俺と当たんのは本選かな」
「当たる前に負けんなよ」
「くそ、リョウてめぇ」
『これにて第8回武闘大会の開催式を終了します』
ネルがリョウに攻撃を仕掛けようか迷っていると、開催式が終了した。
「お、開催式終わったみたいだぞ。
じゃ俺はこれで」
そう言ってリョウは一目散に走り去る。
「あ、おいリョウ!
この野郎……覚えてろよ」
−side セフィーリア−−
走って、闘技場のゲートからでていく例の冒険者を見て、私は昨日の事を考えていた。
あの時、突然目の前に見知らぬ男が現れ、私はかなり驚いた。
すぐに平静を取り戻せたのが自分でも不思議なくらいだった。
謎の男の手に何か光る物が握られているのを見たとき、私は恐怖した。
いくら王女といえども、所詮は人間、差し迫った死に動じないものなどいるはずもない。
私は内心ではひどいパニックに陥っていた。
様々な疑問が頭の中を駆け巡り、頭が真っ白になっていたのだ。
あの後、騎士達にあのような状況でも毅然としていらっしゃって、本当にすごいお人だ、などと言われたが本当はそんなもんじゃない。
ただ体が固まり、動けなかっただけなのだ。
しかし、男が握る刃物は私を捕らえることはなかった。
刃物は私に向かって飛来してきた、何かを弾いたのだった。
私は、自分の身を守るためかなり鍛えられている(主に魔法面で格闘などはできないが………)。
冒険者で言えばAランク相当だと思う。
これからも分かるように、私は大抵のものからは自分の身を守れるようになっていると自負していた。
私は天狗になっていたのかもしれない。
だからあの時、混沌としていた場にも躊躇なく入ることができた。
自分の力があればあの場を抑える事など余裕だと思ったからだ。
だが、あの時は違かった。
私には何かが突然私の目の前に来た、
そして男のナイフに弾かれたということしか解らなかった。
今だ混乱している私に、ふせろ!という少年の声が鳴り響いた。
呆然としていたため、咄嗟に反応することができなかった。
何が起こるのか、そう尋ねようとした瞬間
光速の連続攻撃が私達を襲った。
幸い、近くにいた冒険者達に怪我はなかったが、その分、全ての攻撃が私に降り注いだ。
私は再び死を覚悟した。
しかし、覚悟は無駄に終わった。
少年が全ての攻撃を弾いたのだ。
まさにそれは神業と言っても過言ではなかった。
Aランク冒険者である私ですら、攻撃が来るとわかっただけで、その攻撃を視認することはできなかった。
それを、何十センチしかないナイフで弾いたのだ。
私はその(よく見てみるとまだ幼い、私よりも若いであろう)男に強い好奇心と、形容しずらい気持ちを心に生んでいた。
私が他人に興味を持つのは初めてかもしれない。
私が王女だと知るもの達は、すぐに一歩引いてしまう。
しかし、この男は私が王女だということを知らず、教えられた最初は形ばかりの敬意を見せていたが、最後には綺麗に敬意が抜け落ちて、まるで対等であるがのように接してくれた。
私は感じた。
私はこれを求めていたのではないかと。
聖女だなんだと言われ、対等どころか、話せる人もいなかった。
私は孤独だった。
だから自分が強くあろうとした。
寂しくないように、弱くならないように
しかし、今日あの男に出会い、全て崩れ去った。
私は強くなどなかった。
そして私にはまだ対等に接してくれる人がいるということ。
あの時の胸の高鳴りは決して気のせいではない。
彼のことをもっと知りたい
彼と話してみたい
一緒に戦ってみたい
願望をあげればキリがない。
だが、今は果たすことはできない。
武闘大会も始まり、この国は一番大変な時期に差し掛かっている。
やるべきことは沢山ある。
こうやって物思いにふける時間があるのが不思議なくらいだ。
だが、思うことはただ一つ、
あの姿をもっと見ていたいということだけだ。
「セフィーリア様、ガルダ王国第一王女レイラ様との会談のお時間です」
ゆるやかな時間はここまでか、と私は仕事スイッチを入れる。
「わかりました。すぐに行きましょう」
「かしこまりました」
彼と再び話す日は決してそう遠くはない。
それまでに私は、少しでも誇れる自分になろう。
私はそう思いながら部屋のドアを開けた。
−−−side out−−−−
王女がこんなにも思っているなんて露知らず、リョウは軽い足取りで繁華街をくだる。
今日は平和だな〜と感慨に耽っていると、突如
「おい。そこのお前」
という声がした。
面倒事マックスな声に、リョウは無視という選択をとる。
「…………」
「おい。そこのお前といっておるじゃろが!
無視するでない!」
恐らく女の子であろう声はどんどん大きくなっていく。
我慢の限界を超えたリョウはしぶしぶ、そちらを見る。
すると、ニヒンとばかりに笑みを浮かべる、中学生、下手したら小学生と言ってもいいような背丈の女の子が立っていた。
リョウは怖がらせないように必死に言葉を探す。
結果口を出た言葉は、
「うーん。迷子?」
だった。
自分のボキャブラリーのなさに泣きたくなるリョウ。
「迷子じゃないわ!!」
リョウを思いっ切りどつく女の子。
「迷子じゃないならなんなの?」
「っていうか、その子供に話し掛けるような言い方やめろ!」
「やめろって………
じゃあどうしたの?
俺に何か用?」
「用というわけではないがな」
「ないのかよ!!」
ついつい全力のツッコミを入れてしまう。
「お前を見てみたかったのだ」
「俺を?」
「ああ、セフィーを暗殺から守ってくれたらしいからの」
「セフィー?
っていうか君は誰なの?」
「ほう。私を知らないのか。
世界が広いのか、お前が無知なのか、どっちかのう」
「??
有名な子なの君は?」
「ハハハ、面白いやつじゃの、お前は
私はg………」
女の子が言いだした瞬間、何者かの大声がそれを遮った。
「レイラ様、ここにいらっしゃったのですか!
もうお時間です。
早くお越し下さい」
遮ったのは高齢のまさにダンディーという言葉が似合いそうな男性だった。
「わかったわかった。
わかったからそんな大きな声をだすな」
「すみませんでした」
「わかればよい。
残念だが時間のようだ。
私はこれで失礼するよ」
「え?いや、あの、え?」
「お前が私の見込み道理ならいずれまた会うだろ。
その時に私の事を教えよう。
では、またいずれな」
そう言って女の子は立ち去った。
祝、総合評価300点突破!!
これからも頑張っていくので応援よろしくお願いします。
今回の話を書いていたらなんかネルがでれました。
王女にもフラグが……
次回
ついに武闘大会がはじまります。
まずは予選です。
では、
感想・評価・アドバイス・質問お待ちしております。




