Cランク昇格試験−創造魔法−
ニヴルヘイム
「《氷結地獄》」
その瞬間、世界が氷に包まれた。
リョウが使った魔法、
創造魔法とは、リズに魔法の説明を聞いた時に特位魔法の存在を知り、それを再現しようとして作り上げた魔法だ。
まず自分が成したい最終的な場景を想像し、それに向かって≪創造≫を行使する。
結果→原因ということだ。
逆に本来の魔法は魔力を使って結果を引き起こす。
創造魔法は、原因→結果の従来の魔法とは根本的な構造、因果関係の順番からして違うのだ。
今回使ったニヴルヘイムは、まず世界が氷に包まれるという結果を作り、原因である凍結を後から付随させる。
まさに、反則級の魔法だ。
−−side ネル−−−−
俺は恐怖した。
俺が冒険者になったのはおよそ三年前、俺の家は貧乏で金を稼ぐためだった。
Fランクからのスタート、最初はたいして金を稼ぐことはできなかった。
だが俺は努力した。
どんどんクエストを重ね、F+、そしてE、E+になり、ついにB+にまで上り詰めた。
ここまでくるのに三年もかかったのだ。
最初は金のためだったが、今では冒険者であることに誇りを持っている。
だからこそ許せなかった。
冒険者になった当日にCランク昇格試験を受けることができたのが、
努力もせず、一人前の称号を与えられるチャンスを貰ったことに、
私は少年が出てきた時、襲い掛かった20人の中の一人だった。
だが、一撃を与える直前で体が動かなくなってしまった。
そしてあの少年は俺達を尻目に悠々とギルドを出ていったのだ。
その時思ったことは、少年への怒りももちろんあったが、一番大きかったのは、俺達の体が動かなくなったのは、偶然なのかということだった。
中には、運がよかったな、と罵っているやつもいた。
しかし、偶然だとは思えなかった。
だから、俺はギルド長に掛け合った。
あいつは何者なのか、と
ギルド長は答えた。
「やつが何者かは分からない。
だが、やつの力は本物だ。
お前は試験官だろ。
ちょうどいい、やつの力を見てこい」
ギルド長がこここまで言うリョウという少年に俺は興味を持った。
ギルド長の目が節穴かどうか確かめてやろうと思っていた。
鉄鋼蟹の装甲を素手で叩き割った時には思わず唖然としてしまったが、そこには未知の存在に対する恐怖は不思議となかった。
しかし、その後起こった事態に俺は心の底から恐怖した。
なまじその危険度を知っているからなおさらだ。
目の前には王獅子・大甲亀が率いる、B・Cランクの魔獣達。
このランクに来るまでいろいろなクエストを受け、様々な魔獣と戦ってきた。
だが、これ程までの魔獣を一度に相手したことはなかった。
こちらはたったの6人だ。
しかも最高ランクはB+。
勝てるわけがない。
さらに、魔獣に囲まれているせいで逃げることすらできない。
たとえ包囲網から抜け出したとしても、剣獣相手に逃げ切れる訳がない。
俺は死を覚悟した。
だが、銀髪の女の一言で恐怖は怒りに変わった。
「うむ。
我らだけで問題ないじゃろ。
他の奴は足手まといじゃ」
足手まといだと!
鉄鋼蟹を倒したくらいでいい気になるなよ、と。
冒険者になったばかりで、自分よりランクが低いやつに馬鹿にされたら誰でもキレるはずだ。
それも冒険者に誇りを持っている者ならばなおさらだ。
しかし、その思いは言葉にできなかった。
これまで、じっとしていた魔獣達が突然襲い掛かってきたのだ。
俺は差し迫った死の恐怖に思わず悲鳴を上げてしまう。
だが、突然岩のドームが俺達を覆った。
そのおかげでなんとか魔獣の攻撃を受けずにすんだ。
だが、一体誰が作ったのか。
これほどの物を作るには、膨大な魔力が必要だ。
正解はすぐにわかった。
それは少年が作ったものだった。
少なくとも中位魔法以上の魔力消費量はある。
本来ならばぶっ倒れてしまうだろう。
しかし、少年はピンピンしている。
そして少年はリズという女を連れ、ドームの外へ、魔獣を殲滅すると言って出た。
俺は頭が死の恐怖に頭がおかしくなったのかと思った。
そのくらい常軌を逸した行動だったのだ。
俺じゃなくてもそう思うはず。
たった二人、それも冒険者になったばかりの二人で、20体以上の魔獣を相手にするというのだ。
きっとすぐに死ぬだろう。
成す統べなく。
だから俺はその間に逃げる算段をたてようとした。
しかし、ドームの中に聞こえてきたのは、予想に反して、魔獣の雄叫びと断末魔の叫び声だった。
「あの人達は一体なにものなのですか!」
困惑した顔のマルタがレナに聞いた。
しかし、レナも同じような顔をしていた。
「すみません。
私にもよく分からないんです。
ただ一つだけ言えることがあります。
リョウさん達は強いです。
私たちなんかよりもずっと…
だから絶対に負けません」
レナの言葉の真意を聞こうとしたが、そう言ったのもつかの間、急激な冷気がドーム内に漂ってきた。
突然の事態に俺達4人が困惑していると、いきなり音が止んだ。
ドームの中からは外が見えない。
俺は何が起きているのか知りたかった。
「音が止んだぞ」
「…………まさか……」
俺はありえないと思った。
たった二人であの数の高ランク魔獣に勝利するなんて、と
だが、ドームが開き、目に映った景色に絶句した。
そこには無傷のリョウとリズの姿、そして切り刻まれ、氷漬けにされ、こなごなに砕け散った魔獣達の残骸があった。
「な、なんだこれは…………」
二人以外そこに生は存在しなかった。
まさにそこは氷に包まれた地獄だった…………
−−−side out−−−−
「ふー終わった〜」
「主のその魔法、久しぶりに見たが、相変わらずすごいの〜」
「そう?」
リズの感嘆の声に照れるリョウ。
そして戦闘の終了を伝えるためにドームを解除する。
ドームがなくなり、暗闇から解放され、いきなり日の光に当てられた4人は目を細めていたが、目が馴れるに連れ顔は驚愕に満ちていき、目を大きく開いていく。
「な、なんだこれは…………」
ネルが声を搾り出す。
「こんな魔法見たことない……」
マルタが目を見張る。
マルタは自分が魔法に精通していると思っていた。
しかし彼が知る魔法にこんな魔法はなかったのだ。
範囲、そして威力から考えて少なくとも上位魔法なみだ。
そんな高威力の魔法を自分が知らないわけがない、と。
リョウは悩む。
≪創造≫のことを言ったところで誰も信じないだろう。
創造魔法は、先ほど述べたように、根本的に普通の魔法とは違う。
よってこう答えることにした。
「これは俺が生み出したオリジナルの魔法です。
俺以外には使えないようになっているので構造とか聞いても無駄ですよ。
それと、できるだけ口外しないようにして下さいね」
リョウは少し凄みを利かせる。
「!!
オリジナルだと…………」
ネルが信じられないように言う。
「オリジナル魔法なんて聞いたことがない。
そんなことができるなんて……
一体どれほどの実力が……」
これまで絶句を貫いていたゼスが口を開く。
そしてゼスの一言で険しい顔でリョウを見ていたネルは態度を改めた。
対等な立場の者へと
「すまなかった。
今までいろいろ言ってしまって、助けてくれてありがとう」
ネルが穏やかな口調で言った。
「え!!」
リョウは驚く。
ネルのキャラ変わりすぎじゃね、と。
しかし、ネルがリョウに突っ掛かっていたのは、実力がないにもかかわらずCランク昇格試験を受けたと思っていたからだ。
この戦いを経てリョウの実力を認めたのだった。
その後ゼスとマルタにも謝られ、
レナには謝れと言われ。
念のためリョウはサーチを飛ばしたが魔獣の反応はなかった。
そしてようやく落ち着いたところでリョウが口を開く。
「帰りますか、ギルドに。
ルドルフさんにも報告しないと」
リョウの言葉で皆、そういえば、という顔をした。
すっかり頭から抜け落ちていたのだった。
こうして魔獣との激闘?は幕を閉じた。
馬車が氷漬けになっていて動かず、歩いてギルドまで帰ることになってしまうというアクシデントもあったが
−−−side ???−−−
「−−様、戦闘が終了したようです」
女が玉座に座っている男に言う。
男は大人というよりは青年に近い。
見た目の年は16、7ぐらいだろう。
一方女は、おそらく20代前半であろう美しい女性だった。
「うん。そのようだね。
で、結果は?」
「はい。無傷でした」
「うんうん。それは良かった。
あれだけの数を揃えたかいがあったよ。
この程度で苦戦するようだったら僕が殺してたからね」
「しかし−−様、お言葉ですがあの程度の男、−−様の計画に必要だとは思はないのですが」
「ふふ、それは時期に分かるよ。
なんせ僕と同じ神の子だからね」
「神の子!?
ごほん。失礼、取り乱してしまいました。
まさか神の子が二人もいるなんて……」
「ううん、大丈夫だよ。
そういえば武闘大会ってそろそろだよね」
「??
一ヶ月後ですが……
何故ですか?」
「そっかぁ一ヶ月後か。
なぜって僕も出るからだよ。どれくらいの力をつけたか見たいからね。
彼の力をどれだけ使いこなせているかで、あれをいつ始めるかが決まるからね。
準備しておいてよ」
そう言って少年はニコリと笑う。
「分かりました。
準備しておきます」
そう言って女は部屋から去る。
玉座に座る少年は一人部屋に残される。
「ふふふ。楽しみだよ。
リョウ君」
今回はネルという普通の人間の立場からいかにリョウが常軌を逸しているかを書きました。
学校が始まってしまい、一日一回の投稿は難しくなって来てしまいました。
できるだけ二日以内にするようにするのでこれからも応援よろしくお願いします。
次回
リシュテインへと帰ったリョウ達、ギルドにて待つルドルフに報告をする………
では、
感想・評価・アドバイス・質問お待ちしております。




